第84話 町の小さな祭り
1ヶ月後 祢古町神社 春祭り当日 朝8時
朝から、祭りの準備で町中が忙しく動いていた。
神社の境内には、屋台の設営が進んでいる。組み立て式のテントが次々と立ち上がり、提灯が風に揺れ、どこからか太鼓の練習音が聞こえてくる。
今年の春祭りは、特別な意味を持っていた。
初めて、猫人間も正式に参加する祭りなのだ。
「シロコさん、ここに屋台を出していいよ」
祭りの実行委員長の鈴木が、場所を指定する。
「ありがとうございますにゃ」
シロコは、前日から仕込みをしていた。
白い毛並みを三角巾とエプロンで覆い、真剣な表情で準備を進める。
「今日は特製たこ焼きと、猫人間風お好み焼きを出しますにゃ」
隣の屋台では、人間の山田さんが焼きそばの準備をしている。
「お、シロコさん、繁盛しそうだね」
「お互い様ですにゃ。山田さんの焼きそばも美味しいから」
自然な会話、自然な光景。
1ヶ月前には想像もできなかった日常が、もう当たり前になっている。
午後3時 祭り開始
神社の境内は、人で溢れかえっていた。
人間も猫人間も、分け隔てなく祭りを楽しんでいる。
「いらっしゃい、いらっしゃい!」
シロコの威勢のいい声が響く。
「たこ焼き、6個入り500円!」
列ができるほどの人気だった。
「美味しそうな匂い!」
子供たちが集まってくる。
人間の子も、猫人間の子も、一緒に並んでいる。
「はい、熱いから気をつけてにゃ」
シロコが笑顔で手渡す。
神社の境内では、様々な催しが行われていた。
金魚すくいのコーナーでは、子供たちが夢中になっている。
「あっ、逃げた!」
人間の男の子が悔しそうに言う。
「こうやるんだよ」
猫人間の女の子が、器用に金魚をすくって見せる。
「すごい!教えて!」
「いいよ」
種族を超えた友情が、自然に生まれている。
射的のコーナーでは、ボスが子供たちに射的を教えていた。
「コツは、呼吸を整えることだ」
大きな手で、優しく銃の持ち方を教える。
「ボスさん、かっこいい!」
子供たちの人気者になっている。
夕方6時 盆踊り
日が暮れて、提灯に明かりが灯された。
櫓の上では、太鼓の演奏が始まる。
ドンドンという音が、祭りの雰囲気を盛り上げる。
「さあ、踊りましょう!」
音頭取りの声で、盆踊りが始まった。
輪になって踊る人々。
美久とユイも、浴衣姿で参加していた。
美久は薄紫の浴衣に、朝顔の帯。髪を上げて、かんざしを挿している。
ユイには、美久が作った特製の小さな浴衣。黒地に金魚の模様が可愛らしい。
「ユイちゃん、似合うね」
「美久さんが選んでくれたから」
ユイが嬉しそうに尻尾を振る。
ルナも、生まれて初めての盆踊りに挑戦していた。
「手はこう?」
「そうそう、上手!」
隣で踊る田中さんが教える。
翔太は、もちろん配信しながら参加。
「みなさん、見てください」
「これが祢古町の春祭りです」
「人間も猫人間も、みんな一緒に踊ってます」
コメントが次々と流れる。
『平和だなぁ』
『楽しそう!』
『行ってみたい』
夜8時 花火
祭りのクライマックス。
予算の関係で、打ち上げ花火は10発だけ。
でも、みんなで見上げる花火は、特別に美しかった。
ドーン!
最初の花火が夜空に咲く。
「きれい...」
ミユキが涙ぐむ。
「50年間、地下にいて、花火なんて見たことなかった」
「今、こうして堂々と見られるなんて」
隣にいた佐藤会長が、そっとハンカチを差し出す。
「これからは、毎年見られますよ」
ドーン!ドーン!
花火が次々と打ち上がる。
赤、青、緑、金色。
様々な色が夜空を彩る。
最後の花火は、特別大きなものだった。
夜空いっぱいに広がる、金色の大輪。
その光に照らされて、みんなの顔が輝いている。
人間も、猫人間も、みんな同じ表情。
幸せそうな、平和な顔。
「来年は、もっと大きな祭りにしよう」
鈴木実行委員長が言う。
「もっとたくさんの人に来てもらって」
「もっとたくさんの笑顔を見たい」
祭りが終わって、片付けをしながら、みんなが話している。
「楽しかったね」
「また来年」
「今度は、もっと準備して」
小さな祭りだったが、大きな一歩だった。
共に祝い、共に楽しむ。
それが、新しい祢古町の形。




