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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1157/1169

今度は皿です。福生の不屈娘、回します! ――宮本美知留、安来節の次は皿回し!? 呆れるヒロ室、乗っかる陽菜、そして杉並のちびっ子たちは大喜び――「私、少しは仲間になれたかな」

宮本美知留、二十歳。


東京都福生市出身。


戦隊ヒロイン採用試験。


四回不合格。


五回目。


波田顧問。


「五回来たの? よっしゃ合格!」


という、安岡真帆からすれば今でも納得しきれない採用経緯によって、ようやく戦隊ヒロインへの入口へ立った女性である。


華。


なし。


歌。


普通。


踊り。


普通以下。


運動。


努力中。


頭脳。


普通。


ステージ。


苦手。


販売。


妙に上手い。


そして最近になって、ようやくプロフィールの「特技」欄へ一つ書けるものができた。


安来節。


どうしてそうなった。


本人にもよく分からない。


美知留の指導係を買って出た、近江商人の家に育った元小学校教諭・堀井琴葉。


彼女が、


「美知留ちゃんに、何か一個でも他のヒロインにはないもん持たせたい」


と考え抜いた結果――。


なぜか安来節へ到達した。


新橋ヒロ室のレッスンスタジオ。


専門講師。


猛特訓。


架空のドジョウを追う。


ザルを振る。


腰を落とす。


笑顔。


「もう一回お願いします!」


そして錦糸公園。


高齢者。


大ウケ。


酔客。


大ウケ。


若者。


スマホ撮影。


子ども。


「???」


「どじょう、どこ?」


「いないよ」


「じゃあ何で掬うの?」


安来節の存在意義そのものを問い直す、子どもならではの根源的質問まで飛び出した。


イベント後の錦糸町・激辛四川麻婆豆腐反省会。


柏木理世。


「戦隊ヒロインのステージに安来節は必要ないと思う」


一条知佳。


「安来節としては非常に良かったです」


理世。


「だから必要かどうかの話」


知佳。


「出来は良かったです」


理世。


「論点!」


評価。


真っ二つ。


それでも美知留自身にとっては成果があった。


大勢の客席を見ることができた。


笑われても逃げなかった。


最後まで演じ切った。


そして何より。


プロフィール。


特技:安来節。


空欄ではなくなった。


だが。


堀井琴葉は――。


まだ満足していなかった。


新橋ヒロ室。


ミーティングスペースの片隅。


琴葉は腕を組んでいる。


美知留。


「先生」


「ん?」


「また何か考えてます?」


「……」


「その顔、何か考えてますよね」


「子どもや」


「子ども?」


琴葉が美知留を見る。


「美知留ちゃん、子どもに強い特技もう一個要るわ」


美知留。


「安来節じゃダメですか?」


「錦糸町思い出してみ」


「はい」


琴葉。


「おじいちゃん笑ってた」


「はい」


「酔っ払いも笑ってた」


「はい」


「子ども」


美知留。


「……首かしげてました」


「せやろ」


「かなり」


琴葉。


「戦隊ヒロインは子ども人気大事や」


美知留。


「それは分かります」


「小さい子でも見た瞬間分かる」


「はい」


「説明いらん」


「はい」


「成功したら拍手」


「はい」


「失敗しかけてもハラハラする」


美知留。


「はい」


琴葉。


少し考える。


そして。


「皿回し」


美知留。


「…………」


琴葉。


「何?」


「またですか」


「何が?」


「急に昭和の演芸みたいなところから持ってくるの」


「安来節より新しいやろ」


「そういう問題ですか?」


琴葉の中では、すでに理論は完成していた。


皿が回る。


幼児でも見て分かる。


一枚。


二枚。


三枚。


増えればすごい。


落ちそうになれば、


「あーっ!」


立て直せば、


