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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1129/1169

サイパンより先に会議が沈没!? 一問間違えたら最下段! ――ステップアップクイズ全国戦隊ヒロイン大会、関西代表は“どくろ”で決まりました

大阪の準キー局が制作し、ロッド製薬の一社提供で全国放送されている人気番組、


『ステップアップクイズ』


は、明るいテーマ曲と華やかなセットに反して、出場者にはまったく優しくない視聴者参加型クイズ番組だった。


スタジオには、六基の一人乗りゴンドラが横一列に並んでいる。


出場者が早押し問題へ正解すると、ゴンドラが一段上昇。


二問目に正解すれば二段目。


五問連続正解で中間地点。


九問連続正解で最上段へ王手。


そして十問連続で正解すれば、ゴンドラは頂上へ到達する。


その瞬間、南国風のファンファーレが鳴り響き、頭上の電飾へ、


「夢のサイパン旅行獲得!」


の文字が輝く。


紙吹雪。


花輪。


笑顔の司会者。


ロッド製薬の提供テロップ。


まさに人生の絶頂である。


だが、たった一度でも間違えれば、その絶頂は容赦なく崩れ落ちる。


誤答。


お手付き。


聞き間違い。


勢いだけでボタンを押してしまった場合。


理由は何であれ、


「ブーッ!」


という大きな警告音が鳴り、それまで何段上がっていてもゴンドラは一気に最下段まで降ろされる。


九問正解していても関係ない。


サイパンまであと一問でも関係ない。


一問間違えれば、振り出しである。


しかも二度目の誤答やお手付きで即失格。


ゴンドラの照明が赤く変わり、司会者から明るい声で、


「残念! ここで失格です!」


と告げられる。


落ち込む出場者の顔を、カメラは遠慮なく大写しにする。


人気者でも、美少女でも、スポンサー商品の広告塔でも、二度間違えれば終わり。


知識。


早押しの判断。


問題文を最後まで聞く冷静さ。


一度失敗しても立て直す精神力。


そして、十問連続で正解し続ける集中力。


この番組は、南国旅行を餌に人間の油断と焦りを映し出す、華やかにして無慈悲なクイズ番組だった。



ロッド製薬から届いた大企画


ある日の午後。


新橋にあるヒロ室フロントへ、大阪のテレビ局から分厚い企画書が届けられた。


表紙には大きく、


『ステップアップクイズ 全国戦隊ヒロイン大会』


と書かれている。


芹沢遥室長が企画書を開いた。


「またロッド製薬なのら」


安岡真帆が頷く。


「以前の『ダービークイズ全国戦隊ヒロイン大会』が、かなり好評だったそうです」


前回の大会では、杉山ひかりと館山みのりのグレースフォースチームが大活躍した。


気象予報士のひかりが幅広い知識を披露し、みのりが問題の傾向や他の回答者の性格を冷静に分析。


二人は持ち点を着実に増やし、最後には十万点を突破した。


放送後には、


「戦隊ヒロインは、郷土問題へ妙に強い」


「ひかりとみのりの意思疎通が夫婦並み」


「知識より二人の距離感が気になる」


など、多方面から反響が寄せられた。


ロッド製薬としても、戦隊ヒロイン大会の再開催を強く希望しているという。


企画書には、


北海道・東北


関東


東海・北陸


関西


中国・四国


九州


の全国六ブロックから、一人ずつ代表ヒロインを選んでほしいと記されていた。


ただし、関東代表だけはすでに決まっている。


「スポンサーの希望で、白石陽菜さんです」


真帆が資料を配った。


相模原市の白石陽菜。


明るく清楚な美少女戦隊ヒロインとして人気を集め、現在はロッド製薬の目薬、


「新Vロッド」


