町田は東京だっちゅーの!――KANA☆WAVE、なぜか県外感ゼロの初越境任務 ――東京だろうが神奈川だろうが関係ねえ。悪い奴らがいるなら、八人で徹底的に叩く。それだけだべ!
横浜西部。
畑。
雑木林。
カナちゃん号。
マムシ注意。
そこで南部沙羅が普段の都会派ぶりをかなぐり捨て、《グリーン・バックヤード・リレー》を文字通りマムシのような執念で追い詰めた任務から数日。
ノースフロント仙台分室。
菅野真結――まゆちゃんは、回収されたジェネラス・リンクの端末を前に、再び膨大な通信履歴と格闘していた。
横浜。
大和。
相模原。
川崎。
そして。
一点。
東京都町田市。
真結の指が止まる。
「……やっぱり町田ですね」
厚木・海老名で捕らえた工作員が最後に吐いた、
「町田だ……町田……」
という言葉。
あの時は美波が、
「町田は東京だろうがよ!」
と盛大に突っ込んで終わった。
だが。
敵は本当に町田へ移っていた。
真結はすぐ、新橋ヒロ室とのオンライン回線を開いた。
大型モニター。
波田顧問。
芹沢遥室長。
「ジェネラス・リンクの残存ネットワークですが、町田市内で通信量が増加しています」
遥が地図を見る。
「町田……」
一拍。
「町田は東京都なのら……」
波田、
「そうなんだよなぁ」
町田。
北も西も南も神奈川県との結びつきが強い。
相模原。
横浜。
川崎。
神奈川県側から伸びる複数の通信記録が、まるで県境など存在しないかのように町田へ集中していた。
波田が顎を掻く。
「あいつら、町田を神奈川だと間違えてやがんじゃねえのか?」
遥、
「ジェネラス・リンクがそんな雑な理由で拠点を決めます?」
「知らねえよ。最近こっちまで町田がどっちなのか怪しくなってきた」
「東京都です」
「分かってるって」
遥は少し真面目な顔になった。
「でもKANA☆WAVEは“神奈川県在住のヒロインだけ”で結成したチームですよね」
「ああ」
「東京都で任務させます?」
波田は地図を見る。
ほんの一瞬。
それだけ。
「任務に県境なんざ関係ねえ」
遥、
「……」
「敵が県境を一歩越えたからって、そこで追うのやめましたじゃ話にならねえだろ」
「じゃあ?」
「KANA☆WAVEに対応させろ」
決定。
KANA☆WAVE。
初めての正式な県外任務。
――その瞬間。
♪~~~~♪
ノースフロント仙台分室。
真結の会社携帯。
三人。
「…………」
遥、
「石巻ですね」
真結、
「はい」
波田、
「今度は何だろうな」
真結が電話を取る。
「はい、菅野です」
北洋製紙石巻工場総務部の後輩。
『かんちゃん、都市対抗のことでまた聞きたいんですけど』
「どうしたの?」
『工場長と副工場長と勤労部長が仙台から東京へ行く新幹線なんですけど、普通車指定席でいいですか?』
真結は即答した。
「グリーン車に決まっているでしょう」
『えっ、即答!?』
「工場長、副工場長、部長級でしょう?」
『はい』
「じゃあ普通車じゃなくてグリーン」
『グランクラスじゃなくていいんですか?』
「そこまでしなくていい」
「最上級まで取ったら逆にやりすぎ」
「普通車指定席だと少し雑」
「グリーン車が一番ちょうどいい」
波田、
「なるほど……」
遥、
「波田さん?」
真結は止まらない。
「三人とも同じ号車にして」
『横並び?』
「無理に三人横並びじゃなくていい」
「近い列」
「移動中に話したい時に離れすぎないように」
『はい』
「予約は早め」
「切符を誰が当日持ってくるかも決める」
『そこまで決めるんですか?』
「仙台駅で“工場長の切符誰が持ってます?”って始まる方が嫌でしょう」
『……確かに』
「あとお弁当」
『普通の駅弁でいいですよね?』
「ちょっと高いのにして」
『えっ』
「工場長たちが都市対抗の応援へ行くんだから、それくらいはいいでしょう」
