川崎ナイト・ブロッケード――八人のKANA☆WAVE、光る臨海部で逃げ道を全部塞げ! ――初陣で判明した「寄せ集めじゃない」。八人の個性が噛み合った夜
夜の川崎臨海部は、昼とはまったく違う顔を見せる。
巨大なプラント。
縦横無尽に走る銀色の配管。
闇の中へ高く伸びる煙突。
港湾道路を行き交う大型トラック。
運河の黒い水面に映り込む、白、橙、青の作業灯。
遠くでは塔の先端から炎が揺らめき、その向こうには無数の工場設備がまるで未来都市のように浮かび上がっている。
だが、これはテーマパークではない。
川崎臨海部は、今この瞬間も日本の産業を動かしている巨大な現場だ。
鉄鋼。
化学。
エネルギー。
物流。
港湾。
幾千もの人々が働き、無数の製品と物資が動き、その営みが夜になって光へと姿を変える。
その圧倒的な機能美が、やがて「川崎の工場夜景」として人々を惹きつけるようになった。
そして今夜。
その光の海へ、八人の女性が姿を現す。
ブルー。
ホワイト。
レッド。
神奈川県をイメージしたトリコロールを共通アクセントとして、それぞれの個性を残した戦隊ヒロイン衣装。
八人全員が同じ服ではない。
だからこそ並んだ姿に強烈な個性がある。
その中央。
風を受けて派手なブロンズヘアーを揺らす女がいた。
平塚美波。
藤沢在住。
元レディース総長。
そして新生KANA☆WAVEのゲームメーカー。
作業灯を浴びるブロンズの髪が金色に輝き、美波は腰へ片手を当てて巨大な工場群を見上げた。
「……すげえな」
横にいた南部沙羅が意外そうに振り向く。
「美波さんでも普通に感動するんですね」
美波、
「どういう意味だべ」
「こういう景色見たら、“燃えてんなあ!”とか言う人なのかと」
「お前、ウチを珍走団か何かだと思ってんだべ?」
後ろから水無瀬澪。
「元レディース総長だから?」
美波、
「澪、お前まで乗っかんな」
初任務とは思えない緊張感のなさ。
だが美波が耳元の通信機へ指を当てた瞬間、八人の雰囲気が切り替わった。
『KANA☆WAVE、こちらノースフロント仙台分室。聞こえますか?』
菅野真結――まゆちゃんの声。
「聞こえてる。状況は?」
『不審通信、今夜も確認しました。昨日より発生間隔が短くなっています』
美波の表情が引き締まる。
『ジェネラス・リンク側が、ネットワークの最終接続試験を行っている可能性があります』
「今夜が山か」
『はい』
今回、KANA☆WAVEが相手にするものは巨大兵器でも秘密基地でもない。
川崎臨海部へ密かに設置された、小型の情報中継装置群。
見た目は工場の監視センサー。
環境測定機器。
物流用端末。
ありふれた設備へ紛れ込ませることで、誰にも気づかれず通信する。
一台ではほとんど意味を持たない。
だが十台。
二十台。
それらがつながれば話は違う。
物流車両が何時に増えるか。
工場の交代時間。
港湾ゲートが混雑する時間帯。
どの道路が空くのか。
警備員が交代する時間。
それらを積み上げれば、単なる地図より恐ろしい。
街がどう動くのかという“生きた地図”が完成する。
真結が言う。
『ジェネラス・リンクは施設そのものではなく、川崎臨海部の日常を盗もうとしています』
金城伊織が静かに頷く。
「つまり普通に働いている方々を巻き込まず、装置と関係者だけ止める必要があるんですね」
『その通りです』
美波が七人を振り返る。
「聞いたな?」
七人、
「はい」
「工場止めんな。物流止めんな。一般人巻き込むな」
エミリー・ハートが拳を軽く握る。
「And stop Generous Link!」
「そういうことだべ」
美波は地面へ置いた簡易端末に地図を表示した。
「昨日決めた通りでいく」
沙羅、
「例のサッカー方式ですね」
「ああ」
八人の配置には意味があった。
KANA☆WAVEには、似たタイプがほとんどいない。
誰か一人へ全てを任せるより、得意分野をフィールドプレーヤーのポジションに当てはめた方が強い。
