戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅 ――夢の国だけじゃない、みのりの地元愛が暴走する
全国各地から戦隊ヒロインが輩出されるようになると、ヒロ室の控室では自然と“お国自慢”が始まるようになった。
広島の江波のどかは、広島弁全開で語る。
「広島はええところじゃけぇね。海も山も街もあって、飯もうまいし、人情もある。そもそも地元愛いうんは、語り出したら止まらんもんなんよ」
静岡の杉山ひかりも負けていない。
「静岡だって、富士山もあるし、お茶も海もあるじゃんね。気候もあったかいし、スポーツも盛んだし。西にも東にも行けるし、地味に強いだよ。」
だが、その二人ですら一目置く存在がいた。
千葉県千葉市花見川区生まれ、花見川区育ち。
地元国立大学に通う、生粋の千葉人。
千葉のプロスポーツ、公営競技、道路事情、鉄道事情、観光地、海、山、牧場、水族館、道の駅、湾岸の風向きまで把握していると言われる女。
館山みのりである。
みのりの千葉愛は、単なる地元自慢では済まなかった。
千葉県内のプロスポーツチームの成績は日々チェックしている。試合結果だけではない。選手起用、観客動員、次節の展望、周辺道路の混み具合まで把握する。
公営競技にも詳しい。
「今日は中央競馬の開催があるので、周辺交通は少し読んでおいた方がいいです」
真帆が聞いた。
「みのりさん、あなたの専攻は地域政策でしたっけ?」
みのりは真顔で答えた。
「専攻以前に、千葉です」
遥室長は静かに首を傾げた。
「答えになっているようで、なっていませんね」
観光知識も異常だった。
浦安の巨大テーマリゾートなど、みのりに言わせれば“千葉観光の入口”にすぎない。
房総の大型観光牧場では、乳牛の名前だけでなく、性格まで説明できる。
「この子は穏やかですが、食事時間になると主張が強くなります。こちらの子は人懐っこいですが、雨の日は少し機嫌が読みにくいです」
のどかが呆れる。
「牛の性格まで覚えとるんか」
みのりは当然のように頷いた。
「千葉を理解する上で重要です」
外房の大型水族館については、シャチやアザラシの生態、ショーの見どころ、混雑しやすい時間帯、雨天時の回り方まで説明できる。
小春が叫ぶ。
「みのり、千葉の観光地じゃなくて、千葉県そのものを管理してんのかよ!」
澪が眠そうに呟いた。
「千葉の中枢」
そんな館山みのりが、ある日、分厚い企画書を抱えてヒロ室へやって来た。
会議室には、遥室長、安岡真帆、小宮山琴音、隼人補佐官がそろっていた。
みのりは、机の上にどさりと企画書を置いた。
表紙には、堂々とこう書かれている。
戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅
副題は、
夢の国だけじゃない、房総半島の底力を見よ
遥室長が企画書を手に取る。
「みのりさん、これは旅行企画ですか?」
みのりは背筋を伸ばした。
「はい。千葉の魅力を正しく、深く、多面的に発信するための大型バスツアーです」
真帆が表紙の下部を見て、動きを止めた。
「……9泊10日、募集人員500名?」
隼人補佐官も思わず身を乗り出す。
「大型観光バス、複数台どころか十数台規模になりますね」
琴音は冷静に資料をめくる。
「企画密度は高いです。ただ、初見で少し息苦しいです」
みのりは真剣だった。
「千葉を理解するには、最低限必要な規模です」
小春がいたら確実に突っ込むところだったが、この場にはいない。
代わりに、真帆が眼鏡を直して言った。
「みのりさん。“最低限”の使い方が少し強いですね」
みのりは揺るがない。
