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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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最高戦略という名の徹マン――下呂温泉、真面目な会議は五分で終わる

下呂温泉の大型ホテルで行われた、ヒロ室東海(仮称)の大衆演芸風ステージ初日。


一時間ほどのゆるい公演は、予想以上の盛況だった。


美月のやかましい温泉トーク、真央の温泉まんじゅう食レポ、真白の観光地物流講座、明日香の長すぎる巫女講座、そして美音のハーモニカ独演。客席からは拍手と笑い、さらにはおひねりまで飛んだ。


もっとも、そのおひねりは遥室長とけちのんによって一円残らず回収された。


「これは戦隊ヒロインプロジェクトとして、お客様からいただいたものです」


「今後の活動費として有効に活用させていただきます」


美月は最後まで「ヒロ室ドチケすぎる!」と怒っていたが、温泉と夕食の飛騨牛で少しだけ機嫌を直した。


そして夜。


ホテルの一室。


波田顧問と隼人補佐官の部屋に、ヒロ室フロントが集まっていた。


遥室長、隼人補佐官、まさにゃんこと葛城正男室長代理、波田顧問、すみれコーチ、けちのん、小宮山琴音。


なお、たつをはいない。


珍しくいない。


その事実だけで、部屋は少し静かだった。


琴音がノートパソコンを開く。


「それでは、戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議を始めます」


名前だけは壮大だった。


議題は、ヒロ室東海(仮称)のこれまでの活動について。


隼人補佐官が資料を手に立ち上がる。


「まず、愛知、三重、岐阜の東海三県を巡回した結果ですが、各地域ごとに非常に明確な特色があり、地域密着型イベントとの相性は極めて良好です」


都内出身らしい、丁寧な標準語。


春日井、高浜、豊川、豊橋。

津、鈴鹿、四日市、志摩、鳥羽。

笠松、岐阜市、大垣、関。


隼人補佐官は、来場者数、物販売上、スポンサー評価、SNS反応を手際よく説明していく。


「特に、ご当地ヒロインを中心に据えた構成は反応が良く、山田真央さん、伊吹真白さん、山本あかりさん、稲生明日香さんの地元性は大きな武器になっています」


遥室長が頷く。


「地域の顔が見えるのは強いだら」


隼人補佐官はさらに続ける。


「また、赤嶺美月さんと山田真央さんのアクの強さは、当初は制御困難と見ていましたが、イベントではむしろ推進力になっています」


波田顧問が笑う。


「制御できればな」


「はい。そこが課題です」


そして資料の次のページ。


大きく書かれていた。


たつを効果


けちのんが眉を上げる。


「項目化されていますね」


隼人補佐官は真顔で言った。


「はい。私が試験的に仕込んだタツノオトシゴのゆるキャラ、たつをですが、想定以上の人気を獲得しています。特に美月さんとの掛け合いは東海イベントの名物になりつつあります」


まさにゃんが腕を組む。


「呼んでないのに来るのは問題じゃないか?」


「問題です。ただ、来ると盛り上がります」


すみれコーチが笑う。


「じゃあ、問題だけど戦力だねぇ」


隼人補佐官は最後に資料を閉じた。


「次回以降は、静岡県を重点地域として、東部、中部、西部をくまなく回る計画を提案します。東海道沿線、伊豆、富士方面、駿河湾沿岸を押さえれば、ヒロ室東海(仮称)はかなり強固になります」


