三陸境界線、封鎖完了――ノースフロント初陣、玲香と柚希はまだ噛み合わない
ノースフロント北方管区が正式始動したその日。
新橋では、ノムさんから届いた胡蝶蘭の立札に**「祝・新装開店」**と書かれており、遥室長が「パチンコ店じゃないのら」と頭を抱えていた。
一方、仙台分室では状況が一変していた。
大型モニターに赤い警告。
「宮城県北部、岩手県境付近の旧物流倉庫で、ジェネラス・リンク系列の活動を確認」
雪乃は即座に表情を変えた。
「ノースフロント、全員招集します」
任務地は、三陸沿岸の要衝・気仙地方。
気仙沼、大船渡、陸前高田、住田へとつながるこの地域は、豊かな海、強い漁業、水産加工、山あいの物流、復興道路が結びつく北日本の大切な回廊である。海の幸は抜群、港町の人情は厚く、山と海が近い独特の風景は、他地域にはない力強さを持っている。
その復興と物流の象徴のような土地を、ジェネラス・リンクが悪用していた。
旧冷凍倉庫を拠点に、違法物資と人員を北日本各地へ流していたのである。
雪乃は低い声で言った。
「復興物流を隠れ蓑にするなんて、最低です」
るみねぇも珍しく笑っていない。
「人の頑張り踏みにじるやつらは、許せねぇべ」
招集されたのはノースフロント全員。
仙台の玲香、盛岡の柚希、秋田の柚葉、札幌の彩芽、函館の瑠璃、八戸の紗耶、鶴岡の乙実。そして雪乃とるみねぇ。
雪乃は大型モニターの前で作戦を説明する。
「敵は凶悪です。正面、港側、山側、県境越え。逃走経路は四つ。全部塞ぎます」
玲香が腕を組む。
「正面は私ね。ノースフロントのセンターなんだから」
柚希が静かに返す。
「正面だけ見ても逃げられます。山側を押さえないと」
玲香が笑う。
「また地味なことを言うのね」
柚希も引かない。
「地味なことが勝敗を決めます」
空気が凍る。
るみねぇが小声で言う。
「始まったべ……」
雪乃は慌てない。
「玲香さんは正面制圧班。目立つ力を使って、敵の注意を集めてください」
玲香は満足げに頷く。
「分かっているじゃない」
雪乃は続ける。
「柚希さんは山側封鎖班。地元導線と退避誘導をお願いします。あなたの落ち着きが必要です」
柚希も頷く。
「分かりました」
雪乃は二人を見る。
「どちらが上ではありません。役割が違います」
初手から火種は残ったが、作戦は動き出した。
夜の旧物流倉庫。
冷凍トラックが並び、倉庫内ではジェネラス・リンクの工作員たちが違法物資を積み替えていた。
そこへ玲香が正面から現れる。
「こんばんは。ずいぶん悪趣味な夜勤ね」
高飛車な態度、華やかな立ち姿。
敵は一斉に玲香へ向く。
「女一人か?」
玲香は笑う。
「一人で十分よ」
派手な動きで敵を引きつける。
玲香の見栄っ張りは、囮としては完璧だった。
山側では柚希が静かに動いていた。
「こちらは危険です。離れてください」
地元作業員を不安にさせず、丁寧に退避させる。敵の逃走車両が山道へ向かうと、すでに柚希が封鎖していた。
「ここは通れません」
淡々としているが、強い。
港側では瑠璃が活躍する。
元観光ガイドらしく地形把握が早い。
「この細道、観光客は通りませんが、作業車なら抜けられます」
その読みが当たり、港への裏ルートを封鎖。
紗耶は人を見る。
「一番怒鳴ってる人じゃない。あの静かな男が指揮役です」
敵幹部を一発で見抜き、雪乃へ連絡。
乙実は倉庫裏で地道にコンテナを確認する。
一つずつ、黙々と。
派手さはない。
だが最後に、決定的な証拠品を見つける。
「ありました。記録媒体も残っています」
柚葉は遊撃。
危ない場所、薄い場所、誰かが抜けた穴に自然と入る。
「こっちは任せて」
主役を奪わないのに、全体を崩さない。雪乃はその動きを高く評価する。
そして彩芽。
勢いよく突っ込もうとして、るみねぇに襟首をつかまれる。
「彩芽ぇ! 待づんだ!」
「行けます!」
「行げねぇ! 罠だべ!」
るみねぇは明るいだけではない。現場で暴走を止める力がある。
彩芽は不満そうだったが、指示通り側面へ回ると、そこで待機していた敵の武装班を見事に制圧した。
「ほら、こっちで正解だったでしょ?」
るみねぇが笑う。
「そういうことだべ」
雪乃は仙台分室と現場通信をつなぎながら、全体を統括する。
「正面、維持。山側、封鎖。港側、封鎖。証拠確保。敵指揮官を確認」
逃げ場を失ったジェネラス・リンクは、最後の冷凍トラックで県境突破を狙う。
玲香が正面から飛び込む。
「逃がさない!」
敵を押し込む。
同時に柚希が山側から退路を消す。
「こちらも塞ぎました」
一瞬、二人の目が合う。
玲香が言う。
「遅いわよ」
柚希が返す。
「そちらが派手すぎるんです」
だが動きは合っていた。
玲香が押す。
柚希が止める。
その隙に彩芽と柚葉が側面から入り、るみねぇが全体をまとめ、瑠璃と紗耶が逃げ道を完全に潰す。
最後に敵幹部が金属ケースを持って走り出す。
そこへ雪乃が現場到着。
足元の金属パイプをアイスホッケーのスティックのように蹴り上げ、ケースだけを弾き飛ばす。
乾いた音。
ケースが宙を舞い、敵が転倒する。
るみねぇが叫ぶ。
「雪乃さん、ショット強すぎだべ!」
雪乃は涼しい顔。
「苫小牧では普通です」
「普通じゃねぇべ!」
こうして、ジェネラス・リンクの気仙中継拠点は制圧された。
違法物資、偽装書類、移送記録は押収。
地元業者への被害も最小限。
復興物流を悪用した凶悪な計画は、ノースフロントによって止められた。
任務後、雪乃は報告書を書く。
初陣評価:上々。
全員が持ち味を発揮。
戦闘任務にも対応可能。
そこへ、玲香と柚希の声が聞こえる。
玲香。
「正面で目立ったのは私よ」
柚希。
「逃げ道を塞いだのは私です」
玲香。
「センターが前に出るのは当然でしょ」
柚希。
「センターが一人とは限りません」
また始まった。
彩芽が小声で言う。
「この二人、任務終わってからの方が強いですね」
瑠璃が苦笑する。
「元気なのは良いことです」
紗耶は静かに笑う。
「でも、さっきは息が合っていましたよ」
乙実がぽつり。
「噛み合えば強いです」
雪乃は報告書に一行追加する。
玲香・柚希の関係改善は、引き続き最重要課題。
るみねぇが横から覗き込む。
「そこ、赤字にしといた方がいいべ」
雪乃は苦笑した。
ノースフロント北方管区の初陣は、間違いなく成功だった。
しかし、北をまとめる戦いはまだ始まったばかり。
敵より厄介な問題が、チームの真ん中に残っている。
それでも雪乃は思った。
このチームは、強くなれる。
三陸の夜風が港を抜ける。
北日本の物流回廊は守られた。
そしてノースフロントは、初めて本物の一歩を踏み出したのである。




