ヒロヒロ山陰どうでしょう サイコロ振ったら三次でした。 ――目的地は鳥取・島根、なのに最初の一投でまだ広島県!? 江波のどか・山根梨乃・神門結衣、運命を六面体に丸投げする山陰大遠征
水曜日だった。
それも、ごく普通の水曜日の朝だった。
広島市内。
江波のどかの実家、お好み焼き店「みさちゃん」。
店の中では昼営業に向けて仕込みが始まっている。
大量のキャベツ。
麺。
豚肉。
天かす。
ねぎ。
そして、開店前から鉄板の前に立つのどかの母。
その隣では祖母が手際よく材料を整えていた。
いつもと違うのは。
店の前に――。
カメラ。
マイク。
折り畳みテーブル。
配信用パソコン。
そして。
やたら大きなサイコロ。
が置いてあることだった。
近所のおじさんが通りかかる。
「のどかちゃん」
「おはようございます!」
「今度は何やるん?」
江波のどかは、大きなサイコロを見る。
その横で腕を組んでいるノムさんを見る。
もう一度サイコロを見る。
「……うちも、これから聞くんです」
おじさん。
「ああ、ノムさんか」
「はい」
「ほんなら、ろくなことじゃないな」
「何でみんな分かるんですか!」
広島市民。
ヒロヒロへの理解が早かった。
今日、ここから始まるのは。
正式な組織図には載っていない。
だが、半ば公認。
そして広島での知名度だけなら、下手な正式支部をしのぐ。
戦隊ヒロインプロジェクト広島支部――通称、
ヒロヒロ。
その新企画。
題して。
『ヒロヒロ山陰どうでしょう』
目的地。
鳥取県。
島根県。
最終的には鳥取市から出雲方面まで。
出演。
広島代表。
江波のどか。
鳥取代表。
山根梨乃。
島根代表。
神門結衣。
通称、
ヒロヒロ三人娘。
そして企画・監修。
芸能界生活五十年以上。
ブラックキャッププロダクションの大ベテラン。
野村吉彦。
通称、
ノムさん。
今回の旅には、一つだけ重大なルールがある。
旅程を。
出演者が決めない。
スタッフも決めない。
ノムさんですら、最終決定はしない。
決めるのは――。
サイコロ。
かつて地方発の深夜番組から全国的なブームとなり、出演者を無慈悲な長距離移動へ送り込みながら視聴者だけを大喜びさせた、あの手の旅企画を思わせるシステムである。
ただし。
普通の旅番組とヒロヒロには、大きな違いがある。
サイコロの目を書いたのが、
だいたいノムさん。
つまり。
ろくでもない。
「みなさーん、おはようございます!」
午前九時。
生配信開始。
カメラの前。
ノムさん。
その後ろ。
のどか。
梨乃。
結衣。
コメント欄。
一気に流れる。
《始まった》
《平日の朝からヒロヒロ》
《仕事中だけど見る》
《ノムさん今日酒飲んでない?》
ノムさん。
コメントを読む。
「飲んどらんわ!」
のどか。
すぐ横から。
「飲酒しての動画出演は禁止でしょうが!」
コメント欄。
《酒蔵回www》
《伝説の東広島》
《巴投げ》
《一本!》
《のどか怖かった》
ノムさん。
「もうあの話はええじゃろ!」
のどか。
「先輩が作った伝説でしょう!」
山根梨乃がカメラへ顔を近づける。
「うち、あの動画今でも見るで。ノムさん、ほんに綺麗に飛んどったで!」
「梨乃ちゃんまで言うな!」
神門結衣。
静かに。
「受け身も綺麗だったわ」
ノムさん。
「褒めるとこそこか!」
東広島の造り酒屋。
新酒紹介。
本来なら非常に文化的な企画だった。
しかしノムさん。
「美味い、美味い」
と新酒をグイグイ。
出来上がる。
のどかへ絡む。
そして。
「ええ加減にしんさい!」
柔道有段者・江波のどか。
巴投げ。
ノムさん。
宙を舞う。
コメント欄。
爆発。
再生数。
数百万回。
遥室長。
激怒。