「千葉は一日では語れません。三日でも足りません。七日でも浅いです。9泊10日で、ようやく入口に立てます」
琴音が静かに言う。
「入口に九泊必要なのですね」
隼人補佐官が苦笑する。
「これは旅というより、千葉研修ですね」
企画書の内容は、驚くほど細かかった。
千葉市花見川区の出発意義。
湾岸道路と内陸道路の使い分け。
外房と内房の心理的距離。
佐原の町並みと水運。
香取神宮の歴史的意味。
犬吠埼の風。
屏風ヶ浦の地形。
九十九里浜の長さを“体感”する時間。
大原漁港、勝浦朝市、鴨川の大型水族館。
野島埼灯台、館山城、崖観音、原岡桟橋、道の駅とみうら、鋸南、保田、鋸山、海ほたる。
そして最後には、千葉公園の最新鋭室内競輪場で行う「戦隊ヒロインサミット千葉」。
真帆がページをめくりながら言う。
「内容はかなり練られています。現地理解も深い。道路導線も考えられている。観光だけでなく、地域文化、交通、食、スポーツまで入っています」
みのりの表情が明るくなる。
「ありがとうございます」
真帆は続けた。
「ただし、規模が現実的ではありません」
みのりの表情が一瞬で曇った。
「千葉を正しく伝えるには、これでも圧縮しています」
隼人補佐官が数字を示す。
「500名ですと、バスだけで十台以上。添乗、警備、救護、宿泊、食事、集合解散管理、道路渋滞対策、すべて大型イベント並みになります」
琴音も頷く。
「参加者の集中力も考える必要があります。九泊十日で千葉愛を浴び続けると、途中で情報量に溺れる人が出ます」
みのりは真顔で言った。
「千葉に浸るのです」
遥室長が穏やかに返す。
「溺れないようにしましょう」
会議室に、少しだけ笑いが起きた。
だが、みのりの企画そのものは否定されなかった。
むしろ、ヒロ室フロントの四人は、内容に可能性を見ていた。
遥室長は言った。
「みのりさん。企画の方向性は良いと思います。地元愛があり、情報があり、戦隊ヒロインが案内する意味もある」
真帆も続ける。
「ただし、第一弾としては、3泊4日、募集人員100名程度にしましょう」
みのりは固まった。
「3泊4日……」
隼人補佐官が補足する。
「100名なら、大型バス数台で現実的に管理できます。ヒロインの配置、安全管理、宿泊導線、食事対応も組めます」
琴音が資料を見ながら言う。
「それでも十分に大型企画です。ヒロ室始まって以来と言っていい規模です」
みのりは企画書を抱え、少し悩んだ。
「3泊4日では、千葉の半分も伝えられません」
真帆は即答する。
「第一弾で半分伝えようとしないでください」
遥室長が微笑む。
「成功すれば、第二弾、第三弾につなげられます」
みのりは、ゆっくり頷いた。
「分かりました。千葉再発見の入口として、3泊4日で成立させます」
琴音が小さく呟く。
「入口という言葉の重みが、他県と違いますね」
こうして、旅程調整が始まった。
まず一日目。
集合はJR千葉駅前。
みのりはここに強くこだわった。
「千葉駅前は、千葉を理解する起点です。ここから始めなければ意味がありません」
真帆は少しだけ疲れた顔でメモを取る。
「では、集合はJR千葉駅前で確定」
そこからバスは佐原へ向かう。
水郷の町並みを歩き、香取神宮へ。
北総の歴史と信仰、そして千葉県の奥行きを参加者に感じてもらう。
次に犬吠埼。
太平洋の風を受け、千葉の東端感を味わう。
そして屏風ヶ浦。
地形の迫力を見せた上で、九十九里方面へ向かい、初日は九十九里泊。
みのりは熱を込めて説明する。
「一日目で、千葉の北東部、歴史、信仰、海岸線、地形、そして九十九里への導入を一気に体感できます」
隼人補佐官が冷静に言う。
「一日目から移動距離がなかなかあります」
みのりは答える。
「千葉は広いので」
