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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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炎のランニングバック、自動車王国に突撃する――隼人補佐官、広報部門という最強ディフェンスに挑む

ヒロ室東海(仮称)の春日井イベントは成功した。


紙の街でトイレットペーパーを早巻きし、紙飛行機を飛ばし、サボテン型の紙帽子をかぶって罰ゲームをするという、真面目な製紙会社全面協力イベントとしては限界までくだらない内容だったが、観客は笑い、グッズも売れ、美月は帰りの名阪特急で念願のプレミアム席を勝ち取った。


問題は、その成功によってヒロ室東海(仮称)が妙に勢いづいてしまったことだった。


新橋のヒロ室会議室。


美月は胸を張って言った。


「次は世界一の自動車メーカーや」


隼人補佐官は、即座に目を閉じた。


来た。


来てしまった。


彼は最初から避けたかった。

東海で活動する以上、あの巨大自動車メーカーを無視できないのは分かっている。大学の先輩も同級生も多く在籍している。連絡先もある。話を通すルートも、ないわけではない。


だからこそ嫌だった。


足元を見られるに決まっている。

相手は世界企業。品質、納期、コスト、リスク管理、広報統制、すべてが異常に細かい。しかも協力してくれたとしても、簡単に金を出す会社ではない。むしろ出さないことで有名なタイプである。


隼人は丁寧に言った。


「かなり難しいと思います」


美月は笑う。


「炎のランニングバックなんやろ? 突っ込めばええやん」


山田真央も乗る。


「東海であそこ避けたらかんでよ」


遥室長まで穏やかに言った。


「隼人くん、お願いね」


その一言で決まりだった。


隼人はかつて、京都の名門国立大学のアメリカンフットボール部で活躍した。関西学生フットボール界でも知られる強豪で、緻密な戦術と知性、そして泥臭い突進力を併せ持つ名門軍団。その中で隼人は、勇猛果敢な突破力から炎のランニングバックと呼ばれた。


