四国はひとつ、センターは四人!? ――徹マン明けのひと言から始まる、戦隊ヒロイン四国大連合
金曜日、午後六時十二分。
新橋ヒロ室では、一週間の業務を終えた職員たちが、順番に端末の電源を落としていた。
「お疲れさまでした」
「月曜日、九時から合同会議です」
「イベント報告書は共有フォルダに入れてあります」
そんな真面目な声が行き交う中、フロント奥の小会議室だけは、これからが本番だった。
部屋の中央に置かれているのは、会議用の長机ではない。
緑色の麻雀卓である。
卓を囲むのは、戦隊ヒロインプロジェクトの中枢を担う四人。
波田巌蔵顧問。
藤堂隼人補佐官。
太田すみれコーチ。
そして葛城正男室長代理、通称まさにゃん。
卓上に並ぶのは事業計画書ではなく、麻雀牌。
飲み物はミネラルウォーターではなく、缶ビール。
議事録の代わりに点棒。
参考資料の代わりに柿の種とスルメ。
まさにゃんが紙袋から焼き鳥の缶詰を取り出す。
「本日は塩味とたれ味を用意しました」
すみれコーチは牌を混ぜながら答えた。
「戦略会議の準備だけは、毎回万全ですね」
隼人はネクタイを緩め、机の端へ積まれた缶ビールを確認した。
「それでは、今週の戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議を始めます」
まさにゃんが真剣な顔で尋ねる。
「本日の主要議題は?」
すみれコーチは短く答えた。
「東一局です」
「地域戦略ではなく?」
「まず親を決めてください」
この会議では、参加者が時折、中国語のような言葉を発する。
「ポン」
「チー」
「ロン」
だが、中国語で東アジアの安全保障や国際的なヒロイン連携について話しているわけではない。
単なる麻雀である。
それでも、建前上は、
「戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議」
と呼ばれていた。
◇
会議で最も安定しているのは、まさにゃんの敗北です
この集まりが新橋ヒロ室で開催されるのは、月に一、二度。
金曜日の業務終了後に始まり、終電を過ぎ、深夜を越え、最終的には始発電車が動き出す時刻まで続く。
開始直後だけは、一応、仕事の話もする。
「来月の地方イベントですが」
「その件は、週明けの正式会議で話しましょう」
「若手ヒロインの育成について」
「担当部署へ資料を出してください」
「新規スポンサーの件は」
「今は牌を捨ててください」
どの話題も、三十秒以内に麻雀へ戻される。
最高戦略会議という立派な名称に反し、建設的な意見が出ることはほとんどなかった。
ただし、毎回ほぼ確実に起きることが一つだけある。
まさにゃんが、すみれコーチへ振り込む。
今夜も開始から四十分。
まさにゃんは牌を一枚持ち上げ、しばらく考え込んでいた。
「これは安全でしょう」
波田顧問が缶ビールを飲みながら尋ねる。
「何を根拠に?」
「すみれコーチが、さっき同じ種類の牌を切っています」
「それは筋じゃなく、願望じゃねえか?」
「今日は直感が冴えています」
まさにゃんは自信を持って牌を捨てた。
すみれコーチが静かに牌を倒す。
「ロン」
まさにゃんの手が止まった。
「え?」
「七千七百です」
「また私ですか?」
「また、あなたです」
波田は笑いながら缶ビールを置いた。
「正男よ。お前、任務じゃ敵の偽装を見抜くくせに、麻雀になると毎回すみれの罠へ正面から飛び込むな」
「罠だったのですか?」
「待っているのが、顔に出ていました」
すみれコーチが答える。
「出ていましたか?」
「私の顔には出ていません」
「では、どこに?」
「捨て牌に」
まさにゃんは自分の点棒を数える。
隼人も横から確認した。
「室長代理、開始一時間前で、すでにかなり危険な状態です」
「まだ逆転できます」
「その台詞は、前回も聞きました」
「前回とは流れが違います」
すみれコーチが次の牌を積みながら言う。
「前回より悪いです」
最高戦略会議で最も継続的に扱われている問題は、全国の組織再編でも人材育成でもない。
葛城正男室長代理の財政再建問題だった。
◇
遥室長が嫌う理由
芹沢遥室長は、この最高戦略会議を心の底から嫌っている。
会議の内容が役に立たない。
参加者が飲酒する。
まさにゃんが毎回負ける。
理由はいくつもある。
だが最大の理由は、藤堂隼人補佐官が朝まで帰ってこないことである。
遥と隼人は同じ家で暮らしている。
二人が恋人なのかどうか、正式には誰も知らない。
本人たちは、
「生活拠点を共同化しているだけです」
「業務上の合理性なのら」
と言い張っている。
ただし、隼人が帰宅すると遥が夕食を用意している。
遥が寝坊すると隼人が朝食を作る。
休日には二人で買い物へ行く。
隼人の帰りが遅いと、遥は居間の照明をつけたまま待っている。
