福生の不屈娘、なぜかドジョウを掬う。 ――宮本美知留、念願の「誰にもない特技」を獲得!? 近江の先生が選んだのは安来節、錦糸町の客席は笑った――でも評価は真っ二つ
池袋での天秤行商研修は、売り上げだけを見れば大成功だった。
戦隊ヒロイングッズ。
タオル。
保存容器。
布巾。
掃除用品。
しまいには、
「それ、別に戦隊ヒロイン関係ないですよね?」
と言いたくなる生活雑貨まで、宮本美知留は次々と売った。
しかも押し売りはしない。
客の話を聞く。
必要のないものなら、むしろ安い方を勧める。
堀井琴葉は、
「美知留ちゃん、あんた三方良しの心あるやん!」
と大喜びした。
しかし。
冷静に考えると、美知留は元々販売のアルバイト経験が豊富だった。
琴葉。
「つまり……」
美知留。
「新しく身についたのは三方良しの精神だけですね」
琴葉。
「そう言われると寂しいな」
「でも先生、いい考えだと思います」
「ほんま?」
「売る側だけじゃなくて、買う側にも良くて、世間にも良い」
「そうそう!」
琴葉の顔が明るくなる。
美知留。
「でも戦隊ヒロインの特技にはならないですよね」
琴葉。
「……そこなんよ」
二人。
沈黙。
戦隊ヒロイン。
宮本美知留。
東京都福生市出身、二十歳。
華――なし。
歌――普通。
踊り――普通以下。
運動――努力中。
頭脳――平均的。
販売――上手い。
三方良し――理解した。
琴葉。
「……何かないかなあ」
美知留。
「私に聞かれても」
「自分のことやろ」
「自分で思いついてたら、とっくに応募書類へ書いてます」
「そらそうやな」
琴葉はノートを開いた。
表紙に書く。
『美知留ちゃん 特技開発計画』
美知留。
「また小学生みたいなノートですね」
琴葉。
「元小学校教師やから」
「それ万能の言い訳にしてません?」
琴葉は最初の案を書く。
南京玉すだれ。
「あ」
すぐ消す。
美知留。
「どうしたんですか?」
「彩香ちゃんや」
「西川さん?」
「十八番や。被る」
「なるほど」
琴葉。
「人の持ち芸取ったらあかん」
美知留。
「じゃあ別のものですね」
琴葉。
「うーん……」
一分。
二分。
三分。
琴葉の目が止まった。
「……安来節」
美知留。
「…………」
琴葉。
「美知留ちゃん?」
「今、何て言いました?」
「安来節」
「何で?」
「思いついた」
「だから何で思いついたんですか」
「何となく」
美知留は深く息を吐いた。
しかし琴葉の中では、すでに理屈が出来上がり始めていた。
「考えてみ?」
「はい」
「ドジョウ掬い、動き大きいやろ」
「まあ」
「ステージいっぱい使える」
「はい」
「表情も大きい」
「はい」
「客笑う」
「たぶん」
琴葉がぱん、と手を叩く。
「これや!」
美知留。
「本当にこれですか?」
「美知留ちゃん、川崎でも鶴見でも客席から見られるん怖かったやろ」
「……はい」
「ほな最初から“笑われる芸”やったらどう?」
美知留。
「余計恥ずかしいです」
「そこ越えんねん」
「そんな簡単に言わないでください」
だが琴葉は本気だった。
かつて伊吹真白に天秤行商を教えた時もそうだった。
大人しく、人見知りで、人前で声を出せなかった真白。
しかし何度も繰り返すうちに、いつしか美濃弁の啖呵売りで生活雑貨まで売り捌く女になった。
なら。
美知留にも。
何か一つ。
「これなら宮本美知留」と言えるものを持たせたい。
琴葉。
「やってみよ」
美知留。
「……恥ずかしいです」
「うん」
「かなり」
「うん」
「戦隊ヒロインですよね?」
「そうや」
「ドジョウ掬うんですか?」
「そうや」
美知留。
「……」
琴葉は少し声を柔らかくした。
「でもな」
「はい」
「うち、美知留ちゃんに何か一個、自分で胸張れるもん持ってほしいねん」
美知留は琴葉を見る。
「歌でも踊りでも、武術でもクイズでもない」
「はい」
「何でもええ」
「……」
「“これなら私にもあります”って言えるもん」
美知留はしばらく黙っていた。
そして。
「……分かりました」
琴葉。
「やる?」
「やります」
