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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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ヒロ九クエスト第72話  北谷チャンプルー・サンセットフェスタ ――黒煙バス、アメリカンな海辺の町で浮く

浦添市での野球教室を終えたヒロ九一行は、少年少女たちの声援を背に、再び熊本ナンバーのヒロ九ラッピングバスへ乗り込んだ。


「のどか先生、また来てね!」


「梨乃お姉ちゃん、また遊ぼう!」


「ですばいのお姉ちゃん、また司会して!」


浦添の子どもたちは、バスが動き出すまで大きく手を振っていた。


江波のどかは、窓から手を振り返しながら満足げだった。


「いやあ、野球教室、ええイベントじゃったね」


南部沙羅が横目で見る。


「あなた、完全に打撃コーチだったわね」


のどかは胸を張る。


「元カープ女子じゃけぇ」


水無瀬澪が眠そうに呟く。


「今日だけで十回聞いた」


「じゃかましいわい」


ヒロ九ラッピングバスは浦添を後にし、沖縄本島をさらに北へ向かう。


エンジンが少しうなり、後方にいつもの黒煙がふわりと上がった。


西里香澄は、もはや反射的に言う。


「国の排ガス基準は一応クリアしとります!」


有村ひなた副支配人は淡々と返した。


「沖縄本島北上中も、その説明は継続なのですね」


金城伊織は窓の外を見ながら笑う。


「もう沖縄でも名物になりかけてるさー」


バス車内では、香澄がマイクを握った。


「皆さーん、次に向かいますのは北谷町ですばい! 北谷町は沖縄本島中部の海沿いにある、たいぎゃおしゃれで活気のある町ですたい!」


香澄の声は、浦添での球場MCの勢いをそのまま引きずっている。


「米軍基地が近いこともあって、街の雰囲気がちょっとアメリカンですばい! カラフルなお店、海沿いのカフェ、雑貨屋さん、若い人たちや観光客がたくさん集まる、沖縄の中でも独特なにぎわいのある町ですたい!」


