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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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『敵は倒した、制服は裂けた!』 ――けちのん怒りの堺防衛戦! 盗まれた職人技と、数十万円の「ビリッ」

河内のスピーカー・赤嶺美月。


和泉の貯金箱・谷口佳乃。


浪速のバランサー・坂井まどか。


三人合わせて、


「トリオ・ザ・大阪」


森ノ宮では、たこ焼き二百八十円の領収書を巡って揉めた。


難波では、三千円の支出を三万円に見せかけようとして揉めた。


枚方では、観覧車を半周で折り返せば電気代が半分になると主張して揉めた。


富田林では、出演料をみかんで支払えば現金支出を抑えられると主張して揉めた。


普段は舞台へ立てば笑いを取り、舞台を降りれば経費を巡って言い争う三人である。


だが、忘れてはならない。


三人の本職は漫才師ではない。


国家プロジェクトの一翼を担い、ジェネラス・リンクの脅威から人々を守る、戦隊ヒロインなのである。


最近は漫才の仕事が増えすぎて、美月自身がたまに忘れているだけだった。



仙台のまゆちゃん、堺の異常を見つける


ノースフロント仙台分室。


壁一面の大型モニター。


複数地域の通信を同時に追跡する広域監視システム。


映像、音声、位置情報を瞬時に照合する解析装置。


東日本でも屈指の最新鋭設備をそろえた情報拠点である。


その中央で、菅野真結――通称まゆちゃんが、膨大な通信記録を確認していた。


真結はイベント運営や会場整理の達人である。


人員配置。


来場者の動線。


避難誘導。


トラブル対応。


マイクアナウンス。


一度会った人間の顔と名前まで、よく覚えている。


そして何より、


普段と少しだけ違う。


その小さな違和感を見逃さない。


真結の視線が、一つの通信記録で止まった。


発信地点は大阪府堺市。


刃物工房。


自転車部品工場。


精密金具を作る町工場。


物流倉庫。


業種も規模も違う複数の事業所が、毎日午前二時十三分になると、同じ形式の暗号通信を発信していた。


送信先は、堺港近くにある旧物流倉庫。


真結は関連情報を呼び出す。


それらの事業所には、もう一つの共通点があった。


最近になって、


「堺ものづくり未来支援機構」


という団体の支援を受けていたのである。


後継者不足。


設備の老朽化。


原材料価格の上昇。


厳しい状況へ置かれた町工場を助けるため、無料でデジタル化設備を導入する。


表向きは善意に満ちた組織だった。


だが、各工場へ設置された端末は、製品図面だけでなく、作業中の映像や機械音まで外部へ送信している。


刃物を研ぐ角度。


熱処理を終えるタイミング。


金属の色や音から状態を判断する職人の反応。


自転車のフレームを組み上げる際の、手首の微妙な動き。


図面には書かれない、


職人の勘


そのものが映像と数値へ変換され、盗み出されていた。


真結は直ちに遥室長へ回線を開いた。


「遥室長。堺市内でジェネラス・リンクの活動が活発化しています」


画面へ遥室長の姿が映る。


「規模は分かりますか?」


「確認できただけで、十九の町工場、七つの自転車関連事業所、三つの物流施設です」


真結は別の画面を開いた。


そこには、秘密工場で大量生産されている模倣品の映像が映っていた。


本物と見た目はよく似ている。


しかし、耐久性も精度も安全性も足りない。


「ジェネラス・リンクは、盗んだ技術で粗悪な模倣品を作り、安値で市場へ流しています。本物の工場から仕事を奪い、経営難へ追い込んだ後、工場そのものを安く買収する計画です」


遥室長の表情が険しくなる。


「技術も人も、まとめて奪うつもりですか」


「はい。データの集積地点は、堺港付近の旧物流倉庫です。地下に大規模な設備が隠されていると思われます」


「分かりました。関西側へ緊急招集をかけます」


回線を閉じた真結は、堺市内の地図を拡大した。


「人が何十年もかけて覚えた仕事を、盗んだ数字だけで再現できると思わないでください」


仙台分室の大型モニターに、赤い警告表示が灯った。



けちのん、値段の話もせず怒る


緊急招集を受けたのは八人だった。


指揮官、西園寺綾乃。


「トリオ・ザ・大阪」の赤嶺美月、谷口佳乃、坂井まどか。


紀伊半島在住の三人組、


「紀伊ハンター」


白浜麻衣。


山本あかり。


春日美咲。


そして岸和田在住の機動要員、大西結月。


作戦室へ入った美月は、顔ぶれを見渡して声を上げた。


「何や今日は! 西日本オールスター感謝祭か!」


美咲が冷静に返す。


「感謝祭ではありません。戦闘任務です」


あかりは拳を握った。


「敵、いっぱいおる?」


「最初に確認するのがそこですか」


「いっぱいおった方が、まとめて倒せるやん!」


「まとめられる前提で話さないでください」


麻衣が穏やかな紀州弁で二人をなだめる。


「まあまあ。敵が何人おっても、けが人を出さんように動くんが先やよ」


結月は壁際で、自転車用装備の固定具を確認していた。


「逃げる相手がおるなら、うちが追う」


まどかが美月へささやく。


「うち以外、全員戦闘の顔になっとるで」


美月も小声で返す。


「うちらも戦隊ヒロインやぞ」


「さっき“感謝祭”言うた人が?」


綾乃が全員の前へ立つ。


「それでは、任務内容を説明します」


柔らかな声だったが、室内はすぐに静かになった。


モニターへ、ジェネラス・リンクが盗んだ資料と秘密工場の映像が表示される。


綾乃は静かに説明した。


「堺市内の町工場へ、支援を装って不正端末を設置。職人さんの技術を盗み、粗悪な模倣品を作って市場へ流す。そのうえで、本物の工場を経営難へ追い込んで買収する計画です」


