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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1134/1170

日本一の紙のまちで、センターだけが決まらない! ――四国中央市、四県ヒロイン“紙一重”の大爆笑決戦

四国中央市で四県合同の戦隊ヒロインイベントを開催する。


その立派な企画の発端が、藤堂隼人補佐官の苦し紛れの言い訳だったことを知る者は少ない。


金曜日の夜。


新橋ヒロ室で缶ビール片手に行われた徹夜麻雀――建前上の名称は「戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議」――を終え、明け方に帰宅した隼人は、同棲中の芹沢遥室長から会議の成果を問い詰められた。


徹夜と酒で意識が朦朧としていた隼人は、


「四国の展開を……」


と答えた。


さらに遥から、


「四国で、何をするのら?」


「どこでやるのら?」


と畳みかけられ、逃げ道を失った末に口走った。


「四国の真ん中……四国中央市かな」


地名に「四国中央」と入っている。


理由は、ほぼそれだけだった。


ところが遥は、


「四国中央市は大手製紙会社も多いし、スポンサー確保は容易だら。はい、決定!」


と即断。


徹夜麻雀の言い訳は、わずか数日で正式事業となった。


香川、愛媛、徳島、高知。


四県を代表するヒロインが集まる大型地域イベント。


地元自治体。


観光関係者。


製紙会社。


紙加工会社。


報道機関。


多くの関係者が巻き込まれ、もはや隼人自身にも止められない規模へ膨らんでいた。



思いつきだったとは、今さら絶対に言えません


イベント当日の朝。


四国中央市内の大型催事場には、巨大な看板が掲げられていた。


「四国はひとつ! 戦隊ヒロイン紙のまち大作戦」


その下には、


香川・愛媛・徳島・高知、四県ヒロイン夢の共演


と記されている。


会場入口には、四国四県の巨大観光パネル。


地元製紙会社が制作した紙製の四国地図。


段ボール製の城。


色紙で再現された鳴門の渦潮。


紙の花で作られたミカン畑。


なぜか実物大に近い紙製カツオ。


すべて紙でできている。


隼人は来賓入口で、四国中央市の幹部や協賛企業の役員へ挨拶していた。


「このたびは、四国四県の結節点として四国中央市をお選びいただき、ありがとうございます」


市の担当者が頭を下げる。


隼人も深々と礼を返した。


「四県をつなぐ象徴的な都市として、最適だと考えておりました」


その隣に立つ太田すみれコーチが、小声で言う。


「地名だけで決めましたよね」


隼人は笑顔を崩さずに答える。


「今だけは黙っていてください」


「事実確認です」


「自治体幹部の前で確認しないでください」


別の企業役員が近づく。


「紙産業と地域防災を、戦隊ヒロイン企画へ結びつけた着眼点は見事です」


「ありがとうございます」


「最初から四国中央市の産業特性を研究されていたのですね」


「もちろんです」


すみれが再び小声で言う。


「調べたのは、開催決定後です」


「すみれコーチ」


「はい」


「今日だけは、最高戦略会議の参加者として連帯責任を負ってください」


「私は四国中央市とは言っていません」


「四国も何かやらないと、と言いました」


「それは波田顧問です」


そこへ、当の波田巌蔵顧問が缶コーヒーを持って現れた。


「どうした。朝から難しい顔して」


隼人が即座に波田を指さす。


「今回の発案者です」


波田は目を見開く。


「俺は麻雀しながら、“四国が手薄だな”と一度言っただけだぞ」


「その一言から始まりました」


「開催地を決めたのはお前だろ」


「遥室長に問い詰められた結果です」


「じゃあ遥の企画じゃねえか」


三人とも成功の功績は欲しいが、失敗時の責任だけは取りたくなかった。



なるほど、四国中央市は確かに中央でした


イベントの開会前、大型スクリーンで四国中央市の紹介映像が流される。


瀬戸内海に面した市街地。


燧灘沿岸に並ぶ製紙工場。


空へ伸びる煙突。


巨大な紙の原反ロール。


その背後に連なる法皇山脈。


山間部へ入れば、銅山川の流れと豊かな緑。


工業都市でありながら、海と山の風景を同時に持つ町である。


現在の四国中央市は、川之江市、伊予三島市、土居町、新宮村が合併して誕生した。


もともと異なる歴史と文化を持っていた二市一町一村が一つになり、四国四県を結ぶ交通の要衝、日本を代表する紙産業の町として歩んでいる。


何より、紙・パルプ・紙加工品の一大生産地。


ティッシュ。


トイレットペーパー。


段ボール。


包装紙。


書道用紙。


機能紙。


日常生活のあらゆる場面で使われる紙を、日本全国へ送り出している。


映像のナレーションは、徳島県鳴門市出身の三好さつき。


兵庫県域のテレビ局・神戸放送で学生キャスターを務める、長身で清楚な人気ヒロインである。


「瀬戸内海に面する工業地帯と、その背後に広がる豊かな山々。旧川之江市、旧伊予三島市、旧土居町、旧新宮村が一つになって生まれた四国中央市は、四国四県を結ぶ交流の町です」


