千葉ツアー、まさかの伏兵代理店が落札する ――みのりの地元愛、入札会場で思わぬ方向へ転がる
館山みのりの持ち込み企画、**『戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅』**は、ヒロ室始まって以来ともいえる大型企画として、正式に動き出そうとしていた。
もともとの企画は、9泊10日、募集人員500名。
千葉県千葉市花見川区で生まれ育ち、地元国立大学に通う“千葉愛の塊”こと館山みのりが、千葉を北総から外房、南房総、内房、そして千葉市内まで語り尽くすという、もはやバスツアーなのか県勢調査なのか分からない壮大な計画だった。
遥室長、安岡真帆、小宮山琴音、隼人補佐官によるヒロ室フロント会議では、その熱意と内容の濃さは高く評価された。
ただし、9泊10日・500名はさすがに大きすぎた。
真帆は冷静に言った。
「内容は合格です。ただし、規模が現実的ではありません」
みのりは真顔で答えた。
「千葉を正しく伝えるには、これでも圧縮しています」
琴音が資料を見ながら、静かに言う。
「圧縮後で九泊十日なのですね」
隼人補佐官は、バス台数、添乗員数、宿泊先、救護体制、食事会場、集合解散導線、最終日のイベント接続まで計算し、深いため息をついた。
「このままだと旅行企画ではなく、大規模作戦です」
最終的に、旅程は3泊4日、募集人員100名程度へ短縮された。
ただし、最後だけはみのりの熱意が通った。
千葉公園の最新鋭室内競輪場で、戦隊ヒロインサミット千葉を2000人規模で開催する。
つまり、バスツアーは現実的に縮小されたが、フィナーレは逆に巨大化した。
月島小春は、それを聞いた瞬間に叫んだ。
「小さくしたのか大きくしたのか、どっちなんだよ!」
水無瀬澪は眠そうに呟いた。
「千葉の反動」
みのりは、胸を張った。
「千葉の魅力を受け止めるには、最後に大きな器が必要です」
小春は頭を抱えた。
「言い方だけはかっこいいんだよな!」
次に決めるべきは、同行メンバーだった。
主役はもちろん、館山みのり。
千葉愛の塊であり、今回の企画責任者補佐。地元国立大学で学びながら、千葉の観光、交通、スポーツ、公営競技、海、山、牧場、水族館、道の駅まで把握している女である。
ヒロ室フロント代表として、安岡真帆が同行する。
契約、予算、進行、安全管理、旅行会社との調整を担う、実務の要である。
杉山ひかりも参加する。
みのりの恋人なのか、派生ユニット・グレースフォースの相方なのか、誰もはっきりとは言わないが、とにかく近い存在である。静岡代表として、みのりの千葉愛に真正面から向き合う役でもある。
「静岡も負けてないけど、みのりの千葉愛はちょっと資料の厚さが違うんだよね」
ひかりはそう言って、苦笑した。
月島小春は、江戸っ子ギャル枠。
千葉のお隣・東京側から、みのりの暴走に容赦なく突っ込む。
「観光バスで県勢白書配るなって!」
南部沙羅は、ハマのプリンセス。
横浜代表として、千葉の湾岸感や海沿い文化に、品格あるコメントを添える役である。
「千葉の海には、横浜とは違う開放感がありますわね」
水無瀬澪は、川崎代表。
川崎と千葉はアクアラインでつながっている、という理由で自然にアサインされた。
澪は短く言った。
「川崎から千葉、海を越えると近い」
小春が突っ込む。
「説明が短すぎる!」
さらに、千葉在住組も加わる。
今津乙実。
山形県鶴岡市の限界集落出身ヒロインだが、現在は千葉市花見川区在住。外から来た人間として、千葉に暮らす感覚を語れる貴重な存在である。
神代なつめ。
高知市出身の元気なヒロインで、みのりのバイト先のバイトリーダー。現在は同じく花見川区在住。みのりがバイト先でも千葉を語り始めると止まらないことを、誰よりも知っている。
「みのりん、バイト先でも千葉の話し始めたら止まらんきね!」
大宮麗奈は、華やかなイベントコンパニオンでMC担当。
100名規模のバスツアーと、最終日の2000人サミットをつなぐ、安定の進行役になる。
森川美里は、麗奈のイベントコンパニオン仲間で、流山市在住。
千葉県北西部の地元枠として、房総寄りに熱くなりがちなみのりへ、やわらかく釘を刺す役である。
