『KAMAKURA・古都回廊――緑の小さな電車を追え! KANA☆WAVE、七里ヶ浜大決戦』 ――武家の古都を踏み荒らす奴は許さない。美波、元レディース総長モード再点火
逗子海岸の夕陽を眺めながら、八人が「これからも、この八人でやっていこう」と言葉を交わしたのは、ほんの数日前のことだった。
川崎。
横浜。
横須賀。
三浦。
逗子・葉山。
神奈川県に住んでいる――ただそれだけの共通点で集められた八人は、任務のたびに少しずつ変わっていた。
平塚美波が全体を見る。
金城伊織が止める。
エミリー・ハートが追う。
蛯沢紗耶が違和感を見抜く。
阿部柚葉が情報をつなぐ。
南部沙羅が人の間へ入る。
白石陽菜が一般人を守る。
そして水無瀬澪が、なぜか最後の逃げ道を知っている。
「役割を決めた」のではない。
何度も一緒に動いているうちに、勝手にそうなった。
KANA☆WAVE。
名前だけ先に決まったチームに、ようやく中身が追いつき始めていた。
だが、ジェネラス・リンクは待ってくれない。
その日。
仙台。
ノースフロント仙台分室。
菅野真結――まゆちゃんは、逗子・葉山で回収された通信機器の残存データを睨んでいた。
「あれ……」
指が止まる。
逗子・葉山から北西へ抜ける微弱な通信。
鎌倉。
しかも、一点ではない。
腰越。
七里ヶ浜。
稲村ヶ崎。
極楽寺。
長谷。
鎌倉中心部。
時間を追って並べると、反応が少しずつ東へ移動している。
真結は別のデータを重ねた。
交通時刻。
駅の位置。
そして――。
「これ……電車と一緒に動いてる?」
数分後。
新橋ヒロ室。
大型モニターに真結が映る。
芹沢遥室長が身を乗り出した。
「まゆちゃん、鎌倉ですか?」
「はい。ジェネラス・リンク系の通信反応が明確に増えています」
「固定式?」
「違います。移動しています」
真結が地図を示す。
「ただし横須賀の時のような船でも、車でもありません。この動き……たぶん、人です」
「人?」
「それも、一人じゃない」
真結がさらに説明しようとした、その時だった。
♪~~~~♪
机の上の業務用スマートフォンが鳴った。
真結、
「…………」
遥、
「どうしました?」
「出向元です」
「北洋製紙?」
「はい。石巻工場です」
「どうぞ」
真結が電話を取る。
「はい、菅野です」
数秒。
「ああ、通勤手当申請書ですね」
遥、
「…………」
さっきまで国家レベルの敵組織を分析していた女が、一瞬で工場総務担当者へ戻った。
真結、
「どこが分かりません?」
さらに数秒。
「ああ、それ複雑なんですよね」
遥は黙る。
真結、
「まず自宅から最寄り駅までバスですよね?」
「……」
「そこ一段目です」
「……」
「次に鉄道」
「……」
「途中で会社変わるなら区間分けてください」
「……」
「はい」
「……」
「いや、距離じゃなくて経路です」
波田顧問が横でコーヒーを飲み始めた。
真結、
「そうそう。“通常利用する合理的な経路”です」
遥、
「…………」
「定期代のところ、月額じゃないです」
「……」
「六か月です」
「……」
「そう、それ」
五分経過。
真結、
「分からなかったら申請書の写真送ってください。私が赤入れしますから」
ようやく電話終了。
「……失礼しました」
遥が真顔で言った。
「今、ジェネラス・リンクの秘密作戦の話をしていましたよね?」
「はい」
「途中から完全に総務相談窓口でした」
真結が少し照れた。
「工場からまだ普通に電話来るんですよ……」
波田、
「困ったときのかんちゃん、健在だな」
真結、
「なかなか抜けないですね……」
遥、
「でも説明すごく分かりやすかったです」
「こういうの得意なので」
「知ってます」
真結は何事もなかったように画面を切り替えた。
「では鎌倉の件に戻ります」
波田、
「切り替えが一番怖いな」
真結が発見したのは、ジェネラス・リンクが鎌倉市内に仕込んだ複数の小型中継点だった。
その起動に必要な認証キー。
問題は、それを一人が持ち続けないこと。
観光客へ紛れた密使が運ぶ。
途中駅で別人へ渡す。
次の人物がまた乗る。
さらに別の駅で受け渡す。