「三人基本同じもの」
「ただしアレルギーと苦手な物は確認」
「お茶も付けて」
『お茶も?』
「弁当だけ渡して飲み物なしは駄目」
「おしぼりあるか確認」
「ゴミ袋一枚付けてもいい」
『かんちゃん、本当に細かいですね……』
「現地で困らせないのが総務でしょう」
遥、
「…………」
真結、
「それから工場長」
『はい』
「試合終了後に社員と応援団へ一言挨拶をお願いしているか、念のため確認して」
『……あ』
「忘れてた?」
『忘れてました』
「勝っても負けても短く一言」
「突然マイク渡すのは絶対駄目」
『はい』
「勤労部長にも動線共有」
「仙台駅」
「東京駅」
「球場入り」
「試合」
「挨拶」
「帰り」
「幹部用の行程表、一枚作っておいて」
『かんちゃん……』
「何?」
『全部決まりました』
「確認事項言っただけだよ」
『十分です』
電話終了。
真結、
「失礼しました」
波田は腕を組んだ。
そして。
「工場長クラスになると新幹線は高い弁当とお茶付きでグリーン車か。いいなぁ」
遥、
「波田さん、そこ羨ましがるとこじゃないら。今は町田のジェネラス・リンクの話してるだよ」
「だってグリーン車だぞ」
「知りません」
「高い弁当も」
「だから知りませんって」
真結が苦笑する。
そして数秒後。
「では町田へ戻ります」
顔。
声。
一気に分析担当へ戻る。
「不審端末は三系統。中心市街地から郊外へ往復するルートが最も多いです」
遥、
「まゆちゃん、そっちも相変わらず正確ですね……」
数日後。
町田。
KANA☆WAVE八人。
初の東京都任務。
のはずだった。
町田駅周辺。
商業施設。
人。
学生。
買い物客。
飲食店。
駅前の密度は高い。
そして。
バス。
美波が止まった。
「……カナちゃん号走ってんな」
沙羅、
「だから厚木の時も言ったでしょう」
「東京都なんだよな?」
柚葉、
「東京都です」
伊織、
「東京都さー」
紗耶、
「東京都だね」
エミリー、
「Tokyo」
澪、
「でも神奈川っぽい」
美波、
「お前らこの話いつまでやんだよ!」
そこへ陽菜。
「私、町田はよく来ますよ」
相模原住民。
町田は普通の買い物圏。
美波、
「じゃあ陽菜は今日かなり土地勘あるじゃん」
「はい!」
一拍。
陽菜が笑顔。
「でも私、最近まで町田って神奈川県だと思ってました」
七人、
「…………」
美波、
「お前が一番ダメじゃねえか!」
陽菜、
「だって相模原から普通に来ますし」
沙羅、
「だから行政区域は距離感で決まりません」
陽菜、
「カナちゃん号も走っていますし」
美波、
「バスで県境判断すんな!」
澪、
「私もちょっと神奈川だと思ってた」
「もういい!」
町田。
誰が何と言おうと東京都。
しかし相模原とはほぼ一体の生活圏。
横浜方面とのつながりも強い。
神奈川県側からカナリア色のバスが縦横無尽に走り込み、普段から神奈川県民が買い物や用事で頻繁に訪れる。
市中心部は大きな商業都市。
一方で少し離れれば住宅。
団地。
緑。
丘陵。
東京都心とは違った多摩地域らしい生活都市。
それが町田だった。
ジェネラス・リンクは、その土地柄を利用した。
真結が名付けた新ネットワーク。
《BORDERLESS LOOP》
イベント関係者。
配送スタッフ。
短期テナント。
商業施設関係者。
郊外の資材会社。
様々な姿へ偽装した工作員が、小型認証端末を次々と渡す。
町田。
相模原。
また町田。
横浜。
町田。
そして再び神奈川県。
真結、
『都県境を越えることで、追跡側の担当や情報共有に隙間が生まれることを期待しているようです』
柚葉、
「行政境界を利用してるんですね」
沙羅、
「姑息ですね」
美波、
「だったら簡単じゃん」
八人を集める。
「いいか」
七人が見る。
美波。
いつもの粗っぽい口調。
