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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1010/1022

情熱は河内から来た――志摩のゆるい王国、フラメンコで美月が暴れる

三重県志摩市。


英虞湾の美しい景色、伊勢志摩らしい海の幸、ゆったりした時間が流れる観光地である。そんな志摩にある、スペインの街並みを再現したテーマパークが、ヒロ室東海(仮称)の次なる舞台になった。


そこは妙な魅力を持つ場所だった。


混みすぎない。

だから歩きやすい。

パフォーマーとの距離が近い。

スタッフが親切。

空いていることを自虐ネタにする懐の深さまである。


「行ったら思ったより楽しい」

「なんか落ち着く」

「妙にまた行きたくなる」


そんな声が多い、ゆったり型のテーマパークだった。


地元三重の山本あかりは、入口に立った瞬間から懐かしそうだった。


「ここ、高校ん時に友達と何回か来たことあるで。空いとるけど、そこがええねん」


美月が笑う。


「それ、褒めてるんか?」


「あたりまえやん。待ち時間少ないとか最高やろ」


この日参加したのは、美月、真央、あかり、真白、美音、ひかり、澪、みのり、美里、麗奈。


そして、なぜかたつを。


真央が見つけた瞬間、声を上げた。


「なんでまたおるんだがね!」


たつをはフリップを出す。


観光


美月が突っ込む。


「仕事ちゃうんかい!」


たつを。


呼ばれてない


「またかい!」


朝から空気はゆるかった。


一方、美月は上機嫌だった。理由はもちろん鉄道である。


「鶴橋から特急しまかぜで来たで。乗り心地最高や。座席もええし、景色もええし、これぞ観光特急やな」


真央が呆れる。


「イベントより先に特急の感想だがね」


美月は胸を張る。


「移動の満足度はイベントの出来に直結するんや」


隼人補佐官がいない場でも、彼女は堂々とそれを言い切った。


最初の企画は、フラメンコうちわダンス選手権。


スペイン風の衣装を身にまとい、園のパフォーマーと一緒にフラメンコを踊る。ただしヒロ室東海らしく、なぜかうちわを持つ。情熱と涼しさを両立させるという、意味があるようでない企画だった。


