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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1171/1295

ヒロヒロ山陰どうでしょう カニの前に企画を作れ!――宍道湖七珍、七人そろえば何とかなる?

電車が終点・松江しんじ湖温泉駅へ滑り込んだころには、七人の戦隊ヒロインたちはすっかり「観光客の顔」になっていた。


江波のどか、神門結衣、山根梨乃。


今回の『ヒロヒロ山陰どうでしょう』を引っ張るヒロヒロ三人娘に、一条知佳、金城伊織、そしてグレースフォースの杉山ひかり、館山みのり。


合計七人。


駅を出て真っ先に目に飛び込んできたのは、駅前の足湯だった。


「……入ろ」


梨乃が即決した。


「まだ誰も何も言うとらんじゃろ」


そう言いながら、のどかもすでに靴を脱いでいる。


「支部長が一番乗り気じゃないですか」


結衣が笑う。


数分後。


七人は並んで足湯に浸かり、完全に仕事を忘れていた。


「はぁぁぁ……」


のどかが情けないほど気持ちよさそうな声を漏らす。


「これええわ。もう今日ここで終わりにせん?」


梨乃がうなずく。


「賛成。ここ宿でええやん」


「屋外です」


伊織が真顔で返した。


ひかりがスマートフォンを確認する。


現在、この旅の様子はヒロ室公式チャンネルで生配信中。


画面の向こうでは早くも視聴者が好き勝手なことを書き込んでいた。


【生配信コメント】


《開始10分で足湯》


《戦隊ヒロインとは》


《梨乃もう動く気ないだろ》


《のどか支部長、顔が完全に休日のおばちゃん》


《伊織だけ姿勢がいい》


《グレースフォースが足湯入ってるだけで画面が強い》


《知佳ちゃん、足湯でも賢そうなの何なん》


その時だった。


一台の乗用車が駅前へ入ってきた。


「あ」


結衣が顔を上げる。


運転席側からまさにゃん。


助手席側からノムさん。


鉄道組とは別行動を取っていた二人である。


しかも、妙にニコニコしている。


のどかの眉が動いた。


「……怪しい」


「何がですか?」


ひかりが聞く。


「あの二人、機嫌が良すぎるんよ」


戦隊ヒロインとして幾多の修羅場を経験してきた女の勘である。


ただし相手は悪の組織ではなく番組スタッフだ。


ノムさんが七人の前まで来ると、両手を広げた。


「皆さん、お疲れさまです!」


「はい」


「本日は皆さんに、良いニュースと悪いニュースがあります」


七人が固まった。


コメント欄だけが爆発した。


【生配信コメント】


《来た》


《どうでしょう名物》


《絶対悪い方が本体》


《スタッフの笑顔が怖い》


《梨乃逃げろ》


梨乃がのどかの耳元で囁く。


「悪いニュース聞かんかったらええんちゃう?」


「そんな制度あるわけないじゃろ」


ノムさんは楽しそうに尋ねる。


「どちらから先に聞きたいですか?」


のどかは即答した。


「良い方」


「即答ですね」


「悪いニュース聞く前に一回幸せにならせて」


「分かりました」


ノムさんが胸を張る。


「本日の宿泊先、無事決定しております!」


「おおっ!」


「場所は――玉造温泉です!」


七人の目が輝いた。


地元・島根の結衣まで「おお」と声を上げる。


「美肌の湯として知られる玉造温泉。その温泉旅館で皆さんには一日の疲れを癒やしていただきます」


のどかが梨乃の肩を叩く。


「勝った!」


「何に?」


さらにノムさん。


「夕食はズワイガニ!」


「カニ!」


のどかが叫ぶ。


「しまね和牛!」


「肉!」


今度はみのりが反応した。


「さらに山陰の海と山の幸を存分に味わっていただきまして――」


ひかりが両手を合わせる。


「最高じゃん!」


ノムさんはそこで一拍置いた。


「最後は美肌の湯に浸かって、ただでさえお綺麗な皆さんに――」


七人を見る。


「さらに美人になっていただきます」


「やったー!」


七人総立ち。


足湯なので立ち上がったところで足は湯の中だが、とにかく歓喜した。


知佳ですら顔をほころばせている。


伊織も小さく、


「それは非常に良い企画ですね」


と評価。


梨乃は即座に足湯から出ようとした。