落ち着いた声。


丁寧な発音。


知的な語り。


映像だけを見れば、教育番組か自治体の公式広報である。


香川県代表の大西結月が、巨大な製紙設備を見上げてコメントする。


「高速で紙を生産しながら、厚さや品質を一定に保つ。機械だけでなく、作業する皆さんの集中力と持久力も必要なんですね」


元女子競輪選手らしい視点だった。


愛媛県代表の越智美晴、通称みーちゃんは、具定展望台から市街地を見下ろす。


「海と山と工場の煙突が、一つの景色に入っているのが面白いよね。工業都市だけど、無機質じゃないの。町全体に物語がある感じ」


地下アイドルユニット「オレンヂ☆ステップ」で十年以上活動した経験に加え、歴女としての知識もある。


短いコメントにも味がある。


高知県代表の神代なつめは、巨大な紙の原反ロールの前で目を丸くした。


「これ全部、紙になるが!?」


工場担当者が頷く。


「はい」


「この一個があったら、高知じゅうの子どもが一生落書きできるぜよ!」


担当者は少し考えてから答えた。


「一個では足りないと思います」


観客席から最初の笑いが起きる。


なつめは納得できない顔をした。


「高知の子ども、そんなに落書きするが?」


「なつめさんが率先して描きそうです」


さつきが冷静に補足した。


立派な産業紹介映像は、最後だけ高知代表の落書き問題で終わった。



ヒロヒロへ頼んだ時点で、普通のイベントではありません


本来、このイベントは真面目な地域産業振興企画だった。


製紙技術の紹介。


紙製防災用品の体験。


四県観光PR。


子ども向け紙工作。


四国四県のヒロインによる地域連携宣言。


ところが企画運営へ、ヒロ室広島支部――通称ヒロヒロ――を参加させたことで、方向が大きく変わった。


ヒロヒロ側の総合演出はノムさん。


本業は、多数の巨乳グラビアアイドルを抱える芸能事務所、ブラックキャブプロダクションの経営者。


撮影会。


ステージイベント。


芸能企画。


客席の盛り上げ方。


カメラ映えする演出。


その分野では、長年の経験がある。


ただし発想が、昭和の深夜番組からほとんど進歩していない。


事前会議で、ノムさんは新橋側が作った企画書を読んだ。


「製紙産業の歴史紹介」


「防災用品展示」


「四県観光ステージ」


「紙工作体験」


五分ほど黙って読み、顔を上げた。


「真面目すぎるのう」


隼人が答えた。


「地域産業イベントですから」


「これじゃ勉強にはなるが、腹抱えて笑えんじゃろ」


「産業イベントで腹を抱えて笑う必要はありません」


ノムさんの隣にいた江波のどかも、企画書をのぞき込む。


「せっかく日本一の紙のまちへ行くんじゃけえ、ヒロインを紙まみれにした方がええよ」


「紙産業への敬意はありますか?」


「敬意があるけえ、全力で使うんよ」


「使用方法の方向性が間違っています」


ノムさんは、紙の裏へ競技案を書き始めた。


トイレットペーパー早巻き競走。


巨大紙相撲。


段ボールキャタピラ競走。


保湿ティッシュ泣き芝居。


トイレットペーパーミイラ選手権。


隼人は一つずつ確認した。


「この競技に、製紙技術の啓発要素はありますか?」


「紙は出てくる」


「それだけですか?」


「ヒロインも出る」


「それだけですね」


しかし地元企業側は、意外にも乗り気だった。


自社製品がステージで大きく扱われる。


商品名が何度も読み上げられる。


来場者が実際に紙の柔らかさや強度へ触れられる。


何より、普段の製品展示より目立つ。


スポンサー企業の一社、燧灘製紙の担当者が言った。


「高級トイレットペーパーの耐久性を、早巻き競技で紹介できるかもしれません」


別の法皇紙業の担当者も続ける。


「保湿ティッシュの柔らかさを、演技企画で見せるのも面白いですね」


隼人は止める理由を失った。


こうして日本一の紙のまちで、製紙会社公認のくだらない競技が行われることになった。



四国四県に、中国地方と熊本が加わります


イベントへ出演するヒロインは七人。


四国四県代表。


香川県観音寺市出身、元女子競輪選手の大西結月。


愛媛県松山市出身、元ベテラン地下アイドルの越智美晴。


徳島県鳴門市出身、学生キャスターの三好さつき。


高知県高知市出身、土佐の突進娘・神代なつめ。


イベント全体の司会は、熊本弁を使うイベントMCスペシャリスト、西里香澄。


ヒロヒロから、広島県代表の江波のどか。


そして鳥取県代表の山根梨乃。


午前十時。


西里香澄がステージ中央へ登場する。


「皆さん、四国中央市へようこそ!」


明るく通る声。


客席を見渡し、元気よく続ける。


「今日は日本一の紙のまちで、四国四県のヒロインが本気ば出すばい!」


観客から拍手。


香澄は進行台本へ視線を落とす。


わずかに眉が動く。


「ただし……」


一呼吸。


「内容は、たいぎゃくだらんです!」


客席が笑う。


隼人は舞台袖で頭を抱えた。


「司会者が最初に言ってしまった……」


ノムさんは満足そうに頷く。


「正直な番組は愛されるんよ」


「イベントです。番組ではありません」


「カメラが回っとるけえ、同じじゃ」



