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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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下呂湯けむり追跡帖――浴衣ヒロイン、足湯スタンプラリーを守る

下呂温泉公演二日目の昼。


日本三名泉のひとつ、下呂温泉の温泉街は、今日もゆったりとした旅情に包まれていた。


飛騨川沿いに並ぶ旅館、湯けむり、土産物屋、足湯、温泉まんじゅう。浴衣姿の観光客がそぞろ歩き、川の音と下駄の音が混ざる。派手さよりも、じわじわ染みる温泉地の良さがある。


そんな温泉街で開催されていたのが、湯巡り足湯スタンプラリーだった。


足湯を巡って台紙にスタンプを押し、全部集めると限定記念品がもらえる。子ども連れにも、年配客にも、浴衣で歩きたい若い客にも人気の、いかにも下呂温泉らしい企画だった。


ところが、その台紙と景品の一部が消えた。


犯人はジェネラス・リンクではない。


ただの転売ヤー。


下呂温泉限定の記念品をまとめて盗み、ネットで売りさばこうとした小悪党だった。


しかし、温泉街の空気は壊せない。


騒ぎになれば、観光客の楽しい気分に水を差す。


ここで本来なら隼人補佐官、波田顧問、まさにゃんが前に出るはずだった。


だが三人は前夜の徹マンで壊滅していた。


隼人補佐官は布団から出てこない。

波田顧問は朝食後に新聞を逆さまに読んでいる。

まさにゃんは「柳ヶ瀬の帝王にも休息が必要」と意味不明なことを言って沈没。


遥室長は怒っていた。


「何やってるのら。仕事中だら」


一方、すみれコーチだけは絶好調だった。


前夜の徹マンで勝ち切り、朝風呂まで済ませ、顔色がやたら良い。


「騒ぎにしないよ。浴衣で観光客に紛れて捜索。足湯めぐりの延長に見せるんだ」


美月が呆れる。


「すみれコーチ、なんで徹マン明けで元気なんや」


すみれコーチは笑う。


「勝ったからね」


こうしてヒロインたちは浴衣姿で温泉街へ出た。


美月、真央、真白、美音、明日香、ひかり、みのり、澪、沙羅。


全員、完全に観光客に見える。


が、実際は捜索任務である。


……ただし、美月はすぐにファンに囲まれた。


「美月ちゃんだ!」


「写真いいですか?」


「河内のスピーカー、生で見たかった!」


美月はすぐ得意げになる。


「しゃあないなぁ。一枚だけやで」


一枚で終わるわけがない。


真央も巻き込まれる。


「真央ちゃんもお願いします!」


真白にも声がかかる。


「真白先生、物流講座見ました!」


真白は困る。


「先生ではありません」


三人は完全にファンサービスモード。


すみれコーチが遠くから低い声で言う。


「仕事」


美月。


「ファンサービスも仕事や!」


真央。


「半分は本当だがね」


真白。


「でも、捜索もしないと……」


その頃、ひかりとみのりのグレースフォースは冷静だった。


スタンプ台の位置、景品交換所、目撃情報、土産物店の防犯カメラの向き。二人は短時間で犯人の動線を整理していく。


ひかりが言う。


「人通りの多い場所は避けていますね」


みのりが頷く。


「川沿いから裏路地へ抜けた可能性が高いです。紙袋か箱を持っているはずです」


澪は飛騨川の方を見ながら、ぼそっと言った。


「そっち、逃げにくい」


沙羅は前に出ないが、子ども連れの不安を和らげるのが妙にうまい。


「大丈夫ですよ。スタンプラリー、続けられますから」


美音は周囲の音に耳を澄ませる。


「紙袋の擦れる音がしました。裏の細道の方です」


明日香は路地の気配を読むように目を細める。


「温泉街の裏道、案外入り組んでるだら」


その時、いつの間にかたつをが現れた。


美月が叫ぶ。


「お前どこから出てきたんや!」


たつをのフリップ。


ゲロゲロ


「まだカエル設定やっとるんか!」


次のフリップ。


台紙、こっち


美月。


「急に有能になるな!」


たつをの案内で、一行は細い湯路地へ向かう。


そこにいた。


大きな紙袋を抱えた男。


男は目が合った瞬間、走り出した。


美月の目が光る。


「待たんかい!」