それを恋人と呼ばずに何と呼ぶのか、周囲には分からなかった。
最高戦略会議の翌朝。
午前六時を過ぎて隼人が帰宅すると、遥は必ず不機嫌になる。
隼人が、
「業務の一環です」
と説明しても通用しない。
「朝まで麻雀することの、どこが業務なのら」
「意見交換です」
「点棒を交換しているだけなのら」
「人間関係の構築も重要です」
「毎回まさにゃんが破壊されているのら」
遥の反論は、いつも正しかった。
◇
銀座の女子会は、議題なしでも有能です
同じ金曜日の夜。
遥は、小宮山琴音、安岡真帆、福永理沙、高島里奈、内田あかねとともに、銀座のフルーツパーラーへ来ていた。
テーブルには、季節のフルーツパフェ。
メロンとイチゴの盛り合わせ。
フルーツサンド。
紅茶。
ジュース。
柿の種と缶ビールが並ぶ新橋の麻雀卓とは、色彩も香りも品格も違っていた。
こちらは正式な会議ではない。
完全な女子会である。
最初の話題も仕事ではなかった。
最近買った服。
気になる店。
休日の過ごし方。
ヒロインたちの恋愛事情。
そして、遥と隼人の関係。
理沙がパフェのクリームをすくいながら尋ねた。
「室長と隼人補佐官って、結局どういう関係なんですか?」
遥はイチゴを食べ、平然と答える。
「ただ一緒に住んでいるだけなのら」
琴音が首をかしげる。
「それを世間では同棲と言うじゃんね」
「生活拠点を共有しているだけなのら」
あかねが続ける。
「でも、隼人補佐官が朝帰りすると怒るんですよね?」
「翌日の予定に響くからなのら」
里奈が笑う。
「それでも、帰ってくるまで起きて待っているんですよね?」
遥のフォークが止まった。
「鍵を閉める都合があるのら」
「隼人補佐官も鍵を持っていますよね?」
「防犯上の確認なのら」
「毎回?」
「毎回なのら」
真帆は紅茶を飲みながら、何も言わなかった。
遥の言い訳は、隼人が徹夜麻雀を国際戦略会議と呼ぶ時と同じくらい苦しかった。
◇
恋愛相談の次に地方戦略が始まります
女子会は、服や恋愛の話だけでは終わらなかった。
参加者は全員、ヒロ室フロントを支える真面目で仕事熱心な女性たちである。
雑談が一段落すると、理沙がタブレットを開いた。
「地方イベントの移動費が増えています。複数地域をまとめた企画を作れないでしょうか」
里奈が広報面から意見を出す。
「地方ごとに別々の名前で宣伝するより、共通のブランドを作った方が全国展開しやすいと思います」
あかねは若手育成を提案する。
「いつも同じヒロインが司会を担当するのではなく、地方の人にも進行を経験してもらいたいです」
琴音がフルーツサンドを持ったまま頷いた。
「地元産業と結びつければ、スポンサーも集めやすいじゃんね」
真帆も言う。
「地域産業だけでなく、防災啓発も組み合わせられます。イベント設備を災害時に活用できれば、自治体にも説明しやすくなります」
遥は全員の意見を聞き、満足そうに頷いた。
「どれも実現できそうなのら。週明けに整理するのら」
正式な議題はない。
議長もいない。
議事録担当もいない。
ところが、予算削減、人材育成、地域連携、スポンサー獲得、防災啓発まで話が進んでいる。
同じ頃、新橋ヒロ室の最高戦略会議では、まさにゃんが二度目の振り込みをしていた。
どう考えても銀座の女子会の方が、
「戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議」
の名にふさわしかった。
◇
四国だけまとまっていません
午後十一時を過ぎた頃。
新橋の麻雀卓では、缶ビールの空き缶が増えていた。
波田顧問は牌を一枚捨て、ふと思いついたように言う。
「しかし、地方ごとの組織も形になってきたな」
隼人が牌を確認しながら頷いた。
「北海道・東北は、ノースフロントが機能しています」
北方管区では、るみねぇと高沢雪乃が中心となり、広大な地域のヒロインをまとめている。
個性の異なる二人ではあるが、北方管区の顔として存在感を発揮していた。
「東海も山田真央が中心になってきたな」
波田が言う。
隼人は少し迷ってから付け加える。
「なぜか、東大阪の赤嶺美月も中心人物のような顔をしています」
「何で東大阪のヒロインが東海の中心なんだ?」
「本人が頻繁に入り込んできますので」
美月には地域区分という概念があまりない。
面白そうな催し。
目立てそうなステージ。
話題になりそうな企画。
そのどれかがあれば、東海であろうと関東であろうと現れる。
「関西は西日本分室が動いています」
「中国地方は?」
「ノムさんと江波のどかの悪乗りコンビが率いるヒロヒロが絶好調です」
波田は苦笑した。
「あそこは、活動より悪乗りの規模が拡大している気もするがな」
「結果は出しています」
九州では、古賀菜々子支配人と有村ひなた副支配人が、熊本の山奥にある拠点を中心に奮闘している。
