ヒロヒロ山陰どうでしょう 3を出せば出雲、5を出せば高級旅館。――奇跡が続きすぎる夜
江津駅。
夕方。
赤瓦の町並みを歩き、石見神楽に触れ、昼まで何も決まっていなかったとは思えないほど「それっぽい地域PR番組」を完成させたヒロヒロ一行は、ようやく次の目的地へ向かおうとしていた。
目的地。
出雲。
しかも。
出雲大社のすぐ近くにある神門結衣の実家の土産物店へ、この日のうちに到着する。
ここだけは決まっている。
のどか。
「今度こそ普通に行きますよね?」
知佳。
「江津から山陰本線で出雲市へ向かえばいいだけです」
伊織。
「非常に分かりやすいですね」
梨乃。
「結衣ん家!」
結衣。
「やっと帰れるわ」
五人。
ほっとする。
だが。
一人。
ニヤニヤしている男がいた。
ノムさん。
「ちょっと待て」
のどか。
顔。
曇る。
「……先輩、その言い方ほんま嫌いになってきた」
ノムさん。
鞄。
ごそ。
ごそ。
そして。
出てきた。
白い。
大きな。
六面体。
梨乃。
「あ」
知佳。
「…………」
伊織。
「またですか?」
のどか。
「まだ持っとったんかい!」
ノムさん。
巨大サイコロ。
肩。
乗せる。
「出雲までの行き方を決めるぞ」
知佳。
即。
「山陰本線です」
「それじゃ面白うない」
「移動手段に娯楽性を求めすぎです」
「旅番組じゃぞ」
「旅番組だからこそ、たまには目的地へ最短で向かってください」
梨乃。
「何がある?」
ノムさん。
「見るか?」
「見る!」
のどか。
「梨乃、そんな楽しそうにせんといて!」
フリップ。
ばっ。
【江津から出雲へ 運命の六択】
1 浜田へ戻って何か食べてから再投
2 温泉津で途中下車してひと風呂浴びてから再投
3 山陰本線で出雲市へ直行
4 大田市で降り、“何か面白そうなもの”を探してから再投
5 江津本町へ戻って今日の反省会をしてから再投
6 一度松江まで行ってから出雲へ戻る
五人。
無言。
夕方の江津駅前。
風だけが。
吹いた。
知佳。
フリップを見る。
地図を見る。
またフリップを見る。
「……質問があります」
ノムさん。
「どうぞ」
「目的地は出雲ですね?」
「そうじゃ」
「1は逆方向です」
「そうじゃ」
「2はまた温泉です」
「温泉津はええぞ」
のどか。
「昨日潮温泉入ったばっかり!」
知佳。
「4の“何か面白そうなもの”とは?」
ノムさん。
「行ってから考える」
のどか。
「江津でさっきそれやったでしょうが!」
結衣。
「5は?」
梨乃。
「江津本町に戻る!」
のどか。
「今日の配信をもう一回やる気!?」
伊織。
「そして6は、出雲を通過して松江まで行き、また戻る」
知佳。
「それに何の意味が?」
ノムさん。
即答。
「ない」
全員。
「ないんかい!」
コメント欄。
《3以外全部ハズレ》
《普通に行かせろw》
《5は再放送》
《6ただの往復》
《4の雑さよ》
《絶対ノムさんが適当に作った》
のどか。
「ほら! 視聴者にもバレとる!」
ノムさん。
「何が?」
「これ適当に作ったでしょう!」
「そうじゃ」
「堂々と認めるな!」
そして。
運命の一投。
担当。
金城伊織。
伊織。
巨大サイコロを受け取る。
「私ですか?」
ノムさん。
「伊織ちゃん、頼んだぞ」
のどか。
両手。
合わせる。
「伊織さん、お願いします!」
知佳。
「3です。合理的選択肢は3しかありません」
梨乃。
「3! 3!」
結衣。
いつもの穏やかな表情。
「3が出るとええね」
伊織。
「随分プレッシャーがありますね」
のどか。
「伊織さんなら絶対いける!」
「根拠は?」
「何となく!」
知佳。
「科学的根拠は皆無ですね」
伊織。
苦笑。
「では……」
投げる。
