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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1001/1025

たつを、刈谷を荒らす――ヒロ室東海(仮称)、旗揚げからもう収拾がつかない

ヒロ室東海(仮称)の旗揚げイベントは、愛知県刈谷市で開催されることになった。


刈谷市は西三河を代表する中心都市のひとつである。自動車関連産業が集まる工業都市でありながら、駅周辺は整い、生活利便性も高く、商業施設や公園も充実している。さらに地元プロバスケットボールの強豪が本拠地を構えるスポーツの街でもあり、「働くにも暮らすにも強い街」という言葉がよく似合う。


その刈谷の市民ホールに、東海ゆかりの戦隊ヒロインたちが集まった。


器用な愛知県人・春日井市の山田真央。

河内のスピーカー・東大阪市の赤嶺美月。

三河の青狐・豊川市の稲生明日香。

遠州の勇者・浜松市の河合美音。

駿河の良心・静岡市の杉山ひかり。

千葉の叡智・千葉市の館山みのり。

濃尾の秘密兵器・大垣市の伊吹真白。

四日市の突貫娘・四日市市の山本あかり。


そして、この日の主役級ゲストがもう一人いた。


地元の人気マスコット、「たつを」(タツノオトシゴの男の子)である。


開演早々、たつをは暴走した。


まず狙われたのは、濃尾運輸所属の伊吹真白だった。真白は、会社のカンガルーマーク入り帽子をかぶってステージに立っていた。


たつをは無言で近づいた。


真白が首を傾げる。


「何ですか?」


次の瞬間、たつをは帽子を奪い取った。


「ちょっと! それ会社の帽子です!」


たつをはステージを走る。


真白が追う。


すると真白は、持ち前の跳躍力でステージ上を軽やかに跳んだ。


「返してください!」


カンガルージャンプである。


観客は大爆笑。


美月が叫ぶ。


「真白、めっちゃ跳ぶやん!」


真央も手を叩く。


「カンガルーマークの説得力がすごいでよ!」


ようやく帽子を取り返した真白は、息を整えながら言った。


「仕事道具で遊ばないでください」


たつをはフリップを出した。


反省しています


会場はさらに笑った。


だが、たつをは反省していなかった。


次に絡まれたのは、四日市の突貫娘・山本あかりである。


たつをがふらふら近づくと、あかりは腕を組んだ。


「なんや、勝負したいんか?」


たつをはフリップを出す。


勝負


その瞬間、あかりの目が光った。


「ええ度胸や!」


たつをが謎の構えを取る。


あかりは一歩踏み込み、見事な大外刈りを決めた。


たつを、豪快に転がる。


会場は大歓声。


あかりは拳を突き上げた。


「四日市なめたらあかんで!」


真白が小声で言う。


「マスコットに大外刈りは大丈夫なんですか?」


美月は笑う。


「たつをやし、たぶん大丈夫や」


たつをは起き上がり、またフリップを出した。


強かった


あかりは得意げだった。


そしてメインコーナー。


「尾張と三河、ご当地自慢対決」である。


真央がマイクを持つ。


「尾張は便利だでよ! 名古屋も近いし、春日井も住みやすいし、何でもあるがね!」


明日香は静かに返す。


「三河は落ち着いとるだら。豊川もええ街だし、歴史も自然もあるだら」


真央が食い下がる。


「でも尾張の方が勢いあるでよ!」


明日香も譲らない。


「三河は派手じゃないだけだら。底力はあるだら」


すると、たつをが横からフリップを出した。


刈谷も入れて


真央が叫ぶ。


「たつを、今は尾張と三河の話だがね!」


明日香が冷静に言う。


「刈谷は西三河だら」


たつを、またフリップ。


西三河最強


明日香が首をかしげる。


「豊川は東三河だら」


たつを、さらにフリップ。


東三河も好き


真央が突っ込む。


「どっちや!」


そこへ美月が割って入る。


「もう刈谷も豊川も春日井も全部ええ街でええやん!」


会場拍手。


だが真央と明日香は同時に言う。


「雑だがね!」


「雑だら!」


収拾がつかない。


そこを穏健派の駿河の良心・杉山ひかりが、柔らかくまとめた。


「東海は、地域ごとに違うから面白いんです。尾張も三河も、遠州も駿河も、濃尾も三重も、それぞれの良さを出していけたら素敵ですね」


美月が即座に同調する。


「せや! ひかりの言う通りや。ごちゃごちゃしとるから東海は面白いねん!」


みのりが横で小さく言う。


「千葉も入れていいですか?」


「今日は東海や!」


最後の挨拶。


真央がマイクを握る。


「まだ名前も決まっとらんけど、ヒロ室東海(仮称)、どうぞよろしく頼むでよ!」


明日香も続く。


「何やるかも半分くらい決まっとらんけど、よろしく頼むだら」


たつをがフリップを掲げる。


よろしく


会場は大拍手。


何も決まっていない。

まとまってもいない。

でも、なぜか明るく、勢いだけはあった。


イベント終了後。


控室で真央が言った。


「このあと、東海の人間なら誰もが知っとる、あの安くてうみゃあラーメン食べに行くだで」


美月が即答する。


「行く!」


東海のソウルフードとも言える、甘みのある独特のスープと手軽さで愛されるラーメンチェーンである。学生も家族連れも買い物帰りも、なぜか一度は通る味だ。


ところが、いつもなら真っ先に乗るあかりが、荷物をまとめ始めた。


「ごめんなさい。今日は帰ります」


美月が目を細める。


「え? あかりがラーメン断るん?」


あかりは目を泳がせた。


「明日、朝早いんです。えっと……朝から、四日市で……近所の犬の散歩を……」


真央が首をかしげる。


「犬?」


真白も静かに言う。


「理由が弱いですね」


美月はため息をついた。


「また秘密の任務やろ? ウチには教えてくれへんやつ……」


あかりは困ったように笑うだけだった。


翌朝、NSTの極秘潜入任務がある。

もちろん美月には絶対に言えない。


美月は少し寂しそうに言った。


「ええわ。ラーメン食べながら考える」


隼人補佐官は嫌な予感しかしなかった。


ヒロ室東海(仮称)は、明るく旗揚げした。

だが河内のスピーカーは、まだNSTの匂いを忘れていなかった。

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