豊川スマートキー大作戦――明日香、部品メーカーで“巫女エンジニア”の本気を見せる
高浜市でのフォークリフト安全啓発イベントを成功させたヒロ室東海(仮称)は、西三河のファンの心をがっちり掴んだ。
働く車、女子ソフトボールチーム、謎のゆるキャラ・たつを、そして美月のインセンティブ営業。全部が妙に噛み合い、イベントは盛況。フォークリフト会社の広報担当者も満足し、隼人補佐官はようやく「外堀戦略も悪くない」と思い始めていた。
そんな隼人のもとへ、世界一の自動車メーカー側の先輩広報担当者から次なる紹介が届いた。
豊川市に拠点を持つ系列部品メーカー。
車のキー、スイッチ、センサー、セキュリティ関連部品などを手がける、まさに車の“入口”と“操作”を支える会社だった。普段は完成車ほど目立たない。だが、キーがなければ車は開かない。スイッチがなければ動かない。センサーがなければ安全を守れない。
自動車産業の巨大な仕組みの中で、静かに、しかし確実に存在感を放つ技術者集団である。
しかもこの会社は、豊川市出身の稲生明日香と縁が深かった。
巫女。
戦隊ヒロイン。
そして自動車工学も学ぶエンジニア。
三つの顔を持つ明日香にとって、豊川での部品メーカーイベントは、まさに自分のために用意されたような舞台だった。
イベント名は、
「スマートキーと安全スイッチのひみつ――明日香の豊川テック神事」
である。
会場には、美月、真央、明日香、真白、ひかり、美音、沙羅、澪、そしてなぜかたつをがいた。
真央がたつをを見つけて叫ぶ。
「またおるんかい!」
たつをはフリップを出す。
呼ばれました
美月が笑う。
「もう完全に東海メンバーやん」
たつを、次のフリップ。
所属希望
隼人補佐官が即座に否定する。
「所属は未定です」
たつを。
仮称?
澪がぼそっと言う。
「ヒロ室東海も仮称だし、似てるね」
たつを。
仲間
美月が突っ込む。
「勝手に仲間になるな!」
しかしこの日は、美月と真央のアクの強さをかき消すほど、明日香の存在感が強かった。
明日香は巫女装束を思わせる清楚な衣装に、エンジニアらしい工具ポーチを合わせて登場した。神社の娘らしい静けさと、工学を学ぶ者の鋭さが同居している。
ステージに立つと、彼女は静かに頭を下げた。
「豊川には、派手に前へ出なくても暮らしを支える技術があるだら。今日はその一つを、皆さんに見てもらいたいだら」
会場が静まる。
美月が小声で言う。
「今日の明日香、強いな」
真央も頷く。
「地元だで、本気だがね」
第一企画は、スマートキー反応速度チャレンジ。
模擬車両に近づくと、一定距離でキーが反応し、ランプが点灯する。子どもにも分かりやすい体験型展示だった。
明日香が説明する。
「スマートキーは、ただの便利グッズじゃないだら。車とキーがお互いを確認して、正しい相手だと判断して開く仕組みだら」
美月が感心する。
「なんか車も人見知りしてるみたいやな」
「違うだら」
たつをがフリップ。
認証大事
澪が近づく。
ランプが点く。
澪はぼんやり言った。
「開いた」
美月が笑う。
「そら開くやろ」
澪は首を傾げる。
「車が開きたそうだった」
たつを。
車の気持ち
沙羅が呆れる。
「車の気持ちなんて分かるわけないでしょ」
澪は淡々と返す。
「でも開いたよ」
たつを。
結果がすべて
美月が吹き出す。
「たつを、急に勝負師みたいなこと言うな!」
第二企画は、安全スイッチ早押しクイズ。
自動車や工場設備に使われるスイッチ類をテーマに、明日香が解説、美月が司会を務める。
美月が問題を読む。
「問題。車の操作系で、間違って押してしまうと危ないものほど、設計上どういう工夫がされているでしょう?」
真央が勢いよく答える。
「押しにくくする!」
明日香が頷く。
「正解だら。配置、形状、押し込みの重さ、色、全部意味があるだら」
沙羅が負けじと手を挙げる。
「欧州的な安全思想で言えば、操作系のヒューマンインターフェースが……」
明日香が静かに言う。
「今の答えは長いけど、要点がないだら」
美月が笑う。