「ほな行こ」


ひかりが止める。


「待って梨乃ちゃん」


「何?」


「悪いニュースが残ってる」


梨乃は露骨に嫌そうな顔をした。


「聞かんでもええやん」


【生配信コメント】


《梨乃逃亡失敗》


《カニに釣られるヒロイン7名》


《みのり肉に反応するの早い》


《伊織さん「非常に良い企画ですね」←温泉入りたいだけ》


《知佳ちゃん口元ニヤけてるぞ》


《悪いニュースはよ》


ノムさんは、つい先ほどまでとまったく同じ笑顔で言った。


「では悪いニュースです」


「はい……」


「松江でやる企画が、何も決まっていません」


沈黙。


宍道湖方面から吹いてきた風だけが七人の間を通り抜けた。


のどかが聞き返す。


「……何も?」


「はい」


「ゼロ?」


「ゼロです」


「今日、松江来るいうて分かっとったよな?」


「もちろんです」


「なんでゼロなん?」


ノムさんは爽やかに答えた。


「諸事情です」


「便利な言葉使うな!」


まさにゃんが補足する。


「そこでですね。これだけ多彩な皆さんがそろっていますので」


「嫌な予感しかしない」


「宍道湖の湖畔で企画会議を開いてください」


「はい?」


「松江ならではの企画を皆さん自身で一つ作って、それを実行してください」


のどかが足湯の中で立ち上がった。


「それスタッフの仕事じゃろ!」


「よろしくお願いします」


「待て!」


「私たちは一足先に玉造温泉方面へ向かいますので」


「なんでじゃ!」


ノムさんとまさにゃんは手を振る。


「では皆さん、旅館でお会いしましょう!」


「よろしくお願いしまーす!」


二人は乗用車へ。


ドアが閉まる。


エンジンがかかる。


「ちょ、待ちんさい!」


のどかが裸足のまま追いかけようとする。


しかし当然間に合わない。


乗用車は颯爽と去っていった。


七人がそれを見送る。


梨乃がぽつり。


「……あの車乗っていったら旅館行けたんちゃう?」


「今さら言うな!」


【生配信コメント】


《スタッフ逃走www》


《丸投げ成功》


《ノムさんたち絶対温泉行く気だ》


《のどか裸足で追いかけるな》


《梨乃、最後まで温泉しか考えてない》


《これを企画会議から生配信してるの草》


宍道湖畔、緊急青空企画会議


七人は場所を移し、宍道湖を望む湖畔へ。


レジャーシート。


飲み物。


スケッチブック。


そして配信用カメラ。


何も決まっていない企画を、企画会議そのものから全国へ生配信するという、ある意味とんでもない番組になった。


のどかが中央へ座る。


「はい。緊急ヒロヒロ会議始めます」


コメントが流れる。


《支部長モード》


《こういう時だけ頼れるのどか》


《梨乃もう寝転がってる》


本当に梨乃は寝転がっていた。


「梨乃、起きて」


結衣が言う。


「聞いとるで」


「目閉じてますよ」


「耳は開いとる」


「便利だなあ」


ところがここから、普段のヒロヒロでは考えられない速度で会議が進み始める。


理由は簡単。


頭の切れる人間が四人もいる。


知佳がスケッチブックを手に取る。


「松江独自の要素をまず洗い出しましょう。松江城、城下町、堀川、茶文化、和菓子、小泉八雲、宍道湖――」


伊織が続ける。


「単なる観光地巡りでは、今回わざわざ七人いる意味が薄いですね」


ひかりも言う。


「配信としては視聴者が一言でルールを理解できる方がいいよ。『○○を七人で探す』とか、『一人一つ担当』とか」


みのりは時計を見る。


「あと時間。玉造へ移動する時間を考えたら、松江市中心部で完結させないと厳しいと思う。移動の多い案は切った方がいい」


知佳。


「松江城中心なら――」


伊織。


「食文化も捨てがたいです」


ひかり。


「食は配信映えするよ」


みのり。


「宍道湖ならここから動線もいい」


話が早い。


恐ろしく早い。


のどかは四人を交互に見るだけで忙しい。


「待って待って。一人ずつ!」


知佳が案を出す。


伊織が弱点を指摘する。


ひかりが映像的に修正。


みのりが時間的に可能か判断。


のどかが採用・保留・却下に振り分ける。


そこへ結衣が、


「それ、松江では有名ですけど、地元感を出すならこっちの方がいいですよ」


と現地補正を入れる。


