戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅・水郷佐原編 ――地図と舟と“男・山村”、みのりの郷土愛は測量不能
千葉駅前を出発した三台の観光バスは、最初の目的地である水郷の町・佐原へ向かって走っていた。
一号車の車内では、出発直後に配られた落花生最中と房総びわゼリーが早くも好評を博している。
高城彩芽は、千葉駅前で「千葉まで、なまら遠かったべさ」と口にし、館山みのりから三多摩地区と千葉駅の距離について長々と説明されたことなど、すでに忘れた様子だった。
「落花生の最中、なまらうまいべさー!」
彩芽は満面の笑みで、二つ目の最中を頬張っている。
杉山ひかりが隣から笑った。
「彩芽ちゃん、食べ物で千葉に懐くの早いら」
みのりは前の座席から振り返り、真剣な顔で頷く。
「千葉県産落花生には、人の認識を適正化する力があります」
「最中を思想教育みたいに言うな!」
別号車とつながった連絡端末から、月島小春の声が飛んできた。
車内に笑いが起こる。
その笑いが収まるのを待っていたかのように、みのりは車内マイクを握った。
「皆さん、これから向かうのは千葉県香取市の佐原地区です」
参加者たちが前方へ注目する。
みのりの顔つきが、さらに引き締まった。
千葉駅前でも十分に真剣だったが、佐原の紹介に入ったみのりは、いよいよ本職の観光ガイドのようになっている。
「佐原は、古くから水運と商業で栄えた町です。小野川沿いには歴史ある商家や町家が残り、“北総の小江戸”と呼ばれています」
彩芽がびわゼリーを開けながら尋ねた。
「水の都ってことだべか?」
みのりはすぐに頷いた。
「その理解で合っています」
彩芽の表情が輝く。
「やったべさ! 初めて一回で正解したべさ!」
「千葉駅前では間違えたというより、言葉の選択が不適切でした」
「やっぱり蒸し返されたべさ……」
ひかりが彩芽の肩を軽く叩く。
「みのりに一回褒められた時点で、そこで止めといた方がいいら」
みのりは説明を続けた。
「佐原は、ただ古い建物が並んでいるだけの場所ではありません。川が物流の道となり、人や物や文化が行き交い、商人たちが町を育てました。さらに、あやめの景観、小江戸の町並み、舟めぐり、香取神宮、そして日本史に残る偉人たち――」
安岡真帆が時計を見る。
「みのりん、到着まであと十五分です」
「まだ佐原の水運史の導入です」
「導入を短くしてください」
「水運を短く語るのは難しいです」
「長く語る方が、参加者の皆さんには難しくなります」
三号車にいる水無瀬澪の声が端末から聞こえた。
「佐原、到着前から情報が増水中」
小春が続ける。
「水郷だけにってか! うまいこと言うな!」
みのりは少し不満そうにマイクを下ろした。
「詳しい話は現地で続けます」
ひかりが小声で言う。
「止められても、続けることだけは決まってるら」
やがて、三台のバスは佐原へ到着した。
参加者100名は号車ごとにまとまり、添乗員とヒロインたちの誘導で最初の目的地へ向かう。
最初に訪れるのは、伊能忠敬記念館と伊能忠敬旧宅だった。
記念館の建物が見えた瞬間、みのりの歩く速度が明らかに上がる。
真帆が後ろから声をかけた。
「みのりん、参加者を置いていかないでください」
みのりは足を止め、振り返った。
「すみません。伊能忠敬が近づいたので」
小春が眉をひそめる。
「偉人を磁石みたいに言うなよ」
記念館へ入る前に、みのりは参加者たちを集めた。
「皆さん。伊能忠敬について、“日本中を歩いて地図を作った人”という理解だけで終わっていませんか?」
参加者の何人かが、少し気まずそうに顔を見合わせる。
小春が手を挙げた。
「学校じゃ、だいたいそう習うだろ」
「それだけでは、まったく足りません」
みのりは断言した。
小春が後ずさる。
「言い切ったよ」
みのりの伊能忠敬アゲが始まった。