第一競技――高級トイレットペーパー早巻き王


最初の競技は、


「超高級トイレットペーパー早巻き選手権」


巨大な紙管へ、長いトイレットペーパーを手動で巻き取る。


制限時間は一分。


速さ。


巻き目の美しさ。


紙を破らない慎重さ。


三項目で採点される。


一見すると単純だが、地元企業が本気で製造した競技用器具が使われている。


最初の挑戦者は大西結月。


元女子競輪選手らしく、ハンドルの前へ立つと自然に前傾姿勢を取った。


香澄が尋ねる。


「結月さん、意気込みばお願いします!」


「腕を使う競技ですが、回転数なら負けません」


「競輪競技じゃなかですよ!」


開始の合図。


結月の両腕が高速で動く。


紙管がうなり始める。


トイレットペーパーが猛烈な速さで巻き取られる。


巻き取り器から風が起きる。


隣に立つさつきの長い髪が、後ろへ流れる。


スタッフが慌てる。


「大西さん、速度を落としてください!」


「まだ上げられます!」


「上げないでください!」


「一定回転を維持しています!」


「その回転数を想定していません!」


観客は大爆笑。


結月の表情は真剣そのものだった。


競輪時代と同じ集中力。


腰は安定。


ハンドルの軸もぶれない。


制限時間終了。


巻き目は美しい。


紙は一度も破れていない。


速度は、試験時の想定記録を大幅に更新。


燧灘製紙の担当者が思わず呟く。


「手動なのに、工場の試験機に近い……」


結月は額の汗を拭う。


「もう一段、速くできたと思います」


隼人が止めた。


「再挑戦はありません」


「記録を更新できる可能性があります」


「これは競技大会ではなく、イベントです」


「出るからには、最高記録を狙うべきです」


元競輪選手は、トイレットペーパーでも本気だった。



みーちゃんは巻きながらカメラを探します


次は越智美晴。


みーちゃんはハンドルを持つ前に、客席側のカメラを確認した。


「正面は二番カメラ?」


撮影スタッフが戸惑う。


「そうです」


「巻いている途中、右側からも撮ってね。左の横顔より右の方が映りがいいから」


香澄が笑う。


「競技前にカメラ位置ば確認する人は初めてばい!」


開始。


みーちゃんは結月ほど速くない。


だが笑顔を崩さない。


紙を巻く。


カメラを見る。


客席へ手を振る。


また紙を巻く。


反対側のカメラへ視線を送る。


「みーちゃん、まだかわいく映っとる?」


のどかが舞台袖から叫ぶ。


「競技に集中しんさい!」


「十年以上ステージに立つと、カメラを無視できないのよ!」


結果は速度こそ二位以下だったが、映像映え部門では圧勝。


ノムさんは満足そうに言う。


「やっぱり長年やっとる人は違うのう」


隼人が尋ねる。


「競技に映像映え部門がありましたか?」


「今作った」


「勝手に採点項目を増やさないでください」



土佐の突進娘は十秒で紙を切ります


神代なつめは、ハンドルを見るなり言った。


「要するに、思い切り回したらええがやろ?」


スタッフが説明する。


「紙を破らずに巻いてください」


「破れんかったらええがやな!」


「その理解で合っていますが、力は抑えてください」


開始。


なつめは最初から全力。


ハンドルが一回転。


二回転。


三回転。


十秒後。


紙が中央から勢いよく切れた。


長いトイレットペーパーが宙へ舞う。


なつめは、切れた紙の両端を見る。


「まだ近くにあるき、つながっちゅう!」


香澄が即座に判定する。


「完全に切れとるばい!」


「重ねたら一枚になるぜよ!」


「ならんばい!」


なつめは失格となった。


しかし客席の少年たちからは、大きな歓声。


「なつめー!」


「もう一回やってー!」


なつめは胸を張る。


「人気では勝ったぜよ!」


結月が冷静に言う。


「競技結果は失格です」


「人気も採点せんかえ!」


第一競技だけで、四県ヒロインの性格が十分に伝わっていた。



第二競技――巨大紙相撲で土俵が先に負けます


次は、


「四県巨大紙相撲・天下分け目の紙場所」


四人が、事前に制作した巨大な紙力士を持って登場する。


香川代表・結月の力士は、


「讃岐ノ脚」


太い脚。


低い重心。


胸には小さなうどん鉢。


愛媛代表・美晴は、


「伊予ノ姫」


ミカン色の華やかな衣装。


頭には紙製の小さな松山城。


徳島代表・さつきは、


「鳴門ノ渦」


全身へ渦潮模様。


足元には阿波踊り風の紙飾り。


高知代表・なつめは、


「土佐ノ突」


片手にカツオ。


背中に坂本龍馬風の紙製マント。


香澄が実況する。


「四国四県の誇りば背負った巨大紙力士が、今ここに集結したばい!」


土俵は通常の紙相撲よりはるかに大きい。


四人が四方向から台をたたく。


開始。


結月は力士の動きを見ながら、一定の間隔で台をたたく。


「重心を中央に保ちます」


さつきは細かく台を振動させ、相手を回り込ませる。


「鳴門ノ渦は、正面衝突を避けます」


みーちゃんは片手で台をたたきながら、もう片方の手で観客へ手を振る。


「伊予ノ姫、応援してね!」


