戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅・出発編 ――千葉まで遠くない! みのり、千葉駅前で早くも房総ならぬ暴走
館山みのりが持ち込んだ大型企画、
『戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅』。
当初は9泊10日、募集人員500名という、千葉県内だけで完結するとは思えない壮大な計画だった。
ヒロ室フロントとの調整により、旅程は3泊4日、募集人員は100名程度へ縮小されたものの、北総、銚子、九十九里、外房、南房総、内房を巡り、最終日には千葉公園周辺の最新鋭室内競輪場で2000人規模の「戦隊ヒロインサミット千葉」を開催する。
縮小されたはずなのに、どう考えても大型企画だった。
旅行手配を担当することになった福鉄旅行日本橋支店と、宿泊、食事、バス、添乗員、悪天候時の代替行程、緊急連絡体制まで細部を詰め、いよいよ参加者募集が始まった。
競争入札の結果、旅行費用をかなり抑えられたこともあり、3泊4日の内容としては手頃な価格になった。
さらに、同行する戦隊ヒロインの顔ぶれも豪華である。
企画者の館山みのり。
ヒロ室フロント代表の安岡真帆。
みのりの派生ユニット「グレースフォース」の相方、杉山ひかり。
江戸っ子ギャルの月島小春。
ハマのプリンセス・南部沙羅。
川崎代表の水無瀬澪。
花見川区在住の今津乙実と神代なつめ。
MC担当の大宮麗奈。
流山市在住の森川美里。
戦隊ヒロインプロジェクトの象徴的存在、赤嶺美月。
そして、スケジュールの都合で参加できなくなった江波のどかに代わり、札幌出身の妹キャラ・高城彩芽。
豪華なヒロインたちとともに、千葉県を巡る三泊四日。
募集開始と同時に、申し込みは殺到した。
旅行代理店の予約システムには、開始時刻の直後からアクセスが集中する。
わずかな時間で定員100名に達し、さらにキャンセル待ちまで発生した。
完売の連絡を受けた真帆は、電話口で思わず聞き返した。
「もう満席ですか?」
代理店担当者が答える。
「はい。100名、全枠埋まりました。キャンセル待ちも入っています」
真帆の隣で聞いていた美月が、目を輝かせる。
「すごいやん、みのりん! 一瞬で売り切れやん!」
みのりは、表情を変えずに言った。
「当然です。千葉ですから」
小春が即座に突っ込む。
「ヒロイン同行の効果もかなりあるからな!」
「もちろん、それも計算に入っています」
「そこは認めるんだな!」
真帆は資料を閉じる。
「完売は喜ばしいことですが、ここからは100名全員を安全に案内し、無事に帰っていただくことが大切です」
みのりも静かに頷いた。
「はい。参加者全員に、千葉の魅力を正しく持ち帰ってもらいます」
澪が眠そうに呟く。
「千葉、持ち帰り制」
そして迎えた、ツアー当日の朝。
集合場所は、JR千葉駅近くの大型バス乗降場所だった。
館山みのりは、集合時刻よりはるかに早く現地へ到着していた。
胸元にはツアースタッフ用のネームホルダー。
手には分厚い行程表。
その横には、「戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅」と大きく書かれた受付看板が立っている。
みのりは、参加者の受付列、一般歩行者の通行帯、バスへの荷物搬入経路を確認していた。
一度ではない。
すでに三度目だった。
真帆が到着すると、みのりはすぐに報告する。
「真帆さん、おはようございます。受付は号車別に三列です。参加者の荷物札は色分け済み。一般歩行者の動線と交差しないよう、受付位置を少し東側へずらしました」
真帆は頷いた。
「おはようございます、みのりん。準備は順調ですね」
みのりは真剣な顔のまま答える。
「千葉駅前で混乱を起こすわけにはいきません」
「始まる前から力を使いすぎないでくださいね」
続いて、大宮麗奈と森川美里が現れる。
麗奈は華やかなイベントコンパニオンらしい笑顔で、受付看板を見上げた。
「みのりん、立派な看板ね。いよいよ始まるって感じがするわ」
