ヒロヒロ山陰どうでしょう 江津に着いたのに午後の予定がない。――昼飯しながら緊急企画会議!
旧三江線の記憶を追い、潮温泉から路線バスを乗り継いできた江波のどか、山根梨乃、神門結衣、一条知佳、金城伊織。
梨乃を厳重監視した甲斐もあって、この日はソフトクリームによる乗り遅れもなく。
五人は予定通り――。
江津駅へ到着した。
江津市は、中国地方最大の大河・江の川が日本海へ注ぐ河口の町。「江津」という地名自体が“川の港”を意味し、古くから江の川舟運と日本海航路の結節点として発展した。さらに、日本三大瓦の一つに数えられる石州瓦、その代表格である赤瓦の町並み、石見地方を代表する伝統芸能・石見神楽など、川・海・歴史・伝統文化がぎゅっと詰まった土地でもある。
つまり。
ヒロヒロが真面目に紹介すれば、ものすごく良い旅番組になる町である。
問題は。
ヒロヒロが。
そこまで考えて江津へ来たわけではないことだった。
江津駅前。
バスを降りた梨乃。
両手を上げる。
「着いたでー!」
のどか。
「今回は予定通り!」
知佳。
「“今回は”を付けなければならないのが問題ですね」
梨乃。
「うち今日、一本もバス逃してないで」
伊織。
「立派でした」
梨乃。
「えへへ」
のどか。
「大学生が普通に乗り換えただけで褒められとる!」
結衣。
「昨日の実績があるけんね」
「結衣まで!」
そこへ。
「おーい!」
駅前。
ノムさん。
まさにゃん。
当然のように。
先に着いている。
まさにゃん。
「お疲れー!」
ノムさん。
「今回は早かったのう」
のどか。
「先輩も“今回は”言わんといてください!」
梨乃。
「ノムさん、うち今日はバス逃さんかったで!」
「そりゃ偉い」
梨乃。
「ほら!」
のどか。
「そこ褒めなくていいんです!」
知佳。
「いえ、昨日との比較なら成長です」
梨乃。
「知佳さんまで!」
伊織。
時計を見る。
「そろそろお昼ですね」
その言葉。
梨乃。
瞬時。
反応。
「昼!」
のどか。
「今日一番反応早いじゃん」
「腹減ったで!」
こうして。
本来なら。
江津市到着。
観光開始。
となるところを。
一行はまず。
昼飯へ向かった。
江津駅近く。
地元の山・川・海の幸を扱う食事処。
江津は江の川、日本海、山野の三つに恵まれ、アユや魚介、イノシシ、江津産豚など幅広い食材が地域の味として紹介されている。
梨乃。
メニュー。
開く。
「魚!」
のどか。
「日本海側来たもんね」
「アジ食べたい!」
結衣。
「私は蕎麦にしようかな」
知佳。
「私は魚の定食を」
伊織。
「私も魚にします」
のどか。
「うちは豚の生姜焼きにしよ」
梨乃。
「まさにゃんは?」
「海鮮丼」
「ノムさんは?」
ノムさん。
「わしは――」
のどか。
「先輩の注文はどうでもいいです」
「何でじゃ!」
梨乃。
「聞いてあげようや」
「梨乃ちゃんだけ優しいのう」
「何食べる?」
「刺身定食」
「普通だで」
「聞いといてその感想!?」
全員。
笑う。
料理。
来る。
梨乃。
アジフライ。
「うわぁ!」
さく。
一口。
「うまっ!」
知佳。
「魚の鮮度が――」
のどか。
「あ」
結衣。
「始まった」
知佳。
「何ですか」
のどか。
「知佳さんの食文化解説」
梨乃。
もぐもぐ。
「聞いとるで」
知佳。
「食べながらで構いません」
伊織。
「今日も勉強になりますね」
のどか。
「伊織さんが言うと知佳さんめっちゃ嬉しそう」
知佳。
「別にそういうわけでは」
ちょっと。
嬉しそう。
そんな。
楽しげな昼食。
そして。
当然。
カメラ。
回っている。
生配信。
画面タイトル。
『江津緊急企画会議――このあと何する?』
コメント欄。
《江津到着おめでとう》
《梨乃ちゃん今日はバス乗れたね》
《めちゃ普通のことで褒められてる》
《アジフライうまそう》