人そのものが、中継リレーになっている。
そして、その移動に利用されているのが――。
藤沢から鎌倉まで、湘南の街を縫うように走る小さな電車。
住宅の軒先。
細い街路。
商店街の道路上。
踏切。
そして突然開ける海。
腰越を抜ければ、相模湾の青が車窓いっぱいに広がる。
七里ヶ浜。
稲村ヶ崎。
極楽寺のトンネル。
長谷。
そして古都鎌倉。
日常の通勤通学を支えながら、同時に観光客にとっても「乗ること自体が旅」になるような、小ぶりな緑の電車。
海。
寺。
住宅街。
古い道。
その全部の間を、ゆっくりと走っていく。
ジェネラス・リンクは、その「人が多い」「駅間が短い」「観光客が頻繁に乗り降りする」という性格を利用していた。
真結の説明を聞きながら、美波は地図をじっと見ていた。
江の島近く。
腰越。
七里ヶ浜。
稲村ヶ崎。
長谷。
鎌倉。
沙羅が横から見る。
「美波さん?」
返事がない。
澪、
「怒ってる?」
美波がゆっくり顔を上げた。
「……ここ、ウチの庭なんだけど」
陽菜、
「そういえば美波さん、この辺りですよね」
「そういえばじゃねえよ」
美波は江の島近くで生まれ育った。
現在も藤沢市で暮らし、海ではライフセイバーとして活動している。
海の流れ。
道。
駅。
坂。
昔からある店。
観光客が多くなる時間帯。
夏場の混雑。
この一帯は、身体に染みついている。
そして――。
若い頃。
レディースを率いていた時代。
仲間と走り回っていたのも、やはり湘南だった。
今ではヒロイン。
人命救助を最優先するリーダー。
だが。
昔の血まで完全に消えたわけではない。
美波が地図を睨む。
「ジェネラス・リンク、湘南で好き勝手しすぎじゃね?」
伊織、
「目が怖いさー」
紗耶、
「完全に総長の顔」
「出てねえ」
沙羅、
「出てます」
エミリー、
「Definitely」
「エミリーまで言うな!」
美波は立ち上がった。
「いいか」
七人を見る。
「今日は派手にやる」
沙羅、
「逗子では“静かにしろ”って言ってませんでした?」
「場所が違う」
美波が指を一本立てる。
「ただし、一般人には絶対迷惑かけんな」
全員の表情が少し変わる。
ここは冗談ではない。
それは美波がレディースを率いていた頃から守っていた鉄則だった。
無関係な人を巻き込まない。
一般車両へ迷惑をかけない。
店を壊さない。
子供がいる場所では揉めない。
弱い人間を怖がらせない。
「自分らの喧嘩に関係ねえ人間を巻き込む奴が一番ダセえ」
それが昔からの美波だった。
「電車止めんな」
「はい」
「観光客巻き込むな」
「はい」
「店壊すな」
「はい」
「寺とか神社傷つけたら――」
沙羅、
「敵より先に美波さんが怒りそうですね」
「当たり前だべ!」
エミリー、
「EnemyよりMinamiの方がscary」
「エミリー?」
「Nothing」
作戦開始。
真結と柚葉が通信時刻を分析。
「次の受け渡しは長谷方面です」
真結、
『こちらも同じ予測です』
美波、
「まゆちゃんと柚葉が一致なら当たりだべ」
八人が分散する。
緑の小さな電車が、住宅のすぐ横をゆっくり走っていく。
踏切が鳴る。
観光客。
カメラ。
学生。
買い物客。
普通の日常。
そこにKANA☆WAVEも紛れる。
澪は駅近くで、相変わらずぼーっと立っていた。
沙羅、
「澪、ちゃんと見てます?」
「見てるよ」
「何を?」
「あの人」
観光客風の男。
帽子。
小さなバッグ。
澪が淡々と言う。
「二駅前にもいた」
美波、
「同じ奴?」
「うん」
「何か変?」
「バッグなくなった」
柚葉の顔が変わる。
「……人じゃない」
沙羅、
「え?」
「バッグがリレーされてる」
真結、
『あり得ます!』
美波、
「澪、ナイス!」
澪、
「そう?」
沙羅、
「もうその反応にも慣れてきました」
澪、
「お昼まだだし」
美波、
「達成感と飯を結びつけんな!」
次。
紗耶。
カメラを持った男を見る。
「……違う」
陽菜、
「何が?」
「観光客じゃない」
沙羅、
「観光客の格好ですよ」
紗耶、
「景色見てない」
男の視線は海へ行かない。
