ぽかぽか体操ひろば――麻衣お姉さん、園児を全員笑顔にする
戦隊ヒロインプロジェクトには、全国四十七都道府県から集まった数多くのヒロインたちが所属し、地域ごとの特色を生かしたユニットも数多く誕生している。その中でも、芹沢遥室長が「この活動こそ戦隊ヒロインの原点」と最も大切にしているのが、未就学児向けユニット**「ぽかぽかトリオ」**である。
メンバーは三人。リーダーは、和歌山県紀の川市出身、「紀州の舞姫」の異名を持つ体操のお姉さん・白浜麻衣。最年少で一番小柄ながら責任感が強く、子どもたちを笑顔にすることなら誰にも負けないしっかり者だ。
真ん中を支えるのは、埼玉県飯能市出身の工作のお姉さん・宮沢萌音。器用な手先を生かした工作やバルーンアートは名人級で、泣いていた子どももあっという間に笑顔へ変えてしまう。
そして歌のお姉さんは、東京都国立市出身の北欧系クォーター・藤原詩織。透き通る歌声で童謡からアニメソングまで何でも歌いこなす一方、最年長とは思えない天然でドジっ子な性格から、みんなに妹のように可愛がられている。
三人は揃って品行方正で子ども好き。年齢と担当はどこか逆転しているものの、まるで本当の仲良し三姉妹のような温かな空気をまとっている。
ステージは教育番組のように優しく、笑って、歌って、体を動かし、子どもたちが自然と学べる内容ばかり。その評判は保護者や保育士、幼稚園・教育関係者の間でも高く、全国各地からイベント開催の依頼が絶えない。
派手な必殺技よりも、子どもたちの笑顔を守ること。
それが、戦隊ヒロインプロジェクトが誇る、いちばんやさしいユニット――**「ぽかぽかトリオ」**なのである。
全国四十七都道府県からヒロインが集まり、日本各地で地域密着イベントを展開する戦隊ヒロインプロジェクト。
その中でも、芹沢遥室長が「一番大事にしているユニット」と公言するのが、未就学児向けユニット「ぽかぽかトリオ」である。
体操のお姉さん・白浜麻衣。
工作のお姉さん・宮沢萌音。
歌のお姉さん・藤原詩織。
まるで教育番組から飛び出してきたような三人は、この日、埼玉県さいたま市大宮区の大型ショッピングセンターへやって来た。
新幹線も在来線も集まる関東有数の交通拠点・大宮。買い物にも遊びにも便利な街として知られ、休日ともなれば多くの家族連れで賑わう。
今回のイベントも数週間前から告知されており、開場前には親子連れの長い列ができていた。
「ぽかぽかトリオ、楽しみ!」
「麻衣お姉さんに会える!」
子どもたちの声が響く。
一方、その頃。
リーダー・麻衣は神戸でNSTの任務を終えたばかりだった。
空港へ駆け込み、始発便で羽田へ。
「東京着いた!」
そのまま電車を乗り継ぎ、大宮へ到着する。
かなりの強行日程だったが、疲れた様子はまったくない。
「今日は子どもたちと遊ぶ日やから!」
それだけで笑顔になれるのが麻衣だった。
萌音は飯能市から私鉄を乗り継いでやって来る。
大きなバッグにはバルーン、折り紙、工作道具。
「今日は百個くらい風船作る予定です。」
既にやる気満々だった。
そして最大の不安要素。
歌のお姉さん・詩織。
方向音痴である。
ヒロ室スタッフは前夜、時刻表より詳しい乗換メモを作成していた。
「四号車付近で降りる」
「改札を出たら左」
「駅前の大きなアルディージャ色の看板を目印」
「困ったら駅員さんに聞く」
そのメモを両手で握り締め、
「えっと……左……あっ、右だった……」
「違う違う、左……」
途中で二度駅員に助けられながら、なんとか到着。
麻衣が笑う。
「詩織ちゃん、今日は奇跡やな。」
詩織も胸を張る。