以後、
「ノムさんを含め、飲酒状態での動画出演禁止」
という、ほとんど名指しに近い規則ができた。
ノムさん。
「遥ちゃんは、ちいと真面目すぎるんよ」
のどか。
「そこは遥室長が正しいです」
結衣。
「うん。正しいわ」
梨乃。
「でも面白かったで?」
のどか。
「梨乃は視聴者目線で話さんといて!」
ノムさん。
咳払い。
「ほいじゃ本題じゃ」
巨大サイコロを持ち上げる。
「今回、三人には山陰へ行ってもらいます!」
梨乃。
「鳥取!」
結衣。
「出雲」
のどか。
「そこまでは聞いとります」
「ただし」
のどか。
「はい、来た」
「普通に行ったんじゃ面白うない」
「やっぱり!」
ノムさん。
満面。
「今回の旅は、移動手段も行先もサイコロで決めます!」
梨乃。
「楽しそうだで!」
結衣。
「深夜番組みたいだね」
のどか。
「見る方は楽しいじゃろうね!」
「ほうじゃ」
「やる方は大変なんです!」
ノムさん。
「そこが面白いんじゃろ」
「完全に他人事じゃ!」
テーブル。
大きなボード。
ノムさん。
布を取る。
ばさっ。
【運命の第一投 広島脱出サイコロ】
1 ヒッチハイクで三原へ
2 路線バスだけを乗り継いで東広島へ
3 新幹線で福山へ
4 在来線で三次へ
のどか。
「……ここまでは分かります」
「じゃろ」
「一応、広島市から動いとる」
「ほう」
「問題は下なんですよ」
5。
レンタサイクルで呉まで行って名物を食べ、広島へ戻って再投。
のどか。
「何で戻ってくるん!」
梨乃。
「呉、ええがな。行こうや」
「山陰行くんよ!」
「でも名物食べられるで」
「食べ歩き旅じゃない!」
結衣。
「自転車は健康にはいいよ」
のどか。
「結衣まで乗らんといて!」
そして。
6。
宮島へ渡って厳島神社で旅の安全祈願。その後広島市内へ帰還。ノムさんとのジャンケンに勝てば再投。負ければ山陰遠征は翌日から。
沈黙。
のどか。
「…………」
梨乃。
「宮島!」
結衣。
「安全祈願」
のどか。
ノムさんを見る。
「先輩」
「何じゃ」
「これ考えた時、酒入っとらんですよね?」
「シラフじゃ」
「余計悪いわ!」
ノムさん。
「旅の安全は大事じゃろ」
「そうじゃない!」
「厳島神社にお参りできる」
「そうじゃない!」
「鹿もおる」
梨乃。
「ええなあ」
「梨乃!」
結衣。
「私は6でもいいかな」
「結衣まで!?」
結衣。
静かな顔。
「安全第一だけん」
のどか。
「一番まともなこと言いながら、一日まるごと潰す案を支持せんといて!」
コメント欄。
《6!》
《6出せ》
《5も見たい》
《ヒッチハイク希望》
《新幹線だけはやめろ》
のどか。
画面を見る。
「あんたら、うちらが苦労するほど喜ぶんじゃね!」
コメント。
《はい》
《そうです》
《そのための番組》
のどか。
「正直すぎるわ!」
第一投。
振るのは。
ヒロヒロの事実上のリーダー。
江波のどか。
サイコロ。
両手。
重い。
物理的にも。
精神的にも。
のどか。
「3」
梨乃。
「5」
「やめて」
結衣。
「6」
「結衣!」
ノムさん。
「早う振らんか」
のどか。
目を閉じる。
「頼むけえ……」
ぶつぶつ。
「5と6だけはほんまにやめてください。1も嫌です。できれば3。新幹線。空調。指定席。文明」
ノムさん。
「願いが具体的じゃのう」
「当たり前です!」
梨乃。
「うち、ヒッチハイクでもええで。知らん人と話すん好きだで」
のどか。
「梨乃は十五分で運転手さんの家族構成まで聞き出しそうじゃけえ、余計怖いんよ!」
結衣。
「三十分あれば夕食に呼ばれる」
梨乃。
「行くで」
のどか。
「行くな!」
そして。
サイコロ。
投下。
ごろん。
ごろごろ。
