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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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北の現場を託したい――名取ビストロ会談、雪乃スカウト作戦

宮城県名取市で行われた「ぽかぽか避難訓練――こわくない防災教室」は、大成功に終わった。


麻衣の「だんごむしポーズ」は子どもたちに大ウケし、萌音の防災メダルは保護者のスマホ写真を大量発生させ、詩織の歌は会場の赤ちゃんを一斉に泣き止ませた。


消防関係者は感心し、市の職員は何度も頭を下げた。


「防災を怖がらせずに教える。これは本当にありがたいです」


遥室長は胸を張った。


「これが本当の戦隊ヒロインだら」


そしてもう一つ、遥室長の心に強く残った人物がいた。


スポンサー企業の広報担当、高沢雪乃である。


世界的な総合スポーツ用品メーカーの仙台支社に勤務する美人広報。華奢で穏やかな雰囲気ながら、マエストロ藤原のプチ騒動を、誰も傷つけず、誰も恥をかかせず、会場の空気を壊さずに収めた。


遥室長は思った。


「この人だら」


イベント終了後。


麻衣は和歌山へとんぼ返りし、萌音は詩織とともにマエストロ藤原の最高級セダンへ乗せられて帰っていった。


詩織は車の窓から手を振る。


「遥さん、またね〜」


萌音は後部座席の広さに固まっていた。


「これ……移動する応接室ですか……?」


そんな一行を見送ったあと、遥室長は雪乃に声をかけた。


「雪乃さん、このあと少し時間あるだ?」


雪乃は少し驚いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。


「はい。大丈夫です」


二人が向かったのは、名取市内で評判のビストロだった。


地元野菜、三陸の魚介、宮城県産の肉を使った創作イタリアン。大きな店ではないが、落ち着いた照明と木の温もりが心地よい、地元で愛される店だった。


「名取って、ええ街だら」


遥室長がメニューを眺めながら言う。


「仙台に近いし、空港もある。若い家族も多い。こういう場所で子ども向けイベントをやる意味は大きいだよ」


雪乃も頷く。


「名取は派手すぎないけれど、暮らしやすいです。食材もいいですし、人の距離感も温かいです」


前菜は名取産トマトのカプレーゼ。


雪乃が一口食べて、静かに微笑む。


「おいしいですね」


遥室長も頷く。


「これは反則だら。トマトがちゃんと甘い」


続いて、地元野菜のバーニャカウダ。


三陸魚介のペスカトーレ。


宮城県産牛のロースト。


話はイベントの反省から、東北の地域性、子ども向け企画の意義へと移っていった。


だが、メイン料理が出たところで、遥室長の目が少しだけ真剣になる。


「雪乃さん。今日はお願いがあるだ」


雪乃はフォークを置いた。


「はい」


遥室長はゆっくり話し始めた。


北日本を中心に展開しているヒロ室の地域部門、ノースフロント。


仙台の玲香と盛岡の柚希が中心となるはずだったが、二人の折り合いが悪い。玲香は都市型で現実主義。柚希は岩手らしい芯の強さと理想主義がある。どちらも優秀だが、優秀同士が噛み合わない。


「二人とも悪い子じゃないだよ。能力もある。だけど、会議になると空気がピリッとするだ」


遥室長は苦笑した。


「そこで、いわきのるみねぇに暫定で現場リーダーをお願いしてるだ」


るみねぇ。


明るく、面倒見がよく、ダンス指導も抜群。トロピカルダンサーとして本職の活動もあり、全国のヒロインへのダンスレッスンも抱えている。


「るみねぇは元気な人だら。でも最近、そのるみねぇが疲れた顔をするだ」


遥室長の声が少し沈む。


「本人からも、ノースフロントにかかりきりはきついって言われた。そりゃそうだら。踊って、教えて、移動して、仲裁して……あれは無理がある」


雪乃は黙って聞いていた。


遥室長はまっすぐ雪乃を見る。


「だから、現場を任せられる人を探していただ」


「……私、ですか?」


「そうだら」


遥室長は即答した。


「雪乃さんは北海道苫小牧市出身で、今は仙台支社勤務。北海道も東北も知ってる。しかも今日みたいに、騒ぎを騒ぎにせず収められる。人を押さえつけない。でも必要な時はちゃんと動かせる」


雪乃は少し照れたように視線を落とした。


「私はただ、広報として現場を整えただけです」


「それが欲しいだよ」


遥室長は身を乗り出した。


「戦隊ヒロインは強いだけじゃだめだら。現場を温めて、空気を見て、人をつなげる人がいる。ノースフロントには、それが必要だよ」


雪乃はしばらく黙った。


やがて、静かに答える。


「気持ちは……あります」


遥室長の目が明るくなる。


「本当だか?」


「はい。ただ、会社に相談しないといけません。私は今、広報担当として動いていますし、勝手に返事はできません」


遥室長は自信満々に頷いた。


「そこは私が話をつけるだ」


雪乃が少し驚く。


「室長が?」


「もちろん。スポンサー企業との関係は大事だら。正式にお願いする。出向という形で来てもらいたい」


「出向……」


「会社にもメリットはあるだよ。北日本でのイベント展開、地域貢献、スポーツ用品メーカーとしての青少年育成。雪乃さんなら、その全部をつなげられる」


雪乃は小さく笑った。


「遥さん、口説き方が上手ですね」


「本気だからだら」


遥室長は照れずに言った。


雪乃は少し考え、穏やかに頷く。


「それなら……大丈夫かもしれません。会社と相談して、前向きに考えます」


その瞬間、遥室長は内心で大きくガッツポーズをした。


だが、表には出さない。


「ありがとうだら」


その後、二人は再び料理を楽しんだ。


雪乃は三陸魚介のペスカトーレを一口食べて、


「これはおいしいですね。魚介の味がしっかりしています」


と微笑む。


遥室長は宮城県産牛のローストに目を細めた。


「名取のビストロ、侮れんだら」


会話は少しずつ柔らかくなる。


玲香の頑固さ。


柚希の真面目すぎるところ。


るみねぇの明るさ。


北海道イベントの可能性。


東北の冬場の移動問題。


スポンサー企業の防寒ウェア活用案。


雪乃は広報らしく現実的な視点で答え、遥室長は「やっぱりこの人だ」と確信を深めていった。


食後のデザートは、名取産いちごのティラミス。


雪乃がふと笑う。


「もし本当にノースフロントへ行くことになったら、最初にやることは何でしょう?」


遥室長は即答した。


「玲香ちゃんと柚希ちゃんを同じテーブルに座らせて、喧嘩しないでご飯を食べさせることだら」


雪乃は思わず吹き出した。


「現場リーダーというより、保育士ですね」


「ほぼそうだら」


二人は笑った。


店を出ると、名取の夜風は静かだった。


仙台に近い街の灯り。


遠くに感じる空港の気配。


イベントの熱気はもう落ち着き、街は穏やかな夜へ戻っていた。


雪乃は丁寧に頭を下げる。


「今日はありがとうございました。会社には、私からも前向きに相談します」


遥室長は優しく頷いた。


「こちらこそ。雪乃さん、よろしく頼むだよ」


まだ正式決定ではない。


だが、物語はもう動き出していた。


北日本の現場をまとめる新しいリーダー。


高沢雪乃。


静かで、穏やかで、しかし必要な時には確かに前へ出る人。


名取市の夜は、静かに更けていった。

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