ヒロヒロ山陰どうでしょう ノムさんだけ先に温泉へ。 ――消えた三江線をバスで追え! 三次から島根・潮温泉へ、梨乃のソフトクリームで接続便が消えた!? 五人だけの「路線バスの旅」
翌朝。
広島県三次市。
前日の『ヒロヒロ山陰どうでしょう』は、とんでもない盛り上がりを見せていた。
三次唐麺焼を食べ。
ワイナリーを訪れ。
ノムさんがまたしても配信中に酒を飲み。
コメント欄へ降臨した**「芹沢遥(本人)」**から、
『ノムさん、帰ったら緊急スタッフ会議なのら』
という最後通牒を突きつけられた。
そして山根梨乃は、
「3ってどっち? 偶数?」
という、現役女子大学生としてかなり心配になる発言を残した。
実に濃い一日だった。
しかし。
まだ。
山陰へ入っていない。
三次駅前。
午前。
今日も配信用カメラが回り始める。
江波のどか。
山根梨乃。
神門結衣。
一条知佳。
金城伊織。
五人が並ぶ。
梨乃。
「今日こそ鳥取だで!」
のどか。
「何で鳥取に決めつけるん」
「山陰だで」
結衣。
「島根も山陰だがね」
梨乃。
「あ」
のどか。
「鳥取県民が島根忘れんさんな!」
知佳。
「そもそも現在地から考えれば、まず島根県へ入る方が自然です」
梨乃。
「じゃあ島根!」
のどか。
「切り替え軽っ!」
伊織。
くすっと笑う。
「梨乃ちゃん、朝から元気ですね」
「朝ご飯いっぱい食べたけえ!」
のどか。
「ホテルのパン何個食べた?」
梨乃。
「分からん」
「数えられんほど食べたん!?」
結衣。
「昨日、奇数と偶数も分からんかったけんね」
梨乃。
「それとこれは関係ないで!」
コメント欄。
《おはようヒロヒロ》
《3は奇数覚えた?》
《梨乃ちゃんに算数の宿題出したい》
《今日こそ山陰行け》
《ノムさんいる?》
最後の一つを見たのどか。
「いますよ」
カメラ。
横へ。
ノムさん。
その後ろ。
自家用車。
運転席。
まさにゃん。
既にエンジン。
掛かっている。
のどか。
「……先輩」
「何じゃ」
「何でまさにゃん、もう車乗っとるんです?」
ノムさん。
「今日は移動じゃけえ」
「うちらも乗るんですよね?」
「乗らん」
五人。
「…………」
梨乃。
「乗れん?」
「乗れん」
知佳。
「定員の問題でしょうか」
「違う」
結衣。
「じゃあ何?」
ノムさん。
一枚の紙。
ばさっ。
掲げる。
**本日の目的地
島根県邑智郡美郷町
潮温泉**
結衣。
「あ、美郷だがね」
梨乃。
「温泉!」
伊織。
「いいですね」
のどか。
「今日は宿決まっとるんです?」
「取っとる」
のどか。
顔。
輝く。
「宿が最初から決まっとる!」
知佳。
「それは本来、旅行では普通です」
のどか。
「昨日は宿までサイコロだったんですよ!」
「比較対象がおかしいです」
ノムさん。
「潮温泉はええぞ。江の川沿いの静かな温泉じゃ。湯もええし、景色もええ」
結衣。
「美肌の湯としても知られとるね」
伊織。
「それは楽しみ」
梨乃。
自分の頬。
触る。
「もっと美人になって帰れる?」
のどか。
「まず風呂入ってから考えんさい」
ノムさん。
「ほいで」
五人を見る。
「皆さんには路線バスを乗り継いで、自力で来てもらいます」
沈黙。
のどか。
「……はい?」
「路線バス」
「先輩らは?」
「車」
「うちらは?」
「バス」
「先輩らは?」
「車」
のどか。
ゆっくり。
眉。
上がる。
「何で!?」
ノムさん。
「昔は三次から江の川沿いに三江線が走っとったじゃろ」