美波がまず前方を指す。
「ツートップ」
一人目。
金城伊織。
那覇出身。
横浜市鶴見区在住。
琉球空手の達人。
KANA☆WAVE随一の技術型ファイター。
伊織の特徴は、強いことではない。
強さを必要以上に使わないこと。
殴ればいい場面でも止める。
投げれば危険な相手なら崩すだけにする。
相手が動こうとする一瞬前を読む。
美波が最初から伊織へ与えた役割は明確だった。
「伊織、お前は点取り屋じゃねえ」
伊織、
「FWなのに?」
「前で相手を止めるFWだべ」
伊織は少し笑う。
「なるほど。突破されないように最初の壁になるわけですね」
「そう。無駄に追っかけ回すな。来た奴だけ確実に止めろ」
「了解さー」
そして伊織の横。
もう一人のツートップ。
エミリー・ハート。
コロラド州デンバー出身。
横浜在住。
こちらも髪は鮮やかなブロンズ。
しかし美波の派手でワイルドなブロンズとは印象が違う。
工場の白い照明を受けたエミリーの長い髪は金属光沢のように煌めき、長身のシルエットが巨大プラントを背景に浮かび上がる。
まるでアメリカンコミックから抜け出してきたヒロインだった。
しかも彼女の身体能力は普通ではない。
天才科学者である父と米軍関係者が共同研究したという、詳細不明の新素材を使用した特殊インナー。
その効果によってエミリー自身の高い運動能力がさらに引き出される。
跳躍。
加速。
着地。
瞬発力。
多少の障害物など、彼女にとっては障害にならない。
美波が説明する。
「伊織が“止める”なら、エミリーは“追いつく”だべ」
エミリー、
「Catch everything?」
「何でも追っかけるな。ウチが“行け”って言った時だけ行け」
「OK!」
「お前、自分で判断すると三つ先まで行きそうだからな」
エミリー、
「Maybe!」
「Maybeじゃねえ!」
技術の伊織。
爆発力のエミリー。
静と動。
この二人が前線を担う。
続いて左右。
美波が右側を指す。
南部沙羅。
横浜。
都会派。
自称・洗練された女性。
そしてプライドが高い。
「お前は右サイド」
沙羅、
「妥当ですね」
「何が?」
「私ほど華麗なサイドアタッカーは――」
「誰も華麗とは言ってねえ」
「最後まで聞いてください!」
沙羅の役割は積極的な圧力。
相手へ寄せる。
追う。
わざと行きやすそうな方向を作る。
そして敵がそちらへ逃げた瞬間、別の仲間へ渡す。
ただし欠点が一つ。
追い始めると熱くなる。
美波、
「沙羅」
「はい」
「追いすぎんなよ」
「分かっています」
「その“分かっています”が一番信用できねえ」
「どういう意味ですか!」
反対側。
左サイド。
蛯沢紗耶。
青森県八戸出身。
現在は川崎市在住。
長身。
そしてバスケットボール経験者。
大きな身体から想像する以上に細かい横移動が速い。
長い腕。
長い脚。
相手が一歩コースを変えた瞬間、半歩先へ入る。
紗耶の仕事は、沙羅とは逆。
追わない。
進路を消す。
相手に「そちらへ行くしかない」と思わせる。
紗耶、
「沙羅が追いすぎる分、私が後ろを見ればいいんでしょ」
美波、
「そういうこと」
沙羅、
「どうして私が追いすぎる前提なんです?」
紗耶、
「実際追いすぎるから」
「まだ始まってもいません!」
中央。
KANA☆WAVEの心臓部。
阿部柚葉。
秋田県にかほ市出身。
川崎在住。
美波が与えたポジションは、
ボランチ。
派手な得点役ではない。
相手を完全制圧する役でもない。
だが、前と後ろ。
右と左。
すべてをつなぐ。
真結から送られてくる情報も最初に柚葉へ入る。
伊織が前へ寄れば、その後方。
エミリーが飛び出せば、その空間。
沙羅が上がれば、その内側。
紗耶がカバーへ行けば、その穴。
長い手足を生かして敵の動きを一瞬止め、次の味方へつなぐ。
美波が言う。
「柚葉、お前は自分から目立つ必要ねえぞ」
