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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1124/1170

晴れ、ときどき戦隊ヒロイン! ――合格予報は二度目で晴れ! 杉山ひかり、お天気お姉さん爆誕

新橋のヒロ室フロントには、所属する戦隊ヒロインたちの資格や特技をまとめた一覧表がある。


それは履歴書というより、もはや人材図鑑だった。


宅地建物取引士、高島里奈。


船舶免許と大型自動二輪免許、河合美音。


大型自動車免許、伊吹真白。


証券アナリスト、福永理沙。


法務、内田あかね。


クイズ女王、一条知佳。


イベント司会、西里澄香、菊池瑠璃ほか多数。


トリリンガル、西園寺綾乃、柏木理世、エミリー。


情報番組レポーター兼キャスター候補、三好さつき。


透視能力、山口唯奈、神門結衣。


河内音頭、赤嶺美月。


芹沢遥室長は一覧表の最後まで読み、感心したように頷いた。


「ヒロ室、本当に何でもできる人がいるのら」


隣では、遥の右腕としてフロント業務を支える小宮山琴音が、表計算ソフトの分類欄を修正していた。


遥は静岡県富士市出身。


琴音は山梨県甲府市出身。


富士山を挟んだ両県の出身であり、仕事でも息が合うことから、二人はヒロ室内で時折、


「静甲コンビ」


と呼ばれている。


琴音は画面を見たまま答えた。


「不動産、船舶、大型車両、証券、法律、外国語。だいたいの現場には対応できるじゃんね」


遥が一覧表を指さす。


「透視能力と河内音頭もあるのら」


「透視は情報収集、河内音頭は地域交流に入れときゃいいじゃん」


「琴音ちゃん、整理が少し強引なのら」


「分類不能にしとくよりは、いいら?」


その時、屋外イベント担当者から一本の電話が入った。


週末に予定している大型ヒロインイベントの天候が、どうにも読めないという。


午前中は晴れ。


午後は雨。


予報によっては昼前から雨。


別の予報では夕方まで持つ。


降水確率だけを見ても、イベントの準備は決められない。


雨天用テントを何張追加するのか。


物販品を何個運び込むのか。


来場者が減ることを想定するのか。


人気演目を前倒しするのか。


雷が鳴った場合、どの時点でステージを中断するのか。


担当者の説明を聞いた遥は、窓の外を見た。


新橋の空は青い。


それでも、数時間後の空まで同じとは限らない。


「最近は急な豪雨も多いのら。もう少し詳しく天候が分かれば、現場の準備もしやすいのに」


琴音も頷く。


「戦闘任務だって同じじゃんね。風向き、湿度、視界、路面状態まで分かりゃ、装備も配置も変えられるし」


「船長も法務担当も河内音頭担当もいるのに、雨雲担当だけいないのら」


「河内音頭担当は正式な役職じゃないけどね」


静甲コンビは顔を見合わせた。


ヒロ室にも、気象分野の専門家が必要なのかもしれない。



その数日後。


遥はいつもより早く新橋のヒロ室へ入った。


フロアはまだ静かだった。


照明も半分しか点いていない。


その片隅で、一人のヒロインが分厚い参考書を開いていた。


杉山ひかり。


静岡市出身。


地元静岡の国立大学に通う才女であり、真面目で優しく、清潔感のある王道型の戦隊ヒロイン。


落ち着いた言葉遣いと、誰に対しても態度を変えない誠実さから、


「駿河の良心」


と呼ばれている。


将来の夢は、キー局の女子アナウンサー。


それも、ただ華やかな世界への憧れだけではない。


大学の勉強。


戦隊ヒロイン活動。


アナウンススクール。


発声練習。


ニュース原稿の読み方。


アクセントの確認。


ひかりは本気で夢を追い、努力を積み重ねていた。


机の上には、気象学の参考書、過去問題集、自作の天気図、雲の種類をまとめたカードが並んでいる。