人材発掘。
地域イベント。
沖縄を含む遠征。
ヒロ九も九州全域へ着実に存在感を広げていた。
波田は缶ビールを一口飲み、卓上へ置いた。
「こうして並べると、四国だけまとまった展開がねえな」
隼人も頷く。
「確かに。個々には魅力的なヒロインがいますが、四国全体での企画はありません」
すみれコーチも牌を並べながら言った。
「四国出身者が一堂に会したことも、ほとんどありませんね」
最高戦略会議が始まってから五時間。
初めて、戦略らしい話が出た。
ただし、誰もメモを取っていなかった。
◇
香川には、本気になりすぎる元競輪選手がいます
最初に名前が挙がったのは、香川県観音寺市出身の大西結月だった。
元女子競輪選手。
現役時代に鍛え上げた下半身は圧倒的で、引き締まったウエストと同じほど存在感のある太腿を持つ。
自転車で敵を追えば、長距離でも疲れを見せない。
敵が車を捨てて徒歩で逃げても、今度は自分の脚で追い詰める。
何事にも真面目。
訓練も任務もイベントも、絶対に手を抜かない。
ただし、何でも本気になりすぎる。
子ども向け自転車教室で、
「今日は競争ではありません」
と説明されても、隣を走る小学生に抜かれそうになると、無意識に速度を上げる。
イベントの障害物競走では、見本を見せるだけのはずが大会記録を更新する。
ステージではお茶目な一面もあり、力加減を誤って小道具を壊すと、
「これは最初から分解する予定でした」
と笑顔でごまかす。
「結月なら、四国企画の軸にできそうだな」
波田が言う。
隼人も同意する。
「責任感があります。まとめ役にも向いているでしょう」
すみれコーチは冷静に補足した。
「四県対抗企画を行えば、子ども相手でも本気で勝ちにいく可能性があります」
「それはそれで見ものだ」
「安全管理側は見ものでは済みません」
◇
愛媛には、地下アイドル界のキングカズがいます
愛媛県松山市出身の越智美晴。
通称、みーちゃん。
かつて地元の地下アイドルユニット、
「オレンヂ☆ステップ」
で十年以上活動した、元ベテラン地下アイドルである。
若手メンバーが加入する。
卒業する。
別のメンバーが加入する。
また卒業する。
その間も、みーちゃんはステージへ立ち続けた。
その活動歴は、
「地下アイドル界のキングカズ」
と呼ばれるほどだった。
戦隊ヒロインプロジェクトへ“移籍”してからは、主にヒロヒロで活躍。
年齢を感じさせない可愛らしさ。
長年の現場経験で身につけた客あしらい。
子どもから高齢者まで、一瞬で距離を縮める会話術。
どの会場でも、自分のファンを見つける能力。
さらに、見た目からは想像しにくいほどの歴女でもある。
戦国時代。
幕末。
城郭。
郷土史。
任務先の古い地形や史料を調べ、作戦へ生かすこともある。
「美晴さんは、どんな会場でも盛り上げられます」
隼人が言う。
波田も頷く。
「十年以上地下アイドルをやってりゃ、少々のトラブルじゃ動じねえだろ」
「むしろトラブルを見せ場へ変えるタイプです」
すみれコーチが続ける。
「それと、カメラの位置を見つける能力が異常に高いです」
「気づいたら中央にいるのか」
「はい」
◇
徳島には、阿波のスピードスターがいます
徳島県鳴門市出身の三好さつき。
現在は兵庫県に住み、関西の有名私立大学へ通う学生である。
兵庫県域のテレビ局・神戸放送では、情報番組の学生キャスターとして活躍している。
長身。
清楚で透明感のある美貌。
聞き取りやすく落ち着いたナレーション。
頭の回転の速さ。
取材相手を立てながら必要な話を引き出す技術。
イベントステージでは、騒がしい出演者がいても自然に話を整理し、時間が押しても優雅な進行で巻き返す。
一方、戦闘任務では、
「阿波のスピードスター」
の異名を持つ。
俊足。
鋭い方向転換。
鳴門の渦潮を思わせる回り込み。
阿波踊りの足運びを応用した軽快なステップ。
長い脚を生かして敵を翻弄しながら、表情をほとんど崩さない。
「さつきには司会を任せられる」
隼人が言った。
波田も頷く。
「四人集めるなら、話を整理する人間は必要だ」
すみれコーチは少し考える。
「現在は兵庫県在住です。鳴門出身であることを企画上、明確にする必要はあります」
「本人の徳島への愛着は強いです」
「なら問題ありません」
◇
高知には、すでに偉人扱いされる突進娘がいます
高知県高知市出身の神代なつめ。
異名は、
「土佐の突進娘」
難しい理屈より、まず行動。
敵を見つければ一直線。
どぎつい土佐弁。
裏表のない性格。
誰が見ても分かりやすい豪快な戦い方。
大勢の敵をバッタバッタとなぎ倒し、最後には、
「悪いことしたら、いかんぜよ!」
と説教する。
その単純明快さが、特に少年たちから絶大な人気を集めている。
地元では早くも、
「土佐の偉人の一人」
として観光案内へ載せようとする動きまであった。
