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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1161/1168

『ヒロヒロ山陰どうでしょう』 ――予算はない、計画も甘い、なぜか再生数だけ伸びる。江波のどか・山根梨乃・神門結衣、鳥取から出雲まで行き当たりばったり大遠征計画

戦隊ヒロインプロジェクトには、全国各地で地域色を前面に押し出した派生ユニットが存在する。


北日本を中心に活動するノースフロント。


中部圏を担当するヒロ室東海(仮称)。


ちなみに「仮称」まで含めて正式名称である。


四国四県を担当する四国総局。


九州一円を走り回る九州支部、通称ヒロ九。


それぞれが一定の指揮系統を持ち、予算があり、担当者がいて、戦隊ヒロインプロジェクトの組織図にもきちんと名前が載っている。


――ただし。


ひとつだけ。


全国的な知名度はやたら高いくせに、組織図を何度見ても名前が出てこない集団があった。


広島支部。


通称――


ヒロヒロ。


正式な組織図には載っていない。


しかし非公認でもない。


イベント出演申請を出せば普通に通る。


自治体から仕事も来る。


ヒロ室から活動費が出ることもある。


戦隊ヒロイン公式動画チャンネルにも堂々と映る。


つまり。


半ば公認。


遥室長に言わせれば、


「公認した覚えはあるような、ないようななのら」


という、極めて曖昧な存在であった。


そもそもの始まりは、江波のどかだった。


広島県広島市出身。


二十一歳。


地元大学へ通う女子大生。


ある日、新橋のヒロ室までやって来て、遥室長へ真正面から直談判したのである。


「室長、お願いがあるんです」


「何なのら?」


「広島でも、もっと大々的に戦隊ヒロインの活動やらせてもらえませんか?」


遥は首を傾げた。


「イベントなら今でもやってるのら」


「そうじゃなくてですね」


のどかは身を乗り出す。


「広島を拠点にして、中国地方の街をもっと回りたいんです。イベントもやりたいし、観光PRもやりたいし、平和活動も地域交流もしたいし、動画も作りたいし」


「誰が仕切るのら?」


「ノムさん」


遥。


「……ノムさん?」


野村吉彦。


通称ノムさん。


有名芸能事務所ブラックキャッププロダクションの大ベテラン。


芸能界生活五十年以上。


広島県出身。


戦隊ヒロインプロジェクトのイベント運営にも深く関わり、波田顧問とも長い付き合い。


しかも江波のどかにとっては、同じ高校の大先輩であった。


遥は少し考えた。


ノムさんなら現場経験はある。


芸能界の人脈もある。


地方興行にも詳しい。


多少癖はあるが、仕事そのものはできる。


そこで。


遥は言ってしまった。


「……ちゃんとノムさんが面倒見てくれるなら、いいのら」


のどかの顔が輝く。


「ほんまですか!」


「ただし、ちゃんと――」


「ありがとうございます!」


「最後まで聞くのら!」


しかし遅かった。


その日の夕方。


のどかはノムさんへ電話していた。


「先輩、許可出ました!」


『ほうか!』


「広島で好きに活動できます!」


『遥ちゃん、太っ腹じゃのう!』


正確には。


遥はそこまで言っていない。


だが。


この瞬間。


広島支部――ヒロヒロは誕生した。


ただし、正式な組織図には載らなかった。


そして。


遥室長は後々まで、


「あの時、もっと条件を細かく決めておけばよかったのら」


と後悔することになる。


なぜなら。


ノムさん。


江波のどか。


この二人を組ませると。


誰もブレーキを踏まなかった。


最初こそ。


広島市内の商店街イベント。


地元物産展。


平和関連行事。


地域スポーツとの交流。


まともだった。


しかし。


ノムさんが言った。


「のどか」


「はい」


「普通にやっても面白うないのう」


「そうですね」


ここで、


「そうですね」


と言ってしまうのが江波のどか最大の問題である。


ノムさん。


「戦隊ヒロインが真面目にくだらんことやるんはどうじゃ?」


のどか。


「それ、面白そうですね」


「じゃろ?」


以来。


企画の方向性が完全に深夜番組になった。


観光地紹介のはずなのに途中から大食い。


地域交流のはずなのに突然対決。


地元産品PRのはずなのに罰ゲーム。


しかも。


撮影は本気。


編集も本気。


音響も本気。


テロップも本気。


ノムさんの芸能界人脈を使うため、カメラマンまで妙に上手い。