佳乃は黙って画面を見ていた。


いつもの佳乃なら、被害総額、製造原価、市場価格、買収額をすぐに計算する。


しかし今日は、電卓へ手を伸ばさなかった。


画面には、佳乃が子どもの頃から知っている町工場も映っている。


自転車で何度も通った道。


家族で買い物をした商店街。


工場の前で作業をしていた顔見知りの職人。


そのすべてが、ジェネラス・リンクの標的になっていた。


佳乃の拳が震えた。


「無料で助ける言うて近づいて……」


美月が、珍しく小さな声で呼ぶ。


「けちのん?」


「技術を盗んで、粗悪品を作って、本物の仕事を奪う。弱ったところを安値で買いたたく……」


佳乃は顔を上げた。


「ふざけんな」


作戦室が静まり返った。


普段の丁寧な口調が消えている。


「職人さんが何十年もかけて身に付けた技術や。何回も失敗して、工夫して、後の人へ教えてきた物や。それを勝手に数字へ変えて、自分らの物みたいに使うて……」


佳乃は机へ手をついた。


「地元で、好き勝手させへん」


美月が、そっとまどかへ顔を近づける。


「けちのんが、金額確認せずに怒っとる」


まどかも小声で答える。


「これは、ほんまに怒っとる時や」


佳乃が二人を見る。


「聞こえてます」


美月は姿勢を正した。


「地獄耳だけは通常運転やな」


「美月さんから先に、敵陣へ送り込みますよ」


「作戦会議で私情を入れるな!」


綾乃が静かに咳払いをした。


「お二人とも、続けてもよろしおすか?」


美月と佳乃は、同時に椅子へ座り直した。



作戦名、サカイ・リンクブレイク


綾乃は八人を三班へ分けた。


正面陽動班。


美月、まどか、麻衣、あかり、美咲。


旧物流倉庫の正面から突入し、敵兵と無人兵器を引き付ける。


高速追跡班。


結月。


盗まれたデータを運び出す高速自転車部隊を追跡する。


中枢制圧班。


綾乃と佳乃。


地元の地理を知る佳乃が地下通路を案内し、秘密工場の制御装置を停止する。


真結は仙台分室から、全班の位置、敵の動き、避難経路を遠隔管理する。


綾乃が説明を締めくくった。


「派手に動く班と、静かに中へ入る班に分かれます」


美月は胸を張った。


「うちらが派手な方やな!」


まどかが答える。


「聞く前から分かる」


あかりも勢いよく手を挙げる。


「私も派手に戦う!」


美咲は冷静だった。


「あなたの場合は、派手というより、考えずに突っ込む方です」


「似たようなもんや!」


「まったく違います」


麻衣が二人の間へ入る。


「まあまあ。敵と戦う前に、身内で戦わんとこなあ」


美月は紀伊ハンターの三人を見る。


おっとりして見える麻衣。


勢いだけなら誰にも負けないあかり。


知性と分析力を持つ美咲。


「こうして見ると、紀伊ハンターもバランス取れとるな」


まどかが答える。


「うちらと似とるな」


佳乃が否定する。


「一緒にせんといてください」


あかりが尋ねる。


「どっち側が嫌がられたん?」


美咲が即答した。


「両方です」



けちのん堺観光、戦闘前から割引情報


現場へ向かう車内。


佳乃は堺市内の細い道を案内していた。


「次の交差点を右です。大通りを使うより三分早いです」


綾乃が頷く。


「さすが地元やね」


佳乃は続けた。


「角にある自動販売機は、同じ飲料が三十円安いです」


美月が振り返る。


「今からジェネラス・リンクの基地へ行くんやぞ!」


「水分補給は任務にも必要です」


「理由が妙に正しい!」


さらに進む。


佳乃が窓の外を指した。


「あの総菜店は、夕方六時を過ぎると二割引きになります」


まどかが言う。


「戦闘後の買い物まで計画せんでええ」


あかりが身を乗り出す。


「甘い物も安くなる?」


「和菓子なら、二本向こうの店の方が安いです」


「あとで行きたい!」


美月が頭を抱えた。


「紀伊ハンターまで、けちのん買い物ツアーへ参加し始めた!」


麻衣が楽しそうに言う。


「地元の人しか知らんお店、興味あるねえ」


美咲が注意する。


「任務後です。今は作戦へ集中してください」


結月は自転車用ヘルメットを確認しながら言った。


「終わってから、まだ開いとったら寄ったらええ」


綾乃が、柔らかな声で告げる。


「皆さん。お買い物は、無事に任務を終えてからにしよし」


全員が一斉に前を向いた。


美月は、まどかへ小声で言う。


「さつきの猛獣使いとは、また違う種類の圧やな」


「綾乃は猛獣を静かに座らせる方やな」


運転席から佳乃が言った。


「聞こえてます」


「今日、全員地獄耳やん!」



正面突入、五人の派手すぎる陽動作戦


堺港近くの旧物流倉庫。


錆びた外壁。


閉ざされた搬入口。


だが内部には、最新式の通信装置と秘密工場が隠されている。


美月たちが倉庫前へ到着すると、シャッターが勢いよく開いた。


中から現れたのは、ジェネラス・リンクの量産兵、


コストカッター兵


外装だけは派手で近代的。