「わーっ!」


言葉がなくても成立。


さらに。


「美知留ちゃん、皿見てたら“自分が見られてる”いうこと忘れるやろ」


美知留。


「……そっちが本当の狙いですね」


「半分」


「半分なんですか」


「半分はほんまに子ども受け」


美知留。


「先生」


「何?」


「戦隊ヒロイン育ててますよね?」


琴葉。


「もちろん」


「芸人じゃなくて?」


「戦隊ヒロイン!」


一応。


確認はできた。


新橋ヒロ室、今度は皿が回り始める


数日後。


新橋ヒロ室・レッスンスタジオ。


美知留。


棒。


練習用の樹脂皿。


そして。


専門講師。


美知留。


「……本当に呼んだんですね」


琴葉。


「当たり前やん」


「思いついたの三日前ですよね?」


「三日あったら呼べる」


「行動力だけ異様に高いですね」


「近江商人やからな」


美知留。


「関係あります?」


琴葉。


「たぶん」


講師が説明。


「まず棒を立てます」


美知留。


「はい」


「皿の中心を取ります」


「はい」


「最初に少し回転を付けて」


「はい」


くる。


ぐら。


ぐらぐら。


ぽとん。


美知留。


「……」


琴葉。


「大丈夫! 樹脂や!」


「割れた心配はしてません」


もう一回。


ぐら。


ころん。


もう一回。


くる。


ぐら。


ぽとん。


美知留。


「もう一回お願いします」


琴葉。


「はい」


十五回。


二十回。


三十回。


やがて。


くるくるくる。


美知留。


「……回った!」


琴葉。


「回ったやん!」


美知留の顔が少し明るくなる。


講師。


「では次は、回転を維持してみましょう」


美知留。


「はい!」


数秒。


停止。


ぽとん。


「もう一回お願いします!」


また始まった。


福生の不屈娘。


一度始めると、しつこい。


ガラス張りのレッスンスタジオ。


当然。


廊下から全部見える。


そこへ。


柏木理世。


南部沙羅。


一条知佳。


三人。


通りかかる。


止まる。


中。


美知留。


皿。


くるくる。


失敗。


拾う。


もう一回。


沙羅。


「……今度は何してるの?」


理世。


「皿回しに見えるけど」


知佳。


「皿回しですね」


沙羅。


「それは見れば分かるわ」


知佳。


「では何を聞いたんですか?」


沙羅。


「“何で皿回ししてるの?”って意味」


知佳。


「それは分かりません」


沙羅。


「そこは即答なのね」


理世。


「安来節の次は皿回し……」


少し間。


「本当にどこへ向かってるんだろう、宮本さん」


沙羅。


「少なくとも私が想像してた戦隊ヒロイン育成とは違うわね」


知佳はガラス越しに観察。


「ただ、幼児への視認性という意味では合理性があります」


沙羅。


「え?」


「皿の回転は説明なしでも理解できます。成功と失敗の判定も容易です」


理世。


「今回は肯定派?」


「評価はまだです」


沙羅。


「知佳って本当に慎重ね」


知佳。


「データ不足なので」


中。


美知留。


「もう一回!」


三人。


「……」


理世。


「でも本気なのは分かる」


沙羅。


「あの子、何やらされても本当にやるのね」


知佳。


「継続性については、かなり高いですね」


理世。


「その言い方、研究対象みたい」


そして。


レッスンスタジオ前に現れる二人。


遥室長。


安岡真帆。


中を見る。


美知留。


皿一枚。


くるくる。


二枚目。


落下。


美知留。


「もう一回お願いします!」


遥。


「…………」


真帆。


「…………」


遥。


「真帆ちゃん」


「はい」


遥が非常に疲れたような顔をする。


「もうなんだか、かくし芸大会みたいになってきたのら」


真帆。


「同感です」


琴葉。


「違います!」


遥。


「安来節」


真帆。


「皿回し」