「伊能忠敬の偉大さは、単に日本全国を歩いたことではありません。当時、人工衛星も航空写真も、現在の測量機器もありません。その時代に、観測、計算、記録を積み重ね、極めて精度の高い日本地図を作り上げたんです」
みのりは、展示されている地図へ参加者を案内する。
「見てください。この海岸線を。歩いて、測って、記録して、計算して描いたんです。今のように画面上で拡大することも、位置情報を自動で取得することもできません」
小春も地図を見て、素直に感心する。
「いや、これ本当にすげえな。江戸時代の地図に見えねえよ」
今津乙実も静かに頷いた。
「山や海岸を越えながら、これだけの測量を続けたんですね」
「そうです」
みのりの声が一段と熱くなる。
「しかも、伊能忠敬が天文学や測量を本格的に学び始めたのは、人生の後半です。若い頃から測量だけをしていた人物ではありません。佐原で家業を立て直し、地域のために働き、その経験を積んだ上で、新しい道へ進んだんです」
神代なつめが大きく頷いた。
「何歳になっても、新しい勉強を始められるってことやね!」
「そのとおりです。年齢を理由に挑戦を諦めなかった。しかも、思いつきだけではありません。徹底的に学び、準備し、全国測量を長年にわたって継続しました」
南部沙羅は地図を見つめながら、上品に微笑む。
「科学的な資料でありながら、一つの美術作品のようでもありますわね」
みのりは強く頷いた。
「ありがとうございます。伊能図は、科学、技術、芸術、執念の結晶です」
森川美里が小声で麗奈へ言う。
「みのりん、今日いつも以上に熱くない?」
大宮麗奈も小声で答えた。
「伊能忠敬の前では、これでも抑えている方なのかもしれないわ」
みのりは展示を一つ見るたびに説明を加えようとする。
「こちらの器具は――」
記念館の係員が解説を始める。
みのりは黙る。
だが、係員が一息つくたびに、みのりの口がわずかに開く。
真帆がそのたびに、みのりの袖を引く。
「みのりん、今日は見学者です」
「今の説明に、測量隊を支えた各地域の協力についての補足を――」
「質問時間にしてください」
「では、質問ではなく補足として」
「補足もしません」
ひかりが笑いをこらえる。
「みのり、学芸員さんの仕事取っちゃだめだら」
「取るつもりはない」
「顔は取りに行ってるら」
そして、一行は伊能図の展示前へ到着した。
みのりは地図を見つめ、しばらく無言になる。
参加者たちは、その沈黙に少し驚いた。
普段のみのりなら、すぐに説明が始まるところである。
やがて、みのりは静かに口を開いた。
「伊能忠敬は、もっと評価されるべきです」
声は静かだが、妙に力強かった。
「教科書の数行だけで終わらせてよい人物ではありません。日本の国土を、自らの足と知識で測り、形にした。五十歳を過ぎてから学び直し、十年以上にわたって測量を続けた。日本人の生き方を示す人物としても、もっと知られるべきです」
美月が手を挙げた。
「みのりん、伊能忠敬を紙幣の肖像にしたい顔してるな」
「してもよいと思います」
即答だった。
小春が振り向く。
「本当に思ってた!」
みのりは真剣なまま続ける。
「伊能忠敬には、紙幣の肖像となるに十分な功績があります。知性、努力、挑戦、継続、日本全体への貢献。どの条件を見ても不足はありません」
美月が笑う。
「ほんまに伊能忠敬のお札が出たら、みのりん使えるん?」
「保存用、観賞用、布教用、使用用に分けます」
小春が叫ぶ。
「紙幣に布教用を作るな!」
麗奈も笑った。
「銀行で何枚交換するつもりなの?」
「発行枚数と交換制限を確認してから決めます」
真帆が頭を押さえる。
「まだ発行の予定すらありません」
みのりはさらに続けた。
「この日記の作者も、伊能忠敬はもっと評価されるべきで、紙幣の肖像になってもよい人物。千葉の誇りだと話していました」
澪が眠そうな表情のまま口を挟む。
「この日記の作者、川崎出身だよ」
みのりは即座に返した。
「でも、千葉にも長く住んでいました。千葉への思い入れは強く、第二の故郷だと話しています」