「よっしゃ!」
こうして。
戦隊ヒロイン・宮本美知留。
安来節特訓開始。
新橋ヒロ室。
レッスンスタジオ。
琴葉は本当に専門講師を呼んだ。
美知留。
「本当に来た……」
琴葉。
「呼んだ言うたやろ」
「冗談かと思ってました」
「教育で冗談言わへん」
「普段結構言ってますよね?」
「細かい!」
講師が説明を始める。
「では、まず腰を落として」
美知留。
「はい」
「ザルを持って」
「はい」
「ドジョウを探す」
「はい」
「いた!」
美知留。
「どこですか?」
講師。
「想像です」
琴葉。
「想像や!」
「分かってますけど!」
講師。
「逃げました!」
美知留。
「はい!」
「追って!」
「はい!」
美知留。
低い姿勢。
ザル。
すり足。
講師。
「もっとコミカルに!」
美知留。
「コミカル?」
「顔!」
美知留。
ものすごく険しい顔。
講師。
「怖い怖い」
琴葉。
「美知留ちゃん、それドジョウ掬いやなくて討ち入りや!」
「難しいんです!」
「ドジョウに恨みある顔せんといて!」
再挑戦。
「逃げた!」
「はい!」
「悔しい!」
美知留。
「……!」
講師。
「もっと愛嬌!」
美知留。
「……!」
琴葉。
「顔に力入りすぎ!」
「先生、笑わないでください!」
「笑わせる芸やから!」
「私が笑われるのとは違います!」
レッスンスタジオの外。
通りがかった柏木理世が足を止めた。
「……」
南部沙羅も止まる。
「……何、あれ」
そして資料を片手に一条知佳。
三人がガラス越しに中を見る。
美知留がザルを振り回し、架空のドジョウを追っている。
沙羅。
「……あれ何だっけ?」
理世。
「知らない」
二人。
知佳を見る。
知佳。
「安来節ですね」
沙羅。
「ああ、それ」
知佳はそのまま淡々と続ける。
「安来地方に伝わる民謡として知られ、現在はどじょう掬い踊りのイメージが強く定着しています。ザルなどを使い、ドジョウを探し、追い、掬う動作を誇張して――」
沙羅。
「知佳」
「はい」
「もう大丈夫」
「まだ説明の途中ですが」
「そこまで興味ない」
知佳。
「聞いたので答えました」
理世。
「で、何で宮本さんがやってるの?」
知佳。
「それは私にも分かりません」
沙羅。
「そこが一番知りたいのに」
中。
講師。
「ドジョウ逃げた!」
美知留。
「はいっ!」
理世。
「……すごく真剣」
沙羅。
「真剣だから余計に何とも言えないわね」
知佳。
「フォームは昨日より改善しています」
二人。
「昨日も見たの?」
「通りかかったので」
三人の評価。
冷たい。
というより。
理解不能。
そこへ月島小春がやって来る。
「何見てんの?」
窓。
「…………」
数秒。
「美知留ちゃん何やってんの!?」
中から美知留。
「安来節!」
「何で!?」
「特技!」
小春。
「何で特技が安来節なの!?」
美知留。
「先生に聞いて!」
琴葉。
「こっちに振らんといて!」
小春は最初こそ腹を抱えて笑った。
ところが。
翌日。
また美知留が練習している。
その次の日。
また。
一週間後。
まだ。
「もう一回お願いします!」
「はい、今度はもっと腰を落として!」
「はい!」
汗だく。
髪が少し乱れる。
それでも続ける。
廊下から誰かが二度見しても。
沙羅に、
「まだやってるのね……」
と言われても。
理世から、
「本当に実戦で使うのかな」
と首をかしげられても。
やめない。
小春は、それを見ていた。
ある日。
理世が呟く。
「安来節って本当に必要かな」
すると小春。
「でも美知留ちゃん、本気でやってんじゃん」
理世。
「それは分かるよ」
「じゃあいいんじゃない?」
沙羅。
「小春は肯定派なの?」
「安来節が必要かどうかは知らない」
「じゃあ何?」
小春はガラスの向こうを見る。
美知留。
「もう一回お願いします!」
小春。
「あれだけ本気でやってる子を、“意味ない”って笑うのは違うっしょ」
知佳が資料から顔を上げる。
「それには同意します」
沙羅。
「知佳まで?」
「技能獲得の有用性と、本人の努力に対する評価は別問題です」