「みのりん、房総も大事だけど、流山や東葛も千葉だからね」
みのりは即答した。
「もちろんです。今回は泣く泣く圧縮しています」
小春が言う。
「泣く泣く圧縮してこの量なんだよな」
そして、赤嶺美月。
戦隊ヒロインプロジェクトの象徴的存在であり、みのりが参加を熱望していた一人である。
みのりは美月の参加が決まった瞬間、珍しく表情を輝かせた。
「美月さんには、千葉の魅力を全国へ広げる力があります」
美月は明るく笑う。
「ええやん! 千葉ロケ、めっちゃ楽しそうやん!」
当初は、広島代表の江波のどかもアサインされていた。
みのり、ひかりと並んで地元愛の強い戦隊ヒロイン。
みのりとしても、のどかにはぜひ参加してほしかった。
しかし、スケジュール調整がうまくいかなかった。
のどかは電話口で、本当に残念そうに言った。
「すまんのう、今回は日程がどうにもならんのじゃ。みのりの千葉愛、浴びてみたかったんじゃけどね」
みのりは真面目に返した。
「残念です。のどかさんには、広島代表として千葉の地元愛を評価していただきたかったのですが」
澪がぼそっと言う。
「評価委員会だった」
代わりに投入されるのが、高城彩芽。
札幌出身の元気な妹キャラで、千葉初心者の視点を持つ。
彩芽は少し不安そうに聞いた。
「千葉って、そんなに広いんだべか~?」
みのりは即答した。
「広いです」
澪が呟く。
「即答」
小春は彩芽の肩を叩いた。
「気をつけて。千葉情報、雪崩みたいに来るよ」
こうして、同行メンバーはほぼ固まった。
だが、ここからが現実の大型企画である。
必要になるのは、旅行会社の選定だった。
3泊4日・100名規模とはいえ、普通のバスツアーではない。
複数台の観光バス。
宿泊地は九十九里、鴨川温泉、館山市。
北総、銚子、外房、南房総、内房を縦断。
最終日は千葉公園の最新鋭室内競輪場で2000人規模のサミット。
さらに、戦隊ヒロインが同行し、参加者対応や安全管理も必要になる。
ヒロ室フロントは、規約に基づいて競争入札を実施した。
入札仕様書には、かなり細かい条件が並んだ。
三泊四日の募集型企画旅行に準じた運営。
参加者100名程度のバス輸送。
添乗員配置。
宿泊、食事、休憩場所の手配。
ヒロイン同行時の安全確保。
悪天候時の代替行程。
緊急時の医療・連絡体制。
最終日の大型イベント会場への接続。
バス遅延時のサミット進行への影響管理。
真帆は慎重だった。
「今回は価格だけでは決められません。安全管理、添乗実績、バス会社との連携、緊急対応能力まで見ます」
遥室長も頷いた。
「交通公社系の大手や、老舗大手、鉄道系の大手旅行会社が応札してくれると安心ですね」
隼人補佐官も言う。
「この規模なら、大手が入ってくる可能性は高いです」
だが、開札の日。
会議室の空気が止まった。
最も安い金額を出してきたのは、ヒロ室フロントが予想していた全国大手ではなかった。
福鉄旅行 日本橋支店
九州の大手私鉄系旅行代理店である。
しかも、金額が他社よりかなり安い。
真帆が眉を寄せた。
「福鉄旅行……日本橋支店」
遥室長も少し不安そうだった。
「福鉄旅行って、あの九州の大手私鉄系だよね。名前は知ってるけど、東京じゃあんまり聞かないだよね。」
琴音は冷静に資料を見る。
「参加資格は満たしています。旅行業登録、団体旅行実績、支店所在地、保証関係、書類上の問題はありません」
隼人補佐官も数字を確認する。
「ただ、安いですね。かなり攻めた金額です」
真帆は考え込んだ。
「大手の応札を期待していましたが……。安すぎる場合、品質面の確認が必要です。入札不調も視野に入れますか」
その言葉に、会議室の扉が開いた。
経理の鬼・佳乃。
通称、けちのんである。
佳乃は資料を一瞥し、即答した。
「入札不調? あかんわ。」
真帆が説明する。
「安すぎること自体がリスクです」
佳乃は動じない。
「条件はちゃんと満たしてます。規約上も問題あらへん。価格も圧倒的に安い。ほんなら、まず確認せなあかんのは品質と実績です。感覚だけで『不調にしよう』言うて、高い会社を選ぶんは認められへん。」
小春が小声で言う。
「けちのん、今日も切れ味すげえ」