「沙羅、雰囲気で押し切ろうとしたやろ」
たつをフリップ。
雰囲気回答
沙羅が叫ぶ。
「うるさいわね!」
第三企画は、たつをのフリップ式センサー実験。
センサーの前に物を置くと反応する展示に、たつをが何度も入っていく。
ピッ。
たつを。
検知されました
ピッ。
また検知
ピッ。
存在感
澪が横で見ている。
「たつを、センサーに好かれてるね」
たつを。
モテ期
澪。
「よかったね」
たつを。
ありがとう
美月が突っ込む。
「何この緩い会話!」
だが観客には大受けだった。
澪の掴みどころのない空気と、たつをのフリップ芸が、妙に噛み合っていた。
次は、明日香の見せ場。
お祓いじゃなくて点検ですコーナー。
巫女装束風の明日香が、模擬車両のキー、スイッチ、センサーを順番に確認していく。
美月が聞く。
「明日香、これはお祓いなん?」
明日香は即答する。
「点検だら」
真央が笑う。
「でも雰囲気は完全に神事だがね」
明日香は真剣だった。
「安全を祈るだけでは不十分だら。祈る前に、構造を知る。動作を確認する。異常がないか見る。それが本当の安全だら」
会場が拍手する。
そこへ美音が加わる。
「乗り物って、大きなエンジンやタイヤばかり見られがちだけど、小さなスイッチやセンサーがちゃんと働くから安全に動くんだよね」
ひかりも穏やかに頷く。
「静かに支えるものほど、大切ですね」
真白も物流目線で続ける。
「トラックでもキーやスイッチの不具合は仕事全体に影響します。小さな部品を軽く見てはいけません」
明日香は静かに微笑んだ。
「そうだら。目立たない部品ほど、信頼が大事だら」
この瞬間、明日香は完全に主役だった。
美月も真央も、今日は茶化さない。
最後に明日香は、地元豊川への思いを語った。
「豊川には、神社も、歴史も、暮らしも、ものづくりもあるだら。私は巫女として地元を大切にしてきたけど、エンジニアとしても、この街の技術を誇りに思うだら。今日、子どもたちがキーやスイッチやセンサーを見て、少しでも“技術って面白い”と思ってくれたら嬉しいだら」
大きな拍手が起きた。
たつをがフリップを出す。
明日香すごい
澪が頷く。
「うん、今日の主役」
たつを。
主役確定
美月が笑う。
「異議なしや」
イベントは大成功だった。
部品メーカーの広報担当者も満足げだった。
「明日香さんの説明は非常に良かったです。技術の魅力が伝わりました」
隼人補佐官も胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます」
ただし、広報担当者は最後に一言付け加えた。
「たつをさんのフリップ内容は、次回から事前確認させてください」
たつを。
広報チェック
澪。
「出世したね」
美月。
「違うやろ」
イベントの締めで、美月がマイクを握った。
「皆さん、本日はありがとうございました! 出口では戦隊ヒロイングッズを販売しています! 明日香の新作アクスタ、真央のご当地缶バッジ、真白の物流安全ステッカー、美音の乗り物タオル、ひかりの癒し系クリアファイル、沙羅のなぜか偉そうなポストカード、澪のぼーっとしたブロマイド、いろいろあります! ぜひ買って帰ってな~!」
沙羅が眉をひそめる。
「なぜか偉そうって何よ」
澪はぼそっと言う。
「ぼーっとしたブロマイド、気になる」
たつをがフリップを出す。
グッズ作って
美月は即答した。
「たつをはヒロインちゃうやん」
たつを。
準レギュラー
「準レギュラーでもヒロインちゃう!」
たつを。
検討希望
隼人補佐官が額を押さえる。
「検討しません」
会場は笑いに包まれた。
豊川スマートキー大作戦は、地元の明日香を中心に、技術と笑いがうまく噛み合った一日となった。
西三河の高浜から、東三河の豊川へ。
働く車から、車を支える小さな部品へ。
ヒロ室東海(仮称)は、派手な本丸ではなく、外堀から確実に地盤を固めていた。
そしてその外堀には、巫女エンジニアと、フリップ芸のたつをと、掴みどころのない澪という、妙に強い布陣が立っていたのである。