二日目は、九十九里浜から始まる。
朝の海岸を歩き、長い砂浜を体感する。
そこから大原漁港へ。
漁港の活気、海の暮らしを見せる。
続いて勝浦朝市。
参加者に地元の人との会話や食文化を楽しんでもらう。
その後、外房の大型水族館へ向かう。
みのりは目を輝かせた。
「ここでは、シャチやアザラシの生態をただ見るだけではなく、個体の動き、社会性、トレーナーとの関係性にも注目してもらいます」
真帆が言う。
「観光時間に講義を入れすぎないでください」
「五分だけです」
琴音が資料を見る。
「台本上は二十五分あります」
みのりは少し目を逸らした。
夜は鴨川温泉。
ここではヒロイン交流会を開く。
旅の参加者と戦隊ヒロインが、千葉の感想や、それぞれの地元自慢を語り合う時間である。
遥室長は頷く。
「交流会は良いですね。旅の中盤で参加者の満足度を高められます」
みのりは言った。
「ただし、千葉への理解を深める時間でもあります」
真帆が即座に言う。
「講演会にしないでください」
三日目は南房総へ入る。
野島埼灯台。
館山城。
崖観音。
原岡桟橋。
道の駅とみうら。
鋸南・保田方面。
この日程を読み上げる時、みのりの声が少しだけ変わった。
特に、館山城のところで背筋が伸びた。
遥室長が気づく。
「館山という名前に、やはり特別な思いがあるのですか?」
みのりは真面目に答える。
「私は館山市出身ではありません。ですが、館山という名を持つ者として、南房総への敬意は欠かせません」
隼人補佐官が笑いをこらえる。
「名字に責任を感じているのですね」
「はい」
琴音が静かに言う。
「本人は本気です」
夜は館山市で前夜祭。
ここでは、みのりが房総への思いを熱く語る時間を設けることになった。
真帆は少し警戒する。
「長さは何分ですか?」
みのりは答える。
「短くまとめます」
「何分ですか?」
「三十分」
「十分にしてください」
みのりはしばらく黙った。
「二十分」
「十分です」
「十五分」
遥室長が穏やかに言う。
「十二分でどうでしょう」
みのりは深く頷いた。
「受け入れます」
隼人補佐官が小声で言う。
「交渉が国際会議みたいですね」
四日目は内房を北上する。
鋸山。
そこから海ほたる。
さらに千葉公園周辺へ戻る。
そして最後に、最大のフィナーレ。
千葉公園の最新鋭の室内競輪場で、
戦隊ヒロインサミット千葉
を開催する。
規模は約二千人。
この数字が出た瞬間、会議室の空気が変わった。
真帆が確認する。
「バスツアーは100名程度。ですが、最終日のサミットは2000人規模ですね」
みのりは頷く。
「はい。旅の参加者だけで終わらせるのではなく、千葉の魅力をより広く発信するためのフィナーレです」
隼人補佐官が資料を見ながら言う。
「会場規模、導線、警備、入退場管理、ステージ進行、物販、救護、交通案内。かなり大きなイベントになります」
琴音は冷静に言った。
「ですが、締めとしては強いです。千葉市へ戻って、最新鋭の室内競輪場で開催する。地域性もイベント性もあります」
遥室長も頷く。
「ヒロ室始まって以来ともいえる大型企画になりますね」
みのりの表情が引き締まった。
「やらせてください。千葉は、夢の国だけではありません。北総も、外房も、南房総も、内房も、千葉市も、全部が千葉です。それを一つの旅と一つのサミットでつなげたいんです」
その言葉には、単なる暴走ではない芯があった。
真帆は静かに言う。
「分かりました。条件付きで承認します。規模は3泊4日、募集100名程度。安全管理と移動計画はヒロ室フロントで再確認。最終日は戦隊ヒロインサミット千葉、2000人規模。みのりさんは企画責任者補佐として入ってください」