澪が呟く。
「予算の番人」
佳乃は続ける。
「ヒロ室は人気企画が増えてきてます。でも、予算まで無限に増えてるわけやあらへん。せやから、大型企画ほど、お金をかけるとこと締めるとこは、きっちり分けてください。」
真帆は黙った。
正論だった。
福鉄旅行は九州の会社である。
そこで、ヒロ室は熊本のヒロ九拠点で雑務に追われている西里香澄に確認することにした。
香澄は熊本産業交通の人気バスガイドで、団体旅行やバスツアーの現場にも詳しい。
電話を受けた香澄は、少し驚いた声を出した。
「福鉄旅行さんですか? ああ、福鉄さんなら、九州ではよう名前聞きますばい」
真帆が聞く。
「香澄さんは一緒に仕事をしたことがありますか?」
香澄は即答した。
「あります。何度もありますばい。九州内の団体旅行、学校関係、企業さんの研修旅行、イベント輸送の絡む案件でも一緒になったことがあります。担当さんは現場慣れしとる人が多かですし、バス会社との段取りもちゃんとしとります」
遥室長が少し安心したように言う。
「へぇ、評判は悪くないだね。」
香澄は現実的に続けた。
「少なくとも九州では、堅実な会社という印象ですたい。派手さは全国系の大手ほどじゃなかかもしれませんけど、団体旅行の手配や添乗の詰めはきちんとしとると思います。値段も、九州系らしく思い切って出してくることはあります」
真帆がさらに聞く。
「今回、日本橋支店です。東京側の支店についてはどうでしょう」
香澄は少し考えた。
「そこは正直、私も直接は分からんです。九州の本体は信用できます。ただ、日本橋支店の担当さんがどのくらい現場を分かっとるかは、初回打ち合わせで見た方がよかです。行程表の詰め方、バス会社との連携、緊急時の連絡体制、この三つを見ればだいたい分かると思いますばい」
真帆はメモを取った。
「かなり具体的ですね」
香澄は笑った。
「バスの現場は、紙の上だけじゃ回らんですけん」
遥室長は頷いた。
「香澄さんがそう言うなら、その会社は信頼できそうだら。」
真帆も判断する。
「日本橋支店の担当者確認と、詳細打ち合わせを条件に進めましょう」
佳乃は満足そうに言った。
「妥当です」
小春が小声で言う。
「けちのん、完全勝利」
澪が呟く。
「予算、守られた」
一方その頃。
福鉄旅行日本橋支店では、落札候補になったという連絡を受け、支店内がざわついていた。
担当者は、正直なところ、まさか本当に通るとは思っていなかった。
九州の大手私鉄系旅行会社とはいえ、東京での知名度は全国大手に比べれば弱い。
だからこそ、今回は実績作りも兼ねて、かなり思い切った金額を入れていた。
担当者は資料を見ながら、博多弁で言った。
「え、うちで決まりそうと? まあ、そこそこ思い切った金額入れたら刺さったばい。こらラッキーたい」
若手社員が笑う。
「千葉の戦隊ヒロイン企画ですよね。なんか面白そうです」
別の社員も言う。
「三泊四日の千葉県内バスツアーで、最後は二千人規模のサミット……思ったより大きか案件ですね」
そこへ、支店長が静かに口を開いた。
「ラッキーで取った仕事ほど、きっちりやらんといかん」
支店内の空気が引き締まる。
支店長は続けた。
「安く取ったから雑にやっていい仕事なんか、一つもなか。むしろ安く取った時ほど、相手は不安に思っとる。そこでちゃんとやって、初めて次につながるったい」
担当者は姿勢を正した。
「はい。千葉県内のバス会社、宿泊地、食事会場、添乗体制、緊急時対応、すぐ洗い直します」
支店長は頷いた。
「九州の会社でも、東京でちゃんと仕事できるところを見せるチャンスたい。ラッキーで刺さった仕事を、実績に変えろ」
こうして、福鉄旅行日本橋支店は単なる“安値で刺さった会社”ではなくなった。
きちんとした現場感覚と、旅行会社としての矜持を持つ会社として、本気で動き出したのである。
後日、福鉄旅行日本橋支店の担当者がヒロ室へやって来た。
担当者は明るいが、資料はしっかり準備していた。
「福鉄旅行日本橋支店です。このたびはよろしくお願いいたします」
真帆はまず、厳しめに確認する。
「今回の企画は通常の観光ツアーではありません。参加者100名規模、戦隊ヒロイン同行、複数宿泊、最終日の大型イベント接続があります。価格だけでなく、運営品質を重視します」