どん。
ころ。
ころころ。
一瞬。
上。
6。
のどか。
「いやぁぁぁぁ!」
梨乃。
「松江!」
知佳。
「まだ動いています!」
ころ。
さらに。
一回。
そして。
ぴたり。
止まる。
3。
沈黙。
一秒。
二秒。
そして。
「出たぁぁぁぁぁぁぁ!」
のどか。
両手。
上。
梨乃。
その場。
跳ねる。
「3だで!」
知佳。
普段の上品さを忘れかける。
「伊織さん、素晴らしいです!」
伊織。
「私、普通に振っただけですよ?」
梨乃。
「神引き!」
のどか。
「伊織さん今日からサイコロ担当!」
伊織。
「それは遠慮したいです」
結衣。
横。
静か。
「よかったね」
のどか。
「結衣」
「何?」
「故郷帰れるんよ?」
「うん」
「もっと喜ばん?」
「嬉しいよ」
「じゃあもうちょっと!」
結衣。
少しだけ。
両腕。
上げる。
「わーい」
のどか。
「棒読み!」
コメント。
《伊織神》
《3キター》
《奇跡》
《結衣だけ冷静すぎるw》
《普通に電車乗れるだけで大歓喜》
《この番組基準がおかしい》
その横。
ノムさん。
何となく。
満足そう。
結衣。
何となく。
いつも通り。
誰も。
気にしない。
こうして。
ようやく。
山陰本線。
江津から東へ。
列車。
走り出す。
ここからは。
珍しく。
正統派旅番組。
窓の外。
夕方。
山陰の海岸。
日本海。
青から金色へ変わり始める空。
雲間から差す光。
波。
白く。
砕ける。
山。
海。
線路。
細長い集落。
古い瓦屋根。
時折。
海が突然。
大きく。
車窓。
いっぱいに広がる。
梨乃。
窓。
ぺったり。
「うわぁ……」
のどか。
「きれいじゃね」
知佳。
「今日は朝から江の川沿いを移動していましたから、日本海へ出ると一気に景色が変わりますね」
伊織。
「本当に山陰を横断している実感があります」
結衣。
「この辺の夕方、好きだわ」
列車の音。
がたん。
ごとん。
海。
夕陽。
今日。
江津。
赤瓦。
神楽。
今。
日本海。
そして。
出雲。
コメント。
《めちゃくちゃ綺麗》
《急に旅番組》
《こういうヒロヒロも好き》
《日本海の夕方いいな》
のどか。
笑う。
「今日はまともじゃろ?」
五分後。
「……あれ?」
隣。
山根梨乃。
爆睡。
のどか。
「早っ!」
梨乃。
窓側。
首。
斜め。
リュック。
抱えて。
片脚。
なぜか少し。
通路側。
片腕。
だらん。
髪。
頬。
かかる。
そして。
すー。
すー。
実に。
気持ちよさそう。
知佳。
小声。
「よく眠っていますね」
伊織。
「相当疲れているんでしょうね」
結衣。
「昨日もよく寝とったけど」
のどか。
梨乃。
見る。
じー。
そして。
悪い顔。
結衣。
すぐ。
察する。
「のどか」
「何?」
「やめときんさい」
「何も言ってないじゃん」
「顔で分かる」
のどか。
鞄。
ごそ。
知佳。
「まさか……」
出てくる。
ピロピロ笛。
知佳。
口。
手。
当てる。
「……まだ持っていたんですか」
のどか。
「予備」
結衣。
「朝、遥室長に怒られたばっかりだがね」
「これは早朝ドッキリじゃないけえ」
「そういう問題?」
伊織。
既に。
笑っている。
「またやるんですか?」
のどか。
小声。
「一回だけ」
梨乃。
すー。
すー。
のどか。
ピロピロ。
鼻先。
そっと。
当てる。
梨乃。
すーー。
ぴろっ。
戻る。
知佳。
「……ふっ」
顔。
そらす。
梨乃。
ふー。
ぴろろろろっ。
戻る。
伊織。
肩。
震える。
結衣。
「ほんにくだらん……」
と言いながら。
口元。
笑っている。
のどか。
既に。
限界。
「……っ!」
梨乃。
深く。
吸う。
そして。
ふーーーー。
ぴろろろろろろろろろっ!