沙羅。
「また論点分けた」
小春。
「難しく言うなって」
だが。
小春は美知留へ直接、
「偉いね」
とは言いに行かない。
ただ。
見ている。
それが小春なりのリーダーシップだった。
数日後。
遥室長。
レッスンスタジオ前を通過。
「……」
止まる。
中。
美知留。
全力。
ザル。
腰。
架空のドジョウ。
遥。
「…………」
琴葉。
「室長、お疲れさまです」
遥がゆっくり振り向く。
「琴葉さん」
「はい」
「何してるのら?」
琴葉。
「美知留ちゃんの特技開発です」
「それは見れば何となく分かるのら」
遥はもう一度中を見る。
美知留。
「はいっ!」
ザル。
遥。
「……戦隊ヒロインの特技なのら?」
「そうです」
「安来節なのら?」
「はい」
遥。
「…………」
琴葉。
「何です?」
遥。
「いや……」
さらに数秒。
「まあ、予算あんまり使ってないならいいのら」
琴葉。
「そこですか!?」
遥。
「百人乗っても大丈夫な組織目指してるから、金ないのら」
「物置みたいに言わんといてください!」
「隼人くんが言い出したのら!」
ヒロ室。
今日も平和である。
そして。
特訓一か月。
美知留は変わった。
腰。
低い。
動き。
滑らか。
ザルさばき。
完璧。
表情。
愛嬌。
架空のドジョウが逃げた時の、
「しまった!」
まで自然。
講師。
「はい!」
美知留。
決め。
講師。
「合格!」
琴葉。
「やった!」
美知留。
「ありがとうございます!」
琴葉。
「美知留ちゃん、特技できたで!」
美知留。
「はい!」
しばらく喜ぶ。
美知留。
「先生」
「何?」
「これ、本当に戦隊ヒロインに必要ですか?」
琴葉。
「完成してから聞かんといて!」
そして実戦の日。
東京都墨田区。
錦糸町。
東京東部を代表する大きな繁華街。
鉄道の便が良い。
商業施設。
スーパー。
飲食店。
公園。
仕事帰りの会社員。
家族連れ。
昔から暮らす人。
若い人。
外国人。
いろんな層が交じる街。
夜になれば。
安く飲める大衆酒場。
焼き鳥。
中華。
居酒屋。
立ち飲み。
少々ガラが悪いと言われる一面もあるが。
逆に言えば。
気取らなくていい。
高級繁華街のような肩肘を張った空気はない。
安く飲む。
うまいものを食う。
面白ければ笑う。
嫌なら次へ行く。
そんな大衆的な懐の広さを持つ街。
その中心。
錦糸公園。
地域イベント。
子ども。
家族。
お年寄り。
若者。
そして。
昼間から、すでにちょっと顔の赤いおじさん。
美里。
「昼ですよ?」
酔客。
「今日は休み!」
美里。
「楽しんでください!」
さすがプロ。
綺麗に返す。
そして。
いよいよ。
美里。
「続きまして!」
美知留。
舞台袖。
ザルを持つ。
琴葉。
「緊張してる?」
「してます」
「川崎の時より?」
美知留。
「少しマシです」
「なんで?」
美知留。
「今日は何をするか分かってるので」
琴葉が笑う。
「ほな行っておいで」
美里。
「新人ヒロイン・宮本美知留ちゃんが、新しく身につけた特技を披露してくれます!」
拍手。
美知留登場。
客席。
「……?」
頭。
手拭い。
手。
ザル。
美里。
「それでは!」
一瞬。
美里自身も妙な間。
「宮本美知留ちゃんによる――安来節です!」
客席。
「おお!」
高齢男性。
大喜び。
酔客。
「いいぞ姉ちゃん!」
一方。
子ども。
「……?」
別の子ども。
「何するの?」
母親。
「どじょう掬いだって」
「どじょういるの?」
「いない」
「じゃあ何で掬うの?」
母親。
「……そういう踊りなの」
子ども。
「ふーん」
音楽。
美知留。
開始。
腰を落とす。
探す。
見つける。
追う。
逃げられる。
客席。
お年寄り。
大笑い。
「うまい!」
酔客。
「よっ! 福生!」
誰から聞いたのか。
美知留。
さらに動く。
若者。
「何これ、面白い」
スマートフォンを向ける。
子ども。
「まだドジョウいない」
父親。
「心の中にはいるんだよ」
「何それ?」
父親も説明不能。
美知留。
ザル!