なつめだけは、台を見下ろして拳を振り上げた。


「土佐ノ突、いけえ!」


強くたたく。


巨大紙力士が跳ねる。


結月が負けじと反対側をたたく。


「讃岐ノ脚、踏ん張って!」


二人が同時に台をたたく。


力士だけでなく、土俵全体が浮いた。


スタッフが叫ぶ。


「台を壊さないでください!」


もう一度。


結月となつめが本気でたたく。


土俵の脚が折れた。


巨大紙力士四体が、戦う前にまとめて横倒しになる。


香澄が絶妙な間を置く。


「ただいま、香川と高知の過剰な応援により――」


一呼吸。


「力士より先に、土俵が敗北したばい!」


会場は大爆笑。


結月は壊れた台を見て、真剣に確認する。


「競技続行は可能ですか?」


「不可能です!」


なつめは倒れた土佐ノ突を持ち上げる。


「最後まで立っちゅう方が勝ちやろ!」


「全員倒れています」


みーちゃんは倒れた伊予ノ姫を素早く立て、正面カメラへ向けた。


「伊予ノ姫は、まだ負けてないよ!」


壊れた土俵。


倒れた力士。


慌てるスタッフ。


その中で、みーちゃんだけは完璧な笑顔。


十年以上の地下アイドル経験は、土俵崩壊程度では揺らがなかった。


さつきはマイクを持つ。


「試合結果をお伝えします。四力士そろって、土俵崩壊による無効試合です」


完全にニュース原稿の口調だった。


香澄が笑う。


「神戸放送のスポーツニュースみたいになっとるばい!」



第三競技――阿波のスピードスター、段ボール内で渋滞します


次の競技は、


「段ボールキャタピラ・四国横断レース」


ヒロインが巨大な段ボール製の輪へ入り、四つん這いで前進する。


コースには、四国の名所をイメージした紙製障害物が並んでいる。


讃岐平野。


鳴門の渦潮。


石鎚山系。


四万十川。


ただし予算と制作時間の都合で、再現度は低い。


讃岐平野は、黄色い紙を広げただけ。


鳴門の渦潮は、青い紙を丸めただけ。


石鎚山系は、段ボール箱を三段積んだだけ。


四万十川は、床へ水色の紙テープを貼っただけ。


なつめがコースを見る。


「どこが四万十川なが?」


スタッフが青いテープを指さす。


「こちらです」


「細すぎるぜよ!」


のどかが横から言う。


「予算の四万十川じゃ」


結月は、段ボールキャタピラへ入ると前方を確認する。


「最短距離を取ります」


なつめも隣へ入る。


「結月さん、勝負ぜよ!」


「受けます」


舞台袖の隼人が叫ぶ。


「勝負ではありません! 段ボールの耐久性を紹介する企画です!」


二人はすでに聞いていない。


長身のさつきは、段ボールの中へ入るだけで苦労していた。


長い脚。


長い腕。


清楚で優雅な人気キャスターが、巨大な紙の輪の中で折り畳まれている。


「少々、寸法が合いません」


さつきが冷静に報告する。


香澄が実況する。


「阿波のスピードスター、今日は段ボールの中で完全に渋滞しとるばい!」


「この映像は、神戸放送の情報番組では使用しないでください」


「全国の皆さんへ見てほしかです!」


みーちゃんは段ボールへ入りながら、横のカメラを確認する。


「この穴から顔を出せば映る?」


「競技に集中しんさい!」


のどかが突っ込む。


開始。


結月となつめが猛然と進む。


段ボールの輪が高速で回転する。


結月は真っすぐ。


なつめは勢いだけで進むため、左右へ大きく蛇行。


さつきは長い脚が引っかかり、ほとんど前へ進めない。


みーちゃんは遅い。


しかし一回転するたび、段ボールの隙間から必ず顔を出し、カメラへ笑顔を見せる。


「みーちゃん、まだかわいく映ってる?」


香澄が答える。


「段ボールから顔だけ出とるばってん、たいぎゃかわいかです!」


先頭のなつめは速度を上げる。


ゴール線を通過。


そのまま止まれない。


スポンサー企業名の入った紙製看板へ突っ込む。


看板が倒れ、なつめの段ボールキャタピラがひっくり返る。


静寂。


数秒後。


段ボールの中から、なつめが拳を突き上げる。


「ゴールしたき、うちの勝ちぜよ!」


観客が大笑いする。


結月はゴール位置で停止し、真剣に抗議した。


「看板を倒した場合の減点規定を確認してください」


香澄が答える。


「そんな規定は作っとらんばい!」


「競技なら、事前に決めるべきです」


隼人が舞台袖で頭を抱える。


「だから競技大会ではないと言っているのに……」



第四競技――あなた、再生紙だったのね


次は地元企業の高級保湿ティッシュを使った、


「涙の女王決定戦」


参加者は一枚のティッシュを手にし、共通の台詞を演じる。


その台詞は、


「信じていたのに……あなた、再生紙だったのね」


誰が考えたのか、意味は分からない。


おそらくノムさんである。


最初はみーちゃん。


十年以上、地下アイドルとしてステージへ立ち続けてきたレジェンド。


姿勢を整える。


少しうつむく。


ゆっくり顔を上げる。


目に涙を浮かべる。


正面カメラを見つめる。


「信じていたのに……」


絶妙な間。


「あなた、再生紙だったのね」


ティッシュで目元を軽く押さえる。