内容だけがバカ。


ところが。


これが受けた。


動画。


五十万回。


次。


百万回。


さらに次。


二百万回。


気がつけばヒロヒロの人気企画は数百万再生。


新橋。


遥室長。


モニターを見る。


「何でなのら……」


真帆。


「数字は出ています」


「そういう問題じゃないのら」


「広告効果も高いです」


「だから余計に止めにくいのら!」


そして。


ヒロヒロ史上、現在も語り継がれる伝説回が生まれる。


舞台。


東広島。


造り酒屋。


新酒の時期に行われた配信企画だった。


本来の目的。


地元の酒造りを学ぶ。


杜氏から話を聞く。


発酵文化を紹介する。


二十歳以上の出演者が、適量を試飲する。


ここまでは。


実に文化的。


遥室長も企画書を読んで、


「これならいいのら」


と許可した。


問題は。


出演者の一人が野村吉彦だったこと。


試飲。


一杯目。


ノムさん。


「うまいのう!」


二杯目。


「いやあ、これはええ酒じゃ!」


三杯目。


のどか。


「先輩、試飲ですよ」


「分かっとる分かっとる」


四杯目。


「のどか、お前も飲め!」


「うちはまだ撮影中です!」


「広島の酒じゃぞ!」


「知っとります!」


五杯目。


ノムさん。


顔。


真っ赤。


配信スタッフ。


小声。


「これ、大丈夫ですか?」


のどか。


「大丈夫じゃないです」


ところが。


生配信。


もう止めにくい。


ノムさん。


カメラへ。


「皆さん! 東広島の酒は最高じゃ!」


コメント欄。


爆速。


《ノムさん出来上がってる》


《酔ってない?》


《完全に飲み会》


《のどか止めろ》


のどか。


「先輩、水飲んでください」


ノムさん。


「のどかぁ」


「何です」


「お前はええ後輩じゃのう」


肩を組もうとする。


のどか。


「ちょ、先輩」


「高校の頃からお前みたいな後輩がおったらのう」


「その頃うち生まれてません!」


「細かいこと言うな!」


さらに絡む。


のどか。


眉。


ぴく。


「先輩」


「何じゃ」


「ええ加減にしんさい」


次の瞬間。


柔道有段者。


江波のどか。


ノムさんの腕を取り。


腰。


入る。


ノムさん。


「お?」


巴投げ。


どん。


もちろん畳敷きの休憩スペース。


スタッフ。


「ああーっ!」


梨乃。


「ノムさん飛んだ!」


結衣。


「綺麗」


ノムさん。


仰向け。


天井を見る。


「……一本じゃ」


のどか。


「酔っぱらいが判定せんでください!」


コメント欄。


崩壊。


《一本!》


《これは伝説》


《広島の後輩怖い》


《ノムさん飛翔》


《酒蔵で巴投げ》


《今年一番笑った》


アーカイブ。


公開。


再生数。


爆発。


ヒロヒロ史上屈指の大バズり。


そして。


翌日。


新橋。


遥室長。


動画。


再生。


ノムさん。


『うまいのう!』


さらに。


『のどかぁ』


さらに。


『ええ加減にしんさい』


巴投げ。


遥。


「…………」


真帆。


「室長?」


遥。


「ノムさん呼ぶのら」


「はい」


「のどかちゃんも」


「はい」


「今すぐなのら」


数日後。


新橋。


ノムさん。


のどか。


正座に近い姿勢。


遥。


腕組み。


「健全な青少年育成を掲げてるのら」


ノムさん。


「はい」


「何で公式系動画で酔っぱらって後輩に投げられてるのら?」


「いや、酒がうもうての」


「理由になってないのら!」


のどか。


「すみません」


遥。


「のどかちゃんも投げちゃダメなのら!」


「じゃけど、あれ以上絡まれたら――」


「スタッフ呼ぶのら!」


ノムさん。


ぼそ。


「遥ちゃんは、ちいと真面目すぎるんよ」


遥。


「聞こえたのら!」


ノムさん。


「……」


以降。


ヒロヒロ。


新ルール。


飲酒状態での動画出演禁止。


試飲企画。


一人一杯まで。


生配信中の追加注文。


禁止。


ノムさん。


「世知辛い世の中になったのう」


のどか。


「先輩が原因です」


それでも。


ヒロヒロは止まらない。


ノムさんは自主映画まで作った。


タイトル。


『広島市街大パニック202X ―走る爆弾、止まらない電車』


戦隊ヒロインたちも出演。


広島市内を走る路面電車に爆弾が仕掛けられ。


