魔人6
「なんだあれ?」助手席の岸が聞いた。
「何のことだ?」トラックを運転しながら後藤が答える。
「さっきの奴だよ、ボディ・・ブルーボックスの中身を聞いてきた奴」
「さあな、ライターも買えない貧乏人だろ」
岸と後藤はトラックの荷台に積んだ荷物と共にエビス屋へと戻った。
岸と後藤は田中さんが賞金首のリストに入れられた時に最後に訪れていたマンションの屋上の部屋に向かい、そこで待機し帰宅した女性を拉致してきたのだ。
まだ殺してはいない。まだ。
岸のヤツは意識を失った女を前にしてもしつこく何かと言い訳を並べたてた。
「ただの知り合いかも」
「警察官としての捜査だったのかも」
だが屋上にはジュースボックスが置かれており、それは使用中だった。
それでも岸は諦めずに言った。この女性が無関係である可能性は捨てきれないと。
後藤は女が持っていたデバイスを岸の眼前で振って言ってやった。
「放っておくか?田中さんはもういないからな」
岸は顔を伏せてそれ以上は何も言わなかったが、後藤には分かっている。
岸のヤツは納得したわけではない。諦めただけだ。
とりあえずは。
二人はトラックからボディボックスを降ろすと半地下の作業場へと運び、中から気を失ったままの一人の女を引きずり出し椅子に座らせた。
「なあ、この女は本当に田中さんを・・・」
不安そうに岸が聞くが後藤は冷たく言い返す。
「この女の部屋の外にあったジュースボックスの中に何が入っていたか見ただろ?それにこの女が田中さんと関係が無かったとしてそれがなんだ、ごめんなさい人違いでしたとでも言うつもりか?こいつはハックエイムだぞ」
後藤は女が持っていたデバイスを机に置いた。
岸はレモンイエローのデバイスを見つめ両手を握りしめるが何も言わずに作業場から出て行った。
後藤は舌打ちをしながらも何も言わずに背を向ける岸を見送った。
なあ?まじでこの女が田中さんを賞金首にしたのか?
恐らくな。
恐らく?
あのジュースボックスの死体、田中さんは恐らくアレを見ちまったんだ。しかしソレを通報することも逃げることも出来ずにあの場に留まっていた。
という事は・・。
そうだ、田中さんが庇ったのはこの女だ。
つまり田中さんはこの女性と愛し合っていたってことなのかな。
馬ー鹿!愛し合っていたってんならなんで田中さんの首に縄を掛けるんだよ。
この女は岸のヤツがあのバカに拉致されかけた時に店の裏で待機していた女だからな。
そっか、この女性は蔵井戸くんの仲間なんだね。
ジュースボックスの中身だ。
あ?すっかり溶けていたけどな。
骨と一緒にメガネが浮いていたよな、アレ見覚えあるだろ。
眼鏡ぇ?
あ!あの分厚いレンズ!田中さんと一緒にいた口の臭いお巡りさん?
恐らくな。
えっと、じゃあこの女性は・・・。
ああ、あの豚小屋を落として田中さんも落としたんだろう。
で、何らかの理由で豚小屋を始末したってところか。
それを見てしまった田中さんも。
恐らくな、それを確認する。他にも聞きたいことはあるけどな。
俺は女は勘弁だぜ。
僕もこの女性はちょっと・・。
ああ、オレがやる。
え?本当に?
おお?珍しいな。
ああ、あのバカを釣る餌にするからな。お前らじゃ無理だ。
後藤は椅子に座り気を失ったままの女の手を机に置き手錠をかけ固定するとパイプ椅子を拡げ机を挟み座り、石像のような無表情で女の顔を見ていた。
岸は自室へと戻るとスマートフォンを取り出しすぐに電話をかける。
「ああ!俺だ。後藤の奴が女を捕まえた・・・それは・・・あの大学の時の・・・二人で輪姦した・・・」
「いいから!来てくれよ!女が・・・その・・殺される前に!」
なんだ?岸のやつ。二人で輪姦した?そんなの何回ヤッたと思っている。
めんどくさいが行ってみるか。あのクソ野郎を殺すには岸を取り込む他ないだろうしな。
でも明日でいいだろう、今日はもう寝るぞ。
クソが!
蔵井戸は舌打ちしベッドに横になった。
花藤は目覚ましなど無くてもいつもと同じ5時50分に起床した。
大きな欠伸は久しぶりに飲んだビールのせいだろう。
花藤はバスルームへと向かいシャワーを浴び綺麗に髭を剃り上げた。
普通のホテルとは違いここはラブホテルだ。朝食のビュッフェはないがその防音性でよく眠れた気がする。
ラブホテルのチェックアウトは10時だったが花藤は早々にホテルを出ると朝食を求め駅前のマクドナルドへと入った。
ソーセージマフィンのセットのハッシュポテトをチキンナゲットに変えドリンクはミルクにした。
それにフィレオフィッシュにミルクをもう一本注文し、トレーを受け取ると二回へと移動し椅子に座るが二パックのミルクで流し込む様に5分足らずで一気に平らげた。
ゴミを捨てトレーを置いて一階へと戻るとコーヒーを注文し外へ出た。
一見すると平和な街並みだが時折、人ではない者が歩いている。
片っ端から呼び止めるように殺していきたいがさすがにこの人ごみの中で殺すわけにもいかないだろう。
既に昨日、3人殺している。
3人とも人目の付かない所へと連れ込み殺した。隠蔽するつもりがあったわけではないが多少は気を使ったつもりだ。
死体はそのまま放置したが殺人事件として報道されている様子もない。
花藤はコーヒーを啜りつつ雑踏を歩く。
視線を感じた。
目を合わせる事はないが、確かに見られている。
そうか、そう言う事か。
花藤は長く大きな欠伸を噛み、目に涙を溜めた。
来いよ。