しかし経費削減を優先したため、関節部品、通信装置、固定金具には安価な製品が使われている。


さらに上空では、堺の刃物技術を悪用した小型ドローン、


黒刃スウォーム


が展開した。


鋭い回転翼を持ち、通信線、資材固定ベルト、扉のヒンジなどを狙って切断し、現場を混乱させる。


美月は拳を構えた。


「久しぶりに、客席やのうて敵が相手や!」


まどかが構えながら答える。


「客席を殴ったことは一回もない」


「例えや!」


コストカッター兵が一斉に動いた。


美月が真正面から飛び出す。


一歩目から速い。


足元へ滑り込むように距離を詰め、敵の攻撃を身体をひねって回避。


そのまま軸足を返し、回転蹴りを叩き込む。


一体目が吹き飛び、後方の二体を巻き込んだ。


「三体まとめて、経費削減や!」


まどかが叫ぶ。


「その言い方やと、敵の味方みたいや!」


美月は戦闘能力が高い。


反応が速い。


踏み込みも強い。


身体を大きく使う蹴りや跳躍を得意とし、敵陣の中央へ飛び込んで流れを一気に変える。


ただし、必要以上に派手だった。


普通に避ければよい攻撃を、わざわざ一回転して避ける。


一歩で届く場所へ、三歩のステップを入れる。


低く飛べば済む障害物を、大きく跳び越える。


まどかは美月の背後を守りながら叫んだ。


「美月! 今日、観客おらんで!」


「敵が見とる!」


「敵へ見せ場作らんでええ!」


その横を、白い影が流れるように抜けた。


白浜麻衣である。


紀州の舞姫。


柔らかく穏やかな印象とは裏腹に、戦闘時の麻衣は舞うように動く。


一体の敵が腕を振り下ろす。


麻衣は正面から受けず、半歩だけ横へ。


敵の腕が空を切る。


麻衣は相手の勢いを利用し、手首へ軽く触れながら身体を回す。


敵は自分の力で体勢を崩した。


麻衣は、そこへ流れるような足払い。


別の敵が背後から迫る。


麻衣は振り返らず、一歩。


二歩。


まるで音楽が聞こえているかのような華麗なステップで、敵の間をすり抜ける。


二体の攻撃が互いにぶつかった。


「そんな慌てて振り回したら、危ないよお」


声はいつもの穏やかな紀州弁。


だが次の瞬間には、敵の胸部装甲へ正確な蹴りが入っている。


美月が感心した。


「麻衣、めちゃくちゃ優雅やな!」


まどかが答える。


「美月の動きは、優雅より騒がしいやな」


「比較すな!」


麻衣は倒れた敵の間を、くるりと回って抜ける。


髪と制服の裾が軽やかに揺れた。


「紀州の舞姫」の呼び名どおり、戦場にいながら、どこか舞台を思わせる動きだった。


その優雅さを、真正面から吹き飛ばすような声が響く。


「どりゃあああっ!」


山本あかり。


四日市の突貫娘。


敵陣の中央へ、考えるより先に身体が飛び込んでいた。


「細かいことは美咲に任せた! 私は殴るに!」


美咲が後方から叫ぶ。


「少しは細かいことも考えてください!」


あかりは一体の盾へ肩からぶつかる。


盾ごと敵を押し込み、後ろの二体までまとめて倉庫の資材へ突っ込ませる。


別の敵が横から迫る。


あかりは振り返りざまに拳を放ち、その勢いのまま次の敵へ突進。


敵の隊列を真っすぐ切り裂いていく。


麻衣が舞うなら、あかりは突き破る。


美月が敵陣をかき回し、麻衣が敵の攻撃を受け流し、あかりが開いた隙間へ一直線に突っ込む。


美咲は後方から全体を分析する。


「右側の三体は通信が同期しています。中央の一体を止めれば、残りも動きが鈍ります!」


まどかが即座に位置を変える。


「美月、中央!」


「任せろ!」


「あかりは右!」


「分かったに!」


「麻衣は避難路を!」


「了解やよ」


五人の役割が、見事にかみ合った。


ただし、あかりは勢いよく右へ走った直後、床から突き出した自転車固定ラックへ片足を取られた。


「何これ!」


前へ進もうとしても、脚が抜けない。


美月が叫ぶ。


「四日市の突貫娘が駐輪された!」


「私は自転車じゃない!」


麻衣が敵をかわしながら近づき、固定具を外す。


「あかりさん、突っ込む前に足元も見よなあ」


「はい……」


あかりは反省した顔をする。


三秒後。


再び敵陣へ飛び込んだ。


「今度こそ、どりゃあああっ!」


まどかが叫ぶ。


「反省時間、短すぎるやろ!」



河内のスピーカー、正式に戦術兵器へ認定される


黒刃スウォームは、倉庫上空を複雑に飛び回っていた。


美咲は軌道を観察する。


「無作為ではありません。何かを基準に標的を選んでいます」


仙台分室の真結も、音声データと機体の反応を照合していた。


数秒後、答えが出る。


「美月さん。ドローンは、最も大きな音を出す対象へ集中するよう設定されています」


美月が胸を張った。


「うちの出番やな!」


まどかが呆れる。


「普段と同じことするだけやん」


綾乃から通信が入る。


「美月さん。今だけ、思い切り叫んどくれやす」


「“今だけ”言われると、普段は静かみたいやな!」


