豊橋ちくわバンク決戦――たつを、競輪場で呼ばれてないのに大暴れ
豊川スマートキー大作戦を成功させたヒロ室東海(仮称)は、次なる舞台として東三河の中心都市、豊橋市へ乗り込むことになった。
豊橋市は強い。
新幹線も停車する交通の要衝であり、東三河の玄関口。農業、工業、商業がバランスよく発達し、三河湾の恵みにも近い。海産物、練り物、ちくわの文化は全国的にも知られ、昔ながらの街の味と、工業都市としての実力が同居している。港の匂い、路面電車の音、商店街の人情。派手に見せびらかす街ではないが、暮らしと産業の厚みがある。
今回の会場は豊橋市の競輪場だった。
隼人補佐官と葛城正男室長代理、通称まさにゃんは、地元の海産物加工会社、練り物メーカー、パチンコ店、商店街、飲食店などを地道に回り、小口スポンサーをかき集めた。
「大口スポンサー一社に振り回されるより、小口スポンサー十社の方が温かいですね」
隼人がそう言うと、まさにゃんは汗を拭きながら笑った。
「その代わり、十社分頭下げるんやけどな」
参加メンバーは、美月、真央、明日香、美音、陽菜、美紀、詩織、結月、澪、沙羅。そして、なぜかたつを。
イベントは競輪場に着く前から始まっていた。
豊橋名物の路面電車を一両貸し切り、ヒロ室東海(仮称)電車として運行。ヒロインたちとたつをがファンと一緒に競輪場まで向かう特別企画である。
チケットは発売と同時に即完売。
美月は車内でマイクを握った。
「みんなー! 今日は豊橋でちくわと競輪とヒロ室東海やでー!」
真央が続く。
「貸切電車で競輪場行くなんて、最高だがね!」
たつをはフリップを掲げた。
次は運転したい
明日香が即座に言う。
「無理だら」
澪は窓の外を見ながら、ぼそっと言った。
「たつを、揺れてるね」
たつを。
路面電車のリズム
美月が突っ込む。
「何をええ感じに言うてんねん」
競輪場に到着すると、ステージ前はすでにすごい熱気だった。競輪ファン、ヒロ室東海ファン、地元の家族連れ、練り物目当ての人、そして「たつを目当て」としか思えない層までいる。
ステージ冒頭、美月がたつをを見つけた。
「たつを、呼ばれた?」
たつをはフリップを出す。
呼ばれてない
「なんでやねん!」
競輪ファンが大爆笑した。
たつを、さらにフリップ。
でも来た
真央が叫ぶ。
「自由すぎるがね!」
最初の企画は、地元スポンサー全面協力による、豊橋極太ちくわ早食い競争。
海産物加工会社が用意した極太ちくわは、もはや軽食ではなかった。見た目だけなら、棒状の主食である。
美月が絶句する。
「太っ。これ、ちくわというより競技用具やん」
真央が笑う。
「豊橋の力を見せとるんだわ」
出場者は美月、真央、美音、沙羅、そして元女子競輪選手の結月。
澪は辞退した。
「味わいたいから」
陽菜も辞退した。
「私、ゆっくり食べたいです……」
美紀も辞退。
「応援側で」
詩織も静かに微笑む。
「私も見守ります」
ところが、観客席から妙な声援が飛んだ。
「陽菜ちゃん、食べるだけでええぞー!」
「詩織ちゃん、立ってるだけで勝ち!」
「美少女枠、頑張れー!」
陽菜は困ったように手を振り、詩織は北欧系クォーターらしい端正な顔立ちで軽く会釈した。
美月が叫ぶ。
「この二人、出場してへんやろ!」
たつをのフリップ。
顔面偏差値枠
沙羅が噴き出しそうになりながら言う。
「たつを、あなた時々失礼よ」
競争開始。
競輪場の空気が一変した。
「差せー!」
「捲れー!」
「結月、内から行けー!」
「美月、逃げ切れー!」
「ちくわでライン組めー!」
美月はむせそうになりながら叫んだ。
「競輪用語でちくわ応援すな!」
結月は元アスリートらしく淡々と食べ進める。姿勢が崩れない。噛むリズムも一定。まるで周回を重ねる選手のようだった。
美月は勢いで突っ込む。
「うまっ、でも太っ、でもうまっ!」
