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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1189/1295

YOKOHAMA COUNTRY SIDE――ハマのプリンセス、畑を駆ける! KANA☆WAVE、横浜西端グリーンラインを追え――ここも横浜です。異論は認めません――

川崎市北部の静かな丘陵住宅地。


そこへ密かに張り巡らされていたジェネラス・リンクの《サイレント・ヒルズ・ネットワーク》をKANA☆WAVEが壊滅させてから、数日が経った。


ノースフロント仙台分室。


菅野真結――まゆちゃんは、回収された端末から得られた大量の通信記録を追い続けていた。


川崎。


町田。


相模原。


そして。


南。


横浜。


ただし。


横浜港ではない。


高層ビル群でもない。


観覧車もない。


中華街もない。


地図の赤い点は、どんどん内陸へ入っていく。


そして最後には。


大和市との市境に近い、横浜市西部の緑が多い地域へ集中していた。


まゆちゃんは地図を拡大した。


「……これは少し変ですね」


人物。


車。


通信端末。


農業資材置場。


住宅地。


雑木林。


空き倉庫。


それぞれを重ねていく。


一見すればバラバラ。


しかし。


同じ複数の車両が、半径数キロほどの狭い範囲を何度も回っている。


まゆちゃんは新橋ヒロ室へオンライン回線を開いた。


大型モニター。


波田顧問。


芹沢遥室長。


「川崎市北部で停止した通信網とは別系統の端末が、横浜市内陸部へ移っています」


遥、


「どの辺り?」


「大和市との市境にかなり近い一帯です」


波田、


「ずいぶん西だな」


「はい。それから……」


画面を切り替える。


「通信地点が住宅地と農地、それに樹林地との境界へ偏っています」


遥、


「横浜に農地って結構あるんですね」


「西側にはかなり残っています」


まゆちゃんの説明は今回も正確。


余計な専門用語を並べない。


何が分かっているのか。


何が怪しいのか。


次に何を見るべきなのか。


全部分かりやすい。


波田が腕を組む。


「つまり、都市部でやってたのとは少し違う?」


「はい。郊外型の活動かもしれません」


その時。


♪~~~~♪


真結の会社携帯が鳴った。


遥、


「……石巻ですね」


波田、


「今日は何かな」


真結、


「すみません」


電話へ。


「はい、菅野です」


北洋製紙石巻工場総務部の後輩だった。


『まゆちゃん、大変です!』


「どうしたの?」


『都市対抗野球の応援バスです!』


真結、


「ああ」


『申込者が予想より多くて、一号車も二号車も満員になっちゃいました。もう一台増やしたいんですけど、いつものバス会社から“その日はもう車ありません”って言われて……』


