湘南ヴィラ・シークレット――夕陽の別荘街、見えない中継網を追え! ――騒いだら負け。逗子・葉山の静かな別荘街で、八人のKANA☆WAVEが「静かな戦い」に挑む!
三浦大根を一本も踏まず、三崎のマグロ港を駆け、最後は城ヶ島でジェネラス・リンクの通信網を完全停止させたKANA☆WAVE。
任務後には三浦海岸駅近くの庶民的な寿司屋で地魚とマグロを囲み、八人の間にあった小さな壁も、少しずつ消え始めていた。
川崎。
横浜。
横須賀。
三浦。
結成当初は、
「神奈川県に住んでいる戦隊ヒロインを集めただけ」
という、実に雑な理由で発足した臨時ユニットだった。
だが今では誰も、それを口にしなくなった。
必要な時には誰かが前へ出る。
残りの七人が支える。
次の瞬間には、その主役が別の誰かへ変わる。
そして任務が終われば、一緒に飯を食べる。
それが、いつの間にかKANA☆WAVEの日常になっていた。
そんな八人へ、またしても仙台から連絡が入った。
ノースフロント仙台分室。
菅野真結――まゆちゃんは、三浦市で押収されたジェネラス・リンクの中継装置を解析していた。
モニターには三浦半島。
三浦市から北上するように、細い通信履歴が伸びている。
「……ここで急に薄くなるんだよね」
場所は逗子・葉山。
通信そのものは、ほとんど検出されない。
しかし真結は逆にそこが気になった。
ジェネラス・リンクが三浦市まで活発に動いていたのに、県境でも山奥でもない場所で突然痕跡が消える。
しかも完全にゼロではない。
夜。
ほんの数秒だけ。
いくつかの地点で微弱な反応が現れ、順番に移動している。
真結は地図を拡大。
一つ目。
高台の邸宅。
二つ目。
海を望む別荘。
三つ目。
さらに海岸寄り。
共通しているのは――。
「全部、景色がいい場所だ」
真結は通信記録だけでなく、夜間照明や一時的な電力変動まで重ねていく。
すると、奇妙な規則性が浮かび上がった。
庭園照明。
防犯灯。
テラスライト。
プールサイドの灯り。
いずれも高級住宅なら珍しくない設備。
だが、ある邸宅の照明が数秒点灯すると、その直後に別の邸宅が点灯。
そしてまた別の邸宅。
海へ向かって、光が順番に移動している。
真結は思わず呟いた。
「……これ、照明じゃない」
新橋ヒロ室。
緊急招集された八人を前に、真結がオンラインで説明する。
「三浦半島でのジェネラス・リンクの活動、まだ終わっていません」
美波が腕を組む。
「次どこ?」
「逗子・葉山方面です」
大型モニターへ映し出される海岸線。
逗子。
葉山。
そこは同じ神奈川県でも、川崎や横浜、横須賀とはまるで違う顔を持っていた。
相模湾。
穏やかな海。
海沿いに続く道。
坂。
丘。
緑。
そして高台から見下ろす青い海。
古くから避暑地、別荘地として愛され、海を望む斜面には瀟洒な邸宅が点在する。
特に逗子の高台へ上がれば、街の喧騒が遠のく。
大きな門。
石積みの塀。
生垣。
ガラス張りのリビング。
芝生の庭。
海へ開いたテラス。
個人宅とは思えない規模の邸宅も珍しくない。
中には、その立地と景観から「日本のビバリーヒルズ」と例えられるような高級住宅地まである。
しかし、本物の魅力は豪邸の値段ではない。
騒がしくないこと。
視界の先に海があること。
木々の間から差し込む光。
夕方になれば相模湾の向こうへ沈む夕陽。
晴れた日には遠くまで抜ける景色。
東京や横浜から決して遠くないのに、そこだけ時間の速度が少し落ちたように感じられる。
隣の葉山もまた、古くから別荘文化が根付く町。
海。
御用邸に象徴される品格。
ヨット。