のテレビCMへ出演している。


CMの舞台は、陽菜が通う大学。


朝のキャンパス。


友人たちとの昼食。


明るい教室での講義。


図書館で真剣にノートへ向かう姿。


サークル仲間と笑い合う姿。


充実した大学生活を送る陽菜が、活動の合間に少し目を細め、バッグから新Vロッドを取り出す。


爽やかな一滴。


画面いっぱいに広がる、透明感のある青い光。


陽菜は大学の中庭へ飛び出し、抜けるような青空を見上げる。


そしてカメラへ向き直り、抜群の笑顔で言う。


「瞳に、すっきり。明日へ、しっかり」


その笑顔は、目薬の清涼感よりも爽やかだと評判だった。


「したがって、関東代表は陽菜さんで決定済みです」


真帆が説明を終える。


小宮山琴音が資料をめくった。


「スポンサー推薦じゃ、こっちに選択権はないじゃんね」


太田すみれコーチが腕を組む。


「残り五人を、人気だけではなくクイズへの適性も見て決める必要があります」


藤堂隼人補佐官が新しいノートを開いた。


「公平かつ慎重に選考しましょう」


この時、誰も知らなかった。


最も慎重に選ぶべき関西代表が、最後には一枚のあみだくじで決まることを。



北海道・東北代表――彩芽は笑顔だけなら優勝候補


最初は北海道・東北ブロック。


琴音が真っ先に名前を挙げた。


「高城彩芽ちゃんがいいじゃんね。札幌の人気者だし、元気で賑やか。ゴンドラが上がったら喜ぶし、下がっても大騒ぎして番組が盛り上がるだよ」


遥も賛成する。


「彩芽ちゃんは見ているだけで楽しいのら」


真帆は候補者資料を見ながら、静かに尋ねた。


「ゴンドラが上がる前提で話していますか?」


「一問くらい正解するじゃん」


すみれコーチが、模擬クイズの記録を机へ置いた。


「以前、彩芽へこの問題を出しました」


問題は、


『北海道の道庁所在地はどこでしょう?』


回答欄には、彩芽の丸い文字で、


「北海道!」


と書かれていた。


会議室が静まり返る。


遥が首をかしげた。


「北海道の中に、もう一つ北海道があるのら?」


「本人は自信満々でした」


すみれコーチは疲れた声で答えた。


真帆も資料を追加する。


「『ピントでヒント』みたいにゲスト回答者が一度もボタンを押さないで明るく拍手するだけ番組終了となると問題では?」


「ゲストなら、それでもよいのです。しかし今回は地域代表です」


すみれコーチは首を振った。


「一問目でお手付きをして、二問目で失格する可能性があります」


遥が残念そうに呟く。


「最下段から一度も動かないゴンドラになりそうなのら」


彩芽案は却下された。


続いて、仙台の佐々木玲香と盛岡の中野柚希が候補へ挙がる。


どちらも知識と落ち着きを備え、早押しにも向いている。


だが、ここで実力とは関係のない問題が発生した。


「玲香さんを選ぶと、柚希さんが拗ねそうです」


真帆が言う。


琴音も頷く。


「柚希ちゃんを選んだら、玲香ちゃんが“別に気にしてません”って言いながら三日くらい返事が短くなるじゃんね」


隼人が提案する。


「本人たちに相談しては?」


すみれコーチが即答した。


「二人とも相手を推薦して、決まりません」


結局、函館市で観光ガイドを務めた経験を持つ菊池瑠璃が選ばれた。


地理。


歴史。


観光。


鉄道。


食文化。


来訪者へ説明する能力。


問題文を最後まで聞く冷静さもある。


北海道・東北代表は、菊池瑠璃に決定した。



東海・北陸代表――真帆の愛知県人推しが強すぎる


東海・北陸ブロックには、実力者がそろっていた。


静岡市の杉山ひかり。


浜松市の河合美音。


新潟県の本間菜帆。


ひかりは気象予報士。


美音は船舶、大型二輪、交通、海洋知識に強い。


菜帆は日本海側の文化や歴史に詳しい落ち着いた知識型。