美月は倉庫中央へ走り出した。


大きく息を吸う。


「ジェネラス・リンク! 堺で好き勝手して、ただで済む思うなよおおおっ!」


声が倉庫中へ反響する。


天井が震えたように感じるほどの声量だった。


黒刃スウォームが一斉に旋回。


すべての機体が美月へ向きを変えた。


美月の顔が引きつる。


「全部来た! 来すぎや!」


まどかも走りながら叫ぶ。


「自分で呼んだんやろ!」


「限度があるやろ!」


「機械に限度を期待するな!」


美咲は倉庫の制御盤へ接続し、防火区画の扉を操作する。


「美月、奥の閉鎖区画へ誘導してください!」


「簡単に言うな!」


美月は数十機のドローンを引き連れ、倉庫内を疾走。


積み上げられた木箱を飛び越える。


台車の上へ片足を置き、勢いを利用して方向転換。


壁際へ迫ったところで、身体を低くし、横へ滑り込む。


黒刃スウォームが美月のすぐ後ろを追う。


麻衣が防火扉のスイッチ前へ立つ。


あかりが扉の固定装置を両手で押さえる。


「美月さん、早く!」


「今行っとる!」


美月は閉鎖区画へ飛び込み、最後の瞬間に床を滑って扉の下を抜けた。


麻衣がスイッチを押す。


あかりが固定具を力任せに下ろす。


扉が閉まり、黒刃スウォームは区画内へ封じ込められた。


美月は床へ寝転んだまま息を吐く。


「危なかった……」


真結の声が通信機から聞こえる。


「美月さんの声量が、正式な戦術資産として機能しました」


美月は立ち上がり、胸を張った。


「初めてちゃうで! 今までも役立っとる!」


まどかが答える。


「舞台のマイク代削減には役立っとったな」


「うちの声を経費削減設備みたいに言うな!」



ビリッ――敵より先に、制服が悲鳴を上げる


残るコストカッター兵が、倉庫中央へ集結する。


美月は拳を構え直した。


「ここから一気に決めるで!」


まどかが敵の位置を見る。


「派手に行きすぎるなよ」


「戦闘で地味に行ってどうすんねん!」


美月は荷物用台車へ飛び乗った。


まどかの顔色が変わる。


「それ、乗り物ちゃうで!」


「動いたら乗り物や!」


「その理屈、富田林でも聞いたぞ!」


台車は緩い傾斜を一気に滑り降りる。


美月は迫る敵の直前で跳び上がった。


空中で身体をひねる。


一回転。


敵の肩を蹴り、反動を使って別の敵へ移る。


着地。


そのまま低く身体を沈め、床を滑る。


立ち上がる勢いで蹴り。


敵の攻撃をかわすため、さらに大きく身体を反らす。


戦闘能力は高い。


動きも速い。


だが一つ一つが派手すぎる。


美月が三体目の敵へ飛びかかろうとした、その時だった。


ビリッ。


戦場には不似合いな、非常に現実的で嫌な音がした。


美月の動きが止まる。


まどかも止まる。


麻衣も振り返る。


あかりは拳を構えたまま首をかしげた。


美咲は周囲を警戒しながら尋ねる。


「今の音は、何ですか?」


美月は、ゆっくり自分の脇腹を見る。


赤を基調とした戦隊ヒロイン制服。


その縫い目の一部が、見事に裂けていた。


内部には防護インナーがあるため、肌が露出しているわけではない。


防御機能にも、すぐ影響はない。


しかし凛々しく華やかな制服に、どうにも情けない裂け目ができている。


美月の口元が震えた。


「うちの制服……破れた」


まどかが確認する。


「さっき身体ひねった時、縫い目に負担かかったんやな」


美月はコストカッター兵を指さした。


「お前らのせいや!」


敵兵が一歩下がった。


美咲が冷静に指摘する。


「敵は制服へ触れていません」


「敵がおらんかったら、こんな動きせえへんかった!」


麻衣が、破れた部分を遠目から確認する。


「派手に動きすぎたんと違うかなあ」


「麻衣まで!」


麻衣は少し言いにくそうに続ける。


「それと最近、甘い物をよう食べとったんと違う?」


美月の表情が固まる。


「何で戦場で、その話になるん?」


あかりが素直に答える。


「昨日も大きいパフェ食べてたよね」


「みんなで食べたやろ!」


「美月さんだけプリン追加した」


美咲が付け加える。


「その前日は、チーズケーキを二個食べていました」


「情報分析を、そこへ使うな!」


まどかがため息をついた。


「派手なアクションと、最近のスイーツの積み重ねやな」


美月は裂け目を片手で押さえながら叫ぶ。


「敵の前で体重検証すな!」


コストカッター兵が、美月の隙を狙って動き出す。


美月は振り返った。


「今、うちが一番触れられたない話をしとる時やぞ!」


片手で制服を押さえたまま跳躍。


強烈な蹴りで敵を吹き飛ばす。


「この恨み、制服代込みで返したる!」


美咲が冷静に言う。


「敵へ制服代を請求しても、回収できる可能性は低いです」


まどかが叫ぶ。


「戦闘中まで、けちのんみたいなこと言わんでええ!」


麻衣は華麗なステップで二体の攻撃をかわし、美月の裂けた側へ敵が回り込まないよう位置を変える。


