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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1143/1170

けちのん遊園地、観覧車は半周で十分です!? ――夢まで半周にせんといて! 枚方ヒロイン・ぽかぽか遊園祭と「トリオ・ザ・大阪」逆転漫才

森ノ宮では、たこ焼き二百八十円の領収書を巡って大阪市民を爆笑の渦へ巻き込んだ。


難波では、昔の球場の「主催者発表」を都合よく利用し、赤嶺美月が伝票の数字まで十倍に水増ししようとした。


もちろん、すべて谷口佳乃に差し戻された。


河内のスピーカー・赤嶺美月。


和泉の貯金箱・谷口佳乃。


浪速のバランサー・坂井まどか。


大阪三地域から集まった漫才トリオ、


「トリオ・ザ・大阪」


は、すっかり関西のイベントステージで評判の存在になっていた。


美月が無茶を言う。


佳乃が容赦なく却下する。


まどかが二人の間へ入り、どうにか話を着地させる。


それが三人の基本形だった。


ところが難波公演後の反省会で、まどかの母親から意外な提案が出た。


「一回、役割を入れ替えてみたらええやん」


美月は焼きそばを口へ運ぶ手を止めた。


「役割を?」


「いつも美月ちゃんがアホなこと言うて、佳乃ちゃんが止めとるやろ」


「誰がアホや!」


「今みたいな人や」


「説明が早いねん!」


まどかの母は鉄板の向こうで、豚平焼きをひっくり返した。


「次は佳乃ちゃんがアホなこと言うて、美月ちゃんが止める。まどかはいつもどおり二人をまとめる」


美月は佳乃を見る。


「けちのんにボケなんかできるん?」


佳乃は眼鏡を直した。


「失礼ですな。うちかて、お笑いの基本くらい理解しています」


「理解してボケるんと、普段の発言が勝手にボケとして成立するんは違うぞ」


「うちの発言を常時ボケ扱いせんといてください」


まどかが二人を見比べる。


「でも、佳乃が真顔で無茶な節約案を言うて、美月が止めたら、たぶんおもろいで」


美月は自分の胸を指さした。


「うちが常識人?」


「今回だけな」


「普段のうち、どない思われとんねん!」


こうして「トリオ・ザ・大阪」は、第三回公演で役割を逆転させることになった。



枚方は大阪でも京都でもなく、枚方です


次の舞台は、大阪府枚方市。


大阪市と京都市の間にあり、どちらへ出るにも便利。


住宅地として発展しながら、大きな川や古い街道の面影も残っている。


大阪市内の人からは、


「だいぶ京都寄りやな」


と言われる。


京都側からは、


「そこはもう大阪どすやろ」


と言われる。


だが枚方市民は、そんな外野の分類にはあまり興味がない。


「枚方は枚方や」


それで話は終わる。


派手に自己主張するわけではない。


しかし自分たちの町への愛着は強い。


都会すぎず、田舎すぎず。


鉄道も買い物も生活も、それなりに便利。


そして枚方には、地元民が長年親しんできた昔ながらの遊園地があった。


世界的な映画会社が運営する巨大テーマパークのような豪華な城はない。


園内を歩けば、誰もが知る人気キャラクターが次々と現れるわけでもない。


乗り物には、それなりに年季が入っている。


観覧車。


回転木馬。


絶叫系遊具。


急流滑り。


お化け屋敷。


子ども向けの小さな乗り物。


どれも世界最高、世界最大、世界初を名乗るようなものではない。


しかし、乗れば普通に楽しい。


入園料も乗り物料金も、比較的手頃。


園内は広すぎず、家族連れが一日で回りやすい。


巨大テーマパークのように、一つの乗り物へ人生の一部を捧げるほど長時間並ぶ必要もない。


保護者の体力と財布が限界を迎える前に、子どもを満足させて帰れる。


美月は下見の日、園内を眺めながら言った。


「豪華とは言われへんな」


まどかが眉を寄せる。


「いきなり失礼やな」


「でもな、値段の割に意外と遊べる。近いし、親子で来やすいし、何やかんやで一日過ごせる。こういう場所が一番しぶといねん」


佳乃も深く頷いた。


「過剰な設備投資を避け、安全性と利用者満足度へ適切に資金を配分した堅実な経営です」


まどかが佳乃を見る。


「遊園地へ来ても財務分析なんやな」


美月は少し塗装の色あせた乗り物を指さした。


「あれ、だいぶ長いこと使っとるやろ」


佳乃は胸を張った。


「動いて、安全で、お客様に喜ばれているなら問題ありません。うちの実家の家電と同じです」


「遊園地の乗り物を、三十年使う炊飯器と一緒にすな!」


「修理して使える物は使う。それが倹約です」


まどかは嫌な予感を覚えた。


佳乃と、この庶民的な遊園地。


相性がよすぎる。



「枚方ヒロイン・ぽかぽか遊園祭」開幕


今回のイベント名は、


「枚方ヒロイン・ぽかぽか遊園祭」

――歌って、作って、笑って! 家族で楽しむ夢いっぱいステージ