止まれば爆発。


街中大混乱。


ヒロインたちが追跡する。


ノムさん。


自費投入。


特殊効果。


大量。


そしてクライマックス。


路面電車爆破。


演出。


派手。


派手すぎた。


周辺。


停電。


結果。


ノムさん。


県警へ呼び出し。


相手。


地元の怖い大先輩。


ノムさん。


直立不動。


県警の偉い人。


「おどりゃあ、広島の街ぃぶち壊すつもりか。ええ加減にせえや、このどアホが」


ノムさん。


「……すんません」


のどか。


隣。


「申し訳ありません!」


梨乃。


後ろ。


「でも映画、面白かったよ」


のどか。


「梨乃、今だけ黙っときんさい!」


結衣。


「うん」


映画。


後日。


地方の小規模映画賞。


作品賞。


新橋。


遥。


結果を見る。


「何で受賞してるのら!?」


ノムさん。


電話。


『作品がえかったいうことじゃろ』


「街を停電させてまで作品賞取らなくていいのら!」


以来。


遥室長。


学習。


ヒロヒロ。


監視対象。


特に。


企画書。


重要。


ヒロヒロから届く企画書は、遥自ら隅々まで読む。


一枚目。


『広島湾・戦隊ヒロイン遠泳企画』


却下。


二枚目。


『廃墟で一晩過ごせるか』


却下。


三枚目。


『戦隊ヒロイン、牡蠣百個食べられるか』


遥。


「何の青少年育成なのら?」


真帆。


「ないと思います」


却下。


ノムさん。


電話。


『遥ちゃん、最近厳しゅうない?』


遥。


「ノムさんが街を停電させたからなのら!」


そんなヒロヒロ。


現在の実質的な中心人物。


三人。


江波のどか。


山根梨乃。


神門結衣。


まず。


江波のどか。


広島市出身。


二十一歳。


大学生。


実家。


お好み焼き店。


「みさちゃん」


地域密着の有名店。


父。


安芸電鉄の路面電車運転士。


母と祖母。


店。


のどか自身。


被爆四世。


平和への思い。


誰よりも強い。


ただし。


綺麗事だけでは終わらない。


「戦わんで済むなら、それが一番ええ」


それと同時に。


「守らにゃいけんもんがある時に、何もせんのは違うじゃろ」


そう考える。


柔道有段者。


接近戦能力。


戦隊ヒロイン屈指。


普段。


温厚。


明朗快活。


礼儀正しい。


しかし。


戦闘。


スイッチ。


敵。


「女一人で何ができる!」


のどか。


表情。


変わる。


「おどれ、誰に向かってもの言いよるんじゃ」


仲間。


「出た」


敵。


「何だと!」


「人様の街で好き勝手しといて、無事に帰れる思うなよ」


広島弁。


低い。


怖い。


ヤクザより怖い。


しかも強い。


地元スポーツ。


大好き。


野球。


地元球団。


サッカー。


サンフレ命。


最近。


プロバスケットボール。


ドラフラ。


気になる。


スマートフォン。


スポーツ速報。


山ほど。


そんなのどかが。


ヒロヒロのまとめ役。


そして。


ノムさんの暴走を止める役。


本来は。


だが。


ノムさん。


「のどか、次これやろう」


のどか。


「面白そうですね」


止めない。


次。


山根梨乃。


鳥取県鳥取市出身。


のどかと同じ大学。


親友。


広島市内。


一人暮らし。


書類上。


実態。


「みさちゃん」二階。


ほぼ居住。


ヒロヒロ拠点。


設備。


安いノートパソコン。


プリンター。


机。


椅子。


そこへ。


梨乃。


私物。


大量。


布団。


服。


教科書。


化粧品。


菓子。


鳥取の梨ゼリー。


謎のぬいぐるみ。


充電ケーブル。


のどか。


「梨乃」


「何?」


「何で冬物コートまでここにあるん?」


「冬に着るから」


「自分の部屋に置きんさい!」


もともと。


四国総局。


広島側拠点を。


ここへ置く予定だった。


ところが。


大西結月。


部屋を見る。


「机置けんやん」


越智美晴。


「梨乃ちゃんの荷物どける?」


梨乃。


「困る」


結果。


名称変更。


四国総局広島連絡事務所。


連絡だけ。


江波家。


梨乃を完全に受け入れている。


のどか母。


「梨乃ちゃん、ご飯できたよ」


「はーい!」


祖母。


「梨乃ちゃん、お風呂先入っていいよ」


「ありがとう!」