十五分後。


かなり形になっていた。


のどかが唖然とする。


「……ヒロヒロの企画会議が十五分でここまで進んだこと、今まであった?」


梨乃が目を閉じたまま答える。


「ないんちゃう?」


「お前は参加しろ!」


【生配信コメント】


《才女4人つよい》


《知佳→知識、伊織→分析、ひかり→見せ方、みのり→工程管理》


《そこに地元民の結衣》


《のどか完全に会議の司会者》


《梨乃→寝る》


《役割分担が完璧すぎる》


《梨乃もある意味役割が明確》


のどかが梨乃を見る。


「せっかく七人おるんじゃけえ、梨乃も一個くらい案出して」


「うーん」


梨乃が上体を起こす。


「玉造温泉紹介」


「それ次!」


「カニ食べ比べ」


「今晩!」


「しまね和牛何グラム食えるか」


「松江から離れろ!」


視聴者も容赦がない。


《梨乃の脳内もう旅館》


《企画会議0点、旅館への意欲100点》


《この人ブレないな》


そんな中。


結衣が湖を見る。


「そういえば……」


全員が結衣を見る。


「宍道湖七珍っていうのがありますよ」


「七珍?」


知佳の目が変わる。


地元の話になると即座に興味を示す。


結衣が指を折る。


「スズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミ」


梨乃が言う。


「覚えられへん」


「覚え方があります」


「何?」


「頭文字で――スモウアシコシ」


沈黙。


のどか。


「相撲足腰?」


「はい」


ひかりが笑う。


「急に体育会系になった」


だが伊織は七人を見た。


「七種類ですね」


みのりも気づく。


「……こっちも七人」


知佳がすぐに構成を組み立てる。


「一人一種類を担当する」


ひかり。


「調べて、体験して、最後に30秒PR」


みのり。


「範囲を宍道湖周辺に絞れば時間的にもいける」


結衣。


「地元紹介としても成立します」


六人の視線がのどかへ集まる。


支部長は一秒考えた。


そして手を叩く。


「それじゃ!」


決まった。


企画名は――


『ヒロヒロ宍道湖七珍! 七人七様・松江PR選手権』


梨乃が首を傾げる。


「うち何もしてへんけど決まったな」


「それを堂々と言うな!」


コメント欄も大盛り上がり。


《企画完成!》


《普通に良企画》


《急造とは思えない》


《才女軍団仕事早すぎ》


《梨乃は会議中の環境音担当》


七珍くじ引き


担当は公平にくじ引き。


のどか――シジミ。


結衣――スズキ。


知佳――コイ。


伊織――ウナギ。


ひかり――シラウオ。


みのり――モロゲエビ。


梨乃――アマサギ。


のどかが自分の札を見た瞬間、


「勝った!」


「何の勝負ですか?」


結衣に突っ込まれる。


「宍道湖いうたらシジミじゃろ! センターじゃ、センター!」


「PR選手権だからセンターとかないです」


のどか、シジミを語れない


シジミ汁を用意してもらい、のどかが試食。


一口。


「うまっ!」


二口。


「ぶちうまい!」


カメラマンが待つ。


のどかも待つ。


ひかりが聞く。


「……続きは?」


「以上」


「支部長!」


《情報量ゼロ》


《広島のお好み焼き屋の娘、食リポ弱い》


《うまいしか言ってねえ》


のどかが抗議する。


「うまいもんはうまいでええじゃろ!」


結衣とひかりが両側から情報を追加。


最終的には何とか30秒に仕上がった。


知佳、30秒の意味を理解しない


コイ担当の知佳は資料を調べ始める。


十分後。


メモ一枚。


二十分後。


三枚。


三十分後。


「知佳ちゃん」


ひかりが声をかける。


「はい?」


「30秒だからね?」


「承知しています」


「その紙何枚?」


「現時点で五枚です」


「現時点?」


知佳は真顔。


「まだ背景整理です」


コメント欄。


《論文書くな》


《30秒PRに参考文献つきそう》


《知佳に尺を与えてはいけない》


伊織、ウナギを「調査」


伊織はウナギを一口。


「なるほど」


もう一口。


「食感をもう少し確認します」


三口目。


のどかが横から覗き込む。


「伊織」