参加ヒロインは九人。


学生キャスターとしてMCを務める三好さつき。


未就学児向けステージを担当するのは、


体操のおねえさん・白浜麻衣。


工作のおねえさん・宮沢萌音。


歌のおねえさん・藤原詩織。


三人を合わせた愛称は、


「ぽかぽかトリオ」


さらに、遊園地の魅力をおしゃれに語る迫田澪香と迫田澄香。


そして最後に登場するのが、美月、佳乃、まどかの「トリオ・ザ・大阪」だった。


イベント当日。


ステージ前には、未就学児とその保護者が大勢集まっていた。


風船を持った子ども。


ベビーカー。


小さな帽子。


動物柄の水筒。


保護者が広げたレジャーシート。


森ノ宮や難波のように、暇そうなおっちゃんが最前列からヤジを飛ばす雰囲気とは違う。


一人の幼児が風船を離しかけ、父親が慌ててひもをつかむ。


別の子は、開演前から眠っている。


すでにポップコーンを全部食べてしまい、母親に追加をねだる子もいる。


美月は舞台袖から客席を見た。


「今日は、難波のおっちゃんみたいにツッコんでくれへんぞ」


まどかが答える。


「せやから、三人だけでちゃんと成立させなあかん」


佳乃は進行表を確認する。


「未就学児は長時間集中できません。予定時間を厳守しましょう」


美月が佳乃を見る。


「難波で経理ソングの二番を歌おうとした人が、よう言うな」


佳乃は黙って台本を開き、


「二番」


と書かれた部分へ、さらに太い取消線を引いた。



さつきは華やかな沿線案内役


開演時刻になる。


明るい音楽とともに、さつきがステージへ現れた。


清楚で華やかな衣装。


上品な笑顔。


耳に心地よく届く、柔らかな声。


出しゃばりすぎない。


それでも登場しただけで、会場の空気が明るくなる。


まるで沿線の街、季節の名所、休日のお出かけ先を優雅に案内する鉄道会社のイメージキャラクターのようだった。


「皆さん、おはようございます。本日は『枚方ヒロイン・ぽかぽか遊園祭』へお越しいただき、ありがとうございます」


子どもたちが、


「おはよう!」


と元気よく返す。


さつきは少し腰をかがめ、子どもたちの目線に近づいた。


「とても元気なお返事ですね。今日はヒロインのお姉さんたちと、歌ったり、身体を動かしたり、楽しい物を作ったりします」


子どもたちはうれしそうに手を叩く。


「最後には、少しにぎやかな大阪のお姉さんたちも登場しますよ」


舞台袖から美月が顔を出した。


「少しちゃうで! めっちゃにぎやかや!」


子どもたちが笑う。


佳乃が美月の服の後ろをつかみ、そのまま舞台袖へ引き戻した。


「まだ出番やありません」


「子どもに存在を知らせただけや!」


「進行表にない登場です」


まどかは呟いた。


「上品な沿線案内に、急に河内の踏切が鳴り出したな」


さつきは表情を崩さない。


「それでは最初に、皆さんの心と身体をぽかぽかにしてくれる三人のお姉さんをご紹介します」


予定外の乱入まで、自然な前振りへ変えてしまった。


美月は感心する。


「さつき、何が飛んできてもきれいに着地させるな」


佳乃も頷いた。


「追加の時間を使わず、予定外の事態を処理しました」


「人の司会を経費削減みたいに褒めるな」



体操のおねえさん・白浜麻衣


最初に登場したのは、体操のおねえさん・白浜麻衣。


麻衣は、おっとりした紀州弁で子どもたちへ声をかけた。


「みんな、今日は元気に来てくれたんやねえ。お姉さんと一緒に、身体を動かしてくれるかなあ?」


「はーい!」


「ほんなら、お空に手が届くくらい、ぐーっと伸びてみよかあ」


麻衣の動きは大きく、ゆっくりしている。


小さな子どもでも、一目でまねできる。


背伸び。


肩回し。


軽いジャンプ。


動物の動きを取り入れた簡単な体操。


「うさぎさんみたいに、ぴょん」


子どもたちが跳ぶ。


「ぞうさんみたいに、お鼻をぶらぶら」


両腕をつないで鼻を作る。


「今度は、観覧車みたいにお手々を大きく回してみよかあ」


保護者も一緒に腕を回す。


最前列のお父さんが張り切りすぎて、隣のお母さんへぶつかりそうになった。


麻衣は笑顔で注意する。


「お父さん、元気なんはええけど、周りも見てなあ。遊園地へ来て最初にお母さんへ怒られたら、帰るまで長いでえ」


保護者から笑いが起こる。


お父さんは、すぐに動きを小さくした。


麻衣は穏やかだが、子どもたちの安全をよく見ている。


転びそうな子。


前へ出すぎる子。


動きが分からず困っている子。


一人一人へ優しく目を配る。


舞台袖の佳乃は感心した。


「説明が短く、運動量も適切。安全配慮も行き届いています」


美月が答える。


「反省会で麻衣に、それをそのまま言うたら嫌われるで」


「なぜです?」


「通知表みたいに聞こえるからや」



工作のおねえさん・宮沢萌音


続いて、工作のおねえさん・宮沢萌音。