《で、午後どこ行くの?》
のどか。
最後。
読む。
「あ」
箸。
置く。
「そうじゃ」
ノムさん。
「何じゃ?」
のどか。
「先輩。このあと何するんです?」
ノムさん。
刺身。
食べる。
「ん?」
「午後です」
「午後?」
「江津で!」
「うん」
「何するん?」
ノムさん。
ご飯。
一口。
味噌汁。
一口。
そして。
実に。
堂々と。
「決まっとらん」
静寂。
梨乃。
アジフライ。
空中。
停止。
結衣。
箸。
停止。
伊織。
目。
ぱち。
知佳。
ゆっくり。
ノムさん。
見る。
まさにゃん。
なぜか。
目。
そらす。
のどか。
「…………」
「今、何て?」
ノムさん。
胸。
張る。
「午後の予定は、何も決まっとらん」
のどか。
「何でそんな自信満々なんですか!」
知佳。
「確認します」
ノムさん。
「はい」
「現在、私たちは江津市にいます」
「そうじゃ」
「昼食中です」
「そうじゃ」
「今日の午後に実施する企画を」
「うん」
「まだ決めていない?」
「そうじゃ」
知佳。
「…………」
のどか。
「知佳さんが言葉失った!」
伊織。
少し。
笑い始める。
「本当に何も?」
「何も」
結衣。
「撮影場所は?」
「未定」
知佳。
「協力者は?」
「未定」
のどか。
「許可は?」
「これから」
まさにゃん。
「俺も今初めて知った」
のどか。
「室長代理まで知らんかったん!?」
まさにゃん。
「車の中では昨日の配信の話しかしてなかった!」
梨乃。
「じゃあ今から決める?」
ノムさん。
「そのための企画会議じゃ」
のどか。
「普通は現地着く前にやるんですよ!」
コメント欄。
猛烈。
《wwwww》
《出ましたヒロヒロクオリティ》
《江津着いてから午後の予定考えるな》
《杜撰すぎる》
《ノープランを堂々と発表》
《これぞヒロヒロ》
《行き当たりばったりにも程がある》
《企画会議じゃなく緊急事故対応》
《知佳さんの顔w》
《昨日の無意味な企画会議とは何だったのか》
知佳。
コメント。
見る。
「私も知りたいです」
のどか。
「知佳さん、昨日の45分まだ根に持っとる!」
「根には持っていません」
「覚えとるじゃん!」
「記憶力はいい方ですので」
梨乃。
「知佳さんらしいで」
コメント。
《知佳の45分返せ》
ノムさん。
「まだ言うとるんか」
知佳。
「野村さんが言える立場ではありません」
コメント。
《知佳強いw》
とはいえ。
完全無計画。
ではなかった。
ノムさん。
「ああ。一個だけ決まっとる」
全員。
「何?」
「今日中に出雲へ行く」
結衣。
表情。
変わる。
「ほんと?」
「出雲大社近くの結衣ちゃんの実家の土産物屋。そこには今日中に着く」
結衣。
ぱあ。
いつもの静かな顔。
明らか。
嬉しい。
梨乃。
「結衣ん家!」
結衣。
「うん」
「お土産いっぱい?」
「土産物屋だけんね」
梨乃。
「食べ物も?」
のどか。
「真っ先にそこ聞くん!?」
ノムさん。
「ほいじゃけえ、江津で使えるんは今日の午後だけ」
知佳。
時計。
確認。
「それなら、なおさら時間は限られています」
のどか。
「そこまで分かっとるなら企画決めといてくださいよ!」
コメント。
《正論》
《夕方出雲確定なのに午後白紙》
《宿題を当日提出直前に始めるタイプ》
《これぞヒロヒロクオリティ》
ノムさん。
「でもこういう方がおもろいじゃろ」
のどか。
「運営する側はおもろくないです!」
しかし。
文句。
言っても。
時間。
減る。
知佳。
すっと。
表情。
変える。
「では本当に考えましょう」
のどか。
「お願いします!」
伊織。
「短時間で江津らしいもの」
結衣。
「江津らしい……」
梨乃。
「海!」
知佳。
「場所によっては往復時間を使います」
梨乃。
「温泉!」
のどか。
「昨日潮温泉入った!」
「もう一回」