知佳。
すぐ反応。
「旧JR三江線ですね。三次と江津を結んでいた路線です」
ノムさん。
「今は鉄道がない。ほいじゃけえ、今ある地域交通を自分らで調べて潮温泉まで来る」
知佳。
「なるほど。旧三江線沿線を現在の公共交通でたどる企画ですね」
ノムさん。
「そういうことじゃ」
のどか。
「知佳さんが言うと急に教養番組みたいになりますね」
梨乃。
「電車ないなら歩く?」
全員。
「歩かない!」
梨乃。
「じゃあバス?」
「その話をずっとしとる!」
ノムさん。
車へ。
「ほいじゃ、潮で待っとるぞ」
のどか。
「ちょっと待って!」
助手席。
ドア。
開く。
ノムさん。
乗る。
運転席。
まさにゃん。
「じゃ、みんな頑張って!」
のどか。
「まさにゃん! うちらも乗せて!」
「ノムさんがダメだって!」
「室長代理でしょうが!」
「今日は運転手!」
「権力使ってください!」
「そういう時に使う権力じゃないから!」
梨乃。
車。
追いかける。
「ノムさーん!」
窓。
開く。
「何じゃ?」
「先に温泉入ったらいけんで!」
「考えとく」
梨乃。
「絶対だで!」
ぶーん。
出発。
五人。
取り残される。
のどか。
走り去る車を見る。
「……」
知佳。
「行きましたね」
伊織。
「行きました」
結衣。
「早かったがね」
梨乃。
手。
振る。
「またなー!」
のどか。
「何で梨乃だけ爽やかに見送っとるん!」
こうして。
サイコロの旅だったはずの、
『ヒロヒロ山陰どうでしょう』。
二日目。
突然。
『ヒロヒロ路線バスの旅』
へと変貌した。
まず。
情報収集。
三次駅周辺。
五人。
地図。
スマートフォン。
時刻表。
知佳。
中央。
当然のように司令塔。
「美郷町方面へ直接一本で行くバスを探すのではなく、旧三江線沿線方向へ進める交通を順番に確認した方がよさそうです」
のどか。
「はい先生」
梨乃。
「先生!」
知佳。
「先生ではありません」
結衣。
「でも一番先生っぽい」
伊織。
「私もそう思います」
知佳。
「……進めます」
地元のおじいさん。
通りかかる。
のどか。
「すみません!」
「はいはい」
「潮温泉まで路線バスで行きたいんですけど」
おじいさん。
五人を見る。
「潮?」
「はい」
「車じゃなくて?」
「はい」
「何で?」
のどか。
ノムさんが消えていった方向。
指。
「あの人のせいです」
配信コメント。
《説明が雑w》
《全部ノムさんのせい》
《地元民困惑》
おじいさん。
「作木の方へ行くバスがあるじゃろ」
知佳。
「作木線ですね」
「そうそう。それで江の川沿いを上がって、島根側でまた乗り継ぐんじゃ」
梨乃。
「詳しい!」
おじいさん。
「住んどるけえの」
梨乃。
「なるほど!」
のどか。
「そこは驚くところじゃない!」
別のおばあさん。
「あんたらテレビ?」
梨乃。
すぐ。
「戦隊ヒロインだで!」
「まあ!」
梨乃。
一分。
会話。
三分。
地元の野菜の話。
五分。
おばあさん。
「これ持って行きんさい」
みかん。
梨乃。
「ありがとう!」
のどか。
「何で聞き込みしただけで食べ物もらっとるん!」
結衣。
「因幡の太陽だけん」
知佳。
「山根さんには情報収集より人的交流を担当してもらう方が効率的かもしれません」
のどか。
「知佳さん、梨乃の使い方分かってきましたね」
ようやく。
ルート。
確定。
三次から。
備北方面。
作木。
江の川沿い。
島根県へ。
そして美郷町内で別の地域バスへ乗り継ぐ。