ステージ前の子どもたちへ、材料の入った小袋が配られる。


紙皿。


色紙。


星や動物のシール。


太めの輪ゴム。


「今日は、みんなで遊園地の王さま、女王さまの冠を作ります」


子どもたちの目が輝く。


萌音は一つずつ手順を説明する。


「紙皿の真ん中を、おうちの人と一緒にそっと押してください。切るところはこちらで準備してあるので、今日ははさみを使いません」


安全面にも抜かりがない。


子どもたちは思い思いにシールを貼る。


一人の子どもは、星のシールをすべて同じ場所へ重ねた。


萌音は否定しない。


「すごく大きなお星さまになったね。世界に一つだけの冠だよ」


別の子は、冠へ貼るはずのシールを自分の頬へ貼ってしまった。


萌音は笑う。


「冠より先に、お顔がかわいくなったね」


保護者も笑う。


一人の男の子は、冠へ大量の動物シールを貼り、


「動物園!」


と叫んだ。


萌音はすぐに返す。


「遊園地の中に動物園もできたね。とてもにぎやかです」


どんな作り方も失敗にしない。


子どもの自由な発想を、そのまま作品として受け止める。


舞台袖の佳乃は、余った色紙へ視線を向けた。


「端紙は次回へ再利用できますな」


美月が佳乃をにらむ。


「子どもの夢より先に端紙を見るな!」


「捨てるより有効活用した方がよろしい」


「今日はボケ役やけど、まだ出番ちゃうぞ!」


完成した冠をかぶった子どもたちが並ぶ。


小さな王さまと女王さまで、会場がいっぱいになった。


さつきが華やかに声をかける。


「皆さん、とてもよく似合っています。今日の遊園地は、かわいい王さまと女王さまでいっぱいですね」



歌のおねえさん・藤原詩織


三人目は、歌のおねえさん・藤原詩織。


詩織は、明るく伸びやかな声で登場した。


「みんな、歌うのは好きかな?」


「好きー!」


「それでは、遊園地で見つけた物を歌にしてみましょう」


観覧車。


回転木馬。


風船。


アイスクリーム。


子どもたちが見つけた物を、詩織が即興で簡単な歌に変える。


「ぐるぐる観覧車、お空へ行くよ」


子どもたちも続く。


「ぐるぐる観覧車、お空へ行くよ!」


詩織は一度聞けばすぐに覚えられる旋律を作る。


麻衣が簡単な振り付けを付ける。


萌音は完成した王冠を揺らしながら参加。


体操。


工作。


歌。


三人の持ち味が自然につながり、一つの温かなステージになっていく。


詩織が子どもたちへ呼びかける。


「今日一日、楽しく遊べますように!」


三人がそろって手を振った。


「いってらっしゃい!」


大きな拍手が起きる。


泣いていた子も笑っている。


眠そうだった子も目を覚ましている。


保護者たちも満足そうだった。


さつきがステージへ戻る。


「麻衣お姉さん、萌音お姉さん、詩織お姉さん。心まで温かくなる、すてきな時間をありがとうございました」


まさに、


「ぽかぽかトリオ」


その名にふさわしいステージだった。


舞台袖で美月は不安そうに言う。


「この後に、観覧車を半周で止める話をするんやぞ」


まどかも頷く。


「温度差で風邪ひきそうやな」


佳乃は平然としている。


「経営合理化について、子どもにも分かりやすく説明します」


美月とまどかが同時に言った。


「その発想が一番怖いねん!」



迫田ツインズのおしゃれな遊園地談義


続いて、迫田澪香と迫田澄香が登場。


二人は、遊園地の雰囲気に合った少しおしゃれな休日コーディネート。


さつきが尋ねる。


「お二人は、こちらの遊園地へ来られたことがありますか?」


澪香が笑顔で答える。


「何度かあるよ。大きすぎないから、気になる場所をゆっくり回れるのがいいよね」


澄香も頷く。


「乗り物に乗って、途中で甘い物を食べて、花を見ながら少し休んで、また歩く。ちょうどいい感じなの」


澪香のお気に入りは、夕暮れ時の観覧車。


「一番上まで行くと、枚方の街が見渡せるの。日が沈む前後は、昼と夜の両方の景色が見られてきれいだよ」


澄香のお気に入りは、花壇の近くにある小さなクレープスタンド。


「季節の果物を使ったクレープがお薦め。花壇の近くで撮ると、写真もきれいなの」


澪香が笑う。


「澄香、食べる前に写真を撮りすぎるけどね」


「澪香も観覧車から、同じような空の写真を何枚も撮るでしょ」


「空の色は、毎秒変わるから」


「クレープの生クリームも、毎秒下がってくるよ」


会場から笑いが起きる。


さつきが少し踏み込む。


「ご家族やご友人と来るのも楽しそうですが、ほかには、どのような方と訪れたいですか?」


澪香が少しだけ微笑んだ。


「デートで来るのも悪くないよね」


澄香も自然に答える。


「そうやね」


観覧車。


クレープ。


花壇。


夕暮れ。


巨大テーマパークほど気合を入れず、肩の力を抜いて楽しめる。


そんな遊園地は、気取らないデートにも向いている。