小さな電車にも行かない。
寺の看板にも向かない。
人の手。
バッグ。
ポケット。
ずっと、受け渡し相手だけを探している。
紗耶、
「観光客なら何か見るよ。でもあの人、人しか見てない」
美波、
「紗耶センサー当たり!」
「だからセンサーって言うな!」
男が気づく。
歩調が速くなる。
しかし美波は動かない。
「ホームにいる間は手出すな」
沙羅、
「逃げますよ」
「いい」
「でも――」
「一般客いるだろ」
沙羅が黙る。
「敵一人捕まえるために、客巻き込んだらウチらの負けだべ」
電車が到着。
男が乗る。
KANA☆WAVEは追わない。
代わりに次へ回る。
美波には土地勘がある。
「こっちから先回りする」
柚葉、
「間に合います」
澪、
「そっちの方が早いね」
沙羅、
「澪まで!?」
美波、
「今日はウチがホームなんだよ!」
そして男が次の駅で降りる。
すでにKANA☆WAVEがいる。
男、
「なっ……!」
美波、
「よう」
逃げる。
ただし、まだ人が多い。
美波、
「追い込みだけ!」
沙羅が店舗関係者へ話を通す。
「申し訳ありません、この通路だけ少し空けてください」
陽菜は観光客へ。
「こちら側、少し混み合いますので反対からお願いします」
陽菜が笑顔で案内すれば、人は自然と動く。
エミリーは少し離れた場所から男を見失わない。
伊織は一般人が完全に消えるまで手を出さない。
柚葉が八人の位置を整理。
紗耶が男の視線を読む。
澪が路地を見る。
美波が全体を動かす。
「七里側へ押せ!」
沙羅、
「逃げ道作るんですか?」
「そう」
「わざと?」
「ウチらの得意技だべ」
逃げさせる。
ただし――。
逃げたい場所へではない。
逃がしたい場所へ。
男は海側へ。
別のジェネラス・リンク構成員と合流。
さらに数人の戦闘要員。
美波はその動きを見て笑った。
「釣れた」
沙羅、
「怖いですよ、その笑顔」
七里ヶ浜。
相模湾。
遠くに江の島。
海風。
陽が傾き始めている。
広い空。
一般客は陽菜と沙羅が安全な側へ誘導。
柚葉が確認。
「対象区域、一般人なし」
紗耶、
「海側も大丈夫」
美波、
「よし」
サングラスを外した。
「派手に叩いていいぞ」
伊織が少し笑う。
「了解さー」
ジェネラス・リンク側が先に動く。
三人。
伊織へ。
一人目。
正面。
伊織はわずかに身体をずらす。
攻撃を流す。
腕を取る。
重心を崩す。
転倒。
二人目。
横。
踏み込む。
伊織の脚が大きく動く。
鋭い蹴り。
相手の体勢が一気に崩れる。
三人目。
後方。
伊織は振り返りながら間合いを外す。
肩。
手首。
足。
すべてが一つの流れ。
派手。
速い。
だが無駄がない。
琉球空手。
海を背負った伊織が、今まで隠していた速さと技術を一気に解放する。
美波、
「伊織! 今日めちゃくちゃカッコいいじゃん!」
伊織、
「今日“も”さー!」
「そうだった!」
沙羅、
「訂正速いですね!」
別方向。
工作員が逃走。
エミリーが前へ。
「My turn!」
美波、
「行け!」
エミリーが走る。
長い脚。
一気に加速。
段差。
跳躍。
夕陽。
青い海。
遠くの江の島。
風で大きく広がるブロンズヘアー。
古都鎌倉の海沿いの景観に、まるでアメリカンコミックのヒロインが突然飛び込んできたような姿。
着地。
さらに走る。
「Stop!」
男が横へ。
エミリーも横。
完全に進路を塞ぐ。
「End of the road!」
沙羅、
「またエミリーだけ映画みたいなんですけど!」
美波、
「今日はウチも出るぞ!」
沙羅、
「え?」
美波が前へ。
紗耶、
「来た」
柚葉、
「何がです?」
「元総長」
美波は肩を回す。
「悪い。ちょっと昔思い出した」
沙羅、
「やっぱり!」
その目。
立ち方。
足運び。
普段のゲームメーカーとは少し違う。
かつて湘南一帯を仲間と走り回っていた女。
ただし今は、昔とは違う。
周囲を見る。
味方を見る。
一般人の位置を見る。
敵の数を見る。
そして――。
「ウチの湘南で調子乗ってんじゃねえぞ!」
突入。
一人を押し返す。
伊織が崩した敵を確保。
別の一人が横へ。