「あんまり大きく身体をひねらん方がええよお」


「そんな戦闘指導、初めて聞いた!」


あかりは敵陣へ飛び込みながら叫ぶ。


「美月さんの制服が、これ以上破れる前に終わらせる!」


「目的が変わっとるぞ!」


紀州の舞姫が敵を翻弄し、四日市の突貫娘が正面を突き破る。


美月は裂けた制服を気にしながらも、最後はまどかとの連携で残る敵兵を一掃した。


倉庫正面の制圧は完了。


ただし美月の戦隊ヒロイン制服は、敵より先に一部が戦闘不能となった。



岸和田の女から、自転車で逃げられると思うな


その頃、倉庫の裏口から一台の高速電動自転車が飛び出していた。


荷台には、盗まれた職人データを収めたケース。


周囲を走るのは、無人追跡車両、


リンク・サイクラー


転倒しても自動で起き上がり、複数台が連結して道路を塞ぐ。


結月は自転車へまたがった。


真結の声が通信機から届く。


「目標は湾岸道路方面へ逃走。速度が上がっています」


「追いつけばええんやろ」


「簡単に言いますね」


「自転車のことなら、走りながら考える」


結月は一気に加速した。


前輪が地面をつかむ。


細い路地へ入っても、速度を落とさない。


一台のリンク・サイクラーが左から接近する。


結月は身体をわずかに右へ傾け、数センチの差で回避。


もう一台が前へ回り込む。


ペダルを強く踏み込み、相手の横を抜く。


二台の無人車両が前方で連結し、道を塞いだ。


結月は手前の角を曲がり、住宅街の細い道へ入る。


後方から美月の声が通信へ割り込んだ。


「結月、次の角を右や!」


「地図見えてるから黙って」


「地元からの応援や!」


佳乃の声も入る。


「そこは左です」


結月が叫んだ。


「地元民同士で意見を割らんといて!」


真結が冷静に修正する。


「結月さん。百メートル先を左。その後、橋の手前で右です」


「最初から、まゆちゃんだけ聞いとけばよかった」


美月が傷ついた声を出す。


「うちの応援は?」


「ペダルが軽くなるくらい静かに応援して」


結月はわざと速度を落とした。


無人自転車が左右から挟み込もうとする。


接触寸前。


結月は一気に加速した。


目標を失った二台が互いに衝突。


火花を散らして転倒する。


残る一台が、データケースを運ぶ自転車を守る。


結月は横へ並んだ。


相手が車体をぶつけてくる。


結月は、ぎりぎりまで引き付けてかわす。


片手を伸ばし、荷台からデータケースだけを引き抜いた。


「回収」


逃走車両の前方では、真結が遠隔操作した可動式車止めが上昇。


敵は慌てて停止する。


結月はゆっくり追いついた。


「岸和田の女から、自転車で逃げられる思うたん?」


チェイスは結月の完勝だった。



地元の道は、けちのんが一番知っている


正面で派手な戦闘が続いている間に、綾乃と佳乃は倉庫地下へ侵入していた。


現在の設計図では、中枢制御室へ通じる道は正面通路だけ。


しかし佳乃は、建て替え前の古い搬入口と排水路を知っていた。


「昔、この辺りには小さい倉庫が並んでました。地下へ荷物を運ぶ通路が、埋められずに残っとるはずです」


綾乃が尋ねる。


「何で、そんな古い通路まで知ってはるの?」


「子どもの頃、父と安い自転車部品を探して、この辺りを歩き回りました」


綾乃は、はんなりと笑う。


「やっぱり、値段が基準なんやね」


「同じ品質なら、安い方を選ぶんは当然です」


「今日は、その話を聞きに来たんやなかったね」


二人は古い整備通路へ入った。


警備兵が現れる。


綾乃は正面の敵へ、流れるように接近。


攻撃を紙一重でかわし、相手の力を利用して壁際へ誘導する。


佳乃は狭い通路の配管と段差を利用し、正確に敵の足元を崩す。


派手さはない。


無駄もない。


必要な動きだけで、敵を一人ずつ無力化していく。


綾乃が感心した。


「今日は、いつも以上によく動かはりますね」


佳乃は倒れた敵から視線を外さない。


「地元ですから」


短い言葉だった。


その声には、揺るがない覚悟が込められていた。



安うしてええ物と、値切ったらあかん物がある


地下制御室。


ジェネラス・リンクの責任者は、盗み出した技術データを背に立っていた。


壁一面の画面には、堺の町工場から送られてきた膨大な作業記録。


責任者は佳乃を見て笑う。


「町工場の時代は終わった。職人の勘など非効率だ。すべてを数値化し、大量生産へ利用する方が社会の利益になる」


佳乃の目が鋭くなる。


「それは技術を持っとるんやない」


一歩、前へ出る。


「盗んだだけです」


「同じ物を安く作れるなら、消費者も喜ぶ」


「同じ物やありません」


佳乃は、模倣品の検査結果が表示された画面を指した。


耐久性不足。


寸法のずれ。


安全基準を満たさない自転車部品。


切れ味だけを似せ、すぐ刃こぼれする刃物。


「職人さんは、図面に書いてへん部分まで考えて作っとる。素材の癖、使う人の安全、次の工程で困らんか。そこまで全部含めて技術です」


