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魔人13

花藤は西浅草のワインバー、風神の前に立った。

風神。洒落たワインバーの店名とは思えないがそのドアは黒く重厚な感じがする。

花藤はポケットからスマホを取り出し渡部の人相を再確認し、ドアを押し開けた。

店内は狭くカウンターの中に納まる店主らしき人物と反対側の小さなテーブルに着く客が花藤に目を向けた。


年齢と背格好から見るに対象である渡部と言う男は一番奥のテーブルに座る男だという事はすぐに分かった。

花藤は何も言わずに歩み寄って行くがカウンターの中の店主は花藤に声をかけようとする素振りを見せたが、花藤は気にするなとばかりに手を向け返し、奥の席に座る渡部を指さした。


もちろん渡部は花藤の存在に気が付いてはいたがテーブルを挟み立たれ、そこで初めて気が付いたかのように顔を上げた。

「なんだお前、俺に何か用か?」

花藤はそれに答えるように椅子を引き席に着いた。

「座れなんて言っていないぞ」

渡部が花藤を睨みつけながら言うが、花藤は気にも留めない。

「質問されたら座って答えないと失礼だろ?」

花藤は答え、テーブルに置かれていたチーズを一つ手に取り口に放りこんだ。

「若造、俺が誰だか分かっているのか?」

渡部はワイングラスを摘まみ持ち中指だけを花藤に向けて言う。

「捜査一課の・・・・」

花藤は身を乗り出しながら小声で渡部の言葉を遮った。

「田中の親父さんを殺したんだってな」

渡部がその言葉に驚き花藤の顔を見据えた瞬間に、花藤は渡部の指を掴み捻り、そして折った。

渡部は辛うじて指を折られた痛みを叫ぶことを耐え、深いうめき声を吐きながらもワイングラスをテーブルに置いた。


花藤は手を放してやり、テーブルの上のチーズをもう一つ手にし見せつけるように噛み千切った。

「田中について全て教えろ」

花藤は渡部を見据えて言う。

「舐めるなよ若造・・・」

痛みに耐えながらも渡部が言い返すと花藤は右手をジャケットに差し込みゆっくりとした言葉で告げる。

「テメエみたいなジジイを誰が舐めるか。いいから田中について全て教えろ、立ち寄りそうな場所や交友関係から全てだ。身体に穴を開けられたくはないだろ?せっかくのワインが零れちまうぜ」

「俺が誰だか分かっているのか?警官だぞ」

渡部は強がってみせるがあまり意味はない。この男が田中の父親の事を知っているという事は田中から聞いたのか?違うだろう、高橋の奴だ。

この男と高橋の関係性は分からないが、高橋がこの男から脅迫の類を受けたというわけではないだろうし、この男が高橋から聞き出しここに来たというより、高橋がこの男に情報を与えてこの俺に送り込んだのだ。あのボンボンめ、舐めた真似を・・・!

「警官でもACPは効くだろ?」

花藤はジャケットに差し込んだ手を少しだけ引いた。もちろん花藤のジャケットの中には拳銃などは入ってはいないが、いきなり指を折ってくるこのイカれた男のそんな動作を無視できるはずもない。