本人は、
「まだ生きちゅうがやき、偉人にするがは早い!」
と抗議している。
「なつめは分かりやすいな」
波田が笑う。
隼人も言う。
「四人の中では、特に子どもから人気が出るでしょう」
すみれコーチは缶ビールを一口飲んだ。
「ただし、対決企画へ出すと本気になりすぎます」
「結月と競争させたらどうなる?」
「会場設備の強度確認が必要です」
香川の元競輪選手。
愛媛の地下アイドル界のレジェンド。
徳島の人気学生キャスター。
高知の突進娘。
人材はそろっている。
むしろ、そろいすぎている。
四人を同じステージへ立たせた場合、誰が中央へ立つのか。
誰にも想像できなかった。
◇
四国を考えた結果、まさにゃんがハコテンになります
すみれコーチが缶ビールを持ったまま言った。
「四国も、まとまった企画を考えた方がよいでしょうね」
波田が頷く。
「四人とも個性がある。一度集めりゃ、何か起きるだろ」
隼人も同意した。
「地域連携の企画として、検討する価値はあります」
まさにゃんが牌を一枚持ち上げる。
「四国なら鉄道企画も考えられます。予土線、土讃線、予讃線、高徳線、それから――」
牌を捨てた。
すみれコーチが静かに手牌を倒す。
「ロン」
まさにゃんの鉄道解説が止まった。
「え?」
「満貫です」
「今の牌、危険でしたか?」
「かなり前から」
「四国の鉄道について考えていたので……」
波田が大笑いする。
「四国を考えた結果、お前の点棒が全部なくなったな」
まさにゃんの残り点は〇。
ハコテン。
この夜の最高戦略会議で出た唯一の建設的な意見は、
「四国も何かやらないとね」
という一言だけ。
開催地。
時期。
予算。
主催者。
協賛企業。
企画内容。
一つも決まっていない。
それでも麻雀だけは翌朝まで続いた。
◇
朝六時の取り調べ
土曜日、午前六時十七分。
藤堂隼人補佐官は、自宅の玄関をできるだけ静かに開けた。
酔い。
眠気。
徹夜麻雀。
三つが重なり、意識は朦朧としている。
靴を脱ぐ。
廊下を進む。
何もなかったように寝室へ入る。
それが隼人の計画だった。
だが、居間の照明がついていた。
芹沢遥室長が、食卓の前へ座っている。
笑顔だった。
ただし、目はまったく笑っていない。
「お帰りなのら」
「ただいま……」
「ずいぶん長い最高戦略会議だったのら」
「全国規模のプロジェクトですから、議論が白熱しまして」
「缶ビールのにおいがするのら」
「率直な意見交換には、多少の潤滑油も必要です」
「麻雀牌の音もしていた気がするのら」
「中国語を用いた国際戦略研究です」
遥は立ち上がった。
「それで、成果は?」
隼人の頭の中を、昨夜の記憶が回る。
すみれコーチのロン。
まさにゃんの悲鳴。
波田顧問の缶ビール。
四国。
四人のヒロイン。
それ以外、何も思い出せない。
「四国での展開を……」
遥の目が細くなった。
「四国で、どうするのら?」
「その……四国出身のヒロインを集めまして」
「誰を?」
「大西結月さん、越智美晴さん、三好さつきさん、神代なつめさんで……」
「何をするの?」
隼人は答えに詰まる。
「イベントを……」
「どこで?」
「それは……」
遥は逃がさなかった。
「香川? 愛媛? 徳島? 高知? 四国のどこでやるのら?」
隼人の頭の中へ、四国の地図らしい形がぼんやり浮かんだ。
県境は見えない。
都市名も出てこない。
唯一浮かんだ言葉は、
「四国の真ん中」
だった。
「まずは、四国の真ん中で……」
「真ん中?」
「四国中央市かな」
完全な思いつきだった。
本当に地理的な中心なのか、隼人は考えていない。
地名に「四国中央」と入っている。
ただ、それだけだった。
遥の表情が変わる。
「四国中央市でイベントね」
「いや、まだ正式な案ではなく――」
「大手製紙会社も多いし、スポンサー確保は容易だら」
「室長、場所は一例として――」
遥は両手を打った。
「はい、決定!」
隼人の眠気が一瞬で吹き飛んだ。
「決定ですか?」
「四国中央市で、四国四県のヒロインを集めてイベントを開催するのら」
「企画内容が何もありません」
「最高戦略会議で考えたんでしょ?」
「最高戦略会議では、“四国が手薄だ”という話しかしていません」
「隼人くんが責任者ね」
「私ですか?」
「提案者だから当然なのら」
「提案したというより、今、追い詰められて口走っただけです」
「立派な企画の芽なのら」
「芽の段階で責任者を決めないでください」
遥は、先ほどまでの不機嫌が嘘のように機嫌よく台所へ向かった。
「朝帰りも、たまには役に立つのら」
隼人は玄関近くに立ったまま、自分が口走った都市名を後悔した。
最高戦略会議では、何も決まらなかった。
ところが帰宅後、わずか三分で、開催地と責任者が決まった。
◇
女子会の成果が勝手に合流します
その日の午後。