遥はひかりを推した。


「前回も活躍したし、優勝を狙えるのら」


すみれコーチも同意する。


「安定感なら、ひかりでしょう」


しかし真帆は、別の資料を中央へ置いた。


「私は、山田真央さんを推薦します」


愛知県春日井市の山田真央。


明るく賑やか。


イベント進行もできる。


体力企画にも強い。


常識問題、地理、郷土問題にも対応できる。


「真央さんは、全国放送でも物おじしません」


真帆の口調には妙な力が入っていた。


「分からない問題へ無理に飛び込むタイプに見えて、実際には問題文から正解を絞り込む力があります」


琴音が真帆を見る。


「ずいぶん推すじゃんね」


「勝ちに行くなら真央さんです」


「愛知県人だから?」


「愛知県人らしく、勝負事に強いです」


「偏見じゃないのら?」


遥が尋ねる。


「実績に基づく評価です」


真帆は一歩も引かなかった。


前回活躍したひかりではなく、新しい実力者を全国へ紹介する意味もある。


東海・北陸代表は山田真央に決まった。



関西代表――議論の果てに、どくろ


問題は関西だった。


候補者が多い。


人気者も多い。


そして選考委員が、全員違うヒロインを推した。


遥は赤嶺美月。


「戦隊ヒロインプロジェクトの象徴は美月ちゃんなのら。ゴンドラに乗っているだけで番組が明るくなるのら」


真帆は西川彩香。


「勝つために選ぶなら彩香さんです。集中力、判断力、勝負強さがあります」


琴音は西園寺綾乃。


「知識と華やかさなら綾乃ちゃんじゃんね。ゴンドラへ乗っても絵になるだよ」


隼人は白浜麻衣。


「成長著しい麻衣さんに、全国放送を経験させるべきです」


すみれコーチは、四人の資料を前に頭を抱えた。


「先に選考基準を決めませんか?」


遥は美月の宣材写真を中央へ押し出す。


「人気なのら」


真帆は彩香の過去の成績表を重ねる。


「実力です」


琴音は綾乃の写真をその上へ置く。


「品格じゃんね」


隼人は麻衣の成長記録をさらに重ねた。


「将来性です」


机の中央で、四人の資料が山になった。


「美月ちゃんは多少間違えても、番組を盛り上げるのら」


「二度間違えれば失格です」


「失格しても盛り上がるのら」


「代表を失格前提で選ばないでください」


「綾乃ちゃんは間違えても、はんなり落ちそうじゃんね」


「ゴンドラの落下に、はんなりも何もありません」


「麻衣さんなら子どもたちが応援します」


「全国大会は育成枠ではありません」


議論は一時間を超えた。


遥は美月。


真帆は彩香。


琴音は綾乃。


隼人は麻衣。


誰も譲らない。


すみれコーチは、途中から候補者資料ではなく時計ばかり見ていた。


やがて隼人が、紙と定規を取り出した。


「こうなったら、あみだくじで決めましょう」


会議室が静まり返った。


「全国大会の代表を、あみだくじで決めるのですか?」


すみれコーチの声が低くなる。


「全員の意見を平等に扱える、公平な方法です」


隼人は四本の縦線を引き、上へ、


美月


彩香


綾乃


麻衣


と書いた。


そして横線を無数に加える。


最後に一番下へ、当選を示す印を描いた。


大きなどくろマークだった。


遥が目を丸くする。


「どうして当選がどくろなのら?」


隼人も自分の描いた紙を見て固まった。


「間違えて、外れ用のどくろを描いてしまいました」


「当たりなのら? 外れなのら?」


「どくろへ着いた人を当選としましょう」


「縁起が悪すぎるじゃんね」


琴音が呆れた。


それでも、あみだくじは実行された。


指で線をたどる。


右へ。


左へ。


さらに右へ。


四人が見守る中、どくろへ到達した名前は――