だが。
迷いはない。
「町田が東京だろうと神奈川だろうが、ウチらにはカンケーねぇ」
沙羅、
「東京ですけどね」
「今いいところだから黙ってろ!」
「はい」
美波、
「悪い奴らがいるなら徹底的に叩く」
「それだけだ」
数秒。
そして。
伊織、
「了解さー」
エミリー、
「Absolutely!」
紗耶、
「やろう」
柚葉、
「異論ありません」
沙羅、
「当然です」
陽菜、
「はい!」
澪、
「うん」
美波、
「八人で行くぞ!」
KANA☆WAVE。
初の県外任務。
作戦開始。
最初は町田駅周辺。
大量の人。
ここで前へ出たのは紗耶。
イベントスタッフ風の男を見る。
ほんの数秒。
「偽物」
美波、
「今日は何?」
「靴」
「また?」
「設営スタッフならもっと汚れてる」
美波、
「紗耶センサー、東京都進出!」
紗耶、
「事業拡大だね」
沙羅、
「何の事業なんですか」
陽菜も動く。
さすがに町田へよく来る。
「美波さん、この先は人が多いです」
「じゃあどうする?」
「反対側へ回した方がいいです」
陽菜は一般客へ自然な笑顔。
不安を与えない。
人の流れを少しずつ変える。
美波、
「陽菜、やっぱ詳しいな」
「よく来ますから」
「でも最近まで東京だって知らなかったんだろ?」
「その話もういいじゃないですか!」
美波、
「珍しく陽菜が怒った!」
そして。
ベンチ。
水無瀬澪。
座っている。
飲み物。
美波、
「澪」
「何?」
「何で座ってんの?」
「疲れないため」
「仕事しろ!」
澪が少し離れた男を見る。
「あの人、五回目」
美波、
「何?」
「同じ場所通るの」
柚葉が端末確認。
真結、
『対象です!』
美波、
「東京都でもその能力使えんのかよ!」
澪、
「人間はどこでも人間だから」
沙羅、
「妙に哲学的ですね」
一方。
沙羅。
前回。
横浜西部では、
マムシ。
ハマのマムシ。
マムシプリンセス。
散々な呼ばれ方をした。
今日は完全に都会モード。
店舗スタッフへ自然に聞き込み。
言葉。
表情。
距離。
スマート。
短時間で工作員の接触先を絞る。
美波、
「今日はマムシじゃないな」
沙羅、
「その単語を忘れてください」
「ハマのマムシ」
「忘れてください」
「二回言った」
「二回言う必要があるからです」
伊織。
一人の工作員が人の少ない場所へ逃げる。
伊織も追う。
「ここなら周りに迷惑かからないさー」
男が殴りかかる。
かわす。
流す。
崩す。
短い。
速い。
静か。
数秒。
無線。
美波、
『伊織、終わった?』
「終わったさー」
『安定感すげえな!』
そして。
エミリー。
階段。
逃走者。
普通なら追う。
しかし。
エミリーは横を見る。
別の通路。
段差。
「こっち」
沙羅、
「嫌な予感がします!」
跳ぶ。
下りる。
ショートカット。
工作員より先。
沙羅、
「やっぱりエミリーだけアクション映画になってます!」
美波、
「中締め回だから余った予算全部使ってんだろ!」
エミリー、
「Budget?」
沙羅、
「本人に説明しないでください!」
だが。
この任務で一番分かりやすく変わっていたのは。
美波でも。
誰か一人でもない。
八人全体だった。
柚葉が仙台のまゆちゃんと情報をつなぐ。
「紗耶さん、対象一名が南へ」
「見えてる」
「沙羅、次の受け渡し相手が店舗側へ」
「確認します」
「陽菜、人が増えます」
「こちらで誘導します」
「澪、北」
「見てる」
美波は前線。
それでも。
指揮に空白はない。
柚葉が自然に引き継ぐ。
誰も、
「どうします?」
と聞かない。
誰が何をするか。
それぞれが知っている。
そして。
誰が何をできないのかも。
今は分かっている。
川崎で組んだばかりの頃とは違う。
もはや。
八人は説明されて動く集団ではない。