遥は銀座女子会で出た意見を、タブレットへ整理していた。
地域産業との連携。
地方ヒロインの育成。
防災啓発。
複数地域による共同企画。
全国へ発信できる共通ブランド。
そこへ、隼人が苦し紛れに口走った、
「四国中央市で四人のヒロインによるイベント」
を組み合わせる。
資料の表紙には、
「戦隊ヒロイン四国大連合構想」
と入力した。
企画趣旨には、
香川・愛媛・徳島・高知の四県連携
製紙産業を生かした地域発信
紙製防災用品の普及啓発
四国出身ヒロインの共同ステージ
四県を巡回できる継続企画への発展
という立派な項目が並ぶ。
麻雀卓で考えられた内容は、一行もなかった。
事実上、企画の骨格は銀座女子会で作られている。
それでも発案者欄には、
「藤堂隼人補佐官」
と記載された。
隼人は、ソファに座ったまま資料を見る。
「この地域産業連携案は、私が出したのですか?」
「女子会で出たのら」
「防災啓発は?」
「真帆の案なのら」
「巡回企画は?」
「理沙と里奈なのら」
「私の案は、どこですか?」
遥は資料の開催地欄を指さした。
「四国中央市」
「一行だけですね」
「大事な一行なのら」
◇
月曜日、冗談が正式案件になります
週明けの月曜日。
新橋ヒロ室フロントの大型モニターへ、新企画の資料が表示された。
『四国はひとつ、センターは四人!?』
戦隊ヒロイン四国大連合・四国中央市イベント構想
会議室には、波田顧問、すみれコーチ、まさにゃん、琴音、真帆、理沙、里奈、あかねが集まっている。
隼人は目の下へうっすらとくまを作りながら、説明を始めた。
「四国四県を代表するヒロインが、県境を越えて連携する新企画です」
波田が腕を組む。
「ほう。あの夜の話、本当に企画になったか」
隼人は波田を見る。
「顧問が、“四国が手薄だ”とおっしゃったからです」
「俺は缶ビールを飲みながら、ちょっと言っただけだぞ」
すみれコーチが資料へ目を通す。
「開催地を四国中央市へ決めたのは、隼人補佐官ですね」
「室長に問い詰められ、苦し紛れに答えただけです」
遥が即座に言う。
「提案は提案なのら」
まさにゃんは交通欄へ目を向ける。
「四国中央市なら、高速道路を使った四県からの移動を組みやすいですね。鉄道では予讃線を――」
すみれコーチが、まさにゃんを静かに見る。
「葛城室長代理」
「はい」
「週末の精算がまだです」
「正式会議へ麻雀の精算を持ち込まないでください」
「最高戦略会議の継続案件です」
会議室に笑いが起こる。
隼人だけは笑えなかった。
遥は次々に指示を出す。
「四国中央市へ開催協力を打診」
「地元製紙会社へ協賛依頼」
「四人のスケジュールを確認」
「防災紙製品の展示企画」
「地域紹介ステージの構成」
「広報資料と仮ポスターの作成」
「隼人補佐官は全体責任者」
隼人は深く息を吸った。
「承知しました」
こうして、麻雀卓で出た一言は、正式案件になった。
◇
四国中央市へ電話します
最初の難関は、四国中央市への説明だった。
隼人は担当部署へ電話をかける。
「新橋ヒロ室の藤堂と申します。四国四県の戦隊ヒロインによる地域連携イベントをご相談したく――」
電話の向こうから、当然の質問が返ってくる。
「なぜ四国中央市なのですか?」
隼人は一瞬黙った。
名前に“四国中央”と入っていたから。
それが本当の理由だった。
だが、そのまま言うわけにはいかない。
「四国四県をつなぐ象徴性があり、交通の結節点としても企画趣旨に合致すると判断しました」
横で聞いている遥が、感心したように頷く。
隼人は続ける。
「また、製紙産業を生かし、地域産業、防災、環境教育を一体化したイベントが可能だと考えております」
これは銀座女子会の意見だった。
電話の向こうの担当者の反応が変わる。
「興味深い企画ですね。まず資料をお送りください」
通話を終えると、遥が言った。
「上手に説明したのら」
「追い詰められると、人間は言葉が出るものですね」
「次は製紙会社なのら」
「まだ休ませてもらえないのですか?」
「全体責任者なのら」
◇
紙の町は、思った以上に企画へ協力的です
四国中央市側とのオンライン協議では、市の担当者だけでなく、観光、産業、防災に関わる関係者も参加した。
隼人は、紙を使ったイベント案を説明する。
巨大な四国地図。
子ども向けの紙工作。
段ボールベッド。
簡易トイレ。
水に強い避難所案内。
紙製品の歴史展示。
四県の名産品を紹介する紙パネル。
地元側からも、次々に提案が出る。
「四人のヒロインに、巨大な紙の地図へ各県の魅力を書き込んでもらっては?」
「製紙工場の技術紹介もできます」
「防災用品の体験コーナーを設けましょう」
「地元の子どもたちによる紙の衣装制作はどうでしょう」
話は予想以上に進んだ。
隼人は会議後、遥へ報告する。
「先方はかなり前向きです」