真央は器用に踊った。


「こういうの、意外といけるでよ!」


あかりは勢いで踊った。


「情熱なら負けへん!」


美音は運動神経で乗り切り、ひかりは控えめながら綺麗に手を動かし、みのりは真面目に振りを覚えようとする。


だが、会場の空気を完全に持っていったのは美月だった。


音楽が始まった瞬間、美月の足が妙なリズムを刻み始める。


フラメンコのステップ。


そこに、なぜか河内音頭の揺れが混ざる。


「イヤコラサー!」


観客がざわついた。


スペインの情熱。

河内の祭り。

うちわ。

ツインテール。


何が起きているのか分からない。


だが、妙に見てしまう。


美月はうちわをカスタネット代わりに鳴らしながら、腰を入れ、足を鳴らし、手を広げた。フラメンコなのか河内音頭なのか、もはや創作ダンスである。


スペイン人パフォーマーが最初に吹き出した。


次に笑いながら手拍子を始めた。


最後には一緒に踊り出した。


会場は大爆笑。


美月は調子に乗る。


「ほれほれ、スペインも河内も情熱や!」


パフォーマー代表は、笑いすぎて涙を拭きながら言った。


「フラメンコかどうかは分かりません。でも情熱は伝わりました。最高です」


美月は胸を張った。


「情熱だけは本物や」


優勝は美月。


あかりが納得いかない顔をする。


「うまいかどうか分からんのに優勝なん?」


真白が冷静に言う。


「場を支配しましたから」


澪はぼそっと言った。


「河内がスペインに勝った」


美月が笑う。


「勝ってへんわ。融合や」


続いて、パエリア巨大鍋対決。


チームはいつものように髪型で分かれた。


美月率いるツインテールチーム。

美月、あかり、真白。


真央率いる巻き髪チーム。

真央、ひかり、美音。


巨大な鍋に米、魚介、野菜、香辛料を入れ、パエリアを作る。テーマパーク側も本気で材料を用意しており、見た目はかなり本格的だった。


ところが、ここで真央が圧倒的な実力を見せる。


「まず米を洗いすぎたらかんでよ。スープを吸わせるんだわ。魚介は入れる順番が大事だで。火を入れすぎたら固くなるし、焦げは欲しいけど焦がしすぎたらただの失敗だがね」


しゃべる。


とにかくしゃべる。


「パエリアは段取りだで。味噌カツもそうだけど、料理は勢いだけじゃにゃあ。火加減、具材のタイミング、最後の蒸らし。ここで差が出るんだわ」


ひかりが感心する。


「真央ちゃん、本当に料理が上手ですね」


美音も笑う。


「これ、真央のおしゃべりクッキングだね」


真央はしゃべりながらも手が止まらない。


魚介を入れ、米を広げ、スープを注ぎ、香りを立たせる。巻き髪チームは完全に真央の指揮で動き、ひかりと美音も自然と補佐に回った。


一方、美月チーム。


美月も対抗して説明しようとする。


「ほなウチもな、パエリアいうのは――」


手が止まる。


真白が言う。


「美月さん、米を入れてください」


「あ、せやった」


またしゃべる。


「この魚介がな――」


手が止まる。


あかりが叫ぶ。


「美月さん、鍋見て!」


「見てる見てる!」


そこへ、呼ばれていないはずのたつをがフリップを持って近づく。


手が止まってる


観客爆笑。


美月が睨む。


「誰が止まってるや!」


たつを、次のフリップ。


今も止まってる


「うるさいわ!」


さらにフリップ。


真央は動いてる


美月。


「比較すな!」


真白は無表情で鍋を救う。


「たつをさん、邪魔ですが、指摘は正確です」


あかりは笑い転げる。


「たつを、もっと言うたれ!」


美月は完全にたつをの餌食だった。


そして澪は、なぜか審査員席の近くで試食待ちしていた。


できあがったパエリアは明暗が分かれた。


巻き髪チームのパエリアは、米の芯が程よく残り、魚介の旨みもよく出ていた。香ばしさもあり、見た目も美しい。


ツインテールチームは、真白が必死に立て直したため食べられる出来ではあったが、途中の混乱が味に出ていた。


澪が最初に巻き髪チームを食べる。


「ちゃんとしてる」


次にツインテールチームを食べる。


「にぎやか」


美月が聞く。


「味は?」


澪は少し考えた。


「真央チームは料理。美月チームは思い出」


会場が爆笑した。


美月が叫ぶ。


「澪ぉぉぉ!」


結果は巻き髪チームの圧勝。


真央は得意げだった。


「料理はしゃべりながらでもできるんだわ」


美月は悔しそうに言う。


「ウチはしゃべると手が止まるんや」


たつをのフリップ。


知ってた


「お前は黙っとけ!」


昼のイベントは大成功だった。


美月の河内フラメンコは話題になり、真央のおしゃべりクッキングは配信で人気を集め、たつをは呼ばれていないのに完全に仕事をしていた。


だが、午後からのメイン企画、スペイン式迷路スタンプラリーで空気が変わる。


園内を巡り、各エリアでスタンプを集める企画。景品も用意されており、一般客も参加する人気イベントだった。


ヒロインたちは、これも普通のイベントとして盛り上げる予定だった。


しかし、スタート直前。


スタッフが隼人補佐官へ駆け寄る。


「景品保管エリアの周辺で、不審な動きをしている人物がいます」


隼人の表情が変わる。


それを見て、あかりの目つきも変わった。


普段は突貫娘。

だが、彼女はNSTメンバーでもある。


「……イベントに紛れて動いとるな」


美音もすぐに周囲を見た。

彼女は正式なNSTではないが、サポートメンバーとして何度も動いている。地形、通路、逃走経路を見る目が鋭い。


「この園内、広いし、通路が入り組んでる。一般客に気づかれたら混乱するよ」


真白が小声で言う。


「物流導線としては、景品搬入口から裏手へ抜けられます」


ひかりも静かに頷く。


「表向きはスタンプラリーの誘導に見せた方がいいですね」


美月は空気を読んだ。


「つまり、イベントに見せかけて任務やな」


あかりは短く頷く。


「そういうことや」


美月が少しだけ寂しそうに笑う。


「秘密任務っぽいやつ、今度はちゃんと目の前でやるんやな」


あかりは困ったように笑った。


「今回は、見えてもうてるからな」


たつをがフリップを出す。


迷子になった


美月が即座に突っ込む。


「お前はまず自分をどうにかせえ!」


観客はまだ笑っていた。


一般客はまだ、これがイベントの延長だと思っている。


だが、ヒロインたちは違った。


スペイン風の明るい街並み。

陽気な音楽。

笑顔のパフォーマー。

ゆったりしたテーマパークの空気。


その裏で、スタンプラリー景品を狙う悪者が動き始めていた。


そして、それを止めるために動くのは、NSTメンバーのあかりと、サポートメンバーの美音。


美月、真央、真白、ひかりたちは、一般客に気づかれないよう、あくまでイベントの一部として誘導を始める。


志摩の陽気な王国で、後編のクエストが始まろうとしていた。

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