戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅・銚子半島編 ――魚も醤油も絶景も! みのり、関東最東端で全部盛り
水郷佐原を後にした三台の観光バスは、次の目的地である銚子へ向かって東へ走っていた。
一号車の窓際では、赤嶺美月が珍しく黙っている。
香取神宮近くで聞いた、山村新治郎の「身代わり新治郎」「男・山村」の逸話が、まだ心の中に残っているのだろう。美月は流れていく田園風景を見つめ、時折、何かを考えるように目を伏せていた。
その様子を、月島小春が別号車との連絡端末越しに心配する。
「美月パイセン、まだ山村さんのこと考えてるんすか?」
美月は小さく頷いた。
「まあな。自分から人質の身代わりになるなんて、簡単にできることやないからな」
車内が少しだけ静かになる。
だが、その静けさは長く続かなかった。
美月は突然、前の座席から顔を出した。
「ところで、銚子って魚めっちゃうまいんやろ?」
小春が即座に叫ぶ。
「美月パイセン、余韻どこへ置いてきたんすか!」
水無瀬澪が眠そうな声で答える。
「香取神宮」
「忘れ物みたいに言うなや!」
車内に笑いが起こる。
館山みのりは、そのやり取りを待っていたかのように車内マイクを握った。
「美月さんの認識は一部正しいです」
「一部なん?」
「銚子を魚だけで理解するのは不十分です」
小春が嫌な予感を覚える。
「始まった。今度は銚子講義だ」
みのりは座席前方のモニターへ銚子市の地図を表示した。
「皆さん、これから訪れる銚子市は、千葉県の北東端に位置する港町です。北は利根川、東と南は太平洋に面し、関東の大地が海へ突き出す最前線ともいえる場所です」
澪が短く言う。
「関東の先端」
みのりは満足そうに頷いた。
「その表現は正確です」
小春が端末越しに抗議する。
「澪、佐原からずっと一発正解じゃねえか!」
みのりは続ける。
「銚子の魅力を理解するには、少なくとも三つの柱が必要です」
「少なくともって言ったぞ」
小春が警戒する。
「第一に、国内屈指の水産都市であること。銚子沖は暖流と寒流の影響を受け、多様な魚が集まる豊かな漁場です。漁港には、マイワシ、サバ、カツオ、マグロ、キンメダイ、ヒラメなど、季節ごとに多種多様な魚介が水揚げされます」
美月が大きく頷く。
「つまり、刺身がうまい!」
「結論を急がないでください」
「でも、うまいんやろ?」
みのりは少しだけ間を置いた。
「非常に期待できます」
小春が叫ぶ。
「そこは認めるんだな!」
「第二に、銚子は醤油醸造の町です。漁港の町という印象が強いですが、水運と原料、江戸の大消費地との結びつきによって醤油産業が発展しました」
高城彩芽が手を挙げる。
「銚子の刺身に銚子の醤油をつけたら、銚子が完成するべさ?」
みのりが黙る。
彩芽は不安になった。
「また違ったべか……」
「非常に簡略化されていますが、方向性は正しいです」
「やったべさ!」
彩芽は座席で小さくガッツポーズをする。
杉山ひかりが笑った。
「彩芽ちゃん、千葉問題にどんどん強くなってるら」
「第三に、犬吠埼、屏風ヶ浦、九十九里浜へと続く、変化に富んだ海岸景観です。岬、岩礁、断崖、砂浜。一つの地域で、これほど異なる海の表情を見られる場所は多くありません」
森川美里が感心する。
「銚子って、魚の町だけじゃないんだね」
みのりは大きく頷く。
「そうです。魚も醤油も産業も歴史も景観もあります。銚子を一つの言葉だけで説明することはできません」
澪がまとめる。