遥。


「その前は天秤担いで池袋で物売ってたのら」


琴葉。


「全部育成です!」


遥。


「ほんとなのら?」


「ほんまです!」


真帆が少し笑う。


「この調子だと、次はテーブルクロス引きですか?」


琴葉。


「…………」


真帆。


「琴葉さん?」


琴葉の目。


光る。


「それ、ええね」


真帆。


「え?」


遥。


「乗っからないでほしいのら!」


琴葉。


「いや、集中力いるやろ。成功したら子ども喜ぶし――」


真帆。


「冗談です!」


「でも案としては――」


「ありません!」


遥。


「真帆ちゃん、余計なこと言ったのら!」


真帆。


「申し訳ありません」


中から美知留。


「先生!」


「何?」


「次、テーブルクロス引きなんですか?」


琴葉。


「まだ決めてへん!」


遥。


「“まだ”なのら!?」


真帆。


「考える気はあるんですね」


琴葉。


「あ」


全員。


「…………」


琴葉。


「今は皿や!」


強引に終了。


それでも。


琴葉はふざけてはいなかった。


美知留も同じ。


一枚ができた。


二枚へ。


二枚が安定。


三枚へ。


歩きながら回す。


左右へ移動。


客席を想定して顔を上げる。


皿を見ながらでも、時折前を見る。


講師。


「顔を下げすぎないで」


美知留。


「はい!」


「皿だけ見ない」


「はい!」


琴葉。


「客席ある思て!」


「はい!」


琴葉の目的は、皿回しだけではない。


人前へ出る美知留を作ること。


周囲の東日本ヒロインが、


「また変なこと始めた」


という目で見ていても。


美知留は毎日、


「もう一回お願いします」


と続けた。


そして。


その姿をよく見ている人物がいた。


月島小春。


小春。


「美知留ちゃん」


「ん?」


「今度は皿なんだ」


「うん」


「琴葉さん?」


「うん」


「断らなかったんだ」


美知留。


「最初はちょっと嫌だった」


「だよね」


「でも」


「?」


美知留は回転する皿を見る。


「先生、私に何か一つでも得意なこと作ろうとしてくれてるから」


小春が美知留を見る。


「だからやるの?」


「うん」


「安来節も?」


「うん」


「池袋で天秤担いだのも?」


「……うん」


小春。


「美知留ちゃん、ほんっと真面目だよね」


美知留。


「それしか取り柄ないみたいに聞こえる」


「違う違う」


小春は笑う。


「それ、結構すごい取り柄だと思うよ」


美知留。


「そうかな」


「普通さ」


小春が琴葉を見る。


「安来節一か月やらされた後で“次、皿回しな”って言われたら、一回先生殴りたくならない?」


琴葉。


「小春ちゃん!」


美知留。


「少し思った」


琴葉。


「美知留ちゃんまで!」


小春。


「ほら!」


美知留も笑う。


そして。


また練習へ戻る。


小春は去り際。


誰にも聞こえない声で、


「頑張れ、不屈娘」


と呟いた。


人気ヒロイン・白石陽菜だけ反応が違った


ある午後。


レッスンスタジオ。


美知留。


二枚同時。


くるくる。


そこへ通りかかったのが――。


白石陽菜。


華やかな美少女ヒロイン。


子ども人気も高い。


そしてバトントワリングが得意。


陽菜。


「…………」


理世や沙羅なら、


「今度は何?」


となるところ。


陽菜の場合。


目が輝いた。


「わあ~! なんだか楽しそう!」


即入室。


美知留。


「陽菜ちゃん?」


「美知留さん、それ何?」


「皿回し」


「やってみたい!」


美知留。


「え?」


陽菜。


「教えて~!」


美知留が止まった。


教えて。


自分が。


これまで。


美知留はずっと教えられる側だった。


富士川。


るみねぇ。


すみれ。


琴葉。


講師。


先輩ヒロイン。


自分が誰かへ何かを教える経験など、ほとんどなかった。


美知留。