客席の若い女性や保護者から、


「かわいい!」


という声が上がる。


舞台袖の美月が反応した。


「誰と来るつもりや!」


まどかが慌てて美月の口を押さえる。


「人のガールズトークへ割り込むな!」


佳乃は真顔で言った。


「デート費用は、原則として自腹です」


美月が佳乃へ振り返る。


「誰も経費でデートする言うてへん!」


さつきは微笑んだまま、話をまとめた。


「ご家族でも、ご友人同士でも、そして大切な方とのお出かけにも楽しめる、親しみやすい遊園地ということですね」


まどかは感心する。


「何が飛んできても、きれいに着地させるな」


美月が言う。


「次の漫才も、さつきに整えてもらうか?」


佳乃は首を横へ振った。


「それでは、まどかさんの仕事がなくなります」


まどかは小さく答えた。


「今日は、なくなってほしい気もする」



財務の鬼、遊園地の社長になります


会場が十分に温まったところで、いよいよ「トリオ・ザ・大阪」の出番。


今回の演目は、


『けちのん夢の遊園地・経営再建会議』


舞台中央には長机。


巨大な帳簿。


遊園地の見取り図。


電卓。


棒グラフ。


佳乃は、新しく就任した遊園地経営改善責任者。


美月は、子どもたちの夢を守る現場代表。


まどかは、財務側と現場側の話を整理する調整役。


開演直前。


美月は落ち着かない。


「ほんまに、うちがツッコミで大丈夫か?」


まどかが答える。


「佳乃の言うことを、全部止めたらええ」


「いつもの佳乃と変わらへんやん」


「せやからできる」


佳乃は台本を確認する。


「今回は、普段の合理化案を二割ほど誇張しています」


美月が驚く。


「二割しか違わんのかい!」


さつきが華やかに紹介する。


「それでは本日の最後を飾ります。今回は、これまでとは役割を入れ替えた新しい漫才へ挑戦します。『トリオ・ザ・大阪』の皆さんです!」


子どもたちから歓声。


「美月ちゃーん!」


「けちのーん!」


「まどか、がんばれー!」


まどかだけ、声援が切実だった。


三人が登場。


佳乃は机の中央へ座り、巨大な帳簿を開いた。


「本日より、うちがこの遊園地の経営改善を担当します」


美月が驚く。


「誰が任命したんや!」


「自薦です」


「一番信用したらあかん人事や!」


まどかが説明する。


「財務の鬼・けちのんが、遊園地の無駄を全部見直すらしいで」


佳乃は胸を張った。


「利用料金を手頃に保ちながら、経費を徹底的に削減します」


美月が少し感心する。


「そこだけ聞いたら、ええ話やな」


佳乃は一枚目の計画書を出した。


「まず、観覧車は一周する必要がありません」


美月が机を叩いた。


「早速あかん話やった!」


開始十秒。


会場に最初の爆笑が起きた。



観覧車は半周で逆回転します


佳乃は見取り図を指さす。


「観覧車の目的は、高い場所から景色を見ることです」


美月は警戒しながら頷く。


「まあ、そうやな」


「ほな、頂上まで上がった後、最後まで一周する必要はありません」


「嫌な予感するぞ」


「頂上で逆回転し、同じ経路を戻ります」


美月が叫ぶ。


「観覧車を途中で引き返さすな!」


佳乃は真顔だった。


「反対側へ回さない分、電力を削減できます」


「反対側の景色、見られへんやろ!」


「そちらは、次回ご来園時にご覧ください」


まどかが止める。


「景色を二回来園制にすな!」


客席の子どもが叫ぶ。


「一周したい!」


佳乃は子どもへ優しく答えた。


「二日券をご購入ください」


美月が叫ぶ。


「子ども相手に売上伸ばそうとすな!」


別の子どもが、


「二周したい!」


と声を上げる。


佳乃は少し考えた。


「四日券が必要ですな」


美月が頭を抱えた。


「計算上は合うてるけど、遊園地として間違っとる!」


子どもたちは、声を上げて笑う。


佳乃の真顔。


美月の全力ツッコミ。


まどかの整理。


役割逆転は、想像以上にうまく機能していた。



回転木馬は家族三人で一頭です


佳乃が次の資料を出す。


「回転木馬は、一頭へ一人では乗車効率が悪いです」


美月が身構える。


「何人乗せる気や」


「一頭へ三人です」


「馬がかわいそうや!」


「模型です」


「そういう問題ちゃう!」


佳乃は図を見せる。


前に子ども。


中央に母親。


後ろに父親。


まどかが図をのぞく。


「家族三人、縦一列?」


「親子の絆が深まります」


「狭いところへ詰め込むだけや!」


客席のお父さんが笑いながら叫ぶ。


「わし、後ろから落ちるわ!」


佳乃は即座に答える。


「安全ベルトを延長します」


美月が止める。


「安全ベルトを延長する前に、一人一頭へ戻せ!」


子どもたちが一斉に叫ぶ。


「一人がいい!」


佳乃はノートへ書き込む。


