氷都から来た現場リーダー――高沢雪乃、北の仲間をつなぐ優しいパックパス
名取市で開催された未就学児向けイベント――
「ぽかぽか避難訓練――こわくない防災教室」。
麻衣の「だんごむしポーズ体操」、萌音の防災工作、詩織の天使のような歌声は消防関係者や市職員から「子ども向け防災教育の理想形」と絶賛され、大成功のうちに幕を閉じた。
しかし、その日もう一人、遥室長の心を大きく動かした人物がいた。
スポンサー企業である世界的総合スポーツメーカー仙台支社広報担当――
高沢雪乃。
世界のトップアスリートにも愛用者が多い野球用品をはじめ、陸上、サッカー、バレーボール、スキー、アイスホッケーなど、幅広い競技を支える世界的メーカーである。
その仙台支社で広報を務める雪乃は、イベントの裏方として何度もヒロ室を支えてきた。
お菓子を差し入れ、
飲み物を配り、
緊張する新人ヒロインには
「大丈夫ですよ。」
と優しく声を掛ける。
ヒロインたちの間では、
「スポンサーさん」
ではなく、
「雪乃さん」
あるいは
「優しいお姉さん」
という存在だった。
そして名取でのイベントでは、
マエストロ藤原の天然ぶりから起きた人だかりを、誰一人嫌な思いをさせず、自然な流れで解消してみせた。
その姿を見た遥室長は、
「この人しかおらんだら。」
と確信する。
それから数週間。
正式な話し合いが行われた。
スポンサー企業側も戦隊ヒロインプロジェクトへの貢献を高く評価しており、
「地域貢献活動の一環」
という位置付けで、
高沢雪乃は出向扱いとして戦隊ヒロインプロジェクトへ正式加入することが決定した。
雪乃は二十四歳。
北海道苫小牧市出身。
色白で小柄。
華奢なのにどこか華やかで、
典型的な道産子美人だった。
しかし、その見た目からは想像できない運動歴を持つ。
苫小牧といえばアイスホッケー。
雪乃も幼い頃からリンクに立ち、
強烈なスラップショットを武器に活躍していた。
「昔はフォワードだったんです。」
と笑うが、
チームメイト曰く、
「当たるとゴールネットが揺れる。」
ほどだったらしい。
さらにフィギュアスケートでも大会上位入賞経験を持つ。
氷の上なら何でもできる。
そんなスポーツウーマンだった。
正式加入の日。
新橋ヒロ室。
会議室には
遥室長、
雪乃、
そして、いわきのるみねぇが座っていた。
るみねぇはいつもどおり明るい。
「雪乃さん〜!
来てくれで、ほんっと助がっぺ〜!」
浜通り訛りの柔らかな福島弁が部屋を和ませる。
雪乃も笑顔で頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
しかし遥室長は、
るみねぇの表情を見逃さなかった。
笑っている。
でも少しだけ目の下に疲れがある。
るみねぇは本業で、
いわき市のハワイをテーマにした大型温浴リゾート施設でトロピカルダンサーとして活躍している。
昼はレッスン。
夜はショー。
休日はイベント出演。
その合間に、
ノースフロントの現場リーダー。
さらに全国各地のヒロインへダンスレッスン。
「仙台さ行って、
盛岡さ行って、
新潟さ呼ばれで、
次の日東京だべ?」
と遥室長。
るみねぇは笑う。
「まぁ、なんとかなんだげどね。」
しかし、その「なんとか」が限界だった。
遥室長は深く頭を下げる。
「るみねぇ、ごめんだら。」
「全部背負わせてしまっただ。」
るみねぇは慌てる。
「いやいや!
そんなごどねぇべ!」
「踊るの好きだし!」
「みんな可愛いし!」
「全然平気だがんね!」
……とは言うものの、
その直後。
大きな欠伸。
「ふぁ……」
三人とも黙る。
るみねぇは赤面した。
「……あはは。」
「昨日ちっと寝不足で。」
遥室長は苦笑い。
「それが答えだら。」
雪乃も優しく言う。
「少し休んでください。」
るみねぇは観念した。
「……正直言えば。」
「もう限界ちょっと超えでだ。」
「でも誰も困らせたぐねぇがら。」
その言葉に、
遥室長はもう一度頭を下げた。
「本当に申し訳なかっただ。」
そして、
遥室長は正式に告げる。
「今日から。」
「ノースフロント現場リーダーは高沢雪乃さん。」
雪乃は姿勢を正す。
「よろしくお願いいたします。」
るみねぇは大きく拍手した。
「よがったぁ!」
「雪乃さんなら安心だべ!」
「現場見んの上手いし!」
「人怒んねぇし!」
「それでちゃんとまとまんだもの!」
雪乃は照れ笑い。
「そんな……。」
「でも、るみねぇさんがいてくださるなら心強いです。」
るみねぇも笑う。
「もちろん支えっぺ!」
「ダンスは任せで!」
「現場困ったら飛んでぐ!」
遥室長も嬉しそうだった。
「これで役割が整理できるだ。」
三人でホワイトボードを書く。
遥室長
・全体統括
・スポンサー調整
・各地域との連携
雪乃
・ノースフロント現場リーダー
・イベント運営
・スポンサー現場調整
・ヒロイン間の調整役
るみねぇ
・ダンス総監督
・ノースフロント支援
・全国レッスン
「これなら無理ねぇべ。」
るみねぇが笑う。
「休める時休んで、
また元気に踊れっぺ。」
雪乃も頷いた。
「私は北日本で育ちました。」
「北海道も東北も、
冬の厳しさも、
人の温かさも知っています。」
「派手なリーダーにはなれません。」
「でも。」
「困っている人を一人にしない現場は作れます。」
遥室長は静かに笑う。
「それで十分だら。」
その頃。
仙台では玲香。
盛岡では柚希。
まだ何も知らない二人。
しかし、
ノースフロントには、
新しい風が吹き始めていた。
るみねぇという太陽。
雪乃という北極星。
そして遥室長という羅針盤。
三人のトロイカ体制で、新しい北日本エリアが静かに動き始める。
後にヒロ室では、
「北は雪乃さんが来てから空気が変わった。」
そんな言葉が自然と語られるようになる。
その第一歩は、新橋の小さな会議室で交わされた、
「よろしくお願いします。」
という穏やかな一言から始まったのだった。