のどか。


「何で梨乃が先なん!」


母。


「梨乃ちゃん疲れとるじゃろ」


「うちも娘なんじゃけど!」


忙しい日。


梨乃。


エプロン。


お好み焼き運ぶ。


常連。


「梨乃ちゃん今日もおるん?」


「おるよ!」


のどか。


「店員になっとる!」


ほぼ。


江波家の一員。


扱い。


家族。


若干。


ペット。


そして。


梨乃。


戦隊ヒロインとしての能力。


体力。


平均以下。


戦闘。


平均以下。


歌。


平均以下。


ダンス。


平均以下。


判断力。


低い。


知力。


壊滅。


作戦。


のどか。


「梨乃、敵の右側へ回って!」


「分かった!」


数分後。


左。


のどか。


「何でこっち来るん!」


梨乃。


「右じゃない?」


結衣。


「梨乃から見た右」


のどか。


「敵から見た右言うたじゃろ!」


梨乃。


「言ってた?」


のどか。


頭を抱える。


ところが。


梨乃には。


一つだけ。


誰にも説明できない能力がある。


梨乃の近くにいる人間の能力が上がる。


のどか。


強くなる。


結衣。


魔力増。


スタッフ。


元気。


緊張している子。


落ち着く。


怒っている相手。


何となく怒る気をなくす。


梨乃。


誰にでも。


「こんにちは!」


敵。


「何だお前」


「お腹空いてない?」


敵。


「……は?」


気がつけば。


話している。


通称。


因幡の太陽。


別名。


頭の弱いラブラドルレトリバー。


梨乃。


「ラブラドールって頭いい犬じゃない?」


のどか。


「そこだけ妙に鋭いな」


三人目。


神門結衣。


島根県出雲市出身。


同じ大学。


実家。


出雲大社近くの土産物店。


静か。


落ち着く。


物腰。


柔らかい。


梨乃。


騒ぐ。


のどか。


ツッコむ。


ノムさん。


悪ノリ。


結衣。


お茶。


飲む。


通称。


出雲の静謐。


そして。


軽い魔法。


使える。


梨乃。


「結衣、未来見える?」


「無理」


「壁の向こうは?」


「薄い壁なら少し」


「競馬当てられる?」


「無理」


のどか。


「それできたらヒロヒロの予算問題、一発なんじゃけど」


結衣。


「そういうことに使ったらダメ」


軽い透視。


小さな光。


ちょっとした風。


弱い結界。


派手ではない。


しかし。


時々。


妙に役立つ。


しかも。


梨乃がそばにいると。


なぜか少し強くなる。


結衣。


「今日、遠くまで見える」


のどか。


「梨乃がおるけえ?」


梨乃。


「私?」


「本人が一番分かっとらん」


この三人。


ヒロヒロのフロントメンバー。


企画によって。


松山の元レジェンド地下アイドル。


越智美晴。


通称みーちゃん。


香川の元女子競輪選手。


大西結月。


岡山。


内科医兼戦隊ヒロイン。


藤崎紗絢。


山口県宇部出身。


新橋フロント兼戦隊ヒロイン。


安岡真帆。


そういった中国・四国ゆかりのメンバーも加わる。


そして。


全員で。


真面目にバカをやる。


ただし。


真帆だけは。


「私は真面目に仕事をしたいんですが」


と言い続けている。


そんなヒロヒロ。


前回。


広島・山口大遠征。


移動手段。


バス。


のどか。


父へ。


「お父さん、バス借りられん?」


父。


「わしゃ路面電車の運転士じゃぞ」


「安芸電鉄じゃろ?」


「まあそうじゃが」


「会社の関連会社にバス会社あるじゃん」


父。


「……あきでんバスか」


「頼めん?」


父。


「何するん」


のどか。


「広島と山口巡るだけ」


父。


「“だけ”いう顔しとらん」


それでも。


父。


会社へ。


相談。


関連会社。


あきでんバス。


一台。


貸与。


当日。


三人。


車庫。


バス。


見る。


沈黙。


のどか。


「……」


梨乃。


「おおー!」


結衣。


「古い」


かなり。


年季。


入っている。


塗装。


色褪せ。


エンジン。


始動。


ぶおおおおお。


のどか。


父を見る。


「お父さん」


「何じゃ」


「もっと新しいバスなかったん?」


父。


「会社が言うには」


「うん」


「お前らの企画で爆破されても惜しくないやつにしたらしい」


のどか。


