ミウラ・トライアングル――大根畑、マグロ港、城ヶ島! KANA☆WAVE、三段リレーを断て ――海と畑の三浦半島を駆け抜けろ。八人の波、今度は最南端へ!
横須賀での任務から数日後。
ノースフロント仙台分室の菅野真結――まゆちゃんは、回収されたシー・ビーコンの通信履歴を追い続けていた。
川崎では工場地帯。
横浜では国際物流。
横須賀では海上移動。
ジェネラス・リンクは、神奈川県内で少しずつやり方を変えてきている。
だが、完全に癖を消せているわけではない。
真結がモニター上の小さな反応を拡大すると、三浦半島南部に三つの点が浮かんだ。
一つは三浦市内の農業地帯。
一つは三崎港。
そしてもう一つは城ヶ島。
「……三つ?」
さらに解析。
三点の間を、短時間通信が順番に移動している。
真結はしばらく画面を見つめたあと、小さく呟いた。
「これ、リレーしてる」
その日の午後。
新橋のヒロ室。
KANA☆WAVEの八人が大型モニターの前に集められた。
平塚美波は腕を組み、地図を見ている。
「横須賀の次は、そのまま南か」
画面の向こうで真結が頷く。
『ジェネラス・リンクの活動が、三浦半島南部でかなり活発になっています』
南部沙羅が首を傾げる。
「今回は何に紛れ込んでいるんです?」
真結が一つ目の点を指す。
『農産物流通』
二つ目。
『水産物流通』
三つ目。
『海上通信です』
美波、
「全部乗せじゃん」
阿部柚葉が画面を見ながら言う。
「川崎、横浜、横須賀で使った方法を組み合わせた?」
『その可能性が高いです』
ジェネラス・リンクは、三浦市内の農業地帯で使われる物流資材に偽装中継器を潜ませ、それを三崎方面へ移動。
三崎では水産物流通へ紛れ込ませて次の装置へ情報を渡し、最後は城ヶ島周辺の海上機器へ接続する。
大根。
マグロ。
島。
三浦の日常そのものを、巨大な迷彩にしている。
真結が言った。
『仮称ですが……三浦トライアングル、と呼んでいます』
美波、
「なんか観光キャンペーンみてえだな」
水無瀬澪、
「大根とマグロと城ヶ島なら普通に行きたい」
美波、
「行くけど観光じゃねえ!」
こうしてKANA☆WAVEの四度目の任務が始まった。
三浦半島。
神奈川県の南東側へ大きく突き出し、東京湾と相模湾、そして南の海に囲まれた土地。
横須賀からさらに南へ進むと、横浜や川崎とはまるで別の県へ来たように景色が変わる。
丘。
畑。
漁港。
海。
青い空。
冬場なら、畑一面に大根やキャベツの葉が広がる。
少し高い場所へ上れば、その畑の向こうに海が見える。
海の街なのに農業が強い。
農業の街なのに、すぐそばには全国的に知られるマグロの港がある。
そしてさらにその先に、荒々しい自然を残す城ヶ島。
エミリー・ハートが車窓から外を見ながら、
「Wow……景色全然違う」
と感嘆する。
白石陽菜も窓へ身を寄せる。
「神奈川県って本当にいろんな顔がありますね」
金城伊織、
「海もあるけど、沖縄とはまた全然違うさー」
蛯沢紗耶、
「畑の向こうに海があるの、面白いね」
澪、
「大根いっぱいある」
美波、
「お前だけ視点が食い物なんだよ」
最初の反応地点は農業地帯。
車を降りた八人の前に広がるのは、見渡す限りの畑だった。
風。
緑。
遠くの海。
そして立派な大根。
農家の男性が八人を迎える。
「この辺で変な機械が置かれてたって話なら聞いたぞ」
美波がすぐ聞く。
「どの辺です?」
「あっちの資材置き場の近く。ただし」
男性は八人を見回し、念を押す。
「大根踏むなよ」
美波、
「もちろんです」
「絶対だぞ」
「はい」
「特にそこの元気そうな姉ちゃん」
沙羅、
「私ですか?」
「走りそうだから」
美波、
「見る目あるべ」
沙羅、
「なぜ納得するんです!」
男性はさらに指を差す。
「大根一本育てるのも大変なんだからな」
美波は真顔になった。
そして七人へ向き直る。
「聞いたな。今日の最重要任務、大根を踏むな」
沙羅、
「ジェネラス・リンクの確保ではなく?」
「そっちは当然だべ。大根は追加条件だ」
伊織、
「農家の方に迷惑かけるのは駄目ですからね」