「元々あまり目立つタイプではありません」
「それでいい」
「……褒めています?」
「めちゃくちゃ褒めてる」
柚葉が少し首を傾げる。
美波は続けた。
「真ん中が忙しく走り回るようじゃ、周りが崩れてる証拠だべ。お前が目立たないまま全部つながれば一番いい」
柚葉、
「なるほど」
美波、
「そういう顔してるけど、分かった?」
「分かっています」
「梨乃じゃねえから大丈夫か」
全員、
「梨乃は関係ないです!」
そして最後尾。
白石陽菜。
相模原在住。
戦隊ヒロイン随一と言っていい華やかな美少女。
とにかく目立つ。
暗い港湾区域の作業灯の下でも、そこだけ照明を一灯増やしたような存在感がある。
普通なら潜入任務では不利。
しかし美波は逆に利用する。
「陽菜は目立て」
「え?」
「敵に見せろ」
「それは囮ということですか?」
「そうだべ」
陽菜、
「戦隊ヒロイン一の美少女を囮に使うんです?」
美波、
「自分で言うようになったな」
「皆さんが言うからです!」
陽菜が警備員や作業関係者の前へ立ち、堂々と事情を説明する。
敵側から見れば、
“ヒロインは陽菜の周辺に集まっている”
ように見える。
しかし実際には残り七人は別方向に展開済み。
華そのものを戦力へ変える役割だった。
そして陽菜の隣。
最終ライン最大の謎。
水無瀬澪。
川崎市出身。
川崎市在住。
一見すると、
ただ立っている。
本当に立っている。
美波、
「澪」
「何?」
「お前、仕事分かってる?」
「道見てる」
「ならいい」
沙羅、
「それだけですか?」
澪、
「うん」
敵が逃げる。
右へ。
澪、
「そっち無理だよ」
左へ。
「向こうも無理」
奥へ。
「そこ夜閉まってるよ」
戻ろうとする。
「もう沙羅いるよ」
敵、
「何なんだお前!」
澪、
「川崎市民」
それが最大の武器だった。
地元民にしか分からない細かな道路。
大型車両用ゲート。
夜間に閉鎖される出入口。
物流会社の搬入口。
運河による行き止まり。
地図だけでは分からない「ここは抜けられそうで抜けられない」という感覚。
美波はそれを見抜いていた。
「澪はセンターバックだ」
澪、
「私、ボーッとしてるだけに見えるけど」
「だからいいんだよ」
「そうなの?」
「敵もそう思うべ」
その通りだった。
そして最後。
その七人を動かすゲームメーカー。
平塚美波。
派手なブロンズヘアー。
長身。
姉御肌。
立っているだけで妙な圧がある。
巨大なプラントを背にし、片手に端末、もう片方の手で無線を操作する姿は、かつて湘南の夜を束ねたレディース総長の面影を残しながら、今はまったく違う形で仲間を束ねている。
美波自身も戦えば強い。
だが今日は自分が前へ出すぎない。
誰を動かすか。
どこを空けるか。
誰を残すか。
それを見る。
昔から美波は、人を見るのが上手かった。
誰が短気か。
誰が臆病か。
誰が追い込まれると強いか。
誰に自由を与えた方がいいか。
誰へ細かく言った方がいいか。
元レディース総長時代に身につけた、人間を動かす感覚。
それが今、KANA☆WAVEのゲームメークに変わっていた。
美波、
「行くぞ」
八人が散る。
工場夜景の中へ。
ブルー。
ホワイト。
レッド。
その三色が、巨大な配管やタンクの間を走っていく。
伊織は地面を蹴る。
無駄がない。
エミリーはその横を疾走。
ブロンズヘアーが夜風の中で大きくなびく。
前方に低い障害物。
エミリーは速度を落とさない。
一歩。
二歩。
跳躍。
長い脚が夜空へ弧を描く。
背後には光るプラント。
眼下には工場道路。
着地。
ほとんど音も立てず、再加速。
生配信を見ていた視聴者コメントが流れる。
《エミリーかっこよすぎ》
《完全にアメコミ》
《工場夜景が背景になると強すぎる》
《映画じゃん》
その頃、別方向。
美波が高所の連絡通路から全体を見る。
風に煽られるブロンズヘアー。
赤と青の作業灯。
手元の画面。
美波が一言。