「はい」


「ただ食べたいだけじゃろ」


「違います」


伊織は毅然として言った。


「正確な評価には再現性が必要です」


知佳が横から、


「食味評価における再現性という用語の使い方としては――」


「知佳、そこ広げんでええ!」


《伊織理論武装》


《食べたい時に使える言葉「再現性」》


《明日から使う》


ひかり、普通にうますぎる


シラウオ担当のひかり。


カメラが回る。


表情を整える。


食べる。


コメント。


食感。


土地との関係。


締め。


三十秒。


一発OK。


全員が黙った。


のどか。


「……これじゃ」


「何が?」


「これが食リポじゃ」


「今さら?」


《プロ》


《一人だけ地方局の旅番組》


《ひかり安定感すごい》


みのり、モロゲエビから汽水湖講義へ


みのりはモロゲエビを調べる。


最初は普通だった。


五分後。


「そもそも宍道湖は汽水湖で――」


十分後。


「塩分濃度の変化が――」


十五分後。


完全に講義。


ひかりが止める。


「みのり、ゆっくり!」


「ゆっくり喋ってるよ!」


「速い!」


「これでもかなり抑えてる!」


「抑えてない!」


グレースフォースのいつものやり取り。


コメント欄も慣れている。


《始まった》


《グレースフォース名物》


《みのり先生講義中》


《ひかり通訳頼む》


結衣、強すぎる


地元・島根の結衣はスズキ担当。


地元での位置づけ。


食文化。


宍道湖との関係。


観光客へのおすすめ。


全部きれいにまとめる。


三十秒ぴったり。


のどかが腕を組む。


「……結衣」


「はい」


「お前、全部やった方が早かったんじゃない?」


一同沈黙。


結衣。


「それ言ったら企画が終わります」


《正論》


《地元民最強》


《企画の根幹を否定する支部長》


そして梨乃


アマサギ担当。


のどかが聞く。


「調べた?」


「調べたで」


「何が分かった?」


「魚」


「知っとるわ!」


コメント欄が爆発。


《今年一番予想通りの答え》


《知識0から動かない女》


《ラブラドール梨乃》


結局、結衣と地元の人から説明してもらう。


本番。


誰も期待していなかった。


梨乃は宍道湖を見た。


少し考えた。


そして言った。


「こういう魚が特別なごちそうやなくて、昔から普通に食卓にあるんが松江なんやろ? そういうんって、なんかええよな」


終了。


沈黙。


ひかり。


「……いい」


伊織。


「納得できません」


知佳は自分の五枚の資料を見る。


みのり。


「私、汽水湖まで調べたんだけど」


のどかが深くうなずく。


「梨乃はこれでええ」


梨乃。


「やろ?」


「なんで本人が一番自信あるん」


コメント欄。


《優勝》


《何もしてないのに一番自然》


《天才かアホか分からん》


《考えてないから言葉が真っ直ぐなんだよな》


《梨乃、恐ろしい子》


スモウアシコシ撮影、地獄のテイク6


最後は七人横一列。


一人一文字。


ス・モ・ウ・ア・シ・コ・シ


札を持つ。


のどか。


「これが松江の!」


全員。


「宍道湖七珍!」


……の予定だった。


テイク1。


梨乃の「ア」が上下逆。


「梨乃!」


「分かるやろ」


「分かるか!」


テイク2。


みのりが勢い余って噛む。


テイク3。


のどか。


「これが松江の! 相撲足腰!」


全員爆笑。


テイク4。


笑いが止まらない。


テイク5。


今度は伊織が笑いをこらえきれない。


そしてテイク6。


ようやく成功。


配信コメントはお祭り状態。


《テイク6w》


《相撲足腰が頭から離れない》


《伊織が笑ってるレア映像》


《この7人また集めてくれ》


夕方。


急造されたPR動画が完成。


編集前からほぼ一本の番組として成立している。


知佳が映像を見る。


「即席にしては、かなりまとまっていますね」


伊織もうなずく。


ひかり。


「普通に松江PR動画として使えると思う」


みのり。


「各自の方向性が全然違うのが逆にいいよね」


結衣は宍道湖を見る。


地元の魅力が仲間たちの言葉で紹介されたことが、少し嬉しい。