遥は、ひかりの肩越しに教材をのぞいた。


「ひかりちゃん、気象予報士を目指しているのら?」


ひかりの肩が跳ねた。


「は、はい! おはようございます、遥室長」


「驚かせてごめんなのら。いつから勉強していたのら?」


「少し前からです」


ひかりは参考書を閉じ、姿勢を正した。


「将来、女子アナウンサーになった時、情報番組のお天気コーナーを任されてもいいように勉強しています」


「お天気お姉さんなのら?」


「はい。原稿を読むだけでなく、自分で情報を理解して、視聴者の方に分かりやすく伝えられるアナウンサーになりたいんです」


遥の目が輝いた。


「それは頼もしいのら!」


ひかりが少し驚くほど、大きな反応だった。


「ヒロ室でも絶対に役立つのら。屋外イベントも多いし、任務でも天候はすごく大事なのら!」


そこへ琴音も出勤してきた。


机に積まれた教材を一目見て、事情を理解する。


「なるほどね。ひかりちゃんが資格取れば、イベント運営も任務計画も安全管理も、もっとようなるじゃんね」


「ヒロ室初の気象予報士なのら!」


遥はひかりの両手を握った。


「ぜひ頑張って合格してほしいのら!」


「はい。頑張ります!」


真面目なひかりは、期待されればされるほど努力する。


その日から、ただでさえ多かった勉強時間が、さらに増えた。



静岡から新橋へ向かう新幹線。


車窓に富士山が見えても、ひかりは参考書。


新横浜を通過しても、過去問題集。


パンを食べながら、気圧配置。


飲み物を一口飲んでは、雲の発生条件。


降車案内が流れてから、ようやく教材を鞄へ入れる。


イベント会場の控室。


リハーサルの待ち時間。


出演と出演の間。


弁当が届くまでの五分間。


ひかりは、わずかな隙間も勉強へ使っていた。


遥は感心したように言った。


「ひかりちゃん、すごく頑張っているのら」


琴音は、少し険しい表情でひかりを見た。


「休み時間まで勉強に使っとるじゃんね。ちっと発破かけすぎちまったかもしれん」


「やる気を出してほしかっただけなのら」


「遥室長に期待された以上、ひかりちゃんは限界まで頑張る人ずら。真面目な子に“頑張れ”って言う時は、加減しなきゃ駄目じゃん」


「琴音ちゃん、私より室長らしいのら」


「右腕だからね」


静甲コンビは、今度はひかりをどう休ませるかで頭を悩ませることになった。


しかし、その問題はほどなく別の人物が解決した。



イベント会場の控室。


ひかりが参考書を開いていると、館山みのりが無言で紙袋を置いた。


「休憩」


袋の中には、雲の形をしたマシュマロ。


太陽を描いたクッキー。


青空をイメージしたゼリー。


ひかりは袋の中を見て笑った。


「みのりちゃんが選んだの?」


「糖分が必要だと思っただけ」


「全部、天気に関係してるよ」


「偶然」


「太陽のクッキーも?」


「売っていたから」


「雲のマシュマロも?」


「隣にあったから」


「青空ゼリーは?」


みのりは少し顔をそらした。


「食べないなら返して」


「食べます」


ひかりとみのりは、顔立ちや雰囲気がどことなく似ていた。


知的で清潔感があり、真面目で優しい王道型。


二人は派生ユニット、


「グレースフォース」


を組んでいる。


任務でもイベントでも息はぴったり。


相手が何を必要としているのか、言葉を交わす前に分かる。


ヒロ室内では、


「あの二人は、実は付き合っているのではないか」


という見方が半ば定着していた。


だが本人たちは否定も肯定もしない。


「大切な相棒です」


「グレースフォースですから」


いつも、その二つの答えで逃げ切っていた。


みのりは、ひかりの問題集を手に取った。


「問題を出す」


「お願いします」


「上空に寒気が入り、大気の状態が不安定。午後から注意する現象は?」


