笑う元気まで、持ってきました! ――ギャラはゼロ、笑顔は満員。湘南の毒舌クイーンと上尾の華による小さなステージ
戦隊ヒロインプロジェクト。
世間から見れば、その活動はとにかく派手である。
地域振興イベントでは、華やかな戦隊ヒロイン制服をまとってステージへ立つ。
時には数千人の観客を前に歌い、踊り、トークをする。
ひとたびジェネラス・リンクとの戦闘任務となれば、イベント用の華やかな笑顔から一変。
敵陣へ飛び込み、走り、跳び、蹴り、時には戦隊ヒロイン制服の縫い目が悲鳴を上げるほど激しい戦闘を繰り広げる。
だが、遥室長が誇りに思っている活動は、そうした派手なものばかりではなかった。
テレビ中継もない。
大きな観客席もない。
スポンサー企業の名前が並ぶこともない。
拍手を送る人が、わずか十数人という日すらある。
それでも遥室長が、
「これも、うちの戦隊ヒロインプロジェクトが絶対に大切にしたい仕事です」
と胸を張る活動が二つある。
一つは、体操のおねえさん・白浜麻衣、工作のおねえさん・宮沢萌音、うたのおねえさん・藤原詩織の三人による、未就学児向けユニット――
「ぽかぽかトリオ」
の活動。
そしてもう一つが、
湘南の毒舌クイーン・平塚美波と、大宮の華・大宮麗奈を中心とした病院・福祉施設への慰問活動だった。
この二人、見た目だけなら福祉施設の慰問活動とは少々結び付きにくい。
平塚美波。
湘南の海岸でライフセーバーとして活躍し、時間があれば実家のサーフショップを手伝う。
日に焼けた健康的な雰囲気。
明るく、豪快。
口を開けば湘南ことばを交えた毒舌がぽんぽん飛び出す。
そして、かつては地元で知らぬ者がいないほどのワルだった。
元レディース総長。
本人も隠していない。
もっとも、美波自身は過去を武勇伝として自慢することはほとんどなかった。
「あん時ゃ、まあ、若かったんだべ」
くらいで流してしまう。
だが、自分のせいで周囲へ心配や迷惑をかけたことまで忘れているわけではない。
ある時、美波は遥室長へさらっと言ったことがある。
「昔さ、好き勝手やって、世間にも多少迷惑かけたべ? だったら今、ちょっとくらい人ん役に立ったっていいじゃん。罪滅ぼしっつうほど大げさじゃねえけどさ」
実に美波らしい理由だった。
殊勝な顔もしない。
自分を悲劇の主人公にも仕立てない。
ただ、
昔少し迷惑をかけた分、今は誰かを笑わせる側へ回ればいい。
その程度に考えている。
そんな美波の考えに、真っ先に賛同したのが大宮麗奈だった。
大宮麗奈。
人気イベントコンパニオン。
華やかな髪。
華やかな顔立ち。
華やかな衣装。
イベント会場へ立てば、いるだけで周囲の明度が一段上がったように見える。
人気イベントコンパニオン投票では毎回十位以内へ入る実力者。
イベント一本の出演料が、場合によっては数十万円になるとも言われている。
そんな麗奈が、美波の話を聞いた時に言った。
「じゃあ私も行く」
美波が少し驚いた。
「麗奈、イベント入れた方が金になるべ?」
「だから何?」
「いや、何って……」
「美波だけ勝手にいいことして、“昔ワルだったけど今は人助けしてます”って格好つけるの、ずるいじゃん」
「そういう理由け?」
「半分ね」
「残り半分は?」
麗奈は笑った。
「人が喜んでくれるなら、そっちの方が面白そうだから」
それ以来、二人は時間を見つけて病院や福祉施設を回っている。
本業の合間。
イベント出演の空き日。
ライフセーバーの勤務がない日。
予定表へ隙間を見つけると、
「ここ行けんじゃん」
「もう一施設入らね?」
と自分たちから予定を増やす。
ほぼ手弁当。
豪華な専用バスなどない。
大規模イベント用の機材車もない。
持って行く物は、自分たちで車へ積む。