四人。
一斉。
吹き出す。
ただし。
公共の車内。
声。
抑える。
のどか。
肩。
震える。
知佳。
いつもの上品な笑い。
「ふふっ……ふふふ……」
のどか。
「知佳さんまで笑っとる!」
「これは……ちょっと……」
伊織。
顔。
横。
「すみません、私も駄目です」
結衣。
「なんでこんなん面白いんだろ」
コメント欄。
大爆発。
《wwwwww》
《また鼻笛》
《ヒロヒロってやっぱりバカなの?(笑)》
《梨乃ちゃん可愛い》
《朝の再放送》
《知佳さん上品に笑ってるの草》
《全員くだらないこと好きすぎ》
《梨乃起きないの強い》
梨乃。
すー。
ぴろ。
すー。
ぴろろろ。
全く。
起きない。
のどか。
涙。
「何で起きんの……」
知佳。
笑いを抑えながら。
「ある意味、非常に高い睡眠能力ですね」
伊織。
「ここまで熟睡できるのは羨ましいです」
結衣。
「ラブラドールはよく寝るけんね」
梨乃。
反応。
ゼロ。
のどか。
「犬って言われても起きん!」
数分後。
ピロピロ。
回収。
何事も。
なかったかのように。
四人。
座る。
さらに。
しばらく。
梨乃。
自然。
目。
開く。
「……ん」
のどか。
「おはよう」
「うち寝とった?」
「うん」
「何かあった?」
四人。
同時。
「何も」
梨乃。
「そう?」
コメント。
《あったw》
《全部生配信済み》
《アーカイブ見ろ》
《本人だけ知らない》
梨乃。
最後まで。
気づかない。
出雲市。
到着。
ここから。
JRとは別。
地元。
私鉄。
乗り換え。
この鉄道は、出雲市街と松江方面を結び、宍道湖の北側へ路線を延ばし、途中から出雲大社方面へ分かれる島根を代表するローカル私鉄。
大社方面へ向かう支線の終点には、昭和初期に造られた洋風駅舎が残り、大きなアーチ形の屋根と色ガラスが特徴。
知佳。
「今度は地元私鉄ですね」
梨乃。
「電車変わった!」
結衣。
「途中で大社方面へ乗り換えるよ」
梨乃。
「乗り換え何分?」
知佳。
ぴく。
「なぜ聞くんです?」
「売店あるかなって」
知佳。
「ありません」
「まだ調べてもないで!」
のどか。
「完全に梨乃対策になっとる!」
無事。
乗り換え。
車内。
今度は。
結衣。
地元ガイド。
「この辺、子どもの頃からよく乗ったよ」
のどか。
「結衣も小さい頃この電車乗っとったんじゃ」
「うん」
梨乃。
「結衣にも子どもの頃あったんだな」
結衣。
「あるに決まっとるがね」
知佳。
「山根さんは神門さんを何だと思っているんでしょう」
梨乃。
「結衣」
「答えになってない!」
やがて。
終点。
歴史。
感じる。
洋風駅舎。
降りる。
夕暮れ。
門前町。
その風景。
結衣。
立ち止まる。
少し。
笑う。
「帰ってきた」
のどか。
「おかえり」
梨乃。
「おかえり!」
知佳。
「お邪魔します」
伊織。
「素敵な町ですね」
そこから。
出雲大社近く。
神門通り。
そして。
結衣。
実家。
土産物店。
結衣。
扉。
開く。
「ただいま」
両親。
迎える。
「おかえり」
結衣。
いつも。
静か。
それでも。
表情。
柔らかい。
いい。
場面。
梨乃。
店内。
見る。
「うわ! 土産いっぱい!」
のどか。
「感動の帰宅シーン終わるまで待てんの!?」
「見るだけだで!」
知佳。
「まず挨拶です」
梨乃。
慌てる。
「お邪魔します!」
結衣。
笑う。
ところが。
店先。
車。
一台。
のどか。
「あ」
見覚え。
ある。
まさにゃん。
乗用車。
そして。
ノムさん。
既に。
到着。
のどか。
「また先に来とる!」
でも。
今日は。
二人だけではない。
「お疲れさまー!」
明るい声。
館山みのり。
そして。
杉山ひかり。
グレースフォース。
合流。
梨乃。
「増えた!」
のどか。
「数え方!」
みのり。
「梨乃ちゃん久しぶり!」
ひかり。
「お疲れさま」
そして。
やはり。
この二人。
近い。
異様に。
近い。
ひかり。
普通に。
みのりのバッグ。
持っている。
みのり。
普通に。