美波はその方向へ行かない。
「沙羅!」
「はい!」
「右!」
「任せてください!」
柚葉、
「美波さん、左から二人!」
「見えてる!」
紗耶、
「海側、一人抜ける!」
「追うな!」
紗耶、
「いいの?」
澪、
「向こう行っても戻るよ」
美波、
「ほら」
数十秒。
本当に戻ってくる。
澪、
「おかえり」
男、
「またお前か!」
美波、
「澪、お前敵側で有名になってんじゃん!」
澪、
「知らない」
エミリー、
「Mio is scary in a different way」
「そうかな?」
その間も伊織は次々と制圧。
沙羅が逃走方向を絞る。
紗耶は周辺の動きを読む。
柚葉は全員の位置を更新。
陽菜は一般人が戦闘区域へ戻らないよう安全側で対応。
エミリーが高速で敵の間を切る。
美波は戦いながら指揮。
「伊織、左!」
「了解さー!」
「エミリー、奥!」
「Got it!」
「沙羅、追いすぎ!」
「分かってます!」
紗耶、
「分かってない」
「紗耶!」
「澪、出口!」
「もうないよ」
美波、
「よし!」
七里ヶ浜を舞台にした戦闘は、派手だった。
しかし一般人は巻き込まない。
公共物を壊さない。
電車を止めない。
誰かの生活を邪魔しない。
その線だけは、どれだけ美波の昔の血が騒いでも越えなかった。
やがて最後の一人。
ジェネラス・リンクの工作員が地面へ座り込む。
周囲にはKANA☆WAVE。
伊織。
エミリー。
沙羅。
紗耶。
柚葉。
陽菜。
澪。
そして美波。
美波がゆっくり近づいた。
サングラスを外す。
「なあ」
男、
「……」
「鎌倉だけじゃねえよな?」
「知らない」
「三浦」
一歩。
「逗子」
一歩。
「葉山」
さらに。
「鎌倉」
男の目の前。
「湘南のどこまで入り込んでんだ?」
「知らない!」
美波、
「へえ」
声は大きくない。
怒鳴ってもいない。
だから余計に怖い。
昔。
この界隈を走り回り、仲間をまとめていたレディース総長。
その圧。
男がわずかに後ずさる。
美波、
「もう一回聞くべ?」
背後に伊織。
隣に腕を組んだエミリー。
紗耶は無言。
沙羅まで少し引いている。
沙羅、小声。
「美波さん、敵じゃなくても怖いです」
伊織、
「うち何もする必要なさそうさー」
美波が男を見る。
男、
「……分かった!」
美波、
「何が?」
「湘南地区には……もっと深く入り込んでる!」
その瞬間。
美波の表情が変わった。
さっきまでの元レディース総長の顔が消える。
リーダー。
ゲームメーカー。
KANA☆WAVEの美波へ戻る。
「具体的には?」
「全部は知らない。本当だ。ただ、鎌倉だけじゃない。もっと西側にも――」
美波はそれ以上無理に吐かせない。
すぐ通信。
「まゆちゃん」
『全部聞いてます』
「今の証言、持ってる情報と突き合わせて」
『すぐやります』
美波、
「まだ終わってねえな」
沙羅、
「でも今日は勝ちですよ」
「だからだよ」
七人が見る。
美波は海の向こうを見る。
「勝った時ほど締める。勝って兜の緒締めんだべ」
伊織が頷く。
柚葉、
「ジェネラス・リンクがさらに湘南へ展開しているなら、今日の認証キーから経路を逆算できます」
「頼む」
紗耶、
「また忙しくなりそうだね」
美波、
「だな」
エミリー、
「But we won today」
「そう」
美波がようやく少し笑う。
「だから今日は、ちゃんと終わらせる」
任務後。
八人は鎌倉中心部へ向かった。
鶴岡八幡宮。
武家の古都・鎌倉を象徴する社。
参道。
朱の社殿。
観光客。
長い歴史。
先ほどまで海岸で大暴れしていた八人も、ここでは静かになる。
美波を先頭に参拝。
二礼。
二拍手。
頭を下げる。
美波は目を閉じた。
願ったのは――。
湘南地区へ入り込んだジェネラス・リンクを、必ず排除する。
そして。
KANA☆WAVE八人が、この先も誰一人欠けずに任務を続けられること。
参拝を終える。
沙羅、
「何をお願いしました?」
美波、
「言わねえ」
「どうしてです?」
「言ったら叶わなくなりそうだから」
澪、
「それおみくじじゃない?」
美波、
「細けえ!」