爽やかな容姿もあり、女子学生からの人気も抜群。

屈強なディフェンス陣に突っ込み、タックルされても前へ進んだ男である。


だが、世界一の自動車メーカーの広報部門は、そのどのディフェンスラインよりも硬そうだった。


豊田市。


隼人は資料を抱え、本社機能のある巨大な建物へ向かった。


対応した広報担当者は、大学時代の先輩だった。


「久しぶりだな、隼人」


「ご無沙汰しています」


最初は和やかだった。


しかし、企画書を開いた瞬間、先輩の目が変わった。


「まずさ、この“ヒロ室東海(仮称)”って何?」


「まだ正式名称が決まっておらず……」


「仮称で世界企業に提案書を持ってくるのは、だいぶ攻めてるな」


隼人は早くも汗をかいた。


先輩の赤ペンは止まらなかった。


「地域活性化、と書いてあるけど、数値目標は?」


「今後設定予定です」


「ダメ」


「出演者の役割分担は?」


「現場で柔軟に……」


「ダメ」


「SNS投稿の事前確認体制は?」


「美月さん次第で……」


「一番ダメ」


隼人は心の中で叫んだ。


やはり来るんじゃなかった。


さらに先輩は、美月の名前に赤丸をつけた。


「赤嶺美月さん。人気はあるよね」


「はい」


「でも発言管理、大丈夫?」


隼人は正直に答えた。


「一番大丈夫ではありません」


先輩は深く頷いた。


「正直でよろしい」


その後、世界一の自動車メーカー側から条件提示があった。


内容は、実に厳しかった。


社名やロゴの扱いは完全事前確認。

車両に触れない。

車両に寄りかからない。

車両の前で走らない。

車両をネタにしない。

出演者の発言台本は事前提出。

SNS投稿も事前確認。

現場アドリブは禁止に近い。

たつをの参加は不可。

あかりの突進系演出は不可。

美月の自由発言は要注意。

そして、協賛金は出ない。


代わりに出せるもの。


交通安全啓発チラシ。

反射材。

エコドライブ冊子。


美月が聞いたら机を叩きそうな条件だった。


隼人は一度、新橋へ持ち帰った。


ヒロ室会議室には、遥室長、波田顧問、真帆、琴音、すみれコーチが集まった。


琴音が議事録を取り、真帆が条件表を読み上げる。


「協賛金なし。発言事前確認。SNS投稿確認。車両接触不可。アドリブ不可。マスコット不可。突進演出不可」


すみれコーチが即座に言った。


「無理だね」


真帆も頷く。


「無理です」


波田顧問は短く言った。


「受け入れ不可」


遥室長は苦笑する。


「美月ちゃんが三分で違反するだら」


隼人は静かに頷いた。


「私もそう思います」


結論は早かった。


ヒロ室としては受け入れられない。


だが、完全撤退もできない。

東海地盤強化を掲げる以上、何かしらの接点は欲しい。


隼人は再び豊田市へ向かった。


二度目の面談。


先輩は苦笑していた。


「やっぱり厳しかった?」


「はい。正直、あの条件ではヒロ室東海の良さが全部消えます」


「だろうな」


そこで隼人は粘った。


彼はガキの使いではない。


「本体との大型タイアップが難しいのは理解しました。ただ、交通安全、環境配慮、地域貢献、子ども向け啓発。この分野なら、我々にもできることがあります」


先輩は腕を組む。


隼人は続ける。


「関連会社、販売会社、整備学校、物流系のパートナー企業。そうしたところと連携できれば、ヒロ室東海らしい地域密着型イベントができます。御社本体に過度な負担をかける形ではありません」


先輩は少し笑った。


「ランニングバックらしいな。正面突破がダメなら、外へ切るか」


「外堀を歩かせてください」


この言葉が効いた。


先輩は名刺を数枚取り出した。


販売会社。

部品メーカー。

物流関連会社。

整備専門学校。

交通安全啓発に強い関連団体。

環境配慮イベントを行っているパートナー企業。


「本体として大きくは動けない。でも、この辺りなら話を聞いてくれると思う。交通安全イベントや環境啓発なら、協力できる余地はある」


隼人は深く頭を下げた。


これは偉業に近かった。


本丸は落とせなかった。

だが、外堀に橋がかかった。


隼人は新橋のヒロ室へ戻った。


手には大量の名刺と、関連会社リスト。

そして、駅で適当に買った季節限定のういろう。


会議室で報告すると、真帆の目が鋭くなった。


「これは大きいですね。販売会社や整備学校と組めるなら、十分に展開できます」


波田顧問も珍しく頷いた。


「良い仕事だ」


遥室長も微笑む。


「隼人くん、やっぱり頼りになるねぇ」


隼人はようやく報われた気がした。


しかし、その直後だった。


遥室長がういろうを食べた。


「これ、美味しいだら」


真帆も手を伸ばす。


「もう一つありますか?」


琴音も言う。


「議事録を書きながらいただきます」


すみれコーチまで頷いた。


「これ、群馬にも持って帰りたい」


会議室の関心は、関連会社リストから季節限定ういろうへ移った。


隼人は呆然とした。


二度の豊田市出張。

大学の先輩との交渉。

本体協賛を断念し、関連会社ルートを開拓した偉業。

その成果より、ういろうの評判が明らかに良かった。


遥室長がにこっと言う。


「隼人くん、次もこれ買ってきてね」


隼人は天井を見上げた。


炎のランニングバックは、世界企業のディフェンスラインを完全突破できなかった。

だが、外堀には確かに穴を開けた。


そしてなぜか、最大の評価ポイントは土産物だった。


ヒロ室東海(仮称)は、また一歩前に進んだ。


ただし隼人補佐官の心には、ひとつだけ教訓が残った。


世界企業との交渉より、ういろうの方が分かりやすく人を動かす。

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