「そーなんだ」
澪は少し間を置いた。
「まぁ、知らんけど」
小春が勢いよく振り向いた。
「作者の出身地を持ち出した本人が、最後に知らんけどって言うな!」
みのりは真剣な顔を崩さない。
「少なくとも、伊能忠敬への評価については正しい認識です」
ひかりが笑う。
「みのり、作者まで千葉県民みたいに扱ってるら」
「長く暮らした土地を第二の故郷と呼ぶのは自然です」
澪が頷く。
「川崎と千葉の二拠点生活」
「アクアラインでつながっています」
小春が叫ぶ。
「作者の人生まで道路網で整理すんな!」
伊能忠敬記念館を出た一行は、小野川を挟んだ伊能忠敬旧宅へ向かった。
古い商家の建物や土蔵を前にすると、みのりの語り口は少し落ち着いた。
「伊能忠敬は、突然、地図作りだけを始めた人物ではありません。ここ佐原で商家を支え、家業を立て直し、地域の運営にも関わりました。その実務経験があったからこそ、後の大規模な測量事業をまとめることができたんです」
真帆が頷く。
「学問だけでなく、人や組織を動かす力も持っていたのですね」
「はい。伊能忠敬は優れた測量家であり、天文学を学んだ人であり、実務家であり、経営者でもありました」
ひかりが旧宅とみのりを交互に見る。
「頭が良くて、細かくて、計画好きで、地元のことになると放っておけない」
みのりが振り返る。
「何の話?」
「伊能忠敬と、みのりの共通点だら」
小春が吹き出す。
「確かに似てる!」
みのりはすぐに否定しなかった。
「私を伊能忠敬と比べるのは、あまりにも恐れ多いです」
澪がぼそっと言う。
「でも、ちょっと嬉しそう」
「嬉しくない」
ひかりがみのりの顔をのぞき込む。
「耳、赤いら」
「暑いだけ」
その日の佐原は、むしろ過ごしやすい気温だった。
旧宅の見学を終えた一行は、小野川沿いの小江戸の町並みへ向かった。
古い商家、蔵、柳、石造りの川岸。
現代の店舗や住居として使われ続ける歴史的な建物を見て、沙羅が感心する。
「過去を展示物として閉じ込めるのではなく、現在の暮らしへつないでいるのが素敵ですわね」
美里も頷く。
「千葉って、湾岸の新しい街の印象が強いけど、こういう町もあるんだよね」
みのりは満足そうに答える。
「それを知っていただくための千葉再発見です」
参加者たちは人数を分け、小野川の舟めぐりへ乗り込む。
舟がゆっくりと進み始めると、水面から見上げる小江戸の町並みが広がった。
赤嶺美月は、乗船した直後から落ち着かない。
「うわ、ええやん! 麗奈さん、ここで旅番組のオープニング撮ろうや!」
美月が腰を浮かせた瞬間、真帆の声が飛ぶ。
「美月さん、舟の上では立たないでください」
「まだ立ってへんで」
「立とうとしました」
「腰を伸ばしただけや」
「目が完全に撮影モードでした」
彩芽は川面をのぞき込みながら、楽しそうに言う。
「水の上から町を見るの、なまら面白いべさー」
澪は、流れていく町並みを静かに見つめた。
「水が道だった町」
みのりが澪を見る。
「うん。今の表現は正しい」
小春が驚く。
「澪、みのりから訂正なしの満点出たぞ!」
澪は表情を変えずに、小さく親指を立てた。
ひかりがみのりへ囁く。
「みのり、澪には甘いら」
「正確な表現を評価しただけ」
「私は伊能忠敬と似てるって言ったのに、怒られたら」
「あれは評価ではなく、分類」
「分類なんだ」
舟めぐりを終えた参加者たちは、再び三台のバスへ乗り込み、香取神宮へ向かった。
香取神宮に到着した一行を、みのりはまず参道ではなく、一体の銅像の前へ案内する。
佐原が生んだ政治家、山村新治郎の銅像である。
みのりは参加者たちがそろったのを確認し、静かに語り始めた。
「佐原が生んだ偉人は、伊能忠敬だけではありません」
先ほどまでの知的な熱気とは、少し違う。
みのりの声に、強い敬意が宿っていた。
「1970年のよど号ハイジャック事件。当時、運輸政務次官だった山村新治郎は、乗客を解放するため、自分が人質の身代わりになることを申し出ました」