梨乃。
路線図。
見る。
「線いっぱいあるで」
知佳。
「だから私が持ちます」
「うちも見たい」
「どうぞ」
梨乃。
逆さ。
「分からん」
のどか。
「まず上下直しんさい!」
コメント欄。
《地図逆w》
《知佳さんだけはぐれたら全滅する》
《伊織なら山越えできそう》
《結衣ちゃん透視でバス探せない?》
結衣。
コメントを見る。
「バスの透視は無理だがね」
のどか。
「何のための魔法少女なん!」
結衣。
「そういうためじゃない」
昼過ぎ。
いよいよ。
路線バス。
乗車。
五人。
最後尾付近。
梨乃。
窓。
「出発だで!」
のどか。
「今度こそ島根!」
結衣。
「やっと帰ってきた気がするわ」
配信タイトル。
『ヒロヒロ路線バスの旅 消えた三江線を追って潮温泉へ!』
バス。
三次市街を抜ける。
家並み。
少なくなる。
山。
深くなる。
そして。
江の川。
梨乃。
「あ!」
のどか。
「何!?」
「川!」
のどか。
「そりゃあるじゃろ!」
知佳。
窓を見る。
「江の川ですね」
一気に。
解説モード。
「中国地方最大級の河川で、広島県側から中国山地を越えるように島根県へ流れ、日本海へ注ぎます。三江線も、この江の川に沿うように走る区間が多かったんです」
梨乃。
「電車どこ?」
「廃線です」
「あ」
のどか。
「昨日から説明されとる!」
結衣。
窓。
眺めながら。
「でも、線路があった頃はここを列車から見とった人がおったんだね」
知佳。
「ええ」
少し。
空気。
穏やかになる。
そこへ。
前の席。
地元のおばあさん。
振り向く。
「三江線、乗ったことあるよ」
五人。
「え?」
梨乃。
一瞬。
席。
近づく。
「ほんと?」
のどか。
「梨乃、食いつくの早い!」
おばあさん。
笑う。
「高校の頃も乗ったし、買い物でも使ったしねえ」
知佳。
「どの辺りから利用されていたんですか?」
話。
始まる。
昔。
駅。
列車。
学生。
車窓。
雪の日。
通院。
買い物。
地域の暮らし。
梨乃。
珍しく。
真剣。
聞く。
「なくなった時、寂しかった?」
「そりゃあね。でも今はバスもあるし、みんな何とかやっとるよ」
のどか。
窓の外。
見る。
「鉄道がなくなっても、暮らしまでなくなるわけじゃないもんね」
結衣。
「うん」
伊織。
「だから今乗っているバスも大事なんですね」
知佳。
頷く。
「そうですね」
配信コメント。
《いい話だ》
《こういうローカル旅好き》
《三江線乗ってみたかったな》
《地元のおばあちゃんありがとう》
《今日ヒロヒロがまとも》
《昨日ワイン飲んで怒られてた番組と同じとは思えない》
のどか。
「最後の一行いらん!」
おばあさん。
梨乃。
見る。
「あんた鳥取?」
梨乃。
「そうだで!」
「言葉で分かるわ」
梨乃。
嬉しそう。
「うち、鳥取市!」
「あらまあ。遠いねえ」
「今は広島に住んどる」
のどか。
「住んどるのは自分のアパート!」
梨乃。
「みさちゃんにも住んどる」
「住んどらん!」
おばあさん。
「何の話?」
結衣。
「梨乃がのどかの実家に勝手に棲みついとる話」
「まあ仲いいのねえ」
のどか。
「そういうことにしときます……」
今度は。
地元のおじいさん。
伊織へ。
「姉ちゃん、背ぇ高いなあ。何かスポーツしとる?」
伊織。
「空手をしています」
「空手!」
梨乃。
「めちゃくちゃ強いで!」
伊織。
「梨乃ちゃん」
「ほんとのことだで」
おじいさん。