「急な強い雨、落雷、突風」


「正解」


太陽のクッキーが一枚、ひかりへ渡される。


ひかりは笑った。


「小学生の勉強みたいになってない?」


「集中力が落ちているから、報酬方式へ変えた」


「私の扱いが彩芽ちゃんに近づいてない?」


「彩芽なら、問題を聞く前に袋ごと食べる」


「それは否定できないね」


二人が並んで問題集を見る姿を、赤嶺美月と月島小春が、控室の入口から眺めていた。


美月が声を潜める。


「どう見ても恋人同士やん」


小春も腕を組む。


「グレースフォースっていうより、グレースカップルじゃん」


二人は、ひかりの集中を乱さない程度の声で近づいた。


美月が太陽のクッキーを見る。


「みのりちゃん、愛妻弁当ならぬ愛人おやつか?」


「違います」


みのりの返答は速かった。


小春が笑う。


「否定が速すぎて、逆に怪しいんだけど」


ひかりは頬を赤くしながら答える。


「みのりちゃんは、勉強を手伝ってくれているだけです」


「でもクッキーまで晴れマークやで?」


「偶然です」


小春は雲のマシュマロを眺めた。


「この偶然、天気予報より精度高くない?」


美月も続く。


「合格したら、みのりちゃんが一番泣きそうやな」


「泣きません」


「抱きつく?」


「抱きつきません」


「ほんなら、頬ずり?」


「しません」


美月と小春は楽しそうに笑っている。


ひかりも困りながら、少し笑っていた。


邪魔をする意図はない。


軽く冷やかし、緊張を和らげようとしているだけだった。


しかし、みのりにとって今は、ひかりの勉強時間である。


みのりは二人の肩を押し、控室の出口へ向かわせた。


「ひかりの勉強の邪魔をしないで」


「邪魔してへんって。応援や!」


「軽い雑談じゃん!」


「雑談は休憩時間にしてください」


「みのりちゃん、恋人の勉強時間に厳しいなあ!」


「グレースフォースの活動にも関係するからです」


「愛を組織論で包んだじゃん」


「退室してください」


扉が閉じられる。


美月と小春は廊下から声をかけた。


「ひかりちゃん、合格したら祝うで!」


「みのりより先に抱きつくから!」


扉の内側から、みのりが答えた。


「先にはさせません」


控室が静かになる。


数秒後。


ひかりがみのりを見た。


「今、先にはさせないって言った?」


「問題の続きをする」


「みのりちゃん?」


「次の問題」


みのりは最後まで答えなかった。


愛のパワーは、すでに湿った空気のように控室全体へ満ちていた。



最初の気象予報士試験。


ひかりは、合格への手応えを感じていた。


毎日勉強した。


新幹線でも、イベント会場でも、大学でも、アナウンススクールの後でも問題を解いた。


しかし、合格発表の画面に、ひかりの番号はなかった。


わずかに届かなかった。


ヒロ室へ来たひかりは、遥と琴音の前では笑顔を見せた。


「もう一度、勉強し直します」


遥は、ひかりの肩へ手を置いた。


「ここまで勉強したことは、絶対に無駄にならないのら」


琴音も、優しい声で続ける。


「足りんかったとこが、はっきりしたって思やぁいいじゃん。次の手を考えりゃいいずら」


「ありがとうございます」


ひかりは笑った。


だが、その日の夕方。


誰もいない控室で、一人、結果通知を見つめていた。


遥室長の期待に応えられなかった。


ヒロ室の仕事へ役立つと言ってもらったのに、資格を取れなかった。


本気で女子アナを目指しているのに、専門性を得られなかった。


真面目なひかりは、不合格を必要以上に重く受け止めていた。


そこへ、みのりが入ってきた。


「まだ帰らないの?」


「もう少し問題を見直そうと思って」


みのりは参考書を閉じた。


「今日はやめる」


「でも次の試験へ向けて――」


「今日まで頑張った人が、今日からすぐ次を始めなくていい」