責任者は防衛システムを起動した。


強化装備をまとった警備兵が現れる。


だが佳乃は、制御室の配線を見て眉をひそめた。


全設備が、たった一つの安価な中継装置へ集中している。


予備回線なし。


予備電源なし。


冷却設備も最低限。


「全設備を、一個の中継器へつないだんですか?」


責任者は胸を張った。


「無駄な設備投資を省いただけだ」


佳乃は心底呆れた顔をした。


「削ったらあかんところを削るから、こうなるんです」


一つの中継装置を停止すれば、秘密工場全体が止まる。


責任者の強化装備も、同じ通信系統へ接続されている。


しかし停止レバーの前には、責任者と警備兵が立ちはだかる。


綾乃が優雅に構えた。


「佳乃さん。最後は、地元の方にお任せしまひょ」


責任者が佳乃へ襲いかかる。


高価そうな外装。


だが内部の接続金具と可動部品は、安価な粗製品。


佳乃は攻撃をかわしながら、装備の構造を見抜いていく。


責任者が嘲笑する。


「金の計算しかできない女に、何が守れる」


佳乃は静かに答えた。


「金の計算をするからこそ、分かるんです」


敵の右腕を受け流し、接続部へ正確な一撃。


強化装備の右腕が停止する。


「安うしてええ物と」


次の攻撃をかわし、脚部制御を破壊する。


責任者が膝をついた。


「絶対に値切ったらあかん物がある」


佳乃は停止レバーへ走る。


責任者が立ち上がろうとするが、綾乃がその前へ入った。


佳乃はレバーへ手をかける。


「安全」


レバーを一段下げる。


「信用」


さらに力を込める。


「人が何十年も積み上げた技術」


佳乃は責任者を振り返った。


「一円も、一ミリも、あんたらの好きにはさせへん!」


レバーを一気に落とす。


照明が消える。


黒刃スウォーム。


リンク・サイクラー。


コストカッター兵。


強化装備。


秘密工場の全設備が、一斉に停止した。


堺の地元ヒロイン、谷口佳乃が最後を決めた。



堺は救った。でも制服は救えなかった


任務終了後。


旧物流倉庫の前へ八人が集まった。


結月は回収したデータケースを美咲へ渡す。


「外へ持ち出された分も取り返したで」


美咲は中身を確認する。


「破損はありません。盗まれた技術データは、ほぼすべて確保できました」


仙台の真結から通信が入る。


「堺市内へ設置されていた不正端末も、すべて停止しました。これから各工場の復旧作業へ移ります」


美月は通信機へ顔を近づけた。


「まゆちゃん! 仙台からよう見つけてくれたな!」


「美月さん。通信機器は正常です。そんなに大声でなくても聞こえます」


まどかが言う。


「全国どこへ行っても同じ注意されるな」


美月は佳乃の肩を勢いよく叩いた。


「けちのん、最後めちゃくちゃ格好よかったぞ!」


佳乃がよろめく。


「痛いです」


「感動の場面やぞ!」


「感動しても、力加減は必要です」


麻衣も微笑む。


「佳乃さんが最後を決めてくれて、ほんまよかったねえ」


あかりは何度も頷く。


「最後のレバー、私も倒したかった!」


美咲が止める。


「あなたが操作すると、関係のないレバーまで全部倒すでしょう」


「全部止めた方が早いやん!」


「必要な設備まで止まります」


あかりは少し考えた。


「じゃあ佳乃で正解やった」


「判断が遅いです」


その時、あかりが美月の制服を指さした。


「美月さん。そこ、まだ開いてるよ」


全員の視線が、美月の脇腹へ集まる。


美月は慌てて裂け目を押さえた。


「見るな!」


佳乃は破損部分を確認する。


「縫い目が裂けただけですな。修繕可能です」


美月は少し考えた後、真顔で言った。


「新品にしてくれ」


佳乃は即答した。


「あかん」


「まだ正式に申請してへんぞ!」


「顔に書いてありました」



新制服案、審査時間一秒


任務後の簡易反省会。


会議室の中央へ、美月が大きなデッサン用紙を広げた。


「こうなることもあろうかと、次の制服案を用意してきた!」


まどかが驚く。


「今日破れたのに、何で次のデザインがもうあるん?」


「前から考えとった!」


デザイン案は、博多のスタイリスト・浜崎莉央と美月が一緒に考えたものだった。


従来の赤を基調に、金色の装飾を増加。


肩のラインを強調。


腰には華やかな飾り。


背中には動くたびに揺れる短いマント風パーツ。


戦闘でも舞台でも、圧倒的に目立つデザインである。


美月は胸を張った。


「次は、これにしてほしい!」


佳乃は紙を一秒だけ見た。


「あかん」


美月が机を叩く。


「ちゃんと見て!」


「見ました」


「一秒やったぞ!」


佳乃は破れた制服を持ち上げた。


「裂けた部分へ補修布を当てて縫います。後で回してください」


美月は、佳乃が用意した布を見る。


「それ、ぼろきれやん!」


「余った丈夫な生地です」


「色が全然違う!」


「内側へ当てます」