古い別荘。
新しい高級邸宅。
洒落たカフェ。
森戸の海岸。
そして夕焼け。
華やかだが、派手ではない。
高級だが、それを前面へ押し出さない。
「静かであることそのものが贅沢」
そんな土地だった。
エミリーが画面を見ながら、
「きれい。ここ好き」
陽菜も頷く。
「分かります。落ち着いていて素敵ですね」
沙羅が胸を張る。
「こういう場所こそ私向きです」
七人が見る。
沙羅、
「何です?」
美波、
「何で?」
「品格です」
沈黙。
紗耶、
「本人が自分で言うんだ」
沙羅、
「事実です!」
美波、
「はいはい、ハマのプリンセス」
沙羅の顔がぱっと明るくなる。
「ついに認めましたね!」
「悪口だべ」
「なぜですか!」
真結が話を戻す。
「ジェネラス・リンクは、別荘管理会社を装っている可能性があります」
長期間不在の別荘。
短期賃貸されている高級住宅。
管理会社が頻繁に出入りしても不自然ではない邸宅。
そこへ庭園照明や防犯設備を装った通信装置を設置。
複数の邸宅を中継しながら海側へ通信を送る。
柚葉が画面を見る。
「固定された一台を強く発信させないことで見つかりにくくしている」
「はい」
真結が頷く。
「私は仮に《サイレント・ヴィラ・ネットワーク》と呼んでいます」
美波、
「相変わらず敵の作戦、名前だけ洒落てんな」
澪、
「葉山っぽい」
沙羅、
「分かります」
美波、
「褒めるな」
そして今回最大の問題。
住宅街。
しかも高級別荘地。
美波は七人を見回した。
いつもより真剣な顔。
「いいか」
七人を見る。
「今回、とにかく静かに敵を叩く」
沙羅が眉を寄せる。
「それって難しい」
美波、
「つべこべ言うんじゃねぇ」
「まだ質問しただけです!」
「難しいから八人でやんだろ!」
澪、
「三浦は大根踏まないだったね」
美波、
「そう」
指を一本立てる。
「三浦は“大根踏むな”」
もう一本。
「今回は“近所迷惑になるな”」
陽菜、
「戦隊ヒロインの任務注意事項とは思えませんね」
伊織、
「でも大事さー」
美波、
「車ぶつけんな。塀壊すな。植木鉢割るな。大声出すな」
沙羅、
「最後の一つ、美波さんが一番危ないですよね」
「何だと?」
「ほらもう声大きい」
美波、
「……」
七人が見る。
美波が声を小さくする。
「……行くぞ」
澪、
「急に静かになった」
「うるせえ」
「美波さん」
「……うるさい」
任務開始。
最初の舞台は、高級別荘所有者や近隣住民が参加する小規模なチャリティー交流会。
ここでは戦闘力より、「そこにいても不自然ではない人間」が必要だった。
美波が選んだのは二人。
沙羅。
そして陽菜。
沙羅は嬉しそうに髪を整える。
「お任せください」
「調子乗んなよ」
「ハマのプリンセスの実力を――」
美波、
「それ自分で名乗ってんの?」
「自称ではあります」
「自覚あったのかよ!」
ところが会場へ入ると、沙羅は本当に強かった。
堂々としている。
高級住宅のテラス。
品のいい家具。
シャンパン。
小さな立食パーティー。
それでも全く萎縮しない。
初対面の相手にも自然に話しかける。
「素敵なお庭ですね」
「いつ頃からこちらに?」
「管理会社はこちらでずっと同じなんですか?」
世間話に見せながら、必要な情報を拾う。
美波が無線越しに、
『沙羅、意外と似合ってるべ』
「“意外と”を外してください」
『じゃあ、似合ってる』
沙羅が満足そうに微笑む。
『調子乗んな』
「どっちなんです!」
だが。
その沙羅の隣にいる陽菜は、さらに自然だった。
相模原市在住。
横浜・山手方面の歴史ある名門女子大学へ通う陽菜。