みのりはひかりの隣へ座った。


小さな袋から、雲の形をした菓子を取り出す。


「曇りの日もある」


ひかりは苦笑した。


「気象予報士を目指している人に、ずいぶん直接的な励まし方だね」


「曇ったまま終わるとは言ってない」


みのりは、雲の菓子をひかりの手へ置いた。


「次に晴れるまで、私もいるから」


ひかりの目に、うっすらと涙が浮かぶ。


「それ、告白みたいに聞こえるよ」


「違う」


返事が速すぎた。


扉の向こうから、小さな声が聞こえる。


「完全に告白やん」


「これで違うなら、何を言えば告白になるの?」


みのりが扉を見た。


「聞こえています」


足音が遠ざかる。


美月と小春は、今度も静かに逃げていった。



二度目の試験へ向けて勉強を再開した頃。


駿河湾沿いで、大規模な屋外ヒロインイベントが開催された。


朝は快晴。


来場者は予想を上回り、物販コーナーには長い列。


ステージ前には家族連れや子どもたちが集まっている。


運営担当者は、好調な来場者数と売上に喜んでいた。


しかし、ひかりは海側の空を何度も見ていた。


湿った風。


急速に発達する雲。


上がり続ける気温。


遠くから聞こえる、かすかな雷鳴。


公式予報では雨は夕方から。


だが、ひかりは雨の開始が早まる可能性が高いと判断した。


「一時間以内に、急な強い雨が来るかもしれません」


運営担当者は迷った。


今の空は明るい。


イベントを変更すれば、来場者から不満が出るかもしれない。


物販の売上も伸びている。


ひかりは単に、


「雨が降ります」


とは言わなかった。


「人気演目を三十分前倒ししてください。物販品は一度に撤収せず、防水設備のある場所へ順番に移します」


さらに、来場者を不安にさせない範囲で対応案を伝える。


高齢者と子ども連れを、屋内休憩所に近い場所へ案内。


テントの固定を追加。


機材へ防水カバー。


雷が近づいた場合の避難アナウンスを準備。


雨が降らなかった場合でも、大きな損失にならない対策だった。


遥が決断する。


「ひかりちゃんの予測で動くのら!」


人気演目が前倒しで終了。


物販品の移動もほぼ完了。


家族連れの多くが屋内側へ移った直後だった。


空が一気に暗くなる。


激しい雨。


強い風。


大きな雷鳴。


それでもステージ上に出演者はいない。


商品も濡れていない。


準備されたアナウンスにより、来場者も落ち着いて避難する。


事故は一件もなかった。


雨が弱まり、安全確認後にイベントは再開された。


琴音はひかりへ近づいた。


「雨の時間をぴったし当てたことだけを評価しとるわけじゃねえさ」


ひかりは琴音を見る。


「雨が降らんかったとしても、損にならん準備を選んだじゃんね。現場の判断として、たいしたもんだよ」


遥も満面の笑顔で頷く。


「天気を当てるだけじゃなくて、皆が困らないようにしたのら!」


ひかりは初めて実感した。


気象の勉強は、自分が女子アナになるためだけのものではない。


仲間を守る。


イベントへ来てくれた人を守る。


屋外で任務を行うヒロインを守る。


自分の知識は、今この場所でも役立つのだ。


曇っていたひかりの心へ、再び光が差し込んだ。



二度目の試験へ向け、ひかりは勉強方法を変えた。


暗記だけではない。


イベント会場で豪雨が予想されたら、どう動くか。


高温多湿なら、休憩をどれだけ増やすか。


強風なら、屋外機材やドローンにどんな影響が出るか。


海上任務なら、波と風をどう判断するか。


実際のヒロ室業務と結びつけて理解する。


新幹線でも勉強。


大学の休み時間にも勉強。


アナウンススクールからの帰りには、音声教材を聞く。


みのりは相変わらず、誰よりも近くで支えた。


甘い物だけでなく、果物、温かい飲み物、栄養を考えた軽食。