「よかったのら」
「もしかして、本当に良い開催地だったのでしょうか」
「隼人くんには先見の明があったのら」
「地名だけで決めました」
「結果がよければ戦略なのら」
「最高戦略会議の定義が、さらに緩くなっていませんか?」
◇
四人への出演依頼
次は、四国ヒロイン四人へ出演を依頼する。
最初は大西結月。
隼人が企画を説明すると、結月は即座に尋ねた。
「四県合同ということは、県対抗競技もありますか?」
「現在検討中です」
「あるなら、事前に競技内容を教えてください。準備します」
「イベントですから、そこまで本格的な準備は――」
「出るからには勝ちます」
「まだ対抗戦を実施するとも決まっていません」
「決まったら、すぐ知らせてください」
出演は了承された。
ただし隼人は、結月となつめを対決させてはいけないという、すみれコーチの忠告を思い出した。
◇
越智美晴へ連絡すると、みーちゃんは喜んだ。
「四国四県の合同ステージ? いいじゃない!」
「司会経験者として、ステージ構成にも意見をいただければ」
「もちろん。ところで宣材写真は、どの角度から撮るの?」
「まだ決まっていません」
「客席から見て、中央より少し右が一番きれいに見えると思うの」
「立ち位置も未定です」
「センターは誰?」
「その問題は、後ほど全員で相談します」
「じゃあ、まだ空いているのね」
出演は了承された。
ただし、会話の半分はカメラ位置についてだった。
◇
三好さつきは、神戸放送の収録スケジュールを確認してから答えた。
「日程は調整できそうです」
「ステージの進行もお願いしたいと思っています」
「承知しました。ただ、四人全員が主役であることを崩さない進行にしたいですね」
隼人は安堵した。
「ありがとうございます」
「それで、立ち位置はどうなっていますか?」
「まだ決まっていません」
「司会者は中央にいた方が、皆さんへ話を振りやすいと思います」
「後ほど、全員で相談しましょう」
落ち着いたさつきまで、自然に中央を希望していた。
◇
最後は神代なつめ。
説明を聞いたなつめは、大声で答えた。
「四国が一つになるがやろ? そりゃ、やるしかないぜよ!」
「ありがとうございます」
「四県対抗で何するが?」
「まだ競争するとは決まっていません」
「結月さんと勝負できるが?」
「安全面を検討してからです」
「負けんきね!」
「まだ勝負はありません」
なつめも出演を了承した。
そして最後に尋ねる。
「写真撮る時、うちは真ん中でええが?」
隼人は通話を終えると、机へ額をつけた。
四人とも出演に前向き。
四人とも個性的。
そして四人とも、当然のように中央へ立つつもりだった。
◇
センター四人問題
翌日のオンライン顔合わせ。
画面には、結月、みーちゃん、さつき、なつめの四人が並ぶ。
隼人は企画趣旨を説明した。
「四国四県の魅力を一つのステージで発信します。仮称は“戦隊ヒロイン四国大連合”です」
みーちゃんが拍手する。
「いい名前ね。ユニット感があるわ」
結月も頷く。
「四県が協力する趣旨は理解しました」
さつきも言う。
「四国全体を知っていただく機会にしたいですね」
なつめが勢いよく言う。
「四国は一つぜよ!」
ここまでは順調だった。
隼人が仮ポスターを画面へ表示する。
四人の写真を横一列へ並べたもの。
だが、まだ中央の二人は仮の影になっている。
「立ち位置について、皆さんのご意見を――」
結月が言う。
「全体をまとめる役が中央に立つのが自然でしょう」
みーちゃんが笑顔で答える。
「長年のステージ経験者が中央にいる方が、画面が安定すると思うな」
さつきも穏やかに言う。
「進行役が中央なら、左右へ均等に話を振れます」
なつめは腕を組む。
「一番目立つ人が真ん中でええがやろ。ほんなら、うちや!」
四人が同時に自分を指さした。
隼人は黙る。
結月が提案する。
「県の並び順にすればよいのでは?」
「何を基準に並べるの?」
みーちゃんが尋ねる。
「東から西」
さつきが答える。
なつめが反論する。
「ほんなら高知が端になるやいか!」
「北から南では、香川が上です」
結月が言う。
「画面には上下がありません」
さつきが冷静に指摘する。
みーちゃんが笑顔で提案する。
「年功序列なら、みーちゃんが中央かな」
画面内が静かになった。
みーちゃんは微笑んだまま続ける。
「今、誰か年齢を計算した?」
「していません」
三人が同時に答えた。
隼人は一度、会議を中断した。
◇
遥室長の解決案
困り果てた隼人は、遥へ相談する。
「四人とも中央を希望しています」
「四人ともセンターでいいのら」
「中央は一つしかありません」
「四国は四県あるのら」
「センターの定義を県の数で決めないでください」
遥は仮ポスターを見て、四人の写真を正方形に配置した。
中央には四国の地図。
