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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1009/1025

カレーうどんの底から叱責が来た――豊橋反省会、まさにゃん極太ちくわ事件で吊るし上げ

豊橋市内の競輪場でのヒロ室東海(仮称)イベントは、数字だけ見れば大成功だった。


貸切路面電車「ヒロ室東海(仮称)電車」は即完売。競輪場のステージ前には、競輪ファン、地元客、ヒロ室ファン、そして何を目当てに来たのか分からない謎の層まで集まり、異様な熱気に包まれた。


極太ちくわ早食い競争では、美月と結月が同タイム優勝。観客は「差せ!」「捲れ!」「ちくわでライン組め!」と競輪用語を飛ばし、陽菜と詩織には出場していないのに声援が飛び、配信は視聴者殺到で一時パンクした。


成功である。


たぶん。


ただし、反省点は山ほどあった。


その夜、打ち上げ兼反省会は豊橋市内のカレーうどん屋で開かれた。


席についたのは、美月、真央、明日香、美音、陽菜、美紀、詩織、結月、澪、沙羅、隼人補佐官、まさにゃん。


そして、さっきまでステージで暴れていたたつをは、いつの間にかいなくなっていた。


美月が周囲を見回す。


「あれ、たつをは?」


澪が水を飲みながら、ぼそっと言った。


「たぶん帰った」


「まあええか」


全員、それ以上気にしなかった。


たつをの扱いは、すでにその程度になっていた。


ほどなくして、豊橋カレーうどんが運ばれてきた。


湯気の立つカレーの香り。太めのうどん。とろみのある出汁。見た目は普通のカレーうどんに見えるが、実は底に秘密がある。


隣町・豊川出身の明日香が、珍しく饒舌に語り始めた。


「豊橋カレーうどんは、ただのカレーうどんじゃないだら。まず、丼の底にご飯が入っとるだら。その上にとろろが乗って、その上にカレーうどんがあるだら。最初はうどんとして食べて、最後は底のご飯ととろろにカレーが絡んで、雑炊みたいに楽しめるだら」