「出雲着かん!」
結衣。
「万葉?」
知佳。
「あ、それも江津にはありますね」
梨乃。
「万葉って何?」
知佳。
「そこからですか」
のどか。
「今日は時間ないけえ後で!」
伊織。
パンフレット。
見ながら。
「石見神楽は?」
結衣。
「あ」
知佳。
顔。
上げる。
「それはいいですね」
パンフレット。
めくる。
江津本町。
甍街道。
石州瓦。
天領。
舟運。
海運。
石見神楽。
知佳。
しばらく。
黙る。
梨乃。
「知佳さん止まった」
のどか。
「考えとるんよ」
梨乃。
「充電?」
「ロボットじゃない!」
知佳。
突然。
「あ」
全員。
「?」
「つなげましょう」
のどか。
「何を?」
「江津本町と石見神楽です」
知佳。
地図。
広げる。
「江津本町を短時間で歩く。そこで江の川舟運と日本海海運で栄えた町の歴史、赤瓦の景観を紹介する。そのあと石見神楽の文化紹介へつなげれば、短時間でも“江津の歴史と文化”という一本の物語になります」
伊織。
「いいですね」
結衣。
「それなら島根らしさも出るがね」
のどか。
「めっちゃええじゃん!」
梨乃。
「うちは?」
知佳。
「歩きます」
梨乃。
「役割は?」
知佳。
少し。
考える。
「迷子にならない」
梨乃。
「それ役割?」
のどか。
「今回かなり重要!」
「信用ないなあ!」
実際の江津本町甍街道は、江の川河口から約2キロ。江戸期には天領となり、舟運・海運・山陰道が交わる交通の要衝として栄え、現在も旧郵便局や旧町役場、廻船問屋の屋敷群など近世から昭和初期の建築が残っている。赤い石州瓦の景観も江津らしさを象徴する存在だ。
さらに石見神楽は江津を含む石見地方に伝わる代表的な伝統芸能で、その文化ストーリーは日本遺産にも認定されている。
知佳。
「これなら町並みと伝統芸能が一つにつながります」
のどか。
「採用!」
伊織。
「私も賛成です」
結衣。
「私も」
梨乃。
「うちも!」
のどか。
「梨乃、理解した?」
「神楽する!」
「半分くらい!」
コメント欄。
《知佳P有能》
《昨日早朝バズーカ食らった人が一番働いてる》
《知佳に企画任せろ》
《ノムさん何してる》
《これ普通に良企画》
ノムさん。
コメント。
読む。
「失礼じゃのう」
知佳。
「では野村さんは何を?」
「全体監督」
「具体的には?」
「全体を見る」
知佳。
「…………」
のどか。
「先輩も働いてください!」
決まった。
しかし。
ここからが。
本当の勝負。
今決まったのである。
のどか。
電話。
持つ。
「観光関係、確認します!」
伊織。
「石見神楽関係はこちらで当たります」
知佳。
「私は時間を組みます」
結衣。
「私も資料確認するわ」
まさにゃん。
「俺、移動車出す」
梨乃。
「うちは?」
全員。
「待ってて」
梨乃。
「また!?」
のどか。
電話。
「あ、突然申し訳ありません! 戦隊ヒロインプロジェクトの江波です!」
伊織。
別。
電話。
「本日、本当に短時間で構いませんので、文化紹介という形で……」
知佳。
紙。
書く。
「移動十五分。町歩き四十分。撮影ポイントを絞って――」
結衣。
パンフレット。
「旧江津郵便局、この辺だがね」
まさにゃん。
車。
「機材積み直す!」
そして。
ノムさん。
コーヒー。
ずず。
梨乃。
向かい。
座る。
「ノムさん」
「何じゃ」
「ほんとに何もせんの?」
「監督じゃ」
「監督って?」
「全体を見る」
梨乃。
「何を見る?」
「全体」
梨乃。
数秒。
「楽な仕事だで」
のどか。
電話中。
吹き出す。
知佳。
顔。
そらす。
伊織。
肩。
震える。
ノムさん。
「梨乃ちゃんまで!」
コメント。
《梨乃核心を突く》
《頭弱いラブラドールに論破された》
梨乃。
「犬じゃないで!」
十数分後。
のどか。
電話。
切る。