みのりは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。必ず成功させます」
遥室長が微笑む。
「期待しています。ただし、参加者を千葉で溺れさせないように」
みのりは真顔で答えた。
「千葉に浸っていただきます」
琴音が小さく言う。
「表現が少し危険です」
会議の後、みのりは修正版の企画書を抱えて廊下を歩いていた。
そこへ、小春、のどか、ひかり、澪、麗奈が集まってくる。
小春が真っ先に聞く。
「で、どうなった?」
みのりは静かに答えた。
「9泊10日、500名案は、3泊4日、100名程度に調整されました」
のどかが笑う。
「それでも大きいじゃろ」
ひかりも頷く。
「普通に大型企画だよ」
麗奈が穏やかに言う。
「最終日はサミットもあるんでしょう?」
みのりの目が輝く。
「はい。千葉公園の最新鋭の室内競輪場で、戦隊ヒロインサミット千葉を二千人規模で開催します」
小春が固まった。
「待って。バスツアーが小さくなったのに、最後だけ大きくなってない?」
澪が眠そうに言う。
「千葉の反動」
のどかが笑う。
「みのり、抑えたように見せて最後に爆発させとるじゃろ」
みのりは真面目に答えた。
「千葉の魅力を受け止めるには、最後に大きな器が必要です」
小春が頭を抱える。
「言い方だけはかっこいいんだよな!」
やがて、ヒロ室全体に企画が発表された。
戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅
期間は3泊4日。
募集人員は100名程度。
JR千葉駅前に集合し、佐原、香取神宮、犬吠埼、屏風ヶ浦を巡って九十九里へ。
二日目は九十九里浜、大原漁港、勝浦朝市、外房の大型水族館、鴨川温泉。
夜はヒロイン交流会。
三日目は野島埼灯台、館山城、崖観音、原岡桟橋、道の駅とみうら、鋸南・保田方面。
夜は館山市で前夜祭。
四日目は内房を北上し、鋸山、海ほたる、千葉公園周辺へ。
そして最後は、最新鋭の室内競輪場で戦隊ヒロインサミット千葉。
ヒロ室始まって以来ともいえる大型企画だった。
準備は膨大だった。
バス手配。
宿泊調整。
道路状況確認。
参加者管理。
救護体制。
イベント進行。
物販計画。
ステージ演出。
地域協力。
地元メディア対応。
真帆は資料に埋もれながら言った。
「やはり大型です」
隼人補佐官も苦笑する。
「100名にしておいて正解でした。500名だったら、今頃会議室が崩壊しています」
琴音は冷静に言う。
「でも、企画としての熱量は本物です」
遥室長は頷いた。
「ええ。みのりさんの地元愛が、ヒロ室を動かしましたね」
その中心で、館山みのりは燃えていた。
「千葉は、東京の隣ではありません。千葉は、千葉として面白いんです」
小春が横で呟く。
「何回聞いても熱いな、そのセリフ」
澪が眠そうに言う。
「千葉、始まった」
こうして、館山みのりの持ち込み企画は、9泊10日・500名という巨大すぎる夢から、3泊4日・100名程度の現実的な大型ツアーへと姿を変えた。
しかし、最後には二千人規模の戦隊ヒロインサミット千葉が待っている。
千葉を愛しすぎる女、館山みのり。
その地元愛は、ついにヒロ室始まって以来ともいえる大型企画を本当に動かしてしまった。
そして、みのりは修正版の企画書を胸に抱き、静かに言った。
「まだ、千葉の半分も入っていません」
その場にいた全員が、一瞬だけ黙った。
小春がぽつりと呟く。
「……第二弾、あるな」
澪が眠そうに締める。
「千葉、終わらない」
ヒロ室始まって以来の大型企画、
『戦隊ヒロインと行く千葉再発見の旅』。
夢の国だけではない千葉を伝える、館山みのりの壮大な地元愛が、ついに走り出した。