ひかりの肩。
寄る。
ひかり。
持っていた飲み物。
みのり。
「一口ちょうだい」
「いいよ」
そのまま。
一口。
梨乃。
じー。
「仲ええなあ」
みのり。
「そう?」
ひかり。
「普通だよ?」
のどか。
「その距離感で“普通”言うんじゃ……」
知佳。
「いつも通りですね」
伊織。
上品。
微笑む。
結衣。
「仲良いのはええことだがね」
梨乃。
突然。
のどか。
腕。
組む。
「うちらも!」
のどか。
「張り合わんでええ!」
さて。
問題。
宿。
知佳。
「本日の宿泊先はどちらですか?」
ノムさん。
「決まっとらん」
全員。
「…………」
のどか。
「またそれ!?」
みのり。
「え!?」
ひかり。
「まだ宿ないの?」
伊織。
「今日二度目ですね」
知佳。
「もはや驚きません」
ノムさん。
「安心せい」
巨大サイコロ。
再登場。
のどか。
「サイコロ出された方が不安なんです!」
フリップ。
【今夜どこに泊まる?】
1・2 神門家
結衣。
両親。
事前。
了承済み。
雑魚寝。
家庭料理。
梨乃。
「これ楽しそう!」
結衣。
「梨乃は絶対そう言うと思った」
3・4 地元の協力家庭へホームステイ
こちらも。
協力者。
了承済み。
5・6 出雲大社正門近くの老舗高級旅館
知佳。
「あ」
伊織。
「あの旅館ですね」
みのり。
「どこ?」
知佳。
説明。
「明治初期から続き、出雲大社正門のすぐ近くに建つ老舗旅館です。昭和初期の趣ある木造建築を残し、かつて多くの著名な宿泊客を迎えた歴史もあります」
ひかり。
「あ!」
続ける。
「それに、日本を代表する女性シンガーソングライターのご実家として音楽ファンにも知られているところだよね」
みのり。
目。
見開く。
「絶対5か6!」
梨乃。
「結衣ん家でもええで」
結衣。
「梨乃はうちで雑魚寝したいだけでしょ」
「うん!」
「即答なんだ」
みのり。
サイコロ。
持つ。
ひかり。
横。
ぴた。
「みのり」
「何?」
「5か6」
「分かってる!」
「お願い」
「任せて!」
梨乃。
「ひかりさんの圧すごいで」
ひかり。
「ないよ」
みのり。
両手。
サイコロ。
目。
閉じる。
「5か6、5か6、5か6……!」
知佳。
「非常に欲望に忠実ですね」
みのり。
「だって高級旅館泊まりたいじゃん!」
全員。
「それはそう」
そして。
投げる。
ころ。
ころころ。
ころ。
ぴたり。
5。
静寂。
そして。
「やったぁぁぁぁぁぁぁ!」
みのり。
ジャンプ。
ひかり。
反射的。
抱きつく。
「みのり、すごい!」
「やった!」
梨乃。
「高級旅館!」
のどか。
「勝った!」
知佳。
「これは文句なしの大当たりです」
伊織。
「素晴らしいですね」
まさにゃん。
「俺も泊まれるよね?」
ノムさん。
「もちろん」
「やった!」
結衣。
横。
「よかったね」
のどか。
「結衣」
「何?」
「今日、サイコロの結果に全然驚かんね」
「そう?」
「そう」
「たまたまじゃない?」
「まあ……そうか」
ノムさん。
横。
「運がええのう」
結衣。
「ほんとだね」
何となく。
妙に。
息が合う。
でも。
誰も。
気にしない。
そして。
一行。
満を持して。
出雲大社正門近く。
老舗高級旅館。
到着。
玄関。
木。
畳。
落ち着いた和の空気。
歴史。
ある建物。
梨乃。
「うわぁ……」
のどか。
「昨日まで路線バスで乗り継ぎ失敗しとった番組とは思えんね」
知佳。
「今日の昼は江津で午後の予定すらありませんでした」
伊織。
「振れ幅が大きいですね」
みのり。
「サイコロ最高!」
ひかり。
「みのりのおかげ」
「もっと褒めて」
「すごい。かわいい。偉い」
「最後二つ関係ない!」
梨乃。
二人。
見る。
「やっぱり近い」
のどか。
「もうええって!」
まず。
大浴場。
旅。
疲れ。
癒す。
朝。
潮温泉。
バス。
江津。
町歩き。
神楽。
列車。
出雲。
長い。
一日。
だった。
七人。
湯。
入る。
のどか。
「はぁぁぁ……」
梨乃。
「極楽だでぇ……」
