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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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ラスベガス幻影任務――はんなり京美人、世界一派手な諜報研修に放り込まれる

新橋ヒロ室の会議室に、妙な緊張感が漂っていた。


出席者は波田顧問、遥室長、すみれコーチ、安岡真帆、そして議事録担当の小宮山琴音。画面の向こうには、ラスベガスからリモート参加している高田美雪が映っていた。


世界的イリュージョニスト。

ワンステージで数億円を動かすショービジネスの女王。

プロフィール上は、永遠の二十四歳。


琴音は議事録に、


高田美雪氏、海外より参加。年齢欄は記載保留。


と書いた。


すみれコーチがそれを見て、ぼそっと言う。


「そこ、国家機密だから」


琴音は無言で線を引いた。


画面の美雪は、ラスベガスの巨大劇場の控室にいた。背後には派手すぎる羽根飾り、金色のマント、水中脱出用らしき透明タンク、そしてなぜか巨大な白い虎の模型がある。


遥室長が目を細める。


「相変わらず背景が情報量多すぎるのら」


美雪は笑う。


「これでも控えめですよ」


波田顧問は咳払いした。


「本題に入る」


空気が一気に重くなる。


美雪は静かに言った。


「ここ数か月、ジェネラス・リンクの海外部門がかなり活発化しています。中東、東欧、南米の武装組織との接触。資金洗浄。民間軍事会社を経由した装備調達。表の顔では追いきれません」