5。
のどか。
「ああああ!」
転がる。
6。
「やめてえええ!」
さらに。
ころ。
停止。
三人。
覗く。
ノムさん。
見る。
カメラ。
寄る。
4。
在来線で三次へ。
のどか。
「…………」
両手。
胸。
深い息。
「よかったぁぁぁ……」
梨乃。
「三次だで!」
結衣。
「北へ進めるね」
ノムさん。
「4でそんな喜ぶ?」
のどか。
「5と6見せられた後なら大当たりです!」
コメント欄。
《普通だった》
《つまらん》
《5希望だった》
《のどか生還》
《とりあえず北》
のどか。
「普通で何が悪いん!」
こうして。
山陰遠征。
記念すべき最初の目的地。
広島県三次市。
決定。
三次。
広島県北部。
中国山地の懐に位置する盆地の街。
複数の川が集まり、古くから備北地方の交通・商業の要衝として栄えてきた。
山。
川。
田園。
そして朝霧。
季節や条件が整えば、盆地を覆う「霧の海」の幻想的な景色でも知られる。
広島市街から見れば、
「山陰へ向かうため、とりあえず北へ進んだ感」が非常に強い場所。
梨乃。
「三次から鳥取近い?」
のどか。
「さっきから鳥取しか頭にないん?」
「地元だで」
結衣。
「私も出雲へ行きたいわ」
のどか。
「二人とも故郷に帰る旅みたいになっとるけど、うちだけ完全に付き添いじゃね!」
梨乃。
「のどかも鳥取来たらええがな」
「行くんよ!」
問題は。
どうやって三次へ行くか。
サイコロ。
4。
在来線。
三人。
「みさちゃん」から出発。
のどか母。
店先。
「気ぃつけてね!」
祖母。
「ちゃんと食べるんよ!」
梨乃。
「はーい!」
のどか。
「何で梨乃が一番返事ええん!」
母。
梨乃へ。
「梨乃ちゃん、おにぎり持った?」
「持ったで!」
「着替えは?」
「持った!」
「歯ブラシ」
「持った!」
のどか。
「お母さん」
「何?」
「誰の娘送り出しよるん?」
母。
「三人とも」
「梨乃は鳥取の山根家の娘!」
梨乃。
「でもここにも布団あるで」
「それを認めとらんのんよ!」
結衣。
横。
静か。
「私のおにぎりもありがとうございます」
祖母。
「結衣ちゃんのもちゃんとあるよ」
結衣。
「だんだん」
のどか。
「結衣まで完全に馴染んどる……」
三人。
荷物。
背負う。
最寄りの電停まで徒歩。
広島の朝。
車。
自転車。
通勤。
街。
そして。
路面電車の走行音。
のどか。
「あ、来た!」
広島市民の足。
安芸電鉄、通称あきでんの路面電車。
のどかにとって。
父親が運転士をしている。
幼い頃から。
見慣れた乗り物。
梨乃。
「今日はお父さんの電車?」
のどか。
「勤務表知らん」
「運転してたら面白いのに」
「普通に仕事中じゃ!」
結衣。
「あ」
「何?」
「後ろからお父さん来たら、のどか気まずそう」
「何で!」
梨乃。
「『切符持っとるか』って言われるで」
「うちはICカードじゃ!」
電停。
三人。
並ぶ。
梨乃。
大きなリュック。
のどか。
じっと見る。
「梨乃」
「何?」
「荷物多ない?」
「そう?」
「何泊分?」
梨乃。
「分からん」
「何で?」
「サイコロ旅だけぇ、いつ帰れるか分からんがな」
のどか。
「……」
結衣。
「正しい」
のどか。
「この企画で初めて梨乃が一番まともなこと言うた……」
梨乃。
「失礼だで!」
「中身何?」
「服」
「うん」
「お菓子」
「減らせ」
「充電器」
「いる」
「ぬいぐるみ」
「いらん!」
梨乃。
リュック。
開ける。
犬のぬいぐるみ。
のどか。
「何でラブラドールなん!」
梨乃。
「かわいいがな」
結衣。
「共食い」
梨乃。
「うち犬じゃないで!」
のどか。
吹き出す。
「結衣がそんなこと言うん!?」