ひかりが風邪をひかないよう、室温や服装にまで気を配る。


ある日、みのりがひかりの前へ温かいスープを置いた。


「今日は冷えるから」


ひかりが微笑む。


「今回も偶然?」


「体調を崩して、受験できなかったら困るから」


「誰が困るの?」


みのりは少し黙った。


「……皆」


そこへ、美月と小春が顔を出した。


美月が笑う。


「今、“私が困る”って言いかけたやろ?」


小春も続く。


「愛のパワー、成層圏まで突き抜けてるじゃん」


「ひかりの合格は、グレースフォースの活動にも有益です」


「理屈で包んでも、中身は愛やで」


「もう天気予報より恋愛警報を出した方がいいよ」


ひかりは苦笑しながら問題集を開く。


「二人とも、少し静かにしてください」


美月がノートをのぞく。


「合格確率、何パーセント?」


小春が答える。


「みのりの愛を加えれば百パーセントじゃん」


二人は軽く笑い、ひかりへ向かって拳を握った。


「でも、ほんまに応援してるで」


「今度は絶対に大丈夫。ひかりならできるって」


二人は冷やかしているだけではない。


一度目の不合格を知っているからこそ、ひかりが緊張しすぎないよう明るく接していた。


みのりもそれは分かっている。


だが、ひかりが再び問題へ集中し始めると、二人を出口へ押した。


「応援は受け取りました。ひかりの勉強の邪魔をしないで」


「やっぱり追い出すんや!」


「恋人の権限が強すぎるじゃん!」


「静かに退室してください」


「合格したら一緒に祝おうな!」


「今度はみのりより先に泣くから!」


「先にはさせません」


扉が閉じる。


ひかりが顔を上げた。


「また、先にはさせないって言ったね」


「次の問題」


みのりは、やはり答えなかった。



二度目の試験当日。


ひかりの鞄には、みのりから渡された小さなお守りが入っていた。


表には晴れマーク。


裏には、


「いつもどおり」


ひかりは深呼吸し、試験会場へ入った。


全てを完璧に解こうとはしない。


難しい問題で立ち止まりすぎない。


勉強してきたこと。


イベントで判断したこと。


遥と琴音から期待されたこと。


美月と小春に笑わされたこと。


そして、みのりがずっと隣にいてくれたこと。


一つずつ思い出しながら、最後まで問題と向き合った。



合格発表の日。


新橋のヒロ室には、朝から妙な緊張感が漂っていた。


ひかり。


遥。


琴音。


みのり。


そして、当然のように美月と小春もいる。


ひかりが尋ねる。


「どうして二人までいるんですか?」


美月が胸を張る。


「歴史的瞬間の立会人や」


小春も笑う。


「みのりがひかりへ抱きつく瞬間を見逃せないじゃん」


「抱きつきません」


「自分の結果発表より緊張してない?」


「していません」


みのりはそう答えたが、ひかりの椅子の背を両手で強く握っていた。


ひかりが受験番号を入力する。


画面が切り替わる。


番号の一覧。


上から、ゆっくり探す。


ひかりの指が止まった。


自分の受験番号。


確かに表示されている。


数秒間、誰も声を出せなかった。


最初に反応したのは遥だった。


「合格してるのら!」


遥は勢いよくひかりへ抱きついた。


「おめでとうなのら! 本当におめでとうなのら!」


琴音も、普段の冷静な表情を崩した。


「やったじゃん! 二度目で見事に合格したじゃんね! ひかりちゃん、本当におめでとう!」


美月は両手を上げる。


「やったやん、ひかりちゃん!」


小春も飛び跳ねる。


「お天気お姉さん誕生じゃん! すごい、本当にすごい!」


ひかりは画面を見つめたまま、目に涙を浮かべていた。


「本当に……合格したんですね」


そして館山みのりは、誰よりも大きく喜んでいた。