遥室長は、そんな二人の姿を見るたび、心底嬉しくなる。
特に麗奈。
その日を通常のイベント出演へ回せば、高額のギャラを得られることもある。
それでも、
「この日は慰問入ってるからイベント無理です」
と平然と言う。
本人は特別なことをしている意識すら薄い。
だから遥室長は余計に誇らしかった。
慰問にはヒロ室スタッフ兼ヒロインの高島里奈や内田あかねが同行することも多い。
そして小児終末ケアセンターへの慰問については、藤原詩織と宮沢萌音も特別だった。
二人とも予定を聞けば、
「何とか空けられませんか?」
と自分からスケジュールを調整する。
萌音なら簡単な工作。
詩織なら優しい歌。
特に詩織の歌声は、こうした小さな施設では大きなステージ以上の力を発揮する。
ただし、慰問活動には長年解決していない重大問題が一つあった。
移動手段である。
ほぼ手弁当なので、専属運転手などいない。
結果として美波か麗奈が運転する。
ところが――。
美波は元レディース総長。
「昔とは違うべ。今のうちは安全運転じゃん」
と言い張るものの、峠道やカーブへ入った瞬間、なぜかちょっと楽しそうな顔になる。
さらに問題なのが麗奈。
こちらは筋金入りのスピード狂。
ついにはヒロ室フロントから、
「大宮麗奈については、できる限り運転を担当させないこと」
という事実上の運転NGまで出ている。
本人は納得していない。
「ちゃんと免許持ってるんだけど!」
高島里奈が冷静に返す。
「免許を持っていることと、安全運転することは別問題です」
「失礼じゃない?」
「違反点数を心配している人が言う台詞ではありません」
「まだ残ってるから!」
「“まだ”と言った時点でアウトです」
そんな麗奈の運転する車。
普通なら誰も助手席へ乗りたがらない。
だが、なぜか一人だけ例外がいる。
藤原詩織。
詩織は麗奈の助手席が大好きだった。
「私、麗奈さんの隣でいいですよ」
と自分から座る。
里奈は毎回聞き返す。
「本当に?」
「はい」
「麗奈さんですよ?」
「はい」
「運転、麗奈さんですよ?」
「だから楽しみなんです」
麗奈が得意そうに胸を張る。
「ほら! 詩織は分かってる!」
詩織はにこにこしながら、
「ジェットコースターみたいで楽しいですよね」
里奈は絶句した。
美波も詩織を見る。
「詩織、おめえ、見た目天使みてえなのに結構ぶっ飛んでんべ」
詩織は首をかしげる。
「そうですか?」
「普通、道路走る車にジェットコースター要素求めねえべ」
常人には理解できなかった。
そんなある日。
都下・三多摩地区。
そこにある小児終末ケアセンターへ、美波、麗奈、里奈、詩織の四人が慰問に訪れることになった。
萌音も参加するつもりだったが、どうしても外せない用事が重なった。
「次は絶対行きますから」
と本気で悔しがっていた。
この日の往路は美波が運転。
里奈が後部座席から念押しする。
「美波さん、安全運転でお願いします」
「分かってるって。何回言うんだべ」
麗奈が助手席から笑う。
「美波に安全運転お願いするのも結構ギャンブルだよね」
美波が横を見る。
「麗奈には言われたかねえべ」
「私の方が運転うまいし」
「速えのと上手えのは別だべ」
「美波も昔飛ばしてたでしょ?」
「昔は昔じゃん」
後ろの里奈が、
「二人とも、前科自慢みたいな会話をしないでください」
と止める。
詩織だけが楽しそうに、
「今日は穏やかですね」
と言う。
三人が振り返る。
里奈。
「これが穏やかに感じるんですか?」
詩織。
「麗奈さんの時よりは」
麗奈。
「詩織まで!」
そんな車内の騒がしさも、施設へ到着すると自然に少し落ち着いた。
建物そのものは明るい。
壁には子どもたちの絵。
季節の飾り。
ぬいぐるみ。