結衣。
少し笑う。
「たまには」
梨乃。
「出雲の静謐が毒吐いたで!」
路面電車。
到着。
乗車。
広島市街。
ゆっくり。
走る。
梨乃。
窓。
「やっぱ路面電車ええなあ」
のどか。
「鳥取にもあると思っとる?」
「ないで」
「そこは知っとるんじゃ」
「地元だけぇ」
結衣。
「出雲にもないわ」
のどか。
「広島来た頃どうじゃった?」
梨乃。
「最初、道路の真ん中を電車が走っとってびっくりしたで」
結衣。
「私も」
のどか。
「うちは逆にない街行くと、何か物足りん」
梨乃。
「道路広いなーって思う」
結衣。
「電停探してしまう」
のどか。
ちょっと嬉しそう。
「もう二人とも広島市民みたいじゃん」
梨乃。
「うち、みさちゃんに住んどるし」
「住んどらん!」
車内。
乗客。
くす。
梨乃。
広告を見る。
「のどか」
「何?」
「広島駅着いたら何食べる?」
「今、朝ご飯食べたばっかりじゃろ!」
「おにぎりあるで」
「それ昼!」
「一個だけ」
「ダメ!」
梨乃。
「お腹空いたがなぁ」
のどか。
「ほんまラブラドールみたいじゃね!」
梨乃。
「また犬扱い!」
結衣。
「犬は決まった時間にご飯」
のどか。
「梨乃はいつでもご飯」
結衣。
「犬より食べる」
梨乃。
「二人してひどいで!」
そして。
数分後。
のどか。
「……一個だけね」
梨乃。
「やった!」
結衣。
「甘い」
のどか。
「お母さんが作ったおにぎり見せられたらしゃあないじゃろ」
梨乃。
包み。
開く。
のどか。
「電車の中で食べんの!」
「まだ食べんで?」
「開けるな!」
広島駅。
到着。
駅前。
人。
三人。
降車。
梨乃。
「もう三次?」
のどか。
「広島駅!」
「まだ広島市?」
「当たり前じゃろ!」
結衣。
「旅が始まって一時間も経ってない」
梨乃。
「鳥取、遠いなあ」
のどか。
「まだ広島駅でそれ言われたら先が思いやられるわ!」
駅構内。
今度は在来線。
三次方面。
改札。
ホーム。
のどか。
「あとは列車乗ったら三次じゃ」
梨乃。
「乗り換えない?」
「ルートによるけど、今日の指定は在来線で三次」
結衣。
「ノムさんは?」
のどか。
「そうじゃ!」
スマートフォン。
連絡。
のどか。
「先輩、今どこです?」
ノムさん。
電話。
『もう車じゃ』
「車?」
『おう』
「誰が運転しよるん?」
『まさにゃん』
のどか。
「……」
少し離れた道路。
ノムさんの自家用車。
運転席。
葛城正男室長代理。
通称まさにゃん。
助手席。
ノムさん。
快適。
エアコン。
音楽。
ドリンクホルダー。
のどか。
電話。
「ずるくないですか!?」
ノムさん。
『何が?』
「うちらサイコロで在来線!」
『ほう』
「先輩、車!」
『わしは進行役じゃ』
「まさにゃんは?」
電話の向こう。
まさにゃん。
『俺もそれ聞きたい!』
梨乃。
電話へ。
「まさにゃーん!」
『何?』
「三次で待っとってな!」
『待ってるよ!』
のどか。
「何で普通に仲ええん!」
結衣。
「梨乃だから」
梨乃。
「まさにゃん、お土産買ってきて!」
まさにゃん。
『何で俺がお土産買うの!?』
ノムさん。
『梨乃ちゃん、何がええ?』
のどか。
「買わんでええ!」
車。
まさにゃん。
ハンドル。
ちら。
ノムさん。
スマートフォン。
メモ。
「野村さん」
「何じゃ?」
「何してるんです?」
「次のサイコロ作っとる」
まさにゃん。
「もう?」
「三次着いたらすぐ振らせるけえ」
「まともな目も入れてくださいよ」
「全部まともじゃ」
「最初の6、宮島行って広島へ帰るだけでしたよね?」
「旅の安全祈願じゃ」
「山陰に近づいてません」
ノムさん。