伊織、
「でも美波さん、かなり真面目にお願いしてたさー」
「いつも真面目だべ!」
七人、
「…………」
美波、
「何だその沈黙!」
最後に八人が向かったのは長谷。
高徳院。
鎌倉大仏。
夕方。
巨大な阿弥陀如来像が、静かに空の下へ座っている。
何百年もの時間。
雨。
風。
地震。
災害。
そして、数えきれないほどの人々。
それらを見続けてきた鎌倉の象徴。
八人は大仏の前に並んだ。
さすがに少し静かになる。
美波、
「……でけえな」
澪、
「大きいね」
沙羅、
「感想が二人とも小学生ですね」
美波、
「最初の感想なんかそれでいいだろ!」
少し笑う。
そして。
また静かになる。
夕方の柔らかな光。
陽菜が大仏を見上げる。
「この大仏、私たちが生まれるずっと前からここにいるんですよね」
柚葉、
「これから先も、ずっといるんでしょうね」
美波、
「そう考えるとさ」
七人が見る。
「ウチらが今日ここでやったことなんて、歴史から見りゃ一瞬だべ」
沙羅、
「確かに」
「でも」
美波は大仏を見たまま続ける。
「その一瞬で守れるもんがあるなら、やる意味あるだろ」
陽菜が静かに頷く。
柚葉、
「あります」
紗耶、
「十分だね」
伊織、
「うちらが覚えてればいいさー」
エミリー、
「Nobody has to know everything we did」
美波、
「そう」
七人を見る。
「名前残すためにやってるわけじゃねえ。ウチらが一緒にやったことを、ウチらが覚えてりゃいい」
沙羅、
「今日の美波さん、妙に格好いいですね」
美波、
「“今日の”はいらねえ!」
紗耶、
「元レディース総長にも青春あるんだね」
「当たり前だろ!」
八人が笑う。
その後、美波が右手を前へ出した。
拳。
「まだ終わってねえ」
沙羅が拳を重ねる。
「はい」
伊織。
「やるさー」
エミリー。
「Of course」
紗耶。
柚葉。
陽菜。
最後。
澪。
八つの拳が重なる。
「KANA☆WAVE、まだ行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
「Yeah!」
「やるさー!」
そして澪だけ少し遅れて、
「おー」
美波、
「お前だけ体育祭の応援みたいだな!」
澪、
「でもやるよ」
美波は一瞬黙った。
それから笑う。
「……ならいい」
夕暮れの大仏前。
八人。
最初は、神奈川県に住んでいるというだけだった。
今ではもう違う。
誰か一人だけでは、KANA☆WAVEにはならない。
元レディース総長。
静かな川崎市民。
自称ハマのプリンセス。
相模原の正統派美少女。
日米ハーフの超人的アクションヒロイン。
沖縄育ちの琉球空手使い。
八戸育ちの観察者。
秋田育ちの情報ボランチ。
八人とも違う。
だから強い。
誰かが前へ出る。
七人が支える。
そして次の瞬間、主役が交代する。
それが今のKANA☆WAVEだった。
ただ――。
美波の胸には、先ほどの工作員の言葉が残っていた。
「湘南地区には、もっと深く入り込んでいる」
帰り際。
美波のスマートフォンへ真結から短い連絡が入る。
《証言と既存データを照合中。いくつか気になる反応があります》
美波は画面を見る。
そして、すぐ閉じた。
今日はもう追わない。
勝った日まで次の敵のことばかり考えていては、七人まで休めない。
だが――。
湘南で生まれ育った美波には分かる。
自分が知っている土地。
知っている道。
知っている海。
そして、昔から知っている人たち。
もしジェネラス・リンクが本当に湘南の奥深くまで入り込んでいるのなら。
次は、そのすべてが武器になる。
美波は大仏に一度だけ振り返った。
「……まだ終わらねえべ」
沙羅、
「何か言いました?」
「何でもねえ」
澪、
「帰る?」
「帰る」
「お腹空いた」
美波、
「最後の最後でそれかよ!」
七人の笑い声。
夕暮れの古都。
遠ざかっていく八人。
KANA☆WAVEの湘南戦線は、ここで終わらない。
むしろ――。
本当の湘南での戦いは、これからだった。
KANA☆WAVE――鎌倉任務、完了。
そして、続く。