「よし!」
全員。
見る。
「町歩き、撮影可能です!」
伊織。
少し遅れて。
電話。
切る。
「こちらも大丈夫です」
「ほんと!?」
「本格公演は当然無理ですが、作中ではちょうど市内にいた関係者の方が、神楽面や衣裳、お囃子、簡単な所作の紹介程度なら協力してくださることになりました」
梨乃。
「やった!」
知佳。
「では成立します」
まさにゃん。
「マジで今からやるの?」
のどか。
「やります!」
ノムさん。
「ほら、何とかなったじゃろ」
のどか。
全力。
振り向く。
「先輩が言うな!」
コメント。
《www》
《何とかなったのは女性陣のおかげ》
《知佳発案》
《のどか伊織調整》
《結衣資料》
《梨乃待機》
梨乃。
「うちだけ待機!」
のどか。
「それも大事!」
配信。
再開。
タイトル。
『緊急開催! 赤瓦の天領江津本町を歩いて石見神楽に触れてみよう!』
梨乃。
カメラ。
見る。
「ほんに今決まったで!」
のどか。
「そこ強調せんでいい!」
町。
歩く。
赤茶色。
石州瓦。
白い壁。
木造家屋。
古い蔵。
細い通り。
山。
川。
そこだけ。
時計。
ゆっくり。
進んでいるよう。
伊織。
「綺麗ですね」
結衣。
「落ち着くわ」
梨乃。
「昔に戻ったみたいだで」
知佳。
「いい表現ですね」
梨乃。
「うち、今日賢い?」
のどか。
「そこで自分から評価求めるな!」
知佳。
カメラ。
向く。
「江津本町は、今は静かな町並みですが、かつては江の川の舟運と日本海の海運、さらに陸路が交わる重要な場所でした」
梨乃。
「船いっぱい?」
「ええ。江戸時代にはかなりの賑わいがあったとされています」
のどか。
赤瓦。
指。
「この屋根も江津らしいよね」
知佳。
「石州瓦ですね。特にこの赤瓦は地域の景観を特徴づけています」
コメント。
《綺麗》
《赤瓦いいな》
《江津こんな町あるんだ》
《知らなかった》
《知佳ガイド優秀》
《急造企画とは思えない》
のどか。
「そうじゃろ!」
梨乃。
「うちらやればできるで!」
結衣。
「昼まで何も決まってなかったけどね」
のどか。
「それ言わんで!」
町角。
地元のおばあさん。
梨乃。
当然。
「こんにちは!」
のどか。
「あ」
知佳。
「始まりましたね」
伊織。
「何分で友達になりますか?」
結衣。
「三分」
実際。
二分。
梨乃。
「鳥取から来たんだで!」
おばあさん。
「あらまあ」
「今広島の大学!」
「へえ!」
「今日は江津!」
「よう来たねえ」
そして。
三分後。
梨乃。
小袋。
持って戻る。
「お菓子もらったで!」
のどか。
「何で!?」
「おばあちゃんが」
「それは分かる!」
知佳。
「今日も順調に現地調達していますね」
梨乃。
「食料?」
結衣。
「餌」
梨乃。
「犬じゃないで!」
コメント。
《また餌付けw》
《江津でも発動》
《因幡の太陽》
《梨乃を商店街に放ったら夕飯いらない説》
梨乃。
「そんなにもらわんで!」
のどか。
「否定する場所そこ!?」
おばあさん。
笑い。
「仲ええねえ」
のどか。
「まあ……仲はええです」
梨乃。
のどか。
腕。
組む。
「親友だで!」
のどか。
「急に照れること言わんといて!」
町歩き。
終盤。
今度。
石見神楽。
神楽面。
並ぶ。
豪華な衣裳。
金糸。
銀糸。
力強い意匠。
太鼓。
笛。
囃子。
梨乃。
面。
見る。
「おお……」
さすが。
少し。
圧倒。
「近くで見ると怖いで」
結衣。
「迫力あるね」
知佳。
「非常に細かい造形ですね」
伊織。
衣裳。
持たせてもらう。
「思っていたより重い」
地元関係者。
説明。
演目。
神話。
舞。
囃子。
地域ごとの特色。
知佳。
質問。
止まらない。
「面は演目ごとに――」
「衣裳の製作には――」
「この動きには――」
のどか。
小声。