浴衣姿のまま駆け出す。


裾がひるがえり、下駄が石畳を鳴らす。少し色っぽいのに、本人は完全に追跡モードだった。


真央も走る。


「下駄で走るの、思ったより大変だがね!」


美月が叫ぶ。


「文句言いながら追え!」


真央は器用に浴衣の裾を押さえながら、犯人の進路を塞ぐ。普段はしゃべり倒すタイプだが、こういう場面では動きが意外に鋭い。


「そっちは足湯だで、逃げたら湯に落ちるがね!」


犯人が方向転換する。


そこへ、みのりが入った。


戦隊ヒロイン一の武闘派。


浴衣姿でも動きが違った。


一歩踏み込み、相手の進路へ滑るように入る。帯を崩さず、裾も乱さず、腕の動きだけで犯人のバランスを崩す。


華やかな浴衣姿なのに、身のこなしは完全に戦闘仕様。


美月が思わず叫ぶ。


「みのり、浴衣でそれやるんか!」


みのりは涼しい顔。


「問題ありません」


犯人はなんとか横を抜けようとする。


そこに、ひかり。


「こちらは混雑しています。別の道へどうぞ」


観光客には自然な案内。

犯人には完全な封鎖。


グレースフォースの連携は完璧だった。


犯人は川沿いへ逃げる。


だが、そこに澪がいた。


「こっちは通れないよ」


犯人は反対方向を見る。


澪。


「向こうは木曽川だし」


美月が突っ込む。


「澪、それ飛騨川や!」


澪。


「たぶん川」


犯人は余計に混乱する。


そこへ、たつをがフリップを掲げる。


逃げても湯冷めするだけ


美月が笑う。


「ええこと言うやん!」


犯人が最後に足湯横の細道へ飛び込もうとした瞬間、美月が浴衣姿のまま横から回り込んだ。


「そこまでや!」


たつをもなぜか足元から滑り込む。


フリップ。


通行止め


犯人はたつをに気を取られ、足が止まる。


その隙に美月が紙袋を押さえ、真央が腕を取り、みのりが静かに体勢を崩す。


三人の軽いアクションは、観光客から見るとまるで温泉街の特別ショーだった。


観客が拍手する。


「すごい!」


「浴衣アクションだ!」


「たつをも動いた!」


美月は息を整えながら言う。


「下呂温泉の平和、守ったで」


たつを。


ゲロゲロ


「それもうええ!」


盗まれたスタンプ台紙と限定景品は無事回収された。


子どもたちは大喜び。


「景品もらえる!」


「ありがとう、ヒロインさん!」


温泉街の商店主も頭を下げる。


「助かりました。騒ぎにならずに済みました」


旅館の女将たちも感謝する。


「浴衣で自然に動いてくださったから、お客様も怖がらずに済みました」


すみれコーチは満足そうだった。


「いい動きだったね。美月、真央、みのり、たつをも上出来」


美月が得意げに笑う。


「まあな」


たつを。


本日のMVP候補


美月。


「調子乗るな」


ホテルに戻ると、遥室長がヒロインたちを出迎えた。


「みんな、よくやったのら。温泉街の雰囲気を壊さず、きっちり解決しただら。たつをも今日は偉かったのら」


たつをのフリップ。


準フロント待遇希望


美月。


「またそれか!」


だが遥室長の表情はすぐ険しくなる。


「それに比べて……」


視線の先には、徹マン組。


波田顧問、まさにゃん、隼人補佐官。


三人ともまだ使い物にならない。


まさにゃんは「地域交流の疲れが……」と言い訳し、波田顧問は目をそらす。


そして夕方過ぎ。


隼人補佐官が寝ぼけた顔でロビーに現れた。


「……何かあったの?」


美月が即座に叫ぶ。


「全部終わったわ!」


遥室長は腕を組む。


「隼人くん、あとで話があるのら」


隼人補佐官の顔から血の気が引く。


すみれコーチだけが笑っていた。


「徹マンは計画的にだね」


下呂温泉の足湯スタンプラリーは無事に再開された。


温泉街にはまた、浴衣姿の観光客の笑い声が戻る。


川の音。

下駄の音。

足湯の湯気。

温泉まんじゅうの甘い匂い。


下呂温泉の平和は守られた。


ただし、ヒロ室フロント内では新たな規則が検討されることになる。


徹夜麻雀後の任務参加能力に関する基準


琴音は、ものすごく真面目な顔で議事録を作り始めていた。

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