担当者は頷いた。
「承知しております。まず、バス導線、宿泊、食事、添乗員配置、緊急時対応、サミット会場への到着時刻管理を分けて整理させてください」
遥室長は少し安心する。
「思ったより、具体的ですね」
琴音が静かに言う。
「“思ったより”は少し失礼です」
そこで、みのりが分厚い資料を差し出した。
「こちらが、千葉県内道路混雑傾向メモです」
担当者が受け取る。
重い。
「あの……これは、道路会社さんの資料ですか?」
みのりは真顔で答える。
「私の個人メモです」
担当者は固まった。
「個人メモでこの厚さですか」
小春が横から言う。
「担当さん、まだ入口だよ」
澪が眠そうに呟く。
「千葉圧」
担当者は苦笑しながらも、資料を丁寧に開いた。
「分かりました。うちも腹くくります。千葉ば勉強させてもらいます」
みのりは真剣に頷いた。
「よろしくお願いします。千葉は、軽く扱えません」
真帆はすかさず補足する。
「ただし、資料は必要な分だけ共有してください」
みのりは答える。
「では、まず基本編を」
小春が嫌な予感を覚える。
「基本編って何ページ?」
みのりは平然と言う。
「八十ページです」
澪が呟く。
「千葉の基本、重い」
打ち合わせは、その後も続いた。
バスの台数。
添乗員の人数。
宿泊地での導線。
雨天時の代替行程。
勝浦朝市での集合管理。
外房の大型水族館でのみのり講義時間。
館山市前夜祭の進行。
最終日の千葉公園周辺への到着時刻。
最新鋭室内競輪場でのサミット開場時間。
福鉄旅行の担当者は、みのりの千葉愛に圧倒されながらも、ひとつひとつ実務へ落とし込んでいった。
「ここはバス三台で動かすなら、先頭車と最後尾車に連絡担当を置いた方がよかですね」
真帆が頷く。
「その案で検討します」
「勝浦朝市は自由行動を長く取りすぎると集合が乱れます。ここは集合場所を見えやすく決めた方がよかです」
琴音がメモを取る。
「現場感がありますね」
「最終日は鋸山から海ほたるを経由して千葉公園方面ですから、遅延リスクを見て、サミット入りは余裕を持たせましょう」
隼人補佐官が言う。
「これは助かります」
みのりも、少しずつ表情を和らげていった。
「福鉄旅行さん、千葉を理解しようとしてくださっていますね」
担当者は笑った。
「まだ理解までは遠かです。でも、仕事としてちゃんと向き合います」
その一言で、真帆の警戒も少し解けた。
最終的に、福鉄旅行日本橋支店が正式に旅行手配を担当する方向で進むことになった。
ヒロ室フロントは慎重ながらも、香澄の業界コメント、佳乃の予算判断、福鉄担当者の具体的な対応、そして支店長の仕事への姿勢を確認し、納得した。
みのりは、いよいよ実務準備へ入る。
「では、千葉再発見の旅、実務段階に移ります」
真帆が言う。
「ここからが本番です。行程、参加者管理、安全計画、サミット進行、全部詰めます」
遥室長も頷く。
「ヒロ室始まって以来ともいえる大型企画です。慎重に、でも前向きに進めましょう」
小春が笑う。
「千葉ツアーなのに、最初の山場が九州の旅行会社っていうのが面白すぎるんだよな」
美月が明るく言う。
「ええやん! なんか旅番組っぽくなってきたやん!」
沙羅は上品に微笑む。
「品格ある旅にしましょう。みのりさん、熱意は素敵ですが、参加者を千葉情報で圧倒しすぎないように」
澪が眠そうに締める。
「千葉、圧が強い」
会議が終わり、福鉄旅行の担当者は分厚い資料袋を抱えて廊下へ出た。
資料袋は、明らかに来た時より重くなっていた。
担当者は、小さく呟いた。
「千葉の仕事やと思っとったら、千葉に飲み込まれそうばい……」
その背中を見送りながら、みのりは静かに言った。
「飲み込まれるのではありません。千葉に浸るのです」
小春が即座に突っ込む。
「だからそれが怖いんだよ!」
ヒロ室始まって以来ともいえる大型企画、
『戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅』。
千葉愛と契約書と九州系旅行会社を巻き込みながら、巨大な歯車はいよいよ本格的に回り始めた。