真結、


「試合何時?」


『十四時です』


「増発必要人数は?」


『四十人くらい』


「大型一台あれば足りるね」


『はい』


真結はほんの数秒考えた。


「▲▲観光さんに電話してみて」


『▲▲観光?』


「前に工場行事で使ったことある。急な増車でも空きがあれば相談乗ってくれると思う」


『分かりました!』


「待って」


『はい?』


もう完全に工場総務。


「十四時試合開始なら、東京到着は十二時半を基準にして」


『一時間半も前ですか?』


「必要」


即答。


「東京着いてバスから全員降ろす」


「荷物下ろす」


「チケット確認」


「応援グッズ配る」


「団体で応援席まで移動する」


「トイレ行く人もいる」


「高齢のOBの人もいるでしょ?」


『はい』


「子供連れの社員家族も?」


『います』


「じゃあ十四時直前到着なんて絶対駄目」


遥、


「…………」


真結、


「東京周辺の道路渋滞も考えて余裕持たせて」


「途中休憩一回」


「ただし休憩長すぎない」


「増発車だけ出発時間変えちゃ駄目。全車同じ集合時刻」


『バス会社違いますけど大丈夫です?』


「だから表示を分ける」


『表示?』


「フロントガラスに大きく《北洋製紙 都市対抗応援3号車》って出してもらって」


『そこまで?』


「やらないと絶対別のバスに乗る人出る」


『……いますね』


「一号車、二号車、三号車で乗車名簿を完全に分ける」


「受付で勝手に号車変更させない」


「どうしても変更する場合は両方の名簿を修正」


『はい』


「当日飛び入りは?」


『何人か来そうです』


「禁止」


『厳しい』


「満員なんだから仕方ない」


「キャンセル出たら補欠順」


「前日に空席数確定」


「高齢OBと小さい子供連れはできれば前方席」


「酔いやすい人も前」


「応援団の若い人は後ろでも大丈夫」


『はい』


「大きい応援旗とか太鼓類があるなら事前にバス会社へサイズ伝えて」


『荷室ですか?』


「積めるものは荷室」


「ただし貴重品は絶対荷室に入れないって参加者へ通知」


「帰りは各号車に点呼責任者一人」


『点呼?』


「“だいたいいる”は禁止」


『そんな確認する人います?』


「いる」


波田が笑いをこらえる。


真結は真剣。


「名簿で一人ずつ確認」


「帰りの集合場所は往路の車内でも再案内」


「東京出発時にも確認」


「サービスエリア休憩を入れるなら、出発前にまた人数確認」


『そこまでやります?』


「一人置いて石巻まで帰ったらどうするの?」


『……やります』


「あと▲▲観光さんだけ駐車場所違う可能性あるから、三号車の参加者には帰りのバス位置を別紙で渡した方がいい」


『まゆちゃん』


「何?」


『もう当日だけ来てくださいよ』


真結、


「仙台から行けないよ」


『今ほぼ全部やってますけど』


「▲▲観光さんへ確認して、空車あったら仮押さえ」


『はい』


「料金見積もりも貰う」


「高速代と駐車料が込みか別か確認」


「運転手さんの拘束時間が長くなるなら、その費用も確認」


『はい』


「駄目だったらまた連絡して。別案考えるから、勝手に“増発無理でした”で終わらせないで」


『ありがとうございます!』


電話終了。


真結、


「……失礼しました」


遥がしばらく真結を見ていた。


「まゆちゃん、応援バス一台増やすだけで、そこまで考えるだねえ……」


真結、


「人が多い行事ほど、小さいことを決めておかないと現場で全部問題になるので」


波田、


「サービスエリアで人数確認まで言ってたな」


「置き去りは洒落になりませんから」


遥、


「本当にきめ細かいだよ」


真結はちょっと照れた。


「ありがとうございます」


そして。


「ではジェネラス・リンクに戻ります」


数秒。


画面切り替え。


顔も変わる。


「不審車両三台のうち二台は、この地域へ繰り返し出入りしています」


遥、


「こっちも相変わらず分かりやすいですね……」


波田が地図を見る。


「この辺……」


少し考えた。


「沙羅んちの近くじゃないか?」


南部沙羅。


自称。


ハマのプリンセス。


横浜への地元愛は異様に強い。


会話の端々から、


「横浜とは都会的で洗練された港町」


というブランドイメージを前面に押し出す。


高飛車。


ちょっと気取っている。


本人の話だけ聞けば。


実家はみなとみらいのタワーマンションか、山手の洋館にでもありそうだった。


ところが。


現実。


全然違う。


KANA☆WAVE八人は、横浜中心部から西へ延びる一本の私鉄に乗った。


全国的にはかなり地味。


派手なブランドイメージもない。


だが。


神奈川県民へ、


「運転免許センターへ更新に行く時に乗る、あの路線」


と言えば、


「ああ、あれね」


となる程度には有名。


作者を含む神奈川県民の中には、免許更新くらいでしか利用しない者までいる。