「伊織、三時方向」
『了解』
「沙羅、上がれ」
『分かっています!』
「紗耶、そのまま残れ」
『了解』
「柚葉、真ん中寄せろ」
『はい』
「澪」
『何?』
「次どこだ?」
『左来ると思う』
美波、
「よし」
迷いなし。
数十秒後。
本当に左へ敵が現れる。
沙羅が驚く。
『美波さん、どうして分かったんです?』
美波、
「澪が言ったから」
澪、
『私も何となくだけど』
沙羅、
『何となく!?』
戦闘は始まった。
ジェネラス・リンク側の数名が、中継装置入りケースを回収して撤退しようとする。
エミリーが見つける。
「Minami! They're moving!」
沙羅、
「私が追います!」
美波、
「追うな!」
沙羅が急停止。
「でも逃げます!」
美波は冷静。
「逃がせ」
伊織が意図を理解する。
「逃げ道を選ばせるんですね」
「違う」
美波がニヤッ。
「ウチらが選んだ逃げ道を、本人に選んだと思わせる」
ゲームメーカーの本領。
まず伊織とエミリーが正面へ。
伊織は近づきすぎない。
ただ相手が直進しづらい位置へ立つ。
隣のエミリーはいつでも走れる姿勢。
敵は右へ。
そこへ沙羅。
「こちらは通しません!」
敵が左へ。
紗耶が一歩。
長い腕。
進路が消える。
敵は中央へ戻る。
柚葉。
ほとんど動いていなかった彼女が、一歩だけ前へ。
たった一歩。
それで道が消える。
敵が再び右へ。
沙羅が追う。
「逃がしません!」
紗耶、
「沙羅、行きすぎ」
「まだ大丈夫です!」
「三メートル戻って」
「細かい!」
「突破されたくないんでしょ」
沙羅、
「……戻ります!」
美波、
「素直じゃん」
沙羅、
「聞こえてます!」
その間。
陽菜は一般区域側。
「申し訳ありません。この先は一時的に安全確認をしています。こちらの通路をご利用ください」
作業員、
「何かあったんですか?」
陽菜は笑顔。
「大丈夫です。すぐ終わります」
目立つ。
とにかく目立つ。
敵の一人が陽菜を見て、
「主力はあっちだ!」
完全に騙される。
美波、
『陽菜、そのまま』
「私、完全に看板ですね」
『一番綺麗な看板だべ』
「そう言われると微妙です」
そして澪。
道の端で立っている。
敵が来る。
澪、
「あ、こっち来た」
敵が突進。
「退け!」
澪、
「退いてもいいけど、その先閉まってるよ」
敵、
「は?」
「大型トラックの搬入口。夜はあっちから出られない」
敵が振り返る。
別方向。
澪、
「そっちも運河」
「……!」
「向こうは紗耶さん」
敵、
「お前何なんだ!」
澪、
「だから川崎市民」
敵が頭を抱える。
視聴者コメント。
《澪つよい》
《一歩も戦ってないのに強い》
《地元民ラスボス》
《全部知ってるw》
そして最後。
主要中継装置を持った一団が、ただ一つ空いている道路へ走り込む。
沙羅、
「美波さん! そこだけ開いてます!」
美波、
「開けてんだよ」
澪が地図を見る。
「そこ入ったら一本道」
美波、
「だべ?」
澪、
「うん」
伊織、
「罠ですね」
美波、
「人聞き悪いな。誘導だべ」
エミリー、
「Same thing!」
「違う!」
敵は自分たちが突破したと思い、一本道へ飛び込む。
後ろ。
伊織。
前。
エミリー。
左。
工場敷地。
右。
運河。
そして美波が無線へ。
「袋、閉じろ」
伊織が動く。
敵の一人が腕を振り上げる。
伊織は半歩ずれる。
手首。
肘。
肩。
一連の動き。
相手は何が起きたか分からないまま膝をつく。
伊織、
「ここまでさー」
別の一人。
ケースを持って走る。
エミリーが振り返る。
作業灯。
風。
ブロンズヘアー。
そして一気に加速。
夜の川崎に、金色の線が走ったように見えた。
前方のフェンス脇へ片足。
壁を蹴る。
身体が高く浮く。
巨大なプラントの灯りを背に、エミリーが空中で身体をひねる。
まるでアメコミの表紙。
着地と同時にケースの前へ。
「End of the line!」