美里も笑う。
「みのりん、流山市在住の地元枠として、私もちゃんと盛り上げるからね」
「ありがとうございます。北西部の千葉については、美里さんに補足をお願いします」
「最初から仕事が重いわね」
そこへ、高知市出身で現在は花見川区に住む神代なつめが、元気いっぱいに駆けてくる。
「みのりん、おはよう! うちも受付手伝うきね!」
鶴岡市出身で、同じく花見川区に住む今津乙実も到着した。
「おはようございます。みのりん、いつも以上に表情が真剣ですね」
「今日は千葉を代表する日ですから」
澪が、いつの間にか乙実の後ろに立っていた。
「みのり、毎日千葉を代表してる」
みのりが少し考える。
「確かに、日常的にも千葉を背負っている自覚はあります」
小春が到着早々に突っ込んだ。
「自覚あったのかよ!」
参加者の集合が進む中、みのりは千葉駅へ視線を向ける。
「皆さん、こちらの千葉駅は、千葉県の県都を代表する交通拠点です」
小春が顔をしかめる。
「まだ参加者そろってないのに、もう説明始めんの?」
「待ち時間を有効活用します」
こうして、みのりによる千葉駅の“アゲる紹介”が始まった。
「かつての千葉駅は、県都を代表する駅としては少し物足りない、構造が分かりにくい、駅周辺も地味だと言われることがありました」
小春が即座に言う。
「アゲる紹介なのに、いきなり下げたぞ」
みのりは構わず続ける。
「しかし、大規模な改良によって、現在は明るく開放的な駅へ生まれ変わりました。駅ナカや商業施設も充実し、県都の玄関口にふさわしい立派な駅になっています」
美里が頷いた。
「昔を知っている人ほど、変わったと感じるよね」
乙実も駅を見上げる。
「私も初めて来た時は、思っていた以上に大きくてきれいな駅だと感じました」
なつめが元気に言う。
「買い物も食事もできるし、いろんな方向へ列車が出とるき、便利ながよ!」
みのりは満足そうに説明する。
「総武方面、成田方面、外房、内房。それぞれの地域へ向かう列車が集まる、千葉県交通の要です。今回の旅を始める場所として、これ以上ふさわしい場所はありません」
麗奈が微笑む。
「みのりんが説明すると、千葉駅が県全体を動かす司令塔みたいね」
澪が眠そうに言う。
「千葉県本部」
小春が突っ込む。
「軍事施設みたいに言うな!」
その澪は、川崎から千葉駅までやって来ていた。
澪は駅舎を見ながら、みのりへ言う。
「川崎から千葉って、思っているより近いよ。横須賀線乗っちゃえば千葉までスグだし」
すると、みのりは間髪を入れずに訂正した。
「横須賀線は東京までね。東京から総武線快速です」
澪が一度、ゆっくり瞬きをする。
「同じ電車」
「直通運転をしていますが、路線名称としては東京駅を境に変わります」
「みのり、細かい」
「鉄道を正しく理解することも、千葉再発見の一部です」
小春が笑う。
「集合しただけで鉄道講座始めてる~」
沙羅も上品に眉を上げる。
「澪の説明でも、一般の方には十分伝わると思いますけれど」
みのりは真面目に答える。
「伝わることと、正確であることは別です」
澪が短く言う。
「千葉、厳密」
その後、恋人?の杉山ひかりが到着した。
「みのり、もう千葉講義始めてるの?」
「まだ導入です」
「導入で路線名称の境界まで説明したんだ」
小春が二人を見比べる。
「ひかり、止められる?」
ひかりは笑う。
「ある程度なら」
「ある程度なんだ」
そこへ、今回の代役参加となった高城彩芽が、大きな旅行バッグを引きながら現れた。
彩芽は札幌出身だが、現在は東京都の三多摩地区に住んでいる。
早朝から自宅を出て、何本も電車を乗り継いできたため、少し疲れた表情だった。
受付までたどり着いた彩芽は、荷物を置き、思わず札幌弁で呟いた。
「千葉まで、なまら遠かったべさ……」
その瞬間だった。
みのりの動きが止まった。
みのりは、ゆっくり彩芽へ振り返る。
普段は理知的で温厚な彼女の目に、千葉愛の火が灯っていた。
「三多摩地区から千葉まで、遠くありません」
彩芽は目を丸くする。
「えっ?」
「遠くありません」
二回言った。
小春が小声で呟く。
