長良川カンガルー輸送作戦――柳ヶ瀬の帝王、何もしないのに一番うるさい
岐阜県でも勢力拡大を狙うヒロ室東海(仮称)は、名馬のふるさとを後にし、県都・岐阜市へやってきた。
岐阜市は強い。
清らかな長良川を抱き、金華山と岐阜城を望む歴史ある街。織田信長ゆかりの城下町としての風格があり、長良川鵜飼のような伝統文化も息づいている。大都市・名古屋からも近く、ベッドタウンとしての顔を持ちながら、地元メディアや商店街、観光関係者も踏ん張っている。水が綺麗で、街の距離感もほどよく、派手すぎないが底力がある。岐阜県の中心にふさわしい街だった。
今回の会場は、長良川河川敷。
地元ラジオ局、物流企業、観光関係者、小口スポンサーが協力し、長良川物流&鵜飼フェスが開催されることになった。
参加メンバーは、笠松と同じく、美月、真央、あかり、真白、澪、美音、明日香、すみれコーチ、内田あかね。
そして、当然のようにたつを。
美月は開口一番言った。
「たつを、お前呼ばれてへんやろ」
たつをのフリップ。
うん
「認めるんかいな!」
さらに今回は、普段はイベントにほぼ同行しない男もいた。
葛城正男室長代理。
通称まさにゃん。
元・柳ヶ瀬の帝王。
かつて柳ヶ瀬の夜を制覇したという伝説だけが一人歩きしているが、本人は昼間の河川敷では完全に昼行灯だった。
美月は本気で嫌そうな顔をする。
「なんでまさにゃん居るん?」
まさにゃんは咳払いし、妙に役所めいた口調で答えた。
「岐阜は古くから中山道の要衝であり、長良川流域の文化、商業、交通の結節点として発展してきた歴史的背景がありまして、今回の地域連携事業においては地元媒体との調整役として――」
美月が即座に遮る。
「長い。結論だけ言えや」
真央も小声で言う。
「答弁が長すぎるがね」
澪はぼそっと。
「眠くなる」
たつをのフリップ。
完了答弁
美月。
「たつを、ええこと言うた」
実際、まさにゃんがやったことは地元ラジオ局と話をつけただけだった。
それはそれで大事だが、その後はほぼベンチで缶コーヒーを飲んでいるだけである。
イベントの主役になったのは、意外にも伊吹真白だった。
大垣市出身のトラックドライバー。普段は物静かで控えめだが、物流や大型車の話になると急に言葉が増える。
第一企画は、カンガルーマーク荷積みチャレンジ。
段ボールを安全かつ美しく積み上げる競技で、真白が審判を務める。
美月は自信満々だった。
「こんなん積むだけやろ」
三十秒後。
崩れた。
真白は淡々と言った。
「重心が高すぎます。下段の面も揃っていません。積み方が雑です」
美月。
「厳しっ」
たつをのフリップ。
河内式積載
「どんな積み方やねん!」
真央は意外と丁寧に積む。料理と同じく段取りがよい。
あかねは几帳面すぎるほど正確。
すみれコーチは途中で勝負師の癖が出て、無理な高積みに挑み自滅。
澪は適当に置いているようで、なぜか崩れない。
真白が首をかしげる。
「理屈は分かりませんが、安定しています」
澪。
「落ちなければいい」
たつを。
適当最強説
美月。
「今日の澪、物流の天才みたいになっとるやん」
続く企画は、大型車の死角体験コーナー。
真白が本気で解説する。
「大型車には、運転席から見えない範囲があります。車両の前方、側方、後方。特に左折時は巻き込みに注意してください。歩行者も自転車も、車両の動きを予測して距離を取ることが大切です」
観客は真剣に聞く。
子どもが手を上げた。
「トラックって怖いの?」
真白は静かに答える。
「怖いものではありません。でも、近づき方を間違えると危険です。運ぶ人も、歩く人も、互いに気をつければ安全です」
美月が小声で言う。
「真白、今日めっちゃ先生やん」
真央も頷く。
「説得力がすごいがね」
たつをのフリップ。
真白先生
真白。
「先生ではありません」
フリップ。
でも授業料取れる
美月が笑う。
「たつを、今日はキレがええな」
その後は、長良川鵜飼クイズ大会。
明日香が鵜飼の歴史や長良川文化に妙に詳しく、あかねは動物の生態目線で鵜の動きに興味津々。すみれコーチは「鵜も勝負勘が必要なんだねぇ」と無理やり博打に寄せ、美月はたつをを見た。
「なぁ、たつを」
フリップ。
嫌な予感
「たつをは鵜飼みたいに魚獲れんの?」
フリップ。
無理
美月。
「即答やな。なんの役にも立たんな」
たつをは少し間を置いてフリップを出した。
魚は獲れないけど、笑いは獲れる
会場がどっと沸いた。
美月は悔しそうに笑う。
「うまいこと言うなや!」
さらにたつを。
あと、僕は鵜じゃなくて“うっとうしい”枠
真央が腹を抱える。
「自覚あるんだがね!」
美月。
「そこまで分かっとるなら少し黙れ!」
夕方、長良川を背景にトークショーが開かれた。
地元ラジオ局の公開収録も兼ねており、真白が物流と地域を語る。
「観光地も、商店街も、飲食店も、物が届くから成り立ちます。岐阜市のように川、道路、鉄道、街がつながっている場所では、物流は見えないところで街を支えています」
観客は聞き入った。
地元物流企業の担当者も頷いている。
美月が感心する。
「今日、完全に真白回やな」
あかりも言う。
「大垣の子が岐阜市で活躍するの、ええやに」
一方、まさにゃんはまだベンチにいた。
美月が近づく。
「今日、何したん?」
まさにゃんは缶コーヒーを置き、また答弁調で言う。
「地元ラジオ局との事前調整を通じて、地域媒体との協力関係を構築し、今後の岐阜県内における広報展開の基盤を――」
美月。
「つまり、もう仕事終わってるんやろ」
たつをのフリップ。
昼行灯
真央。
「言い切ったがね」
澪。
「光らない昼行灯」
まさにゃん。
「ひどいなぁ」
イベントは大成功だった。
長良川の美しさ。
岐阜市の歴史。
物流の大切さ。
鵜飼文化。
真白の本気解説。
たつをの余計なフリップ芸。
そして、何もしないのに妙に存在感だけあるまさにゃん。
最後に美月がマイクを握った。
「皆さん、今日はありがとうございました! 岐阜市、ええ街です! 長良川も綺麗、物流も大事、鵜飼も最高! そして戦隊ヒロイングッズもよろしくお願いします〜!」
たつをのフリップ。
真白先生グッズ希望
真白は即答した。
「いりません」
美月。
「即答やん」
まさにゃんがぼそっと言った。
「柳ヶ瀬の帝王グッズは――」
全員が同時に言った。
「いりません」
長良川の河川敷に、大きな笑い声が響いた。
こうしてヒロ室東海(仮称)は、岐阜市でも確かな足跡を残すことになった。