それを見た渡部は諦め、指を折られた痛みに耐えつつも素直に聞き返す。

「何が知りたいんだ」

「言っただろ、オレは田中を探している。それに繋がりそうな情報だ」

「知らん!ヤツとはプライベートの付き合いなんかない」

「田中の親父を殺したのはプライベートじゃないっていう事か?」

渡部はカウンターから出てこちらに歩み寄ろうとする店主に手を向け制しながら静かに答える。

「それは俺じゃない」

花藤は後ろを向きカウンターに戻る店主に注文をする。

「コーラくれよ、ビンのヤツ」


店主が栓を開けたビンコーラとグラスを二人のテーブルに置き渡部に視線を向けた。

「お構いなく」

渡部は中指の折れた右手をテーブルの下に隠し店主には左手を向け下がらせた。

背後で店主が定位置に収まったのを感じ取った花藤は渡部を見据えた。

「それは俺じゃない・・・か。じゃあどれがお前の仕業なんだ?田中の失踪に関わっているのか?」

「知らん、本当だ。それどころか俺は奴に殺されかけたんだ」

渡部の答えを聞いた花藤は鼻で笑う。

「そりゃあそうだろうよ。何でもいい、知っていることを話せよ。ヤツが行きそうな店とか失踪前に会っていそうなヤツとかだよ」

「知らん、本当だ」

「そうかぁ・・・」

花藤は椅子にもたれ掛かりながらテーブルに置かれたチーズを手に取ると口に放りこみ、瓶のコーラをあおった。

「せっかく来たのにチーズを二切れ食ってコーラを飲んだだけじゃ面白くねえぜ」

そう言って渡部に向けて中指を立てた。

それを見た渡部が唇をかむのを見て取ると中指を折り、今度は人差し指を伸ばし親指を起こした右手を渡部に向けた。

「お前だって何の意味も無く指を折られたんじゃたまったもんじゃないだろ、何でもいいから話せよ」

だが渡部は唇を噛んだまま何も話そうとしない。

「撃っちゃうぞ」

花藤はハハッと軽く笑い人差し指を立てた右手を渡部に向けた。


こんな他にも客のいる店内で本当に発砲する気か?

可能性は低いだろう。だが折られた指の痛みがその可能性を押し上げていく。

あのボンボンはここまで分かってこの男を俺に差し向けたのか?

「結婚相手を見つけたようだった・・・」

「結婚?田中がか?お前、適当なこと言ってないか?どんな女だ?」

「そこまでは分からん、プロポーズはこれからという感じだったしな。本当に奴のプライベートまでは知らないんだ」

「そうか。他は?」

舌打ちし顔を逸らす渡部に花藤は忠告してやる。

「俺も行き詰ってんだ。何でもいい、話を聞いてみたくなるようなヤツとか行ってみたくなるような場所とか・・・なんかあるだろ?俺がこの店を出て行きたくなる何かが」

糞!このイカれ野郎が!

「そうだ!田中の奴が行っていた飲み屋がある。客は外人ばかりの変わった店だ」

「店の名前は?」

「店の名前・・・?いや、それは・・」

「おいおい、田中がつかまえた女はどこ誰かも分からない、田中の行く店の店名も分からない。それじゃあこの店から出て行けないだろ、分かるだろ?」

花藤は最後に一つ残っていたチーズを手に取り口へと放り込んだ。

「悪いな、食っちまったよ」

「本当だ!だが場所は分かる!」渡部は慌ててスマートフォンを取り出そうと動いたが、即座に花藤の警告を受ける。

「おい、ゆっくりだ。そんなに急がなくてもいい。ゆっくりだ」花藤の右手が素早くジャケットへと差し込まれた。

「分かった・・分かってる・・・」

渡部はゆっくりと慎重にスマートフォンを取り出しテーブルに置いた。

そして松の店である彩の場所を表示させ、花藤はそれを覗き込み確認した。


「本当にこんなところに店があるのかよ」

「本当だ、看板も出ていないから店の名前は分からんが、五階建てのビルの一階で隅田川に面した側に店がある。大柄な男が一人でやっている店だ、客は田中以外すべて外人らしい」

「ふーん、道路に面していないし看板もない店で、客は外人だけで田中が唯一の日本人客と・・・今すぐにでも行きたくなる・・でもよ、いかにもって感じだなぁ」

「本当だ!!他にはもう無い!何も知らん!」

「いいよ、気にするな」

花藤は立ち上がり渡部に顔を寄せ静かに告げた。

「もし、田中が見つからなかったらヤツの代わりに俺が敵を討ちに来るからな、クソジジイ」

そして瓶コーラを一気に飲み干しテーブルに置くとまた人差し指を渡部に向けた。

「ばーん!」


花藤は渡部の怒りの視線を背に受けながら風神を後にした。
















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