客席から、


「おお……」


という声。


続いて拍手。


意味不明な台詞なのに、妙に感動的だった。


香澄が尋ねる。


「みーちゃん、どうしてそぎゃんすぐ泣けるとですか?」


美晴は笑顔で答える。


「十年以上活動していると、いろいろな卒業公演を見送るからね」


客席が一瞬だけ静かになる。


話が急に重かった。


次はさつき。


マイクを持ち、正面を向く。


「本日未明、交際中の男性が再生紙であることが判明しました」


完璧なニュース読みだった。


香澄が即座に突っ込む。


「事件原稿じゃなかばい!」


「正確に伝えようとした結果です」


「交際中の男性が再生紙という時点で、正確も何もなかです!」


次は結月。


結月は事前に役の背景を考え込んでいた。


「相手は、最初から再生紙だったことを隠していたのでしょうか」


隼人が答える。


「設定はありません」


「なぜ隠したのか、動機が必要です」


「必要ありません」


「感情を作れません」


ノムさんが舞台袖から叫ぶ。


「長年信じてきた相手に裏切られたと思えばええ!」


結月は真面目に目を閉じた。


過去。


信頼。


裏切り。


再生紙。


何かを深く考えすぎた結果、本当に涙が出た。


「信じていたのに……あなた、再生紙だったのね」


客席から大きな拍手。


最後はなつめ。


なつめはティッシュを持ったまま、なかなか泣かない。


「悲しいことを考えてください」


香澄が助言する。


「再生紙であることは、悲しいことなが?」


「台本上は、悲しかことです」


なつめは再生紙へ向かって語りかけるように言う。


「再生紙でも紙は紙ぜよ!」


客席がざわつく。


「一回使われたくらいで、恥ずかしがることない!」


なつめは拳を握る。


「胸張って、もう一回生きたらええぜよ!」


観客から、この日最大級の拍手が起きた。


紙製品メーカーの担当者まで立ち上がって拍手している。


涙の演技はしていない。


共通台詞も言っていない。


だが再生紙の理念だけは、誰よりも力強く伝えた。


演技部門の優勝はみーちゃん。


製紙業界特別賞は、なつめに決まった。



第五競技――防災という名のミイラ作りです


最後の競技は、


「トイレットペーパー防災包帯・最速ミイラ選手権」


名目上は、


身近な紙製品を使った応急処置研究


である。


だが実際にすることは、二人一組になり、相手へトイレットペーパーを巻きつけるだけだった。


結月とさつき。


美晴となつめ。


ヒロヒロ枠として、のどかと梨乃も参加。


結月は競技開始前から、さつきの身体を観察する。


「関節の可動域を残し、均等に巻きます」


さつきが不安そうに尋ねる。


「呼吸もできるようにしてください」


「当然です」


開始。


結月の手が高速で動く。


肩。


腕。


胴。


脚。


紙が正確に巻かれていく。


数十秒後。


さつきは、頭部とマイクだけを残した白い紙の像になっていた。


香澄が尋ねる。


「さつきさん、状況はいかがですか?」


紙の中から、冷静な声。


「現在、視界が完全に遮断されています」


「冷静な状況報告だけは健在ばい!」


結月は満足そうに出来栄えを見る。


「可動域も残しています」


さつきが腕を動かそうとする。


紙が少し揺れるだけだった。


「ほとんど動きません」


「緊急時の固定としては成功です」


「今は緊急時ではありません」


美晴は、なつめに巻かれている間も注文を続ける。


「顔は出してね」


「分かったぜよ!」


「前髪もつぶさないで」


「分かった!」


「衣装のオレンジ色も少し見せて」


「注文が多いぜよ!」


なつめは力加減を誤り、トイレットペーパーを何度も切る。


「また切れた!」


「高級トイレットペーパーを怪力試験に使わないでください!」


隼人が叫ぶ。


一方、のどかと梨乃は、最初から競技の趣旨を無視していた。


梨乃は紙を肩へ巻き、なぜか王族風のマントを作る。


のどかが尋ねる。


「何を作りよるん?」


「四国大連合の女王です」


「梨乃は鳥取じゃろ!」


「中国・四国地方という広域区分があります」


「今日の四国は、香川、愛媛、徳島、高知の四国じゃ!」


競技終了。


紙をまとった梨乃は、そのまま四県代表の中央へ入った。


「これで梨乃も、四国大連合のセンター候補ですね」


のどかは即座に梨乃の腰をつかむ。


「梨乃は四国じゃなかろうに!」


「鳥取は四国の北側にあります」


「瀬戸内海を挟んどるわ!」


「地図上では近いです」


「地図上でも四国じゃないんよ!」


のどかは梨乃を引きずる。


梨乃は紙のマントをひらひらさせながら、中央へ手を伸ばした。


「中立センターとして適任です」


「四県と関係ないだけじゃ!」


会場は、この日最大の爆笑に包まれた。



本気でくだらないから、誰よりも面白いのです


全競技が終了した。


予定時間は三十分以上押している。


巨大紙相撲の土俵は壊れた。


段ボールキャタピラは一つ大破。


紙製の看板も倒れた。


高級トイレットペーパーは、当初予定の三倍以上消費。


スタッフは疲労困憊。