真央は途中で水を求める。
「これ、思ったより腹に来るでかんわ!」
美音は豪快に攻めたが、途中で笑って失速する。
「観客の声援が変すぎる!」
沙羅は上品に食べようとして完全にペースを崩した。
「これは早食いするものじゃありません!」
観客は異様な盛り上がりだった。
「沙羅、フォームが綺麗!」
「食べ方だけ貴族!」
「結月、最後伸びるぞ!」
「美月、垂れるなー!」
その一方で、陽菜と詩織にはなぜか声援が飛び続ける。
「陽菜ちゃん、かわいいぞー!」
「詩織ちゃん、北欧の風!」
美月はちくわを飲み込みながら叫んだ。
「せやから出てへん言うてるやろ!」
配信にも視聴者が殺到した。
コメント欄は、
「何を見せられてるんだ」
「競輪場でちくわ早食いは草」
「陽菜と詩織に声援飛んでるの謎」
「たつを仕事しろ」
「回線重い」
で埋まり、ついに配信が一時停止した。
隼人補佐官は青ざめる。
「サーバーが極太ちくわで落ちました……」
まさにゃんは遠い目で言った。
「これ、報告書にどう書くんや」
結果は、美月と結月が同タイム優勝。
MCの真央が笑いながら聞く。
「同点決勝、やる?」
美月は両手を振った。
「堪忍してや〜。もう一本は無理や」
結月も苦笑する。
「私も無理。競輪よりきつい」
優勝賞品は、スポンサー企業提供のおでんの種セット。
美月と結月は仲良く分け合った。
「これ、帰って食べよ」
「いい出汁が出そうですね」
続くトークショーでは、たつをのフリップ芸が炸裂した。
沙羅が偉そうに語り出すと、
話が長い
「失礼ね!」
澪がぼーっとしていると、
通常運転
澪は頷いた。
「うん」
陽菜が緊張していると、
守りたい
陽菜は小さく笑った。
「ありがとうございます」
詩織に向けては、
北欧の風
詩織が少し困った顔で笑う。
「それ、さっき観客席からも聞こえました」
美月が腹を抱える。
「たつを、客席の声拾うな!」
この日はレディース競輪の準決勝開催日でもあったため、元女子競輪選手・結月の予想コーナーも行われた。
結月はマイクを持つと、少し表情を引き締めた。
「今日は私の仲良しの選手も出ています。状態も良さそうですし、ここに向けて仕上げていると思います。皆さんもぜひ応援してあげてください」
競輪ファンから拍手が起きた。
さらに結月は思い出を語った。
「私はこの競輪場では勝ったことはありません。でも、走りやすい印象はあります。あと、夕食のカレーライスが美味しかったです。いろいろな競輪場で食べましたけど、ここのカレーはかなり記憶に残っています」
美月がすかさず乗る。
「結月さんの予想に乗るで〜。これで取ったら、帰りは豊橋から名古屋まで特急指定席や!」
競輪ファンがまた笑う。
たつをのフリップ。
指定席狙い
美月。
「せや!」
隼人補佐官は小声で言った。
「公営競技の予想を座席アップグレードに直結させないでください」
最後に美月がマイクを握る。
「皆さん、車券で儲かったら、戦隊ヒロイングッズの購入を是非是非お願いします! 豊橋限定ちくわステッカー、結月さん競輪応援タオル、陽菜ちゃん美少女アクスタ、詩織ちゃん北欧の風ブロマイド、いろいろあります!」
詩織が小さく突っ込む。
「北欧の風ブロマイドって何ですか」
たつをがフリップを出す。
作って
美月が即答する。
「たつをはヒロインちゃうやん!」
会場は最後まで笑いに包まれた。
豊橋競輪場のイベントは、路面電車、ちくわ、競輪、たつを、そして美月の営業魂がごちゃ混ぜになった一日だった。
まとまりはない。
だが、熱量はすごい。
隼人補佐官は疲れ切った顔で言った。
「ヒロ室東海、だんだんヒロヒロに近づいていませんか」
まさにゃんは笑った。
「地域密着いうのは、こういうことや」
東三河の中心都市・豊橋で、ヒロ室東海(仮称)はまた一つ地盤を固めた。
ただし、配信サーバーは極太ちくわで落ちた。