「銚子、全部盛り」
「はい。とても分かりやすいです」
小春が嘆く。
「今日の澪、みのりとの相性が良すぎる!」
やがて三台のバスは銚子市内へ入り、漁港近くの大型食事処へ到着した。
旅行代理店は、参加者100名が混乱しないよう、号車ごとに入店時間と座席を分けている。店内にはすでに人数分の御膳が用意され、刺身だけは着席直前に運ばれる段取りになっていた。
参加者の前に置かれたのは、銚子で水揚げされた魚を中心にした地魚刺身定食。
艶のあるマグロ。
脂の乗ったサバ。
鮮やかな身のカツオ。
銀色に輝くマイワシ。
上品な白身のヒラメ。
そして、銚子を代表する高級魚として知られるキンメダイ。
季節や水揚げによって内容は変わるものの、旅行代金から考えれば明らかに贅沢すぎる盛り合わせだった。
さらに、魚のあらを使った汁物、小鉢、香の物、炊きたてのご飯まで付いている。
御膳を見た美月は、両手を机について身を乗り出した。
「うわっ、何やこれ! 刺身の宝石箱やん!」
小春が端末越しに言う。
「その言い回し、どっかで聞いたことある気がするっす!」
大宮麗奈が、食事処の簡易マイクを美月へ向ける。
「では美月ちゃん、参加者の皆さんへ食レポをお願いします」
「任しとき!」
美月はまずマグロを一切れ取る。
銚子の醤油を少しだけつけ、口へ運ぶ。
そして黙った。
一秒。
二秒。
三秒。
澪が呟く。
「美月さん、本日二度目の真剣」
小春も驚く。
「刺身で山村新治郎の話と同じ顔してる!」
次の瞬間、美月が目を見開いた。
「うまっ! 身がねっとりして、味が濃い! これ、ご飯止まらへんやつや!」
勢い余って立ち上がりかける。
真帆がすぐに声を飛ばした。
「美月さん、座って食べてください」
「まだ立ってへん!」
「佐原の舟でも同じことを言っていました」
「腰が浮いただけや!」
みのりは参加者が刺身を食べ始めたのを見て、すかさず解説に入ろうとする。
「皆さん、刺身だけでなく醤油にも注目してください。銚子の醤油醸造は――」
小春が止める。
「みのり、せめて刺身が乾く前に食わせてやれ!」
ひかりもみのりの袖を引いた。
「みのり、説明は自分も一口食べてからにするだら」
みのりは時計を確認する。
「では、三分後に再開します」
「講義に休憩時間を設けるな!」
彩芽はサバを頬張り、満面の笑みを浮かべた。
「銚子、なまらうまいべさー!」
みのりが頷く。
「その感想で十分です」
彩芽は驚いた。
「訂正されなかったべさ!」
食事を終えた一行は、犬吠埼へ向かった。
青い太平洋を背に、白亜の灯台がそびえている。
海から吹きつける風は強いが、空はよく晴れていた。
南部沙羅が灯台を見上げる。
「白い灯台と青い海の組み合わせが、とても美しいですわね」
みのりは参加者を集める。
「犬吠埼は、関東最東端の岬です。ここに立つ灯台は、長年にわたり海上交通の安全を守ってきました。景勝地であると同時に、実用の施設として海を見守り続けてきたんです」
澪が水平線を見る。
「日本の朝が来る場所」
「その表現も正確です」
小春が頭を抱える。
「澪、今日ずっと満点じゃねえか!」
灯台を見学した後、一行は遊歩道を通り、荒波が打ちつける岩礁を安全な場所から望める展望地点へ向かった。
みのりが岩礁を指し示す。
「皆さん、この風景に見覚えはありませんか」
波が岩へぶつかり、白いしぶきが高く上がる。
「日本の大手映画会社が、長年オープニング映像に使用してきた、有名な荒波の岩礁です」
参加者の中から、驚きの声が上がった。
麗奈は懐かしそうに目を細める。