「人ではなく、四国をセンターにするのら」
「なるほど」
「四人は四方向から四国を囲むのら」
「宣材写真としては成立しそうです」
資料の末尾へ、遥が一文を加える。
「四国はひとつ。センターは四人」
隼人が見る。
「結局、四人全員をセンターと呼ぶのですか?」
「本人たちが納得するなら、それでいいのら」
再度オンライン会議を開き、正方形配置を説明する。
四人は少し考えた後、一応納得した。
ただし、みーちゃんが尋ねる。
「カメラはどちら側から撮るの?」
結月が言う。
「四方向を平等に撮影してください」
さつきが付け加える。
「映像では順番に全員を中央へ抜く構成にしましょう」
なつめが頷く。
「ほんなら、四人とも真ん中ぜよ!」
問題は解決したようで、ほとんど解決していなかった。
◇
四国の魅力を互いに勉強します
イベント準備の一環として、四人には自県以外の地域も紹介できるよう、四国合同勉強会が行われた。
隼人が尋ねる。
「まず、他県の代表的な名所を挙げてください」
結月が答える。
「徳島は鳴門の渦潮。高知は桂浜。愛媛は道後温泉です」
完璧だった。
さつきも落ち着いて答える。
「香川は金刀比羅宮と讃岐うどん。愛媛は松山城。高知は高知城と坂本龍馬です」
みーちゃんは歴女らしく、四県の城郭と戦国史を詳しく語る。
そして、なつめの番。
「香川はうどん!」
「ほかには?」
「愛媛はみかん!」
「徳島は?」
「踊る!」
「もう少し具体的にお願いします」
「高知は全部分かるき、問題ない!」
さつきが優しく言う。
「なつめさん、四国は一つですから、他県についても覚えましょう」
「分かった! 香川はうどん、愛媛はみかん、徳島は踊る!」
「最初から変わっていません」
勉強会は予定を一時間延長した。
◇
紙の町らしい企画が形になります
四国中央市や協賛企業との協議を重ね、イベント内容が少しずつ固まっていく。
四県の魅力を描き込む、巨大な紙製四国地図。
地元製紙技術を紹介する展示。
水に強い紙へ避難経路を書く防災体験。
段ボールベッドの組み立て実演。
紙製の簡易トイレ。
子どもたちと作る巨大な紙タワー。
四人による地域紹介ステージ。
四県合同の防災宣言。
イベントの仮題も決まった。
「四国はひとつ! 戦隊ヒロイン紙のまち大作戦」
結月は紙タワーの耐久性を気にする。
「競技にするなら、高さと強度の採点基準が必要です」
隼人が答える。
「まだ競技とは決まっていません」
なつめが横から言う。
「競技にするがやろ?」
「しません」
「結月さんと勝負できんが?」
「施設の安全が確保できません」
みーちゃんはステージの照明を気にする。
「紙の白さで顔が飛ばないよう、照明を少し落とした方がいいわね」
さつきは進行台本を読み、時間配分を確認する。
「地域紹介は一人三分では足りません。みーちゃんさんの歴史解説だけで十分を超える可能性があります」
みーちゃんが笑う。
「必要なら短くするわよ。幕末だけに絞るから」
「幕末だけで十分を超えます」
準備段階から、四人の個性は全開だった。
◇
まさにゃんは鉄道担当になります
まさにゃんには、来場者向け交通案内と鉄道利用促進企画が任された。
本人は意気込む。
「東京からですと岡山経由で予讃線。関西からも岡山経由が基本ですが、バス利用との比較も必要です。四国内では――」
隼人が止める。
「一般来場者向けに、分かりやすくしてください」
「分かりやすく説明しています」
「資料が二十八ページあります」
「詳細版です」
「概要版は?」
「二十一ページです」
すみれコーチが言う。
「一枚にまとめてください」
まさにゃんは衝撃を受ける。
「四国の鉄道を一枚で?」
「イベント会場への行き方だけで結構です」
最終的に、交通案内は琴音と理沙が一枚へまとめた。
まさにゃんが作った二十八ページの資料は、
「スタッフ向け参考資料」
として共有フォルダの奥深くへ保存された。
誰も開かなかった。
◇
隼人補佐官の寝不足は続きます
準備が本格化すると、隼人の仕事は急増した。
自治体との連絡。
協賛企業との調整。
四人の移動手配。
宿泊先の確保。
ステージ図面。
安全管理。
警備計画。
報道対応。
台本確認。
ポスターの修正。
そのたびに遥から指示が飛ぶ。
「四県の色を平等にするのら」
「紙製品の展示を増やすのら」
「子ども向けの休憩場所も必要なのら」
「四人の控室を一つにすると、センター争いが始まりそうなのら」
「分けますか?」
「分けたら四国が一つにならないのら」
「では、どうすれば?」
「広い部屋にするのら」
隼人は、苦し紛れに口走った都市名の責任が、ここまで大きくなるとは思っていなかった。
ある夜、自宅の食卓で書類を確認しながら呟く。
「最高戦略会議で、もう少し具体的に考えておくべきでした」
遥が答える。