それだけは、誰にも予想できなかった。
豊川スマートキー大作戦を成功させたヒロ室東海(仮称)は、次なる舞台として東三河の中心都市、豊橋市へ乗り込むことになった。
豊橋市は強い。
新幹線も停車する交通の要衝であり、東三河の玄関口。農業、工業、商業がバランスよく発達し、三河湾の恵みにも近い。海産物、練り物、ちくわの文化は全国的にも知られ、昔ながらの街の味と、工業都市としての実力が同居している。港の匂い、路面電車の音、商店街の人情。派手に見せびらかす街ではないが、暮らしと産業の厚みがある。
今回の会場は豊橋市の競輪場だった。
隼人補佐官と葛城正男室長代理、通称まさにゃんは、地元の海産物加工会社、練り物メーカー、パチンコ店、商店街、飲食店などを地道に回り、小口スポンサーをかき集めた。
「大口スポンサー一社に振り回されるより、小口スポンサー十社の方が温かいですね」
隼人がそう言うと、まさにゃんは汗を拭きながら笑った。
「その代わり、十社分頭下げるんやけどな」
参加メンバーは、美月、真央、明日香、美音、陽菜、美紀、詩織、結月、澪、沙羅。そして、なぜかたつを。
イベントは競輪場に着く前から始まっていた。
豊橋名物の路面電車を一両貸し切り、ヒロ室東海(仮称)電車として運行。ヒロインたちとたつをがファンと一緒に競輪場まで向かう特別企画である。
チケットは発売と同時に即完売。
美月は車内でマイクを握った。
「みんなー! 今日は豊橋でちくわと競輪とヒロ室東海やでー!」
真央が続く。
「貸切電車で競輪場行くなんて、最高だがね!」
たつをはフリップを掲げた。
次は運転したい
明日香が即座に言う。
「無理だら」
澪は窓の外を見ながら、ぼそっと言った。
「たつを、揺れてるね」
たつを。
路面電車のリズム
美月が突っ込む。
「何をええ感じに言うてんねん」
競輪場に到着すると、ステージ前はすでにすごい熱気だった。競輪ファン、ヒロ室東海ファン、地元の家族連れ、練り物目当ての人、そして「たつを目当て」としか思えない層までいる。
ステージ冒頭、美月がたつをを見つけた。
「たつを、呼ばれた?」
たつをはフリップを出す。
呼ばれてない
「なんでやねん!」
競輪ファンが大爆笑した。
たつを、さらにフリップ。
でも来た
真央が叫ぶ。
「自由すぎるがね!」
最初の企画は、地元スポンサー全面協力による、豊橋極太ちくわ早食い競争。
海産物加工会社が用意した極太ちくわは、もはや軽食ではなかった。見た目だけなら、棒状の主食である。
美月が絶句する。
「太っ。これ、ちくわというより競技用具やん」
真央が笑う。
「豊橋の力を見せとるんだわ」
出場者は美月、真央、美音、沙羅、そして元女子競輪選手の結月。
澪は辞退した。
「味わいたいから」
陽菜も辞退した。
「私、ゆっくり食べたいです……」
美紀も辞退。
「応援側で」
詩織も静かに微笑む。
「私も見守ります」
ところが、観客席から妙な声援が飛んだ。
「陽菜ちゃん、食べるだけでええぞー!」
「詩織ちゃん、立ってるだけで勝ち!」
「美少女枠、頑張れー!」
陽菜は困ったように手を振り、詩織は北欧系クォーターらしい端正な顔立ちで軽く会釈した。
美月が叫ぶ。
「この二人、出場してへんやろ!」
たつをのフリップ。
顔面偏差値枠
沙羅が噴き出しそうになりながら言う。
「たつを、あなた時々失礼よ」
競争開始。
競輪場の空気が一変した。
「差せー!」
「捲れー!」
「結月、内から行けー!」
「美月、逃げ切れー!」
「ちくわでライン組めー!」
美月はむせそうになりながら叫んだ。
「競輪用語でちくわ応援すな!」
結月は元アスリートらしく淡々と食べ進める。姿勢が崩れない。噛むリズムも一定。まるで周回を重ねる選手のようだった。
美月は勢いで突っ込む。
「うまっ、でも太っ、でもうまっ!」
真央は途中で水を求める。
「これ、思ったより腹に来るでかんわ!」