「……やってみる?」


「うん!」


棒を渡す。


「まず真っすぐ持って」


「こう?」


「もう少し立てて」


「これくらい?」


「うん」


「で?」


「皿の中心を取って」


陽菜。


回す。


ぐら。


ぽとん。


「あーっ!」


陽菜、大笑い。


美知留も思わず笑う。


「私も最初ずっとそうだったよ」


「ほんと?」


「何十回も落とした」


「じゃあもう一回!」


「うん」


再挑戦。


美知留。


「大きく振り回さなくて大丈夫」


陽菜。


「うん」


くる。


くるくる。


陽菜。


目を丸くする。


「回ったー!」


美知留。


「できたね!」


陽菜。


「楽しい!」


琴葉。


後ろから見る。


美知留。


誰かへ教えている。


相手の手元を見る。


「そこだよ」


「そうそう」


「もうちょっと小さく」


販売時と同じ。


相手が困っていることが明確なら、美知留は自然に話せる。


陽菜。


「美知留ちゃん、教えるの上手だね」


「え?」


「分かりやすい!」


美知留。


少し照れる。


「ありがとう」


陽菜は皿を回しながら。


自分のバトンを見る。


「ねえ」


「何?」


「皿回しとバトン、一緒にやったら絶対面白いよ!」


琴葉。


「お!」


陽菜。


「美知留さんが皿回し」


「うん」


「私がバトン」


「うん」


「途中でちょっと入れ替わるとか!」


美知留。


「私、バトンできないよ」


陽菜。


「簡単なの教える!」


美知留。


「じゃあ私は皿回し教える」


陽菜。


「やろう!」


二人。


練習開始。


陽菜。


バトン。


美知留。


皿。


途中で交換。


美知留。


バトンを落とす。


「わっ!」


陽菜。


皿を落とす。


「あっ!」


二人。


「あははは!」


琴葉も笑う。


少し良い光景だった。


誰かから才能を教えてもらうだけだった美知留が。


初めて。


自分の身につけたものを、仲間へ分けている。


そして人気者の陽菜は、美知留を、


「かわいそうな新人」


とも、


「地味な後輩」


とも見ていない。


ただ。


「一緒にやったら楽しそう」


それだけ。


美知留には、その距離感が嬉しかった。


数週間後。


美知留の皿回し。


完成。


一枚。


二枚。


三枚。


歩く。


皿を移す。


回転の弱まった皿を立て直す。


さらに。


練習していた大技。


三本を同時に回しながら、一本の皿を別の棒へ移す。


成功率。


かなり上がった。


講師。


「合格です」


美知留。


「ありがとうございます!」


琴葉。


「よっしゃ!」


美知留。


「特技二つになりました」


「安来節!」


「皿回し!」


二人。


喜ぶ。


美知留。


「先生」


「何?」


「プロフィールだけ見ると戦隊ヒロインというより宴会に強い人ですよね」


琴葉。


「細かいこと気にせん!」


「気になります」


初披露は杉並――子どもたちの前へ


舞台は東京都杉並区。


都心へのアクセスがよく。


駅の周囲には個性的な商店街。


一歩住宅地へ入れば、落ち着いた街並み。


学校。


公園。


文化施設。


昔ながらの商店。


新しいカフェ。


長く住む人。


若い家族。


子育て世帯。


東京の利便性をきちんと享受しながら、


日常の生活感を失っていない街。


派手な観光都市ではない。


だが。


住む。


育てる。


買う。


遊ぶ。


そうした日々を大切にするには、とても居心地がいい。


今回のイベントも。


杉並らしい地域密着の親子イベント。


工作。


絵本。


防災体験。


親子体操。


フード販売。


そして戦隊ヒロインステージ。


中心となるのは。


未就学児向け人気ユニット。


ぽかぽかトリオ。


麻衣。


宮沢萌音。


藤原詩織。


未就学児相手なら抜群の安定感。


MCは熊本出身・西里香澄。


「みんなー、元気しとるねー?」