ほぼ満点の報告だった。


理路整然。

数字もある。

課題も整理されている。

今後の展望も具体的。


琴音が高速で議事録を打つ。


「以上です」


時計を見る。


開始から五分十二秒。


波田顧問が深く頷いた。


「よし」


全員が次の議題に入るのかと思った。


波田顧問は言った。


「やるぞ〜」


その瞬間、まさにゃんの目が輝いた。


隼人補佐官が押し入れを開ける。


出てきたのは、麻雀牌。


すみれコーチが手を鳴らす。


「待ってたよ」


琴音が固まる。


「……え?」


波田顧問。


「これより、戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略を開始する」


琴音。


「それ、麻雀ですよね」


まさにゃん。


「最高戦略だ」


けちのんは無言で立ち上がった。


「失礼します」


遥室長もため息をつく。


「また始まったのら。琴音ちゃん、女子部屋行くだら」


琴音はノートパソコンを抱えた。


「議事録は五分で終わりました」


こうして、遥室長、けちのん、琴音はそそくさと退室した。


残った部屋では、すでに牌が混ざる音がしていた。


一方、ヒロイン部屋では女子会が始まっていた。


美月、真央、真白、美音、明日香、ひかり、みのり、澪、沙羅。


そこへ遥室長、けちのん、琴音が合流する。


美月がすぐ聞いた。


「最高戦略会議、どうなったん?」


遥室長。


「五分で終わったのら」


真央。


「早すぎるがね」


琴音。


「その後、麻雀になりました」


美月。


「何が最高戦略やねん!」


部屋中が笑いに包まれた。


しかし、ここから始まった女子会の方が、よほど真面目だった。


真央が言う。


「美月さんとたつをの掛け合いは、もっと育てたいがね。あれ、完全に東海名物になるでよ」


美月は顔をしかめる。


「腹立つけど、まあ客が笑うのは認めるわ」


真白は静かに意見を出す。


「物流企業とのタイアップは、まだ広げられます。倉庫、港湾、鉄道貨物、地域配送。東海は物流の話題と相性がいいです」


美音も続ける。


「音楽イベントも増やしたいです。地元の吹奏楽部や合唱団、温泉地ならハーモニカやピアノの小公演もできます」


ひかりは真剣だった。


「静岡東部からのヒロインは必要だと思います。伊豆、沼津、三島、富士、御殿場。あの地域は首都圏にも近いですし、静岡中部や西部とはまた違う色があります」


みのりが補足する。


「関東在住のファンを取り込めます。東海道線、新幹線、高速道路、観光地。導線が強いですね」


沙羅は横浜市の田舎在住らしい目線で言う。


「静岡東部なら神奈川側からも行きやすいです。イベント遠征の心理的な距離が近いと思います」


澪はお茶を飲みながら、ぼそっと言った。


「海も山もある。多分強い」


美月。


「澪の『多分強い』、妙に説得力あるな」


明日香は少し首を傾げる。


「ところで、ヒロ室東海(仮称)の仮称はいつまで仮称だら?」


一瞬、全員が黙った。


核心だった。


真央。


「確かに」


真白。


「名刺に困ります」


ひかり。


「司会台本でも読みづらいです」


美月はあっさり言った。


「仮称のままでええんちゃう?」


全員がまた黙った。


澪。


「その方がゆるい」


沙羅。


「確かに、今さら正式名称にすると固くなりそうです」


みのり。


「仮称がブランド化している可能性があります」


琴音が議事録に打ち込む。


ヒロ室東海(仮称)は、当面仮称を継続。理由:ゆるさがブランド化しているため。


遥室長が笑った。


「こっちの方が、よっぽど戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略なのら」


けちのんも頷く。


「建設的です。経費もかかりません」


美月。


「けちのん、そこかい」


その頃、本家の最高戦略会議では、まさにゃんが絶好調だった。


「ツモ!」


「またか!」


まさにゃんは、なぜか岐阜と相性が抜群だった。


柳ヶ瀬の帝王。

岐阜に来るとツキが上がる男。


序盤から連勝。


波田顧問が苦笑する。


「今日は乗ってるな」


隼人補佐官は疲れた顔で牌を切る。


「これは止まりませんね……」


すみれコーチは静かに笑っていた。


「まだ夜は長いよ」


午前三時。


まだ続いていた。


午前四時。


ついに廊下から足音。


襖が開く。


遥室長が立っていた。


寝間着姿。


目が据わっている。


「もう……うるさいのら」


部屋が凍った。


まさにゃん。


「す、すみません」


その瞬間から、流れが変わった。


まさにゃんが切る。


すみれコーチ。


「ロン」


次局。


「ロン」


さらに次。


「ロン」


まさにゃんの点棒が消えていく。


波田顧問が呟く。


「遥室長が流れを断ったな」


隼人補佐官。


「室長、場の支配力がありますね……」


すみれコーチは楽しそうだった。


「岐阜のツキも、朝までは持たないねぇ」


朝食前。


まさにゃん、ハコテン。


卓に突っ伏す。


「柳ヶ瀬の神様が……俺を見放した……」


波田顧問も隼人補佐官も疲れ果てていた。


すみれコーチだけが元気だった。


「朝風呂行こうかな」


まさにゃん。


「鬼か……」


朝食会場。


飛騨牛の朴葉味噌、味噌汁、炊きたてご飯、温泉卵。


女子会組はすっきりした顔で席に着いている。


一方、徹マン組は全員、目が死んでいた。


美月がにやにやする。


「最高戦略、うまくいったん?」


まさにゃんは味噌汁をすすりながら言った。


「戦略的撤退や……」


たつをはいない。


だが、なぜか朝食会場の端にフリップだけが置かれていた。


睡眠は大事


美月。


「お前、どこから見てたんや!」


下呂温泉二日目の朝。


ヒロ室東海(仮称)の本当の戦略は、女子部屋で進み。


本家の最高戦略は、麻雀卓の上で燃え尽きた。


温泉宿の朝は、何事もなかったかのように静かに始まっていた。

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