「映画が始まる前に流れる、あの映像ね。あれを見ると、何か大きな物語が始まる気がしたわ」
美里も頷く。
「テレビで映画を見た時にも、何度も見た記憶がある」
乙実は波音へ耳を澄ませる。
「映像で見るより、実際の音はずっと重いですね」
その横で、美月だけが目を見開いて岩礁を見つめていた。
幼い頃、美月は祖父と一緒に昔の任侠映画をよく見ていた。
荒波が岩礁へ打ちつける映像が流れると、祖父は座り直し、決まって言った。
「さあ、始まるぞ」
その後に続く、義理と人情、裏切りと覚悟の世界。
幼い美月には難しい話も多かったが、荒波の映像だけは強く心に残っていた。
目の前の風景と、遠い記憶がつながる。
美月は拳を握りしめ、岩礁へ向かって叫んだ。
「ここかぁ!!」
その声に、周囲の観光客まで振り返る。
小春が驚く。
「美月パイセン、聖地巡礼の熱量が強すぎる!」
美月は感極まった顔で海を見る。
「じいちゃんと何回見たか分からへん、あの波や! 映画が始まる前に、絶対出てくるやつや!」
澪がぽつり。
「美月さんの原点、荒波」
沙羅も納得したように頷く。
「美月さんの勢いが強い理由が、少し分かった気がしますわ」
美月が振り返る。
「誰が岩にぶつかる波みたいやねん!」
次に一行が向かったのは屏風ヶ浦だった。
長く続く断崖と、地層の縞模様。
眼前に広がる景観は、単なる海岸というより、大地を巨大な刃物で切り取った断面のように見える。
みのりが力強く言う。
「皆さん、あれは単なる崖ではありません」
小春が先回りする。
「地球の歴史!」
「正解です」
「みのりの言い回し、読めるようになってきた!」
みのりは地層を指す。
「長い時間をかけて堆積した層が波によって削られ、大地の断面として姿を現しています。屏風ヶ浦は絶景であるだけでなく、地球の時間を目で見ることができる場所です」
乙実が感心する。
「山形の海岸とは、また違う雄大さがあります」
なつめも目を輝かせる。
「海のすぐ横に、こんな大きな壁がずっと続いとるがやね!」
美月は断崖を眺める。
「巨大なミルフィーユみたいやな」
みのりの眉が動く。
「地層です」
「分かっとるわ! 見た目の話や!」
ひかりが間に入る。
「みのり、美月さんは褒めてるだら」
澪が短くまとめた。
「千葉、地球がむき出し」
みのりは満足そうに頷く。
「非常に分かりやすいです」
小春が抗議する。
「やっぱり澪にだけ採点甘いだろ!」
屏風ヶ浦を後にした一行は、海岸線を走り、九十九里浜まで足を延ばした。
車窓の向こうに、長大な砂浜と太平洋の水平線が広がる。
展望地点へ到着すると、参加者たちは海風を受けながら砂浜へ視線を向けた。
彩芽が思わず呟く。
「砂浜、終わらないべさ……」
今津乙実も感心する。
「こんなに広い砂浜は、初めて見ました」
みのりは胸を張る。
「九十九里浜は、一つの海水浴場の名前ではありません。千葉県東岸へ長く続く巨大な砂浜そのものです。漁業、海水浴、サーフィン、海岸文化を育ててきた、千葉を代表する景観です」
その横で、美月が突然、懐かしそうな旋律を鼻歌で口ずさみ始める。
九十九里浜を題材にした、かつて流行した陽気な歌のサビ部分である。
歌詞ははっきり歌わず、調子だけをなぞっている。
小春が振り返る。
「美月パイセン、その曲知ってるんすか?」
「おかんがよう歌っとったんや。九十九里浜見たら、勝手に口から出てくるねん」
澪が言う。
「美月さん、選曲年齢が不明」
「昔の歌が好きで何が悪いねん!」
みのりは少し考え、珍しく注意しなかった。