「継ぎ接ぎだらけの戦隊ヒロイン制服では夢がない! 貧乏くさい!」


佳乃は眼鏡を直した。


「破損する方が悪いです」


「派手に戦った結果やぞ!」


「まどかさんの制服は破れてません」


まどかは自分の腰や脇を確認する。


「無事やな」


「麻衣さんも破れてません」


麻衣が袖と腰を確認する。


「大丈夫やねえ」


「あかりさんも」


あかりは胸を張る。


「私、敵陣へいっぱい突っ込んだけど破れてない!」


美咲が付け加えた。


「あなたの場合は、制服より先に駐輪ラックへ捕まりましたから」


「それ関係ある?」


「勢いが一度止まったため、制服への負荷が減った可能性はあります」


美月が叫ぶ。


「駐輪ラックに捕まった方が正解みたいに言うな!」


佳乃は話を戻す。


「美咲さんの制服も破損していません」


美咲は頷く。


「無理な動作は避けました」


佳乃は美月を見る。


「つまり、制服だけの問題ではありません」


「うちの問題や言いたいんか!」


「はい」


「少しは遠回しに言え!」


佳乃は破損部分を指す。


「戦隊ヒロイン制服は、一人ひとりデザインの違うオーダーメイドです。特殊防護素材、可動部分の補強、通信装置、専用ブーツまで含めれば、一着数十万円します」


美月が小さな声で尋ねる。


「具体的に、なんぼ?」


佳乃が金額を告げた。


美月の顔色が変わる。


「……そんな高いん?」


「せやから、大事に扱いなさい」


「敵と戦うための制服やろ!」


「戦うための制服と、無駄に一回転するための制服は別です」


まどかが吹き出す。


美月はデザイン案を佳乃へ押し出した。


「でも新しい方は、もっと動きやすく設計してある!」


佳乃は紙を見る。


「金色の装飾が増えています」


「格好ええやろ!」


「腰の飾りも増えています」


「華があるやろ!」


「短いマントが付いています」


「動いた時に映えるやろ!」


「動きやすさより、見栄えを優先しています」


「戦隊ヒロインは夢を売る仕事や!」


「戦隊ヒロインは敵と戦う仕事です」


「最近は舞台も多い!」


「舞台衣装を別途検討してください」


「予算二倍になるやん!」


「そちらは美月さんが自分で交渉してください」


美月は机へ身を乗り出す。


「このデザイン、莉央さんと一緒に考えた力作やぞ!」


「莉央さんのデザイン能力は疑うてません」


「ほな何が問題や!」


「美月さんが着ることです」


会議室が一瞬静かになった。


次の瞬間、まどかが机へ突っ伏して笑い始めた。


あかりも腹を抱える。


麻衣は口元を押さえている。


美咲まで顔をそらして笑いをこらえていた。


美月が叫ぶ。


「着用者を否定すな!」



「トリオ・ザ・大阪」、内輪だけの戦闘後漫才


美月はデザイン案を胸へ抱えた。


「継ぎ接ぎだらけの制服なんか嫌や! 戦隊ヒロインは、子どもたちの夢やぞ!」


佳乃は針と補修布を準備する。


「夢にも予算があります」


「夢を会計項目へ入れるな!」


「数十万円の物を一回破っただけで捨てる方が、夢がありません」


「どんな夢や!」


「物を大切にする夢です」


「地味すぎる!」


佳乃は続ける。


「そんなに新しい制服が欲しければ、ご自分で買いなさい」


美月が固まる。


「自腹?」


「自腹です」


「数十万円?」


「装飾が増えた分、現在の制服より高くなる可能性があります」


「夢、高すぎるやろ!」


そこまで黙って聞いていたまどかが、二人の間へ入った。


「ちょっと整理しよか」


美月がまどかへ向く。


「まどか、言うたって! 破れた制服を継ぎ接ぎするんは、ヒロインとして夢がないって!」


佳乃も言う。


「まどかさん。修繕可能な制服を廃棄して、数十万円の新品を作るんは無駄やと説明してください」


まどかは右手を美月側へ、左手を佳乃側へ向けた。


「まず美月」


「はい!」


「制服が破れた原因は?」


「敵との激しい戦闘!」


美咲が後ろから訂正する。


「直接の原因は、大きく身体をひねったことです」


あかりも言う。


「それとパフェ」


「パフェは直接関係ない!」


麻衣が優しく言う。


「プリンも追加しとったねえ」


「紀伊ハンター全員で追い込むな!」


まどかは続ける。


「つまり、派手に動きすぎた美月にも原因がある」


「半分だけ認める」


「何で自分で割合決めるん?」


次に佳乃を見る。


「佳乃」


「はい」


「補修するんは分かる。でも、ぼろきれみたいな布を見せたら、美月が怒るんも分かるやろ」


「ぼろきれではありません。余った高耐久生地です」


「見た目は?」


「ぼろきれに近いです」


「認めるんかい!」


佳乃は補修布を折りたたむ。


「内側へ当てますので、外からは見えません」


美月が反論する。


「うちには分かる!」


まどかが言う。


「着とる本人は外から見られへんやろ」


美月が一瞬黙る。


あかりが感心する。


「ほんまや」


美月はすぐに立て直した。