それでも観客は笑い続けている。


結月は、どれほどくだらない競技でも手を抜かなかった。


トイレットペーパーを巻く姿に、元女子競輪選手としての集中力と身体能力が表れた。


美晴は、混乱する場面でもカメラを見失わず、全てをステージ上の見せ場へ変えた。


地下アイドル界のキングカズと呼ばれるだけの経験を見せた。


さつきは、段ボールに挟まり、トイレットペーパーで全身を巻かれても、落ち着いた語り口と頭の回転を失わなかった。


どのような状況でも番組を成立させる、人気キャスターの力を発揮した。


なつめは、土俵を壊し、看板へ突っ込み、紙を切りながらも、その豪快さと真っすぐな言葉で、特に少年たちを大喜びさせた。


香澄は、熊本弁の軽快な司会で、まとまりのない競技を一つのステージへまとめた。


のどかは悪乗りと突っ込みを使い分け、笑いが不足しそうになるたびに梨乃を止めた。


梨乃は四国と無関係でありながら、堂々とセンター候補へ割り込み、最後の大きな笑いを生んだ。


競技内容は、全てくだらない。


しかしヒロインたちは、本気で取り組んだ。


本気であるからこそ、失敗が面白い。


本気であるからこそ、観客も応援できる。


スポンサー企業の幹部も、自社製品が予想外の方法で大量消費される光景に、最初は顔を引きつらせていた。


だが会場では、商品名が何度も紹介されている。


展示ブースにも人が集まった。


高級ティッシュの売店では、涙の女王決定戦を見た来場者が商品を買っている。


段ボール会社の担当者は、なつめが大破させたキャタピラを見ながら言った。


「強度試験として、貴重なデータが取れました」


隼人が尋ねる。


「本当に役立ちますか?」


「通常、あの勢いで人が突っ込むことはありません」


「では、役立たないのでは?」


「話題にはなります」


結果として、イベントは大成功だった。



四国はひとつです


最終ステージ。


四県代表が横一列へ並ぶ。


結月の肩には、トイレットペーパーの切れ端。


美晴の髪には、紙のミカン飾り。


さつきの腰には、ほどき忘れた白い紙。


なつめの背中には、倒した看板のスポンサー名入り紙片が貼りついている。


香澄が尋ねる。


「皆さん、今日のイベントで四国四県の絆は深まりましたか?」


結月が答える。


「はい。四県が協力する意味を実感しました」


美晴も笑顔で続ける。


「全員が違う経験を持っているから、思いがけないステージになるのよね」


さつきが上品にまとめる。


「四国全体の魅力と、四人それぞれの個性を知っていただく、よい第一歩になったと思います」


なつめは拳を上げる。


「四国はひとつぜよ!」


観客から大きな拍手。


隼人は舞台袖で、ようやく肩の力を抜く。


イベントは成功。


スポンサーも満足。


四県ヒロインも活躍。


ここで終われば、何の問題もなかった。


香澄が台本の最後を見る。


「それでは最後の質問です」


隼人の表情が固まる。


その質問は、企画書に入っていなかった。


香澄が尋ねる。


「四国大連合のセンターは、誰ですか?」


四人が同時に一歩前へ出た。


「私です」


声までそろった。



香川は結月を推します


結月は真剣な表情で語る。


「四県をまとめる以上、責任を引き受けられる人が中央に立つべきです」


元競輪選手として鍛えた身体能力。


任務での追跡実績。


どのような企画にも本気で取り組む姿勢。


「私なら、四国大連合の看板を背負えます」


香川県側の観覧席から、大きな拍手。


結月は堂々としている。


説得力もある。



愛媛はみーちゃんを推します


美晴は、自然に正面カメラへ身体を向ける。


「センターには、お客さんを一番楽しませられる人が必要じゃないかな」


十年以上にわたる芸能活動。


幅広い年代への客対応。


歴史知識。


混乱を見せ場へ変える力。


「みーちゃんなら、どんなステージでも大丈夫だよ」


愛媛県側から、


「みーちゃん!」


という声。


美晴は投げキッスを送る。


センターの演説中にもファンサービスを忘れない。



徳島はさつきを推します


さつきは、落ち着いた声で語る。


「四国大連合を全国へ広めるためには、情報を正確に伝える力が必要です」


キャスターとしての発信力。


司会進行能力。


清楚な印象。


阿波のスピードスターと呼ばれる身体能力。


「四県全ての魅力を、公平に伝えられることも大切だと思います」


徳島県側の関係者が、大きく頷く。


理路整然としている。


先ほど段ボールの中で渋滞していた人物とは思えない説得力だった。



高知はなつめを推します


なつめは難しい説明をしない。


「一番強うて、一番分かりやすうて、一番子どもに人気がある者がセンターぜよ!」


客席の少年たちが声を上げる。


「なつめー!」


「土佐の突進娘ー!」


なつめは胸を張る。


「ほら、答えは出ちゅう!」


高知県関係者も立ち上がりそうな勢いで拍手する。


確かに、客席の盛り上がりだけなら圧倒的だった。



鳥取も参加しようとします


四人が互いに譲らない。


その中央へ、紙のマントをまとった梨乃が静かに歩いてくる。