華やかな美少女。
品のある立ち居振る舞い。
無理に背伸びしている感じが一切ない。
年配の女性から、
「あら、どちらのお嬢さん?」
と声をかけられれば、
「相模原から来ました」
とにこやかに答える。
沙羅が横から見る。
「……」
陽菜、
「どうしました?」
「私より馴染んでません?」
「大学でこういう雰囲気に慣れているだけですよ」
「でも私はハマのプリンセスですよ?」
「自称ですよね?」
「そこを確認しないでください!」
さらにエミリー。
外国人の別荘所有者へ自然に英語で話しかける。
「Good evening. Sorry to bother you. Has the property management company changed recently?」
少し会話。
すぐ日本語に戻る。
「美波、ここの管理会社、二か月前に変わってるって」
『早っ』
沙羅、
「……」
エミリー、
「どうしたの?」
「なんでエミリーまでこんなに馴染むんです?」
「中区で普通に暮らしてるから?」
「デンバー出身なのに!」
「それ関係ある?」
「あります!」
当のエミリーには高級住宅地への特別な憧れもない。
だから余計に自然。
自称ハマのプリンセスだけが、一人で勝手に競争していた。
その頃、紗耶は別の場所を見ていた。
庭師。
清掃スタッフ。
管理会社。
ケータリング。
警備。
別荘地では住人以外にも様々な人間が出入りする。
紗耶の視線が一人の男で止まる。
「……あの人」
柚葉、
「何か変?」
「うん」
「どこが?」
紗耶は小声で答える。
「庭師なのに庭を見てない」
男の視線は植木ではなく、壁。
照明。
窓。
防犯設備。
手も汚れていない。
道具の持ち方にも慣れがない。
紗耶、
「働いてる人じゃなくて、働いてる人に見せようとしてる」
美波、
『また紗耶センサーか』
「その呼び方やめて」
『でも当たるんだもん』
男が会場を離れる。
同時。
真結の声。
『微弱通信、発生!』
柚葉が端末へ目を落とす。
一軒目の庭園照明。
三秒。
消灯。
次の邸宅。
三秒。
消灯。
さらに海側。
柚葉の指が動く。
「……見えました」
美波、
『何が?』
「通信経路」
真結、
『私も確認しています』
柚葉が地図へ線を引く。
「照明が順番に通信を渡してます」
沙羅、
『照明が?』
「正確には照明内部に仕込まれた中継器です」
一軒。
二軒。
三軒。
高台から海へ。
まるで夕暮れの別荘街を、小さな光が駆け降りるように。
美波、
「次は?」
柚葉が一点を指す。
「この邸宅です」
真結、
『一致します』
美波、
「よし。動くぞ」
そこからKANA☆WAVEは、過去最高に静かな作戦へ入った。
走らない。
叫ばない。
塀を飛び越えない。
門を蹴破らない。
沙羅、
『これ、やりにくい!』
美波、
『つべこべ言うんじゃねぇって言っただろ!』
『通信で怒鳴るのも静かじゃありませんよ!』
『……細けえな!』
そして、この「静かにしろ」という任務条件に奇妙なほど適応した女が一人。
水無瀬澪。
元々静か。
というより――。
やる気がないように見える。
高級住宅地の坂道をゆっくり歩く。
急がない。
周囲をきょろきょろもしない。
普通。
とにかく普通。
沙羅、
『澪、もう少し速く歩けません?』
「走ったら怪しいよ」
美波、
『おお。今回だけはすげえ正論』
澪、
「疲れるし」
美波、
『結局それか!』
だが、この脱力感が役に立つ。
散歩中の住民にも警戒されない。
犬にも吠えられない。
宅配業者にも気にされない。
そして澪が一台の白い車を見る。