「心の目で見える!」


佳乃が答える。


「心の目を閉じてください」


会議室が爆笑に包まれる。


まどかは両手を上げ、さらに整理する。


「結論。今回は修繕」


美月が不満そうに言う。


「新品は?」


「次に正式な更新時期が来たら、莉央さんの案も含めて検討」


佳乃が言う。


「装飾は減らします」


美月が叫ぶ。


「検討する前から減らすな!」


「安全性と予算を優先します」


「夢は?」


「予算内で持ってください」


「夢の上限額を設定すな!」


まどかは二人を見比べた。


「それと美月は、しばらくスイーツを控える」


美月が驚く。


「何でまどかまで、そっち側へ行くん!」


佳乃は頷く。


「合理的です」


麻衣も言う。


「身体のためにも、ちょっと控えた方がええかもしれんねえ」


あかりが美月へ尋ねる。


「じゃあ、美月さんの分、私が食べていい?」


美咲が即座に止める。


「別の問題が発生します」


美月は机を叩いた。


「戦闘任務の反省会やったはずが、何でうちのスイーツ管理会議になっとるん!」


まどかが答える。


「制服が破れたからや」


佳乃が続ける。


「破損する方が悪いです」


「また最初へ戻った!」


綾乃は少し離れた場所で、三人のやり取りを眺めていた。


戦闘では、佳乃が地元への怒りを力へ変えた。


美月は正面から敵を引き付けた。


まどかは全体を調整した。


麻衣は華麗な動きで敵を翻弄しながら、避難者を守った。


あかりは何度転んでも敵陣へ突っ込んだ。


美咲は戦況を分析し、仲間へ正確な指示を出した。


結月は盗まれたデータを追跡し、奪還した。


真結は仙台からすべての班を支えた。


誰か一人でも欠けていれば、任務は成功しなかった。


だが任務が終われば、いつもの笑いが戻る。


美月は最後の抵抗を試みた。


「けちのん。せめて縫い目だけでも金色にしてくれへん?」


「あかん」


「即答すな!」


「金色の糸は、現在の補修資材より高いです」


「数百円の話やろ!」


「数百円を笑う人に、数十万円の制服は任せられません」


「話が大きくなっとる!」


まどかが、二人の中央へ立つ。


「ほな最後に、きれいにまとめるで」


美月と佳乃が同時にまどかを見る。


まどかは美月を指した。


「堺の技術は守った」


次に佳乃を指す。


「職人さんの誇りも守った」


そして美月の裂けた制服を指す。


「でも美月の縫い目だけは守られへんかった」


会議室が割れんばかりの笑いに包まれた。


美月が叫ぶ。


「うまいこと言うな!」


佳乃は補修布を畳みながら言う。


「では、修繕で決定です」


「笑いに紛れて決裁すな!」


客席はいない。


マイクもない。


舞台装置もない。


いるのは、激しい任務を一緒に乗り越えた仲間だけ。


それでも「トリオ・ザ・大阪」の戦闘後漫才は、内輪だけとは思えないほどの爆笑の渦を巻き起こした。



数日後。


修繕を終えた美月の制服が戻ってきた。


裂けた部分の内側には、元の赤とは微妙に色の違う補修布が丁寧に当てられている。


外側からは、ほとんど見えない。


美月は光へ透かし、裏返し、近くから見つめた。


「やっぱり、ちょっと貧乏くさい」


佳乃は静かに答える。


「外から見えません」


「うちには見える!」


「ほな、次は破らんようにしてください」


美月は、浜崎莉央と考えた新制服のデザイン画を抱えたまま言う。


「次の更新時期には、絶対これにするからな」


佳乃はデザイン画を見た。


「まず、マントを外します」


「夢を最初に外すな!」


まどかが二人の間へ入る。


「新しい制服の話は、次の更新時期まで保留。美月はそれまで、今の制服とスイーツの量を大切にする」


「制服とスイーツを同列に並べるな!」


「両方、美月が破損原因に関わっとるからな」


「まだ確定してへん!」


佳乃が最後に言った。


「なお、今回の補修費は活動経費から差し引きます」


美月の顔が固まる。


「結局、うちが払うんかい!」


再び大きな笑いが起こった。


削ってよい無駄と、削ってはいけない価値がある。

職人の技術、人の信用、町への誇りは、一円でも値切ってはいけない。


そして戦隊ヒロイン制服は、一着数十万円。


どれほど格好よく敵を倒しても、


派手に動きすぎて、


スイーツを食べすぎて、


「ビリッ」


とやってしまえば、新品を買ってもらえるとは限らない。


堺の職人技を守った戦闘任務は、文句なしの大成功。


ただし赤嶺美月だけは、最後まで納得していなかった。


「堺の未来は守れたのに、何でうちの新制服の未来だけ閉ざされるんや!」


佳乃が答える。


「予算がないからです」


まどかが締める。


「最後は、いつものけちのんやな」


この日も「トリオ・ザ・大阪」の笑い声が、ヒロ室いっぱいに響き渡った。

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