「九十九里浜への導入曲としては、悪くありません」
小春が驚く。
「みのり公認になった!」
夕方、一行は犬吠埼の海辺に建つ温泉ホテルへ到着した。
太平洋を望む高台にあり、温泉とスパ設備を備えた大型ホテルである。
ロビーの大きな窓からは海が見え、潮の香りがわずかに漂っていた。
参加者100名は号車ごとにチェックインする。
真帆と旅行代理店の担当者が部屋割りを確認し、麗奈と美里が受付を手伝う。なつめと乙実は、疲れている参加者や荷物の多い人へ声をかけていた。
彩芽は露天風呂の案内を見つけると、目を輝かせる。
「温泉だべさ! 三多摩から千葉までの疲れ、全部流すべさ!」
みのりが即座に振り返る。
「三多摩地区から千葉は遠くありません」
彩芽が肩を落とす。
「まだ覚えてたべか……」
ひかりが笑った。
「みのり、たぶん最終日まで覚えてるら」
夜。
ホテルの大広間では、参加者100名を対象にした「戦隊ヒロイン・ディナーショー」が開催された。
とはいえ、予算を抑えた小規模な企画である。
舞台の背景には、手作り感のある横断幕。
照明は宴会場備え付け。
音響は少し響きすぎ、マイクを叩くと妙に大きな音が出る。
舞台の端には、誰が作ったのか分からない紙製の犬吠埼灯台まで置かれていた。
小春が舞台袖から眺める。
「チープだなあ」
澪が頷く。
「文化祭感」
それでも、大宮麗奈がマイクを持って舞台へ出ると、会場の空気は一変する。
「皆さん、本日は一日お疲れさまでした! 佐原、銚子、犬吠埼、屏風ヶ浦、九十九里浜。千葉の歴史と海を、たっぷり楽しんでいただけましたか?」
参加者から大きな拍手が起こる。
イベントコンパニオンとして経験を積んだ麗奈は、簡素な舞台でも堂々としていた。
最初の企画は、「今日一番印象に残った千葉」。
沙羅は犬吠埼灯台。
乙実は屏風ヶ浦。
美里は小江戸の町並み。
なつめは地魚刺身定食。
彩芽は落花生最中。
澪は「水が道だった佐原」。
そして美月は、迷うことなく答えた。
「刺身と、映画の荒波!」
小春が突っ込む。
「一つに絞れてないっす!」
続いて、みのりによる千葉クイズ。
みのりは自信満々に一問目を読み上げる。
「銚子周辺で観察できる地層を、年代の古い順に並べてください」
会場が静まり返った。
小春が叫ぶ。
「観光クイズの難易度じゃねえ!」
真帆が問題用紙を確認する。
「みのりん、一般向けの問題に変更してください」
「これは導入問題です」
「一般参加者には最終問題です」
結局、問題は、
「銚子を代表する調味料は何でしょう」
という簡単なものへ差し替えられた。
彩芽が勢いよく手を挙げる。
「醤油だべさ!」
「正解です」
彩芽は誇らしげに胸を張る。
「今日のうち、千葉に強いべさ!」
澪が呟く。
「英才教育の成果」
そして、ディナーショー最大の盛り上がりとなったのが、美月の余興だった。
美月は頭に派手な布を巻き、怪しい異国風の片言口調で舞台へ登場する。
「ワタシ、遠イ国カラ来タ、スゴイ手品師ネ。今日ハ絶対失敗シナイ、インチキ……違ウ、立派ナ手品見セルヨ」
小春が舞台袖から言う。
「自分でインチキって言いかけたっす!」
美月はコップへ布をかぶせる。
「チチンプイプイ、醤油、刺身、犬吠埼!」
布を取る。
コップはそのままだった。
美月は堂々と両手を広げる。
「成功ネ。コップ、逃ゲテナイ」
会場が大爆笑に包まれる。
次に、紙袋から造花を出そうとする。
しかし造花が引っかかり、紙袋の底が破れた。
花は出ず、代わりに紙くずだけが落ちる。
美月は一瞬も慌てずに言った。
