表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1006/1025

西三河リフト旋風――働く車と女子ソフトと、たつをのフリップが止まらない

愛知県高浜市。


三河湾にも近く、ものづくりの力を持つ工業都市でありながら、古くから瓦の産地としても知られる街である。派手な観光地というより、地域の産業を静かに支え続ける実力派。工場の音、瓦の歴史、生活に根差した職人の街。その地味さこそが、高浜の強さだった。


ヒロ室東海(仮称)が次に挑むのは、この高浜でのフォークリフト安全啓発イベントだった。


協力するのは、世界一の自動車メーカーの源流にもつながるグループ中核企業。自動織機から始まったものづくりの精神を受け継ぎ、いまではフォークリフトなど産業車両でも大きな存在感を持つ名門メーカーである。工場、倉庫、港湾、物流拠点。見えないところで日本中の現場を支えている、まさに“働く車”の王者だった。


ただし、広報担当者は本体譲りのキレ者だった。


「安全啓発イベントですから、危険に見える演出は一切不可です」


隼人補佐官はうなずく。


「承知しています」


「車両の上に乗る演出も不可です」


「当然です」


「フォークリフトで物を持ち上げながらヒロインがポーズを取るのも不可です」


「やりません」


「たつをさんは何をしますか?」


「……フリップ芸です」


「それなら許可します」


こうしてイベントは始まった。


参加するのは、美月、真央、真白、明日香、ひかり、麗奈、美里。さらにメーカーの強豪女子ソフトボールチーム、そして謎のゆるキャラ、タツノオトシゴの男の子たつをも登場した。


真央はたつをを見つけて叫んだ。


「またおるんかい!」


たつをはフリップを出す。


呼ばれました


美月が笑う。


「もう準レギュラーやな」


たつを、次のフリップ。


所属未定


隼人補佐官が即座に言う。


「所属はしません」


会場は爆笑。


第一部は安全講習。


司会は美月だった。


「みんなー! フォークリフトは便利な働く車やけど、遊び半分で近づいたらアカンで!」


いつもの美月ならここで余計なことを言いそうだが、この日は違った。


「荷物を運ぶ現場では、ほんまに大事な車両です。でも、死角もある。急に近づいたら危ない。運転する人も、周りにいる人も、お互い確認することが命を守るんや」


会場が静かになる。


締めるところは締める。

美月は人気者である理由を見せた。


続いて真白が登壇した。


濃尾運輸所属のトラックドライバーとして、彼女の言葉は重かった。


「ドライバー目線で言うと、フォークリフトの動きは荷積み、荷下ろしの効率と安全に直結します。爪の高さ、荷物の重心、合図、停車位置。どれも地味ですが、ひとつ間違えると事故につながります」


真白は続ける。


「現場は急いでいる時ほど危ないです。だからこそ、声を掛ける、止まる、確認する。基本を守ることが一番大事です」


観客だけでなく、メーカー関係者まで聞き入っていた。


たつをがフリップを出す。


ご安全に


真白が少しだけ笑う。


「それは良いフリップです」


たつを、さらにフリップ。


帽子は取りません


真白が目を細める。


「前回のこと、覚えていますね?」


会場が笑う。


第二部は女子ソフトボールチームとの交流企画。


強豪チームの選手たちは、明るく、礼儀正しく、そして見るからに鍛えられていた。


美月が感心する。


「腕、めっちゃ強そうやな」


真央も頷く。


「打球、速そうだがね」


企画は、ソフトボール部員による安全標語ストラックアウト。


的には「徐行」「確認」「声かけ」「停止」「死角注意」などの安全標語が書かれている。選手たちはボールを投げ、次々に的を射抜いた。


バンッ。


「徐行!」


バンッ。


「声かけ!」


バンッ。


「死角注意!」


美里が拍手する。


「すごい、迫力ありますね!」


麗奈も目を輝かせる。


「フォームが綺麗。イベントコンパニオン的にも映えるわ」


たつをも投げたがった。


フリップ。


投げたい


ソフト部員が優しくボールを渡す。


たつをは全力で投げる。


結果、ボールは足元に落ちた。


フリップ。


肩が温まっていません


美月が突っ込む。


「言い訳すな!」


次のフリップ。


次は本気


二投目も足元に落ちた。


明日香が静かに言う。


「本気でも変わらないだら」


ひかりがやさしくまとめる。


「応援係が向いていますね」


フリップ。


応援します


その後、ソフトボール選手たちとヒロインによる安全宣言。


美月、真央、真白、明日香、ひかり、麗奈、美里が並び、選手たちと一緒に声を揃える。


「フォークリフトは正しく、安全に!」


たつをもフリップを掲げる。


正しく乗ろう


第三部は撮影会。


フォークリフトと麗奈、美里の組み合わせは、想像以上に映えた。


華やかなイベントコンパニオン衣装の二人が、鮮やかな産業車両の横に立つ。働く車の力強さと、ステージ映えする美しさ。その対比が絶妙だった。


麗奈は長い手足を活かしてポーズを決める。


「こういう現場系の撮影、意外といいわね」


美里も笑顔で手を振る。


「働く車って、近くで見ると迫力ありますね」


撮影待機列は一気に伸びた。


広報担当者が満足げに頷く。


「これは想定以上の集客です」


ただし、すかさず注意も入る。


「車両には触れないでください」


麗奈は苦笑する。


「分かってるわよ」


たつをがフリップを出す。


触らない


美月が笑う。


「今日のたつを、広報に気に入られようとしてるな」


フリップ。


次回も呼ばれたい


イベント終盤、美月がマイクを握った。


「皆さん、本日はありがとうございました! フォークリフトは現場を支える大事な働く車です。正しく、安全に、周りへの思いやりを忘れずにお願いします!」


ここまでは真面目だった。


だが、その直後。


「そして出口では、戦隊ヒロイングッズと女子ソフトボールチームのグッズをたくさん用意してます! ぜひ買って帰ってください! タオル、アクスタ、缶バッジ、選手応援グッズ、全部あります!」


真央が小声で言う。


「またインセンティブだがね?」


美月は笑顔のまま小声で返す。


「せや。売上ノルマ達成で、帰りは“ひのとり”や」


隼人補佐官は額を押さえた。


「安全啓発イベントを、座席アップグレードに結びつけないでください」


しかし効果は抜群だった。


戦隊ヒロイングッズも、女子ソフトボールチームグッズも飛ぶように売れた。


「真白ちゃんの安全講習よかった!」


「麗奈さんと美里さんの撮影会、最高!」


「ソフト部のタオルも買います!」


「たつをフリップ欲しい!」


たつをが最後にフリップを掲げる。


売上好調


隼人補佐官は苦笑し、イベントプロモーターはホクホク顔、フォークリフト会社の広報担当者も満足げだった。


「次回も検討できますね」


この一言に、隼人は心から安堵した。


本丸ではない。

だが、外堀は確実に広がっている。


その夜。


名古屋駅。


美月はご満悦でホームに立っていた。


「いやぁ、今日もよう働いたわ」


手にはグッズ売上ノルマ達成の証。

帰阪の列車は、念願の“ひのとり”。


美月はプレミアム席に深く沈み、満面の笑みを浮かべた。


「フォークリフト、安全第一。インセンティブ、最高」


隼人補佐官はその報告を聞き、遠い目をした。


ヒロ室東海(仮称)は、高浜でまた一歩前進した。


そして赤嶺美月は、今日もきっちり自分の快適な帰路を勝ち取ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