参加者たちの表情が引き締まる。
「命令されたのではありません。安全な場所から責任を語るだけでもなかった。自分が危険な機内へ残ることで、人質となっていた乗客を解放させたんです」
彩芽が銅像を見上げた。
「政治家が、自分から人質になったんだべか?」
「そうです。その行動から、“身代わり新治郎”“男・山村”と呼ばれました」
小春が腕を組む。
「それは、確かにすげえな」
「すごい、という言葉だけでも足りません」
みのりの山村新治郎の紹介も強かった。
「地位や肩書を持つ人間が、危機の際にどう行動するのか。責任というものを、言葉ではなく行動で示した人です。人の命を守るため、自分の安全を差し出した。その覚悟は、もっと広く知られるべきです」
その場で、ただ一人。
美月が一言も口を挟んでいなかった。
普段の美月なら、みのりの熱弁が長くなれば、何かしら明るい合いの手を入れる。
「みのりん、ほんま熱いなあ」
「紙幣の次は銅像集めるん?」
そんなことを言いそうな場面だった。
しかし、美月は銅像を見上げたまま、真剣な表情を崩さない。
小春が、横目で美月を見る。
「……美月が静かだ」
澪も小声で言う。
「異常事態」
沙羅が二人をたしなめる。
「静かに聞いているだけですわ」
小春はさらに小声になる。
「いや、美月が三分以上黙ってるぞ」
「それは確かに珍しい」
真帆まで認めた。
美月は反応しなかった。
かつて、極秘任務で海外へ渡った際、美月自身もテロリストの人質となった経験があった。
閉ざされた部屋。
通じない言葉。
いつ終わるか分からない拘束。
自分の命が、交渉のための材料として扱われる恐怖。
救出作戦の詳細を、美月がここで語ることはできない。
国家プロジェクトに関わる極秘事項である。
しかし、人質になるということがどれほど恐ろしいかは、身をもって知っている。
自ら身代わりになるという選択が、どれほど重いものかも分かる。
みのりの説明が終わった後、美月は低い声で言った。
「……身代わりになるって、口で言うほど簡単なことやない」
いつもの明るく勢いのある河内弁とは違う。
全員が美月を見る。
美月は銅像から目を離さない。
「自分がこの先どうなるか分からへん。相手が約束を守る保証もない。助けが来るかも分からん。それでも、知らん人を助けるために、自分から残ったんやろ」
真帆は、美月の横顔を見つめた。
何かを経験した者の言葉だった。
だが、問いたださない。
沙羅も、美月のすぐ近くへ静かに立つだけだった。
みのりはゆっくり頷いた。
「はい。だから山村新治郎は、もっと知られるべき人物です」
美月は銅像へ向かい、小さく頭を下げた。
「ほんまに、すごい人やな」
その場に静かな空気が流れる。
小春も、今回は茶化さなかった。
「こういう政治家が本当にいたってこと、ちゃんと覚えといた方がいいな」
麗奈も静かに頷く。
「人前に立つ私たちにも、考えさせられる話ね」
みのりは、伊能忠敬と山村新治郎という二人の偉人を重ねた。
「伊能忠敬は、知識と努力で日本の形を残しました。山村新治郎は、勇気と責任で人の命を守りました。方法は違います。でも二人とも、自分にできることを最後までやり抜いた、佐原が生んだ千葉の誇りです」
しばらく誰も口を開かなかった。
珍しく真剣な美月が、あまりにも真剣なまま動かない。
一分。
二分。
小春が耐えきれず、澪へ囁く。
「美月パイセン、本当に大丈夫ですか?」
澪が美月の顔をのぞく。
「美月さん、再起動待ち」
美月がようやく振り返った。
「聞こえとるで」
小春が胸をなで下ろす。
「よかった、いつもの美月パイセンだ!」
「うちが真剣にしとったら、そんな心配されるん?」
澪が即答する。
「される」
真帆も頷く。
「少しだけ」
沙羅は美月をかばう。
「皆さん、失礼ですわ。美月さんにも真剣に考える時はあります」
美月が嬉しそうに沙羅を見る。