「知佳さん、めちゃくちゃ楽しんどるじゃん」
結衣。
「こういう話好きそうだもの」
そして。
簡単。
所作。
体験。
最初。
のどか。
「こう?」
身体能力。
高い。
足。
すっ。
姿勢。
決まる。
関係者。
「上手い!」
のどか。
「やった!」
コメント。
《のどか上手い》
《柔道だけじゃない》
次。
伊織。
静かに。
一度。
見る。
動く。
ぴた。
綺麗。
無駄。
ない。
梨乃。
「伊織さん格好ええ!」
結衣。
「さすがだがね」
コメント。
《伊織様》
《姿勢綺麗》
《武道家強い》
続いて。
結衣。
派手ではない。
しかし。
静か。
神秘的。
妙に。
合う。
のどか。
「結衣、めっちゃ似合うじゃん」
梨乃。
「神様呼びそうだで」
結衣。
「そこまではできんけん」
「魔法で?」
「しない」
コメント。
《出雲の静謐つよい》
《雰囲気ありすぎ》
そして。
知佳。
説明。
理解。
完璧。
「右足からですね」
一歩。
「あ」
逆。
知佳。
止まる。
梨乃。
「知佳さん間違えた!」
知佳。
「分かっています」
のどか。
「クイズなら正解なのに!」
知佳。
「身体を使う問題は別です」
最後。
山根梨乃。
関係者。
「では右へ」
梨乃。
左。
のどか。
「逆!」
「え?」
知佳。
「右です」
梨乃。
反対。
「こっち?」
「それは左です!」
「知佳さんから見て?」
「あなたから見てです!」
結衣。
「梨乃だけ別の演目だがね」
伊織。
とうとう。
笑う。
梨乃。
くる。
何故か。
一回転。
のどか。
「誰も回れ言うてない!」
「勢いで!」
地元関係者。
腹。
抱えて。
「ええですよ、楽しくやりましょう」
梨乃。
「楽しいで!」
その一言。
場。
和む。
コメント欄。
爆発。
《wwwww》
《梨乃だけ創作神楽》
《右と左から始めよう》
《知佳先生大変》
《伊織かっこいい》
《結衣似合う》
《石見神楽いいね》
《やればできるやん》
《急ごしらえにしてはめちゃいい》
《普通に江津行きたくなった》
のどか。
画面。
見る。
「おお!」
知佳。
「好評ですね」
伊織。
「よかったです」
結衣。
「ちゃんと江津紹介できたがね」
梨乃。
「お菓子ももらった!」
四人。
「そこはもうええ!」
締め。
赤瓦。
町並み。
五人。
並ぶ。
のどか。
「ということで!」
「お昼の時点では!」
知佳。
「あえて言わなくても」
「何にも決まっとりませんでした!」
知佳。
「言いましたね」
伊織。
笑う。
のどか。
「でも、知佳さんが企画を考えて!」
知佳。
「皆さんに調整していただいて」
「江津本町を歩いて!」
結衣。
「石見神楽にも触れて」
梨乃。
「お菓子も――」
のどか。
「それは置いといて!」
「えー」
のどか。
「急ごしらえではありましたけど」
カメラ。
町。
神楽関係者。
映す。
「江津の歴史と文化、人の温かさ、ちょっとでも伝わったでしょうか!」
コメント欄。
《伝わった!》
《やればできるやん》
《石見神楽いいね》
《赤瓦の町歩きしたい》
《江津知らなかったけど行きたくなった》
《知佳P有能》
《のどか伊織の調整力すごい》
《結衣の神楽もっと見たい》
《梨乃は右を覚えよう》
梨乃。
「右分かるで!」
のどか。
「じゃあどっち?」
梨乃。
一瞬。
考える。
「……こっち?」
知佳。
「左です」
コメント。
《wwwww》
《本当に大学生?》
梨乃。
「大学生だで!」
最後まで。
ヒロヒロ。
配信。
終了。
拍手。
協力してくれた地元関係者へ。
全員。
丁寧に。
お礼。
のどか。
「本当に急なお話ですみませんでした」
知佳。
「ありがとうございました」
伊織。
「とても勉強になりました」
結衣。
「楽しかったです。だんだん」
梨乃。
「ありがとうございました!」
そこは。
ちゃんと。
戦隊ヒロイン。