「四人で決まらないのでしたら、梨乃が中立的な立場でセンターを務めます」


のどかが、後ろから梨乃の腰をつかんだ。


「梨乃は四国じゃなかろうに!」


「中国・四国地区という広域的な視点が必要です」


「今日は四国四県の話じゃ!」


「鳥取が入れば、山陰との連携も強化されます」


「話を勝手に広げるな!」


「センターが五人でも、写真には入ります」


「四人でも多いんよ!」


梨乃は、のどかに引きずられながら訴える。


「梨乃は争いを止めるために――」


「一人増えたら、争いも増えるわ!」


観客は再び大爆笑。


最終記念写真は、四人が中央へ寄りすぎたため、全員の肩が重なった。


美晴だけは、その状態でも顔を正確にカメラへ向けていた。


梨乃は写真の端から、顔だけを出していた。


のどかが気づき、撮影直前に押し戻した。



四県担当者は、ヒロイン本人より本気です


イベント終了後。


市内のホテルで、四国四県の担当者、自治体関係者、スポンサー企業を集めた懇親会が開かれる。


隼人は、イベント成功を穏やかに祝う会だと思っていた。


乾杯。


料理。


名刺交換。


和やかな歓談。


最初の十五分までは、そのとおりだった。


やがて香川県側の担当者が、厚い資料を配り始めた。


表紙には、


「大西結月センター適性に関する総合評価」


と書かれている。


隼人は目を疑う。


「いつ作ったのですか?」


「イベントを見ながら、県庁の担当部署へ連絡して作成しました」


仕事が早すぎる。


資料には、


元女子競輪選手としての知名度

圧倒的な身体能力

責任感

真面目な人物像

四国大連合を長期的に背負える安定感


が並んでいる。


香川県側の担当者が熱弁する。


「四国大連合を継続的に率いるなら、大西さんの責任感が必要です」


すると愛媛県側も、負けずに資料を取り出した。


「地元開催を成功へ導いた越智美晴の集客力」

十年以上の芸能活動

幅広い年代への対応力

歴史知識

カメラ対応

開催県代表としての正統性


愛媛県側は主張する。


「本日のイベントが成功したのは、美晴さんがあらゆる失敗を笑いへ変えたことも大きいです」


徳島県側も資料を配る。


「全国発信力を持つ新時代の四国センター・三好さつき」

学生キャスターとしての知名度

清楚で透明感のある印象

高い司会能力

情報発信力

阿波のスピードスターとしての任務実績


「四国を全国へ伝えるなら、メディア対応に優れた三好さんが適任です」


最後に高知県側。


配られた資料の表紙には、なつめの巨大な写真が載っている。


「神代なつめは、すでに土佐の偉人である」


文字より写真の方が大きい。


内容も単純だった。


強い

分かりやすい

子どもに人気

裏表がない

高知県内では、ほぼ異論なし


高知県側の担当者が胸を張る。


「スターは、理屈で作るものではありません。見た瞬間に分かるものです」


隼人は四冊の資料を机へ並べた。


どれも本気だった。


四県担当者は、ヒロイン本人たち以上に譲らなかった。



輪番制でも初回で争います


隼人は妥協案を出す。


「四県による輪番制はいかがでしょうか」


香川県側が尋ねる。


「最初のセンターは誰ですか?」


「公平な抽選で――」


愛媛県側が首を振る。


「初代センターは、今後も基準として扱われます」


徳島県側も続ける。


「最初に立った方が、事実上の代表と認識される可能性があります」


高知県側が言う。


「ほんなら、なつめから始めたらええ」


輪番制は、誰から始めるかで頓挫した。


次に隼人は、


「開催県の代表が、その都度センターを務める」


と提案する。


香川県側が言う。


「それでは四国全体の統一センターではありません」


愛媛県側は、


「今回だけでも美晴さんが中央に立つべきです」


と主張。


徳島県側は、


「情報発信の一貫性が失われます」


と反論。


高知県側は、


「高知開催なら、なつめで決まりぜよ」


と未来の話を始める。


さらに、


「中央へ四国地図を置き、四人が囲む」


という遥案も出る。


四県側は一斉に反対した。


「それでは人間のセンターが不在です」


どの案も、一つの問題を解決すると二つの問題が増えた。



全員が優秀だから、誰も選べません


懇親会終了後。


隼人はホテルの小会議室へ残り、四人の評価表を作る。


大西結月


身体能力――最高水準。


責任感――最高水準。


統率力――高い。


真面目さ――非常に高い。


課題――くだらない競技にも本気になりすぎる。


越智美晴


イベント経験――最高水準。


観客対応――最高水準。


歴史知識――高い。


カメラ対応――異常に高い。


課題――無意識に中央へ移動する。


三好さつき


司会進行――最高水準。


情報発信――最高水準。


知性と判断力――高い。


戦闘時の速度――高い。


課題――現在は兵庫県在住。


神代なつめ


戦闘力――最高水準。


子ども人気――最高水準。


スター性――高い。


分かりやすさ――極めて高い。


課題――生放送で何を言うか予測できない。


誰も能力不足ではない。


四人とも、違う形でセンターに向いている。