相手、
「なっ――」
ケースを奪い取る。
「Got it!」
柚葉、
「装置確保!」
沙羅の側へもう一人。
「突破できる!」
沙羅、
「誰が通すと言いました?」
相手が沙羅を避ける。
だが、その先。
紗耶。
「だから追いすぎって言ったでしょ」
長い脚で進路を遮る。
逃げた先。
柚葉。
また一歩。
止まる。
陽菜。
一般人がいないことを確認。
「こちら側、安全確保できています!」
澪。
周囲を見る。
「もう出られる道ないよ」
敵、
「そんな馬鹿な!」
澪、
「川崎、運河多いから」
最後まで地元民だった。
戦闘終了。
物流は止まっていない。
工場も動いている。
作業員たちも、ほとんど何が起きたか知らない。
夜景も変わらない。
柚葉が装置を真結へ接続する。
「まゆちゃん、データ送ります」
『受信しました』
数秒。
地図上の赤い点。
一つ消える。
二つ。
三つ。
そして。
最後。
消灯。
真結、
『不正通信、全停止。川崎臨海部のジェネラス・リンク中継網、完全に沈黙しました』
八人から、ようやく小さな歓声が上がった。
美波は高所から下りてくる。
ブロンズヘアーをかき上げる。
背後には工場夜景。
その前に七人。
美波は一人ずつ見る。
伊織。
止めるべき場所を確実に止めた。
エミリー。
必要な時だけ爆発的な速度を出した。
沙羅。
文句は多いが右サイドを最後まで割らせなかった。
紗耶。
沙羅の暴走まで含めて左から支えた。
柚葉。
目立たないのに、中央が一度も切れなかった。
陽菜。
誰より目立ちながら、本当の配置を隠した。
澪。
ボーッと立っているようにしか見えないのに、敵の逃げ道をことごとく消した。
そして自分。
その七人を動かした。
美波は笑う。
元レディース総長らしい、少し不敵な笑み。
「……このチーム、思ってたよりいい感じだべ」
沙羅、
「“思ってたより”はいらないと思います」
「お前が言うと評価下げたくなる」
「何でですか!」
美波は無視。
もう一度全員を見る。
「いける。この八人なら、いけるべ」
伊織、
「私もそう思います」
エミリー、
「KANA☆WAVE、Great team!」
柚葉、
「役割が明確だったので動きやすかったです」
紗耶、
「誰か一人が全部やろうとしないのがいいね」
陽菜、
「私も囮以外ならもっと嬉しいですけど」
美波、
「次も美人枠頼むべ」
「固定なんですか?」
そして澪。
「私は?」
美波、
「お前はそのまま」
「そのまま?」
「ボーッと立ってろ」
「それでいいんだ」
「お前はその方が強え」
澪、
「よく分からないけど、分かった」
全員、
「分かってない!」
仙台の通信越しに、真結まで笑っている。
美しい川崎の工場夜景。
その光を背に並ぶ八人。
ブロンズヘアーを風になびかせるエミリーは、まるで夜の未来都市へ降り立ったアメコミヒロイン。
同じく派手なブロンズヘアーの美波は、その前で全員を束ねるゲームメーカー。
二人の金色。
伊織の凛とした静けさ。
沙羅の華やかさ。
紗耶の長身。
柚葉の落ち着き。
陽菜の圧倒的な美少女感。
澪の異様な自然体。
統一感がない。
だが、それでいい。
横浜。
川崎。
湘南。
相模原。
沖縄。
青森。
秋田。
アメリカ。
違う土地で育った人間たちが、今は同じ神奈川県で暮らしている。
その八人だからこそのチーム。
KANA☆WAVE。
初陣は、完勝だった。
だが。
任務終了から数分後。
真結の声が再び入る。
『美波さん』
「何だ?」
少しだけ声色が違う。
『回収した装置から、別の通信先が見つかりました』
モニター。
川崎から南へ。
横浜方面。
小さな赤い点。
沙羅の目が輝く。
「横浜!」
美波が嫌そうな顔。
「お前、絶対言うなよ」
「何をです?」
「“ハマの何とか”」
沙羅、
「まだ何も言ってません!」
工場夜景の中に、八人の笑い声が響く。
神奈川県戦線は――。
まだ始まったばかりだった。