ホーム。


古めの車両が入ってくる。


美波、


「おお……」


沙羅、


「何ですか」


「年季入ってんな」


「普通ですよ」


乗る。


ガタン。


美波、


「すげえ。渋い」


沙羅、


「褒めてます?」


次の駅。


反対側から。


近未来的な新型車両。


エミリー、


「Wow, cool!」


美波、


「何だこの振れ幅!」


沙羅、


「車両の新旧で騒がないでください!」


澪、


「新しいのと古いの、別会社みたいだね」


「黙って乗ってください!」


だが。


沿線の景色は悪くない。


駅前には整えられた住宅地。


マンション。


スーパー。


学校。


少し走る。


戸建て住宅。


さらに。


畑。


川。


森。


新興住宅地と昔からの農村風景が混ざる。


都会のすぐ隣に、まだ野山が残る。


それが横浜西部。


やがて八人は駅を降りた。


美波、


「着いた?」


沙羅、


「ここからバスです」


「まだ?」


「私の家は駅前ではありません」


カナリア色の路線バス。


神奈川県民にはお馴染み。


通称。


カナちゃん号。


八人乗車。


住宅地。


十分。


美波、


「まだ?」


沙羅、


「まだです」


さらに住宅地。


畑。


澪、


「まだ?」


「まだです」


雑木林。


美波、


「マジ?」


沙羅、


「マジです」


さらに。


新興住宅。


畑。


森。


遠くに市境。


澪、


「長いね」


沙羅、


「いつもこうです」


ようやく沙羅の実家近く。


最寄り駅からバスで終点近く。


むしろ横浜市中心部へ出るより、隣接する市へ出た方が心理的には身近な場所。


美波、


「お前……本当に横浜育ちなんだな?」


沙羅、


「何ですか、その疑い方は」


歩く。


畑。


住宅。


竹林。


古い農家。


新しい一戸建て。


そして。


黄色い看板。


《マムシ注意》


澪が止まる。


看板を見る。


周囲を見る。


畑。


雑木林。


鳥の声。


そして沙羅を見る。


「ここって一応、住所表記横浜だよね?」


沙羅。


ぴたり。


毅然。


「横浜ですが何か?」


澪、


「確認」


美波、


「怒んなって」


沙羅、


「横浜市には港だけではなく、緑豊かな地域もあるんです」


伊織、


「そうさー」


沙羅、


「都市部と農村部が共存する多様性ですよ!」


エミリー、


「Very countryside」


沙羅、


「エミリー!」


紗耶、


「そこだけ英語でも刺さるね」


少し先。


私鉄系スーパー。


美波、


「帰りここで何か買って食えば?」


沙羅、


「十九時半閉店です」


七人、


「早っ!」


沙羅、


「何です、その声は!」


美波、


「いや、横浜だろ?」


「横浜にも十九時半で閉まる店くらいあります!」


澪、


「奥深いね、横浜」


沙羅、


「その言い方やめてください」


しかし。


沙羅は本当にこの場所を愛している。


港でもない。


高層ビルでもない。


夜景もない。


畑へ夕陽が落ちる。


バス一本逃せば次まで待つ。


店は早く閉まる。


マムシ注意。


でも。


沙羅が育ったのは、この横浜だった。


そして。


今回ジェネラス・リンクが狙ったのも。


この場所だった。


まゆちゃんが今回の活動へ仮につけた名前。


《グリーン・バックヤード・リレー》


農業資材業者。


造園業者。


測量会社。


住宅管理。


野菜配送。


そうした郊外にいても目立たない業者へ偽装。


農業倉庫。


空き温室。


資材置場。


雑木林脇の小施設。


そこへ小型中継端末を短時間置く。


移す。


また置く。


横浜中心部。


県央。


大和方面。


各方向へ接続するための郊外型ネットワーク。


真結の通信。


『都市と農地の境界なので、作業車両が出入りしても違和感が少ないんです』


柚葉、


「なるほど」


沙羅の声が低くなる。


「よりによって……ここで」


美波、


「沙羅?」


「何です?」


「怒ってる?」


「別に」


全員、


「怒ってる」


沙羅、


「怒ってません」


紗耶、


「顔が怒ってる」


「通常です」


澪、


「声も低い」


「通常です」


美波、


「今日何か怖いな」


そして作戦開始。


美波、


「柚葉、まゆちゃん!」


「接続済みです」


「紗耶、いつもの!」


「偽物探しね」


「沙羅、地元!」


「雑すぎません?」


「地元案内と聞き込み!」


「それなら分かります」


「陽菜、一般人」


「はい」


「伊織、エミリー、前!」


「了解さー」


「Got it!」


「澪!」


「何?」


美波、


「…………」


澪、


「?」