だが一人だけが、明確に抜きんでているわけでもない。


結月を選べば、


「イベントの顔には美晴の方が適任」


と言われる。


美晴を選べば、


「戦闘力と責任感をどう評価したのか」


と問われる。


さつきを選べば、


「現在は兵庫県在住ではないか」


と指摘される。


なつめを選べば、


「全国生放送の危険性を考慮したのか」


という現実的な問題が出る。


隼人は評価表を前に頭を抱えた。


「誰を選んでも、残りの三人と三県から苦情が来る……」


能力が不足している者を外すのは簡単。


しかし全員が優秀で、別々の長所を持っている。


その中から一人だけを選ぶのは、はるかに難しい。


四国大連合は、センター不在なのではない。


センター候補が多すぎる。



遥室長は電話で簡単に言います


隼人のスマートフォンが鳴る。


芹沢遥室長だった。


『イベントは成功したのら?』


「大成功です。観客、スポンサー、市側から高い評価をいただきました」


『四人も活躍できた?』


「全員、それぞれの持ち味を十分に発揮しました」


『よかったのら』


隼人は深く息を吐く。


「ただし、センターが決まりません」


『四人ともセンターでいいのら』


「本人たちは、四人のうちの一人ではなく、自分が唯一のセンターだと思っています」


『四つセンターを作るのら』


「それはセンターではなく、四隅です」


『毎回、舞台を回転させるのら』


「舞台装置の問題ではありません」


『四国はひとつなんだから、仲良く決めればいいのら』


「全員が、“四国はひとつだから自分が中心になるべきだ”と主張しています」


電話の向こうで、遥も少し黙る。


『それは面倒なのら』


「ようやく理解していただけましたか」


『隼人くんが考えるのら』


「やはり私ですか?」


『全体責任者なのら』


「始まりは苦し紛れの発言だったのですが」


『結果がよければ戦略なのら』


電話は切れた。


隼人は、切れた画面をしばらく見つめた。



鳥取から第五の推薦書が届きます


机の上には、四県から届いた分厚い推薦書。


香川。


愛媛。


徳島。


高知。


その横へ、一枚だけ薄い紙が置かれている。


隼人は手に取る。


表題は、


「山根梨乃・中立センター就任案」


提案理由。


一、四県のいずれにも属さないため公平。


二、中国・四国地方の広域連携へ発展可能。


三、センター争いを外部から調停できる。


四、本人に就任意思がある。


隼人が最後の項目を見る。


「本人に意思があるだけでは……」


その時、会議室の扉が開く。


のどかが入ってくる。


机上の梨乃案を見つけた。


一秒で内容を理解する。


廊下へ向かって叫んだ。


「じゃけえ、梨乃は四国じゃなかろうに!」


廊下の向こうから梨乃の声。


「中国・四国地区の広域連携です」


「まだ言いよるんか!」


「鳥取は全四国県と利害関係が薄く、公平です」


「利害関係が薄いんじゃなくて、四国と関係ないんよ!」


「その距離感こそ、中立性です」


「何でも長所に言い換えるな!」


二人の声がホテルの廊下へ響く。


隼人は両手で頭を抱えた。


イベントは大成功。


観客は大爆笑。


スポンサーも満足。


四県ヒロインは、全員が自分の魅力を十分に発揮した。


何もかも、予想以上にうまくいった。


だからこそ、誰もセンター候補から外せなくなった。


藤堂隼人補佐官が、徹夜麻雀明けの苦し紛れで口走った一言から始まった四国中央市イベント。


その本当の苦難は、イベントの失敗ではなかった。


成功しすぎたことだった。


会議室の壁には、イベントの巨大ポスターが貼られている。


「四国はひとつ。センターは四人!」


スローガンとしては美しい。


客席にも受けた。


記念品にも印刷してしまった。


だが実際の運営上は、何一つ解決していない。


隼人は四人の写真を見る。


真剣な結月。


笑顔のみーちゃん。


優雅なさつき。


拳を上げるなつめ。


そして写真の端から、こっそり顔を出している梨乃。


その梨乃を後ろへ引っ張る、のどかの腕まで写っていた。


隼人は深く息を吐いた。


「次回のイベントまでに、決めなければならないのか……」


隣で波田顧問が笑う。


「最高戦略会議で考えりゃいいじゃねえか」


隼人は即答した。


「もう徹夜麻雀では決めません」


「麻雀しながらの方が、いい案が出るかもしれんぞ」


「今回、出たのは“四国が手薄だ”という一言だけです」


「そこから、ここまで来たんだろ」


「二度目も成功する保証はありません」


すみれコーチが静かに言う。


「次回も参加するのでしたら、まさにゃんさんには点棒を多めに用意していただきます」


まさにゃんが顔を上げる。


「なぜ、もう私が負ける前提なのですか?」


波田、隼人、すみれの三人が同時に答えた。


「毎回だから」


四国大連合のセンターは決まらない。


だが最高戦略会議で、次に誰がハコテンになるかだけは――。


最初から、全員一致で決まっていた。

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