失敗!
追跡!
高齢者。
拍手。
酔客。
大ウケ。
子ども。
???
客席の温度。
見事に二分。
でも。
美知留には全部見えていた。
おじいちゃんが笑う。
酔っ払いが手を叩く。
若者がスマートフォンを向ける。
子どもが首を傾げる。
全部。
以前の美知留なら。
怖かった。
「どう見られてるんだろう」
そのことしか考えられなかった。
だが今は。
ドジョウを追う。
そして。
最後まで。
やる。
決め。
拍手。
美知留。
「ありがとうございました!」
頭を下げる。
拍手。
確かに。
宮本美知留本人へ向けられた拍手。
美知留は少しだけ笑った。
舞台袖。
琴葉。
「やった!」
小春。
「美知留ちゃん、ちゃんとやり切ったじゃん!」
理世。
「受けてはいたね」
沙羅。
「年齢層によって、かなり反応に差があったけど」
知佳。
「演技自体の完成度は高かったです」
理世。
「そこだけはね」
イベント終了後。
錦糸町。
大衆中華料理店。
店内。
赤いテーブル。
壁には手書きのメニュー。
ラーメン。
炒飯。
餃子。
レバニラ。
ニラ玉。
酢豚。
とにかく安い。
しかも量が多い。
錦糸町らしい、
財布に優しく腹には重い
名店。
そこで反省会。
料理が並ぶ。
餃子。
炒飯。
そして。
四川風麻婆豆腐。
真っ赤。
美里。
「これおいしそう」
一口。
「…………!」
水。
小春。
「そんな?」
一口。
「…………!」
水。
沙羅。
「二人とも大げさじゃない?」
一口。
「……っ!」
水。
理世。
「辛い?」
「辛い。でもおいしい」
知佳。
一口。
無表情。
「花椒の痺れと唐辛子の辛味がかなり強いですね」
理世。
「平気なの?」
知佳。
「……」
二秒。
水。
ごくごく。
小春。
「知佳も辛いんじゃん!」
知佳。
「分析と身体反応は別です」
美里。
「何でも論点分けるね」
美知留も一口。
「……!」
琴葉。
「どう?」
「おいしいです」
「せやろ」
「でも痛いです」
「うまいやろ?」
「辛いです」
「うまいやろ?」
「両方です!」
反省会開始。
美里。
「じゃあ、美知留ちゃんの安来節について」
理世。
即答。
「私は、戦隊ヒロインのステージには要らないと思う」
琴葉。
「いきなり!?」
美知留。
「……」
理世。
「技術は本当に上手かった」
美知留。
「ありがとうございます」
「相当練習したのも分かる」
琴葉。
「せやろ?」
「でも、戦隊ヒロインとして必要かどうかは別」
琴葉。
「そこなんよなあ……」
沙羅。
「私も理世寄りかな」
琴葉。
「沙羅ちゃんまで」
沙羅。
「だって確かに笑ってた人はいたけど」
麻婆豆腐。
一口。
「……辛い」
美里。
「どっちの話?」
「今は両方」
理世。
「結局、安来節が上手い戦隊ヒロインになっただけじゃない?」
琴葉。
「言い方!」
すると。
知佳。
「私は良かったと思います」
一同。
「え?」
理世。
「知佳、賛成なの?」
知佳。
「はい」
琴葉。
「ほら!」
知佳。
「安来節としては非常に良かったです」
琴葉。
「……としては?」
「フォームも安定していました。表情もよく、動作も明確。客席の高齢層からは非常に良好な反応がありました」
美知留。
「ありがとうございます」
知佳。
「ただし」
琴葉。
「来た」
「戦隊ヒロイン活動における必要性については判断を留保します」
琴葉。
「どっちなん!」
理世。
「だから私は必要ないって言ってるの」
知佳。
「私は安来節自体は良かったと言っています」
理世。
「要るか要らないかの話!」
知佳。
「出来の話です」
理世。
「そこは聞いてない!」
知佳。
「私は述べました」
小春。
「二人とも一生噛み合わなそう」
美里。
「今日の客席そのままだね」
美知留。
「客席?」
美里。
「お年寄りは大ウケ」
小春。
「酔っ払いも」
沙羅。
「子どもは“何してるんだろう”って顔」
知佳。
「若年層は映像撮影が多かったですね」
理世。
「つまり評価が割れた」
琴葉。
「話題にはなった!」
理世。
「必要かどうかは別」
知佳。
「安来節としては良かったです」