「爆破せんわ!」


ノムさん。


横。


「なるほどのう」


のどか。


「先輩、“なるほど”じゃありません!」


梨乃。


「爆破するの?」


「せん!」


結衣。


「たぶん」


「結衣まで!」


のどか。


バスを見る。


そして。


急に。


不安。


「……待って」


梨乃。


「何?」


「これ、最後に宇品港へ沈められたりせんよね?」


結衣。


「何で?」


のどか。


「昔のクイズ番組みたいに、バスアップダウンクイズとかやらされるんじゃないじゃろうね!?」


ノムさん。


目。


輝く。


「それ面白そうじゃの」


のどか。


「やらん!」


父。


「港に迷惑かけるなよ」


「お父さんまで本気で心配せんで!」


結局。


バス。


爆破。


されない。


宇品港。


沈まない。


最後まで。


走り切った。


ただし。


道中。


ヒロヒロ一行。


大騒動。


動画。


好評。


結果。


再生数。


また増える。


そして。


現在。


「みさちゃん」二階。


夜。


営業終了後。


ヒロヒロ拠点。


別名。


山根梨乃のほぼ部屋。


梨乃。


床。


寝転ぶ。


大学のノート。


開いている。


中身。


白紙。


のどか。


格安ノートパソコン。


動画の数字。


眺める。


結衣。


湯呑み。


茶。


のどか。


「……次どうする?」


梨乃。


「何が?」


「ヒロヒロ」


「何でもいいよ」


のどか。


「一番あかん答え」


結衣。


「前回、西へ行った」


「広島から山口じゃけえね」


梨乃。


天井。


見る。


「じゃあ」


「?」


「今度、北行く?」


のどか。


「北?」


梨乃。


起き上がる。


「鳥取!」


結衣。


顔を上げる。


のどか。


「鳥取」


梨乃。


「私の地元!」


結衣。


「なら島根も」


梨乃。


「結衣の地元!」


結衣。


「うん」


のどか。


二人を見る。


鳥取。


山根梨乃。


島根。


神門結衣。


広島。


江波のどか。


中国地方。


三人。


ちょうど揃う。


のどか。


「……山陰か」


梨乃。


「砂丘!」


結衣。


「出雲」


梨乃。


「松江!」


結衣。


「それも島根」


梨乃。


「知ってる!」


のどか。


「ほんまか?」


梨乃。


「たぶん!」


のどか。


少し。


考える。


そして。


口元。


にやり。


「ええじゃん」


梨乃。


「行こう!」


結衣。


「行こう」


のどか。


PC。


新規文書。


タイトル。


入力。


『ヒロヒロ山陰地方遠征企画書』


梨乃。


横。


「何する?」


のどか。


「今から考える」


「宿は?」


「まだ」


「車は?」


「まだ」


「予算は?」


「ない」


梨乃。


「大丈夫?」


結衣。


「いつも通り」


のどか。


「結衣、それフォローになってない」


まず。


目的。


のどか。


入力。


『中国地方における観光・文化・地域交流の促進』


結衣。


「まとも」


梨乃。


「眠い」


二行目。


『鳥取砂丘で何か大きなことをする』


結衣。


「急に曖昧」


梨乃。


「巨大梨作ろう!」


のどか。


「何で?」


「鳥取だから」


「砂丘に梨関係ないじゃろ」


梨乃。


「鳥取だよ?」


「知っとる!」


三行目。


『出雲において神門結衣の魔法能力が強化されるか検証』


結衣。


「されないと思う」


梨乃。


「やってみようよ!」


結衣。


「たぶん変わらない」


のどか。


「企画として弱いな」


梨乃。


「じゃあ結衣が鳥居くぐるたびに魔法使う」


結衣。


「罰当たりだからやめて」


のどか。


削除。


そこへ。


階段。


のどか母。


声。


「梨乃ちゃーん!」


梨乃。


「はーい!」


「お風呂空いたよー!」


梨乃。


「今行くー!」


立つ。


のどか。


「待て」


梨乃。


「何?」


「何でうちより先に風呂入るん?」


「早い者勝ち」


「ここうちの家!」


母。


階下。


「のどかは後でいいじゃろー!」


のどか。


「何で実の娘より梨乃優先なん!」


梨乃。


「じゃあ入ってくるね!」


「待ちんさい!」


梨乃。


逃走。


結衣。


茶。


一口。