「沙羅……!」
沙羅は続けた。
「頻度が少ないだけで」
「最後の一言いらんやろ!」
張り詰めていた空気が、ようやく和らぐ。
すると澪が銅像を見上げながら、ぽつりと言った。
「みのり、今日は紙幣候補が二人」
小春が吹き出す。
「山村さんまで紙幣にする気かよ!」
みのりは真剣に考える。
「山村新治郎については、記念硬貨という選択肢もあります」
真帆が即座に止める。
「みのりん、新しい企画書を作らないでください」
「まだ題名しか考えていません」
「もう考え始めているんですね」
美月の顔にも、ようやくいつもの笑みが戻った。
「みのりん、その企画できたら、うちにも記念硬貨一枚ちょうだいや」
「配布方法は検討します」
「ほんまに作る気やん!」
一行は銅像前を離れ、香取神宮を参拝した。
沙羅が参拝時の所作を案内し、麗奈と美里が参加者を少人数に分けて誘導する。
真帆は集合時刻を確認し、乙実となつめは体調を崩した参加者がいないか目を配る。
美月は、いつもより長く手を合わせていた。
参拝を終えた小春が尋ねる。
「美月パイセンは何をお願いしたんだ?」
美月は少し考えてから答える。
「この旅が、最後まで無事に終わりますようにや」
小春が意外そうな顔をする。
「食べ物じゃないんだな」
「うちかて、いつも食べ物のことばっかり考えてへんわ!」
美月は少し間を置いた。
「あと、銚子でおいしいもん食べられますように」
「やっぱり入ってるじゃないっすか!」
隣では、彩芽も真剣に手を合わせている。
みのりが尋ねた。
「彩芽さんは、何をお願いしたんですか?」
「落花生最中、またもらえますようにだべさ」
みのりの眉がわずかに動く。
ひかりがすぐに、みのりの腕を取った。
「みのり、人のお願いにまで指導入れちゃだめだら」
「まだ何も言ってない」
「顔が言ってるら」
香取神宮の参拝を終えた参加者100名は、再び三台の観光バスへ乗り込んだ。
次に向かうのは、千葉県東端の銚子方面である。
一号車のマイクを握ったみのりは、佐原での行程を締めくくった。
「皆さん、佐原では、水運によって栄えた小江戸の町並みと、伊能忠敬、山村新治郎という二人の偉人をご覧いただきました」
参加者たちの表情は、千葉駅を出発した時より少しだけ真剣になっている。
この旅が、単に有名観光地を回って写真を撮るだけのツアーではないことを、理解し始めていた。
「土地の魅力は、景色だけではありません。そこで暮らした人が何を考え、何を成し遂げたのか。その物語を知ることで、初めて町は立体的に見えてきます」
ひかりが小さく微笑んだ。
「みのり、今のまとめ、すごく良かったら」
「今の、は余計」
彩芽は座席へ戻ると、菓子袋の中をのぞき込んだ。
「みのりさん、銚子までは遠いべか?」
みのりが静かに振り返る。
彩芽は千葉駅前での一件を思い出し、慌てて言い直した。
「近いべさ! 千葉県内だから、なまら近いべさ!」
別号車から小春の声が飛んでくる。
「彩芽、完全に教育されてるじゃねえか!」
澪が眠そうに締めた。
「千葉への適応、順調」
三台のバスは、水と歴史の町・佐原を後にする。
小野川を行き交った舟。
伊能忠敬が測量によって描いた日本。
山村新治郎が身を挺して守った人々。
それぞれの物語を胸に、戦隊ヒロインと参加者100名は、次の目的地・銚子へ向けて走り出した。
その車内で、美月だけはしばらく窓の外を見つめていた。
山村新治郎の銅像が、少しずつ遠ざかっていく。
やがて美月は、いつもの笑顔に戻って振り返った。
「なあ、銚子って魚うまいんやろ?」
小春の声が端末から響く。
「戻るの早いっ!」
澪が短く言った。
「美月さん、再起動完了」
みのりはマイクを持ったまま、真面目に答える。
「銚子の水産物については、これから詳しく説明します」
小春が叫ぶ。
「今度は銚子講義が始まるぞ!」
バスは東へ走る。
佐原で地図と勇気を学んだ一行を乗せ、次なる千葉の魅力へ向かって。