子ども。


「はーい!」


香澄。


「よか返事たい! 今日は戦隊ヒロインのお姉ちゃんたちといっぱい遊ぶばい!」


歓声。


麻衣。


子どもの目線へ合わせる。


萌音。


手遊び。


詩織。


柔らかな歌。


会場。


完全にぽかぽか。


舞台袖。


美知留。


「先生」


「何?」


「すごくやりにくいです」


「何で?」


「この三人の後ですよね」


「せや」


「完成されすぎです」


琴葉。


「美知留ちゃんは美知留ちゃんのことやったらええ」


「はい」


「今日は安来節ちゃう」


「それはちょっと安心してます」


「皿は見たら分かる」


「はい」


「楽しんどいで」


美知留。


「……はい」


香澄。


「さあ! 続いては、新しいお姉ちゃんが面白い特技を見せてくれるばい!」


美知留。


深呼吸。


登場。


「こんにちは! 宮本美知留です!」


子どもたち。


「こんにちはー!」


美知留。


一瞬。


驚く。


自分の言葉に、返事が返ってきた。


「今日は――」


皿を見せる。


「皿回しをやります!」


子ども。


「おさらー!」


「回すのー?」


「落ちるー?」


美知留。


思わず笑う。


「落とさないように頑張ります!」


開始。


一枚。


くるくる。


子ども。


「わあー!」


美知留。


二枚目。


同時。


歓声。


「すごーい!」


三枚。


さらに大きな声。


一本。


回転低下。


子ども。


「あーっ!」


美知留。


「危ない!」


立て直す。


拍手。


美知留。


自然に客席を見る。


「どれが一番危ないと思う?」


子ども。


「あっち!」


「黄色!」


「右ー!」


美知留。


「あ、ほんとだ!」


修正。


再び歓声。


美知留は気づく。


話せる。


川崎。


鶴見。


あの時は。


マイクを向けられる。


「どうですか?」


頭真っ白。


今日は違う。


皿がある。


一緒に皿を見る。


子どもが、


「あれ!」


と言う。


自分が、


「ほんとだ!」


と返す。


ただそれだけ。


でも。


会話になっている。


そして。


香澄。


「今日はここで、もう一人のお姉ちゃんにも参加してもらうばい!」


大歓声。


登場。


白石陽菜。


「陽菜ちゃーん!」


「かわいい!」


「陽菜お姉ちゃーん!」


空気が一段変わる。


人気者。


美少女。


華。


明るい。


ステージに出ただけで視線を持っていく。


陽菜。


「こんにちはー!」


美知留の隣へ。


並ぶ。


美知留にも分かる。


観客の視線。


ほぼ陽菜。


以前なら。


ここで縮こまっていた。


やっぱり私とは違う。


そう思った。


だが陽菜本人は全く気にしない。


美知留へ向いて。


満面の笑顔。


「美知留さん、一緒にやろ!」


美知留。


「うん!」


陽菜。


バトン。


くるくる。


客席。


歓声。


美知留。


皿。


二枚。


三枚。


陽菜。


華麗。


美知留。


堅実。


視線の中心は陽菜。


でも。


美知留は逃げない。


陽菜の人気と競争する必要はない。


自分は。


今日まで練習したことをやる。


そして。


大技。


三枚同時。


一枚。


回転を保ちながら――。


別の棒へ。


移す。


成功。


もう一枚。


成功。


一瞬。


子どもたちが息を呑む。


そして。


「わああああー!」


大拍手。


美知留。


目を見開く。


自分への拍手。


陽菜への歓声のついでではない。


明らかに。


自分がやった技への拍手。


子ども。


「美知留お姉ちゃんすごーい!」


別の子。


「もう一回!」


美知留。


「ありがとう!」


すぐ声が出た。


陽菜まで拍手している。


「美知留さん、すごい!」


「できた!」


「練習の時より綺麗だった!」


「うん!」


そしてコラボ。