「メモがすごかったです!」
萌音が小さく拍手した。
「スタッフさんが一番頑張ってますね。」
午前十一時。
イベントスタート。
麻衣が元気よく飛び出す。
「みんなー!こんにちはー!」
「こんにちはー!」
返事だけで会場が明るくなる。
まずは「ぽかぽかステップ体操」。
幼稚園教諭を本気で目指している麻衣が考えたオリジナル体操である。
「おひさまジャンプ!」
「にこにこターン!」
「ぽかぽかハイタッチ!」
難しい振り付けは一つもない。
二歳でも真似できる。
三歳なら笑って踊れる。
保護者も自然と参加できる。
泣いていた女の子が、麻衣の笑顔につられて少しずつ手を動かす。
その横で泣いていた男の子も、いつの間にかジャンプしている。
「できたー!」
拍手。
会場も拍手。
保護者の中には目を潤ませる人までいた。
続いて萌音の工作コーナー。
犬。
ウサギ。
花。
剣……ではなく安全なステッキ。
「わぁー!」
風船が形になるたび歓声が上がる。
萌音は一人一人に笑顔で手渡す。
「どうぞ。」
「ありがとう!」
子どもたちは宝物のように抱きしめる。
最後は詩織。
澄み切った歌声で童謡メドレー。
途中で歌詞を一番だけ飛ばしてしまう。
「あっ。」
照れて赤くなる。
子どもたちは気付いていない。
むしろ、
「もう一回!」
アンコール。
詩織も笑顔になった。
イベントは大成功。
ステージ終了後も写真撮影や握手会が続き、最後まで温かい空気に包まれていた。
その時だった。
若い母親が青ざめて駆け寄る。
「すみません……!」
「息子が……いません!」
スタッフの顔色が変わる。
だが麻衣だけは違った。
NSTで培った経験がすぐに働く。
騒ぎにすれば他の子どもも不安になる。
親も焦る。
だからこそ、静かに。
「萌音ちゃん。」
「はい。」
「風船配りながら遊び場お願い。」
「分かりました。」
「詩織ちゃん。」
「うん。」
「歌いながら館内歩いて。」
「任せて。」
「私はサービスカウンターと水槽広場行く。」
誰にも迷子捜索とは気付かせない。
イベントの延長のように三人は自然に散っていく。
萌音は風船を配りながら子どもたちと話す。
「男の子見なかった?」
「さっき、お魚見に行った!」
詩織は歌を歌いながら歩く。
歌声につられて子どもたちが集まる。
その輪の中には迷子はいない。
麻衣は水槽前へ向かった。
そこには、小さな男の子。
夢中で魚を見ていた。
麻衣はしゃがみ込む。
「お魚さん、好きなん?」
「うん!」
「お母さんも探しとるよ。」
男の子はハッとする。
「……ごめんなさい。」
麻衣は手をつなぐ。
「一緒に帰ろ。」
数分後。
母親と再会。
「ありがとう……!」
涙ぐむ母親。
男の子も抱きつく。
周囲の人たちは何が起きたか分からない。
「迷子だったらしいよ。」
「全然気付かなかった。」
イベントの温かな空気は、一度も壊れなかった。
麻衣が小さく笑う。
「よかった。」
萌音もほっと息をつく。
詩織は安心して涙ぐんでいた。
「見つかってよかったぁ……。」
帰り際。
ショッピングセンターの支配人が頭を下げた。
「迷子騒ぎを誰にも気付かせず解決するなんて、本当に見事でした。」
麻衣は少し照れながら答える。
「子どもたちには、今日を『楽しかった日』として覚えていてほしいんです。」
その言葉に、萌音と詩織も静かに頷いた。
派手な必殺技もない。
大きな戦いもない。
それでも三人は、大切なものを守った。
笑顔。
安心。
そして、子どもたちの楽しかった思い出。
それこそが、「ぽかぽかトリオ」にしかできない、いちばん優しい任務だったので