「あれ」
柚葉、
『どうしました?』
「さっきもいた」
「ナンバー見えます?」
澪が普通に読む。
照合。
ジェネラス・リンク関係車両。
柚葉、
「当たりです」
美波、
『澪、ナイス!』
「そう?」
『もっと喜べよ!』
車が動く。
美波、
「澪、先どっち?」
「右行ったら階段になる」
沙羅、
「また知ってるんですか!?」
「前に来たことある」
七人、
「またそれ!」
澪、
「何?」
美波、
「もういい。それで説明できるならそうしろ!」
本当に車は右へ入る。
数十秒後。
行き止まり。
バックして戻ってくる。
澪、
「おかえり」
沙羅、
「その台詞、川崎でも聞いた気がします」
敵が車を捨てる。
一人が狭い坂道へ。
美波、
『伊織』
「見えてるさー」
『頼む。ただし静かに』
「了解」
男が伊織へ向かう。
伊織は構えない。
一歩。
手首。
肘。
重心。
相手の力をそのまま流す。
男の身体が静かに地面へ。
大きな音なし。
植木鉢無傷。
塀無傷。
駐車中の高級車にも一切触れない。
伊織、
「ここ住宅街なので静かにしましょうね」
男、
「くっ……」
数秒。
終了。
美波、
『伊織、どう?』
「終わったさー」
沙羅、
『もう!?』
伊織、
「長くやったらうるさいさー」
美波、
『今回お前が一番任務条件理解してるわ』
そして紗耶。
偽庭師だった男の逃走方向を見る。
「海へ行く」
沙羅、
「まだ直進してますよ?」
「足が海側向いてる」
数秒後。
男が突然方向転換。
海側。
沙羅、
「本当に行った!」
紗耶、
「だから言ったじゃん」
柚葉がルートを修正。
陽菜が海岸側へ先回りする。
夕暮れ。
仕事帰り。
散歩。
海を眺めに来た人々。
陽菜が笑顔で声をかける。
「申し訳ありません。こちら側を少しだけ空けてください」
騒がない。
不安を与えない。
自然に人を別方向へ。
華やかな姿が視線を集める。
その間にKANA☆WAVEの残りが動く。
美波、
『陽菜、完璧』
「ありがとうございます」
沙羅、
『私は?』
美波、
『今それ聞く!?』
住宅地を抜ける。
海。
夕方の相模湾。
橙色の空。
水面へ伸びる光。
遠くに浮かぶ江の島。
条件が良ければ、そのさらに向こうに富士の姿まで見える。
別荘地に差していた柔らかな夕陽が、海へ広がっていく。
ジェネラス・リンクの工作員が最後の中継装置を抱えて走る。
ここまで美波が待っていた。
住宅街では暴れない。
なら――。
住宅街から出せばいい。
美波が笑う。
「家の間で派手にやれねえなら、派手にやれるところまで自分で走ってもらうべ」
沙羅、
「最初からここへ追い込んでたんですね」
「そういうこと」
紗耶が後方を締める。
柚葉が逃走地点を共有。
沙羅が住宅側への逆戻りを防ぐ。
陽菜が一般人を遠ざける。
澪が抜け道を見る。
「もう海側しかないよ」
美波、
「十分」
伊織が後ろへ回る。
そして。
ここまで静かにさせられていたエミリー。
美波が叫ぶ。
「エミリー、解禁!」
エミリーの表情が輝く。
「Finally!」
一気に走る。
潮風。
夕陽。
ブロンズヘアーが黄金色に染まる。
長い脚。
加速。
階段。
段差。
そして跳躍。
橙色の空を背景に、エミリーの長身が大きな弧を描く。
昼間の青い海とは違う。
今回は夕陽。
逆光。
赤・白・青のアクセント。
まるでアメリカンコミックの最終ページをそのまま実写化したような一瞬。
沙羅、
「最後だけ急に予算上がってません!?」
美波、
「何の予算だよ!」
エミリー着地。
再加速。
「Stop!」
男は振り返る。
逆方向。