「わしは昔柔道をな」
のどか。
ぴく。
「柔道ですか!」
今度は。
のどか。
食いつく。
梨乃。
「のどかが釣れたで」
結衣。
「柔道で釣れる」
知佳。
「分かりやすいですね」
のどか。
おじいさんと。
柔道談義。
「どこの道場だったんです?」
「昔じゃけえの」
「得意技は?」
「背負いじゃ」
「うちも投げ技好きなんですよ!」
梨乃。
コメント。
読む。
《のどか完全に素》
《地元のおじいちゃんvs戦隊ヒロイン》
《柔道トーク始まった》
《巴投げの女》
のどか。
「誰が巴投げの女じゃ!」
おじいさん。
「巴投げ得意なん?」
のどか。
「……最近一回だけ有名になりました」
知佳。
横。
「相手は飲酒していた野村さんです」
のどか。
「説明せんでええです!」
車内。
笑い。
広がる。
知らない乗客。
ヒロイン。
スタッフ。
配信視聴者。
全部。
妙に。
距離が近い。
ヒロヒロの旅だった。
山間部。
小さな停留所。
地元のおばあさん。
下車。
梨乃。
「気ぃつけてな!」
「あんたらも温泉まで行きんさいよ」
「行くで!」
ドア。
閉まる。
梨乃。
手。
振る。
バス。
動く。
のどか。
小声。
「梨乃」
「何?」
「こういう時は、あんたおってええね」
梨乃。
「普段はいけん?」
のどか。
「そういう意味じゃない!」
結衣。
微笑む。
「褒められとるよ」
梨乃。
ぱっと。
「ほんと?」
のどか。
「ほんまラブラドールじゃね……」
梨乃。
「犬じゃないで!」
やがて。
最初の長距離区間。
終点近く。
美郷町。
道の駅。
到着。
知佳。
時計。
見る。
「次のバスまで十数分です」
のどか。
「短い?」
「乗り換えるだけなら十分です」
梨乃。
道の駅。
見る。
のどか。
梨乃。
見る。
嫌な予感。
梨乃。
建物。
見る。
「……」
のどか。
「梨乃」
「何?」
「何も買わんよ」
「まだ何も言っとらんで」
「顔に書いてある」
結衣。
「あ」
何か。
発見。
梨乃。
同時。
発見。
ソフトクリーム。
梨乃。
「のどか」
「ダメ」
「まだ何も――」
「ダメ!」
「十数分あるで」
知佳。
「山根さん。乗り継ぎ時間十数分というのは、自由時間が十数分あるという意味ではありません」
梨乃。
「一分で買えるがな」
伊織。
「バスに乗ってからでは?」
梨乃。
「溶けるで」
のどか。
「だから買わんの!」
梨乃。
じー。
ソフトクリーム。
じー。
のどか。
「……」
結衣。
「すごい目で見とる」
のどか。
「犬に“待て”しとる気分じゃ」
梨乃。
「犬じゃない!」
のどか。
「ほいじゃ待てるね?」
梨乃。
「……」
五秒。
「買ってくる!」
のどか。
「梨乃ぉぉぉ!」
走る。
梨乃。
売店。
「一個ください!」
知佳。
時計。
「まだ大丈夫です」
のどか。
「知佳さんがそう言うなら……」
ところが。
梨乃。
ソフトクリーム。
受け取る。
そこへ。
地元女性。
「あら、さっき配信しとった子?」
梨乃。
「あ、そうだで!」
のどか。
遠く。
「あ」
結衣。
「あ」
知佳。
「嫌な予感がします」
会話。
開始。
「どこから来たの?」
「鳥取!」
「まあ!」
「今は広島の大学通っとる!」
「戦隊ヒロイン?」
「そう!」
「写真いい?」
「ええで!」
一枚。
二枚。
さらに。
売店のおじさん。
「これも地元の特産品じゃ」
梨乃。
「何これ?」
説明。
開始。
のどか。
時計。
見る。
「梨乃!」
梨乃。
「今行くー!」