陽菜。


バトン。


美知留。


皿。


途中。


陽菜が片手で簡単な皿回し。


美知留は教わった簡単なバトンの持ち替え。


美知留。


「あっ!」


バトンが危ない。


陽菜。


「そっちそっち!」


「分かってる!」


子ども。


大笑い。


最後。


二人。


ポーズ。


大歓声。


舞台袖。


琴葉。


少しだけ目を細めた。


「……今度は、ちゃんと届いたな」


その横。


小春も見ている。


「やったじゃん、美知留ちゃん」


笑顔。


「使えるよ、それ」――初めて明確に認められる


イベント終了後。


杉並区内のファミリーレストラン。


出演者で打ち上げ。


美知留。


琴葉。


陽菜。


西里香澄。


ぽかぽかトリオ。


麻衣。


萌音。


詩織。


注文。


ハンバーグ。


パスタ。


ドリア。


ポテト。


デザート。


陽菜。


「いっぱい動いたからお腹空いた~!」


詩織。


「私も!」


麻衣。


「詩織さんは皿回してへんやろ」


詩織。


「歌いました!」


萌音。


「それはそう」


料理が来る前。


麻衣が美知留を見る。


「美知留さん」


「はい」


「皿回し、めっちゃ使えるで」


美知留。


「本当ですか?」


「ほんま」


萌音もすぐ。


「子ども向けならすごくいい!」


美知留。


「……」


萌音。


「だって説明いらないもん」


「はい」


「回ったら“わー!”」


手を上げる。


「止まりそうなら“あー!”」


下げる。


「戻ったらまた“わー!”」


麻衣。


「子ども相手は、あれくらい分かりやすい方が強いんよ」


詩織も頷く。


「それに、美知留ちゃん、子どもたちと普通にしゃべってたよね」


美知留。


「……私が?」


「うん」


「そんなに?」


「前に新橋で会った時とは全然違った」


美知留。


少し照れる。


香澄もMCの立場から。


「あれは振りやすかったばい」


美知留。


「本当ですか?」


「皿が止まりそうになったら、それだけで話題になるけんね」


「はい」


「しかも美知留ちゃんが子どもの声ちゃんと拾っとった。ああいうんは子ども向けステージで強いばい」


美知留。


「ありがとうございます」


香澄。


「安来節より使いやすか」


琴葉。


「やっぱり!」


美知留。


「先生、安来節も自分で考えたんですよね?」


「それはそれ!」


麻衣。


「美知留ちゃん安来節もできるん?」


「はい」


萌音。


「皿回しも」


「はい」


詩織。


「池袋で天秤担いで物売ったって聞いたけど」


「……はい」


ぽかぽかトリオ。


三人で美知留を見る。


沈黙。


麻衣。


「美知留さん、どこ目指してんの?」


琴葉。


「戦隊ヒロインや!」


全員。


爆笑。


美知留まで笑う。


その時。


陽菜が美知留の隣から口を開く。


「でもね」


全員。


「?」


陽菜。


「私、今日すっごく楽しかった!」


美知留。


「本当?」


「うん!」


「バトンと皿回し?」


「それも!」


陽菜は笑顔。


「美知留さんと一緒だったから楽しかった」


美知留。


「……」


一瞬。


言葉が出ない。


陽菜。


「またやろうよ」


「……いいの?」


「なんで?」


「だって」


美知留は少し言葉に詰まる。


陽菜は人気者。


自分とは違う。


華もある。


観客の反応も違う。


それでも陽菜は。


そんな比較を一切していない。


「美知留さんの皿回し面白いもん」


「……」


「次はもっとすごいの一緒に考えよ!」


美知留。


「うん」


小さな声。


陽菜。


「聞こえない~」


美知留。


少し笑って。


「うん。また一緒にやろう」


「やった!」


陽菜。


無邪気に喜ぶ。


その姿を見ながら。


美知留は胸の奥で、ほんの少しだけ思った。


新橋へ初めて来た日。


理世。


沙羅。


知佳。


麗奈。


美里。


小春。