普段は落ち着いているみのりが、ひかりの両手を握り、何度も受験番号とひかりの顔を見比べる。


「合格した」


「うん」


「本当に合格してる」


「うん。みのりちゃん」


「よかった……」


みのりの目にも涙が浮かぶ。


まるで、自分自身が合格したかのようだった。


ひかりは、そんなみのりを見て笑った。


「みのりちゃんのおかげだよ」


「勉強したのは、ひかり」


「おやつも、問題出しも、お守りも、ずっと支えてくれたよ」


「それくらい……普通」


みのりの声は少し震えている。


美月がとうとう我慢できずに言った。


「みのりちゃん、自分が合格したみたいに喜んどるやん!」


小春も笑う。


「ひかりより泣きそうじゃん!」


「泣いていません」


「目ぇ潤んでるで」


「照明です」


「便利な照明だね!」


美月と小春は、ひかりの肩を左右から抱いた。


「ほんまにおめでとう!」


「一回駄目でも諦めなかったの、格好いいよ!」


ひかりは涙を拭いながら笑った。


「二人とも、ありがとうございます」


みのりは一瞬、左右からひかりへ抱きつく二人を見た。


そして、ひかりの正面へ回る。


小さな包みを渡した。


中には、太陽の形をしたクッキー。


「合格祝い」


「やっぱり偶然じゃなかったんだね」


「今日は偶然ではない」


美月と小春が同時に叫ぶ。


「認めた!」


「愛を認めたじゃん!」


「クッキーの話です」


「みのりちゃんも抱きついたらええやん!」


「ここで抱きつかない方が不自然なんだけど!」


みのりは二人を無視した。


だが、ひかりが涙を流しながら、


「本当にありがとう、みのりちゃん」


と言うと、みのりはほんの一瞬だけ迷った。


それから、ひかりを優しく抱きしめた。


美月と小春が息をのむ。


遥も目を丸くする。


琴音は静かに頷いた。


「まあ、こうなると思っとったじゃんね」


抱擁は数秒で終わった。


みのりは何事もなかったように離れる。


「合格祝いだから」


美月が叫ぶ。


「合格祝いなら何でも許されるんか!」


小春も続く。


「今の映像、永久保存したいんだけど!」


ひかりとみのりの関係について、明確な答えは出なかった。


ただし、その日のヒロ室では、


「ほぼ答えは出た」


という認識が共有された。



遥はホワイトボードへ大きく書いた。


ヒロ室初・気象予報士 杉山ひかり


「これで、ヒロ室のお天気お姉さん誕生なのら!」


琴音も満足そうに頷く。


「屋外イベントも任務も、安全性がぐっと上がるじゃんね」


遥は琴音の手を取った。


「静岡と山梨の静甲コンビとしても、すごくうれしいのら!」


ひかりが首をかしげる。


「私も静岡県出身ですよね?」


遥と琴音の動きが止まった。


「静岡県富士市出身の遥室長。山梨県甲府市出身の琴音さん。静岡市出身の私。これで三人組になりませんか?」


遥は困った顔になる。


「コンビでなくなるのら」


琴音は真剣に考えた。


「静静甲トリオは、ちっと語呂が悪いじゃんね」


「静甲コンビ・気象部門追加なのら?」


「それだと、ひかりちゃんが増設設備みたいじゃん」


美月が手を挙げる。


「富士山お天気三姉妹でええやん!」


小春は首を振る。


「琴音さんだけ山梨だから、静岡二人対山梨一人にならない?」


琴音の目が少し鋭くなる。


「富士山は山梨側から見ても、なかなか立派じゃんね」


遥も引かない。


「静岡側からは海と一緒に見えるのら」


「山梨側には湖があるじゃん」


「海には勝てないのら」


「富士山は高さで見るもんで、海の有無じゃないじゃんね」


ひかりが慌てて二人の間へ入る。


「合格祝いで静岡と山梨の富士山論争を始めないでください!」


美月が楽しそうに笑った。


「天気は晴れでも、静甲コンビの間に局地的な雷雲が発生しとるな」


小春も頷く。