「コレ、失敗ジャナイ。千葉ノ大地カラ、紙ノ花咲ク前ノ段階ネ」
麗奈が笑いをこらえながら尋ねる。
「美月ちゃん、それはマジックではなく事故では?」
「事故違ウ。高度ナ演出アルヨ」
真帆が静かに言う。
「再現性のない余興ですね」
澪は珍しく大きく拍手した。
「本日、一番成功」
チープな内容だったが、会場は大いに盛り上がった。
参加者との質問コーナーや記念撮影も行われ、最後はみのりが締めの挨拶をする。
「皆さん、本日ご覧いただいた千葉は、まだ入口です」
小春が即座に叫ぶ。
「今日だけで普通の旅行二日分あったぞ!」
澪も続ける。
「入口が長い」
ディナーショー終了後、参加者たちはそれぞれの客室へ戻った。
ヒロインたちは時間をずらし、海を望む露天風呂へ入る。
暗い太平洋から波音が響き、心地よい潮風が湯気を運んでいく。
美月は湯船の縁へ腕を置き、大きく息を吐いた。
「いやあ、今日一日、濃かったなあ」
小春が答える。
「美月パイセンが濃くした部分も大きいっすけどね」
麗奈は笑う。
「ディナーショー、手作り感はあったけれど、参加者の皆さんが楽しんでくれてよかったわ」
美里も頷いた。
「最初はどうなるかと思ったけど、美月ちゃんのマジックで一気に空気がほぐれたね」
「インチキマジックやけどな」
美月は胸を張る。
「笑ったら成功や!」
真帆は一日の運営を振り返る。
「大きな遅れはありませんでした。体調不良者もなく、移動と誘導も概ね順調です」
沙羅は湯船につかりながら、みのりを見る。
「みのりの説明は、少し長くなる場面もありましたけれど、参加者の皆さんは楽しんでいましたわ」
ひかりも微笑む。
「初日としては上々だら」
みのりは、湯気の向こうに広がる暗い海を見つめる。
「うん。佐原の歴史も、銚子の産業も、犬吠埼や屏風ヶ浦の景観も伝えられた。予定していた内容は、ほぼ説明できたと思う」
小春が呟く。
「“ほぼ”であの情報量なのかよ」
彩芽は温泉につかり、満足そうに頬を緩めている。
「刺身も最中も温泉も、なまら良かったべさ。明日も楽しみだべさ!」
乙実も静かに頷く。
「外から来た人間として、私も知らない千葉をたくさん見られました」
なつめが元気に言う。
「まだ一日目ながよね。明日もいっぱい楽しむき!」
澪は湯船の中で目を閉じた。
「千葉、まだ一日目」
小春が夜空を見上げる。
「もう三日くらい旅した気分なんだけどな!」
美月は潮風を受けながら、楽しそうに笑った。
「明日は何食べられるん?」
真帆が即答する。
「まず観光内容を気にしてください」
「観光しながら食べたらええやん!」
露天風呂に笑い声が広がる。
初日は上々の滑り出しだった。
水郷佐原の歴史。
銚子の魚と醤油。
犬吠埼の灯台と、映画の荒波。
屏風ヶ浦の地層。
九十九里浜の果てしない砂浜。
そして、大広間を爆笑に包んだ怪しいインチキマジック。
館山みのりの千葉愛に引っ張られながら、参加者100名と戦隊ヒロインたちは、千葉の奥深さを少しずつ知り始めていた。
明日は、さらに南へ。
外房の港町と朝市、海の生き物、温泉が待っている。
誰もが明日を楽しみにしていた。
ただ一人、真帆だけは、翌日の行程表に書かれた「みのりによる海洋生物解説」という項目を見つめ、静かに眉を寄せていた。
予定時間、二十五分。
その横には、みのりの手書きで小さく追記されている。
――状況により延長。
真帆は行程表を閉じた。
「……明日も長くなりそうですね」
潮風の中、露天風呂から聞こえる笑い声を包み込むように、太平洋の波が静かに打ち寄せていた。