伊織。
横。
沙羅。
もう一方。
紗耶。
後ろ。
柚葉。
一般区域。
陽菜。
最後の抜け道。
澪が立っている。
「そこも無理だよ」
男、
「お前……!」
澪、
「何?」
「さっきから何なんだ!」
「水無瀬澪」
美波、
「だから敵に自己紹介すんな!」
エミリーがケースへ手を掛ける。
「Got it!」
確保。
柚葉、
「装置回収!」
仙台。
真結がネットワークの反応を見る。
一軒目。
停止。
二軒目。
停止。
三軒目。
停止。
最後の赤い点。
消える。
『サイレント・ヴィラ・ネットワーク、完全停止しました!』
任務完了。
美波は一度、別荘地の方を見る。
静かだった。
大きな騒ぎなし。
住宅への被害なし。
一般人の負傷なし。
庭園設備も必要以上に壊していない。
住人たちからすれば、
「夕方、少し人が走っていた」
くらい。
美波は満足そうに頷く。
「よし。今回は“静かに勝つ”ができたべ」
沙羅、
「作戦開始前に“つべこべ言うんじゃねぇ”って怒鳴ってましたけど」
美波、
「それはノーカウント」
「都合いいですね!」
そして任務終了後。
美波が恒例の一言。
「よし。集会すんぞ」
陽菜、
「懇親会ですね」
「集会」
紗耶、
「まだそれで通すんだ」
伊織、
「元レディース総長だからさー」
美波、
「チームの集会だって言ってんだろ!」
場所は逗子海岸。
夕陽が沈み始めた砂浜。
八人は近くの店で買ったフィッシュサンドやしらすを使った軽食、地元野菜のサラダ、ポテト、レモネードを手に砂浜へ座った。
並んで座る八人。
潮風。
波の音。
遠くへ伸びる夕陽。
オレンジ色の空。
ここだけ時間の流れが急にゆっくりになる。
まるで一九七〇年代の青春ドラマ。
学校帰りの若者たちが海辺へ集まり、将来の夢や仲間について語る。
そんな古いテレビドラマの最終回のような絵だった。
最初に口を開いたのは美波。
「なあ」
七人が見る。
「お前らさ。最初KANA☆WAVE集められた時、どう思った?」
沙羅、
「私は成功すると思っていました」
紗耶、
「嘘」
「即答しないでください!」
陽菜が笑う。
「私は、一回か二回の臨時チームだと思ってました」
柚葉、
「私もです」
伊織、
「うちも。同じ神奈川県に住んでるってだけだったしね」
エミリー、
「Temporary unitって感じだった」
澪、
「私は何も考えてなかった」
美波、
「お前だけ期待通りすぎる!」
八人が笑う。
笑いが落ち着く。
また波の音。
夕陽が少し低くなる。
美波は膝を立てて海を見る。
「ウチもさ」
ブロンズヘアーが海風になびく。
「最初は“何だこのメンバー”って思った」
沙羅、
「失礼ですね」
「お前見て特に思った」
「もっと失礼です!」
「でも」
美波の表情が少しだけ真面目になる。
「今は、この八人じゃねえとKANA☆WAVEじゃねえって思う」
誰もすぐには茶化さない。
陽菜が静かに笑う。
「私もです」
柚葉、
「誰が何をするか、説明しなくても分かるようになってきました」
紗耶、
「伊織が前に出たら、私は逆見るとかね」
伊織、
「紗耶が何か見つけたら、だいたい当たりだと思うようになったさー」
紗耶、
「それちょっと責任重い」
三人が笑う。
エミリー、
「美波の指示も短くなったよね」
「そうか?」
「最初は全部説明してた。今は“エミリー行け”だけ」
美波、
「お前はそれで全部分かるだろ」
「Yeah」
沙羅、
「私はもっと丁寧な指示がほしいです」
美波、
「お前は細かく言っても文句言うだろ」
「言いません!」
七人、
「言う」
「何で全員なんですか!」