「次から麻雀をせず、普通に会議すればいいのら」
「それは最高戦略会議ではなく、正式会議になります」
「その方がいいのら」
正論だった。
◇
開催一週間前
イベント一週間前。
仮ポスターが完成する。
中央には四国の地図。
四方向を囲むように、結月、みーちゃん、さつき、なつめ。
大きな文字で、
「四国はひとつ、センターは四人!?」
その下に、
「戦隊ヒロイン四国大連合、四国中央市に集結!」
四人全員から確認が返ってくる。
結月。
「四人が平等に配置されています。問題ありません」
さつき。
「地域名と出演者名の対応も分かりやすいです」
なつめ。
「うちの写真、もっと大きくできんが?」
みーちゃん。
「印刷すると私の顔が少し暗く見えるので、明るさを三パーセント上げてください」
完全承認まで、さらに二日かかった。
◇
四国中央市へ準備部隊が入ります
イベント前日。
隼人補佐官を中心とした準備部隊が、四国中央市へ入る。
会場では、地元スタッフと協賛企業が設営を進めていた。
巨大な紙の四国地図。
防災紙製品の展示。
段ボールベッド。
紙工作コーナー。
四県の観光パネル。
ステージ上部には、まだ幕で覆われた大型看板。
隼人は会場全体を見渡す。
麻雀卓で出た一言が、本当に巨大なイベント会場へ変わっている。
波田顧問も現地へ到着し、感心したように言う。
「立派になったじゃねえか」
隼人は少し疲れた顔で答える。
「顧問が四国は手薄だと言ったからです」
「まだ言うか」
すみれコーチも安全確認へ入る。
「紙タワーの対決企画は削除されていますね」
「はい。結月さんとなつめさんが本気になるため、展示だけにしました」
「正しい判断です」
まさにゃんは会場アクセスの案内看板を確認する。
「鉄道利用者向けの説明が少し簡潔すぎませんか?」
琴音が言う。
「これ以上増やすと、入口で立ち止まる人が増えるじゃんね」
四人のヒロインも、順番に現地へ入る。
結月は会場を一周し、動線を確認。
みーちゃんは照明とカメラ位置を確認。
さつきは進行台本と音響を確認。
なつめはステージを見て、
「ここから飛び降りてもええが?」
と尋ねる。
隼人とすみれコーチが同時に答えた。
「駄目です」
◇
センターは、本当に四人です
最後のリハーサル。
四人がステージへ上がる。
床には四つの立ち位置マーク。
中央ではない。
四国地図を囲む四方向。
結月が自分の位置を確認する。
「香川は北側ですね」
みーちゃんがカメラを見る。
「愛媛側からも、ちゃんと撮ってくださいね」
さつきはマイクの音量を確かめる。
「四人が同時に話さなければ、きれいに進行できます」
なつめは中央の四国地図を見下ろす。
「この真ん中へ立ったら、いかんが?」
「いけません」
隼人が即答する。
「そこは四国の位置です」
「うちらも四国やろ?」
「四人全員が乗ると、地図が見えません」
なつめは少し考え、元の位置へ戻った。
リハーサルの最後。
四人が声を合わせる。
「四国はひとつ!」
一拍置く。
「センターは四人!」
まだ客席には誰もいない。
それでも、広い会場へ四人の声が響いた。
隼人は舞台袖で、その光景を見つめる。
始まりは、波田顧問の何げない一言。
場所が決まった理由は、朝帰りをした自分の苦し紛れ。
企画の中身は、銀座の女子会。
宣材写真の配置は、遥室長の思いつき。
それでも、準備は整った。
四国四県から集まった四人は、同じステージへ立っている。
舞台上部を覆っていた幕が外される。
大型看板が姿を現す。
『四国はひとつ、センターは四人!?』
戦隊ヒロイン四国大連合、初陣
なつめが看板を見上げる。
「初陣いう響き、ええねえ!」
結月は拳を握る。
「出る以上、成功させます」
みーちゃんはカメラへ向かって、すでに本番用の笑顔を作る。
「四国大連合、売れる気がするわ」
さつきは台本を閉じ、落ち着いた声で言う。
「まずは明日のステージを、皆さんで成功させましょう」
四人が互いを見る。
四国はひとつ。
センターは四人。
その言葉が本当の意味を持つかどうかは、まだ誰にも分からない。
隼人は最終確認表を閉じた。
「設営完了。明日の開場は午前十時です」
遥から電話が入る。
『準備はどうなのら?』
「無事に終わりました」
『最高戦略会議の成果が形になったのら』
「企画の大半は女子会の成果です」
『開催地は隼人くんの成果なのら』
「苦し紛れです」
『結果がよければ戦略なのら』
通話が切れる。
隼人は大きく息を吐いた。
これで準備は終わった。
あとは本番を迎えるだけ。
ただし、誰も知らなかった。
四人の強烈な個性が同じ会場へ集まった時、リハーサルどおり静かに進むはずがないことを。
そして、徹夜麻雀よりも混乱した一日が、すぐそこまで迫っていることを。
戦隊ヒロイン四国大連合の初陣は――
いよいよ、翌朝に始まる。