「利用者満足度に課題あり」


美月が突っ込む。


「計画出す前に気づけ!」



絶叫マシンの帰りは階段です


次の削減対象は絶叫マシン。


佳乃は棒グラフを示した。


「絶叫マシンは、最初の急降下が最も刺激的です」


美月は慎重に頷く。


「せやな」


「ほな、最初の急降下だけで終了します」


「その後どうすんねん」


「乗客の皆さんには、階段で乗り場まで戻っていただきます」


美月が叫ぶ。


「遊園地で登山さすな!」


まどかが尋ねる。


「帰り道もアトラクションいうこと?」


佳乃は真剣に答える。


「健康増進効果があります」


「絶叫マシンより、あんたの発想の方が怖いわ!」


客席の保護者が大笑いする。


子どもが叫ぶ。


「階段いや!」


美月は客席を指さす。


「ほら見い! 子どもから否決されたぞ!」


佳乃はメモする。


「未就学児の反対多数」


まどかが言う。


「子ども予算審議会になっとるな」


舞台袖の麻衣が、思わず優しく声をかけた。


「小さい子がおるところで、走ったり急いだりしたら危ないよお」


佳乃の動きが止まる。


「安全上の問題がありますな」


美月が叫んだ。


「体操のおねえさんに止められる前に気づけ!」



お化け屋敷には何も置きません


佳乃は、お化け屋敷の計画書を掲げる。


「お化け屋敷は、非常に優秀な施設です」


美月が驚く。


「珍しく褒めるやん」


「照明を暗くできます。電気代を抑えられます」


「楽しさやなく、電気代で評価すな」


「さらに、お化け役の人件費も削減できます」


「どうやって?」


佳乃は胸を張った。


「中へ何も置きません」


一瞬の沈黙。


まどかが尋ねる。


「空っぽ?」


「暗い建物を歩き、お客様自身の想像力で怖がっていただきます」


美月が叫ぶ。


「ただの暗い倉庫や!」


「想像力育成型お化け屋敷です」


子どもたちが爆笑する。


一人の子どもが叫んだ。


「けちのんが一番怖い!」


美月はすぐに拾った。


「大正解や!」


佳乃は少し不満そうだった。


「うちは、安全で適正な経営を提案しているだけです」


まどかが言う。


「夢の遊園地を、巨大な節電施設へ変えとる」


別の子どもが叫ぶ。


「美月ちゃんがお化けやればいい!」


美月が客席を見る。


「何でうちやねん!」


「声大きいから!」


会場が再び沸く。


佳乃は真剣に検討する。


「人件費を抑えるため、美月さんに兼務してもらいましょう」


「勝手に仕事増やすな!」



地図は美月の差し戻し伝票の裏です


佳乃は紙代にも目を付ける。


「無料配布の園内地図は、紙がもったいありません」


美月が警戒する。


「今度は何する気や」


「ヒロ室で差し戻した伝票の裏へ印刷します」


「個人情報だらけや!」


「名前と金額は黒塗りします」


まどかが一枚を裏返した。


「“たこ焼き二百八十円・自腹”って透けて見えとるで」


佳乃は涼しい顔。


「美月さんの伝票です」


美月が叫ぶ。


「うちの経費申請を遊園地の再生紙にすな!」


佳乃は大量の紙束を出した。


「必要枚数は十分にあります」


「そんなに差し戻されてへん!」


まどかが紙束を見る。


「三分の二くらい、美月の名前やな」


「確認すな!」


大量の紙が舞台へ積まれているだけで、子どもたちは笑う。


難しい経理制度が分からなくても、


美月が大量に失敗している


ことだけは、誰にでも伝わった。



マスコットは全部同じ顔です


佳乃は、さらに計画を進める。


「園内のマスコット衣装は、複数用意する必要がありません」


美月が尋ねる。


「どうするんや」


「一着の着ぐるみへ、日替わりで違う名札を付けます」


「全部同じ顔になるやろ!」


佳乃は曜日別の表を広げた。


「月曜日はウサギ。火曜日はクマ。水曜日は宇宙人。木曜日は妖精」


まどかが聞く。


「見た目は?」


「全日、同じです」


美月が客席を指さす。


「子どもをごまかせると思うな!」


子どもたちが一斉に叫んだ。


「分かるよ!」


佳乃は真剣に頷く。


「名札を大型化する必要がありますな」


「そこを改善すな!」


一人の子どもが尋ねた。


「金曜日は?」


佳乃は表を確認する。


「棚卸しのため、お休みです」


美月が叫ぶ。


「マスコットまで在庫扱いすな!」



一日券の元を取るまで帰れません


佳乃は、最後に一日乗り放題券を掲げた。


「一日券を購入した以上、元を取る必要があります」


美月が少し共感する。


「それは分かる」


まどかが美月を見る。


「急に佳乃側へ行ったな」


佳乃は巨大な予定表を広げる。


「観覧車四回。回転木馬七回。急流滑り五回。絶叫マシン六回。子ども向け遊具十一回」


美月が驚く。


「いつ飯食うねん!」


「移動中です」


「いつ休むねん!」


「観覧車内です」