「適当に歩いてて」


澪、


「それ指示?」


「お前の場合はそれでいい!」


八人。


畑道。


住宅地。


農道。


小さな公園。


普通なら事件など起こりそうにない。


紗耶が止まった。


「あの人」


造園業者風の男。


美波、


「何?」


「偽物」


「どこで分かった?」


「手」


「また手か!」


「造園の仕事してる手じゃない。傷も土もない」


美波、


「紗耶センサー!」


紗耶、


「営業中です」


一方。


沙羅。


道路を走る軽ワゴンへ目を向ける。


「……おかしいですね」


美波、


「何が?」


「この時間にあの車がそちらへ行く理由がありません」


「何で分かる?」


「この先、住宅と畑だけです」


「配達かも」


「配達ならもっと手前を曲がります」


「断言すんなぁ」


沙羅、


「地元ですから」


そこからだった。


沙羅のマークが始まった。


軽ワゴン。


曲がる。


沙羅も。


停車。


男が降りる。


歩く。


沙羅も歩く。


住宅街。


畑。


細道。


男が振り返る。


沙羅は偶然近所を歩いているように視線を逸らす。


男が進む。


沙羅も進む。


澪、


『沙羅、まだ追ってるの?』


「当然です」


紗耶、


『結構長いよ』


「問題ありません」


男が上着を脱ぐ。


服装を変える。


しかし。


沙羅。


いる。


別の車へ乗る。


ナンバーはすでに覚えた。


先回り。


沙羅。


いる。


工作員が仲間へ電話する。


「……あの女、まだいる」


返事。


『撒け』


「撒いてる!」


曲がる。


沙羅。


いる。


「何でだよ!」


沙羅は少し離れた場所から平然。


「……逃がしませんよ」


美波が通信。


『沙羅、今日しつこすぎねえ?』


「何か問題でも?」


『いつもなら途中で紗耶とかに渡すじゃん』


「今日は私がやります」


『何で』


沙羅の声。


冷たい。


「私の地元を好き勝手してるからです」


美波、


「うわ」


澪、


「怒ってるね」


沙羅、


「怒ってません」


美波が周囲の看板を見る。


《マムシ注意》


美波、


「マムシパワーだな」


数秒。


普通なら。


「誰がマムシですか!」


と返ってくる。


ところが。


今日の沙羅。


「そうかもしれませんね」


美波、


「えっ」


澪、


「認めた」


沙羅、


「噛みついた以上、最後まで離しません」


美波、


「怖っ!」


紗耶、


「今日の沙羅、本気だね」


工作員がさらに歩く。


早足。


沙羅。


早足。


走る。


沙羅。


走る。


工作員、


「しつこい!」


沙羅、


「まだ序盤です」


「序盤!?」


路地。


農道。


男が別方向へ。


沙羅。


ついてくる。


畑。


男が振り返る。


まだいる。


工作員、


「……マジで何なんだよ、こいつ」


通信。


仲間、


『撒けたか?』


「撒けねえ!」


『住宅街回れ』


「三周した!」


『バス通りへ出ろ』


「先にいやがった!」


『何者だよ』


男が振り返る。


沙羅。


にっこり。


男、


「怖えよ!」


澪が別通信で、


「マムシって本当にしつこいの?」


美波、


「知らねえけど、今日からそういうことにする」


沙羅、


「聞こえてますよ」


美波、


「ごめん」


さらに。


工作員は雑木林へ入った。


沙羅も止まらない。


美波、


「沙羅! そこまで追うな!」


「まだ行けます」


「山だぞ!」


「山ではありません。雑木林です」


「そういう問題じゃねえ!」


沙羅。


枝をかき分ける。


普段なら靴へ泥が少しついただけで嫌な顔をしそうな女。


今日は。


泥。


無視。


枝。


無視。


葉。


髪へつく。


無視。


蜘蛛の巣。


そこだけ一瞬止まる。


「……」


美波、


『どうした?』


沙羅、


「何でもありません」


蜘蛛の巣だけそっと避ける。


再び走る。


美波、


「そこは嫌なんだ」


男が山林を抜ける。


沙羅も。


工作員、


「まだ来るのか!」


沙羅、


「言ったでしょう。最後まで離しません」


「お前、横浜の女だろ!?」


沙羅、


「紛れもなく横浜です!」


「何でこんな山慣れてんだ!」


「地元ですから!」


男、


「横浜って何なんだよ!」


沙羅、


「多様性です!」


ついに敵側まで横浜の定義で混乱し始めた。


そして。


古びた園芸施設。


使われていない温室。


資材倉庫。


男が駆け込む。


扉を閉める。


息を切らす。


「はあ……はあ……」


仲間、


「どうした?」


「変な女にずっと追われてる」


「どこだ?」


「撒いた」


五秒。


外から。


コンコン。


