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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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だんごむしポーズとマエストロ騒動――名取ぽかぽか防災教室、天才指揮者の変装が雑すぎる

戦隊ヒロインプロジェクトには、全国四十七都道府県から集まった数多くのヒロインたちが所属し、地域ごとの特色を生かしたユニットも数多く誕生している。その中でも、芹沢遥室長が「この活動こそ戦隊ヒロインの原点」と最も大切にしているのが、未就学児向けユニット**「ぽかぽかトリオ」**である。


メンバーは三人。リーダーは、和歌山県紀の川市出身、「紀州の舞姫」の異名を持つ体操のお姉さん・白浜麻衣。最年少で一番小柄ながら責任感が強く、子どもたちを笑顔にすることなら誰にも負けないしっかり者だ。


真ん中を支えるのは、埼玉県飯能市出身の工作のお姉さん・宮沢萌音。器用な手先を生かした工作やバルーンアートは名人級で、泣いていた子どももあっという間に笑顔へ変えてしまう。


そして歌のお姉さんは、東京都国立市出身の北欧系クォーター・藤原詩織。透き通る歌声で童謡からアニメソングまで何でも歌いこなす一方、最年長とは思えない天然でドジっ子な性格から、みんなに妹のように可愛がられている。


三人は揃って品行方正で子ども好き。年齢と担当はどこか逆転しているものの、まるで本当の仲良し三姉妹のような温かな空気をまとっている。


ステージは教育番組のように優しく、笑って、歌って、体を動かし、子どもたちが自然と学べる内容ばかり。その評判は保護者や保育士、幼稚園・教育関係者の間でも高く、全国各地からイベント開催の依頼が絶えない。


派手な必殺技よりも、子どもたちの笑顔を守ること。


それが、戦隊ヒロインプロジェクトが誇る、いちばんやさしいユニット――**「ぽかぽかトリオ」**なのである。

宮城県名取市。


仙台市のすぐ南に位置し、東北の空の玄関口となる空港を抱えるこの街は、近年、仙台のベッドタウンとして人口が伸び、若いファミリー層が増えている元気な街である。買い物にも通勤にも便利で、海も空港も住宅地もある。子育て世代が暮らしやすい、東北でも勢いのある都市――それが名取市だった。


