表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1036/1106

新装開店じゃないのら――胡蝶蘭二鉢、ノースフロント北方管区を本格始動させる

戦隊ヒロインプロジェクトの北日本分室は、ついに正式な愛称を得た。


ノースフロント。


そして組織上の呼称は、少し硬めに――


北方管区。


北海道、東北、新潟方面を視野に入れた、戦隊ヒロインプロジェクト北日本方面の実働組織である。


これまで「なんとなく北の担当」「るみねぇが頑張って何とかしている部門」「玲香と柚希がまた揉めているところ」など、呼び名からして安定していなかった組織が、ようやく正式に動き始めたのだった。


拠点は二つ。


ひとつは、従来通り新橋ヒロ室の一角。


もうひとつは、仙台分室。


ただし、登記上の所在地はなぜか新橋のままだった。


雪乃が首をかしげる。


「実働は仙台ですよね?」


遥室長は小さくうなずく。


「そうだら」


「設備も仙台ですよね?」


「そうだら」


「スタッフも仙台ですよね?」


「そうだら」


「では、なぜ登記は新橋なんですか?」


遥室長は遠い目をした。


「大人の事情だら」


そこへまさにゃんが口を挟む。


「新橋はな、歴史と伝統があるんや」


雪乃は静かに返す。


「業務実態は胡蝶蘭の温室です」


新橋側のノースフロント窓口は、たしかに看板だけは立派だった。


しかし実態は、ノムさんから以前贈られた胡蝶蘭が異様なほど美しく咲き誇る、半分植物園のような空間である。


机はある。


椅子もある。


電話もある。


だが、机の上には資料ではなく霧吹きと栄養剤。


椅子の横には段ボール。


電話はほぼ鳴らない。


その代わり、胡蝶蘭だけは完璧に管理されていた。


世話をしているのは、まさにゃんと黒崎茉莉花。


茉莉花は小倉弁で、毎朝花に話しかける。


「今日もよう咲いとるねぇ。偉いっちゃ。あんたら、ノースフロントで一番働いとるんやけね」


まさにゃんも真顔でうなずく。


「花は裏切らん」


遥室長が呆れる。


「仕事もしてほしいのら」


一方、仙台分室は別世界だった。


雪乃の出向元である、世界的に有名な大手スポーツメーカーの全面協力により整備された最新鋭オフィス。


大型モニター。


高速回線。


オンライン会議室。


北日本全域を表示できるデジタルマップ。


自治体・スポンサー・イベント会場を管理する専用システム。


情報分析用の端末。


専属スタッフ数名。


さらには休憩スペースまで美しい。


初めて訪れた遥室長は、思わず言った。


「新橋より立派だら」


雪乃は控えめに微笑む。


「設備だけなら、完全にこちらが上です」


るみねぇも目を丸くする。


「これ、ほんとの会社みでぇだべ。新橋の花屋さんとは違うわ」


新橋側からリモートで接続していたまさにゃんが抗議する。


「花屋ちゃう。総監督補佐や」


茉莉花が横から言う。


「でも今日の仕事、胡蝶蘭の向き変えただけやん」


「それも大事な仕事や」


「北日本、動いてないっちゃ」


仙台分室のスタッフは笑いをこらえていた。


ノースフロントの総監督は、芹沢遥。


静岡県富士市出身。戦隊ヒロインプロジェクト推進室の室長であり、北方管区のゼネラルマネージャーも兼ねる。普段は穏やかな駿河弁で話すが、現場の混乱には容赦なくメスを入れる。


雪乃の評価は明確だった。


「遥室長は、全体を見る人です。現場を信じて任せる判断ができる方です」


新任フィールドマネージャーは、高沢雪乃。


北海道苫小牧市出身。現在は仙台分室にほぼ常駐する。大手スポーツメーカーからの出向組で、広報担当としての調整力、スポンサー交渉力、現場対応力を併せ持つ。しかも資金調達に強い。


るみねぇが感心する。


「雪乃さん、スポンサーさんから予算引き出すのうますぎだべ」


雪乃は涼しい顔。


「地域貢献、青少年育成、防災、スポーツ振興。この四つを並べると、会社も前向きになります」


遥室長が小声で言う。


「強いだら」


雪乃はメンバー表を開きながら言う。


「私が期待しているのは、全員の持ち味を役割に変えることです」


もう一人のフィールドマネージャーは、木戸瑠海。通称るみねぇ。


福島県いわき市出身。いわき市のハワイをテーマにした大型温浴リゾート施設で活躍するトロピカルダンサーであり、ダンス指導の名手。明るく、面倒見が良く、現場の空気を温める力がある。


