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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1023/1057

関の刃物と葉物市――万能ヒロイン美音、在庫一掃ノボリに刺される

岐阜県内で勢力を広げるヒロ室東海(仮称)は、次なる舞台として関市へ向かった。


関市は、世界最大級の刃物の街である。包丁、カミソリ、ハサミ、爪切り、ナイフ、医療用刃物まで、暮らしと産業を支える切れ味の技術が集まる街。古くは刀鍛冶の伝統を受け継ぎ、今は現代の精密加工へと進化している。岐阜のものづくりを語る上で、関市は外せない。


今回のイベントは、架空の刃物産業組合がメインスポンサーとなる関カットフェス。会場は関市内のイベントホール。


参加メンバーは、美月、真央、真白、美音、明日香、ひかり、みのり、澪、沙羅。


そして、なぜかたつを。


美月が聞く。


「たつを、呼ばれた?」


たつをのフリップ。


カミソリ買いに来た


美月。


「お前、剃るとこあるんか?」


たつを。


心の産毛


真央が腹を抱える。


「何だがね、それ!」


イベントではまず、関市の刃物文化紹介が行われた。職人による包丁研ぎ、カミソリの切れ味実演、爪切りの精密加工、ハサミの調整技術など、観客は興味津々。


明日香は金属加工の話に食いつく。


「焼き入れと研磨の精度、かなり面白いだら」


ひかりは穏やかに語る。


「道具の美しさは、暮らしを支える美しさですね」


みのりは理知的に頷く。


「切れ味とは、技術と安全のバランスでもあります」


真白は物流目線。


「刃物は輸送にも気を使います。安全梱包、保管、荷扱い。切れ味を守る物流も大切です」


澪は展示包丁を見て一言。


「よく切れそう」


美月。


「それは見たら分かる」


そんな中、久しぶりに美音がピアノを披露した。


会場の照明が落ち、静かな旋律が流れる。大型二輪も船舶も扱える万能ヒロインの美音だが、ピアノの前ではまるで別人だった。音は澄んで、鋭く、関の刃物のように繊細で美しい。


観客は聞き惚れた。


演奏後、拍手は長く続いた。


美月も素直に言う。


「美音、ほんま何でもできるな」


真央。


「パーフェクトヒューマンだがね」


しかし、問題は物販で起きた。


イベントホール外の物販コーナーには、戦隊ヒロイングッズ、関のカミソリ、包丁、爪切り、ハサミ、そしてなぜか葉物野菜が並んでいた。


刃物と葉物。


誰かが思いついた駄洒落企画で、キャベツ、レタス、小松菜、ほうれん草まで売っている。


美月が呆れる。


「刃物と葉物って、安直すぎるやろ」


たつをのフリップ。


切れ味の悪いダジャレ


真央。


「刃物イベントでそれ言ったらかんがね」


ところが、葉物野菜は売れた。

関の包丁も売れた。

カミソリも売れた。

爪切りも売れた。

戦隊ヒロイングッズも売れた。


特にたつをグッズは即完売。


テキトーに作ったはずの、たつをフリップ風キーホルダー、たつを手ぬぐい、たつをステッカーが飛ぶように売れた。


澪グッズも、ぼんやりした雰囲気が「癒やし」として売れた。

沙羅グッズも、少数精鋭のファンが静かに買っていった。


しかし。


美音のグッズだけが残った。


ピアノで感動させたはず。

美人。

万能。

大型二輪も船も扱える。

なのに売れない。


美月が腕を組む。


「なんでや……美音、全部できるのに」


みのりが分析する。


「隙がなさすぎるのかもしれません。応援したいという感情は、弱点や伸びしろに反応することがあります」


美音は静かに微笑んだ。


「いいんです。自分の人気がそこまでないのは分かっていますから」


美月が驚く。


「分かっとるんかい」


美音は落ち着いていた。


「私の良さを分かってくれる人だけ応援してくれればいいんです。私のファンは、たぶん内に秘めたものを持っているんです。派手に騒がないだけです」


真央が感心する。


「悟っとるがね」


美月。


「全盛期の関西の強すぎた球団みたいやな。実力はある、人気はなぜか伸びない。でも分かる人には分かる」


美音。


「その例えは、少し救われます」


そこへ、たつをが戻ってきた。


どこから持ってきたのか、手にはノボリ。


大売出し


美音の顔が固まる。


「……何ですか、それ」


たつをは次のノボリを出す。


在庫一掃


美音。


「やめてください」


さらに。


赤字覚悟


美月が爆笑する。


「たつを、毒強すぎるやろ!」


たつをはノボリを大きく振る。


本日大安吉日


買うなら今


美音グッズ、まだあります


美音は両手で顔を覆った。


「屈辱です……」


しかし、客は面白がって集まり始めた。


「何が売れ残ってるの?」


「ピアノの子のグッズ?」


「演奏よかったよね」


だが、まだ完売までは遠い。


そこで真白が立ち上がった。


濃尾の秘密兵器。

物流ヒロイン。

そして美濃弁の啖呵売りを隠し持つ女。


真白は美音のタオルを手に取り、声を張った。


「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! こちら河合美音さんの限定タオルやよ! ピアノも弾ける、大型二輪も乗れる、船も扱える、こんな万能ヒロインのグッズが今ここにあるんやで!」


美月が目を丸くする。


「真白、スイッチ入った!」


真白は続ける。


「関の刃物は切れ味抜群、美音さんの魅力も切れ味抜群! 分かる人には分かる、持つ人には響く、そんな通好みの一品やよ!」


美音が小さく言う。


「通好み……」


真白。


「ええ意味です」


さらに畳みかける。


「買ってよし、飾ってよし、使ってよし! 派手な人気だけが価値やない! 静かに強い美音さんを応援するなら今やよ!」


これが効いた。


観客が次々に買い始める。


「確かに演奏よかった」


「通好みって言われると欲しくなる」


「静かなファンでいます」


ついに、美音グッズは完売した。


美音は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。……でも、完売までの道のりが屈辱的でした」


たつをのフリップ。


売れたので勝ち


美音は少し笑った。


「それは、そうですね」


最後に美月が締める。


「関市、最高や! 刃物も葉物も、グッズ販売も切れ味抜群や!」


たつを。


美音グッズも在庫が切れました


美音。


「在庫が切れた、みたいに言わないでください」


こうして関カットフェスは大成功。


ただし、美音の人気問題は未解決のまま残った。


なんでもできるパーフェクトヒューマンなのに、なぜここまでグッズが売れにくいのか。


それは後に、ヒロ室東海七不思議の一つとして語られることになる。

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