伊織が補足する。


「北谷は、うちなー文化とアメリカ文化と観光地の明るさが混ざってる町さー。まさにチャンプルーの町って感じだね」


沙羅は窓の外を眺めながら言う。


「横浜とも違う港町感ね。少し派手だけど、絵になるわ」


山根梨乃は目を輝かせた。


「アメリカって、パスポートいるだか?」


ひなたが即答する。


「北谷町は日本です」


古賀菜々子支配人が疲れた顔で呟く。


「沖縄に来ても、またパスポートから説明せんといかんとね……」


澪が眠そうに言う。


「梨乃、国境感覚がふわふわ」


梨乃はなぜか嬉しそうに頷いた。


「ふわふわだで」


しばらく走ると、海沿いの明るい町並みが見えてきた。


カラフルな建物。


観光客でにぎわう通り。


英語の看板。


潮風。


そして、沖縄でありながらどこかアメリカンな雰囲気。


ヒロ九ラッピングバスは、そんな町の中で異様な存在感を放っていた。


熊本ナンバー。


派手なラッピング。


一応、国の排ガス基準をクリアしている黒煙。


沙羅が呟く。


「この町でも浮いてるわね」


香澄は胸を張る。


「目立つのは広報効果ですばい!」


会場は、北谷町の海沿いの広場だった。


イベント名は、「北谷チャンプルー・サンセットフェスタ」。


うちなー文化、アメリカンな雰囲気、観光客、地元の若者、子ども連れの家族が、気軽に混ざり合う交流イベントである。


ステージ、写真スポット、ビーチクリーン体験、子ども向けじゃんけん大会、沖縄方言と英語のあいさつ体験ブース。


どこも明るく、少し派手で、海風が似合っていた。


菜々子は会場図を見ながら言う。


「人が多いけん、浦添とはまた違う大変さがあるたい。ステージ前、写真スポット、海沿いの通路。この三つは混みやすそうやね」


ひなたも資料を見て頷く。


「夕方にかけてサンセット待ちの来場者が増えます。人流のピークは日没前です」


首藤凪はすぐに安全確認へ入った。


「海沿いの柵付近、段差、写真待ちの列を確認します」


伊織は真面目な顔で言う。


「北谷は楽しい町だけど、地元の人の暮らしもあるさー。観光気分だけで雑に動かないこと。写真を撮る時も、お店に入る時も、ちゃんと礼儀を忘れないことが大事だよ」


宇佐美千鶴が頷く。


「地域への敬意、大切ですね」


梨乃が聞く。


「チャンプルーって、なんでも混ぜたらいいだか?」


伊織は笑う。


「混ぜるけど、雑にするって意味じゃないさー。ちゃんと味がまとまるのが大事なわけ」


澪が眠そうに呟く。


「梨乃はまだ未調理」


沙羅が笑う。


「材料のまま元気に走ってる感じね」


イベントが始まると、香澄がマイクを握った。


「皆さーん、北谷チャンプルー・サンセットフェスタへようこそですばい! 海も空もお店もカラフル、今日は北谷の魅力ばたっぷり楽しんでいってくださいたい!」


熊本弁なのに、北谷の明るい空気に妙に合う。


観光客も地元の家族連れも、自然とステージへ視線を向ける。


「元気な司会の人だね」


「熊本弁かな?」


「黒煙バスの人たちだ」


香澄はその声を逃さない。


「はい、黒煙バスの人たちですばい! ただし、国の排ガス基準は一応クリアしとります!」


ひなたが袖から小声で言う。


「北谷でも自己紹介化していますね」


沙羅がため息をつく。


「もう名乗りの一部ね」


問題は、英語だった。


北谷は米軍関係者の家族や外国人観光客も多い。会場にも、米軍関係者らしい子連れ家族が何組か訪れていた。


だが、ヒロ九には英語が流ちょうなヒロインがいない。


そこで白羽の矢が立ったのが沙羅だった。


理由は、TOEIC650点。


ひなたは資料を見ながら真顔で言った。


「現有戦力では、沙羅さんが最も英語対応力を有しています」


沙羅は少し顎を上げる。


「まあ、最低限なら何とかなるわ」


のどかが小声で言う。


「その自信、危ない匂いがするね」


つばさも不安そうに見る。


「TOEICと現場の会話は、ちょっと違うとです……」


沙羅は優雅に一歩前へ出た。


相手は、米軍関係者らしい父親と母親、そして三歳くらいの男の子を連れた家族だった。


沙羅はにこやかに微笑む。


「Hello. Welcome to……Chatan……チャンプルー……Sunset……Festival」


家族は微笑んだ。


沙羅は続ける。


「Please enjoy……many……local feelings」


一瞬、空気が止まった。


父親は困ったように笑う。


母親も曖昧に頷く。


「Oh……thank you」


沙羅は、ここで引かなかった。


「This event is……mixed culture. Okinawa, America, tourist, local young people……together……happy」