陽菜、
「それはそうです」
エミリー、
「Protect the radish!」
美波、
「急に世界規模の使命みたいになったな」
そこへ真結の通信。
『不審信号、移動しました!』
資材置き場の陰。
男が一人、小型ケースを抱えて飛び出す。
美波、
「動いた!」
男は農道へ。
沙羅が真っ先に走る。
「止まりなさい!」
美波、
「沙羅、右から!」
「はい!」
沙羅が畝の間を抜けようとして、一歩踏み出す。
美波の声が飛ぶ。
「沙羅、踏みそうになってるから気を付けろ!」
沙羅、
「敵よりそっちですか!?」
「大根踏むな!」
「分かってます!」
「今ギリギリだったぞ!」
紗耶、
「本当にギリギリだった」
沙羅、
「実況しなくていいです!」
敵はさらに走る。
エミリーが前を見る。
低い用水路。
その向こうに細い農道。
美波、
「エミリー、回れ!」
エミリーはニッと笑う。
「Got it!」
ブロンズヘアーが風に大きくなびく。
長い脚。
一気に加速。
そして跳ぶ。
畑。
青空。
遠くの海。
大根の緑。
その上を切り取るように、エミリーの長身が宙を横切る。
着地。
しかも畝には入らない。
きっちり農道。
遠くで見ていた農家の男性が、
「姉ちゃん、うまいぞー!」
エミリー、
「Thank you!」
沙羅、
「何で敵追って農家さんから声援もらってるんですか!」
美波、
「お前も大根踏まなきゃ褒めてもらえるべ」
「踏んでません!」
その頃、澪は地図を見ていた。
「そっち追わなくていいよ」
美波、
「何で?」
「農道、途中でなくなる」
柚葉が端末で確認。
「本当です。先は行き止まりです」
美波、
「じゃあ出口押さえるべ」
男が進む。
前方。
行き止まり。
振り返る。
伊織が立っている。
「お疲れさまさー」
男、
「退け!」
伊織は腰を落とすでもない。
一歩。
相手の腕。
重心。
崩す。
一瞬で制圧。
「大根畑で暴れたら怒られるので、静かにしてください」
美波、
「完璧だな」
ケースを回収した柚葉が確認する。
「中継器です」
真結、
『次の通信先、出ました』
美波、
「どこ?」
『三崎港です』
澪、
「マグロ」
美波、
「そうだけど観光じゃねえ!」
八人はそのまま三崎へ。
景色が一気に変わる。
畑の緑から、港の青。
漁船。
市場。
冷凍設備。
フォークリフト。
魚を扱う店。
港町の食堂。
そして、三崎といえばやはりマグロ。
遠洋漁業の基地として知られ、多様なマグロが集まる街。
港には仕事の緊張感があり、それと同時に観光客を引き寄せる食の魅力もある。
陽菜、
「さっきまで大根だったのに、もうマグロですね」
美波、
「三浦市、情報量多いな」
紗耶の表情が少し変わる。
港町育ち。
八戸出身の彼女には、こういう場所で働く人間の動きが分かる。
一人の男。
作業着。
手袋。
帽子。
一見普通。
紗耶が止まる。
「……違う」
沙羅、
「何がです?」
「あの人」
「普通の作業員では?」
紗耶、
「違う」
伊織、
「分かるんですか?」
「冷凍設備側から出てきたのに、動きが変」
「動き?」
「仕事してる人じゃなくて、“仕事してる人の真似してる人”」
男の目が一瞬動く。
紗耶、
「ほら」
逃走。
美波、
「当たり!」
紗耶、
「やっぱり」
「お前、港に来ると性能上がるな」
「八戸育ちだから」
男を追いながら、伊織が紗耶の横へ並ぶ。
「八戸の港って、冬すごく寒いんですか?」
紗耶が少し驚く。
「寒いよ。風強い日は顔が痛いくらい」
柚葉も続く。
「秋田の海沿いも冬は厳しいですよ」
伊織、
「那覇の海とは想像つかないさー」
紗耶、
「逆に沖縄の海見てみたい」
伊織、
「来たら案内するさー」
柚葉、
「私も行っていいですか?」
「もちろん」
紗耶、
「じゃあ三人で行こうかな」
任務中の短い会話。
それでも以前より自然。
美波は少し離れた位置から三人を見る。
「……あいつら、普通に話すようになったな」
エミリー、
「Good thingじゃない?」
「だな」
だが敵は待ってくれない。
逃走者が車へ。
柚葉、