「デートで来た人は?」


「会話は行列中に済ませてください」


まどかが叫んだ。


「遊園地を工場の生産管理みたいに回すな!」


舞台袖で澪香が澄香へ囁く。


「こんなデートは嫌だね」


澄香も頷く。


「そうやね」


美月が二人を見る。


「今回は完全に同意や!」


佳乃はさらに続ける。


「園内移動は小走りを推奨します」


舞台袖から麻衣の声。


「子どもさんのおるところで走ったら危ないよお」


佳乃が計画書へ線を引いた。


「小走り案、撤回」


美月が叫ぶ。


「舞台袖の体操のおねえさんが、一番まともに経営しとるやないか!」



美月が一番まともという異常事態


佳乃の暴走が続くほど、美月のツッコミは勢いを増した。


「子どもの夢を一円単位で削るな!」


「観覧車を途中で戻すな!」


「木馬へ家族三人乗せるな!」


「遊園地へ来てまで費用対効果を言うな!」


まどかは客席へ向いた。


「皆さん、珍しいものを見ています」


美月が振り返る。


「何や?」


「美月が一番まともです」


保護者から大きな拍手。


子どもたちまで拍手する。


美月は不満そうだった。


「普段のうち、どない思われとんねん!」


子どもが叫んだ。


「うるさい人!」


美月は一瞬、動きを止めた。


「子どもは正直やな……」


佳乃が静かに慰める。


「人気と声量は、必ずしも比例しません」


美月が佳乃を指さす。


「今はあんたがボケ役やろ! 急に冷静に傷つけるな!」


まどかは笑った。


「佳乃、ボケもツッコミも両方いけるやん」


佳乃は少し誇らしそうに眼鏡を直した。



夢と安全は削減対象外です


漫才の終盤。


美月は少しだけ真面目な表情になった。


「確かに、無駄を減らすことは大事や」


佳乃が頷く。


「その通りです」


「無駄を減らしたら、料金を手頃にできる。家族で何度も来られる」


まどかも続けた。


「豪華な城がなくてもええ。最新の乗り物ばっかりやなくてもええ。近くて、手頃で、家族みんなが楽しかったと思えたら、それがこの遊園地の一番ええところや」


美月は佳乃を見る。


「でも、安全まで削ったらあかん。子どもが楽しみにしとる夢まで削ったら、もっとあかん」


佳乃は眼鏡を直した。


「安全と夢は、削減対象外です」


客席から温かな拍手が起きる。


子どもたちも笑顔で手を叩く。


美月は佳乃の肩へ手を置いた。


「分かってくれたらええねん。ほな、ステージ終わったら三人でクレープ食べよ。出演後の反省会費や!」


佳乃は一秒で答えた。


「それは自腹です」


美月が叫ぶ。


「急に元の役割へ戻るな!」


まどかが両手を広げる。


「結局、ここだけは役割変わりません!」


三人がそろって頭を下げた。


「どうも、ありがとうございました!」


子どもたちを中心に、大きな笑いと拍手が起きる。


「けちのん、おもしろい!」


「美月、今日はまともだった!」


「まどか、がんばって!」


美月が顔を上げる。


「何でうちだけ、まともやったことを褒められとんねん!」


財務の鬼・谷口佳乃。


容赦ないツッコミだけではない。


真顔で無茶苦茶な合理化案を語るボケ役としても、十分に通用する。


「トリオ・ザ・大阪」は、第三回公演で新しい形を手に入れた。



てっぱん坂井で、笑顔の査定が始まります


イベント終了後。


出演者九人は、まどかの実家「てっぱん坂井」へ集まった。


大きな鉄板。


香ばしいソースの匂い。


お好み焼き。


焼きそば。


豚平焼き。


まどかの母が、鉄板の向こうから全員を迎える。


「今日は家族向けのイベントやったんやろ。子ども泣かせへんかった?」


美月の動きが止まる。


「一人、耳ふさいどったらしい」


「美月ちゃんの声か?」


「何で最初から、うちやと決めつけるねん!」


「佳乃ちゃんの声で、耳ふさぐ子はおらんやろ」


佳乃が眼鏡を直す。


「論理的な推測です」


「けちのん、そこは味方せえ!」


まどかの母は、ぽかぽかトリオへ声をかけた。


「麻衣ちゃん、萌音ちゃん、詩織ちゃん。小さい子の相手、お疲れさん」


三人は礼儀正しく頭を下げた。


麻衣は穏やか。


萌音も丁寧。


詩織も柔らかな笑顔を浮かべている。


美月は安心した。


「今日は反省会も平和やな。ぽかぽかトリオは優しいから」


まどかが小声で言った。


「その思い込み、危ないで」



体操のおねえさんは、笑顔で足腰を折りに来ます


麻衣が、おっとりした紀州弁で話し始める。


「ほんなら、うちらからも感想を言わせてもろうてええかなあ?」


美月は軽い調子で答えた。


「もちろんや。優しく頼むで」


麻衣は佳乃へ微笑む。


「佳乃さんの遊園地経営のお話、すごくおもしろかったんよ」


佳乃が頭を下げた。


「ありがとうございます」


「でもなあ、未就学児に“稼働率”とか“減価償却”いうても、ちょっと難しいんと違うかなあ」