一口。
ソフトクリーム。
「うまっ!」
のどか。
「味わっとる場合じゃない!」
知佳。
「あと三分です」
伊織。
「梨乃ちゃん、走って」
梨乃。
「分かったで!」
走る。
だが。
ソフトクリーム。
揺れる。
「あ!」
止まる。
舐める。
のどか。
「何で今止まるん!」
結衣。
「垂れそうだったけん」
のどか。
「結衣、解説しなくてええ!」
そして。
バス。
見える。
知佳。
「来ました」
のどか。
「梨乃!」
梨乃。
走る。
バス。
停留所。
乗客。
降りる。
ドア。
閉じる。
梨乃。
「あっ」
バス。
ゆっくり。
発車。
五人。
「…………」
見送る。
梨乃。
ソフトクリーム。
片手。
「…………」
知佳。
時計。
「行きましたね」
伊織。
「行きました」
結衣。
「行ったがね」
のどか。
静か。
梨乃。
「のどか?」
のどか。
ゆっくり。
顔。
梨乃。
向く。
「梨ぃぃぃ乃ぉぉぉぉ……!」
梨乃。
肩。
すくめる。
「ごめんだで!」
「何で十何分あって乗り遅れるん!?」
「おばちゃんが写真――」
知佳。
「山根さんから話しかけていました」
「知佳さん!」
「事実です」
梨乃。
「ソフトクリーム溶けそうだったし」
のどか。
「バスとソフトクリーム、どっちが大事なん!」
梨乃。
「今は……」
ソフトクリーム。
見る。
「ソフトクリーム?」
「今だけでもバス言え!」
配信コメント。
大爆発。
《wwwwww》
《これぞヒロヒロクォリティ》
《予定通りには絶対進まない》
《十数分あって乗り遅れる女》
《因幡の太陽、公共交通に敗北》
《ソフトクリーム>潮温泉》
《知佳さんの予言的中》
《梨乃を乗り換え地で自由行動させるな》
《ラブラドールが売店に吸い込まれた》
梨乃。
カメラ。
「誰がラブラドールだで!」
のどか。
「そこはすぐ反応する!」
しかし。
バス。
行った。
次の便。
しばらくない。
五人。
道の駅。
取り残される。
梨乃。
しょぼん。
「ごめんな」
のどか。
「もうええよ……」
梨乃。
ソフトクリーム。
差し出す。
「食べる?」
のどか。
「いらん」
「美味しいで」
「いらんって」
梨乃。
じー。
のどか。
「……」
一口。
ぱく。
「…………」
梨乃。
「どう?」
のどか。
「美味しい……」
梨乃。
笑う。
「だろ?」
のどか。
「じゃけえってバス逃してええ理由にはならん!」
結衣。
「私も食べようかな」
のどか。
「結衣!?」
伊織。
「せっかく時間できたし」
知佳。
「次の便までは余裕があります」
のどか。
「知佳さんまで!」
五分後。
五人。
並ぶ。
全員。
ソフトクリーム。
食べている。
のどか。
「……これ、確かに美味しいね」
結衣。
「美味しいわ」
伊織。
「濃厚ですね」
知佳。
「地域産品を使っているのであれば、これも取材の一環として――」
梨乃。
満面。
「ほら! 乗り遅れてよかったがな!」
四人。
「それは違う!」
コメント欄。
《全員食ってて草》
《文句言ってた4人まで買ってる》
《これぞヒロヒロクォリティ第二章》
《乗り遅れた結果グルメ企画に変わった》
《梨乃のミスを全力で楽しむ仲間たち》
《知佳まで食べてるw》
のどか。
「次は絶対乗るけえね!」
梨乃。
「分かった!」
知佳。
「次回は出発五分前から山根さんを停留所に固定しましょう」
梨乃。
「固定?」
結衣。
「のどかが掴んどけばええがね」
のどか。
「そうする」
梨乃。