「平和」


のどか。


「どこが平和なん!」


その時。


PC。


着信。


画面。


ノムさん。


のどか。


「先輩」


『何しよる?』


「次の企画会議です」


『ほう』


「山陰行こうかと思うんですけど」


ノムさん。


少し。


考える。


『鳥取と島根か』


「はい」


梨乃。


階段途中から戻る。


「鳥取行きます!」


結衣。


「出雲も」


ノムさん。


顔。


にや。


「おもろそうじゃのう」


のどか。


同じ顔。


「ですよね」


この瞬間。


危険。


ノムさん。


のどか。


悪ノリコンビ。


成立。


結衣。


静かに。


「遥室長へ先に出した方がいい」


のどか。


「そうじゃった」


ノムさん。


『別に後でもええじゃろ』


のどか。


「映画の一件から先に出さんと怒られるんです」


ノムさん。


『遥ちゃん、まだ根に持っとるんか』


結衣。


「普通は持つ」


のどか。


企画書。


送信。


新橋。


夜。


遥室長。


真帆。


まだ仕事。


メール。


着信。


差出人。


江波のどか。


件名。


『ヒロヒロ山陰地方遠征企画書』


遥。


「来たのら」


真帆。


「読みますか」


「読むのら」


一ページ目。


目的:中国地方における観光・文化・地域交流の促進。


遥。


「おお」


真帆。


「まともですね」


遥。


「成長したのら」


二ページ目。


鳥取砂丘で何か大きなことをする。


遥。


「…………」


真帆。


「…………」


三ページ目。


内容詳細:現地で考える。


遥。


「…………」


四ページ目。


交通手段:未定。


五ページ目。


宿泊場所:未定。


六ページ目。


予算:できるだけ安く。


遥。


静かに。


企画書。


机。


置く。


真帆。


「室長?」


遥。


両手。


頭。


抱える。


「なんで行くことだけ先に決まってるのら……」


真帆。


「ヒロヒロですから」


遥。


「それ説明になってるのら?」


「かなり」


一方。


広島。


ノムさん。


画面越し。


「まず砂丘じゃな」


のどか。


「砂丘ですね」


梨乃。


「実家寄ろう!」


結衣。


「そのあと出雲」


ノムさん。


「何か面白い乗り物ないかのう」


のどか。


「先輩」


「何じゃ」


「今回は爆破なしですからね」


ノムさん。


「分かっとる」


のどか。


「飲酒もなしです」


ノムさん。


「分かっとる」


結衣。


「その返事、信用できない」


梨乃。


風呂場から。


「シャンプーなくなるよー!」


のどか。


振り返る。


「梨乃! 勝手にうちのシャンプー使わんといて!」


母。


階下。


「梨乃ちゃん、新しいの出しといたよー!」


のどか。


「お母さん!」


ノムさん。


画面。


大笑い。


結衣。


静かに。


湯呑み。


飲む。


そして。


新橋。


遥室長。


企画書最後の一行。


読む。


『出演予定:江波のどか、山根梨乃、神門結衣。必要に応じてその他メンバー。監修・野村吉彦』


遥。


野村吉彦。


そこだけ。


赤ペンで。


ぐるぐる。


囲む。


「ここが一番心配なのら……」


こうして。


正式な組織図には載っていない。


だが。


広島では誰でも知っている。


動画は数百万回再生。


自治体からも呼ばれる。


半ば公認。


半ば野放し。


真面目な企画より。


くだらない企画の方が伸びる。


そして。


何度叱られても懲りない。


広島発。


戦隊ヒロインプロジェクト異端の地域ユニット。


ヒロヒロ。


そのフロント三人娘が。


今度は。


中国山地の向こう側へ目を向けた。


鳥取。


島根。


砂丘。


出雲。


山陰。


計画。


甘い。


予算。


ない。


宿。


ない。


足。


ない。


ただし。


やる気。


十分。


そして。


ノムさん。


いる。


遥室長にとっては。


それが何より怖かった。


ヒロヒロ三人娘。


次なる舞台は――


山陰地方。


そして誰もまだ知らない。


この適当な企画書が。


またしても。


新橋の遥室長を、


「やりすぎなのら~!」


と叫ばせることになるということを。

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