「城ヶ島方向へ移動!」
真結、
『第二中継点、切断。最後の信号が城ヶ島へ移っています!』
美波、
「よし、最後行くべ!」
橋を渡る。
城ヶ島。
海。
風。
岩場。
草原。
水平線。
三崎港とは違う、もっと荒々しい自然の海。
陽菜が思わず、
「綺麗……」
と呟く。
エミリー、
「This place is amazing」
澪が灯台を見て、
「あれ、三浦大根がモチーフなんだよ」
全員、
「え?」
陽菜、
「澪さん、知ってるんですか?」
「うん」
美波、
「大根畑ではサイズくらいしか言わなかったのに?」
「灯台は知ってる」
「お前の知識の順番どうなってんだよ!」
そこへ真結。
『主制御信号、急上昇しました!』
空気が変わる。
ジェネラス・リンクの構成員が、最後の制御ケースを海上回収しようとしている。
美波は短く言う。
「全員、仕事だべ」
言われる前から動き始める。
これが今のKANA☆WAVEだった。
紗耶は海へ。
「小型艇、こっち来る」
柚葉、
「距離は?」
「まだある。でも進路はこっち」
柚葉が真結の通信情報と重ねる。
「接触予想、七分」
真結、
『私も同じです』
伊織が右を見る。
「陸側、一人動いたさー」
柚葉、
「伊織、お願いします」
「了解」
紗耶、
「海は私が見る」
「任せたさー」
もう三人の間にぎこちなさはない。
陽菜は観光客側。
「こちら側をご利用ください。反対側は安全確認中です」
華やかな笑顔と落ち着いた話し方。
人の流れが自然に変わる。
沙羅は施設関係者へ。
「こちらの通路を数分だけ空けてください」
交渉。
説明。
調整。
これも彼女の強さ。
美波、
「沙羅、今日いいじゃん」
「いつもいいです!」
「大根踏みそうになったけど」
「まだ言うんですか!」
澪は抜け道を見る。
「そっち行っても駄目だよ」
敵、
「なぜだ!」
「伊織いるから」
反対へ。
「そっちも無理」
敵、
「お前は何なんだ!」
澪、
「水無瀬澪」
美波、
「自己紹介すんな!」
そして最後。
制御ケースを持った男が逃げる。
美波、
「エミリー!」
「I'm on it!」
青い海。
強い風。
ブロンズヘアー。
エミリーが一気に加速。
遊歩道の段差。
軽く跳ぶ。
さらに大きく跳躍。
海を背景に、長身のシルエットが宙へ浮く。
沙羅、
「またエミリーだけポスターみたい!」
美波、
「お前は“大根踏みかけ”でポスター作ってやる!」
「絶対やめてください!」
エミリーが着地。
さらに加速。
伊織が別ルートを消す。
紗耶が海上艇を見る。
柚葉が時間を数える。
陽菜が一般客を守る。
沙羅が施設側を押さえる。
澪が最後の出口を潰す。
美波が全員を見る。
「紗耶!」
「艇、接近!」
「柚葉!」
「二分半!」
「伊織!」
「右、止めたさー!」
「陽菜!」
「安全区域確保!」
「沙羅!」
「こちらも完了!」
「澪!」
「出口あと一つ」
「エミリー!」
「Almost!」
美波が叫ぶ。
「三浦トライアングル、閉じるべ!」
八人が一気に動く。
右。
伊織。
左。
沙羅と紗耶。
後方。
柚葉。
一般区域。
陽菜。
最後の抜け道。
澪。
正面。
エミリー。
男が立ち止まる。
「どこへ……」
エミリー、
「Nowhere」
ケース確保。
真結、
『主制御信号停止!』
最後の赤い点。
消える。
『三浦地区、不審通信ゼロ。三浦トライアングル完全停止です!』
任務終了。
美波が大きく息を吐く。
「よし」
澪、
「ご飯?」
「もう早いの慣れたわ」
今回は三浦。
なら寿司。
美波はその場でヒロ室へ電話する。
相手は経費管理に厳しい谷口佳乃。
通称、けちのん。
「もしもし佳乃?」
『はい』
「任務終わった。八人で寿司食って帰りたい」
『予算は?』
「最初にそこ聞くなよ」
『経費ですから』
「三浦だぞ。マグロだぞ」
『観光ではありません』
「五千円」
『駄目です』
「四千円」
『駄目です』
「三千五百」
『刻まないでください』
美波、
「いくらならいいんだよ!」
佳乃、
『一人三千円まで。飲み物別です』
美波、
「そこは別枠なんだ?」