「まさにゃんも遥ちゃんみたいなこと言うのう」
「一応、室長代理ですから」
ノムさん。
にや。
まさにゃん。
見る。
「その顔、絶対ろくでもない6考えたでしょう」
「6がおもろいんじゃ」
「やめてくださいよ……」
広島駅。
ホーム。
三人。
列車。
乗り込む。
座席。
梨乃。
窓側。
「やった!」
のどか。
「子どもか!」
結衣。
向かい。
荷物を整える。
静か。
のどか。
荷物。
座る。
ため息。
「やっと落ち着いた」
梨乃。
「のどか」
「何?」
「おにぎり」
「まだ早い!」
「もう電車乗ったで」
「基準そこ!?」
結衣。
「一個だけならいいんじゃない?」
のどか。
「また結衣が梨乃側についとる!」
梨乃。
包み。
開ける。
「鮭!」
のどか。
「……うち何?」
自分も開ける。
「昆布」
結衣。
「私は梅」
三人。
無言。
食べる。
のどか。
「おいしい」
梨乃。
「みさちゃんのおばちゃん、料理上手だで」
のどか。
「うちのお母さん!」
梨乃。
「知っとるがな」
結衣。
「のどかのお母さん、梨乃には完全に二人目のお母さんみたい」
のどか。
「うちの立場がどんどん減っとるんよ……」
列車。
広島市街から離れていく。
家。
道路。
川。
やがて。
山。
緑。
景色。
少しずつ変わる。
梨乃。
窓へ張りつく。
「山だで!」
のどか。
「鳥取も山あるじゃろ」
「あるで」
結衣。
「島根も」
「知っとる」
梨乃。
「中国地方、山ばっかりだがな」
のどか。
「雑なまとめ方せんといて!」
少しして。
梨乃。
「ここ鳥取?」
「まだ!」
十分後。
「そろそろ県境?」
「三次も広島県!」
さらに。
「島根近い?」
結衣。
「梨乃」
「何?」
「寝た方が早いよ」
「そうする」
三分後。
梨乃。
熟睡。
のどか。
「早っ!」
こて。
頭。
のどかの肩。
のどか。
「……」
結衣。
梨乃。
見る。
小声。
「ほんにラブラドールみたいだわ」
のどか。
笑いを堪える。
「結衣、それ本人起きとる時言うたら怒るよ」
「怒ってもすぐ忘れるけん」
「確かに」
梨乃。
寝言。
「……鳥取……」
のどか。
「どんだけ帰りたいん」
しばらく。
静か。
のどか。
窓の外。
川。
山。
小さな駅。
地方の町。
結衣。
「のどか」
「ん?」
「楽しそう」
「うち?」
「うん」
のどか。
少し考える。
「まあね」
前回。
広島・山口。
オンボロバス。
大騒ぎ。
今回。
サイコロ。
もっと大騒ぎになりそう。
それでも。
親友二人。
地元。
鳥取。
島根。
三人で回る。
のどか。
「二人の地元行くん、楽しみなんよ」
結衣。
少し微笑む。
「出雲、案内するわ」
「頼むね」
「実家にも寄って」
「土産物屋じゃろ?」
「うん」
「梨乃は?」
二人。
眠る梨乃を見る。
結衣。
「……鳥取砂丘で迷子になりそう」
のどか。
「地元なのに!?」
梨乃。
目を閉じたまま。
「ならんで……」
二人。
「起きとったん!?」
「寝とる……」
のどか。
「どっちなん!」
その頃。
新橋ヒロ室。
遥室長。
パソコン。
ヒロヒロ生配信。
確認。
真帆。
資料。
「現在、三人は三次へ移動中です」
遥。
「4だったのら?」
「はい」
遥。
ほっ。
「まともなのら」
真帆。
「5と6に比べれば」
遥。
「ノムさんは?」
「葛城室長代理に車を運転させ、別ルートで三次へ向かっています」
遥。
「まさにゃんまで巻き込まれたのら?」
「はい」
「室長代理なのら……」
「本人も同じことを言っていました」
画面。
眠る梨乃。
のどか。
結衣。
遥。
少し笑う。
「まあ、今のところ平和なのら」
真帆。
スマートフォン。
「あ」
「何?」