ふざける時。
全力。
礼を尽くす時。
全力。
ノムさん。
満足そう。
腕。
組む。
「大成功じゃ」
のどか。
振り返る。
「先輩は何したんです?」
「監督」
「具体的には?」
「全体を見た」
梨乃。
「楽な仕事だで」
ノムさん。
「また言うん!?」
知佳。
「否定材料はありませんね」
ノムさん。
「知佳ちゃんまで!」
夕方。
江津駅。
戻る。
空。
少し。
オレンジ。
日本海側の光。
そして。
いよいよ。
次。
神門結衣の故郷。
出雲。
結衣。
スマートフォン。
手。
「家に連絡するね」
梨乃。
「結衣のお母さんおる?」
「たぶん」
「お父さんは?」
「店におると思う」
「お土産ある?」
のどか。
「土産物屋へ行って土産ねだるな!」
「見るだけだで!」
知佳。
「信用していいのでしょうか」
梨乃。
「信用して!」
伊織。
「梨乃ちゃんですから」
梨乃。
「伊織さんまで!」
荷物。
まとめる。
ここから。
普通に。
出雲へ向かう。
はず。
だった。
のどか。
ふと。
見る。
駅前。
少し。
離れたところ。
ノムさん。
まさにゃん。
二人。
車。
横。
小声。
ノムさん。
何か。
紙。
見せる。
まさにゃん。
顔。
しかめる。
「……これ、やるんですか?」
ノムさん。
「おもろいじゃろ」
「また怒られません?」
「大丈夫じゃ」
まさにゃん。
「その“大丈夫”が一番怖いんだけど」
のどか。
目。
細くなる。
「……」
結衣。
「どうしたの?」
のどか。
顎。
二人。
指す。
「あの二人、また何か企んどる」
知佳。
見る。
「……確かに」
伊織。
「何か紙を隠しましたね」
梨乃。
「いつものことだで」
のどか。
「それで納得しちゃダメなんよ!」
そこで。
ノムさん。
くるっ。
振り返る。
さっきまでの。
怪しい会話。
どこへやら。
満面。
笑顔。
「ほいじゃ! 出雲行くぞ!」
のどか。
じー。
「先輩」
「何じゃ?」
「普通に?」
「もちろん」
「寄り道なし?」
「さあのう」
「今何か隠したでしょう」
「知らん」
まさにゃん。
視線。
横。
のどか。
「まさにゃん、こっち見て!」
「俺は何も知らない!」
「その言い方、絶対知っとる人のやつ!」
梨乃。
リュック。
背負う。
「早う行こうで!」
結衣。
笑う。
「まあ、行けば分かるがね」
知佳。
小さく。
ため息。
「その発想がこの番組を成立させている最大の原因では?」
伊織。
「私は少し楽しみです」
のどか。
「伊織さん、完全にヒロヒロ側へ染まってきた!」
江津。
昼。
予定。
ゼロ。
夕方。
町歩き。
石見神楽。
地域PR。
成功。
どうしてこうなったのか。
誰にも分からない。
だが。
視聴者の感想。
一番多かったのは。
《やればできるやん》
だった。
杜撰。
行き当たりばったり。
その場しのぎ。
なのに。
始まってしまえば。
誰かが知恵を出し。
誰かが電話し。
誰かが走り。
誰かが地元の人と友達になり。
最終的には。
妙に。
良いものが出来上がる。
それが。
ヒロヒロクオリティ。
一行は。
夕暮れの江津駅から。
神門結衣の故郷・出雲へ向かうため。
再び荷物を手にした。
ただし。
ノムさんの鞄から。
ちらり。
白い何かが。
見えたような気もする。
六面体。
だったような。
違ったような。
のどか。
気づく。
「……」
ノムさん。
さっと。
鞄。
閉じる。
のどか。
「先輩」
「何じゃ?」
「今、何隠した?」
「何も」
「ほんま?」
「ほんま」
まさにゃん。
また。
目。
そらす。
のどか。
「絶対何かあるじゃろ!」
その叫び声を残し。
『ヒロヒロ山陰どうでしょう』江津編。
ひとまず。
終了。
次なる舞台は。
結衣が待ちに待った。
出雲。
――ただし。
まともに着けるかどうかは、まだ誰にも分からない。