『食事と飲料は分けてください』
「さすがけちのん」
『何か言いました?』
「何でもありません!」
電話を切る。
美波、
「一人三千円まで」
柚葉、
「八人で二万四千円ですね」
美波、
「数字にすると急に経費精算感出るからやめろ」
向かったのは三浦海岸駅近くの庶民的な寿司屋。
高級店ではない。
地元客。
家族連れ。
仕事帰りの客。
カウンターと小上がり。
壁には手書きのお品書き。
大将が威勢よく迎える。
「いらっしゃい!」
美波が言う。
「大将、八人なんだけど、一人三千円までなんだ。飲み物別で」
大将、
「ずいぶん具体的だな」
美波、
「経理が怖くて」
沙羅、
「けちのんです」
美波、
「名前出すな!」
事情を話す。
三浦市内でちょっとしたトラブルを未然に防いだ。
畑にも港にも観光客にも迷惑をかけず終えた。
もちろんジェネラス・リンクの詳細は伏せる。
大将は頷いた。
「じゃあ三千円なら、地魚中心でこっちに任せてもらえる?」
美波、
「お願いします」
「せっかく三浦まで来たんだ。マグロだけじゃもったいない」
八人、
「お願いします!」
最初に出てきたのは白身。
その日の仕入れという設定で、まずはヒラメ。
透き通るような白身。
薄く包丁が入り、軽く塩と柑橘。
陽菜が一口。
「……上品ですね。噛むと甘みが出ます」
伊織、
「さっぱりして美味しいさー」
次。
マダイ。
皮目を軽く湯引き。
沙羅、
「やっぱり鯛は強いですね」
美波、
「何に勝ってんだよ」
「寿司界での格です」
紗耶、
「急に評論家になった」
次はアジ。
三浦近海らしい青魚。
生姜とねぎ。
澪、
「これ美味しい」
美波、
「お前がちゃんと感想言った」
「いつも言ってるよ」
「だいたい“お腹空いた”しか言ってねえ!」
さらにイサキ。
少し炙って香りを出す。
エミリー、
「Oh, this one smells great」
柚葉、
「脂があるけど重くないですね」
カマス。
軽い炙り。
伊織、
「香ばしいさー」
紗耶、
「港で食べると余計に美味しく感じるね」
そこへ地ダコ。
大将、
「これは噛んで食ってな」
美波、
「分かりました」
一口。
美波、
「……うまっ」
陽菜、
「美波さん、一番普通の感想ですね」
「うまいもんはうまいんだよ!」
そして、いよいよ三崎の本丸。
マグロ。
大将が言う。
「ここからマグロいくよ」
八人の視線が集まる。
まずは赤身。
色鮮やか。
余計な脂がなく、マグロそのものの旨味。
紗耶、
「赤身ってちゃんと美味しい店で食べると印象変わるよね」
柚葉、
「味が濃いですね」
澪、
「これ好き」
次。
中トロ。
赤身の旨味と脂のバランス。
陽菜が目を細める。
「柔らかい……でも脂だけじゃないんですね」
エミリー、
「This is dangerous. I can eat a lot」
美波、
「予算三千円だから暴走すんなよ」
次は大トロ。
一人一貫ずつ。
美波、
「来たな」
沙羅、
「主役ですね」
口へ。
数秒、全員黙る。
伊織、
「……溶けるさー」
陽菜、
「本当にすぐなくなりました」
エミリー、
「Okay, that's amazing」
澪、
「もう一個」
美波、
「予算!」
大将、笑う。
さらに漬けマグロ。
少しねっとり。
醤油の風味。
柚葉、
「これ、ご飯との一体感が一番強いかもしれません」
紗耶、
「分かる」
そして炙りトロ。
表面だけ軽く炙られ、脂の香りが立つ。
沙羅、
「これは反則ですね」
美波、
「何のルールだよ」
さらに珍しいところで、大将が少量だけほほ肉の炙り握りを出す。
「数ないから一人一貫だけな」
エミリー、
「Cheek meat?」
「ほっぺだよ」
一口。
エミリー、
「Wow。肉みたい」
伊織、
「確かに食感がしっかりしてるさー」
美波、
「マグロって部位で全然違うんだな」
大将、
「まだあるぞ」
出てきたのは頭肉を使った軍艦。
濃い旨味。
陽菜、
「これも全然違いますね」
澪、
「マグロって奥深いね」
美波、
「今日一番まともなこと言ったな」
そして箸休め。