そんな名取市の市民ホールで、未就学児向けユニット「ぽかぽかトリオ」による防災イベントが開催されることになった。


タイトルは、


「ぽかぽか避難訓練――こわくない防災教室」


防災を怖いものとして教えるのではなく、体操、工作、歌で、子どもたちが自然に身につけられるようにするイベントである。


この日のリーダー・白浜麻衣は、朝からすでに過酷だった。


和歌山県紀の川市の実家で、早朝からみかん畑の手伝い。


「麻衣、今日は東北やろ。無理せんでええぞ」


父に言われても、麻衣は笑顔だった。


「大丈夫。子どもらに防災教える日やから」


みかん箱を運び終えると、そのまま関西空港へ。飛行機で仙台空港へ飛び、名取へ直行する超ハードスケジュールである。


だが、麻衣は文句を言わない。


「子どもが笑って覚えてくれるなら、それでええ」


これが麻衣だった。


工作のお姉さん・宮沢萌音は、飯能から自力で名取へ到着。大量の紙皿、色紙、シール、ひもを詰めた工作バッグを抱えていた。


「今日は防災メダルを作ります。百人分あります」


相変わらず準備が良い。


問題は歌のお姉さん・藤原詩織である。


方向音痴の詩織を一人で東北へ送るのは、ヒロ室としても危険と判断していた。だが今回は、心配無用だった。


「パパの運転で来ました〜」


詩織は満面の笑みで市民ホールに現れた。


送ってきたのは父・藤原聡。世界的に有名なオーケストラ指揮者であり、音楽に関しては一切妥協しないことから“マエストロ藤原”と呼ばれる人物である。


ただし、娘には激甘だった。


「詩織、今日も無理をしないように。喉は大事に。水は飲んだかい?」


「飲みました〜」


「楽譜は?」


「あります〜」


「偉いね」


麻衣が小声で言う。


「詩織ちゃん、めっちゃ甘やかされてるな」


萌音も頷く。


「でも、いいお父さんですね」


イベントは満員だった。


名取市の親子連れ、保育関係者、消防関係者、市の職員。会場には防災ヘルメットの展示や非常食コーナーもあり、未就学児向けとは思えないほど本格的だった。


最初は麻衣の「ぽかぽか避難体操」。


「地震が来たら、まず頭を守るよ!」


「だんごむしポーズ!」


子どもたちが一斉に丸くなる。


「揺れがおさまったら、走らない!」


「ぺたぺた歩き!」


麻衣は難しい言葉を使わない。


全部、子どもの体で覚えられる動きにしていく。


消防関係者が感心する。


「これは分かりやすいですね」


続いて萌音の「防災メダルづくり」。


紙皿に色紙を貼り、ひもを通し、表には「できた!」のシール。


「だんごむしポーズができたら、このメダルをおうちで見せてね」


子どもたちは真剣に作る。


少し曲がったメダルも、シールだらけのメダルも、全部宝物だった。


最後は詩織。


「じしんがきたら、あわてない」


優しく、覚えやすい歌だった。


詩織の歌声がホールに広がると、子どもたちは自然と口ずさむ。泣きそうだった子も、いつの間にか手拍子をしている。


客席の後方では、帽子、眼鏡、マスク姿のマエストロ藤原が、遥室長と並んで座っていた。


完全変装のつもりである。


しかし、隠しきれない。


姿勢が良すぎる。

拍手のリズムが正確すぎる。

娘の歌に合わせて、無意識に小さく指揮をしている。


「あれ?」


「あの人……」


「マエストロ藤原じゃない?」


ざわめきが広がる。


藤原聡は天然でいい人なので、声を掛けられると断れない。


「握手いいですか?」


「もちろんです」


「サインを……」


「はい、どちらに?」


「写真を……」


「構いませんよ」


人だかりができ始める。


遥室長は青ざめた。


「これはまずいだら……」


ステージ上では防災教室の真っ最中。子どもたちは集中している。ここで会場が騒がしくなるのは避けたい。


その空気を察知したのが、スポンサー企業の広報担当・高沢雪乃だった。


世界的に有名な総合スポーツ用具メーカーの美人広報担当で、戦隊ヒロインプロジェクトのイベント運営にもたびたび協力している人物である。華奢で穏やかな雰囲気だが、現場を見る目が鋭い。


雪乃は静かに動いた。


「皆さま、ありがとうございます。お子さまたちが今、防災のお勉強をしていますので、少しだけ通路を空けていただけますか」


声は柔らかい。


だが、立ち位置が絶妙だった。


人の流れをふさがず、押し返さず、自然に分散させる。前へ出そうな人にはそっと手を添え、後ろへ案内する。マエストロ藤原には笑顔で軽く会釈し、さりげなく人だかりから守る。


力技なのに、乱暴ではない。


強いのに、優しい。


数分後、ざわめきは収まっていた。


マエストロ藤原は紳士的に頭を下げる。


「ありがとうございます。助かりました」


雪乃は軽く会釈する。


「いえ。お嬢さまの大切なステージですから」


何事もなかったかのように振る舞う雪乃を見て、遥室長の中で何かが閃いた。


「……この人だら」


現場を荒らさず、空気を壊さず、人を動かす力。


遥室長はそっと近づく。


「雪乃さん、このあと少し時間いただいてもいいだ?」


雪乃は少し驚いたように目を上げ、すぐに穏やかに頷いた。


「はい。もちろんです」


イベントは最後まで大成功だった。


消防関係者は麻衣の体操を絶賛した。


「怖がらせずに避難動作を教えるのは難しいのですが、これは本当に実用的です」


市の職員も感謝する。


「親子で防災を学べる、理想的なイベントでした」


遥室長は胸が熱くなる。


「これが本当の戦隊ヒロインだら。派手な戦いより、子どもが自分の命を守れるようになることの方が、ずっと大事だら」


終了後、三人はそれぞれ帰路へ。


麻衣は和歌山へとんぼ返り。


「明日も朝から畑やから」


萌音が目を丸くする。


「本当に休まないんですね」


麻衣は笑った。


「休むのは移動中やね」


詩織は萌音の手を取る。


「萌音ちゃん、一緒に帰ろう。パパの車、広いよ」


「いいんですか?」


駐車場へ行くと、そこには最高級の大型セダンが待っていた。重厚な車体、静かなエンジン音、後部座席の広さ。明らかに普通の車ではない。


萌音は思わず固まる。


「……これ、すごい車ですね」


詩織はにこにこする。


「パパの車、乗り心地いいよ」


マエストロ藤原は微笑む。


「萌音さん、どうぞ。詩織がお世話になっています」


萌音は恐縮しながら乗り込む。


「工作バッグが場違いです……」


詩織は楽しそうに笑う。


こうして、名取のぽかぽか防災教室は幕を閉じた。


子どもたちは防災メダルを胸に帰り、保護者は安心を持ち帰り、消防関係者と市の職員は深く感謝した。


そして遥室長は、高沢雪乃という存在に、静かに目を留めていた。


名取の春のような穏やかな一日。


それは、ぽかぽかトリオの優しさと、次の物語の気配を残して終わった。

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