「次のサイコロ担当、山根さんだそうです」
遥。
笑顔。
消える。
「……梨乃ちゃんなのら?」
「はい」
さらに。
「野村さんから『次は6が一番おもろい』と連絡が」
遥。
「…………」
真帆。
「室長?」
遥。
「企画書にその6書いてないのら」
「現地追加案だそうです」
「現地で勝手に追加しちゃダメなのらー!」
三次。
先に到着。
ノムさん。
まさにゃん。
車。
駐車。
まさにゃん。
「着きましたね」
「おう」
「三人、もう少しかかりますよ」
ノムさん。
「その間に準備じゃ」
車のトランク。
開く。
次のボード。
サイコロ。
まさにゃん。
ちら。
六択。
見る。
「……野村さん」
「何じゃ」
「これ本当にやるんですか?」
「面白いじゃろ」
「5と6、ひどくないですか?」
「旅は波乱がないとのう」
まさにゃん。
深い。
ため息。
「俺、遥室長に怒られる側なんですけど」
ノムさん。
「大丈夫じゃ」
「何がです?」
「わしも一緒に怒られる」
「何の安心にもならない!」
列車。
三次へ。
梨乃。
目覚める。
「着いた?」
のどか。
「もうすぐ」
「鳥取?」
「三次!」
結衣。
スマートフォン。
「ノムさんからメッセージ」
のどか。
「何て?」
結衣。
読む。
『次は梨乃ちゃん。6が一番おもろいぞ』
のどか。
固まる。
梨乃。
目。
輝く。
「6出すで!」
「出さんでええ!」
「でもノムさんが」
「ノムさんの期待に応えんでええ!」
結衣。
「視聴者コメントも6が多い」
のどか。
「結衣、読み上げなくていい!」
梨乃。
「6! 6!」
のどか。
「始まる前から願掛けすんな!」
車内。
数名の乗客。
振り返る。
のどか。
即座に。
「すみません……」
柔道家。
礼儀正しい。
梨乃。
小声。
「6」
のどか。
「聞こえとるけえ!」
結衣。
口元。
少し笑う。
静かな出雲の魔法少女。
因幡の太陽。
広島の武闘派。
性格。
全然違う。
それでも。
大学では親友。
ヒロヒロでは。
三人娘。
列車は。
川と山に囲まれた盆地へと入っていく。
三次。
山陰への第一歩。
――とは言っても。
まだ広島県。
鳥取にも。
島根にも。
到達していない。
のどか。
窓の外。
「……ほんまに鳥取まで着くんかね」
梨乃。
「着くで」
「何で自信あるん?」
「うちの地元だけぇ」
「理由になっとらん!」
結衣。
静かに。
「サイコロ次第だがね」
のどか。
「それが一番怖いんよ!」
列車。
三次へ。
一方。
駅前では。
ノムさんが。
次なる六択を手に待っている。
しかも。
5と6。
ろくでもない。
次にサイコロを握るのは。
山根梨乃。
知力。
かなり弱い。
方向感覚。
怪しい。
人懐っこさ。
異常に高い。
そして。
なぜか周囲へ幸運と能力上昇をばら撒く、
因幡の太陽。
梨乃。
窓へ顔を寄せる。
「三次見えてきたで!」
のどか。
「よし」
結衣。
「次だね」
梨乃。
拳。
握る。
「絶対6出すで!」
のどか。
「じゃけえ、出すな言うとるじゃろ!」
こうして。
ある水曜日。
お好み焼き店「みさちゃん」前で投じられた一個のサイコロから始まった、
『ヒロヒロ山陰どうでしょう』
第一目的地。
三次。
決定。
目的地は。
鳥取。
島根。
なのに。
まだ。
広島県から出られていない。
だが。
配信の同時視聴者数だけは。
すでに通常の地域PR配信を軽々と超えていた。
新橋。
遥室長。
数字を見る。
「何でこういうバカな企画の時だけ伸びるのら……」
真帆。
淡々。
「ヒロヒロですから」
遥。
「その一言で全部説明するの、やめてほしいのら……」
ヒロヒロ三人娘。
山陰サイコロ珍道中。
まだ。
第一投が終わっただけである。