美月が目を丸くする。


「底にご飯? それ、反則やん」


明日香はさらに続ける。


「しかも、とろろがあるから重くなりすぎんだら。カレーの濃さを受け止めながら、最後まで飽きさせない構造だら」


「構造って言うなや。エンジニア感出てるで」


だが、明日香は本気だった。

物静かな三河の青狐が、豊橋カレーうどんを語る時だけ異様に熱い。


美月が一口食べる。


「うまっ」


続いて底のご飯にたどり着く。


「うわ、ほんまにご飯おる! これはええわ。うどん食べ終わったあと、まだ第二ステージあるやん」


陽菜も上品に箸を進める。


「おいしいです。優しいのに、ちゃんと満足感があります」


美紀も頷く。


「最後のとろろご飯、いいですね。カレーの味が丸くなります」


詩織は北欧系クォーターらしい端正な顔立ちで、優雅にうどんをすすった。


「すごいです。うどんの下にご飯が隠れてるなんて、宝探しみたいです」


沙羅が小さく笑う。


「コメントが小学生ね」


詩織は真面目に返す。


「でも本当に宝探しみたいです」


美月は上機嫌だった。


豊橋カレーうどんは美味い。

グッズ売上も好調。

帰りは名古屋から念願の「ひのとり」プレミアム席。


気分が良すぎて、口も滑らかになっていた。


美月はカレーうどんを食べ終え、隼人補佐官を見た。


「ところで隼人さん」


「はい」


「あの極太ちくわ早食い大会って、なんやねん?」


隼人補佐官の箸が止まる。


美月はにやにやしながら続けた。


「誰があんな卑猥……いや、変なイベント考えたん? アホやねぇ~?」


真央が即座に乗っかった。


「ほんとだがね。極太ちくわ早食いって、字面からしてもうアウト寄りだわ。しかも競輪場でやる意味が分からんでかん」


美月が手を叩く。


「せやろ? 競輪場で極太ちくわ食わせて、観客が『差せ!』『捲れ!』って叫んでるんやで? 何の勝負やねん!」


真央も笑いが止まらない。


「しかも陽菜ちゃんと詩織ちゃん、出てないのに声援浴びとったがね。あれ何だったんだわ」


陽菜は少し赤くなる。


「私、ただ見ていただけなのに……」


詩織は首をかしげる。


「北欧の風って言われました」


美月が笑う。


「詩織、それ褒められてるんかよう分からんな」


真央がさらに続ける。


「まさにゃん、あれ企画書に何て書いたんですか? 『地域練り物文化の啓発を目的とした食体験型ステージ企画』とか?」


まさにゃんが咳き込む。


「いや、それに近いことは書いたけどな……」


美月が腹を抱える。


「ほら! まさにゃんや! やっぱこのおっさん、アホやわ!」


真央も尾張弁で畳みかける。


「まさにゃん、発想が昭和の深夜番組だがね。今どき極太ちくわ早食いでサーバー落とすなんて、なかなかできんわ」


まさにゃんは必死に反論する。


「でもな、視聴者は多かったんや! サーバー落ちるくらいやぞ!」


美月は即答した。


「事故現場に人が集まるのと一緒や」


真央も頷く。


「怖いもの見たさだがね」


沙羅が笑いをこらえながら言った。


「言い方がひどいわね。でも否定しづらいわ」


結月は落ち着いて言う。


「競技としてはかなり過酷でした。あれはレース後半の脚より、喉がきついです」


美月が大きく頷く。


「結月さんが言うなら本物や。あれ、競技認定したらあかんやつや」


隼人補佐官はずっと静かにしていた。


だが、その時、彼のスマホが震えた。


画面を見る。


遥室長からのメッセージだった。


隼人の顔色が、見る見る変わる。


美月が身を乗り出す。


「何? 遥さん?」


隼人は観念したように読み上げた。


「“配信映像を確認しました。極太ちくわ早食い競争について、説明が必要です。地域密着は評価しますが、次元が低いです。やっていることがヒロヒロと変わりません。隼人くん、帰ったら話しましょう”」


沈黙。


次の瞬間、美月が吹き出した。


「怒られてるやん!」


真央も腹を抱える。


「ヒロヒロと変わらんって、最大級の叱責だがね!」


まさにゃんは額の汗を拭いた。


「いや、でも数字は……」


美月が遮る。


「数字で許されるなら、ノムさん無敵やん」


隼人補佐官は深いため息をついた。


「今日は家に帰りたくないですね……」


彼の声には、炎のランニングバック時代の勇猛さは一切なかった。

そこにいたのは、恋人関係なのか半同棲なのか微妙な遥室長から、帰宅後に詰められる未来を見てしまった哀愁の補佐官だった。


そんな隼人を見て、美月が珍しく優しい顔になった。


「ほな隼人さん」


「はい」


「ウチと一緒に名阪特急のひのとりプレミアム席で帰る?」


隼人が顔を上げる。


「美月さん……」


「ゆったり座って、反省文の構成考えたらええやん。プレミアム席なら心も落ち着くで」


真央が笑う。


「それ、優しいのか自慢なのか分からんがね」


美月は胸を張った。


「どっちもや」


隼人は苦笑した。


「お気持ちだけいただきます」


美月はさらに畳みかける。


「大丈夫やって。ひのとりの座席は包容力あるから。遥さんの叱責にも耐えられる心を作ってくれるで」


「座席にそこまでの効果はありません」


「乗ってから言いや」


場はまた笑いに包まれた。


まさにゃんはまだ極太ちくわ企画を正当化しようとしていたが、美月と真央のまさにゃん叩きは止まらない。


明日香は静かに豊橋カレーうどんを食べ続け、陽菜と美紀は上品に「おいしいですね」と微笑み、詩織は底のご飯を見つけるたびに「また宝が出ました」と小さく喜んでいる。


澪は水を飲みながら、ぼんやり呟いた。


「たつを、カレーうどん食べたかったかな」


美月が言う。


「もう帰ったんやろ?」


澪は頷く。


「たぶん」


誰もそれ以上気にしない。


豊橋の夜は、カレーうどんの香りと、極太ちくわ事件の反省と、遥室長からの叱責予告で更けていった。


ヒロ室東海(仮称)は、また一つ地盤を固めた。


ただし、イベントの質は、少しヒロヒロに近づきすぎている。


そのことだけは、隼人補佐官も否定できなかった。

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