KANA☆WAVEという一つのチームだった。
追跡。
認証端末。
人。
車。
町田中心部から郊外。
そして。
最終地点。
町田市郊外。
架空の旧イベント機材保管センター。
ジェネラス・リンクの責任者がKANA☆WAVEを見る。
「ここは東京都だ」
美波、
「知ってるよ」
「神奈川の連中が何の権限でここへ――」
「知らねえよ」
「何?」
「ウチら警察じゃねえし」
沙羅、
「そこを堂々と言うのもどうなんですか」
美波、
「事実じゃん」
そして。
敵を見る。
「お前らが神奈川で好き勝手やった」
「だからここまで追ってきた」
「それだけだべ!」
工作員が動く。
美波、
「行くぞ!」
突入。
正面。
伊織。
二人。
一人目。
腕。
流す。
崩す。
二人目。
踏み込む。
蹴り。
一瞬。
美波、
「伊織、前空いた?」
「空いたさー!」
「よし!」
上。
エミリー。
金属製の通路。
機材ラック。
階段。
全部足場。
「Coming through!」
工作員、
「またこいつか!」
エミリー、
「KANA☆WAVE!」
沙羅、
「毎回名乗りますね!」
エミリー、
「Important!」
「何がですか!」
紗耶。
戦わない。
見る。
一人。
視線。
他の工作員が逃げる前。
必ずその男を見る。
紗耶、
「あの人」
美波、
「リーダー?」
「うん」
「理由」
「みんな逃げる前に見てる」
美波、
「当たりだべ!」
沙羅。
出口。
男が逃げる。
沙羅、
「そちらは無理ですよ」
男が逆。
澪。
「こっちも無理」
工作員、
「何でお前がいる!」
澪、
「歩いてきた」
男、
「説明になってねえ!」
美波、
「敵にも言われてるぞ!」
柚葉。
真結。
中枢反応。
「美波さん!」
「何!」
「三系統です!」
真結、
『停止準備へ入れます!』
「了解!」
美波。
指示。
「紗耶、左!」
「了解!」
「沙羅、出口!」
「塞ぎます!」
「陽菜、外!」
「安全です!」
「伊織!」
「前空いてるさー!」
「エミリー!」
「Going!」
「澪、裏!」
澪、
「いるよ」
美波。
一瞬も驚かない。
「知ってる!」
澪、
「驚かなくなったね」
「もう慣れた!」
これは。
小さなことだった。
以前なら美波は、
「いつ行った!?」
と叫んでいた。
今は。
澪なら裏にいる。
そう分かっている。
伊織なら正面を開ける。
エミリーなら突破する。
紗耶なら指揮役を見つける。
沙羅なら出口を塞ぐ。
陽菜なら一般人を守る。
柚葉なら情報を引き継ぐ。
そして。
七人も。
美波なら。
必要な時に必要な一言を出す。
そう信じている。
柚葉、
「停止準備完了!」
真結、
『三系統、同期しました!』
美波、
「止めろ!」
柚葉が操作。
一つ。
二つ。
三つ。
通信反応。
次々。
消える。
町田。
相模原。
横浜。
川崎。
都県境を何度もまたいでいた残存ネットワーク。
ゼロ。
真結、
『ジェネラス・リンク関東南部残存系統――反応、完全消失です!』
一瞬の静寂。
そして。
美波。
「よっしゃあ!」
八人。
笑う。
町田。
東京都。
初の県外任務。
完全成功。
しかし。
任務には続きがある。
大事な任務。
美波が電話を取り出す。
沙羅、
「……またですか」
美波、
「当然だべ」
谷口佳乃。
通称。
けちのん。
電話。
「佳乃さん?」
『はい』
「任務成功!」
『お疲れさまでした』
「今日は町田!」
『東京都ですね』
「そこ確認しなくていい!」
『それで?』
美波、
「懇親会!」
『一人三千円』
美波、
「待て待て待て!」
『何です?』
「前回!」
『何の話です?』
「横浜西部!」
『ああ』
「MVP沙羅の祝勝会やってねえ!」
沙羅、
「別にそれは――」
美波、
「黙ってろ! 今お前のためにも戦ってる!」
沙羅、
「予算交渉で戦わないでください」