職員が工夫して、できるだけ温かな空間を作っている。
それでも、そこにいる子どもたちが重い病と向き合っている事実は変わらない。
付き添う家族にも疲れが見える。
だが美波は、ここで急に“いい人の顔”などしない。
いつもの美波のままだった。
職員から説明を受けたあと、
「分かったべ。じゃ、無理に盛り上げるのはやめとこ」
とだけ言う。
麗奈が聞く。
「どうする?」
「いつも通りでいいじゃん」
「いつも通り?」
「笑いてえ子は笑えばいい。今日は笑う気分じゃねえ子は、ぼーっと見てりゃいいべ。参加方法なんか好きにしたらいいじゃん」
詩織が頷く。
「それがいいと思います」
里奈も、
「体調優先でいきましょう」
と進行を組み直す。
イベントの最初は詩織。
華やかに盛り上げる曲ではない。
柔らかい歌。
ベッドに横になったままでも聞ける。
車椅子に座っていても聞ける。
声を出して一緒に歌わなくてもいい。
詩織の澄んだ声が部屋へゆっくり広がる。
じっと前を見ていた子が、少しだけ詩織へ顔を向ける。
家族がそれに気づいて微笑む。
それだけでいい。
歌が終わる。
美波が小声で麗奈へ言う。
「詩織、こういうとこじゃ強えな」
麗奈。
「この後どうする?」
美波。
「おめえをいじる」
麗奈。
「何で!」
近くにいた職員が、思わず吹き出した。
美波は聞き逃さない。
「ほら、もう一人笑ったべ」
「私を道具にするな!」
そのまま二人が前へ出る。
麗奈は華やかな笑顔で手を振った。
「こんにちはー!」
空間が一気に明るくなる。
美波がマイクを握る。
「みんな、今日すげえ人来てんぞ」
麗奈がちょっと胸を張る。
「人気イベントコンパニオン、大宮麗奈!」
拍手。
麗奈は満足そう。
美波が続ける。
「普通に仕事頼んだら、一日何十万するか分かんねえ女だべ」
麗奈が即座に突っ込む。
「金の話やめて!」
小さな笑いが起こる。
美波。
「今日はタダ!」
「もっとやめて!」
「しかも交通費もほぼ自腹!」
「夢がなくなる!」
家族からも笑い声。
美波の毒舌は軽い。
誰かを傷つける方向へは絶対に行かない。
昔から、毒はある。
でもその毒には愛がある。
弱い立場の人間を笑わない。
本人が気にしていることをわざわざ掘らない。
そして最後には、いじられた本人も一緒に笑っている。
美波は麗奈を指す。
「こんだけキラキラしてっけどな、家帰ったら大宮ふとん店の娘だべ」
麗奈。
「その情報いらないから!」
「実家大事じゃん」
「だからって慰問先で宣伝すんな!」
また笑い。
美波。
「しかも人気投票じゃ毎回上位!」
麗奈。
「まあね!」
「安全運転投票なら下から数えた方が早い!」
「今それ言う!?」
後ろにいた里奈。
「これは事実です」
麗奈が振り返る。
「里奈まで!」
今度は少し大きな笑い。
美波は調子に乗る。
「この前なんか、ヒロ室から“できるだけ麗奈に運転させるな”って――」
麗奈。
「内部情報!」
「もう公然の秘密だべ」
「美波だって元レディース総長じゃん!」
美波。
「おめえ、昔の話持ってくんなって!」
麗奈。
「今日の運転だって、カーブ入る時ちょっと楽しそうだったよ」
里奈。
「私も確認しました」
美波。
「おい里奈、おめえどっち側だべ!」
その瞬間。
少し離れた場所にいた子どもが、声を上げて笑った。
付き添っていた家族が驚いたように子どもの顔を見る。
そして家族自身も笑う。
美波はそれを見ても、何も特別なことは言わない。
ただ自然に、
「笑った方が楽じゃん。今日くらい好きに笑っとけって」
と言って次の話へ進む。
そこが美波だった。
麗奈も負けていない。
ベッドの近くへ行って、
「写真撮る?」
と声をかける。
小さく頷く子。
「じゃあ一緒にね」
麗奈が笑顔でポーズを取る。