「信用ないなあ!」
四人。
「ない!」
待ち時間。
ところが。
これも悪くない。
道の駅。
地元野菜。
土産。
地域案内。
そして。
人。
梨乃。
また。
知らないおばあさん。
話しかける。
今度は。
のどか。
止めない。
「広島から来たん?」
「うちは鳥取だで!」
「そっちのお姉ちゃんは?」
結衣。
「出雲です」
のどか。
「うちは広島」
知佳。
「東京です」
伊織。
「沖縄です」
おばあさん。
驚く。
「まあ、日本中から」
のどか。
笑う。
「ほんまですね」
小さな町。
江の川。
全国各地から集まった戦隊ヒロイン。
偶然のような旅。
地元の人。
配信。
コメント。
《こういうの好き》
《乗り遅れも旅だな》
《梨乃のおかげで地元の人の話聞けた》
《失敗したけど結果的にいい配信》
《これだからヒロヒロ見ちゃう》
のどか。
コメント。
読む。
梨乃。
見る。
「……まあ」
梨乃。
「何?」
「今度だけじゃけえね」
「何が?」
「乗り遅れたん」
梨乃。
笑う。
「次は気ぃつけるで!」
知佳。
「本当にお願いします」
夕方。
ようやく。
次の路線バス。
五人。
今度は。
出発十分前。
停留所。
整列。
梨乃。
のどか。
腕。
掴まれている。
梨乃。
「のどか」
「何?」
「うち逃げんで」
「念のため」
「子どもじゃないで」
知佳。
「昨日3が奇数か偶数か分からなかった方です」
梨乃。
「それまだ言う?」
伊織。
笑う。
結衣。
「バス来たがね」
梨乃。
「乗る!」
のどか。
「よし!」
五人。
乗車。
今度こそ。
潮温泉。
夕暮れ。
江の川。
水面。
夕日。
車窓。
梨乃。
窓。
静か。
のどか。
「珍しく黙っとる」
梨乃。
「綺麗だで」
結衣。
「ほんとだね」
伊織。
「こういう景色をゆっくり見られるのも、路線バスのいいところかもしれませんね」
知佳。
「鉄道時代とは速度も視点も違いますが、江の川沿いの暮らしをつなぐ交通という意味では共通しています」
のどか。
「今日はええ旅になったね」
梨乃。
「うちのおかげ?」
のどか。
「そこまでは言うとらん!」
コメント。
《夕景きれい》
《路線バス旅いいな》
《ヒロヒロ見て美郷町行きたくなった》
《梨乃が乗り遅れなかったら昼の景色だった》
《結果オーライ》
梨乃。
「ほら!」
のどか。
「視聴者まで梨乃を甘やかさんといて!」
そして。
夕方。
ようやく。
島根県邑智郡美郷町。
潮温泉。
江の川の流れに寄り添う。
静かな温泉地。
一日の移動。
乗り換え。
聞き込み。
交流。
そして。
一度の致命的なソフトクリーム。
すべてを乗り越え。
五人。
到着。
梨乃。
「着いたぁ!」
結衣。
「ようやく島根だがね」
のどか。
「長かった……」
知佳。
「予定より大幅に遅れました」
伊織。
「温泉入りたい」
梨乃。
「美肌の湯!」
のどか。
「今日の疲れ全部落とそう!」
一同。
宿。
入口。
そして。
ロビー。
そこで。
五人。
止まる。
「…………」
窓際。
テーブル。
江の川。
夕景。
そして。
男。
二人。
ノムさん。
まさにゃん。
グラス。
ワイン。
ノムさん。
顔。
赤い。
まさにゃん。
こちらも楽しそう。
のどか。
「…………」
梨乃。
「…………」
結衣。
「飲んどるね」
知佳。
「ワインですね」
伊織。
「美味しそう」
その声。
ノムさん。
振り返る。
満面。
「おお! みんな遅かったのう!」
のどか。
眉。
ぴく。
ノムさん。