雪乃は言う。


「るみねぇさんは、太陽です。現場が冷えた時、最初に温度を戻してくれる人です」


るみねぇは照れる。


「やだぁ、雪乃さん褒めすぎだべ。おら、ただ踊って騒いでるだけだよ」


「それが必要なんです」


仙台市出身の佐々木玲香。


高飛車な雰囲気があり、自称ノースフロントのセンター。能力はある。見栄えも良い。だが人望は薄い。


雪乃は苦笑しながら言う。


「玲香さんは、前に出る力があります。ただし、今は前に出すぎます。センターではなく、先陣役として活かしたいです」


るみねぇがうなずく。


「玲香ちゃん、黙ってれば華あっけど、黙んねぇんだよなぁ」


盛岡市出身の中野柚希。


素朴で芯が強く、地域密着型の現場に強い。メンバーからの信頼も厚い。本来ならセンター候補だが、玲香との折り合いが悪い。


雪乃は言う。


「柚希さんは、信頼される人です。北方管区の軸にしたい。ただし玲香さんと直接ぶつけると消耗します。配置が重要です」


秋田県にかほ市出身の阿部柚葉。


華やかな人気ヒロインだが、センター争いには興味がない。


「柚葉さんは、無理に中心へ置かない方が輝きます。遊撃的に出すと強いです」


北海道札幌市出身の高城彩芽。


最年少で身体能力は高いが、荒削りで危なっかしい。


「彩芽さんは、素材としては抜群です。ただし、今はブレーキ役が必須です」


るみねぇが笑う。


「彩芽ちゃん、走り出すと止まんねぇもんね」


北海道函館市出身の菊池瑠璃。


元観光ガイドで温厚な年長者。


「瑠璃さんは現場の重しです。観光地イベントでは特に頼れます」


青森県八戸市出身の蛯沢紗耶。


人生経験豊富で温厚。隼人補佐官のお気に入りでもあるが、本人はいたって落ち着いている。


「紗耶さんは、人の感情を読むのが上手いです。玲香さんと柚希さんの間にも入れるかもしれません」


山形県鶴岡市出身の今津乙実。


限界集落育ちで粘り強い。派手さはない。


「乙実さんは、長期任務向きです。目立たなくても最後まで残れる人は、北では貴重です」


るみねぇが感心する。


「雪乃さん、もう全員の使いどころ見えでんだね」


雪乃は静かに答える。


「人を知るのが、最初の仕事です」


その時だった。


仙台分室に荷物が届く。


新橋にも同時に届いたらしい。


送り主はノムさん。


中身は、巨大な胡蝶蘭。


しかも二鉢。


新橋用と仙台用。


立札には大きくこう書かれていた。


祝 新装開店


遥室長は頭を抱える。


「パチンコ店じゃないのら」


るみねぇは腹を抱えて笑う。


「ノムさん、分かってやってっぺ!」


雪乃も口元を押さえる。


「正式始動、ではなく新装開店なんですね」


新橋側では、まさにゃんが大喜びしていた。


「新しい子が来た!」


茉莉花も霧吹きを持って駆け寄る。


「育て甲斐あるっちゃ! こりゃ葉っぱも立派やねぇ」


遥室長がリモート画面越しに言う。


「仕事もしてほしいのら」


まさにゃんは真顔で答える。


「胡蝶蘭は任せてください」


「そこだけ頼もしいだら」


仙台の胡蝶蘭は、雪乃とるみねぇが責任を持って世話することになった。


「水やり当番表を作ります」


雪乃が言うと、るみねぇは感動した。


「花の世話まで業務化すんの、さすがだべ」


一見、平和な始動日だった。


だが、仙台分室の大型モニターに赤い通知が走る。


専属スタッフの一人が顔色を変えた。


「雪乃マネージャー」


「北日本で、ジェネラス・リンク系列と思われる不審な動きが複数確認されています」


空気が変わる。


イベント調整ではない。


スポンサー対応でもない。


戦闘任務である。


雪乃はすぐに立ち上がった。


「場所は?」


「宮城県北部、岩手県境に近い物流倉庫跡です」


るみねぇの表情も引き締まる。


「来たべ」


新橋側の遥室長が静かに言う。


「ノースフロント北方管区、初の本格任務だら」


雪乃はモニターに映る北日本地図を見つめた。


胡蝶蘭が二つ咲いた日。


北の現場も、ついに動き出す。


新橋では花が咲き、仙台では警報が鳴る。


戦隊ヒロインプロジェクト北方管区――ノースフロントの本当の始まりは、ここからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