第85話 政府との穏やかな調整
2週間後 町役場 会議室 午前10時
黒田大佐が、防衛省からの正式な書類を持って訪れた。
会議室には、町長、美久、クロード長老が同席している。
「特区申請が、正式に認可されました」
黒田が書類を机に置く。
『祢古町異文化共生特別区 認定証』
金色の印章が押された、立派な証書だった。
「内容を説明します」
黒田が資料を開く。
【特区の内容】
1.猫人間の住民登録を正式に認める
2.古代王国民への特別滞在許可
3.異文化教育プログラムの推進
4.小規模な魔法使用の許可(届出制)
5.独自の条例制定権
「ただし、条件があります」
黒田の表情が引き締まる。
「月に一度の定期報告」
「問題発生時の即時連絡」
「他地域への無断拡大の禁止」
「武器の所持禁止」
「そして、最も重要なのは」
「この実験が失敗した場合、即座に中止すること」
町長が頷く。
「承知しています」
「我々も、急激な変化は望んでいません」
美久が付け加える。
「大切なのは、日常を守りながら、少しずつ前進することです」
「派手なことはしません」
「ただ、普通に暮らせる町を作りたいだけです」
クロード長老も同意する。
「我々も、平穏な暮らしを望んでいるだけです」
「特別扱いではなく、普通の住民として」
黒田が微笑む。前の堅い表情から、少し柔らかくなった。
「正直、最初は懐疑的でした」
「猫人間なんて、まるでファンタジーだと」
「でも、この1ヶ月を見て、考えが変わりました」
彼は窓の外を見る。
通りでは、人間と猫人間が普通に挨拶を交わしている。
「これが、未来の形かもしれませんね」
「いえ、これが本来の形なのかもしれません」
美久が言う。
「1000年前は、一緒に暮らしていたんですから」
黒田が立ち上がる。
「私は月に一度、視察に来ます」
「でも、基本的には町の自治に任せます」
「ただ、何か問題があれば、すぐに連絡してください」
「一緒に解決策を考えましょう」
握手を交わす。
これで、正式に共存が認められた。
大きなニュースにはならない。
全国放送もされない。
でも、それでいい。
静かに、確実に、新しい日常が法的にも認められた。
「これで、安心して暮らせますね」
クロード長老が安堵の息をつく。
「子供たちも、堂々と学校に通える」