佳乃、
『予算に繰り越し制度はありませんよ』
「作れ!」
『作りません』
「中締めだぞ!」
『聞いています』
美波、
「六千!」
『高いです』
「五千五百!」
『刻まないでください』
「五千!」
『高い』
「四千八百!」
『刻むなと言いましたよね?』
美波、
「じゃあ四千五百!」
佳乃、
「……」
沈黙。
美波も黙る。
七人も聞く。
佳乃、
『前回、横浜西部で懇親会を実施していないことを考慮して、一人四千五百円まで認めます』
美波、
「…………」
佳乃、
『どうします?』
「六千円欲しかった……」
『では三千円へ戻しましょうか?』
「四千五百円でお願いします!」
即答。
電話終了。
美波、
「四千五百円引き出した!」
沙羅、
「六千円が目標でしたよね」
澪、
「千五百円負け」
美波、
「勝ったんだよ!」
伊織、
「前より増えてるから勝ちでいいんじゃないさー」
美波、
「ほら!」
沙羅、
「伊織さんが優しい……」
そして。
町田駅近く。
老舗の馬肉料理店。
八人の前。
桜鍋。
肉。
野菜。
味噌仕立て。
湯気。
美波、
「よし!」
箸。
その瞬間。
「まだ」
美波の手が止まった。
紗耶。
蛯沢紗耶。
八戸出身。
長身の美女。
普段は気さく。
人を見る目が鋭い。
そして。
気立てがいい。
鍋が来た瞬間。
突然。
桜鍋奉行になった。
美波、
「紗耶?」
「先に野菜」
「はい」
「火ちょっと強い」
「はい」
「肉まだ入れない」
「はい」
沙羅、
「リーダーが完全服従してますね」
美波、
「だって何か逆らっちゃダメな雰囲気なんだよ!」
澪。
箸を伸ばす。
「澪、まだ」
澪、
「え」
「そっちはまだ」
「こっちは?」
「それはいい」
澪、
「分かった」
美波、
「澪を制御した!」
沙羅、
「今日最大の戦果では?」
紗耶、
「そんな大げさな」
言いながら。
全員を見る。
陽菜。
「紗耶さん、これもう大丈夫ですか?」
「うん。食べていいよ」
「いただきます!」
一口。
陽菜の顔。
ぱっと明るくなる。
「美味しいです!」
紗耶、
「じゃあもう一枚食べる?」
「はい!」
美波、
「陽菜には甘っ!」
紗耶、
「若い子はいっぱい食べないと」
沙羅、
「完全にお姉さんですね」
伊織、
「紗耶さん気立ていいさー」
エミリー、
「Very caring」
紗耶、
「そんなことないよ」
と言いながら。
柚葉の皿へ。
「これもういいよ」
沙羅へ。
「野菜も食べた方がいい」
美波へ。
「それ取りすぎ」
「えっ」
エミリーへ。
「熱いよ」
「Okay」
伊織へ。
「こっち煮えてる」
「ありがとうさー」
完全に。
全員の面倒を見ている。
一方。
澪。
黙々。
肉。
野菜。
肉。
また肉。
美波、
「澪」
「何?」
「今日の任務の感想」
「桜鍋おいしい」
「任務の話!」
「成功したね」
「薄っ!」
また食べる。
陽菜も無邪気。
「これも食べていいですか?」
紗耶、
「もちろん」
「ありがとうございます!」
沙羅、
「陽菜、今日すごく楽しそうですね」
「すごく美味しいですから!」
伊織、
「いいことさー」
エミリー、
「Happy Hina!」
美波は。
ふと。
箸を止めた。
八人を見る。
川崎。
横浜。
横須賀。
三浦。
逗子。
葉山。
鎌倉。
湘南。
秦野。
厚木。
海老名。
相模原。
川崎北部。
横浜西部。
町田。
色々あった。
最初は。
八人ともバラバラ。
美波自身。
リーダーなど柄ではないと思っていた。
元レディース総長。
ライフセイバー。
口が悪い。
勢いで動く。
そんな自分が。
果たして七人をまとめられるのか。
分からなかった。
でも。
今は。
紗耶が見抜く。
柚葉がつなぐ。
沙羅が人へ入り込む。
陽菜が一般人を動かす。
伊織が正確に前を開ける。
エミリーが突破する。