三浦らしく大根の甘酢漬け。
澪、
「今日追いかけた大根」
沙羅、
「その言い方すると急に罪悪感出ます」
美波、
「お前は踏みそうになっただけだろ」
「踏んでません!」
さらに大将が、薄く仕立てた大根と魚を合わせた一品も添える。
「三浦来たら大根も食って帰んな」
陽菜、
「さっぱりします」
柚葉、
「マグロの脂のあとにちょうどいいですね」
最後は鉄火巻き。
赤身をたっぷり。
澪、
「これは安定」
美波、
「お前の評価、急にレビューサイトっぽくなるな」
全員、かなり満足。
美波が大将へ聞く。
「これ、本当に三千円で大丈夫?」
大将、
「大丈夫だよ」
そして最後。
大将が小さな皿を一枚追加で置いた。
そこには、その日仕入れた地魚のおすすめ握りが数貫。
「これはサービス」
美波、
「いや、大将、いいって」
「今日、三浦でいいことしてくれたんだろ?」
「まあ……ちょっとだけ」
「だったら、こっちもちょっとだけだ」
八人が静かになる。
大将、
「畑も港も、島も、ここで暮らしてる人間にとっちゃ全部地元だからな。守ってくれたんなら、寿司一皿くらい出すよ」
美波が少し照れたように笑う。
「……ありがとうございます」
七人も、
「ありがとうございます」
と頭を下げる。
サービスの皿から、陽菜が白身を一つ取る。
「こういうの、嬉しいですね」
伊織、
「任務成功した実感がするさー」
紗耶、
「戦うだけじゃないってことだね」
柚葉も頷く。
その頃。
紗耶と柚葉の間に伊織が自然に座っている。
以前なら、東北出身の二人で話しているところへ伊織が入ることは少なかった。
今は違う。
紗耶、
「伊織、そのカマス食べた?」
「食べた。美味しかったさー」
柚葉、
「沖縄にもカマスみたいな魚あります?」
「いるけど、こっちとは種類違うかもしれないさー」
紗耶、
「沖縄行ったら魚食べたいな」
伊織、
「じゃあ市場案内するさー」
柚葉、
「私も行きたいです」
「三人で行けばいいさー」
自然に笑う。
美波はその様子を見ていた。
川崎では、ただ役割が噛み合った。
横浜では、全員が主役になれることが分かった。
横須賀では、任務の外でも一緒に過ごすようになった。
そして三浦では、今まで少し距離のあったメンバー同士まで自然に話し始めている。
美波は湯呑みを持ちながら、ぼそっと言った。
「……このチーム、かなり強くね?」
沙羅、
「何を今さら」
「戦闘だけじゃねえよ」
七人が見る。
美波は少し言葉を探す。
「前より全員が、誰が何するか分かってる。誰かが動いたら、残りが勝手に合わせる。しかも別に仲良しごっこしてるわけじゃねえのに、任務終わったら一緒に寿司食ってる」
エミリー、
「That's what a team is」
伊織、
「自然にチームになってるってことですね」
柚葉、
「無理に仲良くしようとしていないから、逆にいいのかもしれません」
紗耶、
「必要な時にちゃんと助ける。それで十分だしね」
陽菜、
「でも、こうして一緒に食事するのは楽しいです」
沙羅、
「それは同意します」
澪、
「私も」
美波、
「お前は飯なら何でも同意するだろ」
澪、
「そうかな?」
全員、
「そうだよ!」
店内に笑い声が広がる。
美波も笑う。
寄せ集め。
確かに最初はそうだった。
だが今は、もうそれだけではない。
誰か一人が主役ではない。
八人全員が主役。
誰か一人がすべてを背負うのでもない。
必要な時に、必要な一人が前へ出る。
残りの七人が支える。
そして次の瞬間には、別の誰かが主役になる。
それがKANA☆WAVE。
美波は最後の鉄火巻きをつまみながら、満足そうに言った。
「やっぱ、かなりいいチームだべ」
今度は誰も茶化さなかった。
ただ澪だけが皿を見ながら、
「大将、まだ予算残ってる?」
美波、
「最後まで経費意識すんな!」
大将まで笑った。
大根畑。
三崎のマグロ港。
城ヶ島。
三浦半島の南端を八人で駆け抜けた一日。
そして最後は、地魚とマグロを囲んで笑う。
KANA☆WAVEはまた一つ、チームらしくなった。
三浦任務――完了。