「踏んだな」
澪も続ける。
「千葉地雷」
みのりは彩芽へ歩み寄る。
「出発地点にもよりますが、中央線方面から都心へ出て、総武線方面へ乗り継げば千葉駅へ到着できます。経路と時間帯を適切に選べば、心理的に感じるほど遠くはありません」
彩芽は戸惑う。
「でも、朝早くて疲れたって意味で……」
みのりは止まらない。
「札幌から東京までの距離と比較すれば、三多摩地区から千葉は近距離です。さらに千葉駅は県内各方面への起点です。千葉駅へ来た時点で、この旅の導入はすでに成功しています」
小春が叫ぶ。
「まだバスにも乗ってねえよ!」
沙羅が、みのりを優しくたしなめる。
「みのり、彩芽ちゃんは千葉を否定したのではなく、自宅からの移動で疲れただけだら」
みのりは少し考える。
「そうでしょうか」
澪が即答する。
「そう」
ひかりが彩芽の肩へそっと手を置き、駿河弁で忠告する。
「彩芽ちゃん、みのりの前じゃ千葉のこと悪く言っちゃだめだら。すぐ千葉モード入るもんで」
彩芽は小さく頷く。
「分かったべさ……」
みのりがひかりを振り返る。
「ひかり、今、何か言った?」
ひかりは笑顔で答える。
「何も言ってないら」
小春がにやりとする。
「さすが恋人。扱いがうまいな」
みのりとひかりが同時に振り向いた。
「恋人ではありません」
「恋人じゃないら」
澪が眠そうに言う。
「同時回答」
最後に、赤嶺美月が元気よく現れた。
「おはよう! なんや、うちが来る前にもう一話分くらい盛り上がっとるやん!」
年上の美月は、みのりを「みのりん」と呼ぶ。
みのりは、美月の姿を見ると少しだけ表情を和らげた。
「美月さん、お待ちしていました。千葉の魅力を全国へ広げるため、力を貸してください」
「任しとき、みのりん! 食レポも観光リアクションも全部やったるわ!」
小春が言う。
「美月にマイク持たせたら、佐原に着くまでに旅番組一本できそうだな」
その後、集合時刻までに参加者100名が全員そろった。
欠席者なし。
遅刻者なし。
体調不良の申告もなし。
旅行代理店の担当者が、名簿を確認して真帆へ報告する。
「参加者100名、全員受付完了しました。お荷物の積み込みも順調です」
真帆は腕時計を見る。
「定刻どおり出発できますね」
麗奈がマイクを握る。
「皆さーん、おはようございます! 本日は『戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅』へご参加いただき、ありがとうございます!」
華やかで聞き取りやすい麗奈のMCに、参加者から拍手が起きる。
今回、参加者を乗せるのは、房総半島を中心に長年地域交通を支えてきた、地元鉄道会社系の老舗バス事業者の観光バス数台だった。
内房も外房も、海沿いも山道も知り尽くした運転士たちが、三泊四日の旅を支える。
みのりは、バス事業者についても当然のように説明を始める。
「この事業者は、千葉県内の地域輸送を長年支えてきました。日々の路線運行から観光輸送まで、房総の道路を熟知しています。今回のように千葉県内を広く巡る旅には、非常に心強い存在です」
代理店担当者も続ける。
「各運転士さんには、事前に全行程を確認していただいています。先頭車と最後尾車は常時連絡を取り、全車の位置を共有します」
真帆が指示を出す。
「各号車に添乗担当とヒロインを配置します。体調不良や忘れ物があった場合は、すぐに共有してください」
ヒロインたちは複数の号車へ分乗する。
一号車には、みのり、真帆、ひかり、彩芽。
みのりのメイン解説車であり、真帆が時間と運営を管理し、ひかりがみのりの暴走を抑え、彩芽が千葉初心者として反応する。
彩芽は座席表を見て、不安そうに言った。
「うち、みのりさんと同じバスなんだべか……」
ひかりが笑う。
「大丈夫だら。千葉を褒めとけば、みのりは優しいもんで」
前の席から、みのりが振り返る。
「聞こえています」
二号車には、麗奈、美里、沙羅、美月。
麗奈がMCを担当し、美里が地元情報を補足し、沙羅が品格を整え、美月が場を盛り上げる華やかな号車である。
美月がさっそくマイクへ手を伸ばす。