美音は豪快に攻めたが、途中で笑って失速する。
「観客の声援が変すぎる!」
沙羅は上品に食べようとして完全にペースを崩した。
「これは早食いするものじゃありません!」
観客は異様な盛り上がりだった。
「沙羅、フォームが綺麗!」
「食べ方だけ貴族!」
「結月、最後伸びるぞ!」
「美月、垂れるなー!」
その一方で、陽菜と詩織にはなぜか声援が飛び続ける。
「陽菜ちゃん、かわいいぞー!」
「詩織ちゃん、北欧の風!」
美月はちくわを飲み込みながら叫んだ。
「せやから出てへん言うてるやろ!」
配信にも視聴者が殺到した。
コメント欄は、
「何を見せられてるんだ」
「競輪場でちくわ早食いは草」
「陽菜と詩織に声援飛んでるの謎」
「たつを仕事しろ」
「回線重い」
で埋まり、ついに配信が一時停止した。
隼人補佐官は青ざめる。
「サーバーが極太ちくわで落ちました……」
まさにゃんは遠い目で言った。
「これ、報告書にどう書くんや」
結果は、美月と結月が同タイム優勝。
MCの真央が笑いながら聞く。
「同点決勝、やる?」
美月は両手を振った。
「堪忍してや〜。もう一本は無理や」
結月も苦笑する。
「私も無理。競輪よりきつい」
優勝賞品は、スポンサー企業提供のおでんの種セット。
美月と結月は仲良く分け合った。
「これ、帰って食べよ」
「いい出汁が出そうですね」
続くトークショーでは、たつをのフリップ芸が炸裂した。
沙羅が偉そうに語り出すと、
話が長い
「失礼ね!」
澪がぼーっとしていると、
通常運転
澪は頷いた。
「うん」
陽菜が緊張していると、
守りたい
陽菜は小さく笑った。
「ありがとうございます」
詩織に向けては、
北欧の風
詩織が少し困った顔で笑う。
「それ、さっき観客席からも聞こえました」
美月が腹を抱える。
「たつを、客席の声拾うな!」
この日はレディース競輪の準決勝開催日でもあったため、元女子競輪選手・結月の予想コーナーも行われた。
結月はマイクを持つと、少し表情を引き締めた。
「今日は私の仲良しの選手も出ています。状態も良さそうですし、ここに向けて仕上げていると思います。皆さんもぜひ応援してあげてください」
競輪ファンから拍手が起きた。
さらに結月は思い出を語った。
「私はこの競輪場では勝ったことはありません。でも、走りやすい印象はあります。あと、夕食のカレーライスが美味しかったです。いろいろな競輪場で食べましたけど、ここのカレーはかなり記憶に残っています」
美月がすかさず乗る。
「結月さんの予想に乗るで〜。これで取ったら、帰りは豊橋から名古屋まで特急指定席や!」
競輪ファンがまた笑う。
たつをのフリップ。
指定席狙い
美月。
「せや!」
隼人補佐官は小声で言った。
「公営競技の予想を座席アップグレードに直結させないでください」
最後に美月がマイクを握る。
「皆さん、車券で儲かったら、戦隊ヒロイングッズの購入を是非是非お願いします! 豊橋限定ちくわステッカー、結月さん競輪応援タオル、陽菜ちゃん美少女アクスタ、詩織ちゃん北欧の風ブロマイド、いろいろあります!」
詩織が小さく突っ込む。
「北欧の風ブロマイドって何ですか」
たつをがフリップを出す。
作って
美月が即答する。
「たつをはヒロインちゃうやん!」
会場は最後まで笑いに包まれた。
豊橋競輪場のイベントは、路面電車、ちくわ、競輪、たつを、そして美月の営業魂がごちゃ混ぜになった一日だった。
まとまりはない。
だが、熱量はすごい。
隼人補佐官は疲れ切った顔で言った。
「ヒロ室東海、だんだんヒロヒロに近づいていませんか」
まさにゃんは笑った。
「地域密着いうのは、こういうことや」
東三河の中心都市・豊橋で、ヒロ室東海(仮称)はまた一つ地盤を固めた。
ただし、配信サーバーは極太ちくわで落ちた。
それだけは、誰にも予想できなかった。