「ひかり、初仕事じゃん。二人の間の雷注意報を出して」


気象予報士誕生の祝賀会は、危うく県境を巡る局地戦になるところだった。



資格を取得したひかりは、ヒロ室の気象アドバイザーとして正式に活動を始めた。


イベント前には、降水確率だけではなく、


雨の降り始める時間。


雷の可能性。


風速。


暑さ指数。


来場者数への影響。


交通機関の乱れ。


物販品を屋外へ出せる時間。


戦闘任務では、


視界。


路面状態。


霧。


海上の波。


風向き。


ドローンの運用可否。


装備と休憩時間。


現場で本当に必要な情報へ変えて伝える。


新橋のヒロ室では、毎朝一分間の新コーナーが始まった。


「ひかりのヒロイン予報」


初回放送。


ひかりはカメラの前へ立った。


アナウンススクールで磨いた、落ち着いて聞き取りやすい声。


「今日の関東地方は、午前中を中心に晴れますが、午後は内陸部で急な雷雨に注意してください。屋外イベントへ参加するヒロインは、雨具と通信機の防水確認をお願いします」


続いて、地域別の注意点を伝える。


「東海地方では気温が高くなります。屋外任務では、水分補給と休憩時間を確保してください」


「沿岸部では風が強まる可能性があります。船舶やドローンを使用する任務は、最新の情報を確認してください」


放送は完璧だった。


遥は感動して拍手した。


「本物のお天気お姉さんなのら!」


琴音も満足そうに笑う。


「声も内容も注意喚起も、全部分かりやすかったじゃんね」


みのりは少し離れた場所から、誰よりもうれしそうにひかりを見ている。


美月が隣で囁いた。


「恋人の晴れ舞台やな」


小春も続く。


「みのり、今日ずっと口元が緩んでるじゃん」


「緩んでいません」


「天気より分かりやすいで」


放送終了直後。


ひかりの端末が一斉に鳴り始めた。


赤嶺美月。


『ひかりちゃん、大阪の天気も詳しく教えてや! 今日、河内音頭の練習あんねん!』


河合美音。


『浜松の風、バイクで走っても大丈夫そうだら?』


伊吹真白。


『大型車両で山道を走ります。霧と路面状況を確認してください』


一条知佳。


『気象を題材にした早押し問題を百問作成してください』


山口唯奈。


『雨雲を透視すれば、予報より早く分かりますか?』


三好さつき。


『明日の中継、雨でも映えるコメントを考えてください』


質問が次々と届く。


ひかりは大量の通知を見つめた。


「情報番組のお天気コーナーを任されてもいいように、勉強を始めたんですけど……」


琴音が端末をのぞく。


「全国の戦隊ヒロイン専属気象台になっちまったじゃんね」


遥は、ひかりの肩をたたいた。


「頼りにされている証拠なのら!」


みのりは、ひかりの机へ温かい飲み物と太陽のクッキーを置く。


「頑張って、お天気お姉さん」


ひかりは困ったように笑い、それでも端末を手に取った。


「はい。まずは一件ずつ答えます」


真面目で優しい駿河の良心。


女子アナを目指し、努力を積み重ねる王道の戦隊ヒロイン。


一度の不合格を乗り越え、静甲コンビの期待、美月と小春の明るい声援、そして館山みのりの愛としか思えない全力支援を受け、杉山ひかりは新しい力を手に入れた。


ヒロ室初の気象予報士。

戦隊ヒロインのお天気お姉さん。

杉山ひかり、ここに爆誕である。


翌朝から、ヒロ室では新しい言葉が飛び交うようになった。


「屋外イベントなら、ひかりに聞こう」


「海上任務なら、風を確認してもらおう」


「暑さ対策も、ひかりに相談しよう」


「恋愛予報は、みのりに聞こう」


最後の言葉だけは、ひかりとみのりから正式に禁止された。


ただし美月と小春は、その禁止令を守るつもりがほとんどなかった。

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