澪が。
よく分からないまま、一番必要な場所にいる。
そして。
自分が一声出せば。
七人が動く。
逆も同じ。
七人が動けば。
美波は何をすればいいか分かる。
誰がエースでもない。
誰も絶対的な主役ではない。
八人全員が。
その時、その場所で主役になる。
紗耶が気づく。
「美波?」
「ん?」
「どうしたの?」
美波。
ちょっとだけ照れる。
「いや」
一呼吸。
「最高のチームだなって思ってさ」
七人。
一瞬。
静か。
沙羅、
「どうしたんですか、急に」
美波、
「たまには言わせろよ!」
伊織が笑う。
「私もそう思うさー」
エミリー、
「Best team!」
柚葉、
「でもまだ強くなれます」
陽菜、
「はい!」
紗耶、
「そうだね」
沙羅、
「異論ありません」
澪、
「うん」
美波、
「だろ?」
澪。
鍋を見る。
「肉追加していい?」
美波、
「今いい話してただろ!」
紗耶、
「まだちょっと待って」
澪、
「はい」
美波、
「紗耶の言うことは素直に聞くんだな!」
大笑い。
町田。
初の県外。
しかし。
最後まで誰にも、
「東京都へ遠征した」
という実感はあまりなかった。
カナちゃん号は走っている。
相模原から陽菜は普通に来る。
神奈川県側から買い物客も大量に来る。
それでも。
東京都町田市。
間違いなく東京。
ただ。
今回の任務で。
一つだけ。
明確になったことがある。
KANA☆WAVEは。
神奈川県だけでしか活動できないチームではない。
神奈川県在住の八人で作ったチーム。
それは変わらない。
けれど。
守るべきものがあるなら。
県境の一本くらい。
大した問題ではない。
数日後。
仙台。
まゆちゃんが新橋へ報告する。
「現時点で、神奈川県および町田周辺におけるジェネラス・リンクの大規模通信活動は確認できません」
遥、
「ようやく一区切りですね」
波田、
「ああ」
「KANA☆WAVEは?」
波田は少し考える。
そして。
「しばらく通常活動へ戻せ」
遥、
「解散?」
「する理由がねえだろ」
「ですよね」
波田が椅子へ深く座る。
「ジェネラス・リンクのことだ。そのうちまたどっかで動く」
「その時は?」
「また八人呼べばいい」
それだけだった。
KANA☆WAVE。
解散ではない。
休止でもない。
一区切り。
八人はそれぞれの日常へ戻っていく。
美波は湘南。
澪は川崎。
沙羅は横浜。
陽菜は相模原。
エミリーは横浜。
伊織は横浜。
紗耶は川崎。
柚葉も川崎。
違う街。
違う生活。
違う過去。
違う得意分野。
でも。
呼ばれれば。
また集まる。
その時。
美波はきっと。
「よし、集会だべ!」
と言う。
澪は、
「ご飯?」
と聞く。
沙羅が、
「任務です」
と突っ込む。
陽菜が笑う。
エミリーが英語を挟む。
伊織が穏やかに笑う。
紗耶がみんなを見る。
柚葉が情報を整理する。
そして。
八人はまた走り出す。
誰か一人が絶対的なエースではない。
八人全員が脇役。
八人全員が主役。
それが。
KANA☆WAVE。
KANA☆WAVE――第一幕、ここでひとまず任務完了。
ただし。
最後に一つだけ。
美波にはまだ気になることがあった。
「なあ」
七人、
「?」
「町田って、本当に東京なんだよな?」
沙羅、
「東京都です!」
陽菜、
「私も最近覚えました」
澪、
「でもカナちゃん号走ってるよね」
美波、
「だからその話はもう終わりだっちゅーの!」
八人の笑い声。
町田の夜。
それぞれの帰路へ。
KANA☆WAVEの最初の長い戦いは。
ここでいったん幕を閉じる。
だが。
終わったわけではない。
またいつか。
ジェネラス・リンクが動けば。
八人は再び集う。
東京でも。
神奈川でも。
その先でも。
悪い奴らがいるなら。
八人で徹底的に叩く。
それだけなのだから。