佳乃の箸が止まった。


「専門用語が多かったでしょうか」


「前の方におった男の子、お母さんに“げんかしょうきゃくって、強い怪獣?”って聞いとったよ」


美月が吹き出す。


「経理怪獣ゲンカショウキャクや!」


まどかも続ける。


「必殺技は資産価値低下やな」


佳乃は真剣にノートへ書く。


未就学児向けには専門用語を削減。


麻衣は笑顔のまま続けた。


「短くするだけやのうて、最初から使わん方がええと思うよお」


言い方は柔らかい。


だが逃げ道はなかった。


美月が小声で呟く。


「優しい声で退路を全部塞いだぞ」



工作のおねえさんは、漫才まで分解します


次に萌音が口を開いた。


「観覧車を半周で逆回転する場面は、とても分かりやすかったです」


佳乃が少しうれしそうにする。


「ありがとうございます」


「ただ、小さなお子さんが、本当に観覧車が途中で戻ると思ったようです」


美月が笑う。


「けちのんの案、信じられとるやん!」


佳乃は少し考えた。


「架空の提案であることを、追加で説明した方がよいでしょうか」


萌音は優しく首を横へ振る。


「説明を増やすより、佳乃さんが言った直後に、美月さんがもっと早く否定した方がよいと思います」


美月の笑顔が止まった。


「うちにも来た」


「美月さんの最初のツッコミが少し遅かったので、二、三秒ほど本当だと思う時間ができました」


「二、三秒くらいええやん」


萌音は微笑んだ。


「未就学児にとって、二、三秒は長いです」


まどかが感心する。


「工作のおねえさん、漫才の時間まで細かく切り分けるな」


萌音はさらに続ける。


「園内地図を差し戻し伝票の裏へ印刷する場面では、紙束が多すぎて、美月さんが一度見えなくなりました」


美月が佳乃を指さす。


「また小道具に隠された!」


「紙の高さは半分で十分だと思います」


佳乃はメモする。


伝票在庫を五割削減。


美月が叫んだ。


「小道具まで経費削減の言い方すな!」



歌のおねえさんは、声量をきれいに切ります


最後は詩織。


詩織は美月へ優しく微笑んだ。


「美月さんのツッコミは、言葉が分かりやすくて、とてもよかったです」


美月は胸を張る。


「せやろ!」


「ただ、一番大きな声を出した時、前の席のお子さんが一人、耳を塞いでいました」


美月の笑顔が消えた。


「やっぱり、うちか……」


「泣いてはいませんでした」


「よかった」


「少し涙目でした」


「ほぼ泣いとるやん!」


詩織は、あくまで穏やかだった。


「歌でも、最初から最後まで大きな声だと、大切なところが伝わりにくくなります。小さく話す部分を作ると、その後の大きなツッコミが、もっと生きると思います」


鉄板の向こうから、まどかの母が言った。


「難波の時に言うた、換気扇の話と一緒やな」


美月が頭を抱える。


「また換気扇に戻ってきた!」


麻衣、萌音、詩織。


三人とも笑顔。


口調も穏やか。


誰も怒っていない。


しかし指摘は具体的で、反論できない。


美月は三人を見回した。


「ぽかぽかちゃうやん! 弱火でじっくり、中まで火を通してくるやん!」


麻衣が微笑んだ。


「生焼けやったら、おなか壊すさかいねえ」


まどかの母が鉄板をへらで叩く。


「うまいこと言うなあ!」



まどかも無傷では済みません


まどかは少し安心していた。


今日は美月がツッコミ。


佳乃がボケ。


自分は二人をまとめながら、前回より余裕を持って進められた。


しかし、ぽかぽかトリオはまどかも見逃さなかった。


麻衣が言う。


「まどかさんは、二人の間へ入るタイミングが前よりずっとよかったよお」


「ありがとう」


「でも最後のまとめへ入る前に、美月さんの台詞を一回さえぎっとったねえ」


まどかの動きが止まる。


「気づいてた?」


萌音も頷く。


「美月さんが“安全まで削ったらあかん”と言い終わる前に、半歩前へ出ていました」


詩織が続けた。


「声は重なっていませんでしたが、身体の動きで少し急かしているように見えました」


まどかは頭を下げた。


「全部見られとる……」


まどかの母が笑う。


「三人とも小さい子の相手しとるから、細かい動きまでよう見とるねん」


美月が喜ぶ。


「まどかも無傷ちゃうかった!」


「何で仲間が注意されて喜ぶねん!」



次は子ども全員で佳乃を否決します


萌音が次回へ向けた提案を出す。


「子どもたちが参加できる場面を、もう少し増やしてもよかったと思います」


詩織も頷いた。


「佳乃さんの節約案に対して、子どもたちが“あり”か“なし”かを答える形にすると、一緒に楽しめます」


麻衣は、子どもたちへ話しかける口調を実演する。


「けちのんが、観覧車は半周でええって言うてます。みんな、ありかなあ、なしかなあ?」


美月が手を叩いた。


