第88話 半年後の日常
半年後 秋 猫カフェ「ねこまち」 夕方5時
紅葉が美しい秋の日。
猫カフェは、今日も穏やかな時間が流れている。
店は少し広くなった。
隣の空き店舗を借りて、席数を増やしたのだ。
それでも、休日は満席になることが多い。
美久は、相変わらずコーヒーを淹れている。
ただ、表情にはより深い満足感が宿っていた。
「いらっしゃいませ」
笑顔で客を迎える。
ユイは、窓辺で新しく来た子猫のホープと一緒に日向ぼっこ。
「先輩、気持ちいいにゃ」
「でしょう?ここが一番のスポットなの」
二匹の会話を、客たちが微笑ましく見守る。
ルナは、今日は子供たちに絵本を読み聞かせている。
「むかしむかし、あるところに...」
人間の子も、猫人間の子も、真剣に聞いている。
定期的に開催される読み聞かせ会は、大人気のイベントになった。
翔太は、カウンター席で原稿を書いている。
地元新聞から依頼されて、町の日常を綴るコラムを連載することになったのだ。
タイトルは『祢古町の小さな奇跡』。
毎週、町で起きる小さな出来事を、温かい視点で綴っている。
ミユキは、すっかりベテラン店員になった。
「本日のおすすめは、秋限定の栗のタルトです」
流暢に説明する姿は、もう新人ではない。
あいりも、常連客になった。
学校帰りに、よく母親と一緒に来る。
「ユイちゃん、今日ね、学校で猫人間の友達ができたの」
「そう、良かったね」
「うん、ミーちゃんっていうの。すごく優しいの」
子供たちの世代では、もう種族の違いは関係ない。
それが当たり前の世界で育っている。
夕方、みんなで賄いを食べる。
今日のメニューは、シロコ特製のオムライス。
「みんな、お疲れ様」
美久が音頭を取る。
「かんぱい」
グラスが触れ合う音が、心地よく響く。
「ねぇ、1年前を覚えてる?」
ユイが懐かしそうに言う。
「魂喰いの環と戦って、大変だったね」
ルナが頷く。
「でも、おかげで今がある」
翔太が付け加える。
「承認欲求に取り憑かれてた自分が、懐かしいよ」
「今の方が、ずっと幸せだ」
美久が窓の外を見る。
通りでは、人間と猫人間が普通に挨拶を交わしている。
子供たちが、種族関係なく遊んでいる。
商店街には、猫人間が経営する店も増えてきた。
「これが、私たちが作った日常」
「特別じゃない、でも大切な日常」
ユイが満足そうに伸びをする。
「幸せだなぁ」
その一言に、みんなが頷く。
大きな事件はもう起こらない。
世界を変えるような出来事もない。
でも、この小さな町で、小さな幸せが積み重なっていく。
それが、本当の平和なのかもしれない。
猫カフェ「ねこまち」は、今日も温かい光に包まれている。
明日も、明後日も、ずっと。
みんなの居場所として、ここにある。