横から美波。
「麗奈、今日ギャラ出ねえのに顔作りすぎだべ」
麗奈。
「無料でもプロはプロなの!」
「そこだけは立派だべ」
「“そこだけ”って何!」
また笑いが起きる。
麗奈の華やかさが、部屋を明るくする。
美波の自然な明るさが、そこへ笑いを足す。
詩織の歌が、騒がしくなりすぎないよう全体を柔らかく包む。
里奈は常に子どもたちの体調や職員の表情を確認し、無理がないよう進行を調整する。
途中、美波がみんなへ言う。
「今日はさ、“一緒に何かやんなきゃ”とか考えなくていいべ。手拍子したきゃすりゃいいし、歌いたきゃ歌えばいい。眠かったら寝てろ。麗奈の話つまんなかったら無視していいぞ」
麗奈。
「最後の一言いる!?」
美波。
「選択肢増やしただけだべ」
麗奈。
「私だけ選択肢で切られてるじゃん!」
会場に笑顔が広がる。
後半には詩織がもう一曲。
今度は少しだけ明るい曲。
麗奈が手拍子。
美波も軽く身体を揺らす。
里奈も笑顔。
子どもたちも、それぞれできる範囲で楽しむ。
そしてイベント終了の時間。
美波がマイクを持つ。
麗奈はもう分かっている。
「最後、恒例のやついくべ!」
「いかなくていい!」
「みんな覚えて帰れよ!」
「絶対覚えなくていい!」
美波が大きく息を吸った。
「大宮ふとん店――」
麗奈。
「美波ぁ!」
美波は構わない。
「みんなで行くぞー!」
何人かの子どもと家族が、
「おー!」
と返す。
麗奈が両手を振る。
「来なくていいから~! 来るな~!」
大爆笑。
美波。
「何で実家の客追い返してんだべ!」
麗奈。
「だって急にみんなで来られても困るでしょ!」
そして麗奈は、勢いのままさらに叫んだ。
「ウチ、今日お父さん一人で店番だから! みんなで一気に行ったらお父さん、競輪中継観られなくなるから来ないで~!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――。
会場中がどっと笑った。
美波が膝を叩く。
「そこ心配すんなら、おめえが手伝いに帰れし!」
麗奈。
「今日は慰問だから無理!」
美波。
「帰ったら手伝え!」
麗奈。
「明日はイベント!」
美波。
「いつ手伝うんだべ!」
麗奈は少し考えて、
「……暇な時?」
美波。
「親不孝娘!」
麗奈。
「ちゃんと母の日とかやってるから!」
里奈。
「論点が変わっています」
詩織まで笑いながら、
「お父さん、一人で頑張ってるんですね」
麗奈。
「詩織まで心配しないで!」
家族も職員も大笑い。
最後は「大宮ふとん店のお父さん、お客さんより競輪?」という、何とも平和な心配でイベントが締めくくられた。
終了後。
施設スタッフが四人のところへやってくる。
「本当にありがとうございました」
美波はいつもの自然な調子。
「いやいや、うちら騒いでただけだべ」
職員は笑った。
「それが、ありがたかったんです」
麗奈が聞く。
「そんなに?」
「最近、施設全体があんなに笑ったのは久しぶりでした」
美波の表情が少しだけ柔らかくなる。
だが、そこで殊勝なことを言う美波ではない。
「じゃあ、次はもっと面白いネタ用意しとかねえとな」
麗奈。
「私をネタ帳に入れないで!」
「もう第一章から最終章までおめえだべ」
「長編じゃん!」
また職員が笑う。
帰り際には家族たちが待っていた。
一人の家族が麗奈の手を握る。
「久しぶりに、あの子が声を出して笑ったんです」
麗奈は少し驚く。
普段ならどんな大観衆を前にしても言葉が次々出てくるのに、こんな時には途端に不器用になる。
「……また来ます」
短い言葉。
しかしそれで十分だった。
美波にも家族から声がかかる。
「普通に笑って、普通に冗談を言ってくださったのが、本当に嬉しかったです」