西川彩香


真帆が小さく拳を握った。


遥は美月の線を見て肩を落とした。


琴音は呟く。


「播州の烈火が、どくろに呼ばれたじゃんね」


隼人は縁起の悪さをごまかそうと、どくろの周りへ花丸と星を描き加えた。


華やかになった。


縁起の悪さは、まったく消えなかった。


関西代表は西川彩香に決まった。



中国・四国代表――真帆も出たかったらしい


中国・四国ブロックは、広島市の江波のどかと、徳島県鳴門市出身の三好さつきで意見が分かれた。


さつきは情報番組のレポーター。


アナウンサー志望で発声もよく、早押しにも向いている。


しかし現在は、県域放送の神戸放送でレギュラーを持ち、関西の有名私立大学へ通っている。


真帆は指摘した。


「鳴門出身ですが、現在の活動だけを見ると四国代表らしさが薄いです」


現在も広島市で暮らし、瀬戸内の地理、路面電車、食文化、地域事情に詳しいのどかの方が、地域代表としてふさわしい。


中国・四国代表は、江波のどかに決定した。


その間、真帆はなぜか山口県宇部市の観光資料を何度も机の中央へ押し出していた。


琴音が指摘する。


「真帆ちゃん、自分も出たかったじゃんね?」


「私は選考委員です。個人的な希望は関係ありません」


「宇部市の資料だけ、候補者資料より厚いだよ」


「参考資料です」


真帆は最後まで認めなかった。


しかし資料の表紙には、自分で書いたらしい、


『宇部市出身・安岡真帆を推薦する理由』


という付箋が貼られていた。



九州代表――双子を選べないので、ひなた


九州ブロックでは、迫田ツインズを推す声が強かった。


澄香と澪香。


大人びた雰囲気を持つ、美人双子ヒロインである。


しかし代表枠は一人。


琴音は早押しの速い澄香を推す。


隼人は慎重な澪香を推す。


すみれコーチは、


「知識量はほぼ互角です」


と結論づけた。


どちらか一人だけを選ぶと、もう一人が複雑な気持ちになる。


二人一組での出場は認められない。


再び会議が止まりかけたところで、真帆が提案した。


「それなら、有村ひなたさんにしましょう」


鹿児島県鹿屋市出身。


ヒロ九副支配人として現場経験が豊富。


地域知識もあり、無理に早押しへ飛び込まない冷静さも持つ。


双子のどちらかを無理に選ぶ必要もない。


九州代表は有村ひなたに決まった。



六人が決定。しかし陽菜はボタンを押せるのか


最終的な出場者は、六人。


北海道・東北代表、菊池瑠璃。


関東代表、白石陽菜。


東海・北陸代表、山田真央。


関西代表、西川彩香。


中国・四国代表、江波のどか。


九州代表、有村ひなた。


優勝予想では、彩香と真央が本命。


そこへのどかが絡み、ひなたが堅実に追う展開が予想された。


遥が陽菜の宣材写真を見る。


「陽菜ちゃんはどうなのら?」


会議室が少し静かになった。


陽菜は人気、美貌、スポンサーとの関係では文句なし。


しかし本格的な早押しクイズの経験はない。


真帆が懸念を口にする。


「正解できるか以前に、彩香さんや真央さんより先にボタンを押せるかが未知数です」


「陽菜ちゃんが映らないと、スポンサーが困るのら」


「だからといって、簡単な問題を陽菜さんへ優先的に出すことはできません」


すみれコーチも頷く。


「競技の公平性は守るべきです」


結局、クイズでは特別扱いをしない代わりに、オープニング、ゴンドラ搭乗、途中インタビュー、CM前後で陽菜の映像を多めに使ってもらうことになった。


スポンサーの顔。


だが勝負は平等。


果たして陽菜は、一度でも解答権を取ることができるのか。



美月、怒鳴り込みます


代表発表から数日後。


静かだったヒロ室フロントへ、廊下の向こうから激しい足音が近づいてきた。


ドドドドドドドドッ!