ワイン。
持ったまま。
「何かあったん?」
のどか。
「……」
梨乃。
一歩。
後ろへ。
のどか。
指。
梨乃。
「この子が!」
「えっ」
「乗り換えの道の駅でソフトクリーム買いに行って、地元のおばちゃんと話し込んで、バス一本逃したんです!」
ノムさん。
「ほう」
「そのせいで!」
ノムさん。
ワイン。
一口。
「うまいのう、これ」
のどか。
「聞いてます!?」
「聞いとる聞いとる」
「絶対聞いてない!」
ノムさん。
伊織へ。
「伊織ちゃん、これ飲んでみい。ええぞ」
伊織。
「あとでいただきます」
のどか。
「先輩!」
まさにゃん。
「いや、のどかちゃん。ここのワインほんと美味しいよ」
「まさにゃんまでそっち!?」
まさにゃん。
「もう運転終わったから!」
梨乃。
「ノムさん、温泉入った?」
「入った」
梨乃。
「先に入ったらいけん言うたがな!」
「待ちきれんかった」
「ずるい!」
のどか。
「うちら何時間かかったと思うとるんですか!」
ノムさん。
「でも面白かったじゃろ?」
「面白かったけど!」
知佳。
「そこを認めてしまうと野村さんの思うつぼです」
のどか。
「あっ、そうじゃった!」
ノムさん。
グラス。
「まあまあ、飲め飲め」
のどか。
「うちはそんな強くないです!」
結衣。
「私も」
梨乃。
「うちも少しでええ」
伊織。
「私はいただきます」
知佳。
「私は食事と一緒に」
伊織。
ノムさん。
並ぶ。
ワイン。
非常に絵になる。
そして。
生配信。
まだ。
続いている。
コメント。
《ノムさん飲んでるw》
《またか》
《まさにゃんまでw》
《遥室長見てないよね?》
《誰か新橋に通報しろ》
のどか。
画面。
見る。
「あ」
梨乃。
「何?」
「この流れ……」
結衣。
「嫌な予感するがね」
知佳。
コメント欄。
見る。
「……来ました」
全員。
「え?」
一つ。
新着コメント。
芹沢遥(本人)
『…………』
コメント欄。
一瞬。
静まる。
《え》
《来た》
《本人降臨》
《点が怖い》
《何も言ってないのに怖い》
のどか。
顔。
引きつる。
「先輩」
ノムさん。
「何じゃ?」
「来ました」
「誰が?」
のどか。
スマートフォン。
見せる。
ノムさん。
画面。
見る。
芹沢遥(本人)
『…………』
ノムさん。
「…………」
まさにゃん。
グラス。
そっと。
テーブル。
置く。
コメント。
《まさにゃん置いたw》
《危機管理能力ある》
《ノムさんは?》
ノムさん。
一口。
飲む。
のどか。
「何で飲むん!」
次。
芹沢遥(本人)
『ノムさん』
コメント。
《名前呼ばれた》
《終わった》
《親にフルネームで呼ばれるやつ》
梨乃。
小声。
「怖いで」
結衣。
「うん」
伊織。
静かにグラス。
置く。
知佳。
「前日の警告を考慮すれば、当然でしょう」
ノムさん。
「いや、昨日とは違うんじゃ」
のどか。
「何が!?」
「今日は撮影終わりじゃろ」
のどか。
カメラ。
指。
「生配信中です!」
ノムさん。
「あ」
コメント。
《あ、じゃない》
《完全に忘れてたw》
《芸能生活50年超》
そして。
また。
芹沢遥(本人)
『昨日、何て言ったか覚えてるのら?』
コメント欄。
《詰問開始》
《室長怖い~》
《誰かノムさん助けて》
《いや助けるな》
梨乃。
ノムさんへ。
「覚えとる?」
ノムさん。
「……」
のどか。
「先輩?」
ノムさん。
「まあ」
ワイン。
見る。
「このワイン、ほんまにうまいんよ」