詩織。


華やかなヒロインたちの中に入り。


「ここ、本当に私の居場所ですか?」


と思った。


川崎。


鶴見。


何もできなかった。


ファミレスでは、


「向いていないように見える」


とまで言われた。


池袋。


物は売れた。


でも。


戦隊ヒロインとしての答えではなかった。


錦糸町。


安来節。


拍手はもらった。


でも評価は半々。


そして今日。


杉並。


小さい子たちが。


「美知留お姉ちゃん!」


と呼んだ。


麻衣が。


「使える」


と言った。


萌音が。


「子ども向けにいい」


と言った。


詩織が。


「自然に話せてた」


と言った。


香澄が。


「MCとして振りやすかった」


と言った。


そして。


陽菜が。


「また一緒にやろう」


と言ってくれた。


美知留は思った。


少しは。


ほんの少しだけ。


私も、ここにいていい人になれたのかな。


大げさな達成感ではない。


自信満々にもならない。


美知留はそういう性格ではない。


ただ。


今までずっと、


「迷惑をかけないように」


「失敗しないように」


と後ろへ下がっていた。


今日初めて。


自分がいたことで、イベントが少し楽しくなった。


そんな手応えがあった。


それだけで。


充分嬉しかった。


後日。


新橋ヒロ室。


プロフィール更新。


宮本美知留


東京都福生市出身。


特技――


安来節


皿回し


遥室長。


「…………」


真帆。


「…………」


遥。


「増えたのら」


真帆。


「増えましたね」


琴葉。


「成果出ましたから!」


遥。


「今回は子どもにも受けたのら?」


「大受けです!」


真帆が報告書を見る。


「ぽかぽかトリオと西里さんからも高評価ですね」


琴葉。


「ほら!」


遥。


「なら、まあ認めるのら」


琴葉。


「やった!」


真帆。


「ただし」


琴葉。


「はい?」


真帆。


「テーブルクロス引きは不要です」


琴葉。


「まだ何も言うてへん」


遥。


「目が考えてるのら」


琴葉。


「いや、あれ集中力――」


遥。


「もうかくし芸増やさなくていいのら!」


そこへ小春。


「美知留ちゃん!」


「うん?」


「杉並、うまくいったんでしょ?」


美知留。


「うん」


小春。


「やったじゃん!」


「ありがとう」


小春。


「子どもに受けた?」


「うん」


「陽菜とも?」


「一緒にやった」


「じゃあいいじゃん!」


美知留。


「……うん」


小春。


「何?」


美知留。


少し考えて。


「少しだけ……戦隊ヒロインになれた気がする」


小春は一瞬だけ美知留を見る。


そして。


いつもの調子で笑った。


「何言ってんの。もうなってるじゃん」


美知留。


「……そうかな」


「そうだよ」


そして小春は歩き出す。


「次も頑張っていきましょー!」


以前。


新橋で初めて会った日に言われた言葉。


美知留も。


今度は少し大きな声で。


「うん!」


答えた。


それを。


少し離れた場所で琴葉が見ている。


安来節。


皿回し。


近江商人の天秤行商。


周囲からは、


「迷走」


と言われる。


琴葉は、


「模索や」


と言い張る。


でも。


その模索の中で。


宮本美知留は少しずつ。


本当に少しずつ。


自分の居場所を作り始めていた。


派手ではない。


一気に人気者にもならない。


誰もが振り返る美女にもならない。


天才的な特技が生まれたわけでもない。


でも。


杉並の子どもたちは。


宮本美知留の回す皿を見て。


確かに笑った。


確かに拍手した。


そして。


「美知留お姉ちゃん!」


と呼んだ。


それだけで。


今の福生の不屈娘には――。


充分すぎるほど、大きな一歩だった。

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