遥が顔を上げる。


「何の音なのら?」


琴音は書類から目を離さない。


「たぶん美月ちゃんじゃんね」


次の瞬間、扉が勢いよく開いた。


「ちょっと待たんかーい!」


赤嶺美月が飛び込んできた。


トレードマークのツインテールが、怒りで左右へ大きく揺れている。


右手には出演者一覧。


左手には、なぜか旅行雑誌のサイパン特集。


首には浮き輪まで下げていた。


小春から借りたらしい南国柄の帽子もかぶっている。


遥が目を丸くした。


「美月ちゃん、その格好は何なのら?」


「サイパンへ行く準備や!」


「代表に選ばれていないのら」


「せやから怒鳴り込みに来たんやろ!」


美月は出演者一覧を机へたたきつけた。


「何で関西代表が、うちやなくて、あの怖いオバハンやねん!」


フロントの職員たちは、誰一人として、


「誰のことですか」


とは聞かなかった。


美月が西川彩香を「怖いオバハン」と呼んでいることは、ヒロ室内で広く知られていたからである。


遥がなだめる。


「美月ちゃんも、最後まで候補だったのら」


「最後まで候補やったのに、何で名前ないねん!」


「正式な選考の結果じゃんね」


琴音が答える。


美月は自分を指さした。


「人気!」


次に胸を張る。


「華!」


さらにツインテールを持ち上げる。


「若さ!」


机をたたく。


「関西らしい笑い!」


最後に旅行雑誌を掲げる。


「サイパンへ行きたいという強い気持ち!」


真帆が冷静に言う。


「最後の項目は選考基準にありません」


「追加せえ!」


「できません」


「うちならゴンドラを最上段まで上げて、サイパンで河内音頭踊ったるで!」


すみれコーチが尋ねる。


「その前に十問正解できますか?」


美月の動きが止まった。


「……勢いで何とかなるやろ」


「二度のお手付きで失格です」


「一回目に落ちても、二回目で十問いけばええ!」


「一度間違えた後、二度目に十問連続正解する必要があります」


「細かいルールで夢を潰さんといて!」


隼人は、余計なことを言わないよう、口元を押さえていた。


しかし美月が顔を近づける。


「隼人補佐官。関西代表は、どうやって決めたん?」


「厳正な選考で――」


「目ぇ泳いどるで」


「人気、実力、将来性を総合的に――」


「額に汗かいとるで」


「最終的には……」


遥、琴音、真帆、すみれコーチが同時に隼人を見た。


隼人は観念した。


「……あみだくじです」


一秒。


二秒。


三秒。


フロントが完全に静まり返った。


美月は笑顔になった。


あまりにも不自然な笑顔だった。


「へえ」


隼人が後ずさる。


「美月さん?」


「全国ネットの代表を?」


「はい」


「あみだくじで?」


「議論がまとまらなかったため、公平な方法として――」


美月は大きく息を吸った。


「何でやねーーーーん!」


窓ガラスが震えた。


机の書類が舞い上がった。


隼人のネクタイが風圧で肩へ乗った。


「うち、知識でも人気でも負けたんやなくて、線の曲がり方で負けたんか!」


「公平な偶然性を――」


「偶然で全国代表決めんな!」


遥が、また余計なことを言った。


「しかも彩香ちゃんが当たった場所は、どくろマークだったのら」


美月がぴたりと止まる。


「……どくろ?」


隼人は机の引き出しから、問題のあみだくじを取り出した。


美月が紙を奪う。


四本の線。


候補者の名前。


そして最下部。


花丸と星で囲まれた、大きなどくろ。


美月の手が震える。


「うち……どくろに負けたん?」


「正確には、彩香さんの線がどくろへ到達しました」


「どくろ以下ってことやん!」


「そういう意味ではありません」


「このあみだ、やり直しや!」


美月は机から赤いペンを奪い、勝手に横線を書き始めた。


「美月ちゃん、選考は終わっとるじゃんね」


「まだや! 線を一本足せば運命は変わる!」


右へ一本。


左へ二本。


斜めの線まで引こうとする。


すみれコーチが止めた。


「斜めは、あみだくじではありません」


「新ルールや!」


「認めません」


美月が線を増やしすぎた結果、どの候補者からたどっても途中で迷子になった。


隼人が紙を見る。


「これでは誰もゴールできません」


「ほんなら全員出場でええやん!」


「一ブロック一人です」


「テレビ局にゴンドラ増やさせえ!」


その時。


フロントの入口から、聞き慣れた低い声がした。


「誰が怖いオバハンやて?」


美月の背筋が伸びた。


入口には、西川彩香が立っていた。


片手にはテレビ局から届いた正式な出演依頼書。


もう片方には、収録用の資料。


彩香は出演が決まり、明らかに機嫌が良かった。


ただし、その機嫌の良さは、机の上のあみだくじを見た瞬間に消えた。