のどか。
「現実逃避せんといて!」
視聴者。
《wwwww》
《ワインで逃げるな》
《三次から何も学んでない》
《これぞノムさんクォリティ》
そして。
遥。
トドメ。
芹沢遥(本人)
『ノムさん。緊急スタッフ会議、議題追加なのら』
一瞬。
全員。
凍る。
ノムさん。
グラス。
止まる。
まさにゃん。
「……俺も?」
コメント欄。
大爆発。
《議題追加www》
《会議が長くなった》
《まさにゃん巻き添え》
《遥室長ガチ》
《ノムさん御愁傷様》
《潮温泉まで来て処分が増えた男》
《美肌の湯でもこのダメージは取れない》
梨乃。
ぽつり。
「ノムさん、元気出しんさい」
ノムさん。
「梨乃ちゃん……」
梨乃。
「今日はもういっぱい飲んだで」
ノムさん。
「慰め方おかしいじゃろ!」
のどか。
爆笑。
結衣。
肩。
震える。
伊織。
顔をそらして笑う。
知佳。
淡々。
「なお、追加された議題については野村さんご自身に責任があります」
ノムさん。
「知佳ちゃんまで!」
まさにゃん。
「俺、本当に運転してただけだからね!?」
コメント。
《まさにゃん必死》
《証人:配信視聴者一同》
結局。
五人。
温泉。
入る。
江の川。
夕暮れ。
静かな湯。
梨乃。
「生き返るでぇ……」
のどか。
「今日はよう歩いたし、よう走ったしね」
結衣。
「梨乃のせいで走ったけどね」
梨乃。
「まだ言う?」
伊織。
「でも楽しかった」
知佳。
「地域交通について理解するという意味でも、有意義な一日でした」
のどか。
「ほんまじゃね」
鉄道が消えた場所。
それでも。
バスが走る。
人が乗る。
街と街。
集落と集落。
人と人。
まだ。
つながっている。
そして。
予定通り行かなかったからこそ。
出会えた人もいる。
話せたこともある。
梨乃。
「じゃあ、乗り遅れてよかった?」
のどか。
「それとこれとは別!」
温泉。
笑い声。
響く。
夜。
配信終了。
視聴者。
感想。
《路線バス回めっちゃよかった》
《地元の人との交流が最高》
《江の川の夕景きれいだった》
《潮温泉行きたい》
《梨乃は次から乗り換え地点で監視員つけろ》
《知佳が時刻表担当、のどかが梨乃担当で》
《伊織さんずっと落ち着いてて好き》
《結衣ちゃん地元入ってから嬉しそう》
《まさにゃん運転お疲れ》
そして。
圧倒的支持。
《次回はノムさんも路線バスで行け》
のどか。
ノムさんへ。
画面。
突き出す。
「ほら!」
梨乃。
「みんな言っとるで!」
結衣。
「多数決なら決まりだがね」
知佳。
「圧倒的多数ですね」
伊織。
「私も賛成」
まさにゃん。
「俺も賛成!」
ノムさん。
「何でまさにゃんまで!」
「俺も旅したい!」
ノムさん。
グラス。
持つ。
「嫌じゃ。わしは車がええ」
五人。
「ずるい!」
こうして。
『ヒロヒロ山陰どうでしょう』。
ようやく。
島根県へ。
潮温泉へ。
たどり着いた。
バスを乗り継ぎ。
地元の人と話し。
梨乃がバスを逃し。
全員でソフトクリームを食べ。
江の川の夕景に感動し。
最後は。
またノムさんが遥室長に怒られた。
旅として。
大成功。
企画として。
大成功。
ノムさんの緊急スタッフ会議。
議題。
増加。
そして。
肝心の鳥取。
まだ。
影も形もない。
翌朝。
因幡の太陽・山根梨乃は。
まだ知らない。
自分の故郷へ向かうまでに。
ヒロヒロ一行が。
まだまだ島根県内で盛大に寄り道することになるという事実を。