知佳。
「今日だけでも随分歩きましたね」
伊織。
「列車では梨乃ちゃんが一番休んでいましたけど」
梨乃。
「寝とった?」
四人。
一瞬。
止まる。
のどか。
「うん」
梨乃。
「ほんに何もなかった?」
知佳。
目。
そらす。
「何も」
梨乃。
「知佳さん、目そらしたで」
知佳。
「気のせいです」
結衣。
肩。
震える。
梨乃。
「何?」
「何でもない」
まだ。
知らない。
そして。
夕食。
これが。
豪華。
日本海の鮮魚。
季節の野菜。
地元米。
そして。
メイン級。
しまね和牛。
美しい。
霜降り。
鉄板。
じゅう。
肉。
香る。
梨乃。
目。
きら。
「肉!」
のどか。
「急に語彙なくなった!」
みのり。
「これ絶対おいしいやつ!」
ひかり。
「みのり、焼けたよ」
「ありがとう!」
また。
自然。
皿。
移動。
梨乃。
「ひかりさん世話焼きだで」
みのり。
「優しいんだよ」
ひかり。
「みのりが放っとくと喋ってて食べないから」
のどか。
「なるほど、保護者じゃ!」
みのり。
「違う!」
梨乃。
しまね和牛。
一口。
止まる。
「…………」
知佳。
「どうしました?」
梨乃。
目。
見開く。
「うまっ……!」
のどか。
「出た!」
知佳。
「説明する前に終わりました」
伊織。
上品に。
一口。
「柔らかいですね」
結衣。
「脂もしつこくないね」
知佳。
「しまね和牛は、島根県内で生産される黒毛和種のブランド牛で――」
のどか。
「今度こそ最後まで聞こう!」
梨乃。
肉。
もぐ。
「聞いとる!」
みのり。
「私も!」
ひかり。
「私も」
知佳。
ちょっと。
嬉しい。
「では」
説明。
始まる。
今度。
梨乃。
黙る。
一応。
最後まで。
聞く。
そして。
「つまり?」
知佳。
「品質管理された島根のブランド牛です」
梨乃。
「うまい肉!」
知佳。
「……大筋では」
のどか。
「知佳さん諦めた!」
七人。
大笑い。
そこへ。
ノムさん。
盃。
手。
酒。
上機嫌。
「いやぁ!」
一口。
「うまいのう!」
のどか。
ぴく。
「先輩」
「何じゃ」
「また飲んどる」
「飯時じゃぞ」
「昨日も飲んだ」
「昨日は昨日」
「一昨日も」
「一昨日は一昨日」
知佳。
「論理として成立していません」
ノムさん。
「旅行じゃぞ?」
結衣。
「それも免罪符にならんけん」
まさにゃん。
「俺も今日は運転終わったから一杯だけ」
のどか。
「まさにゃん、毎晩同じ台詞言っとる!」
伊織。
静か。
地酒。
一口。
顔色。
全く。
変わらない。
梨乃。
「伊織さんは?」
のどか。
伊織。
見る。
考える。
「伊織さんはもうええわ」
伊織。
「基準が分かりません」
知佳。
「飲酒後に騒がないからでは?」
「それ!」
ノムさん。
「わしも騒がんぞ!」
一同。
沈黙。
ノムさん。
「何じゃその間!」
みのり。
「前科が」
ひかり。
「あるみたいだね」
梨乃。
「巴投げ」
のどか。
「そこ言うな!」
コメント。
《ノムさんまた飲んでる》
《懲りないw》
《遥室長見てる?》
《誰か新橋に連絡》
のどか。
「余計なことせんで!」
しかし。
数秒後。
新着。
画面。
上。
芹沢遥(本人)
『ノムさん出演禁止!!』
全員。
停止。
のどか。
スマートフォン。
見る。
ノムさん。
見る。
「先輩」
ノムさん。
しまね和牛。
食べる。
「うまい」
「先輩」
酒。
飲む。
「合うのう」
「遥室長からコメント来とります!」
ノムさん。
「見えん」
知佳。
「かなり大きな文字です」
「老眼じゃ」
知佳。
スマホ。
拡大。
「さらに大きくします」
ノムさん。
「せんでええ!」
梨乃。
画面。
覗く。
大声。
読む。
「『ノムさん出演禁止!!』だで!」
ノムさん。
「梨乃ちゃん、読まんでええ!」
コメント欄。
《wwwwww》
《逃げられない》
《梨乃読み上げ係》
《知佳拡大w》
《!!が増えた》
《室長本気》
のどか。
「出演禁止ですって」
ノムさん。
「聞こえんな」