美月は、何事もなかったように浮き輪を外す。


「彩香さん、こんにちは」


「今、怖いオバハン言うたやろ」


「空耳ちゃう?」


「フロント全員が聞いとるわ」


美月は周囲を見る。


遥は天井を見た。


琴音は書類を読んだ。


真帆は宇部市の資料を整理し始めた。


すみれコーチは急にストレッチを始めた。


隼人は観葉植物の後ろへ移動した。


誰も助けなかった。


彩香は美月へ近づく。


「アホツインテール。人のこと怖いオバハン言う前に、自分のクイズの実力考えたんか?」


美月は頬を膨らませる。


「うちの方が番組映えするもん!」


「ゴンドラが一段も上がらんまま終わったら、映るんは失格した顔だけや」


「彩香かて間違えるかもしれへんやろ!」


「少なくとも北海道の道庁所在地を“北海道”とは答えへん」


「それ彩芽ちゃんや!」


「同じ賑やか枠やろ」


「一緒にせんといて!」


彩香は、美月を横へ押しのけ、机の上のあみだくじを手に取った。


そして、自分の名前から線をたどる。


指は最後に、花丸と星で飾られたどくろへ到達した。


彩香の眉が動く。


「……何や、これ」


隼人が観葉植物の後ろから答えた。


「彩香さんの当選印です」


「当選印が何でどくろやねん!」


「間違えて外れ用の印を描いてしまいまして」


「うちは出演できるんやろな?」


「はい。正式に関西代表です」


彩香は出演依頼書を胸へ抱え、少しうれしそうに言う。


「それはええねん」


そして、どくろを指さす。


「でも、何でうちの名前の下だけ死亡通知みたいになっとんねん!」


隼人が慌てる。


「花丸と星も加えました」


「縁起の悪さが派手になっただけや!」


美月が横から口を挟む。


「怖いオバハンには、どくろがお似合いやん」


彩香がゆっくり振り向く。


「何やて、アホツインテール」


「うちはどくろに負けただけや! クイズで負けたわけちゃう!」


「代表になれへんかった時点で負けや」


「選考方法が雑や!」


「選ばれたもん勝ちや!」


「どくろ代表!」


「落選ツインテール!」


「怖いオバハン!」


「アホツインテール!」


二人は机を挟んで、にらみ合った。


遥が慌てる。


「二人とも、フロントでけんかしないのら!」


琴音があみだくじを取り上げようとする。


美月が紙の右端をつかむ。


彩香が左端をつかむ。


「離し!」


「うちが再抽選する!」


「これはうちの当選記録や!」


「どくろの記録やろ!」


「それでも当選は当選や!」


二人が左右から引っ張る。


ビリッ!


あみだくじは真ん中から二つに裂けた。


全員が固まった。


美月の手には、候補者名の半分。


彩香の手には、花丸と星で飾られたどくろ。


彩香は、自分の手に残ったどくろを見つめた。


「何で最後に、うちへどくろだけ残るねん!」


美月は笑いをこらえきれない。


「やっぱりどくろに選ばれとるやん!」


「アホツインテール、待て!」


美月は浮き輪を抱え、フロントから逃げ出した。


「サイパンはうちが代わりに行ったるー!」


「お前は代表ちゃうやろ!」


彩香が追いかける。


廊下を走る美月。


その後を追う彩香。


さらに、壊された書類を回収しようと隼人が追う。


遥が、


「廊下は走ったら危ないのら!」


と追いかける。


琴音も、


「出演依頼書まで持っていかれたじゃんね!」


と続く。


真帆は少し考え、自分の宇部市資料を抱えて後を追った。


すみれコーチだけが会議室へ残り、深いため息をついた。


「全国大会本番より、代表選考の方が疲れますね」


廊下の向こうから、美月の声が響く。


「再抽選やー!」


彩香の怒鳴り声が続く。


「先に怖いオバハン発言を謝れ!」


「アホツインテール言うた方も謝れ!」


「それは周知の事実や!」


「何でやねん!」


こうして、全国六ブロックの代表は決まった。


北海道・東北の菊池瑠璃。


関東の白石陽菜。


東海・北陸の山田真央。


関西の西川彩香。


中国・四国の江波のどか。


九州の有村ひなた。


勝負強い彩香。


早押しに強い真央。


冷静なのどか。


堅実なひなた。


博識な瑠璃。


そして実力未知数ながら、スポンサーと視聴者の期待を背負う陽菜。


無慈悲なゴンドラを最上段まで上げ、夢のサイパン旅行を獲得するのは誰なのか。


全国戦隊ヒロイン大会は、収録前からすでに大騒ぎだった。


ただ一つ確かなことは――


西川彩香は出演できること自体には、かなり喜んでいた。


しかし、


「関西代表・西川彩香。選出理由、どくろ」


と番組スタッフの資料へ書かれることだけは、絶対に許さなかった。

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