「ええやん! 子ども全員で“なし!”言うて、けちのんを否決するんや!」


佳乃は少し考える。


「集団による一方的な批判になりませんか?」


まどかが即答した。


「あんたが観覧車を半周にする言うからや」


佳乃は頷く。


「原因が明確ですな」


美月は、ぽかぽかトリオを見る。


「優しい顔して、次は子ども全員を佳乃へぶつける気やな」


詩織は笑顔だった。


「みんなで声をそろえたら、きっと楽しいですよ」


「やっぱり一番怖いの、この三人ちゃうか?」



デートの話から経費へ戻ります


澪香は観覧車のネタへ感想を述べる。


「半周で戻る案は面白かったけど、デートで乗った時に頂上から逆回転されたら嫌だな」


澄香も頷く。


「そうやね。反対側の景色も見たいし、ゆっくり話したいよね」


美月が二人を見る。


「またデートの話か!」


澪香は笑う。


「遊園地だから」


澄香も言う。


「美月も誰かと来ればいいのに」


「うちは忙しいねん!」


佳乃が即座に補足した。


「入園料、乗り物代、飲食費は自腹です」


美月が叫ぶ。


「来る相手も決まってへんのに、先に経費を否認すな!」


澪香はまどかを見る。


「まどかは、デートで来たことある?」


まどかは少し黙った。


「それ、今ここで答えなあかん?」


澄香が笑う。


「答えたくない顔してるね」


美月が身を乗り出す。


「まどか、あとで詳しく聞くで!」


佳乃も眼鏡を直した。


「人事のかき混ぜ棒として、うちも関心があります」


まどかが立ち上がる。


「反省会を恋愛事情の監査に変えんといて!」



アイスくらい自分で買いなさい


打ち上げの終了時刻。


まどかの母が領収書を用意する。


美月が受け取り、佳乃へ差し出した。


「正式なイベントの打ち上げ兼反省会や。これは通るやろ」


佳乃は参加者数、目的、金額、終了時刻、飲食内容を確認する。


「規定内です。認めます」


美月が驚く。


「通るんかい!」


「正当な経費まで否認する気はありまへん」


まどかの母が言う。


「佳乃ちゃんは、けちやなくて、筋を通しとるだけや」


佳乃は少し照れたように眼鏡を直す。


「ありがとうございます」


美月は店の冷凍庫を見た。


「ほな、みんなでアイス食べよ! 遊園地で食べ損ねた分や!」


佳乃は一秒で答える。


「自腹です」


麻衣がおっとり言う。


「美月さん、アイスくらい自分で買うたらええんと違うかなあ」


萌音も礼儀正しく続ける。


「申請書を書くより、その方が早いと思います」


詩織も微笑んだ。


「三人分でも、それほど大きな金額ではありませんよ」


美月は、ぽかぽかトリオを見回した。


「最後まで優しい声で追い込むな!」


まどかの母が鉄板の火を止める。


「はい、今日の反省会は終わり。アイス食べたい人は、自分の財布を持って買いに行き」


佳乃は頷く。


「適切な判断です」


美月が叫んだ。


「今日は、うちの味方一人もおらんのか!」


麻衣が優しく笑う。


「みんな、美月さんの味方やから言うてるんよお」


萌音も頷く。


「次の舞台を、もっとよくするためです」


詩織も続ける。


「声の大きさだけ、少し気をつけてくださいね」


「最後にもう一回刺してきた!」


店内が大きな笑いに包まれた。



森ノ宮では、美月がボケ、佳乃が差し戻した。


難波では、客席のおっちゃんまで巻き込み、水増し伝票を巡って大騒ぎした。


そして枚方では役割を逆転。


佳乃が、遊園地の夢を削りすぎる財務ボケへ挑戦した。


美月は子どもたちの夢を守るツッコミ役となり、まどかが二人を整えた。


財務の鬼・谷口佳乃は、真顔で無茶苦茶な提案を語るボケ役でも十分に通用した。


美月も勢いだけではなく、観客の気持ちを代弁するツッコミができることを証明した。


まどかも、二人を止めるだけでなく、自分の一言で笑いを取る場面を増やした。


豪華すぎない。


派手すぎない。


だが手頃で、温かく、家族が何度でも訪れたくなる枚方の遊園地。


その魅力は、「トリオ・ザ・大阪」にも少し似ていた。


巨大な舞台装置は要らない。


高価な演出も必要ない。


三人と机と一冊の帳簿があれば、身近な生活の話を、家族みんなで笑える物語へ変えられる。


無駄は削っても、子どもの夢と安全は削らない。

笑いの予算は、今回も満額回答。


ただし、ぽかぽかトリオから受けた改善指摘は十八項目。


店から駅へ向かう道でも、美月は不満そうだった。


「何がぽかぽかや。笑顔で弱火にかけて、芯までじっくり焼かれたぞ」


まどかが答える。


「でも、全部正しかったやろ」


佳乃も頷いた。


「非常に建設的でした」


美月は二人を見る。


「やっぱり、うちの味方おらんやん!」


枚方の夜へ、三人のにぎやかな声と、仲間たちの温かな笑いが響いていった。

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