再び微妙な沈黙。


香澄が小声で言う。


「伝わっとるとですか?」


つばさが小声で答える。


「気持ちは伝わっとる気がするとです」


ひなたは冷静に分析した。


「文法精度は不安定ですが、非言語情報で補完されています」


澪が眠そうに呟く。


「英語もチャンプルー」


沙羅は笑顔を保ったまま、低い声で言う。


「聞こえてるわよ」


それでも家族は悪い人たちではなく、にこやかにステージを見てくれた。


致命傷ではない。


ただし、完勝でもない。


沙羅は戻ってくると、少しだけ疲れた顔で言った。


「英会話って、現場だと急に難易度が上がるわね」


のどかが笑う。


「TOEICは試合じゃないけぇね」


その直後だった。


先ほどの三歳くらいの男の子が、なぜか梨乃に興味を持った。


梨乃は何もしていない。


ただ、ステージ横で配布用の風船を持ち、にこにこしていただけである。


だが、その無害そうな雰囲気がよほど良かったのか、男の子は梨乃へ近づいてきた。


梨乃はしゃがみ込んだ。


「こんにちはだで。風船、いるだか?」


男の子は英語で何かを言う。


梨乃は一切理解していない。


しかし、満面の笑顔で頷く。


「うんうん、そうだら〜。わかるだで〜」


沙羅が遠くから見て言う。


「絶対分かってないわね」


澪が眠そうに答える。


「でも、通じてる」


男の子は赤い風船を指差した。


梨乃はぱっと顔を明るくする。


「赤いのがいいだか? かっこいいだで。はい、赤いだで」


男の子は嬉しそうに笑う。


梨乃も同じくらい嬉しそうに笑う。


言葉は通じていない。


だが、心だけはなぜか通じていた。


ひなたが真顔で分析する。


「梨乃さんは、言語を経由せずに友好関係を構築しています」


菜々子が小声で言う。


「頭の弱いラブラドールレトリバー感がすごいたい」


梨乃は聞こえていたのか、にこにこして振り返る。


「うち、ラブラドールだで?」


沙羅が頭を抱える。


「そこは認めなくていいのよ」


男の子が小さく走り出すと、梨乃も小走りで追いかける。


「待つだで〜。走ると危ないだで〜」


凪が即座に注意した。


「梨乃さんも走らないでください」


梨乃はぴたりと止まる。


「うちもだか?」


「あなたもです」


男の子はそれを見て笑う。


梨乃も笑う。


米軍関係者の父親は、少し安心したように親指を立てた。


沙羅が呟く。


「私の英語より、梨乃の因幡弁の方が通じてる気がするわ」


澪が言う。


「ラブラドールは国境を越える」


香澄が感心したように頷く。


「梨乃ちゃん、北谷で国際交流しとりますばい」


「国際交流って言っていいのかしら、これ」


「心の交流ですばい」


沙羅は何も言い返せなかった。


実際、沙羅の英語は微妙な空気を生み、梨乃の因幡弁は三歳児を笑顔にしていた。


TOEIC650点と、頭の弱いラブラドールレトリバー。


北谷の国際交流は、試験では測れない方向へ進んでいた。


その間にも、各ヒロインは持ち場で力を発揮していく。


菜々子は全体調整役として、地元スタッフとヒロ九メンバーをつなぐ。


写真スポットの列が伸びると、すぐに誘導を変える。


「ここは二列にすると通路が詰まるたい。一列で、横に待機スペース作ろう」


ひなたは人の流れを読み、夕方にかけてステージ前が混むことを予測する。


「日没前にサンセット側へ人が移動します。ステージ終了時刻を五分前倒ししましょう」


凪は海沿いの安全管理に徹する。


「柵の近くで身を乗り出さないでください。写真は一歩下がって撮りましょう」


つばさは観光客対応で活躍する。


道に迷った観光客に、丁寧に案内する。


「お探しのお店は海沿い側ですね。ここからですと、あちらの通路を進んで、青い看板の角を右です」


英語が必要な場面では完璧ではないが、身振り手振りと丁寧さで何とか伝える。


「通じたとです……たぶん」


のどかは親子向けビーチクリーンを担当する。


「拾うだけじゃなくて、分別も大事じゃけぇね。重い袋は無理せんと、うちに任せんさい」


子どもが言う。


「のどか先生、野球もできてゴミも持てるんだね!」


のどかは笑う。


「先生の守備範囲は広いんよ」


澪が眠そうに呟く。


「外野全部」


千鶴は暑さと人混みで疲れた来場者に気づく。


「少し顔色が悪いです。日陰で休みましょう。水分取れますか?」


看護学生としての目配りは、北谷でも頼もしい。


スタッフからも感謝される。


「救護担当がいてくださると本当に安心です」


千鶴は照れながら言う。


「できることをしているだけです」


迫田ツインズは音楽体験コーナーで完全同期の手拍子を披露した。


同じ角度。


同じ速度。


同じ表情。


子どもたちは大喜びする。


「双子のお姉ちゃん、動き同じすぎる!」


二人は同時に言う。


「普通だよね?」


「ねー」


普通ではない。


澪は眠そうにしながらも、なぜか北谷の風を読む。


「あの帽子、飛ぶ」


数秒後、本当に観光客の帽子が風で飛ぶ。


沙羅が驚く。


「あなた、海風まで読むの?」


澪は言う。


「風が呼んだ」


そして梨乃は、何もしないのに場を明るくしていた。


風船を配れば子どもが笑い、貝殻を拾えば「きれいなゴミだで」と言って止められ、米国人の三歳児と並んで同じタイミングで海を見ている。


伊織が笑う。


「梨乃、北谷に馴染んでるさー」


ひなたが真面目に言う。


「文化的適応力が高いのか、何も考えていないのか判断が難しいです」


菜々子が即答する。


「後者たい」


夕方、海の向こうに太陽が傾き始めた。


会場の雰囲気は、昼間のにぎやかさから、少しだけ柔らかい空気へ変わっていく。


香澄が締めのMCを務める。


「皆さーん、本日は北谷チャンプルー・サンセットフェスタにお越しいただき、ありがとうございましたばい! うちなーも、ないちーも、観光客の皆さんも、子どもたちも、みんなで楽しく過ごせた一日になりましたたい!」


伊織が続ける。


「北谷は混ざり合う町さー。でも、混ざるっていうのは、相手を大事にすることでもあるわけ。今日みたいに笑って話せたら、それが一番だね」


会場から拍手が起きる。


沙羅の微妙な英会話も、梨乃の国境を越えた因幡弁交流も、香澄の熊本弁MCも、伊織の沖縄解説も、千鶴の体調管理も、のどかの力仕事も、凪の安全管理も、つばさの案内も、澪の謎直感も、迫田ツインズの完全同期も、全部まとめて北谷らしいチャンプルーになっていた。


イベントは無事終了する。


菜々子はほっと息をついた。


「浦添に続いて、北谷も何とか終われたたい」


ひなたも頷く。


「想定外要素は多かったですが、全体としては成功です」


沙羅が言う。


「私の英語は想定外に含めないで」


澪が眠そうに言う。


「微妙だった」


「そこは黙ってなさい」


梨乃は、米国人の三歳児に手を振る。


「また遊ぶだで〜!」


男の子も笑顔で手を振る。


言葉は最後まで通じていなかった。


それでも、友情だけは成立していた。


沙羅はその光景を見て、少しだけ悔しそうに呟く。


「英語って、何なのかしらね」


のどかが笑う。


「気持ちじゃろ」


澪が続ける。


「あと風船」


北谷の夕日が、海をゆっくり染めていく。


ヒロ九にとって、北谷イベントは無事成功だった。


だが、夕暮れの片付けが始まった頃、イベントスタッフの一人が少し慌てた様子で、菜々子たちの方へ近づいてきた。


何かを探しているようだった。


ひなたがそれに気づき、資料を閉じる。


「何か、確認事項でしょうか」


澪が眠そうに海風を見る。


「風が、何か持っていった」


梨乃が首をかしげる。


「夕日さんが持ってっただか?」


沙羅がため息をつく。


「持っていかないわよ」


菜々子は、スタッフの表情を見て小さく身構えた。


どうやら、北谷の夕暮れは、このまま静かには終わらないらしい。

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