のどかは胸を張った。


「これがヒロヒロ支部長の統率力よ!」


梨乃が即答。


「ほぼみんなが考えたやん」


「最後に決めたんはウチじゃ!」


「『はい決定』言うただけやん」


「支部長は最後に『はい』言うのが仕事なんよ!」


《開き直った》


《梨乃正論》


《支部長の仕事観が雑》


そして玉造温泉へ


一行はスタッフのバスへ乗り込んだ。


途端に全員の話題が変わる。


「カニ、焼きかな?」


「茹でかな?」


「お刺身あるかな?」


「しまね和牛は?」


「先に温泉?」


「先にご飯?」


知佳まで夕食の献立を予想している。


伊織は温泉の時間を確認している。


みのりとひかりは露天風呂の有無を気にしている。


のどかはひたすらカニ。


梨乃は窓にもたれながら一言。


「カニ食べて、温泉入って、寝よ」


のどかが大きくうなずいた。


「今日初めて梨乃と完全に意見合うたわ」


バスは玉造温泉へ到着。


「着いたー!」


七人が旅館前へ降りる。


豪華な玄関。


温泉旅館らしい風情。


そして玄関前には――。


ノムさん。


まさにゃん。


「皆さん、お疲れさまでしたー!」


二人とも満面の笑顔。


しかも。


浴衣姿。


のどかが停止した。


一秒。


二秒。


三秒。


「あんたら……」


低い声。


ノムさん。


「はい?」


「なんで浴衣なん?」


「皆さんが松江で頑張っている間に、先にチェックインを済ませまして」


まさにゃん。


「お部屋も確認しました」


のどか。


「ほう」


ノムさん。


「あと温泉も一回いただきました」


七人。


「はあぁぁぁ!?」


ノムさんは腕を撫でる。


「いやあ、玉造のお湯は素晴らしいですね。肌がつるつるになりました」


のどかのこめかみに青筋。


「こっちは宍道湖の湖畔で企画ゼロから作っとったんぞ!」


ひかり。


「ずるい!」


みのり。


「私たちまだ入ってない!」


伊織。


「少なくとも企画終了を待つのが公平では?」


結衣。


「二人とも完全に観光客ですよね?」


コメント欄も燃える。


《スタッフ最低w》


《やっぱり先に温泉入ってた》


《予想通りすぎる》


《のどかキレろ》


《伊織静かに怒ってるの怖い》


その中で知佳だけが冷静だった。


「一つ確認していいですか?」


ノムさん。


「どうぞ」


「夕食は?」


空気が変わった。


七人全員がノムさんを見る。


「皆さんが到着次第です」


その瞬間。


梨乃が旅館へ向かって歩き始めた。


「ほな行こ」


のどか。


「待て梨乃! 今怒っとる途中じゃ!」


梨乃は振り返る。


「カニ冷めるで」


沈黙。


のどかの怒りが止まった。


「……それはいかん」


結衣。


「支部長?」


のどかは旅館へ向き直った。


「抗議は飯の後じゃ!」


「賛成!」


七人が一斉に旅館へ駆け込む。


ノムさんとまさにゃんだけが玄関前に残された。


まさにゃんが呟く。


「切り替え早いですね」


ノムさん。


「カニは強いねえ」


最後まで残っていた配信コメントが流れる。


【生配信コメント】


《結局食欲》


《抗議<カニ》


《梨乃が全員をまとめた》


《真の支部長、梨乃説》


《今日一番役に立った梨乃の言葉「カニ冷めるで」》


《次回、温泉回》


《絶対何か起きる》


こうして。


企画ゼロ。


スタッフ丸投げ。


湖畔の青空会議から始まった松江編は、まさかの良企画へと化けた。


『ヒロヒロ宍道湖七珍! 七人七様・松江PR選手権』。


才女四人が案を出し。


のどかがまとめ。


結衣が地元目線で支え。


そして梨乃は――ほぼ何もしなかった。


それでもなぜか、最後にはちゃんと七人で一つの番組になった。


これぞヒロヒロ山陰どうでしょう。


ただし。


玉造温泉に着いた時点で、この日の生配信はまだ終わっていない。


温泉。


ズワイガニ。


しまね和牛。


浴衣。


七人部屋。


そして、自分たちだけ先に温泉を満喫していたノムさんとまさにゃん。


平和に終わる材料が、一つもなかった。

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