「麗奈ちゃん、うちもしゃべってええ?」
麗奈は笑顔でマイクを守る。
「最初の十分は私に任せてね」
沙羅が上品に言う。
「美月さんへ最初からマイクを渡すと、佐原へ着くまでに独立番組が完成しますわ」
三号車には、小春、澪、乙実、なつめ。
東京、川崎、山形、高知と、出身地も空気も異なる四人がそろう。
なつめが元気に挨拶する。
「千葉に住んどる人も、初めて来た人も、みんな一緒に楽しむきね!」
澪もマイクを渡される。
「最初の目的地、佐原」
小春が即座に突っ込む。
「情報が行き先だけ!」
全員が乗車すると、参加者へ小さなお菓子袋が配られた。
袋の中には、千葉県産落花生を使った最中と、房総のびわを使ったゼリーが入っている。
みのりはさっそく車内マイクを握る。
「皆さん、最初の車内菓子として、落花生の最中とびわのゼリーをご用意しました。落花生は千葉県を代表する農産物の一つです。そして、びわは温暖な南房総を象徴する果物です」
別号車にいる小春の声が、連絡端末から飛んでくる。
「お菓子一個でも講義が始まるのかよ!」
参加者たちは笑いながら、最中の袋を開ける。
先ほどみのりに千葉との距離について力説された彩芽も、最中を大きく頬張った。
そして、目を輝かせる。
「ピーナッツの最中、なまらうまいべさー!」
みのりがすぐに振り返る。
「落花生です」
彩芽の動きが止まった。
「えっ?」
「千葉では、落花生という呼び方も大切にしてください」
ひかりが笑いをこらえる。
「みのり、そこまで直さなくてもいいら」
彩芽は改めて最中を口へ運ぶ。
「落花生の最中、なまらうまいべさ!」
みのりは満足そうに頷いた。
「そのとおりです」
端末から小春の声が響く。
「千葉への適応が早すぎるだろ!」
澪が短く言う。
「餌付け完了」
彩芽は、次にびわゼリーへ手を伸ばす。
「千葉、遠かったけど、お菓子はうまいべさ」
みのりが反応しかける。
ひかりが先に止めた。
「みのり。“うまい”の方だけ聞くだら」
みのりは数秒考え、静かに前を向く。
「分かりました」
真帆が少し感心する。
「ひかりさん、みのりんの制御が上手ですね」
ひかりは照れたように答えた。
「慣れてるだけだら」
やがて、各号車から出発準備完了の連絡が入る。
旅行代理店の担当者が、真帆へ報告する。
「参加者確認、荷物積載、運転士点呼、すべて完了しました。全車、定刻に出発できます」
真帆は頷いた。
「出発してください」
麗奈の明るい声が、各号車のスピーカーから流れる。
「それでは皆さん、いよいよ出発です! 最初の目的地は、水郷の町・佐原です!」
運転士が静かにアクセルを踏む。
複数の観光バスが、ゆっくりと千葉駅前を離れていく。
窓の外では、改良され立派になった千葉駅の駅舎が、少しずつ遠ざかっていった。
みのりは車内マイクを握り、参加者へ語りかける。
「ここから四日間、都市だけでも、海だけでも、夢の国だけでもない、千葉のさまざまな表情をご案内します。皆さん自身の目で、新しい千葉を見つけてください」
車内から、大きな拍手が起こる。
彩芽は窓の外を眺めながら、二つ目の落花生最中を開けた。
「千葉、思ってたよりいいべさ」
みのりが静かに振り返る。
彩芽は慌てて言い直した。
「思ってたとおり、いいべさ!」
みのりは満足そうに前を向く。
ひかりが小声で笑う。
「彩芽ちゃん、覚えるの早いら」
バスは市街地を抜け、最初の目的地である水郷・佐原へ向けて走り出した。
ツアーは、まだ始まったばかり。
それなのに彩芽は、三多摩地区から千葉駅までの距離について講義を受け、澪は横須賀線と総武線快速の名称を訂正され、小春は何度も突っ込み、ひかりはすでに自然なみのりの制御役となっていた。
三号車の窓際で、澪が眠そうに呟く。
「千葉、出発前から濃い」
小春が腕を組む。
「佐原に着く前に、もう千葉二日分くらい浴びてる気がする」
その言葉どおり、
**『戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅』**は、最初から千葉愛全開で走り始めたのだった。