工作員全員、


「…………」


ドア。


開く。


沙羅。


「お疲れさまです」


男、


「何でいるんだよ!」


沙羅、


「地元民ですので」


すぐ通信。


「美波さん」


『何』


「巣穴を見つけました」


美波、


「マムシが巣穴見つけた!」


沙羅、


「それで結構ですから早く来てください」


美波、


「今日マジでノーダメージだな!」


間もなくKANA☆WAVE集結。


美波、


「一般人!」


陽菜、


「周囲にはいません!」


「車!」


柚葉、


「一般車両なし!」


美波が拳を鳴らす。


「じゃあ行くべ!」


ジェネラス・リンクの工作員が次々と出る。


伊織。


正面。


一人。


拳。


かわす。


腕を流す。


重心を崩す。


倒す。


二人目。


蹴り。


伊織、


「遅いさー」


一歩。


返し。


沈む。


美波、


「伊織今日も速っ!」


上。


エミリー。


温室脇の資材棚。


飛び乗る。


さらに上。


工作員、


「何でそこ行けるんだ!」


エミリー、


「Easy!」


沙羅、


「また一人だけ制作費が違います!」


美波、


「アメリカ予算!」


エミリー、


「What?」


「何でもない!」


紗耶が敵を見る。


「あの人逃げる」


美波、


「どれ?」


「右端」


男が本当に右へ。


美波、


「すげえ!」


だが。


逃走先。


澪。


ぽつん。


「そっち行き止まりだよ」


男、


「何でお前がいる!」


澪、


「歩いてきた」


男、


「説明になってねえ!」


美波、


「敵にも言われてんぞ!」


柚葉と仙台のまゆちゃん。


中継端末。


一つ。


二つ。


三つ。


停止。


しかし。


リーダー格が飛び出した。


沙羅、


「私が行きます!」


美波、


「また行くの!?」


「当然です」


リーダーは雑木林へ。


今日の沙羅。


躊躇なし。


走る。


男、


「またお前か!」


「私です」


右。


沙羅も右。


左。


沙羅も左。


急停止。


沙羅も止まる。


工作員、


「何なんだよ、お前!」


沙羅、


「地元を守る横浜市民です」


「もっと普通の横浜市民出せ!」


沙羅、


「失礼ですね!」


追う。


逃げる。


追う。


男、


「しつこい!」


沙羅、


「ありがとうございます」


「褒めてねえ!」


美波が追いついて状況を見る。


沙羅は無理に倒しに行っていない。


ただ。


進路を塞ぐ。


右へ。


左へ。


少しずつ。


工作員を一定方向へ追い込んでいる。


美波、


「なるほど」


沙羅、


「何です?」


「お前、仕留める気ないな」


「必要ありません」


沙羅がさらに一歩。


相手が左へ。


その瞬間。


正面。


伊織。


「はい、お疲れさまさー」


男、


「!」


後ろ。


美波。


右。


エミリー。


左。


紗耶。


完全包囲。


美波、


「マムシに追われて巣から出たネズミみてえだな」


沙羅、


「例えはともかく、その通りです」


男、


「お前マムシだったのかよ!」


沙羅、


「違います!」


今日初めて否定した。


美波、


「そこは否定すんのな!」


一気に制圧。


同時。


柚葉、


「最後の端末停止!」


まゆちゃん、


『確認します』


一秒。


二秒。


『《グリーン・バックヤード・リレー》、全通信停止しました!』


美波、


「よっしゃ!」


任務完了。


沙羅。


髪には葉。


肩にも葉。


靴。


泥。


裾。


少し汚れ。


美波がまじまじ見る。


「沙羅」


「何です?」


「お前今日、別人みてえだな」


「そうですか?」


「普段だったら靴汚れた時点でキレるだろ」


沙羅、


「地元の安全と靴を一緒にしないでください」


澪、


「葉っぱついてるよ」


沙羅、


「あとで取ります」


美波、


「マジで本気だったんだな」


そして肩を叩く。


「今日のMVP。マムシパワー!」


沙羅、


「ありがとうございます」


美波、


「だから否定しろって!」


澪、


「ハマのマムシ」


沙羅、


「それは嫌です」


美波、


「マムシパワーはいいの?」


「今日だけなら」


紗耶、


「結構気に入ってる?」


「気に入ってません」


伊織、


「ちょっと嬉しそうさー」


「嬉しくありません」


エミリー、


「Mamushi Princess?」


「それは絶対やめてください!」


全員爆笑。


美波、


「ハマのプリンセスからマムシプリンセスへ!」


沙羅、


「降格させないでください!」


何はともあれ。


MVPは沙羅。


美波、


「よし! 沙羅の祝勝会!」


陽菜、


「賛成です!」