安岡真帆が資料をめくる。


「国際テロ組織との接点も濃くなっていますね」


「ええ」


美雪は頷いた。


「私一人では限界です。助手が必要です」


すみれコーチが少しだけ表情を変えた。


「美雪さんが助手を欲しがるなんて、珍しいね」


「助手というより、後継候補です」


その言葉で会議室が静まった。


美雪は画面越しに、はっきり告げる。


「西園寺綾乃さんを、私の一座に入れてください」


遥室長が瞬きをする。


「綾乃ちゃんなのら?」


「はい」


美雪は迷いなく答えた。


「品行方正。育ちが良い。語学が堪能。海外要人と同席しても怯まない。京都の名門商家で身につけた立ち居振る舞いは、外交の場でも通用します」


波田顧問が腕を組む。


「戦闘力だけなら他にも候補はおる」


「この任務に必要なのは戦闘力ではありません」


美雪は静かに言った。


「相手に警戒されず、自然にその場にいて、必要な情報だけを拾って帰る力です」


安岡真帆が頷く。


「綾乃さんなら、確かにVIP対応もできますね」


琴音が議事録に記す。


高田美雪氏、西園寺綾乃を直接指名。理由:語学、礼儀、精神的強さ、品行方正。


すみれコーチが少し笑う。


「それに、あの子は低迷期を知ってる。クラッカー半分でも文句言わなかった子だからね」


美雪も微笑んだ。


「そう。華やかな場所に行っても、足元を見失わない人です」


数日後、綾乃は新橋ヒロ室に呼ばれた。


いつも通り、落ち着いた着物風の上品な装い。背筋はまっすぐ。表情は穏やか。だが、波田顧問と美雪の顔を見た瞬間、ただのイベント説明ではないと察した。


遥室長が説明する。


「綾乃ちゃん。これは普通の海外公演同行ではないのら」


波田顧問が続ける。


「表向きは高田美雪一座の大学生アシスタントスタッフ。京都にある、あの西の最高学府の学生という身分はそのまま使う」


綾乃は静かに頷く。


「学生スタッフとして、衣装管理や通訳、VIP応対を担当する形どすな」


美雪が画面越しに言う。


「その裏で、私の諜報活動を補佐してもらいます」


部屋が静まる。


「危険です。相手は国際テロリスト、武器商人、資金洗浄組織、場合によっては各国政府の暗部とも接点があります」


綾乃は動じなかった。


「美雪さんから直々にご指名いただけるなんて、光栄どす」


はんなりとした声だった。


だが、芯は硬い。


「うちでお役に立てるのでしたら、行かせていただきます」


すみれコーチが少しだけ目を細めた。


「怖くない?」


綾乃は微笑んだ。


「怖いどす。けど、怖いから行かへんというほど、うちは器用やありまへん」


波田顧問が満足そうに頷いた。


「決まりじゃ」


出発の日。


関西の空港で、美月が綾乃を見送った。


「綾乃、ラスベガスやで。カジノやで。ショーやで。えらい派手なとこ行くなぁ」


「任務どす」


「分かっとる。せやけど、お土産は頼むで」


「何がよろしおす?」


「ラスベガスっぽいやつ」


「雑どすなぁ」


美月は笑ったが、最後だけ真顔になった。


「無事に帰ってきいや」


綾乃も静かに頷いた。


「はい。必ず」


ラスベガス。


夜の街は、京都とは何もかも違った。


光。音。人。ネオン。巨大ホテル。カジノ。リムジン。噴水。ショーの看板。


綾乃は空港から車で移動しながら、窓の外を見つめた。


「……思うてた十倍、派手どす」


迎えに来た美雪は、巨大なサングラスに真っ白なコート姿だった。どう見ても目立つ。


「美雪さん、それで目立たへんつもりどすか?」


「ラスベガスでは地味な方です」


「基準がおかしおす」


美雪の専用劇場は、さらに常識外れだった。


数千人収容の客席。巨大なステージ装置。空中浮遊用のワイヤー。水中脱出タンク。瞬間移動ボックス。舞台袖には、スタッフが数十人。


綾乃は思わず立ち止まる。


「これ、一座というより、軍事基地どすな」


美雪は涼しい顔で言う。


「半分当たりです」


「当たってしもたんどすか」


初日の仕事は、VIPラウンジでの応対だった。


表向きは大学生アシスタント。


綾乃は黒の上品なスタッフスーツに身を包み、英語で来賓を案内する。


発音は自然。


所作は美しい。


富豪も外交官も軍関係者も、彼女をただの学生スタッフとは思わず、自然に会話を続ける。


美雪は舞台袖からそれを見ていた。


「合格」


隣の舞台監督が言う。


「彼女、本当に学生ですか?」


「ええ。とても優秀な学生です」


「京都の大学?」


「日本で一番、説明すると長くなるところです」


その夜のショーは圧巻だった。


美雪は巨大な箱に入り、炎の中で消え、次の瞬間、客席後方に現れた。


観客は総立ち。


ラスベガスが揺れるほどの拍手。


綾乃は舞台袖で呟いた。


「ほんまに消えはった……」


美雪が戻ってきて言う。


「種は教えません」


「聞いてへん顔しときます」


「その顔、聞きたい顔です」


「京都人は顔に出しまへん」


「出てます」


ショーの後。


本当の任務が始まった。


VIPラウンジに、ジェネラス・リンクと関係が疑われる武器商人が現れる。


美雪は華やかに挨拶する。


「Thank you for coming tonight. I hope you enjoyed the illusion.」


綾乃は少し後ろで控えながら、相手の言葉を拾う。


取引先の名。

次の移動先。

同行者の癖。

指輪の紋章。

グラスを持つ手の震え。


美雪は笑顔で会話しながら、ほんの一瞬だけ綾乃を見る。


その目だけで、合図が伝わる。


綾乃はすっと下がり、スタッフ用端末にメモを残した。


対象A、南米系仲介者と接触予定。ジェネラス・リンク関連コード名を発言。


その冷静さに、美雪は内心で感心する。


しかし、綾乃にも弱点はあった。


翌朝。


ホテルの朝食会場で、綾乃はパンケーキの大きさに固まっていた。


「これは……座布団どすか?」


美雪がコーヒーを飲みながら言う。


「朝食です」


「アメリカ、朝から勝負してきますなぁ」


さらにスタッフが山盛りベーコンを置く。


綾乃は真顔で言った。


「これは任務より手強いどす」


美雪は笑った。


「慣れます」


「慣れたくはありまへん」


数日後。


綾乃は少しずつラスベガスの空気に馴染んでいった。


昼は一座の大学生アシスタント。


衣装の確認。

通訳。

VIP案内。

舞台袖の整理。

スタッフとの調整。


夜は諜報補佐。


会話記録。

接触人物の整理。

不審な資金ルートの照合。

美雪の暗号メモの解読。


ある夜、綾乃は美雪に尋ねた。


「美雪さんは、ずっとこれをお一人で?」


美雪は少しだけ黙った。


「ええ。ずっと」


「しんどおすな」


「慣れます」


「それは、慣れたらあかんやつどす」


美雪は一瞬だけ目を細めた。


その言葉は、すみれコーチなら言いそうな言葉だった。


「綾乃さん」


「はい」


「あなたを呼んで正解でした」


綾乃ははんなり微笑む。


「まだパンケーキには勝ててまへんけどなぁ」


美雪は吹き出した。


ラスベガスのネオンが、夜空を照らす。


世界一華やかな街。

世界一派手なショー。

その裏で、誰にも知られない諜報任務が進んでいく。


高田美雪は、舞台で観客を魅了する幻影の女王。


西園寺綾乃は、その横で静かに学ぶ新米エージェント。


だが、彼女はただの助手ではなかった。


美雪がいつか背負い続けた任務を引き継ぐかもしれない、次の世代だった。


ショーの幕が上がる。


拍手が鳴る。


炎が走る。


光が弾ける。


そして、幻影の裏で、もう一つの戦いが始まった。

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