美波は頭を軽く掻いた。
「うち口悪いからさ、怒られんじゃねえかと思ったべ」
「全然。ああいうの、久しぶりでした」
「そりゃよかった」
美波は笑う。
少しでも世間へ返せればいい。
昔の自分を消す必要はない。
今の自分ができることをやればいい。
それだけだった。
詩織にも、
「歌、本当に素敵でした」
という声。
里奈にも、
「ずっと周囲を見ていただいて安心しました」
という言葉。
その家族たちの中に、一人だけ若い女性が混じっていた。
二十歳前後。
派手ではない。
目立つ服装でもない。
ただ静かに立っている。
四人が前を通った時、その女性は小さく頭を下げた。
麗奈がいつもの笑顔で、
「ありがとうございました」
と返す。
美波も軽く手を挙げる。
詩織も会釈。
里奈も頭を下げる。
それだけだった。
誰も特別な注意は払わない。
後に、その女性が別の形で彼女たちと関わることになるとは、この時の誰も知らなかった。
やがて駐車場。
里奈が時計を見る。
「次の慰問先、時間ぎりぎりです」
その言葉を聞いた麗奈が、一番言ってはいけないことを言った。
「じゃあ、私が運転する!」
里奈。
「ダメです」
「即答!?」
ところが麗奈は、もう運転席へ向かっている。
「急いでるんでしょ?」
「だからこそ麗奈さんはダメなんです!」
助手席の扉が開いた。
詩織が嬉しそうに乗る。
「今日は麗奈さんなんですね」
「詩織!」
麗奈が嬉しそう。
「やっぱり分かってる!」
詩織はにこにこしながらシートベルトを締める。
「ジェットコースター席ですね」
里奈。
「違います! 一般道の助手席です!」
美波が後部座席へ乗りながら笑う。
「詩織、おめえほんと不思議ちゃんだべ」
「楽しいですよ?」
「楽しくちゃ困るんだべ」
全員乗車。
里奈はシートベルト確認。
「麗奈さん」
「何?」
「急発進しない」
「しない!」
「速度を守る」
「守る!」
「車間距離を取る」
「分かった!」
「黄色信号で加速しない」
「私を何だと思ってるの!?」
美波。
「スピード狂」
里奈。
「要注意運転者」
詩織。
「楽しい運転のお姉さん」
麗奈。
「詩織だけ満点!」
里奈。
「満点にしないでください!」
麗奈がエンジンをかける。
施設の玄関では、職員や家族たちが手を振っている。
麗奈も笑顔で手を振り返す。
里奈。
「片手はハンドル!」
「まだ止まってるから!」
そして車が発進。
少しだけ勢いがいい。
里奈。
「麗奈さん!」
「何!?」
「急発進!」
「これ普通!」
後部座席の美波。
「だから前見ろって!」
「見てる!」
「次右だべ!」
「分かってる!」
「速度!」
「里奈うるさい!」
そんな車内で――。
助手席の詩織だけが目を輝かせていた。
「わあ。今日も楽しいですね」
里奈。
「楽しくないです!」
美波。
「詩織一人だけ遊園地気分だべ!」
麗奈。
「一人でもファンがいれば十分!」
車は次の慰問先へ走っていく。
派手なステージもない。
テレビカメラもない。
高額な出演料もない。
それでも彼女たちは、次の誰かを少しだけ笑顔にするため、予定の隙間を見つけてまた出かける。
昔ちょっと世間へ迷惑をかけた分、今少し返せればいいと笑う美波。
その考えへ誰よりも賛同し、高額のギャラより慰問を選ぶ麗奈。
歌で空気を柔らかくする詩織。
全体を支える里奈。
戦隊ヒロインプロジェクトには、敵を倒さなくても誰かを助けられる日がある。
大きな歓声がなくても、たった一人の笑顔が大成功になる日もある。
そんな活動を、遥室長は心から誇りに思っていた。
ただし――。
次回の予算会議では、
「慰問活動専用の安全運転担当者をつけるべきではないか」
という議題だけは、かなり真剣に検討されることになりそうだった。