エミリー、


「Dinner!」


伊織、


「いいさー」


澪、


「何食べる?」


沙羅も今日は少し得意げ。


「この辺ですと……」


スマートフォン。


検索。


「…………」


美波、


「どうした?」


「少々お待ちください」


検索。


候補一。


営業時間。


「……ラストオーダー間近ですね」


候補二。


「遠いです」


候補三。


「駅前……」


澪、


「バスは?」


沙羅が時刻表を見る。


止まる。


美波、


「何」


沙羅、


「そろそろバス停へ行かないと危ないです」


「何が?」


「終バスです」


美波、


「横浜で終バス気にすんの!?」


沙羅、


「横浜でも終バスはあります!」


澪、


「祝勝会は?」


「今日は無理ですね」


美波、


「MVPなのに!?」


沙羅、


「仕方ありません」


美波、


「近くのスーパー!」


沙羅、


「もうすぐ閉まります」


「十九時半!?」


「はい」


美波、


「健全すぎるだろ、この街!」


澪、


「コンビニ」


沙羅、


「あります」


「コンビニ前で食べる?」


沙羅、


「私のMVP祝勝会をコンビニ前で開催しないでください」


美波、


「じゃあスーパーで惣菜買って公園」


「もっと嫌です」


伊織、


「次回にした方がいいさー」


陽菜、


「改めてやりましょう」


エミリー、


「Next time!」


紗耶、


「今日は沙羅が一番頑張ったもんね」


柚葉、


「本当に助かりました」


澪、


「すごくしつこかった」


沙羅、


「もう少し他の褒め方ありません?」


美波、


「マムシ級に粘った!」


「それも同じです!」


結果。


KANA☆WAVEとしては珍しい。


任務終了。


祝勝会なし。


即解散。


美波、


「何か寂しいな!」


澪、


「ご飯ない任務久しぶり」


「お前はそこか!」


八人はバス停へ。


カナリア色のバス。


到着。


乗る。


車内。


夜。


住宅街。


畑。


森。


古い家。


新しい住宅。


それらが車窓を流れる。


一瞬。


ヘッドライトに照らされる。


《マムシ注意》


美波、


「ほら」


沙羅、


「何です?」


「仲間」


「違います」


澪、


「親戚?」


「違います!」


紗耶、


「やっといつもの沙羅に戻ってきた」


美波、


「さっきまでマムシと一体化してたのにな」


沙羅、


「してません!」


しばらくして。


澪が窓の外を見る。


森。


畑。


暗い道。


ぽつぽつと家。


そして。


「……ここ本当に横浜なんだよね?」


沙羅。


また真顔。


「横浜ですが何か?」


美波、


「本日二回目!」


エミリー、


「Definitely Yokohama?」


沙羅、


「Definitelyです!」


伊織が笑う。


カナちゃん号は走る。


やがて住宅が増える。


駅が近づく。


美波がふと。


「でもさ」


沙羅、


「何です?」


「いい地元じゃん」


沙羅は一瞬だけ黙った。


窓の外を見る。


子供の頃から見てきた景色。


バス。


畑。


森。


夕方の住宅地。


早く閉まるスーパー。


マムシ注意。


横浜中心部からは遠い。


隣の市の方が近く感じることもある。


でも。


自分の故郷。


沙羅は、いつもの少し高飛車な顔へ戻った。


「当然です。横浜ですから」


美波、


「そこだけは絶対ブレねえな」


「ブレる理由があります?」


普段。


南部沙羅は淡泊だ。


必要な仕事をスマートに終える。


深追いしない。


無駄を嫌う。


そして。


どこか気取っている。


だが。


地元を荒らされれば。


違った。


畑へ走る。


雑木林へ飛び込む。


泥も気にしない。


葉っぱも気にしない。


蜘蛛の巣だけは少し嫌。


それでも追う。


右へ逃げても。


左へ逃げても。


服を変えても。


車を変えても。


どこまでもついてくる。


マムシパワー。


一度噛みついたら、最後まで離さない。


この日。


「ハマのプリンセス」南部沙羅は。


本人の意思とは無関係に。


危うく新しい異名を獲得しかけた。


ハマのマムシ。


翌日以降、それを口にした場合。


ジェネラス・リンクより先に沙羅から怒られる可能性が高いので。


KANA☆WAVE内部では。


一応。


使用自粛となった。


ただし。


美波だけは。


たぶん、また言う。


KANA☆WAVE――横浜西部任務、完了。


なお。


MVP・南部沙羅の祝勝会は。


ジェネラス・リンクではなく。


終バスと十九時半閉店に完敗し、後日へ持ち越しとなった。

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