また笑い。
美波は海へ小石を投げる。
一度。
二度。
海面を跳ねて沈む。
どこか古い青春ドラマの主人公のようだった。
「これからもさ」
七人を見る。
「神奈川で何か起きたら、この八人でやってこうぜ」
沙羅、
「もちろんです」
陽菜、
「はい」
伊織、
「賛成さー」
エミリー、
「Absolutely」
紗耶、
「私も」
柚葉、
「異論ありません」
澪、
「いいよ」
美波、
「澪だけ軽いんだよな」
「でもやるよ」
美波は少し笑う。
「ならいい」
夕陽がさらに低くなる。
八人の影が砂浜へ長く伸びる。
海風の中で、誰も話さない時間が流れる。
しかし気まずくない。
川崎で出会った。
横浜で戦った。
横須賀で初めて任務後にゆっくり食事をした。
三浦で、それまで距離のあった者同士が自然に話し始めた。
そして今。
逗子の海岸で八人が同じ夕陽を見ている。
生まれた場所は違う。
アメリカ。
沖縄。
青森。
秋田。
神奈川。
それでも今、全員が神奈川県に暮らしている。
その偶然から始まったチーム。
美波がぽつりと言う。
「もう寄せ集めじゃねえな」
陽菜、
「はい」
沙羅、
「最初から違います」
美波、
「お前はこういう時くらい素直に頷け」
「私は最初からKANA☆WAVEの可能性を――」
紗耶、
「名前決める会議で一番文句言ってたよね」
沙羅、
「それは別問題です!」
また笑い。
そしてもう一度、静寂。
夕陽。
波。
オレンジ色の空。
美波が立ち上がる。
海へ向かって、大きく伸びをする。
まるで青春ドラマなら、ここでエンディングテーマが流れ始めそうな場面。
エミリーも立つ。
伊織。
沙羅。
紗耶。
柚葉。
陽菜。
最後に澪。
八人が並ぶ。
美波が海を見る。
「ウチら、どこまで行けるかな」
陽菜、
「結構遠くまで行けるんじゃないですか?」
伊織、
「八人ならね」
エミリー、
「Wherever the wave goes」
紗耶、
「波だからね」
柚葉、
「KANA☆WAVEですから」
美波が笑う。
「じゃあ行けるとこまで行ってみるべ」
夕陽を背にした八人。
潮風に揺れる髪。
水平線。
まさに青春。
友情。
未来。
まるで昭和四十年代末から五十年代のテレビドラマ、その最終カット――。
そこで澪がぽつり。
「でも駐車場、もうすぐ時間料金上がるよ」
七人、
「…………」
美波、
「今それ言う!?」
澪、
「だって延長したら高いよ」
沙羅、
「完全に現実に戻りましたね」
柚葉、
「確かにそろそろ移動した方がいいです」
陽菜、
「夕陽もほぼ沈みましたし」
伊織、
「帰るさー」
エミリー、
「Let's go!」
美波、
「おい! 今までの青春ドラマどこ行った!」
澪、
「駐車場?」
美波、
「違えよ!」
八人が笑いながら砂浜を離れていく。
さっきまでの格好いい横一列は、あっという間に普通の若い女性八人組。
残ったポテトを誰が持つか。
ゴミ袋は誰が持つか。
車までどちらの道が近いか。
そんな話をしながら歩いていく。
でも、それでいい。
青春とは、格好いいことだけではない。
夕陽を見ながら未来を語った五分後に、駐車料金を気にする。
そんな現実まで一緒に笑える相手がいることもまた、青春なのかもしれない。
最後尾を歩く美波が、七人の背中を見ながら小さく笑う。
「……ま、これがウチらだべ」
今度は誰にも聞こえなかった。
夕暮れの逗子海岸。
静かな波。
遠ざかっていく八人の笑い声。
最初はただの寄せ集め。
今はもう――。
KANA☆WAVE。
それだけで十分だった。
逗子・葉山任務――完了。