理世。
「もうそれいい!」
小春、大爆笑。
その横。
知佳。
また麻婆豆腐。
一口。
「……」
水。
小春。
「知佳、それ無理して食べなくていいんじゃない?」
知佳。
「味は良いです」
沙羅。
「辛いんでしょう?」
「非常に」
理世。
「じゃあ何で食べるの?」
知佳。
「辛さと美味しさは両立します」
小春。
「また論点分けた!」
反省会は完全に迷走。
しかし。
美知留が静かに口を開いた。
「先生」
琴葉。
「ん?」
「私」
少し考える。
「今日、ちゃんと客席見られました」
琴葉の顔が変わる。
美知留。
「川崎と鶴見では、怖くてほとんど見られなかったんです」
「うん」
「今日は、おじいちゃん笑ってました」
「うん」
「酔っ払った人も」
小春。
「めっちゃ笑ってたね」
「子どもは……」
少し笑う。
「ものすごく不思議そうでした」
全員、笑う。
美知留。
「でも、みんなの顔を見ても、途中で止まりませんでした」
琴葉。
「……」
「恥ずかしかったです。でも最後までやれました」
小春。
「それじゃん」
美知留。
「え?」
小春は餃子を箸でつまみながら言う。
「安来節が必要かどうかは知らないけど、美知留ちゃん、自分で客笑わせたの初めてでしょ?」
美知留。
「……はい」
「じゃあ前進じゃん」
簡単な言葉。
でも。
それでいい。
琴葉の顔が柔らかくなる。
「せやな」
理世も少し考える。
「それなら、訓練としては意味があったと思う」
琴葉。
「ほら!」
理世。
「安来節が必要とは言ってない」
琴葉。
「そこはまだ言うんや」
知佳。
「安来節自体は良かったです」
理世。
「知佳!」
また始まる。
美知留。
笑う。
後日。
新橋ヒロ室。
宮本美知留のプロフィール。
更新。
宮本美知留
東京都福生市出身。
二十歳。
特技――
安来節。
遥室長。
「…………」
真帆。
「…………」
ノムさん。
「…………」
三人。
プロフィールを見る。
遥。
「ほんとに載せたのら?」
琴葉。
「特技ですから」
真帆。
「確かに特技ではあります」
ノムさん。
「他に何かないんか」
琴葉。
「今探してます!」
ノムさん。
「迷走しとるなあ」
琴葉。
「迷走ちゃいます! 模索です!」
遥。
「違いが微妙なのら」
美知留。
「先生」
「何?」
「私、本当に戦隊ヒロインになってますよね?」
「なってる!」
「天秤担いで」
「うん」
「生活雑貨売って」
「うん」
「ドジョウ掬って」
琴葉。
「……うん」
美知留。
「方向合ってます?」
琴葉。
「…………」
「先生?」
「じっくりや」
美知留。
「今、絶対ごまかしましたよね」
「ごまかしてへん!」
そうは言っても。
何はともあれ。
宮本美知留。
ついに特技を手に入れた。
華麗な殺陣でもない。
歌でもない。
ダンスでもない。
語学でもない。
クイズでもない。
安来節。
理世は不要論。
沙羅もやや否定的。
知佳は、
「安来節としては非常に良かった」
という微妙な賛成。
小春は、
「本人が一歩進んだならいいじゃん」
という実利派。
遥室長ですら、まだ首をかしげている。
評価は真っ二つ。
だが。
美知留本人にとっては確かな変化だった。
以前は。
客席から見られることが怖かった。
今は。
笑われることを恐れるより。
笑ってもらえるなら、やってみよう。
そう思える。
それは。
琴葉が探していた「他のヒロインにはない光」そのものでは、まだないのかもしれない。
でも。
何もなかった場所に。
一つ。
宮本美知留自身が、
「これはできます」
と言えるものができた。
福生の不屈娘。
宮本美知留。
特技欄。
ようやく空白ではなくなった。
ただし――。
そこへ最初に書かれたのが「安来節」だった。
本人も。
琴葉も。
ヒロ室フロントも。
それが正解だったのかは、まだ誰にも分からない。
でも美知留は今日も練習する。
ザルを持って。
腰を落として。
架空のドジョウを追いながら。
なぜなら。
一度手に入れた特技を、簡単に手放す女ではないからである。
福生の不屈娘の模索は――。
やっぱり、まだまだ続く。