「梨乃が読んだでしょうが!」
「聞こえん」
「聞こえとる!」
ノムさん。
酒。
一口。
カメラ。
見る。
そして。
何事もなかったように。
「このしまね和牛はのう――」
のどか。
「普通に出演続けるな!」
コメント。
《無視ww》
《メンタル強すぎ》
《出演禁止を無視して食レポ開始》
《図太い》
《遥室長の血圧が心配》
遥。
さらに。
芹沢遥(本人)
『ノムさん、画面から出るのら』
ノムさん。
読む。
酒。
飲む。
「なるほど」
のどか。
「理解した?」
「理解した」
そして。
カメラ。
真正面。
「この肉、ほんまうまいぞ」
のどか。
「理解してない!」
みのり。
テーブル。
伏せて。
笑う。
ひかり。
みのりの背中。
支えながら。
笑う。
知佳。
口元。
押さえる。
伊織。
さすがに。
肩。
震える。
結衣。
「ほんに図太いわ」
梨乃。
「ノムさん怒られるで」
「もう怒られとる」
「そっか」
遥。
三発目。
芹沢遥(本人)
『ノムさんだけ明日の企画会議オンライン参加禁止なのら』
ノムさん。
止まる。
「……」
のどか。
「あ」
知佳。
「効きましたね」
梨乃。
「酒より会議の方が大事?」
ノムさん。
「わし企画責任者じゃぞ!」
のどか。
「責任者なら最初から言うこと聞きんさい!」
コメント。
《www》
《そこは効く》
《出演禁止は無視するのに会議禁止は嫌》
《ノムさんの弱点判明》
まさにゃん。
「俺、明日の会議仕切るの?」
ノムさん。
「まさにゃん、何とかしてくれ」
「俺は今日まで運転手だったんだけど!?」
のどか。
「室長代理!」
まさにゃん。
「そうだった!」
一同。
「忘れとったん!?」
高級旅館。
しまね和牛。
地酒。
出雲の夜。
優雅。
格式。
歴史。
そこへ。
ヒロヒロ。
台無し。
食後。
七人。
部屋。
くつろぐ。
みのり。
ひかり。
相変わらず。
隣。
梨乃。
もう。
気にしない。
「いつものことなんだな」
知佳。
「理解が早くなりましたね」
のどか。
「それより梨乃」
「何?」
スマートフォン。
差し出す。
「これ」
再生。
列車。
梨乃。
爆睡。
鼻。
ピロピロ。
ぴろろろろろろっ。
梨乃。
「…………」
画面。
見る。
自分。
見る。
のどか。
見る。
もう一度。
画面。
「…………」
結衣。
「気づいた?」
梨乃。
ゆっくり。
「またやったな?」
のどか。
「……はい」
梨乃。
「うち最後まで寝とった?」
知佳。
「完全に」
伊織。
「非常によく眠っていました」
梨乃。
コメント。
スクロール。
《ヒロヒロってやっぱりバカなの?(笑)》
《梨乃ちゃん可愛い》
《鼻笛第二章》
梨乃。
のどか。
見る。
「遥室長に言うで」
のどか。
「待って!」
結衣。
「それが一番効くね」
知佳。
「適切な対応かと」
のどか。
「知佳さんまで裏切らんといて!」
部屋。
爆笑。
こうして。
江津から始まった。
出雲への旅。
3以外。
全部。
ハズレ。
そんな馬鹿げた六択。
伊織。
奇跡。
3。
山陰本線。
夕暮れ。
日本海。
梨乃。
爆睡。
ピロピロ笛。
地元私鉄。
結衣。
故郷。
帰還。
グレースフォース。
合流。
そして。
宿ガチャ。
みのり。
奇跡。
5。
出雲大社正門近く。
老舗高級旅館。
しまね和牛。
豪華夕食。
最高の夜。
――そして。
ノムさんだけ。
今日も。
遥室長に。
怒られている。
梨乃。
布団。
入る。
「明日もサイコロ?」
のどか。
「もう嫌じゃ……」
知佳。
「普通の旅行が恋しくなってきました」
伊織。
「私は少し楽しくなってきました」
みのり。
「私も!」
ひかり。
「みのりが楽しいなら私も」
梨乃。
「やっぱ近いなあ」
結衣。
布団。
入りながら。
静かに。
「明日はどうなるんだろうね」
ノムさん。
隣室。
声。
「酒もう一本――」
のどか。
「飲むな!」
そして。
スマートフォン。
新着。
芹沢遥(本人)
『聞こえてるのら』
全員。
「こわっ!」
出雲の夜。
まだ。
長い。




